艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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UA2000、お気に入り50、感想がついて評価ゲージ色が付く。盆と正月が一緒に来たような嬉しさです!
これも読んでくださった皆さんのお陰です!これからも拙作をよろしくお願いいたします!


第十二話 ワレアオバ

(なんだろうか……とても……温かくて……おちつく……)

 

 夢と現実の間を揺蕩う石壁は、その現実離れした心地よさに、至福の時を過ごしていた。

 

(温かくて……やわっこくて……なんかいい匂いがする……)

 

 自身を包み込む温かな何かに、石壁は遠い昔に失った母に抱きしめられているような安心感を抱く。

 

 深海棲艦との戦争で戦火に消えた故郷、既に死んでしまった父母との温かな記憶を思い出す。夢の中で記憶が混濁し、目の前に母が居る様に見えてくる。石壁はあまりのなつかしさに、思わず呟いた。

 

「かあ……さん……?」

 

「ふふ、違いますよ提督」

「え?」

 

 意識が急速に覚醒する。混濁する記憶が母の様に見せた女性が、いつもの見知った想い人、鳳翔のモノになる。

 

「おはようございます、よく眠れたようですね、提督」

 

 にこりと微笑む鳳翔。石壁は、仄かに思いをよせる女性に、寝ぼけて「母さん」なんて呼んでしまったのだ。その事に理解が及んだ瞬間、脳みそが沸騰した。

 

「きゃああああああああ!?」

 

 宴会の翌朝、鳳翔に抱きしめられて目が覚めた石壁は、あまりの衝撃に生娘の様な悲鳴をあげた。というかお前が叫ぶんかい。

 

「なんで!?どおして鳳翔さんが僕のベッドにっていたぁあああ!?」

 

 石壁が混乱とともに声を上げた瞬間、頭に鈍痛が走る。完全な二日酔いだ。石壁は酒にあまり強くないらしい。

 

「あ、頭がいたい……ていうか、ここいつもの部屋じゃないし……どこだここ、なんで鳳翔さんと一緒に寝てんの……?」

「昨日の事を覚えておられないのですか?」

「き、昨日の事?」

 

 石壁が痛む頭を回して昨日の記憶を呼び出そうとするが、宴会が始まって乾杯に何度か付き合ったあたりから記憶が無い。

 

「うう……お、思い出せない……何をやったんだ僕は……どんな流れなら鳳翔さんと同衾する流れになるんだ……」

 

 頭を抱える石壁。酒、同衾、朝チュンという数え役満的状況証拠から、もしかするともしかして酔いに任せて『やっちゃった』のかと顔面を蒼白にする。

 

「ああ、覚えておられないのですね、提督」

 

 鳳翔は石壁の反応に苦笑した。鳳翔の胸の内に、昨日のあの独白の記憶が無いという事にほっとする感情と、残念に思う感情が混在する。

 

 昨日の石壁の独白は、酒に押されて溢れ出しただけで、本人にとっては誰にも明かすつもりなんてない思いだ。それを酔いに任せて打ち明けてしまったと知ったら、石壁は恥ずかしさのあまり首をつりかねないだろう。だから、そのことにまず安堵した。

 

 そしてそれと同時に、酔いに任せてとはいえ自分にだけその思いを打ち明けてくれたのに、その秘密を二人で共有できないという点に、鳳翔の女心が不平不満を訴えてくる。

 

「い……いったい何をしたんでしょうか……?」

 

 顔を蒼白にさせる石壁に、鳳翔は正直に話そうとして、一瞬踏みとどまる。

 

 女心におされて、いたずら心が湧いてくるのを感じた。

 

「心配なさらないで下さい、石壁提督が心配されているような内容について『は』一切なにもありませんでしたよ、ええ」

「『は』!?ほ、他に何があったっていうんですか鳳翔さん!?」

 

 敢えて含みを持たせたような言い方をして石壁を焦らせた鳳翔は、その反応を楽しんだあとに、そっと石壁の耳元に顔を近づけるとささやくように呟いた。

 

「ひ・み・つ……です」

 

 顔を耳元から遠ざけた鳳翔は、口元に人差し指をあてて悪戯っぽく笑い、部屋を出ていった。

 

「……反則だろ」

 

 石壁は、あまりの破壊力の高さに、顔を真っ赤にして座り込む。鳳翔に囁かれただけで腰がくだけて立てなくなったのだ。

 

