戦闘開始より一時間半、残存駆逐艦隊を吸収した巡洋艦隊はそのまま前進を始める。だが、あまりの弾幕の濃さに部隊が尻込みしているのが遠目からでもわかった。
「南方棲戦鬼様、第二次攻撃隊は第一次攻撃隊を吸収し、要塞線に接近を始めました」
「……今度は逃げられないようにしないとね」
「は?」
「本隊をこのまま前進させなさい。第二次攻撃隊が要塞攻略にかかると本隊がその後方から砲撃する事でトーチカを潰すわ」
「……味方ごと、敵を撃つのですか」
「なにを当たり前の事を言っているの?所詮あんたたちは代わりの利くコマよ、私の為に死ぬのが仕事じゃないの。わかったなら行きなさい、私があんたを殺す前に」
「……はっ」
***
南方棲戦鬼の非情の命令が、前線の各員に届くと、全員が顔を引きつらせる。
「た、大変だ!南方棲戦鬼の奴、私たちごと敵を撃ち殺すつもりだ!」
「なんだって!?クソったれ!このまま遠距離で打ち合っていたら、敵じゃなくて味方に殺されちまう!!」
「あの糞女なら絶対やる!命令を無視したら絶対に殺されるぞ!」
前回、死傷率三割を超えたら部隊は全滅するといったが、ある方法を取ると戦わせる事も可能となる。
「既に先行した監視部隊が後ろに付いているんだ!逃げられない!前に進むしかない!」
後ろから逃亡する味方を撃つことで、後ろではなく前方の敵へと味方を逃亡させるのだ。こうすれば誰もが戦うしかなくなる。
「全軍突撃!!突撃だ!!生きるためにただひたすら前へ!!前へ駆け抜けろ!!」
赤軍系の軍隊の得意技、『督戦隊』による部隊の強制的統率である。
***
「……!敵の動きが変わった!総員注意しろ!あれは壕を潰しに来てるぞ!」
石壁の指揮の元、敵を近づけないようにさらに砲撃は勢いを増す。だが、鬼気迫る程の捨て身の突撃を行う深海棲艦の物量を前についに要塞に肉薄を始める者が現れ始める。戦いは新局面を迎える。
「装甲の分厚い重巡以上で構成された第二次攻撃隊が突っ込んできました!このままでは要塞に肉薄されます!」
「トーチカ部隊は射撃をやめるな!それをやめたら一息に潰される!」
石壁は数秒考えたあと、命令を下す。
「鳳翔」
「はい」
「部隊に伝達、ここが正念場だ、虎の子をだすぞ」
「はい!」
鳳翔は駆け出した。
「鳳翔さん!特殊兵装の準備はできています!」
「我々が運用を補助します!行きましょう!」
その鳳翔と、一部の工兵が合流して駆け出す。
「僕が守る要塞を、そう簡単に落とせると思うなよ……!」
***
南方棲戦鬼の命令と、それを実行する督戦隊の存在に、深海棲艦達は死に物狂いで前方へと疾走し始めた。先程までとは進み方が違う、死を恐れて竦んでいた足が、死から遠ざかるために前に突き出していくのだ。その進み方は雲泥の差があった。
「走れ走れ走れ!!兎に角走れぇぇぇぇ!!!!」
「止まるな!!前と後ろから撃たれて死ぬぞ!!」
「数発で死ぬほど重巡はやわじゃないんだ!!下手に回避を考えるより全力で突っ込んで被弾を減らせえええ!!」
前にも後ろにも逃げ場がない彼らは、ただひたすらに前へ向け走る。当然、一直線に走るしかない彼女達に、飛んでくる砲弾を避ける術はない。
「おごっ!?」
「がっ!?」
「けふっ……」
「ごああああああああ!?!?」
夥しい数の砲弾の雨が、深海棲艦の頑強な肢体を食い破り、モノいわぬ骸を量産していく。
当然だ、彼らは本来迂回して然るべき要塞の、その最も分厚いキルゾーンへとむりやり攻め込んでいるのだ。砲弾の命中率は跳ね上がり、砲撃のたびに深海棲艦は藁屑をかき混ぜたように吹き飛んでいった。
