艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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大変ながらくお待たせして申し訳ございませんでした。
ようやく書き溜めが出来たので、順次投稿していきたいと思います。

楽しんで頂ければ幸いです。







念のため注意
この物語はフィクションであり、実在するすべてのモノと関係ありません。
また、特定の艦娘を馬鹿にする意図も一切ございません。


幕間 石壁の友人たち

 これは南方棲戦鬼との決戦がおこる少し前の話。戦艦棲姫が泊地にやってきてから要塞の存在が発覚するまでの話である。

 

 談話室で石壁や伊能を始めとしたいつものメンツが集まって歓談をしていると、戦艦棲姫が何の気なしに呟いた。

 

「そういえば提督」

「ん?」

 

 戦艦棲姫の膝の上でお茶を啜っていた石壁に、彼女が問う。

 

「士官学校に居た頃って、伊能提督以外に仲の良かった友人とかって居たの?」

「んー?まあ、普通に友人はそれなりに居たけど?」

 

 石壁は別にボッチじゃなかったぞと言いたげに戦艦棲姫をみる。

 

「んー……じゃあ言い方を変えて、伊能提督と同じくらい仲の良い人って他に居たのかしら?」

「俺と?」

 

 話が飛んできた伊能が顔を上げる。

 

「ほら石壁提督って誰とでもそれなりに仲良くやれるけど、本当に懐に入れる人間は結構選ぶタイプじゃない?」

「確かにな、石壁は友人扱いと身内扱いの間に壁があるタイプだしな」

「そうかなぁ?そんなに区別的な扱いしてたっけ?」

 

 石壁が若干訝し気に首を捻ると、鳳翔が補足する。

 

「提督は誰にでも基本的に友好的ですが、本当に大切にしている友人の為なら骨身を惜しみませんから……どちらかというと壁があるというより行動に差がでるという感じでしょうか」

「……人間だれだってそんなもんじゃないかな?」

 

 石壁は鳳翔の指摘に若干恥ずかしそうに顔をかいた。

 

「あきつ丸が知る限り、これは所謂ツンデレという奴でありますな」

「男のツンデレなんぞ気色の悪いだけだがな」

「う、うるせぇ!誰がツンデレだ!」

 

 石壁がそういった後、戦艦棲姫が石壁に問う。

 

「じゃあ提督、石壁提督の親友について教えてよ」

「ん~〜……」

 

 石壁はしばし熟考したあと、話し出した。

 

「じゃあ、僕の親友たちの話をしようか」

 

 そういって、石壁は話し始めた。

 

 ***

 

 石壁が伊能とペアを組むようになったのは士官学校の一年目の後半からだった。以前にも話したが、石壁と伊能はあまりにピーキーすぎるスペックのせいで一年目にして既に退学(リタイア)がちらついていた。

 

 その為教官達の計らいによってコンビを組むことで、単独ではなく二人の協力でかろうじて落第を回避することに成功したのである。

 

 そして二年目。初のクラス替えであったが。教官の方々は石壁と伊能は引き離すべきではないという意見で一致していたため、二年目も変わらず二人は同じクラスであった。

 

 今回の回想はその二年目が始まってから少し経った頃から始まる。

 

 

 食堂の一角、テーブルを挟んで二人の男が座っていた。一人は我らが主人公、石壁である。

 

「会わせたい人がいる?」

 

 石壁が対面に座る青年へそういうと、青年が話し始める。

 

「ああ、私の友人なのだが、少々特殊な来歴でな。伊能と上手くやれる石壁ならば、きっと彼とも仲良くやれるだろうと思ってな」

 

 青年は生真面目そうな切れ長の瞳で、黒髪の短髪。軍服をカシッと着こなしていおり清潔感のある身だしなみをしている。

 

 服装や見た目の固さも相まって、一言でいうと「真面目な委員長」といった風貌の人間だ。

 

 実際彼は真面目で性格も優良な青年である。座学・実技ともに上の中をキープする秀才であり、能力的に問題児である石壁と違って優等生らしい優等生であった。

 

 彼の名は新城定道(しんじょう さだみち)。石壁の親友の一人であり、後の演習において扶桑と山城を貸してくれる提督である。

 

「ふーん……まあ、新城の紹介なら大丈夫でしょ。性格が悪いってわけじゃないんでしょ?」

「……あ、ああ、性格が悪いという事はないな。うん。むしろ凄くいい奴だ。いい奴なんだ」

 

 石壁の問いに、若干目を泳がせる新城。

 

「……なに、その歯に物が挟まった様な言い方」

「いや、その……まあ、なんだ。会えばわかるよ……連れてきてもいいかな?」

「あ、ああ」

 

 石壁は新城の言い方に不安を覚えたが、他ならぬ親友の頼みであるから、とりあえず会うこと自体に異論はなかった。

 

「じゃあ、少し待っていてくれ」

 

 そういって新城は席を立つと、食堂を出ていった。

 

「……一体どんな奴なんだ」

 

 石壁は頼んだパフェをつつきながら、新城をまった。

 

 ***

 

 一旦視点を現代に戻す。

 

「新城提督って演習で扶桑と山城を貸してくれた提督だったわよね?」

「そうだよ、真面目が服を着ているような誠実な男なんだ。とても良い奴だよ」

 

 戦艦棲姫の問いに石壁が頷く。

 

「新城は優等生らしい優等生でな、落ちこぼれかけた俺たちを見かねて良く手を貸してくれたのだ。困っている人をほっておけない善人だな」

「ああ、そりゃ石壁提督と気が合うわよね」

 

