艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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遂にここまで来ました、要塞VS艦隊を書きたくてこの小説を始めた様なものですので、とても感慨深いです。

第一部終了までもう少しですので、最後まで楽しんで頂けると幸いです。

なお、中編と下編につきましては、急に入った接待の仕事で作者がこれからPCに触れず、最終チェックが出来なくなったので、明日投稿させていただきます。申し訳ございません。




第十八話 要塞線の死闘 上

 運命の日がやってきた。石壁達が心血を注いで作り上げた要塞に、審判が下る日が来たのだ。

 

 南方棲戦鬼を総大将とする深海棲艦南方海域方面軍団が、その総力を結集して要塞へ襲い掛かってくる。

 

 それを迎え撃つのは、たった二ヶ月でくみ上げた即席の要塞に立てこもる、新任の提督を総大将とする寄せ集め部隊。

 

 絶望的な戦力差である。常識的に考えて、石壁達の運命は風前の灯火にしか見えない。

 

 だが、要塞にこもる人間は、一人も絶望していなかった。誰も彼もが、己の死力を尽くして、戦い抜く気概をもっていた。

 

 ここに、石壁提督の初陣として歴史にその名を刻んだ伝説の戦い、『要塞決戦』の火蓋が切られたのである。

 

 ***

 

 石壁達が泊地にきてから丁度2か月目の朝。

 

「……こちら、第六東部方面観測所、こちら、第六東部方面観測所、作戦本部聞こえますかどうぞ」

 

 ここは旧ショートランド泊地を監視するための、隠蔽された監視所、そこに詰める妖精が、通信機に声をかける。

 

『こちら作戦本部、聞こえている、どうぞ』

 

 観測妖精はゴクリと唾を飲み込むと、言った。

 

「深海棲艦の西進を確認……!遂に、動き始めました……!!」

 

 

 隠蔽された観測所に詰める妖精達の視界の先、大地を黒く埋め尽くす深海棲艦の津波が、要塞にむけて進んでいく。

 

「大地が六分に地面が四分!繰り返す、大地が六分に地面が四分!凄い数だ、陣形構成は三つ、先方に多数の駆逐艦を置いて先行させている!その後方に巡洋艦級が布陣、最後尾に戦艦を始めとした大型艦を配置している!」

 

 恐らく、通常の鎮守府では抵抗すらできないであろう、その想像の埒外の超戦力に、妖精は戦慄した。

 

 

 

「要塞線での接敵は近い!!幸運を祈る!!

 

 ついに、戦いが始まる。

 

 

 ***

 

 数時間後、要塞の最前線のトーチカ陣地にて、砲兵妖精達は遂にその黒い津波に遭遇した。

 

「来やがった……!」

 

 妖精隊の眼前に、大地を埋め尽くすように深海棲艦が群れをなしてつっこんでくる。その圧倒的圧力は、見る者に根源的な恐怖を想起させる。

 

「まだだ!まだうつなよ……!」

 

 迫りくる大軍を前に生唾を飲み込む。砲門の先には敵の群れ、今やどこへ撃ってもあたりそうだが、何度も何度も訓練したように、焦らず、じっと、敵がこちらのキルゾーンへと入り込むのを待ち続ける。

 

「総員、射撃用意!」

 

 石壁の号令が、放送を通じて壕の中に響く。ついに、敵がキルゾーンへと足を踏み入れたのだ。

 

「3!2!1!」

 

 カウントが、終わる

 

「……撃てぇ!!!!」

 

 開戦を告げる号砲が世界を揺るがした。

 

 ***

 

 砲撃開始の数分前、要塞に進行する深海棲艦達は、緊張感もなく進軍していた。

 

「なあ、山の奥にいるのは、海岸線の鎮守府をすてて逃げ出した敗残兵なんだろう?こんな大規模な艦隊を進ませる必要なんてあるのか?」

「知らないよそんなの、どうせ、圧倒的な戦力で敵を押しつぶしたいっていう南方様の我儘でしょう?」

 

 そういいながら、陸上を進む大地を埋め尽くす駆逐艦級の深海棲艦の群れ。

 

 彼女達は深海棲艦側の第一陣、本体の露払いとして編成された、駆逐艦級の深海棲艦たちだ。

 

 だが、その数は圧倒的であり、露払いとはいっても並みの敵なら苦も無く押しつぶせるだろう。

 

