ある新鎮守府と料理人アイルー   作:塞翁が馬

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 吹雪の扶桑と山城の呼び方ですが、本作ではあくまで戦艦の艦娘として羨望の念を抱いている、と言う設定でいこうと思います。なので、呼び方も普通にさん付けです。


即堕ちヤンデレ姉妹

「伊良湖と申します! どうか宜しくお願いします!」

 

「こちらこそ宜しくニャ!」

 

「伊良湖ちゃん、一緒に頑張りましょうね」

 

 青葉と言う艦娘にサイファーが密着取材を受けた翌日、調理場に一人の艦娘が姿を現した。名を伊良湖と言い、間宮と同じく給糧艦と言う艦種であり、待望の二人目の調理専門艦娘だ。

 

 新たな調理仲間を加え、この鎮守府における料理の基本方針、曜日における各々の各担当、そして来る日の元帥に出す料理の品のこれまでの研究成果の共有など、サイファー、間宮、伊良湖の三人は偶にちょっとした雑談を交えながらも決めていく。

 

「なんだか楽しそうですね」

 

 そんな三人に、調理場の外から覗いていた赤城が声を掛けてくる。

 

「ええ、遂に伊良湖ちゃんが来てくれましたからね。もう、色々な意味で嬉しくて…」

 

「赤城さんも、これから宜しくお願いしますね!」

 

 赤城の言葉に、間宮は言葉通りに嬉しそうに口を開き、伊良湖も意気を籠めて赤城に挨拶をする。

 

「…そういう赤城さんも、なんだか少し顔が綻んでいるように見えるニャ。何かいい事でもあったかニャ?」

 

 そんな中、サイファーが赤城も何やら薄く笑みを浮かべている事に気付く。

 

「よー聞いてくれたサイファー!」

 

 しかし、そのサイファーの問いには赤城ではなく、その背後から突如姿を現した龍驤が楽しそうな大声で応える。

 

「なんと! 最新型の艦上戦闘機『烈風』が遂に完成したんや! しかも、ウチ用と赤城用に二つもやで!!」

 

「最新の武装と聞くと、心躍ってしまうのは仕方のないものです」

 

 両手を強く握りしめながら興奮気味に力説する龍驤に、赤城も頷きながら同意する。龍驤程表面には出ていないが、赤城は赤城で嬉しさで興奮している様だ。

 

「新しい武装に興奮する気持ちはよく分かるニャ! ボクも、のちに愛用する事になるバルファルク一式の武具を初めて見た時はすんごく興奮したニャ!!」

 

 そして、サイファーも二人の気持ちに高らかな声で便乗する。とはいえ、赤城と龍驤は勿論間宮と伊良湖も『バルファルク』と言うのが何なのか一切わからないので、「そ、そうですか…」と曖昧な返事を返すしかない。

 

「赤城さん! 準備できました!」「夕立も準備出来たっぽい!」

 

 不意に聞こえる二つの声。全員が声の方向を向くと、四人の人物が立っていた。

 

 その内の二人は吹雪と夕立だ。先ほどのハキハキとした声色からも分かる通り、二人とも気合が十分に乗っている様だ。

 

 そして残る二人なのだが、片方は長くもう片方は短い黒髪で、両方共に純白の小袖に赤いスカートという服装、更に二人とも頭に異様にでかい髪飾りを付けている。

 

 ただ、二人して美人ではあるのだが表情に陰りがあり、その所為で凄く薄幸そうに見える。

 

「あの二人は…?」

 

「二人とも戦艦の艦娘です。長髪の方が扶桑で、短髪の方が山城という名です」

 

 見慣れない二人に首を傾げるサイファーに、赤城が手短に説明する。その説明中に扶桑と山城もサイファーに近づいてきた。

 

「初めまして。先ほど赤城からも紹介されましたが、扶桑型一番艦の扶桑です。妹ともどもこれから宜しくお願い致しますね」

 

「…扶桑型二番艦、妹の山城です。宜しくお願いします」

 

「二人とも、さっき建造が終わったばかりなんや。建造自体は青葉と同じ時間に始めたらしいんやけど、やっぱり戦艦いう事でそれなりに時間がかかってもうたって訳やね」

 