先程までと同じように、圧倒的な鉄量の投射が深海棲艦をただひたすらに叩き潰していく。
だが、先ほどまでと違って、装甲の分厚い巡洋艦達を簡単に押しとどめる事は出来ない。
「て、敵が止まりません!?」
「敵が要塞に接敵します!」
戦場を駆け抜ける深海棲艦はついに要塞にとりついた。
***
「はぁっ!はぁっ!」
「やっとトーチカだ!……これ、どうやって潰せばいいんだ!?」
遮二無二駆け抜けてきた巡洋艦達が眼前の要塞陣地を前に一瞬立ち止まる。
「止まるな!とにかくトーチカへ手を突っ込んで直接撃つしかない!南方棲戦鬼が来る前に落とすんだ!!」
「ひぃ!?わ、わかりました!!」
深海棲艦達は遮二無二に駆けて手短なトーチカへ飛びつくと、手当り次第にトーチカ内部へ砲を突っ込んで射撃する。重巡級の砲がまともに飛び込んだトーチカは、内部の弾薬に引火して爆発した。
「い、痛いよ!?爆発で腕がああああ!?」
「ゴガッ!?クソっ、どこに居ても、周囲のトーチカから狙われるよう出来てんのか!?なんつう構造だ!!」
「トーチカを砕いて中へ!とにかく中へ押し込め!!それしかない!!」
その衝撃に砲を突っ込んだ重巡ですら片腕を欠損したり、衝撃で吹き飛んだりとただではすまないが、今まで手も足も出なかった状況とは打って変わって単体戦力の質にまさる重巡側に有利となる。
「がああああああああああ!!??」
「くそったれ!負傷者を後方へ移送しろ!このトーチカはもう使えん!!」
「衛生兵ー!!!」
トーチカの外も地獄だが、内部もまた地獄であった。爆発に巻き込まれて少なくない妖精が重軽傷を負い、死者もでてしまった。それでも事前に想定された通りすぐに対応できるのは流石であろう。
「落ち着け!各トーチカは互いに援護するんだ!近づいて背中を晒した奴から撃ち殺せ!!」
石壁の指揮に基づいて各トーチカが砲を敵に叩き込む。要塞の各トーチカに群がる巡洋艦が、横合いや背後から撃ち抜かれてどんどん死んでいく。
だが、遂に要塞に穴が開き始める。トーチカの銃眼がくだけ、進入路が生まれる。
「第3中指揮所所属、第4小指揮所より通達!敵がトーチカ内部へ侵入!!現在応戦中!応援求むとのことです!!」
「ついに内部に入る奴がでてきたか!すぐに増援を送れ!!」
***
小指揮所はこういう時の為の防衛拠点としての役目もある。これは伊能との演習の果てにたどり着いた、こじ開けられた穴からの侵入を押し留めるための構造であった、そして、その戦訓がいまここにきて生きている。
「ひるむなぁ!!此処を抜かれるは男の恥だ、大和魂を見せてやれ!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」
小指揮所では押し寄せる巡洋艦級の敵を前に必死の攻防が行われていた。
「くたばれえええええ!!!!」
「ぐがっ!?」
指揮所の防衛用に設置された12.7cm連装砲が火を吹くと、正面にいたリ級が2発ともくらって吹き飛んで倒れる。
壁に叩きつけられて一瞬動けなくなった瞬間を、妖精達は見逃さない。
「いまだ!突き刺せ!!」
「「「吶喊!!」」」
倒れ込んだリ級に吶喊して群がった妖精達が一斉に銃剣を突き刺してリ級を血祭りにあげる。閉所での接近戦ならサイズの小さい妖精達の独壇場であった。
「指揮官殿危ない!」
「ちい!」
別のリ級が鋼鉄の腕を振り回して隊長妖精を叩き潰そうとすると、すぐさま回避して抜刀する。すると玩具にしか見えなかった軍刀が巨大化し、実物大の軍刀へと変化する。
「陸軍の男を舐めるなよバケモンがああ!!!」
