艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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今回は長くなったので、上下分割しております、お見逃しなきようご注意ください


第十四話 はじめてのけんぞう! 下

 石壁達が作戦会議をしていた一方その頃、ショートランド泊地(陥落済み)にて。石壁達の泊地を落とした深海棲艦の方面軍最高司令官、南方棲戦鬼とその配下の深海棲艦が会話をしている。

 

「南方棲戦鬼様、建造準備完了しました」

「そう、ではさっそく建造を始めなさい」

 

 此処は旧鎮守府工廠、石壁達が喉から手が出るほど欲しがっている艦娘の建造プラントには、現在青葉が調査していた莫大な資源が投入されてある存在が建造されようとしていた。

 

「建造開始しました」

「やはり時間がかかるわね、建造完了時間はいつ頃?」

「大体明日の朝ですね」

「なら寝ましょうか、楽しみだわぁ、明日は早く起こしてね」

「承知しました」

 

 寝室(元石壁の私室)に戻る南方棲戦鬼。お供の軽巡は工廠の扉に鍵をかけ『立ち入り禁止』の看板をたてて自身の私室へ戻った。

 

 ***

 

 数時間後、そこには黒ずくめのニンジャ達がそっとやってきて、石壁の荷物にあった工廠の鍵(総司令長官用の合鍵)を使い部屋に入ってきた。

 

「将校殿、なんであんな看板がたっていたのでありましょうか」

「恐らく不注意で艦娘を作らない為だろう、好都合だ、さっさと艦娘建造プラントを奪取して撤退するぞ」

「は!総員、取り外しにかかれ!」

「了解しました」

 

 陸軍妖精隊がさっさと建造プラントを取り外し、代わりに偽造プラントを設置して帰る。ちなみに、中にはありったけの『あるもの』が詰め込んである。

 

「やれやれ、これでやっと艦娘の建造が出来るな!」

「帰りがけに部屋で寝ていた軽巡も絞めてきましたし、これで戦力は整った、というところでありますかね」

 

 ようやく真っ当に戦力を補充できるとうきうきしながら帰投する一同、ちなみに、行き掛けの駄賃に絞められた軽巡は南方棲戦鬼の腹心である。

 

 ***

 

 翌日目を覚ました南方棲戦鬼は、早朝にすぐ工廠にいくはずが、既に日が高い位置にあることに驚愕して走り出した。

 

「ちょっと!どうしておこしてくれなかったの!?もう昼じゃない!!」

 

 バアン!!と扉を開けた南方棲戦姫、だがそこはもぬけの空である。昨日彼女は山奥に連れていかれたからだ。

 

「ううん?居ない……隠れたの?」

 

 だがそんな事は知らない南方棲戦鬼。最古参の部下である腹心の軽巡が逃げるとは考えにくく、寝坊したのが気まずくて隠れているのかしら、と南方棲戦姫は勝手に納得し、一人で工廠へ向かった。

 

「って、工廠のカギはあの子が持ってるじゃない……ああ、もういいわ、扉を壊したほうが早いし」

 

 そういって、南方棲戦姫は工廠の扉を蹴破り、内部へはいる。そして、うきうきとお目当ての存在が完成しているであろう建造プラントへ近づいていく、その顔は珍しく喜色満面だ。

 

「ふっふっふ、さあ出てきなさい!」

 

 扉に手をかける。

 

「私のいもうーー」

 

***

 

 その頃、ショートランド泊地(要塞)の隠蔽された屋外訓練場にてあきつ丸と伊能が話し込んでいた。

 

「所で、あの偽造プラント、何がつまっていたでありますか?」

「うん?たしか……作ったはいいが使いどころのない三連魚雷の山だな、カード状態で三百枚くらいだったか?扉があくと起爆するしかけで、遠隔操作も出来るから、後日敵をかく乱するために使う予定だ」

「おっそろしいでありますね、あれ取扱いを間違えると一枚でも小屋位なら吹き飛ぶでありまーー」

 

 

 

『ドドーン!!!!』

 

 

 

「……爆発したでありますね」

「したな……」

 

 その日、旧鎮守府の半分が粉々に吹き飛んだ。南方棲戦鬼は重症を負って入院した。

 

