ある新鎮守府と料理人アイルー   作:塞翁が馬

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オトモアイドル

 鎮守府内には執務室と大食堂の他にも数多くの個室がある。これも食堂が広い理由と同じく、後に様々な艦娘達の住居とするためだ。

 

 肉焼きセットの事件からさらに数日が経ったある日、サイファーはその内の一つの個室…川内型三姉妹が使っている個室に呼び出された。その理由はというと…。

 

「~~♪ ~~~♪♪」

 

「ニャッ! ニャンニャニャ~ン!」

 

 部屋のど真ん中でちゃぶ台の上に立って気持ちよさそうに歌う那珂と、その後ろで愛嬌を振りまくサイファー。

 

「~~~~イェイッ!!」「ニャン!!」

 

 そして、二人同時に決めポーズをとる。

 

「ニャ! こんな感じで良いニャ?」

 

「うーん、もうばっちりだよっ! あー、やっぱりバックダンサーがいると、アイドルって感じがするぅ~!」

 

 手に持っている極太のマーカーペンを両手で握りしめながら、感慨深そうにしみじみと口にする那珂。マーカーペンはマイクの代わりの様だ。

 

「人語を解するネコがバックダンサーなんて、話題性抜群だもんね! よーし、これで一気に艦隊のアイドル…そして、アイドルのてっぺんにまで登り詰めちゃうぞーっ!!」

 

「そんなのどうでもいいからさ、ねね、サイファー! 今から料理作ってよ料理!」

 

 己の野望を高らかに宣言する那珂だったが、唐突に川内が割って入り、サイファーに料理をせがむ。

 

「ニャ、ニャ? で、でももう暗くなってきたニャ。今から海に出るのは危ないニャ」

 

「私は夜戦がしたいの! だから、ね? お願いサイファー!」

 

 窓の外を確認しながら困惑した様子で川内を窘めようとするサイファーだったが、その言に川内は一切耳を貸さず、サイファーを背後から抱きしめながら勢いよく懇願してくる。

 

「駄目ーっ! サイファーは今から私と一緒に新しい振り付けの練習をするのっ!」

 

 しかし、当然ながら己の予定を邪魔される形になった那珂も黙ってはいない。川内の腕の中でもがいているサイファーの右腕を取り、強引に自分の方へ引き寄せようとする。

 

「やーだーっ! 夜戦ーっ! 夜戦行くのーっ!!」

 

「サイファーも私も、歌や振り付けの練習に忙しいんだから、離してよーっ!!」

 

「ギニャーーッ!!? 痛い痛い腕がもげるニャーーッ!!! どっちでもいいから一旦離して欲しいニャーーッ!!!」

 

 川内と那珂によるサイファーの取り合いが発生するが、当のサイファーは右腕と身体を全く逆方向に引っ張られているのでたまったものではない。

 

 あらん限りの大声で悲鳴を上げるサイファーだったが、川内も那珂も一歩も引かず、お互いを睨み合いながらサイファーを己の物にせんと、サイファーを掴む腕に更に力を籠める。

 

「ふ、二人とも止めてっ!!」

 

 その時、オロオロしながら様子を窺っていた神通が、若干ビクつきながらも川内と那珂を制止しようとする。とはいえ、こんな程度では二人は止まらないという事も知っているので、続けざまにまずは川内に視線を向ける。

 

「止めないと、提督に言いつけて夜戦禁止令を出して貰いますよ!?」

 

「そんなの出されても、出撃したら夜戦出来るもーん」

 

「これから建造されるであろう、重巡や戦艦の人達にも言って強引に止めさせますっ!!」

 

「そこまでするの!? …う、そ、それは困っちゃうなぁ…」

 

 神通の決意と気迫に満ちた言葉に、流石の川内も少し尻込みする。そして、程なくしてサイファーを腕の中から解放した。

 

「きゃはっ! じゃあ川内も諦めた事だし、私と一緒に練習ガンバロー!」

 

「いえ、残念ですがその練習も今日限りで終わりです」

 

 ライバルがいなくなった事により、上機嫌にサイファーを抱きしめながら気合を入れる那珂だったが、そこに入る神通の無慈悲な宣告。

 

「むーなんでよー? なんか問題でもあるのー?」

 

