ある新鎮守府と料理人アイルー   作:塞翁が馬

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料理人サイファー

「じゃあ吹雪。今日から宜しく頼む」

 

「はい! こちらこそよろしくお願いします、提督っ!」

 

 とある一室での青年と少女の会話。

 

 少女から提督と呼ばれた青年は、少し高めの身長にがっしりとした体つき。しかし、精悍ではあるが少し幼さも残す顔つきに、立派な軍服を身に纏っているが、どうにも着られている感が強い。

 

 対して、青年から吹雪と呼ばれた少女も、溌剌とした言葉の影に僅かながらの緊張が見て取れる。

 

 総じて、二人ともまだまだ巣立ったばかりの雛鳥を感じさせる。

 

「よし! では、早速だが出撃をしてもらう。場所は鎮守府近海…大した敵はいないと思うけど、少しでも危ないと感じたらすぐに撤退するように」

 

「了解です!」

 

「吹雪が帰ってくる頃には、二隻目の艦娘も建造完了していると思う」

 

「ふふ、楽しみです! それでは吹雪、出撃します!!」

 

 意気揚々と部屋を後にする吹雪。それを確認した提督は執務机の上にあった書類に目を通し始めた…のだが。

 

「あ、あのー、提督…」

 

 程なくして、吹雪が所在なさげに部屋に戻ってきた。

 

「ん? どうした吹雪、なにか不明な点でもあったか?」

 

 やけに挙動不審な吹雪に提督が不思議そうに首を傾げる。不明な点…とは口にしたものの、今回の作戦内容は実質訓練の様な物だ。実戦になる以上油断は大敵だが、不明な点が出てくるほど難しいものでもない。

 

「あ、いえ、そうではなくてですね…」

 

 そう言って、吹雪は扉の付近から”何か”を抱え、部屋の中に入ってきた。

 

「………猫?」

 

「………猫……ですかね? 鎮守府入り口の付近で倒れていたんです」

 

 その”何か”をまじまじと見つめながら言葉を交わす提督と吹雪。

 

 顔つきは確かに猫そのものだった。だが、猫とは思えない程に体長が高い…恐らく百センチは超えていると思われる…上に、まるで人間の様に服を着ている。猫用の…とかではなく、確かな人間の服を。

 

「………ニャ」

 

 不意に、猫の様な何かが目を覚ました。驚きに目を見開きながらも、未知の存在に身構える提督と吹雪。

 

「…お、お腹空いたニャ…。な、なにか、食べ物を…」

 

「しゃ、喋った!?」

 

 確かな言葉を口にした猫のような何かに吹雪が驚愕の声を上げるが、それ以降、猫のような何かが言葉や動きを見せる気配がない。

 

「…どうやら行き倒れに成る程空腹の様だ。とりあえず、何か食べる物を持ってきてくれ」

 

「あ、は、はい! 分かりました!! …猫缶とかでいいのかな? そんなのあったかな…」

 

 

 

 

 

「むはーっ!! 生き返ったニャ!!」

 

 吹雪の用意した猫缶を十個ほど平らげた猫の様な何かが、満足そうに自分の腹を撫でながら大声で叫ぶ。

 

「お二人とも本当にアリガトウございますニャ! このご恩は一生忘れませんニャ!!」

 

 次いで、提督と吹雪に向かって深々と頭を下げながら感謝の言葉を述べる。

 

「…ふむ。少し質問させてもらってもいいか?」

 

 猫のような何かの行動に吹雪は唖然としていたが、提督はいち早く気を取り直し問い質す姿勢に移る。

 

「何なりとどうぞですニャ!」

 

「君は一体…何だ?」

 

 快諾を受けた提督の質問。が、やはり提督も少し錯乱している様だ。こんな曖昧な聞き方では聞かれた方も困惑するだろう。

 

 案の定、猫のような何かは困ったように首を傾げる。

 

「うーんとえーと…。ボクはアイルーのサイファーですニャ」

 

「アイルー?」

 

 戸惑いながらも、自分の事を口にする猫のような何かに、今度は吹雪が不思議そうに聞き返す。

 

「獣人族の一種ですニャ。…知らないニャ?」

 

 不安げに聞く猫のような何かだったが、提督も吹雪もアイルーなどという生物は聞いた事も無いので、二人揃って首を横に振る。それを見た猫のような何かは「ニャアアァァ~~……」と残念そうにうな垂れた。

