魔法少女リリカルなのは Endless Story 作:ヨシュア・ブライト
本当にさわりの部分だけなので、主人公の性格をつかんでいただければと思って書いたお話になっています。
本来はもうちょっと長いお話なのですがね(笑
まぁ、そういった裏話は置いときまして、第一話、どうぞー♪
首都クラナガンに立ち並ぶオフィス街。
時間的には深夜過ぎ。日本時間で午前三時の時間帯。
首都の中心街とは言えど大半の人間は寝静まり、動くものは何もない。動くものと言えば仕事終わりに飲んでいたよっぱらいの人間がぽつぽつと見える程度。
「んぁぁ?」
そんなよっぱらいの中の一人の男が間抜けな声をあげて空を見上げる。
闇が動いた。そんな気がしたためだ。
しかし、見渡せども何もない。目には雲ひとつない月が映るのみ。
気のせいかとも思い視線を下ろし、家を目指そうとした。
【ゥゥゥ……】
「ッ!?」
まさに歩行を再会しようとしたその時だ。
ガンッと男の背後で石が跳ねる。
決して小さいとは言えないアスファルトの礫が男の背中に叩きつけられる。内出血は確実。明日の仕事に響きそうだ。
何かの事故でそうなったのなら軽くやる気が萎える程度で終わったはず。
だが、この人外の声が事故などと生易しいものではないと告げている。
――魔法生物? こんな街中で!?
戦慄を覚えながら本脳的反応で男は振り向く。
振り向いたと同時に本脳を呪った。
そこにいたのは全身を覆う棘の外殻、爛々と夜に輝く赤い目。牙の並んだ口腔を持つ四足歩行の生物。
見た目だけで言うならば狼に似ていないこともないが、人間にも臆さない凶暴性は恐らくソレとは桁違い。
恐ろしい外見の相手に驚いて、一歩後退する。
……ぴちゃり
「……え?」
足元から響いた水音に男は呆けた。
液体状の何かを踏んだのだ。
妥当に考えれば水溜りだが、この辺りに水源など無いし、ここ数日雨など降っていない。水音を響かせるものなど何一つとして――。
「ひっ!? ぎゃあああああああああああ!!」
――あった。
男の足元に転がる肉感的な物質。
人であるなら誰もが知っている。人であるなら誰にでもついている。
腕。人間の、腕。
半ばから食いちぎられた腕が男の足元に転がり、血溜まりを成している。水音の原因はソレだった。。
何故、腕があるのか? そんなもの決まっている。この生物がどこかの人間の腕を食いちぎって男の足元に捨てたのだ。新たな獲物を見つけたが故に。
「待、て……。そんな、そんな!!」
つまり、この生物は。
「嫌だ……」
人を食うという証明で。
「嫌だ嫌だ嫌だ……」
男はその生物の目の前にいて。
【オオオオオオオォォォォォォ!!】
「嫌だぁぁあああああああああああああ!!」
今、捕食者は男に飛びかかろうとしていた。
立場も体裁もどうでも良い。助けてくれるなら悪魔にでも頼ると男は悲鳴をあげて逃走する。
それが功を成したのか、頭から男を喰らおうとしていた獣の牙は空を噛む。
だがらどうしたと言うのだろう。獣は人より速い。ましてやこの獣は普通の獣ではない。彼の命は持って数秒。どうした所で悪あがきにしかならない。
彼自身、わかってはいた。だからと言って諦められるほど命を軽んじてはいなかった。生に縋りつく。
その一瞬の抵抗が男の命運を分けた。
「っぅ!?」
ガンッ! と先程聞いた音が男の目の前で響く。
飛び散る破片が男を襲い、痛みで顔をしかめたが、目は開いたままだった。
それほど驚いたのだ。驚きだけなら先程より大きかったかもしれない。
漆黒の外套に身を包む男が立っていた。
洒落ッ気のない短髪の黒髪。線の細い端整な顔立ち。ここまでならまだそこまでおかしいとも思わない。
だが、目の周囲を覆う仮面とボロ布のような外套、背中に背負った大剣。その全てが漆黒。夜からそのまま生まれたような人間は異様でしかない。
おまけにビルから飛び降りておきながら平然としているではないか。
獣が高層ビルから飛び降りてきたというのは人外というカテゴリーに存在するため無理があっても納得は出来る。
だが、今、男の目の前にいる者は人間だ。
