魔法少女リリカルなのは Endless Story 作:ヨシュア・ブライト
さてさて、やっと事態を動かせました(笑
まぁ、問題は次の話なわけですが、それはまたなやむとして、どぞです♪
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重苦しい朝食を終えたティアナ達一行。防災課であるスバルとは一旦別れて仕事を開始。
スバルは瓦礫の撤去などが遅れている区域に赴くと同時に不測の事態に対する抑止力として活動。
そして執務官であるティアナとその護衛であるアレンの二人組はこの区域で戦闘を行った武装隊の救護テントへと赴き、隊員への聞き込みを始める。
無論のこと戦線離脱を余儀なくされた者はここにはいないだろうが、軽症の者は救護テントで応急手当を受けてそのまま前線に残っていることが多いため、ここで聞き込みをする価値は十分にある。
「覚悟は、してたけど……」
「……」
そう思って訊ねた救護テントの中は、荒れていた。
ここは戦場なのか? そう誤認するほどであり、ティアナが言葉を失い、アレンが無言のまま気を張り詰める。
ティアナ達が訪ねたのは救護テントの一番テント。”比較的軽症”とされる者が収容され、治療を受けるテントだ。
だと言うのに、このテントには血の臭いが強い。ここが最前線にあるテントだと予め言われれば彼女らは素直に信じただろう。
「酷いもんだろう?」
光景に絶句していると、入り口の側のベッドで転がっている隊員に声をかけられた。
声をかけられて我を取りもどしたティアナは「そうですね」と返答しながら聞き込みをしようと隊員の方へ向き直り、すぐに視線を逸らす。
その男は”左腕が無かった”から。
戦闘で腕を失ったのであろうことは容易に想像出来た。
「ん? ――ああ、この腕か? すまんな。気持ち悪いのみせて」
「……いえ、こちらこそすみません」
「なに、気にしとらんさ。その反応にもだいぶ慣れたしな」
にもかかわらず隊員は暗さを感じさせないカラッとした笑い声をあげた。
どこか温かみのある笑い方。おそらくそれなりの経験を積んできたベテランの隊員なのだろう。
となれば、ある程度は現状を知っているとティアナは踏んだ。ならば取るべき行動は一つしかない。
彼女の中でスイッチが切り替わる。コレより先は執務官であるティアナだ。情報収集が最優先。心を鬼にして踏みこもうと決める。
「ひ、やっ!?」
瞬間だった。ビクリと反応した彼女は凄まじい勢いで飛びずさり、棒立ちのアレンの背後に隠れてしまう。
宙には、男の右腕がくねくねと不気味に蠢いていた。
「何するんですか!!」
「いや、長らくこんな美人に会ってなかったもんで男の性が止まってくれなんだ……」
残念な顔をする男は残った右腕を宙で撫で回す。
一見すれば何をしているかわからないが、撫で回している位置は先程までティアナがいた場所。正確にいうなら――
「しかし、お嬢さん、良い尻をしている……。カミさんには負けるがな」
「普通にセクハラ発言しないでください!!」
――否、言わずとも男が代弁してくれていた。
ハァハァと息を荒げながら落ち着こうとするティアナ。しかし、彼女は戦慄を覚える。今までの経験が告げている。危険だと。
「アレン。ストップ」
この状況でこの男が何もしないわけがないのだ。
先んじて命令したティアナにアレンは一歩踏み出そうとしていた足を止める。
「……まだ何もしていないが?」
「ほっといたらアンタはその人の腕、斬り落とすつもりだったでしょ?」
「そんなことはしない」
ここで喜んではいけないことを彼女は学習している。伊達にスバルから続く保護者をやっているわけではないのだ。
「折るだけだ」
「それを一般常識では”だけ”なんて言わないの!!」
「しかし、この男は……」
「ダメったらダメ!! しかしも何もないの!! 確かにこの人は悪いことしたんだけど何でもかんでもその場でいきなり判断くだしちゃダメ。いい? 理由は――」
斬ってダメならへし折る。それを当然と言わんばかりに主張するアレンを怒鳴りつけて躾つつ、何故ダメなのかを丁寧に教えていく。
彼女にとってはこれが日常となりつつあるが、男はそうではない。
大柄な男が小柄な女性に子供のように怒られ躾られている様は異様でしかなく、正に目が点になっていた。
「なぁ、ソイツ、病気かなんかか?」
