白騎士パラドックス   作:ゴブリンゾンビ

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アイギス本編では魔王を撃破し、ほぼほぼ第一章完結のオーラ。
ちょっと駆け足ながら王道で白熱したストーリーを読んでアイギス熱が再発して、ハーメルンを覗いたら何だか面白そうな作品がありました

「白騎士パラドックス……めっちゃ誰得兼俺好みやんけ。誰が書いて……俺や!!!」

勿体ないので更新再開です。当然不定期です


13.見極め

 昨日まで降りしきっていた大雨は鳴りを潜め、灰雲の隙間からは柔らかな陽光が降る。

 

 王子率いる王国軍と聖戦士マリーベルが率いる武装神官団は模擬戦を執り行う運びとなった。両陣営は雨上がりの田園に集結し、陣形を組む。

 

「――最終報告です」

 

 マリーベルの背後から、兵士が話しかける。

 

「王子軍は我々の正面に横陣を展開しております。右翼はユリアン兵士長、ベルナール重歩兵長を指揮官とした精鋭部隊。左翼はモーティマ山賊団と傭兵部隊の混成軍といった陣容です」

「対照的ね。戦力の分散を避け、右翼に力を入れたと見るべきかしら」

 

 「恐らくは」と、兵士は同意の言葉を口にした。

 

「そして肝心の中央ですが、ケイティ兵士長率いる重歩兵部隊と魔術師隊、それと」

「近衛騎士アリシア」

「はい……近衛騎士はともかく、陣容は王国軍の虎の子といっても過言ではありません。こちらの策は」

 

 兵士の問いかけに、マリーベルは微笑みのみを返した。

 

「正面よ。遠距離火力を中央に集めて王子方の本陣を打通。各個撃破するのみ」

 

 元より単純な戦力では圧倒的優位に立っている。彼女らの戦い方は策を弄すものでもなく、多くの言葉は要らなかった。

 

「右左翼は如何しましょう」

「右翼は精鋭の黒鎧(バトルアーマー)とドルカさんのヒーラー部隊があれば戦線は膠着するでしょう。左翼は……重歩兵と、ヒーラーをいくらか当てましょう。不安ならば何人か投擲重歩兵を割り振っても構わないわ」

「御意。各方面に伝達します」

 

 兵が伝令に走るのを見届け、マリーベルは正面を見据える。目視で分かる距離に一糸乱れぬ大盾の列。そしてその向こうには王国の虎の子である魔術師と、王子が控えている。

 

「……王子。あなたの実力を見極めさせてもらいます」

 

 マリーベルの口から出た言葉は、間もなく静寂の中に溶けていった。

 

 

「――王子。敵陣容は、こちらの読み通りです。作戦は予定通りに決行します」

「……」

 

 ケイティに対し、王子は頷きを返した。その目は相対する重歩兵軍団、そしてその中央最前に構えるマリーベルに対して向けられている。マリーベルの格好は、他の重歩兵とは一線を画していた――メイスと大盾に目を瞑れば、いっそ彼の隣にいるケイティの方が重装備といってもいいくらいだ。神官を思わせる軽装を纏い、全身を覆う黒鎧達の最前で堂々と構える。総大将に相応しい覇気と、王子軍に対しての威圧感があった。

 

「はぁ、緊張してきました……」

 

 そのマリーベルと交戦する予定のアリシアが、小声でそんなことを呟く。緊張を口に出来る間は限界には遠い。と解釈するならば、最大戦力と相対する彼女から出る弱音がこの程度というのは中々に図太い部類に入るだろう。

 

「アリシアさん」

「は、はい!」

「先刻お話した通り、アリシアさんにはマリーベルさんの相手をお願いしてもらいます。足止めだけでも構いません」

 

 アリシアはちらりと王子の方を見る。敵陣を見据える王子の横顔は、普段通りの威風を纏いながらも何処か緊張しているようにも映った。

 

「わかりました。お役に立ってみせます」

「……お願いします。現状、あなた以外には荷が重い役目です」

 

 アリシアはケイティ、そして王子に一瞥してから本陣を飛び出し、持ち場へ向かった。場所は味方重歩兵隊列の更に前。王子全軍の先陣だ。

 

 アリシアが本陣を去ってすぐ、本陣を訪ねる者があった。

 

「……王子!」

 

