艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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昨日の今日でUAが2000から3000になっていて目を疑いましたが
どうやら日刊ランキングに上がったらしく、とても嬉しいです!

今作の目標の一つが日刊ランキング掲載だったので、目標が一つかないました!
これも皆様のおかげです!これからも拙作をよろしくお願いいたします!


第十三話 はじめてのけんぞう! 上

 要塞に逃げこんでから1ヶ月半が経過した頃、いつもの会議室にて。

 

「それでは定例会議を開催する。まず要塞線の状況を頼む、あきつ丸」

「は!」

 

 石壁の問に立ち上がるあきつ丸。

 

「現在天然の洞窟、鍾乳洞を利用した壕はあらかた鉄骨とコンクリートでトーチカ化され、要塞の奥行きは最大規模に拡張されているであります。これ以上の規模の拡大は硬い岩盤を掘りぬくものになる為コストに見合わず、要塞の縦深化は一旦停止状態であります」

 

 天然の洞窟を繋げただけでも既に相当巨大なアリ塚の様な要塞になっている。いざとなったら要塞の奥地に逃げこんで入口をつぶす事で敵を大幅に食い止めることもできるだろう。そうなったらじり貧だが。

 

「また、前線地帯の塹壕陣地やトーチカ、砲台等は互いに援護しあえる形に完璧に整備されたであります。ここに突撃しろと言われたら上官を撃ち殺して逃げようとするモノが出るくらい凶悪な陣地になっているであります!同時に、要塞内部の輸送網や防衛機構もしっかりと整備が完了したであります!」

 

 あの演習によってもたらされた経験を活かした形へと要塞が強化されたのである。

 

「これをもって我々の要塞は、パラオや硫黄島にあったモノを超える日本式島嶼防衛要塞の最高峰の物が出来たと自負しております。これなら例え石壁提督の指揮が停止したとしても、守りに徹すれば敵に相当量の出血を強いる事が可能でありましょう!」

 

 自慢げにビシッと敬礼をしながら話すあきつ丸。妖精工兵隊の血と汗と涙の結晶だ。その自信の程は相当のものだ。

 

 ちなみに、パラオの戦いも硫黄島の戦いも、太平洋戦争における屈指の激戦地だ、涙なしでは語れない日本軍の死力を尽くした戦いがあった地であるから、興味がある人は一度調べてみるのをお勧めする。

 

「ちなみに、奥ではなく海の方へむけて要塞を拡張することもできるでありますが、これ以上拡張すると流石に深海棲艦側に隠しきれない可能性が高いであります」

「うん、わかった。ありがとう」

 

 満足げに頷く石壁。ショートランド泊地の最大戦力である要塞が完成したのだ。嬉しくないはずがない。

 

「よっし、次の報告を、明石」

「はい、現状、やはり艦娘建造の目処はたちませんが、やっと重巡級の砲の生産が開始しました。少数ではありますが、20cm連装砲……通称『鈴谷砲』の配備が始まりました。巡洋艦以上の艦娘に優先してまわしています」

 

 以前工廠へと引き渡された鈴谷の連装砲は、しっかりと要塞に新たな力をもたらしている。量産型鈴谷砲第一号は、しっかりと鈴谷本人へと進呈された。本人は『鈴谷砲』の通称に赤面して抗議していたが。

 

「同時に、要塞線への12cm砲の配備は完了しました。12.7cm連装砲は物資補給が混乱する為、瞬間火力を必要とする一部の拠点のみへ、防衛用にごくごく少数を配備しております」

 

 銃弾・砲弾の規格の統一は地味だが重要な要素だ。強力だからと下手に似た口径の砲弾を混在などさせたら、つかえない砲弾が使えない砲へ届くことも普通に発生する。太平洋戦争において補給もままならない前線で、銃弾の規格が合わない、砲弾の規格が合わないなどといった笑えない事態が発生したことからも、補給物資はできるかぎりシンプルな形が望ましい。一種類のみ砲弾を用意すればいいのなら、それに越したことはない。

 

 我々の現代日本の自衛隊では分隊支援火器とよばれる軽機関銃の様な物と一般兵の銃の銃弾は同一のものが使われている。これはいざとなれば何百発も弾丸をもちこむ分隊支援火器のボックスマガジンから一般兵のマガジンへ弾丸を融通したりできるなどの地味だが大きな利点をもっている。

 

「上出来だ。引き続き戦艦砲の開発も頼む」

「はい!」

「よし、次に兵站はどうだ間宮さん」

「はい!食料は当初の予定通りです。補給がなければあと5ヶ月程でつきますが、最近は畑等から自然の恵を得て減少スピードは抑制されてきましたので、もう少しもつかもしれません」

 

 1ヶ月半もあれば、育ちの早い野菜なら育ち始めてもおかしくはない。5か月もあれば、さらに多くの食料が調達できるだろう。本格的にサバイバルじみてきた。

 

「次に他の物資ですが、鎮守府全体の要塞化を完了しても鋼材は余っています。弾薬は要塞各地に潤沢に備蓄してありますので、もし戦闘になっても小規模集積所と中規模集積所の物資だけで弾薬に滞りなく数日間は戦えるでしょう。戦闘中に大規模集積所から完成した輸送網で順次輸送すれば例え一か月ぶっ通しで戦い続けてもなんとかしてみせます」

 