「問題ない」
「アンタが答えるなアンタが……。じゃなくて!! お話を聞きたいんです」
事情を説明していると時間が掛かりすぎる。そもそも理解してもらえるとも思わないティアナは会話を打ち切った。
アレンのボケのせいで凄まじく遠回りしてしまったが、ティアナは別にアレンとの漫才を見せるためにここに来たわけではない。
少しでも情報を得るためにここに来た。その意図自体は理解していたのか、男は「だろうな」と頷いた。
「口調、戻したほうがいいのかね? 執務官殿?」
「私はそこまで拘るほうではないので結構です。そのままでどうぞ」
「助かる。んじゃあ、このままでいくけどよ」
一つ条件がある。そう言って人差し指を一本立てる。
男からにじみでるオーラにティアナは生唾を飲んだ。本気だ。何を言われるのかわからないが相応のリスクを覚悟せねばなるまい。
しかし、これほどの傷を負いながらまだ話せるというこの男の情報は何か重要なものかもしれなくて。
迷った末、ティアナはコクリと頷いた。
ニヤリと不敵に笑った男。その口から条件が提示され――
「もっぺん尻を……」
「……アレン」
「折って良いのか?」
「ジョーク!! ジョークだってお嬢さん!!」
「次は止めないのでそのつもりで」
「怖ぇぇなおい……」
――あまりにしょうもない条件にティアナは力づくでねじ伏せたのであった。
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「さて、話の前に自己紹介だ。俺の名前はヴォルツ・アーガイルってんだ」
男の名前はヴォルツという。
魔導ランクはAランク相当ということもあり、分隊の隊長を任されている男であった。
気さくな人柄から部下からの信頼も厚いが、美人とみればセクハラまがいのいざこざを起こすこと数十件。
以上のことから男性局員からは兄貴と呼ばれ、女性局員からは天敵の烙印を押された名の通った男であった。
「成る程、貴方があの……。執務官、ティアナ・ランスターです」
「その反応を見るに知ってんのか?」
「一応、噂程度には、ですけどね」
ティアナもそれを風の噂で聞いたことがあったのか、ヴォルツのベッドからあからさまに半歩下がる。そしてやや視線が冷たいものになったのは言うまでもない。
「いやいや、俺も有名になっちまったもんだぜ。なんて罪な男だ……」
「この男は何をした?」
「……私に聞かないで」
「聞きたいか? 兄ちゃん?」
「ああ」
何も知らないアレンの答えにティアナが呆れ果てる中、ヴォルツはニヤリと不敵に笑みを浮かべる。
瞬間、被っていた布団が宙を舞った。ヴォルツが立ち上がったのだ。
「陸士106分隊、隊長! ヴォルツ・アーガイル! またの名を、陸の尻を制覇した男だ!!」
「……よくわからんが凄いのか?」
「ただの変態よ」
「かー! お嬢さんはこれだからいけねぇな! あの丸さ! あの感触! 一度体験すれば病みつきになるその威力! これで燃えなきゃ野郎じゃねぇ!」
「燃えているな」
「無駄にね」
どこの隊の尻は良いもの揃い。どこの隊の尻は悪い。野心は高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやての元機動六課の三本柱の尻を触ることなど、聞いてもいない情報をひたすらに長く、ひたすらに熱く、拳を握り締めながら語ってくれるヴォルツ。
この並々ならぬ熱意が男性局員から兄貴、と呼ばれる所以だ。
「とまぁ、軽く言ってみたわけだが? どうだ兄ちゃん!?」
「どうだ、とは?」
「鈍い奴だな……。俺を称える気になったか?」
「理解不能だということは理解したが」
「なん、だと……?」
しかし、このアレン・テスタクル。そう言った事柄には興味がない。それはもう全くと言って良いほどに、毛ほども、これぽっちもない。
例え世界中の男性が見惚れるほどの絶世の美女がこの男を口説いた所で何ら関心を抱かない。野郎として失格なレベルの男なのである。
これにはヴォルツも絶句する。彼は大半の野郎は丸め込めると信じていたが故に。エロ話で喰らいつかない男はいない。そんなものは男ではない。という彼の理論、否、全世界の男性の性を真っ向から否定する残念過ぎる男、アレン・テスタクル。
だが、男とは目の前に立つ障害が大きければ大きいほど燃えるもの。今がヴォルツ・アーガイルのその時!
