都心部でのカーチェイスから半月、俺はこのどこともわからない世界で旅を続けていた
いやぁ、一週間前まではマジで大変だった
銀髪のメイドに追いかけられてて、魔王を名乗るメイドの主人に変な光球を放たれたり
うん、何度も死にかけた。
とにかく俺はバイクを走らせている
この世界は森が多いなぁ
そんなことを思いながら流れていく景色を眺めていると木に縄を吊るして首を掛けようとしている人間が―――
「ちょぉぉぉと待てぇぇぇええええええ!!」
「ぐわぁぁぁあああああ!?」
あ、つい慌ててたから間違えて轢いちゃった。
俺は赤龍帝に負け、リアスとの婚約を破棄させられてからずっと考えていたことがある
伝説の龍の力を宿しているとは言え相手は悪魔に転生して間もない
そんな相手に負けてしまい、婚約を破棄され、俺にはなにが残っている?
眷族達のほとんども俺に愛想を尽かしているようにみえる
そんなことを何度も考えているうちに死のうとする自分が現れた
俺は素直にそんな自分に従い、家を離れて自殺しようとした
だが俺はフェニックス、不死鳥の一族
生半可なことでは死ねない
あらゆる手を試していて、今日は首吊りをするつもりだ
領内にある森の中、木に縄を掛けて輪をつくり首を掛けようととしたら
「ちょぉぉぉと待てぇぇぇええええええ!!」
いきなり一人の男が叫び声をあげながらバイクに乗り猛スピードで突進してきた
「ぐわぁぁぁあああああ!?」
そして轢かれた
「だ、大丈夫か!?まだ傷は浅いぞ!!」
いや、それは俺が不死鳥の力があるからだ
普通の悪魔なら今ので死んでるか重症ものだ
「ぐぅ、貴様は何者だ?」
「おぉ……本当に生きてた」
質問には答えてもらえてはいないがどうやら自分のやったことについては自覚があるらしい。
「もう一度聞くが貴様は何者だ?」
「俺か? 俺の名は旅人、世界を旅する自由な旅人さ」
旅人だと?
俺が怪訝に思っていると男の見透かされるような黒い瞳が俺の瞳を覗きこんできた
「……ちょいと一緒に釣りしないか?」
「はぁ?」
「いや、だからさ。釣りしようぜ」
どうせ死ぬつもりだったのだしそれも一興か
旅人と出会った場所から少し離れた場所
大きな滝の下流にある川辺に二人で来ていた
「釣竿がないのにどう釣りをするのだ? まさか素手でやるわけではあるまい」
「ん? それでも構わないけどそれは釣りじゃないだろ?」
そう言うと旅人は近くにあった木の枝を二本だけ折って戻ってきた。
「これに持参した糸をつけて枝を釣り針の形にして先を尖らせると完成だ、ほれ作れ」
旅人に促され俺は渡されたナイフで真似をしながら作る。
途中、何度か指を切ってしまったがやってみると案外楽しくて集中していた。
「で、出来た」
出来た釣り針を旅人に見せる。
「おぉ、初めてなのになかなかの出来じゃないか」
見る限り世辞のようではないようで、俺は少し嬉しくなった。
次に餌を取ったのだが、冥界ミミズを素手で触るのには少しだけ滅入ったのは内緒だ。
「さて、餌も十分に取ったし始めるか」
岩場に座り釣りをし始めた旅人に習って横に俺も座る。
開始してから数分経つが反応がないことに俺は段々と苛立ってきた。
「ははは、そう苛立つな。もっと心を静めなきゃ魚は寄ってこないぞ」
俺はその言葉でハッとなり、深呼吸をして落ち着く。
そうだ、野生の動物は殺気に敏感なのだ。
「なにがあんたにあったかは知らんが、今は過去の事はいったん忘れて、目を閉じてこの自然を感じてみろ」
自然を感じる?
意味が解らなかったが、とりあえず耳を澄ましてみた。
すると、木々が風によってざわざわと鳴っているのが聴こえてきた。
鳥が鳴く声が、川の流れる音が、風が吹く音が、さまざまな音が聴こえてきた。
鼻で息をすると水の匂いがしてきた。
森の匂いが、水の匂いが、動物たちの匂いがしてくる。
「そしてゆっくりと目を開けて」
言われた通り目を開ける
空を見上げるとそこはいつもの魔界と同じで紫色の空だった。
だけどもなんでだろうか、いつもより美しく見える。
目の前を向き、周りを見渡してみる。
さっきまで灰色だった世界が、今では色鮮やかに輝いて見える。
「どうだ、なにか気持ちは晴れたか?」
「……あぁ、最高の気分だ」
俺は様々なものを失った。
仲間であり、誇りであり、名誉であり、地位であり
失ったものはデカく多い。
だがしかし、逆に今の俺には何が残っている?
それは分からない、だけどもそれを見つけたら俺はそれを一生大事にしよう。
今度はこぼさないように、しっかりと抱きしめて、共に歩んで行こう。
「なぁ、貴方の名を教えていただきたい」
「俺の名は旅人、兵藤旅人だ。気軽に旅人と呼んでくれ」
兵藤? まさかとは思うが―――
「旅人、お前の家族に兵藤一誠というやつはいないか?」
「俺の弟の名前だな」
弟? くくく、これはなんの皮肉だ?
弟に破れ失わされ、兄によって救われる。
どうやら俺は赤龍帝の一族に縁があるらしい。
「そうか、なら良いんだ。俺の名はライザー・フェニックス、覚えておいてくれ」
「わかったぜ、ライザー」
がっしりと握手をする。
「あ、これは俺の電話番号だ。もしもの時は電話してくれ、フェニックス家ではないが俺がお前に力を貸そう」
「生憎と携帯を持ってないから簡単に連絡は出来ないが家に戻ったりしたら手紙でも書くさ」
「あぁ、それとこれは友になった印ではないが友に送りたい」
俺は懐から小瓶に入った、『フェニックスの涙』を三つ渡す。
「なんだよこれは?」
「む、そういえば旅人は人間だったな。それは『フェニックスの涙』といって……簡単に言えば超凄い回復薬だ」
「へぇ、そりゃあ大事にしなくちゃな」
その後、俺達は他愛もない雑談で盛り上がりながら釣りを楽しんだ。
「本当にいいのか?」
「あぁ、構わない」
それから翌日、俺は旅人と別れることにした。
バイクで家まで運んでもらえるらしいが敢えてそれは断った。
「随分と遠くまできてしまったが、なんとなく今は歩いて帰りたいのだ」
「……なるほどね、じゃあ俺は別れさせてもらうか」
「ふふふ、いつかは家に遊びに来てくれ。歓迎しよう」
「そりゃあ楽しみだ、御馳走を期待してるぜ?」
「任せておけ」
もしも来たときは我が家の料理人の総力を持って絶品な料理を作らせてやる。
「じゃあ、またな」
「ああ、また会おう」
コツンと突き出した拳を合わせて、笑いあい旅人は走り出した。
その背中を見送り、俺は家の方向を向く。
「さて、ここから一週間も掛かるが……悪くはないな」
せいぜい自然を楽しみながら歩くとでもするか。
本日、最後の投稿です。
最近、『あっぱれ天下御免』と『素晴らしき日々』というゲームをやらせていただいています。
マジで大変だ、寝る暇がなくなっていく。
テスト? 知らんよ!