 頼もしい言葉だった。間宮もまた兵站部門のトップとしてずっと頑張ってきたこともあり、以前より精神的に強くなったように見える。

 

「油に関しては専ら鎮守府の発電設備に使うのがメインの使い道となっています。また、ボーキサイトに至っては使い道が工廠の研究用資材程度にしか現状使い道がありません。アルミに変換して日常雑貨や家具に使ったりしていますが、物資貯蔵の肥やしになっております」

 

航空機を扱う艦娘が殆どいないうえに、全員まだ基地内部に引きこもっている状況では、ボーキサイトの使い道はまだあまりなかった。

 

「そのため、順次ではありますが、石壁提督が提案されていた『例の構造物』にしてしまうことで、備蓄分以上の物資は消費されているであります」

「完成率は?」

「全体着想の7割ですが、今作戦における必要最低限は完成済みです」

「それだけあれば十分だ」

 

「弾薬についてですが、戦闘用の備蓄を超える程溢れそうな分は、地雷などのトラップに改造して防衛線に設置したりと色々やっています」

「つまり、兵站に憂いはないんだな?」

「はい、この身にかけて大丈夫です」

 

 間宮がそう言って、着席すると、次に初出席の青葉が起立する。

 

「ども!新設の情報局統括艦の青葉です!よろしくお願いします!」

「よろしく青葉、さっそくだけど情報局の初仕事を頼むよ」

「はい!」

 

そういって青葉が資料に目を落とす。

 

「えー、まず周辺海域を飛び交う電波の発信量から推定して、現在深海棲艦の南方海域における動きは小康状態を維持しており、大規模な作戦行動の予兆はありません。また、旧鎮守府にいる南方棲戦鬼配下の艦隊にも大きな動きが見えず、作戦用意も行われていないことからも、この要塞の存在はいまだ敵に知られていない可能性が極めて高い状況です」

 

伝播通信量の確認による作戦行動の類推は、戦争時には基本的な技術の一つだ。当然だが、作戦行動をとるときやその直前は、著しく通信量が増大する為、通信量の増大は重要なファクターとなる。

 

「それはいいことだね」

 

そういいながら石壁は、青葉の予想以上に堅実かつ真面目な仕事ぶりに、青葉の評価を上へと訂正した。

 

「ただ、一つ気になる報告があがっていますねぇ」

「というと?」

「連中、何故か物資を旧泊地へ集めているようでして、南方海域全域で撃沈した輸送船や放棄された鎮守府などから持ち出した物資が、順次泊地へ集まってきているようです。鋼材なども大量に集めているとのことで、軍事作戦をとるというより、他になにか狙いがあるように思われますねぇ。目下調査中です」

 

青葉がそういって難しい顔をする。

 

「ふむ……わかった、調査結果がでたら教えてくれ」

「はい!情報局からは以上です!」

「さて、次は俺だな!」

「まだなにも……もういいや、どうぞ」

 

 勝手に立ち上がった伊能に、もう諦めて先を促す石壁。

 

「うむ、数日毎に敵を拉致……じゃなかった鹵獲してきた結果、艦娘は40名に増えたぞ。内訳は戦艦2、重巡12、軽巡23,空母3だ!」

 

「今更だが、強いのが多いな。駆逐艦とかは何故ないんだ?」

「あれを痕跡を残さずに仕留めるのってどうやればいいんだ?」

「えっ……」

「いや、あれの一体どこが急所なんだ?」

「えっと……隙間から手を突っ込んで内臓?を【見せられないよ!】すれば……」

「面倒極まりないな……」

「血の処理が面倒であります」

 

 さすがにそこまで血なまぐさいのは勘弁してほしいらしい。

 

「流石にそろそろばれそうだし、鹵獲も潮時だな。あと、陸軍妖精隊、まるゆ隊、鹵獲艦娘隊の新着以外の中核連中、それぞれ訓練は十分だ。もう戦える練度に達しているぞ」

「……よし!」

 

 それまでの報告をきいて、石壁は立ち上がった。

 

「皆、今日までよく頑張ってくれた。これで我々は敵に対抗する為の手筈を整える事が出来た。現状でも立て篭もれば数か月はもつだろうが、こういう時にこそ次の一手を打たないといけない。故に、連日のゲリラ戦の締めくくりとして、ある作戦をもってこの要塞の完成としたいとおもう!」

 

 石壁の珍しく力のこもった演説に、伊能は笑みを深め、彼以外は皆背筋を伸ばす。

 

「今作戦の目的は我々の鎮守府に欠ける最後のピース、艦娘製造能力の確保、ならびに敵に痛打を与え、本島より撤退を図らせることにある。下手をすれば敵にこの要塞の存在が発覚する可能性があるが、艦娘の製造能力を得たならば、要塞の力と合わせて敵を撃滅する事すら不可能じゃない!もしも失敗しても僕が責任をもってこの要塞を守り抜く!だからみんな力を貸してくれ!」

 

「「「「「了解!!」」」」」

 

 一斉に敬礼を返される。石壁はそれをみて頷くと、宣言した。

 

「よし、本日0200(マルフタマルマル)より艦娘製造プラント奪還作戦、『はじめてのけんぞう作戦』を発動する!!総員行動を開始せよ!!」

 

 英雄の資質は、皆を引っ張る統率力……だけでなく、ネーミングセンスも大切であると、この場の皆が思った。

 

 

 


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