 扶桑と山城がサイファーに挨拶をする。のだが、扶桑はともかく山城はどこかよそよそしい。その山城の挨拶が終わった後に、龍驤が追加で建造について補足説明をした。

 

「宜しくニャ。ボクの名前は」

 

「サイファー…ですよね? 料理が凄く上手い、二足歩行する不思議なネコ…という事で、もう既にこの鎮守府はおろか、他の鎮守府でも噂されるくらいには貴方は有名人ですよ。…いえ、この場合は有名猫の方がいいのかしら…?」

 

 扶桑と山城の名乗りを受けサイファーも名乗ろうとしたのだが、扶桑に先手を取られてしまった。どうやら、サイファーの事はかなり有名になってしまっている様だ。

 

「これから私達六隻で出撃するんです! 赤城さんと龍驤さんの艦載機も凄かったですけど、扶桑さんと山城さんの巨砲による砲撃も凄そうで、今からワクワクしてるんです!!」

 

「戦艦の砲撃かー…。夕立も今から楽しみっぽい!」

 

 扶桑の言葉に何とも言えない表情をしているサイファーを他所に、吹雪と夕立が扶桑と山城に大きな期待の視線を向けながら楽しそうに口を開く。

 

 しかし、そんな二人の機体に対し何故か扶桑と山城は気まずそうに視線を少し下に下げる。

 

「…私達期待されてますね、姉様」

 

「そうね山城。できればこの期待に応えてあげたいのだけど、できるかしら…私達に」

 

「…二人ともどうしたニャ?」

 

 何やら暗い感じでブツブツと言い合う二人を見たサイファーが、赤城と龍驤に向かって小声で訊ねてみる。

 

「あー、あの二人実はな―――」

 

 と、龍驤がサイファーの質問に答えようとしたその瞬間!

 

「きゃあっ!!?」

 

 という派手な悲鳴と共に、突然山城が何かに足を滑らせ仰向けに転んでしまう。見ると、山城の足元に小さな瓶が転がっていた。

 

「山城!? 大丈夫?」

 

「うう、い、痛い…。不幸だわ…」

 

 慌てて山城に駆け寄る扶桑が山城に声を掛ける。吹雪と夕立も声こそ掛けなかったが、心配そうに呻きながらも立ち上がった山城を見上げている。

 

 一方、突然現れた謎の小瓶にサイファーは目を白黒させていた。

 

「ニャ、ニャ? ちゃんと食堂の清掃はしていた筈ニャ…。なのに、あの瓶は一体何処からきたニャ?」

 

「…食卓の下にうまい具合に隠れていて、それが何らかの拍子で出てきた、としか考えられません。これでもかなり強引な解釈ですが…」

 

 首を傾げるサイファーに間宮が自分の推論を述べるのだが、あまり自信はなさそうだ。というのも、食卓の下と言っても特に何の細工も無い地味な食卓であり、ちょっとしゃがめばその下は丸見えだ。なのに見つけられなかった…というのが信じられないのだろう。

 

「…今見たようにこの二人、物凄い不幸体質なんよ。戦闘にすら悪影響が出るほどに」

 

「運も実力のうち…とはいいますが、このような激しい不幸に見舞われては活躍するのも難しいでしょう」

 

 そんな馬鹿な…と言った感じで間宮の推論に唖然としていたサイファーに、龍驤と赤城が先ほどの話の続きを口にする。

 

 そうして、少しの間うむむ…と唸り始めたサイファーだったが、やがて勢いよく顔を上げた。

 

「とにかく、出撃用の料理を用意するニャ! 美味しいものを食べて笑顔になれば不幸も吹き飛ぶニャ! 間宮さん、伊良湖さん、手伝って欲しいニャ!!」

 

「任せて下さい!」「さあ、初めての調理です! 腕が鳴りますよ!!」

 

 気合を入れて調理場の奥に移動するサイファー。そしてその後を付いていく間宮と伊良湖。そんな三人の後姿には、確かな頼もしさが溢れていた。

 

 

 

 

 

「…美味しい。形容しがたい不思議な味だけど、本当に美味しかったわね山城」

 

「ええ、それに何だか力が湧いてくる感じもします。正直ここまでとは思いませんでした姉様」

 

 

    スキル:ネコの砲撃術が発動!!