「こうなれば俺の秘蔵コレクションで兄ちゃんを――ごふぁ傷が!!」
「先生ーヴォルツさんがまた傷開きました!!」
「またですか……。いい加減学習してくださいよ?」
やる気を出しすぎたのか、開いた傷口からだくだくと血を流しながら運ばれていくヴォルツを白い目で見送るティアナ。
取りあえず、彼女が思うことは一つである。
「男って、ばかばっか……」
そんなこんなでヴォルツの聞き込みを後回しにし、他の患者から聞き込みをして待つこと二時間。なんともバカらしい理由で延期されていた話がようやく紡がれる。
「まぁ、前置きしといてなんだけどな。俺がアンタらに教えられることなんてのはほとんどねぇんだ」
「……」
ヴォルツはコメカミをぽりぽりと掻きながらバツが悪そうにそう言った。
上からの圧力があるのか? 公には声に出して言えないことを視線一つで問うティアナに彼は首を振る。
「別にそういうわけじゃねぇよ。教えられるもんなら俺だって教える。たんに持ってる情報が少ない。それだけの話さ。
俺に限って言えば敵の姿を確認して、迎撃態勢とったら次の瞬間には嘘みたいに吹っ飛んでてよ。そのままビルに叩きつけられて終い。その時に左腕が潰れて。で、このままだと命があぶねぇって話になって切断。んで、今だ」
「そんなことって……」
あっけらかんと言うヴォルツにティアナは思わず絶句する。
情報の少なさに、ではなく、魔族と思われる敵の強大さに、だ。
ヴォルツは武装隊の所属。そして、管理局で武装隊と言えば有事の際、最前線に立つことが多くあり、その必要性から戦闘訓練に力を入れている隊の一つだ。
そして、ヴォルツの年齢は見た目からは三十歳ほどに見える。魔導師ないしは騎士で三十歳と言えばもうかなりのベテランだ。戦闘スキルに関しては新人とは比べるまでもなく高く、強い。
そのベテランが一撃でやられてしまっている。どんな状況であれ、仕方ないで済まされる事態ではない。
「でもな、お嬢さん。俺はマシな部類なんだよ」
いつでも笑顔でいる。そんな雰囲気すら纏っていた彼の空気が変わった。誰であっても理解出来るほどに。
聡いティアナはヴォルツが発する空気と言葉からだいたいの事情を飲み込んだ。そして、覚悟する。受け止める覚悟を。
「俺の部下は皆、死んだ……」
「……そう、ですか」
ヴォルツの言葉がティアナの心に突き刺さり、いたたまれなさに奥歯を噛み締め、拳をギュッと握り締めた。
その言葉が来るであろうことは予想出来た。覚悟もした。それでも、重い。
人の死は重い。心がギシギシと軋む。聞くなと訴えかけている。逃げたい。けれど――
「もう少しお話、良いですか?」
「……ああ」
――逃げない。逃げてはいけない。事件を起こさないように、起きてしまったのなら解決に奔走し、被害を出さないように。被害が出てしまったのなら少なくなるように、全力を注ぐ。
それがティアナが選んだ執務官という職業だから。
正面からヴォルツを見据えた彼女の覚悟を受け取ったか、頷いた彼は語り始めた。
状況は夜。巡回中に事は起きた。
巡回班は彼を含めて六人での編成。ポジション取りも決まっていて、慣れ親しんだチームでの巡回だった。
「そん時には住民の避難も終わっててな。狼型の魔法生物の対処も出来つつあったし、馬鹿な話だが気が緩んでたんだろうな」
確立しはじめた対処が産んだ余裕という心の緩み。そこを狙ったかのように、惨劇は起こる。
「一人目は、下敷きだった……」
突如として突風が吹いた。かと思えば何かとてつもない重量物が隊の中心に落ちてきて、五名を散り散りに吹き飛ばした。
残った一人は悲鳴すらあげることなく、ぐちゃりという気分が悪くなる水音と共に肉片へと変わっていた。
「二人目と三人目は同時に吹っ飛んで叩きつけられた……」