「だからって多すぎだろ、みてみろよ、見える大地より私たちの方がおおいじゃん」

「無駄口叩かないの……え?それおかしいわよ?」

「なんで?」

「だって、私たちはある程度『拡散しながら進んでいた』筈なのよ!?なんでここまで部隊が密集しているの!?おかしいわよこれ!!」

「は?」

 

 最初は山岳部へむけてある程度広がりながら進んでいた筈の深海棲艦達が、気が付くと別動隊の深海棲艦達まですぐ傍にいるほど、密集している。

 

 否、意図的に『密集させられていた』のだ。

 

 彼女達は山へむけて進んでいる。当然その進行ルートは、川や谷や、崖といったものにさえぎられて自然と限られたものになる。もしその途中で10本あった道が9本へ、8本へ、7本へと少しづつ減っていけばどうなるであろうか?道がへれば自然と進行ルートが濃縮していく。つまり部隊が密集してくのだ。

 

 石壁達は、事前に崖を削ったり、余った鉄骨に土をもって山を作ったりして、自然と部隊が密集するように地形を整形していたのだ。これによってじわりじわりと部隊が、一番『殺しやすい位置』へ密集する、砲弾が密集するキルゾーンへと勝手に敵が進んでくる。自分たちの足で、処刑場への道を歩ませたのだ。

 

 これが石壁達の第一の策、地形の整形による敵の進軍ルートの固定化である。

 

「はやく隊長に報告を……!」

 

 その事に気が付いた時には、もう手遅れだった。

 

 その瞬間、無数の砲弾に体を食い破られて、彼女の部隊は文字通り消滅した。

 

 ***

 

「……撃てぇ!!!!」

 

 轟音と共に砲弾の暴風雨が深海棲艦達に叩きつけられる。

 

 山岳部の傾斜を活かした要塞線である。高低差もあるため、敵からすれば前方の上下左右至るところに存在するトーチカ陣地から自分たち目掛けて一点集中射撃をされているようなものだ。 

 

 音速を遥かに超える砲弾は空気を切り裂き敵へと殺到する。事前に成形された土地に従って進軍してきた深海棲艦達にもはや逃げ場など存在しない。

 

 要塞線という面で照射された砲弾が、狭められた進行ルートという点に集中する。まるで虫眼鏡により集中した光が紙を焼くように、集中する砲弾が敵を焼き切っていく。

 

 最前線で集中する火砲を受けた深海棲艦達は自身に何が起こったかを把握する前に即死した。細切れに分断された鉄塊となって地面に倒れ伏す。

 

 そして、前面の敵を貫通した砲弾は、当然後方の敵に突き刺さり炸裂する。

 

 前面部の多くの深海棲艦が致命傷を追う、そこでやっと深海棲艦達は自分たちが砲撃にさらされていることに気が付いた。

 

「敵砲弾炸裂!敵だ!敵がいるぞおおおおおおお!!」

 

 だれかがそう叫んだ瞬間、止まっていた時間が動き出した。すぐさま、石壁が次弾を装填してまた打ち出し、その度にバタバタと深海棲艦が死に絶えていく。

 

「がああああああああああああああああああ!?」

「くそっ!!罠だ!!ひけ!!ひけええええええ!!」

「おい押すな!!やめろ!!後ろからおすなあああ!!」

「どこにも動けない!!動けないよおおお!!」

 

 最前線はたちまち阿鼻叫喚の地獄と化した。狼狽し撤退しようとする前列と、前進しようとする後列が押し合いになり中央の敵を圧殺する。そこへ砲弾が複数発飛び込んで混乱に拍車をかける。

 

 その合間にも砲弾の雨は止まない。石壁の命令を忠実に遂行する砲兵隊に迷いは無い、即ち、全力射撃。

 

 一人が撃ち、一人が排莢し、一人が装弾し、一人が調整する。四名一組の砲兵がまるで一つの機械のように、淀みなく、迷いなく、ただひたすらに砲弾を打ち続ける。

 

 とまらない、砲弾はとまらない、鍛え抜かれた砲兵隊が、重厚にして精緻なつくりの要塞陣地が、頼りない火砲を恐ろしい殺戮兵器へと変貌させたのである。

 

 

 

「す、進めえええええ!!道は前にしかないんだ!!進めええええええええ!!」

 

 どこにも逃げられない事を悟り、覚悟をきめた隊長級の深海棲艦の号令の元、深海棲艦達が前にむけて全力でかけだす。

 