 ヴァレリーがニコニコと笑みを浮かべながら王子に近づこうとして、ケイティに割り込まれる。

 

「……ご用件は?」

「客人だよ。王子に会いたがっている」

「――会いたがっている、という程でもないがな」

 

 天幕に手をかけゆるりとめくる。藍のドレスに日傘、色素の薄い髪。そしてその手に握られる、先端に紅玉が煌めく杖。

 

「……オデット」

「今日は人間同士の争い――模擬戦か。私にはあまり違いが分らぬが」

「君は回りくどいね、メイジらしく実に回りくどい」

「貴様にだけは言われたくないな、ヴァレリー。……一宿一飯の恩を返しに来た。それだけのことだ」

 

 王子は大きく頷いた。

 

「……ありがとう」

「正直なことを言うと、この程度の陣容に勝てないようなら、もう一度王都を諦めることを進言するだろう」

「……絶対に勝つ」

「そうあってくれ」

 

 ふん、と鼻を鳴らしたオデット。その口元がほんの僅かに緩んでいることに気づいていた者は、当の本人を除いて誰もいなかった。

 

「……ところでオデット殿。対魔の契りなのですが」

 

 話の一区切りを見計らっていたロイが声をかける。

 

「あぁ――」

 

 オデットは眼下に広がる戦場を一度だけ視線でなぞって、指を鳴らす。小気味の良い音が戦場全体に響き渡った。それ以外のことは何も起こっていないが、オデットは一仕事終わったとばかりにロイへと向き直る。

 

「終わった。この戦場にいる味方両翼含めてな」

「いやぁ、昔の魔法の力は侮れませんな」

「とはいえ私が得意としている魔術はこちらではなくて、もう一つある」

「そっちは実戦で確認してみるといいだろう。多分、すごく役に立つ」

「……私の十八番の信用を勝手に堕とすのはやめて頂けないか」

 

 ヴァレリーとオデットのやり取りに、ロイは苦笑しつつ肩を竦めていた。

 

 

 

 戦闘の準備も終わり、双方が事前に取り決めていた刻限がやってくる。

 

「これより模擬戦を開始します!」

 

 政務官アンナが発した合図。それと同時に両陣営は進軍を開始した。

 

 頭一つ抜けて接敵が早かったのは山賊団だった。彼らは両軍の中で最も軽装であり、ぬかるんだ悪路の行軍に対しての経験と適正、その両方を兼ね備えていた。勢いをそのままに彼らは武装神官団の右翼へと雪崩れ込む。先陣に立つのは勿論棟梁たる山賊頭モーティマだ。

 

「っしゃお前らぁ! モーティマ山賊団の意地見せろ!!!」

「「「「ウス!!!」」」」

 

 最先鋒はモーティマやフューネスのような単独でも力量がある者達だ。彼らは重歩兵の一体に狙いを定めては飛び掛かり、力任せに戦斧を振り下ろす。それらも大盾と鎧に守られ致命打には至らない、後ろには治癒部隊も控えている。問題はない――はずだった。

 

「なっ、くそっ! ぬかるみに足がとられた……!」

「ガァァァッ!! コロ、サナイ! ネテロ! ネテロ!!!」

 

 バランスを崩した重歩兵を、フューネスが大盾諸共蹴りつけて転倒させる。一度鎧に泥が侵入してしまえば、最早単独で起き上がることは適わない。

 

「おらぁぁぁ!!!」

「貴様ら非正規兵が何人束になろうと――!?」

「せーのっ!!」

 

 山賊三人による体当たりが重歩兵を襲う。相手の攻撃を塞ぐための大盾が、かえって体当たりの衝撃を集中させる仇となっていた。三人一組でスクラムを組んだ山賊たちが、次々と重歩兵をぬかるみに沈めていく。

 

「な、なに――っ!?」

 

 何が起こっているのか、理解が追いつかなかったのは武装神官団側だ。彼らは戦闘訓練こそ積んでいるものの、実戦の経験が豊富とは言い難い。手段を選ばないアウトローが相手となれば、そのギャップはより露骨となる。彼らが積み重ねた修練は身を守ることを教えはしたが、泥に捕らわれた鎧から逃れる術を教えはしなかった。

 

「手を休めるな! 一匹一匹ひっくり返してけ!!!」

 

 モーティマの傍らに立つバーガンが吼える。これが彼らの奥の手、王子軍の見出した唯一の戦力的優位だ。


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