平穏から危機へと変貌を遂げた状況を認識出来ず、重量物の後方に吹き飛んでいた二人は鞭の如くしなった尾を叩きつけられ、吹き飛んだ先の建造物に激突、全身の骨を砕かれて絶命。
「態勢を整えた時にゃあ遅かった。俺は判断を間違えたんだ……」
仲間の死を飲み下し、残った三名は敵へと打ちかかる。
砲が、剣が、拳が同時に放たれた。全力を持って、殺意すら込めた一撃は眩い魔力光を放ち、闇夜に照らした。その、敵の姿を。
瞬間に理解した。戦うべき相手ではなかったと。コレを打倒するには三人ではあまりに無謀。
作戦を考え、何重もの罠にはめた上で倒す。その方法ですら死傷者ゼロはとはいかないだろう。
ならば、今、何の作戦もなく打ちかかった男達の結末は一つ。死、だ。
当時の光景が蘇ったのだろう。ヴォルツが身体を震わせていた。
しかし、それでも事件解決の糸口になればと声を恐怖を殺して振り絞る。
「竜が、いたんだ。どこのデータにも残ってない、赤い、竜が……」
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救護テントの中を歩き回り、有力と思える生存者から話を聞き終え、滞在しているホテルに戻る頃にはすでに日は暮れていた。
部屋に戻ると同時に糸が切れたようにふらついたかと思えば制服を脱ぐことすら億劫なのかそのままの姿でティアナはベッドへと倒れこんだ。
「技術の進歩には感謝ね。ホントに」
身体を受け止めてくれるふかふかのベッドの感触にお礼を言いつつ、彼女は枕に頭からつっ伏した。
このホテルは受付譲もいなければホテルマンもいない。受付、案内、食事、掃除、客室のベッドメイクに至るまで全てが自動。
故にこんな状況でも営業は続いており、彼女はこうしてくつろぐことが出来る。まぁ、あまりに快適すぎるため、少々だらしない所がでてしまうという問題もあるのだが。
そこは今日頑張った彼女への御褒美ということで目を瞑る。
……赤い竜、か。
枕に顔を半分埋めながらティアナは今日のことを整理する。
気になるのは一番テントの中にいた人々の大半が狼のようなものにやられたと話す中で数名だけから確認をとれた赤い竜の話。
狼にやられた人々は怪我の程度こそばらばらだが、ほとんどの人が健康体と呼べる状態にあり、四肢を失うように大怪我を負った人間は少なかった。
しかし、赤い竜にやられたという数名の人間は生死の境を彷徨うほどの大怪我を負っており、話すことにすら怯えるといった状態だった。
……あの人達が生きてるのは偶然か、無意識に身体が防衛行動をとってくれたか、どっちか。
これをティアナは一種の奇跡だと考えた。
対峙したなら死んで当然。生き残ること事態がとてつもない幸運なのだと。
事実、赤い竜と対峙し、生き残った人のほとんどが分隊の隊長クラスであり、かなりの実戦経験を持つ人ばかりだった。
そんな人間ですらギリギリの状態で生きているのならその他の人間は全て殺されている。
考えたくもないが、そう考えるのが可能性として高いし、赤い竜の目撃証言が極端に少ないのも納得できる。
そしてなにより――
……一瞬、殺気を感じたし、ね。
――無表情かつ無口かつ無愛想を誇るアレンが一瞬とは言えアクションを起こした。
驚いて振り向いた時にはすでにいつものボーっとしたアレンに戻っていたが、背筋が凍るほどの感覚だ、間違えるはずもない。
怪我人の多いテントの中だから引っ込めたのかもしれない。聞き込みの邪魔になるから引っ込めたのかもしれない。気を回せるようになったんだ。きっと良いことだ。
「……なんてのは楽観視しすぎかな」
仰向けになり、天井を見上げながらティアナは自嘲気味に笑った。
怪我人が多いから、聞き込みの邪魔になるから、気を回したから、どれもが違う。多少はあるかもしれないが、大部分は別の所にある。
