机の上に置かれている一つの凄く大きなお皿と、三つのお皿。この四つのお皿の上に盛られた料理に、全艦娘の視線は釘付けになっていた。
大きなお皿の料理はサイファーの作った料理だ。肉、野菜、魚、果物といったあらゆる食材を贅沢に混ぜ合わせて調理されており、その上に見た事が無いソースの様な物が均等に振りかけられている。
恐らくはこのソースの様な物が発しているであろう匂いが、堪らなく食欲を刺激する美味しそうな匂いを発しており、何人かの艦娘はこの匂いを嗅いだだけで無意識に口から僅かながら涎が垂れてしまったほどだ。女の子としては少しはしたない姿であり、直ぐに恥ずかしそうに涎を拭いていたが。
後にこのソースは、サイファーが独自の研究を重ねて編み出したオリジナルの調味料である事が明らかになった。
一方、三つの皿に盛られている料理は間宮の料理だ。それぞれに違う種類の魚が刺身のような状態で均等且つ丁寧に並べられており、その周囲を副菜と思しき野菜や果物が彩っている。
特筆すべきはその見た目の美しさだ。料理の全てが、思わず見惚れる程の上品な輝きを放っており、更に料理の盛り付け方も完璧だ。星形やハート形に切られた人参等も飾られており、調理者の腕前をこれでもかという程に物語っていた。
サイファーの料理が嗅覚に訴える物なら、間宮の料理は視覚に訴える物である。
また、味付けにおいても二人の料理は趣の異なる物だった。
サイファーの料理は食材単品の味も勿論美味なのだが、真に味を発揮する食べ方はやはり掛かっている調味料と一緒に食す食べ方だ。濃厚な甘みを持つ調味料ではあったのだが、それでいて食材の味を殺す事もなく、結果として一度口にすると止めようにも食べるのが止まらない…という事態に陥ってしまう。
また、調味料と一緒に食べる食材を変える事で、味も微妙に変わり、辛みが出てきたり少し酸っぱくなったりと様々だ。やはり人によって味の趣向は違うので、一つの料理である程度その趣向に応えられるというのも大きなポイントだろう。
対する間宮の料理は、一つの食材の旨味を限界まで引き出してある一点突破型だ。食材全てが放っている輝きは伊達ではなく、一口食べればその旨味が口内全体に広がり、普段あまり食材を噛まずに飲み込んでしまう人でも、思わずゆっくりと咀嚼して、旨味を堪能してしまうだろう。
食材の持つ負の方面…魚の生臭さや、人参の独特な苦み…といった物も、非情に精密なレベルで混ぜ合わされ旨味をさらに引き出しているので、これらが苦手な人でも問題なく食せるだろう。
様々な食材の味を混ぜ合わせ、その味を引き立たせるサイファーの料理と、一つの食材の旨味を限界まで引き出す間宮の料理。方向性はまるで違うが、掛値なく美味しいという点だけは共通している。
それ故に、審査は難航する。
「…選べと言われれば、私はサイファーの料理を選ぶ…いえ、でも…」
「うーんでもでも、マミヤの料理も凄く美味しいよ!? えっと、うーんうーん…」
他の艦娘に混じり、新参であるサラトガとプリンツも大いに頭を悩ませている。どうしても甲乙がつけがたいのだろう事は、その表情を見れば分かる。
と、その時だった。
「ここは~引き分けという事に~しませんか~?」
不意に聞こえる少し間延びした声、その場にいる全員が声の方を見ると、いつの間にか起き上がっていたポーラが、酒を片手にサイファーと間宮の料理を食していた。
「サイファーの料理は~大人数でワイワイ飲みたい時に~うってつけです~。そして~、マミヤの料理は~一人で…または少数で静か~に飲みたい時にぴったりです~。この二つに優劣を付けろなんて~、ワインと日本酒のどっちが美味しいか~とか言ってる様なもんです~。不毛ですよ~」
