ある新鎮守府と料理人アイルー   作:塞翁が馬

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お風呂事情その弐

 本日の執務、及び仕事の疲れを癒すべく、お風呂に浸かる提督とサイファー。しかし、残酷な事に男湯とは最早名のみであり、そこは既に二人が憩える場ではなくなっていた。

 

 理由は簡単。右を見ても左を見ても艦娘の…若い女性の裸ばかりだからだ。提督業についてから多少は女性にも慣れてきている節の有る提督ではあったが、流石にこういう場はまだいろいろと辛い様だ。

 

 サイファーについても、艦娘の裸自体には種族の違いもありさして興味はなさそうだが、どうやら貞操観念がかなり強いらしく、男性専用の場で女性が裸になるという行為自体に抵抗を感じている様だ。

 

 そしてこうなった原因なのだが、どうやら本日の昼辺りに艦娘達の間で風呂の湯の話が盛り上がったらしく、その時に卯月が弥生と吹雪を引き連れて提督とサイファーと一緒に風呂に入った事をばらしてしまったのだ。

 

 無論、提督とサイファーを含めて反対した艦娘もいたのだが、提督やサイファーと一緒にお風呂に入りたいという艦娘の方が圧倒的に多く(殆ど駆逐の艦娘)、極めつけに戦艦の扶桑と山城(この二人は提督と、というよりサイファーと一緒に入りたいみたいだが)、そして空母の龍驤までもが肯定してしまった所為で、反対派の意見はあえなく押し潰されてしまったのだ。

 

 その際、龍驤は「親交をさらに深めるには裸の付き合いが一番!」みたいな事を宣っていた。恐らくノリで言っているだけだろうが、まだ若い提督が異性からこんな言葉を聞かされると、どうしても卑猥な思考が脳裏を過ってしまうのは想像に難くない。

 

 かくして、混沌の地と化した男湯。因みに今提督とサイファーと一緒に入っているのは雷、電、響、暁、吹雪、霞、北上、扶桑、山城の計九人。提督とサイファーも加えると十一人だ。この中で混浴反対派は霞のみで、吹雪と北上は中立、他は全員賛成という不条理っぷりだ。

 

 更に、人数的に浴場がキャパオーバーしているというのも辛いところ。とはいえ、第六駆逐隊の面々は提督に引っ付き、扶桑と山城はサイファーにくっついているので、吹雪、北上、霞の周囲は比較的余裕があるのだが。

 

「司令官、身体でこっているところは無い? 雷がマッサージしてあげるわ!」「い、雷ちゃんがするのなら電もするのです…!」「良い考えだ、私も混ざろう」「…だ、男性に癒しをもたらすのも一人前のレディの務めよね! 暁だって、出来るんだから!!」

 

「ぐおおおっ…! か、体中を小さな手が這い回って………って違う!! 無い無い! 何処もこってないから、一旦離れてくれ!」

 

「サイファーは何処かこっているところは無い?」「姉様、サイファーの場合はマッサージより毛づくろいの方が大事では?」「…名案よ山城。ブラシは何処にあったかしら…?」

 

「ニャーッ! 一人でできるから勘弁してくれニャ! というか、まず離れて欲しいニャ! あんまり動きを制限されると、またこやし玉を投げそうになっちゃうニャ!!」

 

「アハハッ。いやー、二人ともモテモテだねぇ」

 

「て、提督もサイファーさんも頑張って…」

 

「ちょっと女に言い寄られたくらいでみっともないほどに慌てて…。ほんとだらしないわね!」

 

 無垢な少女達の無邪気な攻勢と、妖艶な女性二人の艶やかな誘いにたじたじの提督とサイファー。そして、その光景を見ていた北上、吹雪、霞の三人は各々のコメントを残す。特に霞の言葉は辛辣だ。

 

「もっと毅然とした態度を取りなさいよね! そう、女の裸を見ても全く反応しなくなるくらいに!!」

 

「いや待て! 俺まだ二十代前半だぞ!? そんな精魂全て枯れ果てた仙人みたいな立ち振る舞い出来る訳無いだろ!!」

 

 続く霞の言葉に提督は思わず反論してしまうが、霞の叱責は止まらない。

 

「大体アンタ、さっきから暁達や吹雪、北上の事ばっかり見てるけど、扶桑や山城の事はあんまり見てないのよね。まさかとは思うけどアンタ…」

 

「ぐっ…! た、確かに自分でも信じられんが、成熟した肢体より未成熟な身体の方がなぜか興奮する…」

 

「開き直ってんじゃないわよ!! このグズ! ロリコン!! 変態!!! 豚野郎!!!!」

 

「お前が言わせたんだろうがちくしょおおおおっ!!!」

 

「…楽しそうだなぁ」

 

 自分の身体を庇いながら提督を罵倒する霞と、立ち上がり両手を腰だめの位置に構えながら慟哭する提督。その一部始終を見ていた北上が薄ら笑いを浮かべながらポツリと呟いた。

 

「…ええい! 悪いが話題を強引に変えさせてもらうぞ! 浴場でする話ではないが、このままでは俺の分がかなり悪いのでな」

 

 そう発言して、顔を激しく左右に振ってから再び湯に浸かる提督。因みに、腰辺りに手拭いを巻いていたので大事なところは誰にも見えていない。

 

「―――例の装置の起動準備が整った。艦娘全員のにゅうよ」

 

「「是非、拝見したいです!!!」」

 

 提督の言葉の途中で、扶桑と山城が右手を上げながら大声で全く同じ言葉を主張する。とはいえ、この二人の執着が異常に強いだけで、他の者達も程度の差はあれ興味深そうな瞳を提督に向けていた。