 深海棲艦の濁流が、要塞線を飲み込まんと流れ出す。

 

「絶対に近づけるな!!撃って打って討ちまくれ!!一人残らず殺し尽くせ!!」

 

 石壁の号令の元、火力がさらに敵に集中していく。流れ出そうとする悪鬼の濁流を砲弾の堤がせき止める。

 

 1メートル進軍するたびに、数十名の深海棲艦達が絶命する。隣の僚友が、一歩進むたびに減っていく。

 

 真正面から砲弾を食らって一瞬で絶命する無数の深海棲艦達、死体となった僚友が歩みを止めると、その死体を乗り越えて次の深海棲艦が前にでる。

 

 だが、集中する火力の苛烈さは、深海棲艦達の想像を絶する凄まじいものとなる。まるで機関銃掃射をうけた歩兵の様に、強靭な筈の深海棲艦がバタバタと絶命していく。

 

 まるで旅順か奉天か、要塞に突撃する兵と、それを防ぐ要塞の戦いは、日本と敵国を逆にして再現されている。

 

 情け容赦無き戦場の女神の歌声が鳴り響けば万雷の拍手の様な轟音と共に一切がこの世から召し上げられてしまうのだ。

 

「深海棲艦の艦砲射撃きます!」

 

 山頂の観測所からの報告が無線を電波するや否や、敵前衛部隊の後方から、戦艦級の深海棲艦の艦砲射撃が開始される。

 

「対ショック体勢!砲撃くるぞぉ!!」

 

 石壁の叫びが切れる前に、戦艦クラスの圧倒的破壊力をもつ砲弾が、要塞へばらまかれる。

 

 着弾するたびに大地へクレーターをつくり、爆風は前衛の深海棲艦すら巻き込んで要塞へダメージを与える。

 

 だがしかし

 

「ははは!!すげえや、あれだけしこたま打ち込まれてもびくともしねえぞこの要塞!!」

 

 要塞は揺るがない、第二次大戦時代、米軍は日本の地下壕を利用した要塞へ地形が変わるほどの砲撃爆撃を繰り返してから上陸作戦をとったが。その地下壕の大半は生き残っており、その対応に大層苦慮したという。

 

 この要塞は、石壁達が心血を注ぎ作り上げた、その地下壕要塞の発展型だ。大雑把な艦砲射撃なぞ何発食らったところで恐れるにたらぬ。

 

 砲兵隊妖精達は、自身の籠る要塞の凄まじさに興奮しながら声を張り上げた。

 

「そらぁ!!お返しだ!!たっぷりくらいやがれ!!」

 

 砲撃が止めば即座に反撃に出る。艦砲射撃の威力に慢心し、不用意に近寄ってきた愚か者に容赦無く砲弾を叩き込む。

 

 圧倒的火力をもつ援護射撃をもってしてなお、要塞は揺るがぬ、砲弾は止まらぬ、深海棲艦達には絶望しかまっていなかったのだ。

 

 それによって前線の深海棲艦駆逐艦達に動揺が走る、足が竦み、前に進もうとする気概が減っていく。

 

 それを感じ取った石壁は、叫んだ。

 

「明石!敵の第一陣の心が折れかけてる!!鉄鋼爆裂弾を起爆しろ!!どうせ巡洋艦以上には大して効かないんだ、出し惜しみせず全弾爆裂させて心を折ってやれ!!」

「はい!工兵隊に入電、鉄鋼爆裂弾、全弾起爆!!くりかえす、鉄鋼爆裂弾、全弾起爆!!」

 

 その瞬間、事前に地中に設置されていた爆弾が起爆する。

 

 余った砲弾を改造することで爆弾の炸薬とし、その周辺に大量のガソリンと鋼材の破片を仕込んだ特製爆裂弾。これが深海棲艦の進行ルートの至る所に埋没していたのである。

 

 起爆されたそれは、まず爆裂によって仕込まれた鉄鋼片を四方八方にばらまく、無論一撃で深海棲艦を殺す程の破壊力こそ持たないが、高速飛来する鉄鋼片は裂傷という分かりやすい「痛み」を心身に刻み込む。

 

 そして、当然ガソリンは起爆と共に轟音と爆炎を生じさせる。

 

 自分たちの周囲のあちこちで一斉に轟音と爆炎が発生し、あるものは炎に飲まれてもがき苦しみ、あるものは鉄鋼片に体をズタズタにされ、無事なものでも衝撃と共に飛来する鉄鋼片で傷ついている。