ぐびぐびと酒をあおり、「えへへぇ♪」などと明らかに酩酊した笑みを浮かべながら言葉を紡ぐポーラ。しかし、確かな正論でもある為、静かにではあるがどちらの料理を選ぶかでヒートアップしていた場が、少しずつクールダウンしていく。
「…ポーラの言う通りです。正直私もこのどちらかを選ぶなんて出来ません」
そして、赤城がポーラの言を肯定した事が決定打となり、今回の料理勝負は引き分けという事で決着する事となった。
「間宮とサイファーもごめんね…。私が変な事言ったせいで…」
川内が言葉通りに申し訳なさそうに間宮とサイファーに頭を下げる。が、対する間宮とサイファーの顔は実に晴れ晴れとしている。
「大丈夫ですよ川内さん。あの程度で取り乱す私がまだまだ未熟だっただけです。何と言われようと、私は心身ともに疲れている人達に美味しい料理を提供する。それが私の誇りですからね」
「勝負は引き分けだったけど、間宮さんの調理法と料理が見れたニャ。料理人として、これは大きな経験値ニャ。これでボクは更なるビッグな料理人になれるのニャ!」
笑顔で己の心境を語る間宮とサイファーに、川内も直ぐに笑顔を取り戻した。
「さあ、更なる料理を振る舞いましょうか! 料理勝負でうやむやになりかけましたけど、先ほど強大な敵を倒してきたんですよね? ならば、祝勝会を開くのが道理というものです! 食後のデザートもたーっぷりと用意しますよ!!」
「作って作って作りまくるニャー!!」
服の袖をまくって気合を入れる間宮と、同じくお玉を持ちながら飛び上がって気合の掛け声を放つサイファー。こうして、この日は鎮守府に身を寄せた新たな三人の艦娘も加わって、夜遅くまで盛大なパーティーを開き大騒ぎするのであった。
提督が鎮守府に戻ってきたのは日付も変わる頃という深夜だった。その頃にはパーティもお開きとなり、鎮守府内は静寂に満ちていた。
「超巨大深海棲艦か…。また、厄介そうなのが出てきたな」
「サラトガさん、プリンツさん、ポーラさんがもともと所属していた鎮守府は、数ある鎮守府の中でもトップクラスの戦果を誇り、所属している艦娘も全員が老練の古強者と言っても差し支えない方達ばかりだと聞き及んでいます。かの鎮守府が、手も足も出ずに壊滅させられたとは、俄かには信じられません…」
難しい顔で資料を見つめる提督と、同じく暗い顔で俯きがちに言葉を発する大淀。
「鎮守府近海にタ級などという強敵が現れたのも、こいつが関係しているのだろうか?」
「定かではありませんが、可能性は高いと思います」
大淀の答えに、提督は資料を机に置き「ふむ…」と少しの間、顎に手を当てて考え込むが、不意に顔を大淀に向ける。
「いずれこの謎の深海棲艦の討伐命令が下るだろうが、もしかしたらこの鎮守府にもその命令が下るかもしれん。その時のために、これまで以上に艦娘達の練度の上昇と、建造による艦隊自体の強化、そして資材を備蓄する為のさらに効率のいい遠征ルートの確保が必要になってくるな」
「そういう意味では、サラトガさん達がこの鎮守府に身を寄せてくれたのは幸運でしたね。彼女達に指導して頂ければ、この鎮守府の艦娘達もメキメキと練度が上がっていくでしょうし、私達がまだ行けない遠征ルートも、彼女達が同伴してくれれば行ける可能性が出てきますし」
「…そうだな。まあ、とりあえずこの新たな脅威の事については、明日俺から艦娘全員に伝えようと思う。明日からまた忙しくなると思うから、大淀は今日はもう休め。俺も、今日は簡単に身体だけ洗って軽い夜食を取ったらすぐに寝るつもりだから」
「…分かりました。それでは失礼します」
そう言って、一礼をした後に執務室を後にする大淀。その後姿を見送った提督も、明日に備えるために手早く就寝に入れるよう動き出すのだった。
この超巨大深海棲艦は本作オリジナルの深海棲艦となります。動く霊峰の艦これバージョンみたいなもんです。