 

「落ち着け二人とも。無論、現在所属している艦娘全員に見てもらうつもりだ。そのために、今日は出撃の予定は一切入れていないのだからな」

 

 逸る姉妹を落ち着かせながら言葉を続ける提督。

 

「ゴメンだけど、ボクはあまり見たくないニャ。だから調理室で元帥さん用の料理の研究の続きをしていたいのだけど、いいニャ?」

 

 その時、サイファーが唐突に口を開く。

 

「…何か見たくない物でもあるんですか?」

 

「いやー、自分の記憶なんて見てても恥ずかしいだけニャ。深い意味は無いから気にする事は無いニャ」

 

 どこか不安げに聞く吹雪だったが、対するサイファーの答えは軽い笑みを漏らしながらの物。本当に理由はそれだけの様だ。

 

「ところで司令官。VR空間って事はやっぱり大きなゴーグルとか被るの?」

 

「いや、起動すればその部屋全体がVR空間と化すから、特別な何かを装着する必要はない」

 

 サイファーの様子に安堵した表情を見せた後、雷が提督に質問する。そして、それに淀みなく答えていく提督。

 

「はわー…。不思議な装置なのです。技術の結晶なのですねー…」

 

「…そんな事を言ったら、そもそも艦娘と言う存在が不思議の塊なんだがな」

 

 言葉通りに不思議そうに首を傾げる電だったが、その様子を見ていた提督も小声で漏らすのだった。

 

 

 

 

 

 サイファーの記憶を見られるという話は瞬く間に鎮守府中に広がった。そして、それが鎮守府内の艦娘全員の入浴後だという事を知った艦娘達は、手早く入浴を済ませ始める。それは、普段は身だしなみをしっかりする為に長めに入浴していた者や、お風呂自体が大好きな者も例外ではなかった。

 

 そして、全員の入浴が終わった後、サイファーを除いた鎮守府内の全所属者は多目的室に集められた。

 

 

 

 

 

「…よし。起動するぞ」

 

 部屋の中央にセットされた装置を弄っていた提督の宣言。と、同時に殺風景だったが周囲の景色が突然歪んだかと思うと、あっという間に違う景色に塗り替えられてしまった。

 

 あまりに急激な展開に目を見開いて驚く艦娘達。が、驚愕しながらも周りを確認してみると、どうやら今いる場所は一つの村落の様だ。

 

 そして、その村落の中心に人だかりができており、その更に中心にサイファー…らしきネコが立っていた。

 

 らしき…というのは、顔つきこそサイファーのそれだったが、いつもの割烹着姿ではなく、白銀の鎧に厳つい銀色の兜を被り、背中にはサイファーの身長に迫るほどの大きな大剣(とは言っても艦娘視点から言えばとても大剣と言えるような大きさではないが…)を背負っていた。

 

 だが、何だか様子がおかしい。言い合いをしているみたいだが、何故かサイファーが責められている様な雰囲気だ。

 

 気になった艦娘達は、その言い合いを聞き取る為に急いでその場に近づく。相手は映像なので、極端に近づこうが相手に影響はない。

 

「くそっ! あの悪魔と相対するのに、派遣されてきたのがアイルー一匹だと!? ギルドの連中は一体何を考えてやがるんだ!!」

 

「俺達の事なんかどうでもいいんだろ…。ああ、もうこの村も終わりだ…」

 

 悲しげにうな垂れているサイファーを睨みながら、口々に悪態を吐く人々。話から察するにどうやらこの村落の住人の様だ。

 

「…お前さん、大変だよっ!!」

 

 不意に人だかりの外から、一人の恰幅の良い女性が悪魔と言う言葉を口にした男性に慌てて寄ってくる。

 

「なんだ!? 今取り込み中なのが見て分からないのか!?」

 

「あの子が…あの子がいないんだよおっ!! もしかしたら鉱脈火山に…」

 

 と、ここまで会話を聞いていた艦娘達だったが、突然人だかりが自分達から離れていったので、再び驚きながら周囲に視線を向ける。

 

 そして、目を凝らしてよく見ると、離れていっているのは人だかりではなく自分たちの方なのが分かった。といっても艦娘達は一切動いていない。動いていないが、驚くべきことに地面が動いて人だかりと艦娘達を離しているのだ。

 

 と、同時にサイファーがネコらしく両足に両手も使って地を駆けている姿を視認できた。そして、そのサイファーに合わせる様に周囲の風景も流れていく。

 

 あまりに鮮明な風景の数々だったので艦娘達は忘れていたが、これはあくまでサイファーの記憶を映像化したものなのだ。当然、サイファーのあずかり知らぬことを知る事は出来ない。故に、あれ以降の人だかりの会話を知る術もない。

 

「…サイファーさん、何処に向かってるんだろう?」

 

「先ほどの話から察するなら、女の人が言っていた鉱脈火山と言う場所だと思いますよ」

 

 慌てている様子のサイファーを心配そうに見つめながら口を開く吹雪に、赤城が真面目な顔で答える。

 

 と、不意にサイファーが立ち止まった。そして、懐から一枚の紙を取り出す。

 

「―――。絶対強者の亜種…。厳しい狩猟になりそうニャ…」

 

 紙に描かれた絵と文字を見つめ、深いため息を吐きながらそう漏らすサイファー。その紙を、近くにいた文月が覗き込み、その内容を口にした。

 

「なになに? えーっと………こくごうりゅう、てぃがれっくすあしゅ、いっとうのしゅりょう? わー、なんだかつよそうななまえだねー」




仙人の下りで、某ふっはっくらえさんを思い出しました。
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