    スキル:ネコの防御術が発動!!

    スキル:招きネコの激運が発動!!

 

 

 サイファー達三人の作った料理を食べ終えた扶桑姉妹。二人とも微かな笑みを浮かべているのを見るに、言葉通りに満足している様だ。

 

 こうして、扶桑を旗艦としたこの艦隊は出撃する事となる。その際、扶桑と山城の初めて会った時の表情の陰りがだいぶ薄らいでいたので、もう問題無いだろうとサイファーは踏んでいた。…のだが。

 

 

 

 

 

 出撃結果自体は非常に良好な物だった。特に扶桑姉妹の活躍は凄まじく、敵艦隊と遭遇するたびに、姉妹の内のどちらかがMVPをもぎ取っていったそうだ。

 

 そして、どれだけ普段が不幸であろうと、その場の勢いに乗る事が出来れば流れは後からついてくる。今回の出撃では、不幸姉妹という不名誉なあだ名まで付けられている二人とは思えない程の、数々の幸運を味方にする事が出来た様で、それもMVPに繋がっていたのだろう。

 

 その活躍ぶりに、吹雪と夕立は大いに沸き、赤城と龍驤も安堵で胸を撫で下ろしたそうだ。

 

 だが、あまりにも出来過ぎたこの結果の所為で、ある弊害が発生してしまった。

 

 

 

 

 

 その日の夕食時。いつも通りに混雑する食堂。当然、調理場も大わらわ…なのだが、サイファー、間宮、伊良湖に加え、扶桑と山城も調理場でサイファー達の手伝いをしていた。曰く、出撃前の料理のお礼をしたいそうだ。

 

 吹雪と夕立の期待に応えられたという安堵と、幸運を味方にするという自分達の経緯からはまずありえない事態を、二人は狂喜しながらサイファーに報告に来た程だ。余程嬉しかったのだろう。

 

「二人ともありがとうニャ! 凄く助かるニャー」

 

 朗らかな笑みを浮かべながら皿洗いをしている扶桑と山城に、サイファーが調理を続けながらも二人にお礼の言葉を投げかける。

 

「いいのよ。サイファーのお役に立てるならこれほど嬉しい事はないから」

 

「そう、姉様の言う通り! サイファーの役に立てるなら、こんなもの苦にもならないわ!」

 

 対して姉妹は朗らかな笑みを崩さず、姉は穏やかに、妹は大声で答える。

 

 ただ、どういう訳か二人とも若干目付きが怪しい。

 

「ふふ、そうよ。サイファーがいれば、私達は伊勢や日向にだって負けはしないのよ」

 

「…ああ、こんな輝いている姉様を見るのは初めて。これも全てサイファーのおかげなのね」

 

 笑顔でブツブツと呟きながら皿洗いを続ける二人。見た目が美人な事に加え、目付きの怪しさがどんどん深くなっていく事もあり、ハッキリ言って中々に怖い。

 

「山城、いい? これから毎日サイファーの調理を手伝いに来るわよ。出来るわよね?」

 

「勿論です姉様。私達の幸運の招きネコ、サイファーの負担を少しでも軽減するために、身を粉にして手伝うつもりでいます!」

 

「いい返事よ山城。そう、私達の幸運の招きネコ、サイファーの為なら私達はなんだってするわ…!」

 

 冗談っぽい台詞…なのだが、二人の目付きはマジもんだ。恐らく、言葉通り本当にサイファーの為なら「なんだって」するつもりだろう。

 

 その、あまりに重い宣言に、間宮、伊良湖は口を挟む事さえ許されず、サイファーに至ってはどうしてこうなった! とばかりに頭を抱えるのだった。




ネコの砲撃術

 砲撃の威力のみを約40%上昇させる。本作では、ネコの射撃術の上位版という位置づけです。

ネコの防御術

 ダメージを受けた際、50%の確率で受けたダメージの30%をカットする。効果はほぼ変わりませんが、【小】【大】といった区分はありません。
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