 

「…まあ、アイルーと言うのは置いておくとして、名前はサイファーでいいのか?」

 

「ハイですニャ! 前の旦那さんがつけてくれた素敵な名前ですニャ! なんでも、おとぎ話の円卓の鬼神とかいうのから取った名前だそうですニャ!!」

 

 続く提督の質問に先ほどまでの態度を一変、輝かんばかりの笑顔で自らの名前…その由来までをも嬉しそうに語る猫のような何か…サイファー。どうやら、相当自分の名前がお気に入りらしい。

 

「旦那さん?」

 

「以前のボクの雇い主ニャ! 最強最後の超絶ハンターニャ! どんな天災レベルのモンスターも旦那さんに掛かればイチコロニャ!!」

 

 サイファーのセリフの中にあった言葉を口にする吹雪に、サイファーは自慢げに説明する。

 

「雇う…? という事は、君は何か特別な技術を持っているのか?」

 

「ハイですニャ! ボクは料理が出来ますニャ! 前の旦那さんにも褒められた腕前ですニャ!!」

 

 提督の更なる質問に、元気よく答えていくサイファーだったが、料理という言葉に提督と吹雪の眉が微かに反応した。

 

「…提督。これは、渡りに船かもしれませんよ」

 

「…そうだな。この新設の鎮守府には、間宮や伊良湖、大淀、明石といった裏方の艦娘がまだ配属されていない。特に間宮達が担当する料理はどうしようかと頭を抱えていたのだが…」

 

「ですよね! なら、この子を雇い入れれば…」

 

「しかしだ。率直に言うが、俺達が普通に食べれるような料理が出てくると思うか?」

 

「…う、そ、それは…」

 

「とはいえ、確かにこのまま逃してしまうのも惜しい気がする…。という事で、だ」

 

 サイファーに聞こえないようにこそこそと相談する提督と吹雪だったが、不意に提督がサイファーに向き直る。

 

「良かったら君の料理の腕前を見せてもらえないか? 無理強いはしないが…」

 

「お安い御用だニャ! 恩返しも兼ねて、腕によりをかけて作るニャ!」

 

 提督の提案にサイファーは二つ返事で頷くのだった。

 

 

 

 

 

 鎮守府の一角にある大食堂。将来的に様々な艦娘がお世話になると見越して作られた広さだが、今現在の利用者は提督と吹雪、そしてサイファーの三人のみだ。

 

 そして、サイファーの料理なのだが…。結果だけ言えば提督の心配は杞憂に終わった。

 

 最初こそ普通に備え付けられていた食材を不思議そうに品定めしていたサイファーに不安を覚えた提督と吹雪だったが、出てきた料理はどれも豪華且つ濃厚で美味しそうな見た目をしていた。

 

 そして、実際の味も文句なく美味であった。かなり味付けが濃いので、人によっては胃もたれする可能性もあるにはあるかもしれないが、力を付けるという意味では絶好の内容だろう。

 

「…はあ~っ! 美味しかった!」

 

「ああ、まさに想像以上だ。正直、ここまで出来るとは思わなかった」

 

 

  スキル:ネコの射撃術が発動!!

 

 

 サイファーの料理を十二分に堪能した提督と吹雪が、満足げにお腹の辺りを擦りながら言葉を漏らすが、不意に吹雪が勢い良く立ち上がった。

 

「少し遅れましたが、提督! 特型駆逐艦吹雪、今度こそ出撃します!」

 

「飯を食ったばかりですぐに動いて大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です! それどころか、何やら体の内側から力が湧いてくるような気がしてるんです! 今ならどんな強敵も倒して見せます!!」

 

「それは頼もしいな。だが、無理はするなよ。身の危険を感じたら、すぐに撤退するように」

 

「了解しました! それでは!」

 

 提督の注意もそこそこに、吹雪は文字通り大食堂を飛び出して行ってしまった。

 

「よく分かんないけど、頑張ってニャ~!」

 

 そして、そんな吹雪にサイファーは右手を振りながら激励の言葉を送るのだった。




ネコの射撃術

 砲撃による攻撃の威力を約20%上げるスキル。雷撃、航空戦、その他の攻撃には適用されない。
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