 ***

 

「……」

 

 部屋を出た鳳翔は、すぐ傍の壁にもたれかかって顔に両手をあてる。

 

「……やりすぎました」

 

 自分の行いがあまりに恥ずかしい事に気が付いた鳳翔は、顔を真っ赤にしてしばし動けなかった。

 

 石壁も鳳翔も、なんだかんだで男女関係には初心な似た者同士であった。

 

 ***

 

 鳳翔の会心の一撃をうけて魂が抜けていた石壁は、しばらくして部屋をでた。そのまま今日の仕事の為に歩きだしたのだが、そこでふと呟いた。

 

「……なんだろうか、いつもより気分がいい」

 

 いつもより心なしか胸の内がスッとしたような爽快感があった。覚えていないとはいえ、抱え続けた思いをぶちまけたのだからそりゃスッキリするだろう。

 

 また、鳳翔に抱きしめられて寝たお陰で安眠&快眠できたのも大きいだろう。心身共にすっきりした石壁の歩みはいつもの2割増しで軽やかだ。

 

「提督おはようございます!」

 

 そんな石壁の背中に、声がかかる。振り返った先には、紫がかった髪を後ろでまとめた、カメラを構えた女性が立っていた。

 

「どうも!恐縮です!青葉です!」

 

 彼女の名は青葉、青葉型重巡洋艦のネームシップで、日本で3番目に就役した重巡洋艦だ。古鷹、加古の型式を改良した改古鷹型であり、彼女たちとは殆ど姉妹といっても差し支えないかもしれない。

 

 彼女の一番の特徴は、胸元のカメラからわかるように、『新聞記者』の様なその人格だ。軍艦時代に従軍記者が同乗していたことが影響しているらしいが、その従軍記者は艦娘の人格に影響を与えたのだから余程強烈な人間だったのではないだろうかと石壁は初めて彼女に会った時に思った。

 

 彼女はつい数日前のゲリラ戦で要塞にやってきた艦娘である。石壁はそのころ忙しかったこともあって、あまり長く接することができていなかったが、その記憶にのこるキャラは、石壁の印象に強く残っていた。

 

「ああ、青葉おはよう。どうだい?先日きたばかりだけど、この泊地の生活にはなれたかい?」

「はい!皆さん大変よくしてくれますので、青葉感激しちゃいました!とってもいいところですねここは!」

 

 ニコニコしながら楽しそうにそういう青葉に、石壁もつられて笑顔になる。

 

「それはよかった。そういってもらえると嬉しいよ」

 

 その笑顔を見た瞬間、青葉は流れるような動きでさっとカメラを構えた。

 

「お、いい笑顔、いただきです!」

「ちょ!?」

 

 パシャリと一枚笑顔を取られる石壁、そのあとの焦った様な顔もついでに一枚いただく。

 

「えへへ、青葉、提督のそういう顔好きですよ」

「あのなあ……頼むから悪用はしないでくれよ……」

「わかってますよ」

 

 楽しそうにニコニコしている青葉を見ていると、石壁はしょうがない奴だなぁとつい許してしまいがちだ。なんだか憎めない奴だと石壁は思っていた。

 

「ところで提督、青葉気付いちゃったんですが」

「どうした?」

「この泊地、情報分析部門がないんですね……これはいけません、いけませんよ提督」

 

 そういいながら、青葉が提案書を差し出してくる。

 

「情報収集・情報分析・情報発信が揃ってようやく情報は真の力を発揮します。敵を知り、己をしれば百戦危うからず、ですよ提督!」

 

 提案書には、青葉自身を統括責任者とする、ショートランド泊地情報局設置に関する提案が書かれていた。

 

 主な任務は偵察などを基本とする情報収集と、その分析、また必要に応じた情報の発信までを含む、情報を一元管理する新たな部署の案が記載されている。

 

「これは……」

「情報の収集と分析は、専門部署をもうけてしっかりやらないといけません!青葉にやらせてください!絶対に後悔はさせませんから!」

 

 そう言って、青葉が頭を下げてくる。青葉のその真摯な姿に、石壁は驚いて頭を上げさせた。

 