「私のせい、よね……」
ティアナがアレンの殺気に怯えていることを彼はやはり知覚している。
すぐいつも通りに戻ると思っていた。時間が解決してくれると思いたかった。一日置けばきっと。そんな希望的観測を願っていた。
結果はどうだ。言うまでもない。戻っていない。アレンはそんな器用な男ではない。それもわかっていたはずだった。
「なんで、肝心なとこで臆病かな、私は……」
不安を明かさず、思っていることを飲み込み、溜めて続けて、失敗する。
これでは六課に入隊したばかりの時と何も変わらない。わかっていたつもりでいた。しかし、それはつもりだけで本当はわかっていなかった。もう、三年も経ったのに。
「なら、こんな所で悩んでないで踏み出すしかないと、私は思うけどね」
「え……!?」
「やほー」
突如として響いた第三者の声。驚いてベッドから跳ね起きてみればスバル・ナカジマがベッドに腰掛けてニコリと笑っていた。
「夜に行くって言ったのに全然連絡くれないから、勝手に入ってきちゃった」
「入ってきちゃったって……。ロックは?」
「開けっ放しだったよ?」
「オートロックなはず……ってああ、そっか。アイツのせいだ……」
そう、本来オートロックなはずの扉にスバルが入れたのは先日、アレンが扉を破壊して侵入したためだ。
見た目こそ直ってはいるが、オートロックなどの電気的な部分は修理が遅れているのだろう。
「にしたって、声かけるまで全然気付かないんだもん。びっくりしたよ」
「ごめん。ちょっと疲れててね……」
「別にいいんだけどさ。悩める乙女の独り言もばっちり聞けたし♪」
「そんなんじゃない、けど……」
「ふ~ん?」
「……何よ? 言っとくけど別にアイツのことなんてどうでも――」
「私はティアの独り言を聞いたってだけでアレンのことなんて一言も聞いてなかったんだけどな~?」
「くっ!」
ニヤニヤするスバルをティアナはジト目で睨む。
普段こそティアナが主導権を握ってはいるものの、この親友にはことあるごとに振り回されているのも事実。
今がまさにその時だ。ティアナが自爆した今、普段できないことをここぞとばかりに楽しもうとスバルの目がキラキラ輝いて見えるのはティアナの気のせいではあるまい。
「……何が目的よ?」
こういう場合はもう素直に白旗をあげるほうが利口。
伊達に腐れ縁と呼ばれるまでスバルとコンビを組んでいたわけではない。その程度のことはわかっている。
「じゃー、ティアは私の言うことに逆らっちゃダメだよ? この命令を一回聞いてくれたら忘れてあげる」
「はいはい……」
ただ、少々思慮が足りなかった。第三者として彼女がこの状況を見れたのなら気付いけたのかもしれないが、魔族の問題、アレンの問題、そしてスバルの不意打ちが彼女の思考能力を低下させていた。
謀は成せり。と、スバルの笑顔が語っている。それに気付いた時にはもう遅い。後悔先に立たず、である。
「今からアレンの部屋にいってくること。それが命令!」
「は……?」
「わかったら行って来る! はいレッツゴー!!」
「え? ちょっとスバル!?」
そこから先はもう電光石火の早業であった。
ティアナがキョトンとしている隙にスバルが手を握って引っ張りあげ、そのままの勢いで扉の外へ。トドメとばかりに鍵を閉める。
「ロックは壊れてたんじゃ……」
「うん。だから相棒に頼んでちょっとね♪」
「ちょっとってアンタねぇ!?」
「そーゆーわけで、お説教は帰ってきたら聞くからさ。第一、ティアは条件呑んだじゃん?」
「そりゃ、呑んだけど……」
確かに言った。いくら思慮が足りていなかったとはいえ、一応は頷いた。スバルの言っていることは間違っていない。
しかし、アレンの部屋に行ってどうすればいいのかティアナにはわからない。行った所で何を話せというのか。
