ある新鎮守府と料理人アイルー   作:塞翁が馬

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間宮とサイファー

「しょ、しょ…勝負です…!」

 

「………ニャ?」

 

 激戦を終え、意気揚々と北上達と共に鎮守府へ戻ってきたサイファーを待っていたのは、何故か少し涙目になっている割烹着を着た女性の、理由も意味も分からない一方的な宣戦布告だった。

 

 

 

 

 

 女性は間宮という名前で、給糧艦という少し特殊な艦娘だ。その名前の通り、戦闘により心身共に疲労しやすい艦娘達に、時に美味しいご飯を、時にあまーいお菓子を配給するのが彼女の役目だ。

 

 また、建造に特別な素材が必要で、鎮守府で普段使っている開発資材では建造する事が出来ない。そのうえ、その特別な素材はかなり貴重な物なので、基本的に管理は大本営が行っている。

 

 そして、その役割からどの鎮守府でも大人気だ。特に彼女の作るお菓子…和洋の東西を問わずあらゆる種類の甘味を用いた幅広いレパートリーからなるお菓子は、特に甘いものが好きな艦娘達からは絶大な人気を誇っている。艦娘は兵器であると同時に、やはり女の子でもあるのだ。

 

 その影響力は計り知れない。数多の精鋭の艦娘が集まる歴戦の鎮守府でさえ、もし間宮が轟沈させられでもしたらその瞬間にその鎮守府は何も出来ない無力な木偶の坊と化す、とまで言われているほどだ。ある意味では戦艦や空母よりも重要な艦娘かもしれない。

 

 その間宮が、ようやく配属されたのだ。彼女は、出撃するサイファー達と入れ替わるように鎮守府に入ってきたらしい。

 

 そして、そこでどうやら川内が余計な事を言ったみたいなのだ。鎮守府の現状を説明する他の艦娘に混じり、曰く「間宮の役割は、八割方くらいサイファーが持って行っているからあまりやる事ないかも」みたいな事を。

 

 見た目は温厚で争い事は好まなそうな外見の間宮だが、その内には他の艦娘と同じく己の役割に対する誇りをしっかりと持っている。その役割の八割もの数を聞いた事も無い人物に持っていかれていると聞かされれば、心中穏やかでいられなくなるのも無理はない。

 

 その、ある種錯乱と言ってもいい取り乱し方をしながら、前述の勝負発言…どちらがよりおいしい料理を作れるかという料理勝負に繋がるのだった。

 

 

 

 

 

 訳の分からないまま、間宮と共に調理場に入っていったサイファー。その後姿を、吹雪は心配そうに見つめていた。

 

「サイファーさん、さっきの戦いの傷も癒えてないのに大丈夫かな…?」

 

 不安げに言葉を漏らす吹雪。調理場に入る前、サイファー自身は「全然問題無いニャ!」と余裕たっぷりな態度で豪語していたが、タ級すら一撃で轟沈寸前にまでもっていく爆弾をもって特攻を仕掛けたのだ。無事な筈がない。

 

 因みに、北上、磯風、雷の三人は既に入渠している。節約のために高速修復材は使っていないが、駆逐二隻と軽巡…もとい雷巡一隻ならそうは時間はかからないだろうという判断だ。少なくとも、料理勝負で料理がお披露目される時間には間に合う筈だ。

 

「どうした吹雪?」

 

「あ、て、提督…」

 

 不意に背後から吹雪に掛かる声。振り返ると、何やら資料を手にした提督と、同じく資料を手にした大淀が二人並んでいた。

 

「サイファーさん、大丈夫かなって思って…」

 

「…ああ。確か、かなりの無茶をやらかしたらしいな。本音を言えば俺もゆっくり休んでいて欲しいのだが、本人が大丈夫と言うのなら信じるしかないんじゃないか?」

 

 吹雪の視線に釣られる様に提督も視線を調理場へ続く扉に向ける。その声色から、提督は提督でサイファーの事を心配しているのが吹雪にも分かった。

 

「…っと。悪いが吹雪、少しの間だけ鎮守府を留守にするぞ。大本営に呼ばれててな」

 

「へ? 電文とかではなくて直接ですか?」

 

 提督の言葉に驚く吹雪だったが、どうやら提督も提督で困惑している様だ。被っている帽子の鍔を所在なさげに弄りながら言葉を続ける。

 

「うむ、何やら問題が発生したらしく、俺だけじゃなく動ける各鎮守府の提督は直ぐに集まるようにと下知されているらしいのだ…」

 

「それってやっぱり、あの人達関連ですよね…」

 