高層ビルから飛び降りて無傷でいるなど頑丈、というレベルを通り越している。魔導師ならそれもありえるかもしれないが、フローターの魔法を発動している様子もない。
つまりは前者。ありえない構造の人間が目の前にいるということで。
「……回復などさせん」
【ゥゥ……】
ありえない人間は男に見向きもせずに獣だけを見据えた。
人など恐れず、捕食対象としてしか見ていなかった獣が怯えを見せる。
落ち着いてみれば獣の身体には幾つもの傷があり、痛めつけられたあとなのだと理解出来る。
この獣は逃げてきたのだ。誰からとは言うまでもなく、この男から。
「……排除する」
ただ一言、それだけを告げると身の丈ほどもある大剣を片手一本で背中から引き抜く。
傍観者となりつつあるよっぱらいの男は反りのある漆黒の大剣はいかにも斬れそうだと思った。
そしてそれは真実だった。
いつ踏み込んだのか、いつ振り抜いたのか、常人である男には捉えることが出来なかった。
気付けば獣の身体は大地ごと正面から真っ二つに切り裂かれ、絶命している。
切り裂いたはずの男の姿最初から存在していなかったように忽然と姿を消していた。
▼▲▼▲▼▲
――これで八十九体。
獣の討伐を終えた件の漆黒の男は身体を引きずりながらビルの影へと身を隠す。
壁に背中をあずけ、そのままずり落ちるようにして座り込んだ。
普段なら休息など良しとしない男ではあったが、この時ばかりは限界だった。
仮面越しとはいえ、男から感じられる濃い疲労。
それもそのはず。この男は三日三晩の間、飲まず食わずで先刻のように人を襲う獣――魔獣を狩り続けているのだ。
狩って狩って狩り続けて、その先が魔王に繋がっていると信じて。
ここがどこなのか、今日がいつなのか、そんなことはどうでもいい。男にあるのは魔王討伐という目的ただ一つ。
自分は討伐を成す者。それ以外に興味はない。
そう、自分の身体でさえも。
――倒さなければならない。魔族は、全て……。
そうするためだけに男は生きていると断言出来る。
ならば、休んでいる暇などない。魔族は未だに活動を続けている。
魔族は絶やさねばならない。自分が生きている限り。この身体が動く限り。
ぎしぎしという音が男からは聞こえてきそうなほど動きは緩慢。壁に寄りかかり、引きずるようにして歩くその姿は到底戦えるとは思えない。
それでも男は進んでいく。その生命が燃え尽きるまで。
朦朧とした意識のまま意思の力のみで男は街中を進み続けたが、酷使し続けた身体は意思の力ではどうにもならないほど疲弊し、気付けば男は倒れ伏していた。
動かねばならない。頭ではそう思う一方で指先一つ動かせないまま男は意識を沈めていく。
「何でこうも道端でわかりやすく倒れてるのよ。救急キットも持ってないし……。あーもう!」
意識が完全に沈む直前、男は女性の声を聞いた。
鈍く感触の残る手が女性の肩に回されたことを知覚。頬を撫でた女性の髪から香る柑橘系の香りに誘われ、男は完全に意識を失った。
▼▲▼▲▼▲▼▲▼▲
トントントン。
炊事でもしているのか、包丁がリズミカルな音を奏でている。
「はぁ……。私、何で二人分のご飯作ってるのよ……」
女性の独り言と共に男の意識は浮上する。
寝ぼけるということもなく、瞬時に目を覚ました男は起きたということを相手に悟られることなく部屋の中を視線で探る。
……対象との距離二メートル。性別は恐らく女性。自身の武装確認。全て良好。殺傷範囲圏内。しかし、対象に拘束の意図は感じられず。情報収集を優先とする。
機械的思考で答えをはじき出すと、起き上がった男は部屋の中のがさいれを始める。
最も近くにあったクローゼットの中を無遠慮に開き、何か情報になるものはないかと捜し求め、驚いた。
「……」
中を見た男は目を細めて思考の海へ潜る。
クローゼットの中は男にとって未知の領域であった。
男が知る限り、こういったものの中には貴重品や衣服などがあったはずだが、女性のクローゼットの中は摩訶不思議。
色とりどり、形も様々な物体で溢れていたのだ。
だが、男は鋭い目つきのまま表情を崩さない。
駆け巡る思考。導き出される答えは――
……これは、巧妙に偽装された絞殺兵器か?