「最初に言ったよ? こういうのは悩んでるより踏み出すしかないって。人と人との問題だもん。自分一人で悩んでたって解決するわけないよ。
取りあえず行ってみる。それでダメなら私も一緒に悩んであげるからまず動こう? 大丈夫だよ。アレンは優しいから。直感だけどね」
「何よ、それ……」
これでもし、失敗したらどうしてくれる。そんなことを思いながらティアナは溜息をつく。
だが、一理ある。とも考えていた。お互いに話をすることもなく問題が解決するなど理想論だ。
無論、時間が解決してくれる場合もあるが、それに頼って良い時と、悪い時がある。今回は後者だ。
ティアナはアレンのことを理解出来ているとは言い難い。アレンもそれは同じ。お互いの関係が薄いのに、時間に頼ればその先に待つのは別れだろう。
……それは、嫌だな
まだ、別れたくない。
もっと教えてあげたいことがたくさんある。知りたいこともたくさんある。だから、嫌だ。
わからないままだけど、行ったら行ったで頭の中は真っ白になるだろうけど、今の気持ちは定まった。
「……行ってくる」
「うん。行ってらっしゃい」
「失敗したら、多分泣くから、よろしく」
「はーい。よろしくされました」
苦笑するスバルの声に見送られながらティアナは歩き始める。
アレンの部屋まではエレベーターで数階分下って、開いた所から一番手前にある部屋がもうアレンの部屋だ。
心を整理する時間すらない。大混乱は必至。それでもティアナは歩みを止めようとは思わなかった。
それだけ仲直りしたいという想いが強かったのだ。
「……アレンいる? 私だけど?」
ティアナは精一杯いつも通りの声音を保ちながらノックをした。
返事はない。ノックをするまでもなく出てくるかもしれないという予想をしていただけに少々意外。そして少しだけ怖くなる。
もしかしたら無視をしていて、もうそこまで距離をおかれてしまったのか、と。
だが、引き返すつもりはなかった。ここで退いてしまえば、より一層会いにくくなるだけだから。
「話が、したいの……」
扉越しに話しかけるも、やはり返事はない。
仕方ない、と溜息をつく。
胸ポケットを探り、ティアナが取り出したモノは待機モードのクロスミラージュ。
彼女はアレンが何をしでかすかわからない、という理由からアレンの部屋のロックを解除するコードを自分でも持っていた。
もちろん本人の了承は得ているし、このシステム自体は部屋から閉め出された際、合鍵を取りに行くという手間を省くためのシステムなため法的にも何ら問題はないのだが、勝手に入るということにはなるので最後の手段にしていたのだ。
「ごめん。入るわよ」
いきなり入ったらどんな顔をされるだろうかと不安に思ったが、時には強引さも必要と無理に自分を言い聞かせてクロスミラージュを認証用の機材にかざす。
ピッという音が響き、扉がゆっくりと横にスライド。中へとティアナを招きいれ――
「……アレン?」
――中を見て、呆然とする。
そして、聡いティアナは気付くのだ。血相を変えたティアナはすぐさま部屋にいるスバルへと念話を繋ぐ。
《スバル!!》
《うわぁ!? ティア? どしたの? 今アレンと一緒なんじゃ――》
《アレンが、いないの!!》
《えぇ!? ちょっと待ってて!! すぐ行く!!》
アレンの姿は部屋にはなかった。
ただ、全開に開けられた窓と、日が暮れ、闇に包まれた綺麗な部屋だけがティアナの眼前に広がっていた。
次回に続く
はい、ここまで読んで下さってありがとうございました♪
次回からバトルに入れるかなぁ。とか考えてたりするんですが、人外バトルはなぁ、難しいのですよ)笑
それでも精一杯頑張りますのでよろしくお願いします。
それでは、読んで下さった読者の方々に感謝をこめまして、また次回!