 

 そう、この戦場に、安全な場所などどこにもないのだと、この場に居る深海棲艦の全員が理解せざるをえなくなる。

 

 さて、実は軍隊において分類上『全滅』と定義される部隊の損耗率は大体3割程度である。なぜ5割にも満たない数の兵が死ぬだけで全滅扱いになるか、皆さまは知っているだろうか。

 

「う……うわああああああああああああああああああああ!!嫌だ!!死にたくない!!死にたくないいいいいいいいいいいい!!」

 

 ある深海棲艦が、隊列を離れて逃げ出す。

 

「おい逃げるな!!クソッ悪く思うなよ!!」

 

 部隊を統率する深海棲艦が、逃亡した部下を射殺しようと砲をむけた瞬間……

 

「私も逃げる!!邪魔をする奴は死ね!!」

 

 上官の目線が外れた深海棲艦が、上官を背後から打ち抜いた。

 

「……お、ご?」

「ちっしぶとい!これでくたばれ!」

 

 痙攣する上官の頭蓋を踏みつぶして止めをさし、深海棲艦が逃げ出す。

 

「こんな所で死んでたまるか!!おいみんな逃げろ!!どうせ南方棲戦鬼のアバズレに部下の区別なんかつかないんだ!!あんな奴の娯楽の為に死んでなんかやるか!!」

「そうだ!やってられるか!」

「あの鬼婆の為に死ぬのなんかまっぴら御免だ!!」

 

 一つの方向にむけて進んでいた筈の深海棲艦が、バラバラの方向へむけ走り出す。もはや、作戦行動をとれる体ではなくなる。そう、これが全滅の扱いになる理由だ。

 

 平均的に、部隊全体の3割が死ぬとその時点で部隊は作戦行動をとれなくなるのだ。士気を維持できなくなる。戦意を喪失する。脱走兵が相次ぐ。理由は多々あれ、結果として部隊を戦力として維持できる限界点が、損耗率3割なのだ。

 

 近現代においてこの数字を無視して戦い続ける事が出来た軍隊は殆ど居ない、文字通りの全滅まで戦えたのは、精々大日本帝国陸軍だけだ。彼らだけが、全体損耗率9割を超えても組織的に戦い続けることができたのだ。帝国陸軍の精強さの源は、彼らの精神力に帰結するのである。

 

 全戦力を一方に集中することでようやく進んでいた深海棲艦達に進軍が停止する。時間当たりのキルレートが、侵攻ペースを上回ったのである。

 

 これによって遂に、深海棲艦達のの進軍が実質的に止まったのである。

 

 

「ぐ!?畜生!!なんだこいつら!?なんだこの要塞は!?山に逃げ込んだ敗残兵じゃなかったのか!?」

 

 先遣隊の隊長が、叫んだ。

 

「これのどこが敗残兵だ!!情報部の無能どもめ!!我々を捨て駒にした南方棲戦鬼のドぐされ女め!!地獄に落ちろおおおおお!!」

 

 大勢の部下を失い、己の運命を悟り、呪詛をはききった先遣隊の隊長もまた、砲弾に穿たれてこと切れた。

 

 戦闘開始より一時間、この時点で第一次攻撃隊の半数が死傷、残りの半数の大半が四方八方へ逃走したことで、戦闘能力を損失した。

 

 

 

 

 要塞決戦の序盤は要塞側の圧勝に終わった。寄せ集め部隊の、弱者の砲弾が、世界を滅ぼす悪鬼の軍勢を押しとどめたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

「南方様!第一次攻撃隊壊滅状態です!敵は第二次大戦時代の日本式地下壕要塞に立て篭もっており、ただの砲撃と突撃では太刀打ちできません!」

 

「ちぃっ!なんて忌々しいもの用意してるのよ……!」

 

 南方棲姫は歯噛みすると、命令を下す。

 

「あれはもう虱潰しに地下壕を潰していくしか攻略法は無いわ!米軍の真似をするのは癪だけど近接し直接砲撃を壕へ叩き込んで一つ一つ穴を潰して行くのよ!第二次攻撃隊出撃!第一次攻撃隊の残存勢力を吸収しつつ前進し、要塞に取り付きなさい!」

「し、しかしあの陣地に突撃するのは自殺行為ですよ!?」

 

「敵に殺されるか私に八つ裂きにされるか選べ役立たずの穀潰しが!貴様らがいくら死のうと変わりはいくらでも居るわ!!」

 