 

 ***

 

「よっしゃーー!!これでこの鎮守府でも艦娘がつくれるぞーーーー!!!」

 

 ウキウキと珍しくテンション高く機嫌のよい石壁は、初建造に工廠へやってきた。

 

「あ、提督!どうやら中に誰か入ったままの様なんですが……」

「え!?泊地を逃げ出した一か月半位前からずっとはいってたの!?嘘でしょ!?」

「どうなんでしょうか……何分あの時は大忙しでしたから、とりあえず建造を開始して放置してしまったのかも……流石に思い出せません」

「うーん、そんな命令出したっけ?もしかして深海棲艦が入ってんじゃないだろうな?」

「まっさかー!」

「そうだよなー、あっはっは、とりあえず予定は狂ったけど、うちの鎮守府へいらっしゃ……!?」

 

 ガパンっと扉を開けると、そこには額に角のあるおっそろしい美人がじっとこちらをむいt……バタン

 

「……」

「……」

「……いかんな、疲れてるのかな。扉を開けたら深海の姫が居た気がする」

「……一か月以上ずっと大変な日々でしたからね、しかたありませんよ」

「……そうだよな」

 

 ガチャン

 

 さっきより近くでじっとこちらを見る赤い瞳、黒いネグリジェ、背後に鎮座するデカブツ、まさしくもってこれは戦艦sバタン

 

「……」

「……」

「……うぇいうぇいうぇい、あっかしさーん?何が見えました?」

「……私のログにはなにもありませんね」

「……そうですか、16インチ三連装砲すごいですね」

「……それほどでもない」

 

 ガチャン

 

 もう目の前にある赤目の色白美人、そうこれはもう、まぎれもなく、どうとりつくろっても戦艦棲kガシリ

 

「離せ!HA・NA・SE!!扉を閉めさせろ!!!」

「現実から目を背けないで」

「ききたくねぇー!!やっと取り戻したプラントから戦艦棲姫が出てくるとかききたくねぇー!!」

「て、提督ー!?者どもであえであえ!!緊急事態です!!!」

 

 鎮守府の大混乱は収まる気配はない。

 

 ***

 

「で、貴女は何者?どうして提督に危害をくわえなかったの?」

 

 現在泊地の休憩室に集合している一同、戦艦棲姫は提督を抱きしめたまま特に抵抗してこなかったので、下手に刺激しない様に一旦そのままにしている。その為石壁は現在戦艦棲姫の抱き枕と化して彼女の腕の中に納まっている。

 

 明石がそう問うと、戦艦棲姫が答える。

 

「私は戦艦棲姫、南方棲戦鬼の妹にあたる深海棲艦ね、姉さんはどうやら妹がほしかったのか、私を建造しようとしていたようね」

 

 そう答えながらずずーっっとお茶を飲みながら羊羹を楽しむ戦艦棲姫、さっそくかなり馴染んでいる。提督は相変わらず彼女の腕の中だ。

 

「提督に危害を加えなかった理由は簡単よ。彼が、私の提督だから」

『はぁ!?』

 

石壁を除く全員の声が揃う。

 

「……どうやら嘘じゃないぞ……パスが繋がっているのを感じる」

 

提督とその艦娘は、二人の間でしか認識できない不可視のパスで繋がっている。これは極めて感覚的なものなので説明が難しいのだが、提督も艦娘も、互いに一目で「この人は私の艦娘(提督)だ」と理解しあえるのだ。そうでなければ同名どころか背格好から声まで同一の艦娘が一杯いるのだから、自身の艦娘が識別できなくて大変な事になってしまう。

 

 一説によれば、提督と艦娘は魂の一部が繋がっており、それがパスであると同時に、個体ごとの性格の違いに繋がっているのではないかという学説が存在する。本来ありうべからざる存在である彼女達を現世に呼び寄せて自身の魂に癒着させる事ができる特殊な才能をもつものが、『艦娘の提督』なのではないかというのが有力な説だ。

 

つまり何が言いたいかというと、石壁が戦艦棲姫の事を自身の艦娘(深海棲艦)だと認識できるということは、彼女は石壁の艦娘(深海棲艦)であることだけは間違いがないという事だ。

