艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第十五話 火種

 戦艦棲姫がやってきてから数日が経った。当初は深海棲艦という事で要塞に馴染めるか大いに不安視された彼女だったが……

 

「はい、戦艦棲姫さん、今日の朝ごはんですよ~」

「ありがとう!間宮さんの朝ごはんおいしいのよねぇ、私大好きよ」

「ふふ、ほめても羊羹位しかでませんよ?」

「間宮さんって本当に最高の艦娘よねぇ。あ、石壁提督、鳳翔さん、こっちこっち~場所とっておいたわよ~」

「ああ、ありがとうございます戦艦棲姫さん」

「ありがとう戦艦棲姫……ってオイ、なんでひざの上を不自然にあけるんだ!?飯が食いずらいから膝の上には座らんからな!?」

「ケチ」

 

 あっと言う間に泊地によく馴染んだ。

 

 それもこれも、泊地の艦娘の5割(別宿舎に住んでいる数十名のまるゆを考慮しなければ実質9割)程度がもともと深海棲艦だったのが大きい、鈴谷達の例からわかる様に、彼女達も深海棲艦時代の記憶を割合多く持っている為、戦艦棲姫が受け入れられるのも早かった。

 

 彼女達に受け入れられてしまえば、後は泊地に受け入れられるのも時間の問題であった。というか、しょっちゅう石壁を膝の上に乗せて抱きしめている姿が目撃されているため、警戒心を抱き続ける方が難しかったという方が正しいかもしれない。

 

 あとは、『石壁提督が一緒に居る奴に悪い奴はあんまりいない』という彼らなりの経験則があったのも大きい。

 石壁は人の本質的性質を感じ取ることにかけてはピカ一の才能をもっている為、石壁が長時間にわたって至近距離で生活できるような人間は本質的に良い人間である事が大半である。伊能を始めとした石壁の仲間たちは、大体これにあたる。

 

 ちなみに、石壁が姿を見ただけで吐き気を覚えるほど気分を悪くし、体をガチガチに緊張させた唯一の存在が、演習の時にみかけた大本営のお偉方である。本人は緊張によるものと思っていたが、実際は石壁が大本営の人間の下種具合を感じ取って気分を悪くしていただけである。石壁の下種人間に対する本能的防衛反応は、驚愕に値するほど正しい。

 

 ***

 

 さて、話を戦艦棲姫に戻そう。食事を終えた彼女は、現在石壁達と共に休憩室にいる。そして、膝の上にはやっぱり石壁が鎮座している。石壁の抵抗はあえなく失敗に終わった様だ。

 

「そういえば、提督は本来はどんな任務につくはずだったの?」

 

 戦艦棲姫は休憩室で間宮羊羹を楽しみながら膝の上の石壁に問う。現在休憩室には石壁と戦艦棲姫の他に鳳翔、間宮、明石、伊能、あきつ丸が詰めている。

 

 戦艦棲姫の膝の上で人形の様に抱き締められている石壁(もう文句を言うのは諦めたらしい)は、その質問に問を返した。

 

「それ、『普通の泊地の総司令官』として着任してたらってこと?それとも、順当に『普通の提督』としてどこかに着任したらってこと?」

「後者ね」

「そうだなぁ……」

 

 石壁は数瞬考えた後に、口を開いた。

 

「『普通の提督』は士官学校卒業後、それぞれ本土の各鎮守府や泊地へ派遣されて艦隊運営のイロハを最低一年位学ぶんだ。その後は研修先の鎮守府へ正式に着任するか、もっと能力的に適正な部署へと送られるんだったよね?鳳翔さん」

「はい、提督ごとにやはり『適正』というものはありますので、その辺りを見極める必要がありますから」

 

 石壁の問に鳳翔が応じる。

 

「実際に艦隊を運営してみないと見えてこない能力というものがありますし、相性の良い戦略や艦艇にもばらつきがあります。初期艦は通常、その提督が得意とする戦略、あるいは性質に近い艦が建造されるので、目安にはなるんですけどね」