――場外ホームランも良いとこなすっ飛び具合であったとさ。
答えは例によって衣服である。
ただ、男が知る衣服とは全く違うが故に勘違いしたのだが、それにしてもひどい有様である。
勝手に誤解し、勝手に戦慄する男。ちなみにマジだ。
壮絶に勘違いをしたままクローゼットのがさいれを再開。するとなにやら不思議な感触をした物体を引きずり出す。
三角形のオレンジの布地とそれと揃いと思われる布地。
何に使うのかと首を傾げ、思考してみるも絞殺兵器――ただの服――のような強度がありそうにも思えない。
「……理解不能だ」
「アンタの行動の方が理解不能よ!!」
「ぐはっ……」
ズバシィィィィン! と部屋の中に響き渡る凄まじい打撃音。
平手打ちか何かで頭を叩かれたのか、男の脳が激しく揺れる。
普段ならなんともないダメージではあるが、行き倒れとなっていた男には少々どころか大ダメージだった様子である。
グラリと傾いたかと思うとそのまま仰向けに倒れ、初めて部屋の主と顔を合わせる。
その主は女性だった。髪は橙の長髪。きめ細かい肌にやや釣りあがった目は強気なイメージを与えた。
文句なしに美人の部類。道端ですれ違えば振り向くこと間違いなし。
何故か顔を赤くしているものの、寧ろそれがより美しさを際立たせていると言ってもいい。
が、男の頭と言えば叩かれたことに対しての疑問で埋め尽くされていた。つまるところ女性の容姿には無反応なのだった。
「やっと起きたかと思えば下着漁りとか、どんな神経してるんだか……」
「下着?」
「黙って」
「了解した」
部屋の主の女性は猛烈に怒っている様子で、再び倒れた男を介抱する余裕も持ち合わせていない。
疑問を浮かべる男に黙れとぴしゃりと告げると散らかした中身をクローゼットの中に丁寧に戻していく。
その間、互いに無言。
「……」
「……」
黙々と衣服や下着を片付ける女性。黙々とそれを見ている男。
傍から見ればそれはおかしな光景だろう。
「ねぇ?」
沈黙に耐えかねたのか、呆れたような表情を浮かべながら女性が男へと向き直る。
「私、貴方を助けたんだけどさ……」
「ああ」
「ああ。じゃなくて、何か言うこととか、ないの?」
運ぶの、それなりに大変だったんだけど。と女性が付け足す。
男は肥満体質ではないし、体重も標準的だが、それでも男性を女性が運ぶのだとすればかなりの重労働となる。
ありがとう。普通ならその一言が真っ先に出てくるはずだ。
別に礼を求めているわけでもないが、一般常識として当たり前のことだ。それがないとなれば多少は苛立ちもするというもの。
「言うこと……」
「そう」
「誰にだ?」
「私以外の誰がいるのよ……」
自分が言うこと。対象は女性に。
呆れ果てる顔を見ながら男性は再び思考の海へ潜る。
そうすることたっぷり十秒。答えを見つけたのか女性を正面から見つめて――
「貴様は誰だ」
「違うでしょーが!!」
――毒を吐いた。
あまりに検討違いの答えに拳を握り締めながら女性は怒鳴るのみで耐える。
拳を振り下ろさなかったのは瀕死だった人間に二度も打撃を加えてはならないと女性の精神が総動員して拳を止めたからだ。凄まじい忍耐力である。
「助けてもらったんだからありがとう。迷惑もかけたからごめんなさい。どうしてそんな答えになる――」
「理解不能だ」
「――え?」
つらつらと語られる女性の説教が男の一言によって停止する。
理解不能。今、この男はそう言わなかったか。と。
「ありがとう? ごめんなさい? それは何だ? 言ってどうなる? 意味を教えてくれ」
「……本気で言ってるの?」
「知りたくなければ要求などしないだろう」
「常識で考えなさい! 常識で!」
「常識……」
腕を組んで本気で考えるが、答えはわからない。
精一杯悩んで導き出した答えが先程の問いなのだからわかりようもない。
そも、常識とはなんなのか。
何が常識で何が非常識なのか、まずそこからがわからない。考えれば考えるだけ疑問が浮かんでくる。
始めこそからかっているのだろうと怒りすら覚えた女性だったが、男が真剣に悩む姿に何かがおかしいと感じ取ったのか、怒りを消し、心配そうに見つめていた。
「本当にわからない?」
「ああ」
「……ちょっと質問するから素直に答えてね?」
「了解した」
もしかして。何かに思い至った女性は簡単な質問を男に問いかけていく。
ここは何処であるのか、今日は何日であるのか、何故あんな所で倒れていたのか。
返ってきた答えは全て同じ。
『わからない』
この時点で女性は男が記憶喪失なのだろうと判断する。
嘘をついているという可能性もゼロではないが、女性は職業柄そういったことには目聡く、見逃すことはありえない。
「じゃあ、貴方、名前は?」
「……」
ジャア、アナタ、ナマエハ?