体躯の差を技量で補ってリ級と隊長が切り結ぶ。振り回される至近の一撃を全て紙一重で躱して跳躍、身の丈に比べ大きい軍刀を振るうと、リ級の片腕がきり飛ばされた。
「がああ!?」
半狂乱のリ級が闇雲に機銃や砲を乱射するが、慌てずに火線を避けて全てを躱す。
「貴様の攻撃など、伊能提督の容赦のなさに比べればどうということはない!!死ねい!!!」
全力の飛び込みで間合いを一瞬で詰める妖精。
雷光の如く刃が煌めくと、次の瞬間首をなくした躯が坑道に転がった。
「おのれ!雑魚妖精の分際で!しねええ!」
その瞬間深海棲艦が機銃弾を放つ。だが隊長妖精は慌てずに死体となったリ級の陰に潜り込み弾丸を死体で防ぐ。
「各員深海棲艦の死体を盾にしろ!!艤装部分はかなり硬いぞ!!」
「はい!」
元から、帝国陸軍は劣勢前提の軍隊だ。故にこういう劣勢時にこそ、その泥臭さと経験が役に立つ。
小指揮所の陸軍妖精達は筋金入りの陸軍の男達だ。このような状況でもまったく揺るがずに敵と戦い続けている。勇猛な指揮官に率いられた羊の群れは時として狼の群れすら撃退しうるのだ。ましてここにいるのは全員獅子だ。勇猛な指揮官に率いられればそれだけで凄まじい戦力となる。
「男を見せろ野郎ども!!!ここが正念場だ!!!ここで敵を引き付ければそれだけあの石壁提督と艦娘の嬢ちゃん達が楽になる、靖国へいくのはそれからでも遅くはない!!」
「はっは、ちげえねぇや!!!」
「こんな晴れ舞台一生に何度あるかわかんねぇしな!派手に散ってやらぁ!!」
「お伴しますぞ隊長殿!!」
地獄の戦場で頼りになるのは己の力と隣の仲間、今周りにいる仲間達は、本当に頼りになる男ばかりであった。
背中合わせで銃を構える妖精達が軽口を叩く。全員別方向の敵を向いていて互いの顔は見えないが、ふてぶてしい笑顔が目に浮かぶようだった。周りで戦う妖精たちも隊長に同意見のようで、皆の戦意は高まるばかりだ。
「第4小隊、いくぞおおおおおお!!!」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」
鉄より硬い絆で結ばれた仲間達が、強いだけの化け物に負ける道理など、無いのだ。
***
要塞各地の指揮所における必死の防衛が稼いだ時間が、石壁達に好機をもたらす。
いくつか空いた穴に深海棲艦達が群がった結果、内部で部隊が詰まって穴の周囲に敵が膠着したのだ。
小指揮所が抜かれない限り、敵はそれ以上侵入できない。
さらに、突入してきた巡洋艦達が十二分に要塞に肉薄したことで、もはや彼らは逃げる事さえできない、撤退できる分岐点を部隊全体が超えてしまったのだ。
この要塞の、真の火力を知らないうちに。
「提督!鳳翔隊規定位置につきました!」
「よし!作戦開始せよ!モグラたたき作戦開始!」
「はい!」
相変わらずのネーミングに、指揮所の妖精たちは笑みを見せた。
***
「よし!このままこの橋頭堡から要塞内部を……」
要塞に肉薄した巡洋艦の指揮官クラスが、新たに指揮を出そうとした瞬間、体に小さな衝撃がはしる。
「……あ?」
見下ろして気が付く、自身のドテッ腹にいつの間にか矢が突き刺さっているのだ。そして、その矢にはいくつかの『カード』が結ばれていた。
「なんーーーーー」
次の瞬間、カードが起爆した。
轟音とともに固い筈の重巡の上半身が吹き飛ぶ。
それを合図とした様に、明らかに先程より火線が増す、要塞から降ってくる砲弾が明らかに増大し、威力が桁違いのものも一緒に降ってくる。
「鳳翔隊!一斉射撃開始!」
「「「はい!」」」
