艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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本日は二話投稿となっております。こちらは二話目です。
先に第二十四話「戦いが終わって」を閲覧してからこちらを読んでください。
最後まで楽しんで頂けると幸いです。


第一部 エピローグ

 

 

 激動の要塞決戦が終わり、石壁が退院した数日後。石壁達ショートランド泊地の面々は沿岸部の旧泊地へと足を運んでいた。

 

 

 

「おっと……たはは、まだ慣れないな」

「大丈夫ですか?提督」

 

片目を失った事で遠近感に齟齬が出るようになった石壁は、躓いたところを鳳翔に支えられる事で難を逃れた。

 

「提督、私が背負って運びましょうか?」

「あはは、流石に鳳翔さんに背負って貰うのは男のプライドがねぇ?」

「お姫様だっこでもいいですよ?」

「勘弁してください……」

 

 鳳翔の冗談に石壁が苦笑する。

 

「折角だから、自分の足で歩きたいんだ。鳳翔さん、手を貸してくれる?」

 

 自然に差し出された手を、鳳翔は握った。

 

「はい、私の手でよければ。いくらでもお貸ししますよ、提督」

 

 二人は再び歩き始めた。

 

 ***

 

 

「ははっ、ボロボロだなこれは」

 

 急造の泊地であったショートランド泊地は、その主人の正式な着任式を待たずして一夜にして深海棲艦に奪われた。

 

 

 その段階で既に相当のダメージを追っていた泊地は、連日のゲリラ戦の結果さらにその損害を拡大させた。そしてついには工廠の爆破作戦によって半壊状態に陥っており、控えめに行って紛争地帯の廃墟の如き様相を呈していた。

 

「まあ、アレだけ大量の魚雷を爆裂させたでありますからねえ……むしろよくこれだけ建物が残っていたというべきでありますよ」

 

 

 石壁の言に、ゲリラ戦の指揮をとっていたあきつ丸が応じる。

 

 

「なに、戦場の傷は男の勲章というように、傷だらけの城塞だって歴戦の名城の証ではないか?」

 

 伊能がいつものようにふてぶてしく軽口をたたく。

 

「その傷跡の大半は私達の攻撃なんですけどね……」

「なんというマッチポンプだ」

 

 鳳翔と石壁が苦笑いをしながらそう呟くと、全員が笑った。

 

「なあに、壊れただけならまた直せばいいんですよ!なんたって私たちは一から要塞だって作ったんですから!たかが泊地の一つや二つ、すぐに直せますよきっと!」

 

 明石が明るくそう声を上げれば、そうだそうだと明石配下の工廠妖精隊が応じる。

 

「ははっ、それもそうだね」

 

 石壁はそう笑うと、背後を振り返った。

 

 

 そこには、彼の大切な仲間たちが勢揃いしていた。

 

 人間、艦娘、妖精、深海棲艦……

 

 石壁という男が、その命をかけて守り抜いた仲間たちがいた。

 

「……」

 

 

 全員の顔を脳裏に焼き付けるように、石壁が皆を見渡していく。

 

 見知った顔、あまり話したことのない顔、確かにそこにあったのに、今は見つからない顔。

 

 石壁は一瞬、何かを噛みしめるかのように残った目を閉じると、開いた。

 

「……よし」

 

 石壁が声を張り上げる。

 

「じゃあ、やろうかみんn……」

「あ、そうだ石壁、一瞬だけそこに座れ」

「え?」

 

 良い所を切られて石壁が伊能の方をむいた。

 

 そこには、ダンボールがつみあげられていた。

 

「え?なに?あのダンボールがどうかしたの?というかいつ用意したの?」

 

 伊能の意図がよくわからない石壁だったが、とりあえずその言葉にしたがってダンボールへと向かった。ダンボールの隣に置いてある椅子代わりの木箱に座る。

 

「なに、初日にいきなり泊地が陥落したせいで、出来なかったことが一つあってな。先にこっそり来て用意しておいたのだ」

 

 そういいながら、伊能が石壁の隣に立って、全員の方をむいた。

 

「さて、こうやってようやく俺達は『泊地』をとりもどし、正式にここへ着任できるわけだ」

 

 伊能はそういいながら、帽子をしっかりと被り、身嗜みを整え、背筋をのばした。それだけで普段の不真面目さが何処かに隠れて、謹厳な軍人のように見えてくる。

 

 ガッシリした体格で見目の良い奴は得だなと石壁は思った。

 

「そして、提督の着任の際には『こういう』のが昔からの伝統でな?」

 

 そう言いながら、伊能が胸いっぱいに空気を吸い、声を張り上げる。それと同時に、一斉に妖精や深海棲艦、艦娘たちが笑顔で声を揃えて言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

 

 

『提督が鎮守府に着任しました!これより艦隊の指揮に入ります!!』

 

 

 

 

 

 

 この場に居る千名近い全員から一斉に言葉を向けられた石壁は、驚きに言葉を失った。

 

 

「おめでとう石壁!これでようやく、貴様も提督として『着任』できたな!」

 

 伊能のしてやったりという感じの満面の笑みと、石壁の鳩が豆鉄砲を食らった様な珍妙な顔の対比に、全員が穏やかに笑った。

 

「はははっ……なんだそれ!いまさら『着任』はないだろう!順番無茶苦茶だろう!あははははははははは!!」

 

 

 石壁は笑った。腹を抱えて、涙を流しながら笑った。

 

 つられて、その場に居た全員が楽しそうに笑い出した。

 

 笑い声はどこまでも広がる青い空と海の中で、いつまでも響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 かくして、二ヶ月にも渡る戦いを経て鎮守府に着任した一同は、これよりようやく『鎮守府の運営』を開始するのであった。

 

 

 だが、これが石壁という男の英雄譚にとって文字通りまだ『序章』であったことを、まだ誰も知らなかった。

 

 

 ショートランド泊地の鎮守府正面海域……つまり鉄床海峡(アイアンボトムサウンド)を巡る死闘、その火蓋が切られる日は近い。

 

 

 果たして石壁たちは無事鎮守府正面海域を開放できるのであろうか?それはまだ誰にもわからない。

 

 

 

 

 

 

 

 




ここまでお付き合いいただきままして誠にありがとうございました。

これにて第一部は完了でございます。

第二部に関しましては、暫く書き溜め期間を置いてから開始させて頂きたいと思います。

次回をお待ちの皆様には大変申し訳ございません。

これもより良いお話を皆様にお届けする為の準備期間だと思って頂けると幸いです。

それではまた次回の投下でお会いしましょう。


追記
活動報告であーだこーだとチラシの裏的な後書きを投下しますが、
読まなくても本編には一切影響はございません。


追記2
活動報告にケッコンカッコカリに関する考察を投稿しました。
読まなくても本編に一切影響しませんが、もしよろしければどうぞ

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