ザーザーと、ノイズが流れている感覚。
「私は、私の、名前は……」
言うべき言葉が出てこない。
わからない。いや違う。忘れているだけだ。
おぼろげな記憶を掘り起こす。そうしようとすれば必要ないと言わんばかりにチリチリと頭痛が走る。
ならば思い出さなくとも良い。男はそう考えて――
……待て。
――そう考えたことに対して疑問を持つ。
確かに任務遂行に関しては名前など無くとも支障はない。
しかし、だからと言って即断で肯定して良い事柄ではないはずだ。
今、自分の頭は何かに導かれるが如く決断を下そうとした。
それは、まるで、機械のように。
「ッ……」
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「問題、ない……」
考えること自体を頭痛によって否定し、ただ機械であれと命じる自らの脳。
様子がおかしいことに気付き、心配する女性に男は一言で強く答えた。
そう、問題ない。この程度の頭痛でどうこうなるような軟弱な精神はしていない。
寧ろ問題があるとすればこの脳だ。思考を打ち切るなどどうかしているとしか思えない。考えずに生きる生物など機械と何ら違いがない。
そして男性は、己が人であることを自覚する。
『ああ、やっとか。待っていた。長い、本当に永い間。
ようやく始まるのだな。貴様という個が。生が。命が。
久方ぶりとは言うまい。祝おう。新たな貴様の誕生を』
”おはよう。我らが勇者よ”
人になってくれたかと、誰かが祝ってくれていた。厳かではあるが、心から喜んでくれていることを感覚的に理解する。
懐かしい声だった。言葉が頭の中に溶けていくと同時、霧が晴れていくように鮮明になっていく意識。
霧が晴れた今ならば簡単に思い出せる。
「私は、私の、名は――」
己の、名を。
「――アレン・テスタクル。それが、私の名だ」
一切の迷い無く、名を名乗った。
瞬間、頭痛がきれいさっぱり無くなり、急に視界が開けた。生きている実感を今更になって男――アレンは感じ取る。
名前を思い出しただけで他に何かわかったというわけでもない。ただ、妙にすっきりした気分だった。
それをなんとなく感じ取っているのか、女性の表情も先程より柔らかく思える。
「アレン・テスタクルね。珍しい名前だと思うけど綺麗な――」
「――女」
「……何?」
綺麗な名前じゃない。
そう言おうとした女性の言葉を遮り無遠慮かつ失礼な言葉が女性の優しい言葉をぶち壊す。
記憶喪失なんだから仕方ない。とイライラしながらも鉄の精神力で抑え込み、ギリギリで笑顔を保つ。
「私は名乗ったぞ。故に答えてもらう。貴様は誰だ」
「ティアナ・ランスター」
「記憶した。して、ティアナ・ランスターに再度問う。この殺意はなんだ?」
アレンを助けた女性の名は、ティアナ・ランスター。
機動六課のフォワードメンバーのセンターガードを果たし、かの高町なのはから高い評価を得て、フェイトに誘われて執務官候補として各地を巡り、二十歳という年齢でありながら難関である執務官試験に合格。
その仮定で人間的にも成長し、忍耐力も養われている。
が、アレン・テスタクルのやたら上から目線の物言いは記憶喪失ということを差し引いても彼女の我慢の限界を容易く突破する。
というよりは、アレンの言を聞いて僅かも苛立ちを見せずに対応することなど専門家でもない限り無理というもの。
「私、頑張った。頑張ったわよ。仕方ないの。これは不可抗力」
「……ティアナ・ランスター?」
まぁ、端的に言えばぷっちんしたと言えば良かろうか。
「だからね、アレン・テスタクル?」
「何だ?」
「何も言わずに、寝てなさい!!!!」
「がはっ!?」
何故、ティアナが怒っているのか、結局わからず首を傾げていた。
答えをもらおうとジッと待つアレンの最後の記憶は、霞む勢いで振り下ろされる真っ白な板状の何かと、脳天に炸裂した激痛であった。
次回へ続く
はい、ここまで読んでくださりありがとうございます♪
天然系主人公アレン君の登場会でしたー♪
いやまぁ、出会いの部分だけでお話的にはまだ全然進んでないんですが(笑
とりあえずは当面の目的は文字数は増えるのはしょうがないとしてわかりやすいお話を、という目標でいきます。
ここまで読んでいらっしゃる方はおさっしかもしれませんが、このESはJS事件までの時系列しか組んでいません。
フォースやヴィヴィッド、イクスは部分的には抜粋して使うかもしれませんが、基本的にはオリジナル展開で進んでいくのでご了承ください。
それではこの辺りで。
願わくばまた読者の皆様とお会いできますよう