 主砲を向けられた参謀は震え上がって命令を下す。

 

「だ、第二次攻撃隊出撃せよ!第一陣を吸収しつつ突撃し、数を活かしてに敵を圧殺するのだ!急げ!」

 

 ***

 

 

「第一次攻撃隊壊乱!比較的統率を保った部隊は後退していきます!」

「敵第二陣が急速前進!第一陣の残存兵力を吸収が狙いかと思われます!」

「前線ではいまだに砲撃戦は継続中!一部先行巡洋艦が砲撃戦で撤退支援をしているようです!」

 

 第一次攻撃隊は壊乱した、圧倒的数の暴力を、それを圧倒する数の暴力で打ち破ったのだ。

 

 だが、これから出てくるのは、数こそ駆逐艦に及ばぬものの、重装甲に重火力をもつ巡洋艦以上の深海棲艦達である。

 

「ここからが、正念場だ!各員気合を入れろ!」

 

 

「「「了解!」」」

 

 石壁の言葉に、全員が力いっぱい返事をした。

 

 

 ***

 

 ここは最前線のトーチカの内部。

 

 かれこれ一時間近く砲撃を続けている砲兵隊は疲労の極地にあった。

 

 砲弾とは極論すれば火薬の塊だ。発射すれば当然火を吹く。砲弾を撃つたびに砲身は熱を帯び、赤熱する。

 

 故に隊員たちは砲身が熱で曲がらないように水をかけて冷やし、ただひたすらに打ち続けた。

 

 必然的に壕の内部は熱せられた砲身と、排出した薬莢と、砲身にかけた水の蒸気で茹だるような熱さになっている。サウナの中で重労働に従事しているようなものだ。

 

 砲兵隊は排煙で咳が出そうになるのを必死にこらえ、マスク代わりの布切れが水分を吸って呼吸すら困難な状況で、必死に戦っているのだ。

 

 繰り返される轟音に耳がやられる、呼吸も苦しく、視界が霞む。それでも、彼らは止まらない。

 

「ごほっ……次弾装填完了……!!」

「発射……!!」

 

 しかし、次の瞬間砲身が破裂した。

 

 生身の砲兵隊より先に他の部分が限界を迎えたのだ。加熱と冷却を繰り返された事でついに砲身が歪みきり、内部で砲弾が弾けたのだ。

 

 砲兵隊の妖精達は、衝撃で弾き飛ばされた事で足から力がぬける。

 

(ああ……もうここまでか……)

 

 倒れ伏そうとした、その瞬間、背後から抱きとめられた。

 

「しっかりしろ!交代だ!おいお前らその鉄くずさっさと銃眼から引っこ抜いて新しいの突き出せ!グズグズすんじゃねぇぞ!!」

 

 その号令の元、新しい砲がすぐさま設置され、交代要因がまたたく間に砲撃を再開する。

 

 抱きとめられた砲兵は、新しくきた班長の顔を見る。

 

「よく頑張った。安心して休んでろ」

 

 ニッと笑って班長は衛生兵に兵士を受け渡した。

 

「後は俺達にまかせろ!」

 

 そういって、班長の妖精は砲撃指揮に戻った。

 

 担いでくれている衛生兵は、えらくジジ臭い口調で喝采をあげる。

 

「あの坊主はほんに優秀じゃなあ!人員配置と補給のタイミングが絶妙じゃ!欲しいと思った時に欲しいものがすぐそばにある!ああいう奴がワシらの時にもおったら米軍なんぞにまけんかったかもしれんのう!」

 

 耳をやられてよく聞こえないが、それでもなんとなく言いたいことはわかった。

 

 自分達の総司令官が、本当に頼りになる男だという事がだ。

 

 ***

 

 戦争は始まるまでの準備ですべてが決まる。如何にして始めるまでに必勝の準備を整え、それをつつがなく遂行するかが重要なのだ。

 

 そういう意味ではこの石壁という男は本当に頼りになる男だった。

 

 石壁提督は防衛戦に天才的な才覚を持つ男だ。そして同時に、明石と間宮を召喚できたことからも分かる様に、兵站業務にも並外れた適性をもっていたのだ。

 

 絶対に途切れない物資輸送網を整備し、壊れてもすぐ換装できる兵装を準備し、限界がきたらすぐ交代できる兵員を配備する、言葉にすればありふれたものだが、実際にそれを実現するのは並ではない。