鳳翔の部隊とは、虎の子の艦娘部隊だ。20cm連装砲を構えた重巡や軽巡が今まで隠していた個人用トーチカから隠れながら発砲しているのだ。
鳳翔自身も隠れた位置から弓で攻撃している。だが、ただの弓ではない。この弓の矢は三連装魚雷のカードが結ばれており、対象に突き刺さると起爆するように設定されているのだ。先ほど敵重巡を吹き飛ばしたのもこれだ。 例え産廃兵器とはいえ、至近距離で数枚分の三連魚雷カードが炸裂すれば如何に重巡といえど良くて重症、普通なら粉々だ。石壁が言っていた、鳳翔の弓の腕を活かす秘策である。
鳳翔は鍛えに鍛えた弓の腕で指揮官らしき深海棲艦を一体一体確実に仕留めていく。純粋な能力では赤城や加賀達には叶わないが、元一航戦、日本最初の空母は伊達ではない。こういう技の領域ならば鳳翔の技術は一級品だ。控えている妖精から矢を渡されると即座に構え、放つ。それで面白いように敵が吹き飛んでいく。
「ち、畜生!やつら巡洋艦以上の手駒を隠してやがったのか!?」
第二次攻撃隊の深海悽艦達は、自分たちが飛び込んだキルゾーンが当初の想定より何倍も強力なことにやっと気がついた。
120mm砲の数の暴力の中に紛れるようにして、部隊の指揮官を狙った200mm砲弾が飛んでくるのだ。
200mmは当然120mmより強力だ。艦娘の形態であったとしても、その威力は十分に必殺の破壊力となる。部隊を動かす頭脳が死ねば、それだけで部隊全体の戦闘能力は何割も低下していく。
その上に反撃しようにも相手の艦娘は個人用トーチカの中で叩くべき敵がどこかもよくわからないのだ。仮にどのトーチカか気が付いて反撃を行ったとしても、その段階ですぐさま別のトーチカへと艦娘は即座に移動できるのだ。人の体に凝縮された巡洋艦の火力は、小回りの良さと破壊力を両立し、トーチカの存在と相まってその凶悪さを桁違いに跳ね上げている。
深海棲艦達は、トーチカにこもった艦娘がここまで凶悪だとは、想像だにしていなかった。艦娘は海の上にいるものという固定観念にとらわれていたことに彼女達は絶望した。
要塞で受け止め、砲撃で削られる深海棲艦達は、石臼ですり潰されるように数をへらしていく。すでに、半数が鉄くずになっている。
「南方棲戦鬼が到着した!?や、やばい!!」
「げっ……!?」
本来喜ぶべき援軍の到着に、隊長のリ級は絶望し、自分たちの運命を悟った。
「……終わりだ」
その瞬間、後方からの射撃でリ級達は吹き飛んだ。
***
「ここから戦艦砲を直接射撃、第二次攻撃隊を撃ったトーチカに狙いを定めて吹き飛ばしなさい」
「それでは味方も巻き込んでしまいます!」
「私はやれといったのよ。いいから撃ちなさい」
「……」
「……返事は?」
「……はい」
次の瞬間、南方姫率いる第三時攻撃隊は砲撃で位置のばれたトーチカ一つ一つに戦艦の砲撃を直接打ち込んで潰しはじめた。
最初の大雑把な艦砲射撃と違い、ほぼ直接戦艦の艦砲射撃を喰らえば、流石にトーチカも耐えられない。至近弾でトーチカの銃眼が潰れたり、運が悪ければ中に砲弾が飛び込んで一撃で爆砕されるトーチカも出はじめた。
しかも、後方からの艦砲射撃に泡を食った第二次攻撃隊が、今まで以上の死にものぐるいで攻撃を始める。そうなると第三次攻撃隊に射撃を向ける事ができず、更にトーチカが潰される。非道極まりないが効果的な波状攻撃に、石壁は唇を噛む。
「なんて奴だ……味方ごと撃つなんて……!」
誰かの呟きは、その場のすべてのものの心境でもあった。
(ここが、切り札の切り時か……!?いや、まだだめだ……遠い……もうすこし食いこませないと対応される……!)