 そう言って、吹雪は大食堂の方へ顔を向ける。そこには、サイファーと間宮がどんな料理を出してくれるのかを今か今かと待っている艦娘達に交じって、落ち着きなく周囲を見回している艦娘が一人、興味深そうにサイファーが料理するところを見ている艦娘が一人…そして、何故か酒瓶を抱きながら頭にたんこぶを作り気絶している艦娘が一人。全員、吹雪が見た事の無い艦娘だ。

 

「えっと、空母のサラトガさんと、重巡のプリンツ・オイゲンさん、そして同じく重巡のポーラさん…ですよね?」

 

「そうだ。故あってこの鎮守府に身を寄せる事になった。三人とも深海棲艦との幾多もの戦いを潜り抜けてきた猛者だから、一緒に出撃する機会があれば、その熟練の腕を見せてもらうのもいいだろう」

 

「…あの床で倒れてる人もですか?」

 

「………………」

 

 露骨に視線を逸らす提督を見て、この話はここで終わらせた方が良いと吹雪は判断した。

 

「あの、提督は大丈夫なんですか? 私が大破した時の事なんですけど…」

 

 不意に気になった事を聞く吹雪。すると、提督はバツが悪そうな顔をしながら後ろ頭を左手で撫でる。

 

「その件については心の整理は付いた。情けない姿を見せてすまなかったな」

 

「提督ったら、『吹雪や他の艦娘達が頑張っているのに、俺だけがいつまでもメソメソなどしていられん!』なんて仰って、自らを奮い立たせたんですよ」

 

「ばっ!? お、大淀! あまりその事は言うなと…!」

 

 それまで黙っていた大淀の突然の暴露に、提督は大いに慌てる。そして、顔を真っ赤にして取り乱す提督を見た吹雪は、思わず小さく噴き出してしまった。

 

「…そう言えば、何故吹雪さんは提督を『提督』と呼んでいるのですか? 司令官では…」

 

「俺が吹雪にそう頼んだんだ! 理由は聞くな、下らんからな!」

 

「…クスクス、そうですね。下らない理由なので聞かないであげて下さい」

 

 大淀の疑問を遮るように大声でその答えを口にする提督。そんな提督に合わせるように、吹雪も小さな笑みを漏らしながら提督に同調する。

 

「そこまで下らない下らないと連呼されると、逆に気になってしまいますね。聞かせてもらえる日を心待ちにしていますよ。では提督、そろそろ移動を」

 

「…あ、ああ、そうだな。それじゃ吹雪、後は頼むぞ。夜には戻ってこれると思う」

 

「了解しました! お気をつけて!」

 

 足早にその場を去る提督と、その後を追う大淀。元気よく返事をした後、吹雪は提督の後姿を視界から消えるまで眺めているのだった。

 

 

 

 

 

 一方、調理場では間宮が料理を作りながらも、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「御免なさいサイファーさん。私が取り乱した所為で、変な事に巻き込んでしまって…」

 

「気にしてないニャ! それどころか熟練の料理人から勝負を申し込まれるなんて、こんな僥倖滅多にないニャ!ボクの料理の腕がどれほどなのか確かめるいい機会ニャ!!」

 

 同じく料理を作っているサイファーに謝罪をする間宮だったが、サイファーはケラケラと愉快そうに笑いながら返す。

 

「まあ、熟練の料理人だなんてそんな…」

 

「器具を扱う手つきを見れば分かるニャ! それは、頭で考えてから動いている動きじゃなく、体が今作ろうとしている料理の手順を覚えている動き…つまり、歴戦の料理人の動きニャ!!」

 

 手慣れた動作で材料に包丁を入れていく間宮を、サイファーはこれでもかと褒め称える。

 

「…うふふ、お褒め頂き有難う御座います。ですが、かく言うサイファーさんもなかなかのお手前とお見受けしますよ?」

 

「ボクはまだまだニャ! これからも修練あるのみニャ!!!」

 

 仕返しとばかりに間宮もサイファーを褒めるが、対するサイファーの反応は謙虚な物であった。

 

「それは私も同じです。ですが、勝負となった以上は私も勝つつもりで行かせてもらいます…!」

 

「ニャーッ! 絶対勝ってみせるニャ!!」

 

 サイファーに同意しながらも、勝利への意欲を見せる間宮。その意欲を感じたサイファーもまた、改めて必勝の意気込みを見せる。

 

 今ここに、二人の料理人の意地がぶつかり合う…!




という訳で、料理勝負です。勝負となった以上は、今まで見たいに『美味かった』『凄かった』だけで適当に濁す訳にはいきません。何が『美味くて』どう『凄い』のかを詳細に描写しなければなりませんが、果たして私にそれが出来るかどうか…。
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