 

「いったいどういう理屈でありましょうか」

「……恐らく、一種の『刷り込み』の様なものじゃないかしら」

 

あきつ丸がそう問うと、明石がそう答える。

 

「卵から生まれた鳥のあれ?」

「ええ、彼女はあのプラントから”生まれた”けど、機械の中にいるときにはまだ魂はこの世界に固着していなかった。その段階で提督が建造を完了した事で、実は『深海棲艦の提督』としての才能もあった石壁提督の魂に彼女の魂が癒着し、『石壁提督の艦娘』になったのではないでしょうか」

 

 南方棲戦鬼が艦娘用の建造機械を使って作った深海棲艦を、人間の提督が最後に開けるという、極めて特殊すぎる過程をへて、彼女はここにやってきている。状況を再現して理由を探ろうとするなら、まず入院中の南方棲戦鬼をここにつれてくる必要があるだろう。

 

「理屈はよくわからないけど、少なくとも私は石壁提督に危害を加えるつもりはないし、姉さんの意思に従うつもりもないのだけは確かよ、正直人間との戦争とかどうでもいいし」

 

自然発生した深海棲艦ではなく、プラントによって作られたせいか、彼女は人類への憎悪が薄いらしい。戦艦棲姫はつづける。

 

「あとあのプラント、姉さんが私を作るために使い潰したから、もう二度と艦娘は作れないわよ」

「「「「「「!?」」」」」」

 

 二度目の爆弾発言、いろんな意味でめちゃくちゃな話に誰もついていけない。

 

「ちょっとまて!それじゃあこの鎮守府では艦娘が製造できないのか!?」

 

 やっと言葉を発した人形扱いの石壁、その声音には絶望感とか悲壮感とかいろいろと籠って泣きそうだ。

 

「うん」

「エリエリレマサバクタニィ(主よ、何故我を見捨てたもうた)……」

 

 絶望とは希望からの落差であると誰かが言った。もし石壁が魔法少女だったなら、彼のソウルジェムは真っ黒を通り越して絶望のブラックホールになっていただろう。

 

「ま、まぁ、少々個性的だが、戦力が増えるならいいんじゃないか?」

 

 白目を向いて口から魂が抜けている石壁の姿に、かける言葉もないと、珍しく伊能も石壁を茶化さず慰める。

 

「ほ、ほら提督、戦艦棲姫を仲間にした提督なんてきっと史上初ですよ!ポジティブに、ポジティブにいきましょう!!」

「そうでありますな!みるでありますこの超重装砲!!並みの敵なら一撃轟沈の超戦力でありますよ!!ビグザム並みでありますよ!!」

 

 46cm三連装砲は砲塔だけで小さなビル並みの大きさをもつ恐ろしい砲だ。艦娘サイズでも、その威力は破滅的な威力をもっている、確かにそれは頼もしいだろう。

 

「そうだね……でも僕達に必要だったのは100体のゲルググで、一体のビグザムじゃないんだけどね……」

 

 戦いは数だよ明石ぃ!!と、石壁が訴えるが、実際に届いたのはビグザムだった以上、もうどうしようもなかった。

 

「……わたしあんまり歓迎されてないのかしら」

 

 戦艦棲姫がショボンとして石壁を抱きしめる。そんな反応をされると、石壁としては相手が深海棲艦でも慰めざるを得ない。敵意をもって攻撃してこないなら、深海棲艦だって艦娘みたいなものだ。けっして背中に押し付けられる豊満な山脈にコロリとやられたわけではない。ないったらない。

 

「えっと、その、本人を前にしていろいろ言い過ぎた、ごめんね。これからよろしく、戦艦棲姫」

 

 石壁がそういうと、戦艦棲姫はにっと笑った。

 

「ええ!よろしく石壁提督!」

 

 かくして、ショートランド泊地における艦娘建造機械奪取作戦は大失敗におわり、代わりに突出した単体戦力である戦艦棲姫が石壁の指揮下に加わったのだった。

 

 彼女の存在が、一体どんな波乱を巻き起こすのか、まだだれも知らなった。

 

 

 

 


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