石壁の切りうる手札の数は、そう多くはない。今切ればもう後がない。
(なにか……何か手は……)
その時、司令室の中へ戦艦棲姫がやってきた。
「そろそろ、私の出番じゃないかしら?」
「……」
その突出した能力と巨体から、敢えて要塞の布陣に組み込まなかった戦艦棲姫。単騎で彼女を出してはいくら強力でも潰される、よしんば大丈夫でも押し返して撤退されたらそれこそ意味がない……そこまで考えた時、石壁は天啓を得た。
「……作戦に組み込まれなかった艦娘全員、盾をもって要塞上部三十八番陣地へ集合。明石、大規模スピーカーを陣地周囲へありったけ設置してくれ、十分以内だ。」
「は!?あそこは前線から遠すぎて砲弾が殆ど届きませんが!?」
「いいから急げ!時間がないんだ!」
「は、はい!工兵隊ついてきて!」
ガタガタと大急ぎで明石たちが指揮所を飛び出す。それを見送ったあと、石壁は戦艦棲姫へ向き直る。
「姉を叩き潰す覚悟はできているか?」
「無論よ、私の提督の為ならね」
「頼もしいかぎりだ!『行くぞ』!」
「はい!……うん?『行くぞ』?」
「僕自ら出撃する!」
「「「「えええええええええええええ!!!!????」」」」
石壁の発言に、指揮所の全員が驚愕の声を上げる。
***
「南方様!あ、あれは!?」
「え……?」
戦場のはるか彼方、要塞線の後方上部の一角に、突如として、異形が現れた。
それは紛れもなく深海棲艦と艦娘であった。艦娘は数名ほどで目立たないが、その一団の中央にとびきりのデカブツが鎮座しているために遠くからでもよく見えた。
「戦艦棲姫!?うそ、なんで!?」
動揺する。以前建造に失敗して鎮守府ごと吹き飛んだはずの妹がそこにいるのだ。
混乱の極みにある南方棲姫に対して、遥か彼方から戦場の爆音にも負けない大音量の声が降ってくる。
『あーあー、マイクチェックマイクチェック……よし、いけるな』
戦場に似つかわしくない若い男の声だ。
南方棲姫が訝しんでいると、聞き捨てならない言葉が大量に飛んでくる。
『はじめまして南方棲戦鬼、僕はこの泊地の総司令官石壁だ。早速だが本題に這入らせてもらう。君の妹君を鎮守府からつれてきたのは僕達だ。正確には、君の妹が入った建造プラントごと強奪したんだけどね』
「な……!?」
(ありえない、だって建造プラントは確かに鎮守府にあったのに)
そう思っていると、石壁の演説は続く。
『そういえば、先日あの鎮守府が大爆発したね?こっそりすりかえておいた偽プラント爆弾の破壊力はどうだった?だれが間抜けにもあのプラント爆弾にひっかかったんだい?』
「!!!!!」
あの大爆発は妹ごとプラント爆破したのではなく、プラントそのものが偽物にすり替わっていたのだ。その事に南方棲戦鬼がようやく気付く。自身の妹を盗んだ男が目の前にいるのだ。
南方棲姫の全身の血が怒りと憎悪で沸騰する。
『その反応でマヌケがだれかよくわかったよ、どうだった?思わず天にも登りそうだっただろうマヌケ。あれから半月、どうして動かないのか疑問だったけど、動きたくても動けなかったんだね!君が引っかかってくれたお陰で僕らは休養を楽しめたよありがとう!君の妹君も今ではすっかり馴染んじゃってね、もう姉さんなんてどうでもいいってさ!妹が楽しそうで良かったねぇ』
石壁はあえて神経を逆撫でするような声音で南方棲姫をおちょくり続ける。
『でも君妹に捨てられるなんて人望無いねぇ?まぁ、部下の管理はできない、プラントがすり替わっても気づけない、罠に自分から引っかかるマヌケと、三拍子揃って駄目指揮官丸出しだしね!ねぇどんな気持ち?ねぇどんな気持ち?心待ちにしていた妹を敵に寝取られてどんなきもち?もしかしておこ?おこなの?妹寝取られて激おこなの?』
それは最も古典的にして、嵌れば強い兵法の一つ。
「……ろす」
「な、南方棲姫様?」
「絶対に殺す!!!!」
『挑発行為』による敵部隊のつり出しである。
「空母は全艦載機突撃!あの下郎を戦艦棲姫ごと吹き飛ばしなさい!第三次攻撃隊は全砲撃をアレに集中させろ!!!」
煽り耐性ゼロの南方棲戦鬼は、石壁の挑発に簡単に激発した。彼女のあまり長くない艦生においてここまで真っ向から挑発された経験はない。そして、挑発行為に我慢するような強さも持っていない。怒りを我慢することが出来ない、人類への憎悪の化身である南方棲戦鬼にとって、挑発は正しく効果てきめんな兵法であった。
「ここからでは砲撃が届きません!」
「なら届くところまで前進なさい!!全軍突撃!!!!」
石壁のプライドとか恥とかを全部投げ捨てた捨て身の挑発により、戦場が大きく動いた。戦いは最終局面を迎える。