 

 この二か月の間に石壁が必死に成し遂げた事は、その体制の確立であった。

 

 まず、数個のトーチカを指揮し前線を支える小指揮所、複数の小指揮所を統括する防衛区画ごとの中核となる中指揮所を新たに設立した。

 

 中指揮所が小指揮所の状況を細かく分析して把握する事で、今まで石壁のいる本指揮所まで直接上がってきていた情報が精査され、纏まってから上がる様になった。これによりいままで一々差配が必要だった細々した業務や指揮の大半がシステマティックに処理されるようになったのである。

 

 各指揮所で対応可能なものはそれぞれに対応し、対応不可能なものは上位の指揮所へ伝達しそこで処理、更にそこでも対応不可のものは上の指揮所へと回す、こうすることで重要な案件のみが本指揮所へやってくるように調整し、本指揮所の石壁が過剰な情報の密集でパンクしないように調整したのだ。

 

 また、各指揮所はそれぞれ小中大の物資集積所もかねている。前線のトーチカにリアルタイムで物資と人員を補給するのが小指揮所で、事前に規定されたシステムに従い上の指揮所へと追加の物資と人員の要求を伝達する。中指揮所はつたえられた小指揮所の状況に応じて資源と人員を随時派遣する。また、多くの案件はここで処理されてしまう。後は処理された情報と一緒に本式所の石壁と間宮のもとに、必要な情報が届き、命令と物資が前線に送られるようになったのである。

 

 

 また、物資の発注方法も調整した。まず事前に[物資ー弾薬]や、[物資ー医薬品]、[人員ー砲兵]、[人員ー衛生兵]、などといった規格化された命令書を最前線に大量に用意しておき、前線の輸送部隊はその命令書と物資をもって小指揮所へと物資を取りに行く。

 

 

 小指揮所では命令書と交換する形で即座に物資を渡されるため、前線には即座に物資が届く。そして、その命令書はそのまま中指揮所へ運ばれる。

 

 中指揮所へ運ばれた命令書は即座に集計される為、ここで各小指揮所の資源や人員の状況可視化されるのである。可視化されたデータを元に、前線に補給された小指揮所の物資人員が中指揮所から小指揮所へ随時送られるのだ。その際、ついでに命令書は元の位置へ戻される。物資と人員の差配が小中の指揮所の間で完結しているのだ。

 

 最終的に中指揮所は物資と人員の残数のみを本式所に伝達することで、その分を間宮にドカッと補充してもらうのである。

 

 一見煩雑に見えるが、長時間の連続戦闘時にこそこの体制が映えてくる。なにせ、どれだけ戦っていても正面戦力に陰りが見えてこないのだ。最適なものが最適な場所へ最適なだけ届くのである。弾がほしいと思った時にそこに弾があり、もう無理だと思った時に交代がくるのである。交代や弾切れの時間ロスがほぼないのだ。前に居る人はひたすら戦闘に集中すれいいし、後ろの人はひたすら補給に集中できる。泥縄式に補給や交代を行わなくてよいのだ。

 

 さらにいえば、指揮官の仕事は石壁だけができることと石壁以外もできることに大別でき、石壁以外もできることを石壁がやっていては大切な将校の無駄遣いである。石壁は石壁にしか出来ない事をやるべきなのだ。これは石壁という大ゴマを最大限活かすためのシステムであると言ってもいい。

 

 これはコンビニの集配送システムや、ジャストインタイム、通称カンバン方式と呼ばれる日本が世界にほこる物流システムを石壁なりにアレンジした集配送システムである。必要なものを、必要なところに、必要なだけ持っていく。これがロジスティクス(兵站)の本質であり、コンビニの集配送システムはその一つの解答である。

 

 この一ヶ月、石壁と間宮の苦労は身も蓋もないことを言うならば、如何にしてマンパワーでこのコンビニの配送を再現するのかの繰り返しであった。

 

 効率の良い形を模索し、それを試し、また改善する。それでも出てくる混乱を臨機応変に対処する。後はひたすら訓練を繰り返しヒューマンエラーを減らしてきたのだ。

 

 石壁と間宮と、兵站管理部の妖精たちの血と涙と汗の結晶であるこの配送システムは、事前の想定通り、いや、それ以上に上手く回っていた。

 

 後に石壁式要塞と名付けられこの世界の歴史に刻まれる、この要塞の真骨頂はここからであった。

 

 


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