「ちょ、わかった、わかったから!情報局の設置を認めるから頭を上げてくれ!」

「いいんですね!?ありがとうございます石壁提督!ささ、こちらの部分に記名と拇印を!」

「あ、ああこれでいいのか?」

 

 そういって青葉は素早く紙とペンと朱肉を差し出す。石壁は思わず名前をかいて拇印をおしてしまった。

 

 その瞬間、青葉の満面の笑みが浮かんだ。

 

「はい!情報局設置兼、鎮守府新聞発行許可を頂きまして誠にありがとうございます!」

「は?」

 

 今記名した紙をよくみると、情報局設置の案件に巧妙に隠して、鎮守府新聞の発行許可まで記載されていた。

 

「お、おま!?だ、騙したのか!?」

「いいえー、騙してません、言ってなかっただけですぅー」

 

 そういうと、青葉は駆け出した。石壁の命令書をもって。

 

「心配しなくても情報局の仕事はきっちりこなしてみせますよ!情報局の仕事も、新聞の発行も、青葉におまかせ!期待に添えてみせますよ!お先に失礼!」

 

 まったく悪びれずに逃げ出す青葉に、石壁の肩が震える。

 

「あ……あ……」

 

 石壁が叫んだ。

 

「アオバワレェ!!」

 

 

 ***

 

「騙すような真似して、ごめんね提督」

 

 青葉は、石壁を振り切ると、命令書を見つめながら、ふところの写真を取り出した。

 

「でも、あんな心の叫びをきいちゃったら、青葉、ただ見ているなんてできないもん」

 

 そこには、鳳翔にだきついて涙を流す石壁の姿が、写されていた。あの時席をたった石壁には誰もきがつかなかったが、石壁を追う鳳翔に気づいた者ならいた、青葉は、石壁を追う鳳翔のあとをひそかに追跡したのだ。

 

 スキャンダルを求めて二人を追った先で見たのは、ひとりの青年の慟哭、ちょっとした好奇心で聞いてはいけない事をきいてしまったのだ、青葉は。

 

「石壁提督の負担が少しでも減る様に……あの優しい提督が、少しでも幸せな未来にたどり着けるように……青葉、全力をだしちゃいます……」

 

 青葉はそう言ってから、意識を切り替える。

 

「ねえ知ってますか?軍隊の情報発信は、情報操作(プロパガンダ)と表裏一体なんですよ?」

 

 青葉は、石壁には見せなかった黒い笑みを浮かべる。石壁にみせる笑顔も青葉の本物の笑顔だが、こうした裏面の笑顔もまた、青葉の本当の笑顔である。やさしい石壁には見せる必要がなく、同時に好ましく思う石壁には出来る事なら見せたくない、青葉の裏の顔。

 

「索敵も砲撃も、そして情報操作(プロパガンダ)も、青葉におまかせ!」

 

 従軍記者の任務とは、要は戦意高揚を目的とした情報操作(プロパガンダ)だ。ペンは剣よりも強し、情報を操作するものは世界を操作できる。青葉の存在は、石壁という英雄に足りていなかった大きなピースをはめ込んだに等しい。

 

「ソロモンの狼、青葉の本領発揮です!」

 

 狙いを定めた狼が、石壁の為に動き出したのだ。

 

 

 

 ~おまけ~

 

「くそっ青葉のやつ!いくらなんでも失礼だろ!」

 

 ぷんすこ怒りながら、石壁が執務室にはいってくる。

 

「言えば普通に認めてやるっての!それをあんなだまし討ちみたいに!」

 

 石壁がそういいながら執務机に座ると、丁度石壁が座った位置からだけわかりやすく見える様に封筒がおかれている。

 

「ん……?なんだっけこの封筒……こんなものあったかな……?」

 

 そういいながら、石壁が封筒を開くと、中から一枚の写真が出てくる。

 

「こ、これは!?」

 

 そこには、顔を真っ赤にして両手で抑えている鳳翔の姿が映っていた。正直とてもかわいい

 

 裏面をひっくりかえすとそこには

 

『ごめんなさい提督! 青葉より』

 

 と可愛らしい字でそう書いてあった。

 

「まあ、どうせみとめてあげるんだし……まったく、しかたないやつだなあ」

 

 そういいながら、石壁は写真を大切に机の中にしまった。チョロイ奴である。

 

 余談だが、この写真はのちに鳳翔に発見されて没収されてしまう。残念。

 


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