「僕が初期艦として建造した艦は、鳳翔さんと、間宮さんと、明石だろ?軽空母と、給糧艦と、工作艦ということは……軽空母の索敵・防空能力を活かして、安全な物資輸送や艦艇の修理等のを行う後方部隊ってところかなぁ……?皆はどう思う?」

 

 石壁の問に間宮と明石が答える。

 

「ええ、恐らくは艦艇時代と同じく、前線地域への物資輸送による慰安が主な任務だったのではないでしょうか?そもそもいくら物資を大規模に輸送管理できるとはいえ、『普通は』給糧艦に要塞運営の総合兵站運用の全権を与えたりしませんしね」

「まあ、後方勤務が普通よね。『普通なら』工作艦を殆ど最前線の要塞で戦わせる方が非常識ですしね」

「そうだよなぁ……ん?今何気に僕ディスられた?」

 

 普通じゃない提督筆頭の石壁がうんうんと頷いてから顔を上げる。間宮と明石なりの軽いジョークに皆が笑った。

 

「石壁殿の能力なら防空能力もかなりのものでしょうから、安心・安全・安定的な物資輸送を行えるでありましょう、前線の兵員からすれば、喉から手が出る程ありがたい存在でありましょうなあ」

 

 あきつ丸は史実の陸軍の物資欠乏を思い出しながら、うんうんと頷いている。

 

「さしずめ、戦場の便利屋だな。一泊地に一人石壁が居ればそれだけで死ぬほど便利だろうよ」

 

 伊能がニヒルに笑いながらそういうと、石壁が苦い顔をする。

 

「うるせーイノシシ、一家に一台みたいに言うなっての。それにお前が無茶苦茶やらなきゃ今頃『普通の提督』だったわ!」

「おっと、すまんすまん」

 

 微塵もすまないとは思っていないような笑みを浮かべながら言う伊能に石壁はため息を吐く。

 

「はあ……まあいいや、戦艦棲姫の疑問は解けたか?」

「ええ、充分よ……でも」

「ん?」

「……いえ、なんでもないわ、教えてくれてありがとう提督」

 

 そういって、戦艦棲姫は石壁を抱きしめたまま羊羹をつつく作業に戻った。

 

 石壁は少し不思議そうな顔をしたが、すぐに気にしない事にして雑談に戻った。

 

 戦艦棲姫はそんな石壁の体温を感じながら、思考を続ける。

 

(いくらメンツを潰されたからって、兵糧輜重に天賦の才を持つ人間を使い潰そうとするなんて、はっきり言ってなんて滅茶苦茶な人事……)

 

 戦艦棲姫は石壁から聞いた情報と、艦艇時代の記憶、鈴谷達の証言を照合しながら情報を分析していく。

 

(戦前は……大本営と前線との認識の乖離が大問題だった……提督たちの話から見ても、今の大本営も相当腐敗していると見て間違いないわ)

 

 史実における大日本帝国は、軍部が大きく2つに割れていた。陸軍閥と、海軍閥だ。この2つの軍閥は、同じ国の軍隊でありながら、さながら別の国の軍隊かと思われる程仲が悪かったのは有名な話だ。だが、ある意味もっとひどかったのが大本営と前線の乖離である。

 

 当然とも言えるし、仕方ないとも言えるが、前線と上層部には認識や状況の乖離が発生するものである。

 

 貧しい貧しいとよく言われる陸軍でも、前線のインパールやガダルカナルが白骨街道や餓島と呼ばれる程の大惨事になったとしても、上層部の人間が飢え死ぬ事はない(本当に上層部が飢え死にしたらそれはそれで大問題だが)。

 

 比較的豊かだった海軍にしても、南洋諸島で激戦を繰り広げる艦艇達が必死に物資のやりくりをしている中、本土の大和と武蔵は、大和ホテルに武蔵御殿と言われる程の扱いの差があった。

 

 このように、同じ陸海軍の中でさえ、前線と後方では差があったのである。

 

 では、この世界の軍部はどうなのであろうか?