 頬を膨らませ、見るからに不機嫌ですと言わんばかりの表情を浮かべながら神通に詰め寄る那珂だったが、その問いには答えず神通は川内に視線を送る。

 

「一つ川内に聞きますけど、可愛いアイドルと立って踊って歌えるネコ…川内ならどちらに興味が湧きますか?」

 

「へ? うーん……まあ、そりゃネコの方かな…。可愛いアイドルなんて幾らでもいるし…」

 

 突然の神通の質問に、一瞬呆けながらも思った事を答える川内。その答えに満足したらしい神通は、一つ頷いてから今度は那珂に視線を送る。

 

「次に那珂に聞きますけど、このユニットのメインは誰ですか?」

 

「そんなの決まってるよ! もっちろん、この艦隊のアイドル…那珂ちゃんだよーっ!」

 

 神通の問いかけに、那珂は元気よく答える。が、

 

「今のままでは、永久に那珂がメインになる事はありませんよ」

 

 その答えを神通がバッサリと切り捨てる。

 

「な……なんでよーーっ!!?」

 

 あまりにもキッパリと言い切られてしまった為、怒りを通り越して悲しみすら漂う雰囲気を醸し出しながら神通に詰め寄りその理由を聞く那珂。

 

「さっきも川内が言いましたけど、可愛いアイドルと歌って踊れるネコなら、恐らく百人中九十九人はネコの方に興味を示すでしょう。正直、私もこの二つならネコの方に興味を持ってしまいます」

 

 理路整然と理由を述べる神通に、那珂の表情がみるみる絶望に染まっていく。しかし、神通は遠慮をしない。那珂の目の前に自分の右手人差し指を立て、厳しい面持ちで口を開いた。

 

「つまり! 今のまま二人が同じステージに立つと、可愛いアイドルとそのバックダンサーではなく、歌って踊れる世にも珍しいネコとそのオトモアイドルという図式になってしまうのです!!」

 

「あ、ああ………う、あ…」

 

 この世の終わりが来た、とでも言いそうな顔でうな垂れる那珂。それと同時に、サイファーを拘束していた両腕の力も緩んだため、サイファーは急いで那珂の腕の内から脱出する。

 

「ニャフー、助かったニャー。ありがとうございますニャ」

 

「い、いえ、こちらこそ姉と妹が迷惑を掛けて申し訳ありません…」

 

 神通に向かって頭を下げるサイファーだったが、逆に神通から頭を下げられてしまった。

 

「それじゃ、ボクはそろそろ調理室に戻って明日の仕込みをするけど……那珂さんは大丈夫ニャー?」

 

「うーん、確かに相当ダメージを受けたみたいだよ」

 

 そう言って、サイファーと川内が那珂の方を向く。釣られて神通も那珂の方を向いた。

 

 両手を床に付き、真っ青な顔でなにやらブツブツと呟いている那珂。その悲壮感たっぷりの雰囲気は、近づくだけでその者の心を悲しみと絶望で満たしてしまいそうだ。

 

「…まあ、打たれ強くないとアイドルなんてやってられないでしょうし、そのうち元に戻ると思います」

 

「普段は気弱だけど、抉る時は抉るよね神通って…」

 

 苦笑を浮かべながら楽観的な事を言う神通に、川内は少し引いたようだ。

 

「分かったニャー。じゃあ、そろそろお暇するニャー」

 

「ええ、また明日」

 

「なんか夜戦専用の料理でも考えといてねー!」

 

 サイファーの挨拶に、神通は普通に挨拶を返し、川内は何気に結構無茶な注文を付ける。こうして、サイファーは川内型三姉妹の部屋を後にするのだった。

 

 

 

 

 

「……オトモアイドル? なにそれ、アイドルの新境地かな? アハハハハハ………いやいやいや、全然笑えないから……」

 

「あーもー那珂うっさい! 寝れないじゃんか!!」

 

「川内の夜戦連呼も寝れないですけど、傍でブツブツ呟かれ続けるのも意外とうるさくて眠れないものですね…」

 

 夜遅くになっても、未だにブツブツと呟いている那珂に、川内が大いにキレ、神通も困り果てた様子で溜息を吐く。

 

 結局この日、那珂は一睡もする事は無く、連鎖的に川内と神通も眠る事は出来なかった。

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