 

(軍の上層部は、ここまで無茶苦茶な人事を通せるほどの腐敗具合。前線では、ここまで石壁提督が困窮するほどの激戦状態が続いている。にもかかわらず、話に聞く提督達の教育過程は『余裕がありすぎる』)

 

 前線に補充される深海棲艦の物量は凄まじいの一言に尽きる。青葉がこまめに分析してくれた事で明確になってきた深海棲艦の軍事行動の規模は、常識の埒外のものである。

 

 しかし、石壁達の会話からはそのような事は一切伺えなかった。つまり、本土で教育を受けていた提督候補生達でさえ、前線の激戦具合を殆ど知らないのだ。

 

 本来なら、もっと実践的かつ、即時的な教育を行って、順次前線へと提督は送られるべきだろう。

 

 だが、石壁達の話から判断して、大抵の提督はそのまま本土の諸鎮守府へ着任してしまうらしい。

 

 では、前線へはどんな提督がいつ着任するというのか?

 

(これは……どこかに多大なしわ寄せが行っていると見て間違いない……おそらくは、最前線の鎮守府は大変な事になっているのでしょうね……)

 

 戦艦棲姫は、好ましく思っている膝の上の提督が、身勝手極まりない上層部によって窮状に陥っているのだという現状を思うと、心の中にドロリとした憎悪の炎が揺らめくのを感じた。

 

(まあ……そんな状態、長く持つ筈がないわ)

 

 深海棲艦である彼女は、艦娘に比べて良くも悪くも身勝手だ。彼女は公正さの美しさよりも、『自分にとってより好ましい物』の為に力を振るう。

 

(愉しみね……石壁提督がこの状況を乗り切った時が……恐らく大本営の愚行が表面化するときだもの……)

 

 戦艦棲姫は、愛しい石壁を窮地に追いやった本土の連中がどうなったとしても別にどうでもいいのだ。戦艦棲姫にとって重要なのはただ目の前にいる提督のみ。提督さえ無事なら、他の有象無象など『どうなってもかまわない』のである。

 

(石壁提督をこんな死地に放り込んだ事、絶対後悔させてあげるわ、大本営のゴミムシどもめ)

 

 大本営は自らが消し去ったと思っている火種が、火薬庫の中で着々と燃え上がり始めた事に、まだ気がついていない。

 

 

 ~おまけ~

 

「……天井が行方知れずになっているわね」

 

 ショートランド泊地(爆発済み)の執務室(半壊)にて療養中の南方棲戦鬼は、穴が開いて物理的にどこにいったか知らない天井をみつめながら、一人ぼうっと海を眺めていた。

 

「……おのれ、技術艦め、絶対許さないわぁ……この怪我がなおったら一番に締め上げてあげるから覚悟しときなさいよ」

 

 ふつふつと湧き上がる憎悪を滾らせながら、体の損傷を頑張って癒している南方棲戦鬼。数日前に半死半生だった事から考えて異常な回復ペースである。

 

「あと数日もすれば、動けるようになる……そうなったら……そうなったら……」

 

 南方棲戦鬼は、吹き飛んだ工廠を想って涙を流す。

 

「ま~たイチから妹を作り直しよぉ……お姉ちゃんさみしい……」

 

 やっと完成したと思った妹が吹き飛んでしまった事に大いに落ち込む南方棲戦鬼。実はどっこい生きてる山の中な妹が、自分を半死半生に追い込んだ提督に寝取られているとはまったく想像していない。

 

「ぐぎぎ……無傷の建造プラントなんて滅多に手に入らないのにぃ……次に艦娘の建造プラントなんていつ手に入るのよぉ……技術艦め絶対許さない、八つ裂きにしてやるううううううううう……」

 

 哀れにも無実の罪で処刑されそうな技術艦、彼女の明日はどっちだ。

 

「……隙間風が傷にしみるわぁ」

 

 南方棲戦鬼が完全復活するまで、あと一週間。

 

 

 

 

 





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