 戦艦棲姫がそういいながら膝の上の石壁の頭を撫でると、石壁が顔をしかめる。

 

「あんまり撫でないでくれよ……」

「良いじゃない減るもんじゃないんだし。ほら続き続き」

 

 石壁は諦めた顔をして続ける。

 

「話を戻すけど、新城は所謂秀才というやつで、座学も実技も全般的に8割程度の成績を収めていた。1を聞いて10を知る天才ではなく、1の後に2,3,4と一歩ずつ着実に進むタイプだよ。積み重ねた努力と根性でいつも学年の上位に居る様な男だった……こういうとこっぱずかしいけど、僕は新城の事を尊敬しているんだ。彼ほど努力している人間を僕は知らないから」

「へぇ……」

 

 石壁は新城の優秀さを語るとき、まるで自分の事の様に嬉しそうに語った。それだけで、石壁がどれだけ新城の事を好ましく思っているのかを戦艦棲姫は察することができる。

 

 防御一辺倒の落ちこぼれであった自分とは違う新城の有能さは、石壁にとって心底羨ましいモノであるはずだ。にも拘わらずその事を喜べるのが、石壁の人間性であり、仲の良さの証左なのだろう。

 

「新城提督はバランスに優れた指揮をとられる方で、万事基本に忠実です。有力な戦力を定石にそって配置し、手堅く勝ちに行くタイプでしたね。大勝ちはなくとも大負けもしない。勝てる戦いでは押し、負けそうな戦いは素直に引いて勝機をまつ。当たり前の戦いを当たり前に行える、安定感のある『良将』といった感じでしたね」

「『この人の元でなら安心して戦える』……部下からそんな風に思われるタイプの提督でありましたな。無茶苦茶はしない。大負けもしない。堅実な戦略をとってくれる……付き従う側からすれば大当たりの将官でありますなぁ」

 

 石壁や伊能はそれぞれ攻撃と防御に関しては間違いなく天才だが、それ以外は基本ダメダメだ。ピーキーもピーキー、鈍亀とイノシシである。得意分野では天下無双でも、ちょっと使いどころを誤れば途端に役に立たないか自爆するのがオチである。大体なんでも卒なくこなせる新城は二人にとって尊敬に値する提督であった。

 

「新城の初期艦である扶桑も山城も、困っている人をほっておけないタイプだしな。特に山城の構いたがりな所は、新城の委員長気質な所とそっくりだな」

「あ~~……言われてみればそうだね」

 

 自分の事を弟扱いして何かと構って来る山城の態度を思い出して、石壁は苦笑した。

 

「新城提督の事はよくわかったけど、その人が連れてきた提督ってどんな人なの?」

 

 一通り新城の事を聞いた戦艦棲姫は、話の続きを促した。

 

「あー、うん、新城が連れてきた提督ね。そいつが僕のもう一人の親友だよ」

 

 そう言って、石壁は過去の話の続きに戻る。

 

 

 ***

 

 石壁がパフェをつっついていると、背後から物凄くテンションの高い男性の声が聞こえた。

 

「おお、YOUがジョジョの話していた石壁か!」

「へ?」

 

 石壁がその言葉に振り向くと、そこには形容しがたい男がたっていた。

 

 その男は濃い褐色の肌の持ち主で、その肌の黒さに対比するかの如く輝く真っ白い歯が本当によく目立っていた。

 

 黒い長髪をドレッドヘアでまとめており、口角をめいっぱい釣り上げた満面の笑みを浮かべたその男を形容するならこうなる。

 

「オイラはジャンゴウ・バニングス!!日本人のオフクロとヒスパニックのオヤジの間に生まれた、日系メキシコ人だぜ!!」

 

 面白黒人枠の外人が、そこにいた。

 

「ジョジョのダチなら俺のダチだぜ!!よろしく頼むぜブラザー!!」

 

 ***

 

「まってまってまって、ちょっとまって提督、おかしくない?提督の友人おかしくない?一人だけ世界観おかしくない?」

「まあ、最初はみんなそうなるよねぇ」

 

 石壁が苦笑する。

 

「くっくっく、ジャンゴと初めてあった人間は、大抵鳩が豆鉄砲食らった様な顔をするからな。一度貴様にも合わせてやりたいものだ」

 

 伊能が愉快そうに笑うと、ジャンゴと面識のある面々が揃って苦笑した。

 

「私も初めてあったときはあまりの衝撃に言葉を失いました」

「自分もであります。いやはや、精進がたりませぬなあ」

 

「嘘でしょぉ……」

 

 戦艦棲姫が頭を抱えている間に、石壁が話に戻る。

 

「ははは、まあ、あまりに衝撃的な出会いだったけど、ジャンゴは本当にいい奴でさ。全身で喜怒哀楽を表現する一緒に居て楽しい男だよ」

「そりゃあ、そんな男が隣にいて退屈するわけないじゃない」

「まあ、ね」

 

 石壁は苦笑した。

 

「後ジョジョってだれよ」

「新城の事だよ。新城定道(しんじょうさだみち)の間の『城定』を音読みしてるんだってさ」

「奇妙な冒険に出そうなあだ名でありますなぁ」

「一番奇妙なのは南米からきた黒人提督の存在そのものよ」

「全くもってその通りだな」

 

 戦艦棲姫がぶった切ると、伊能が同意した。

 

 

 

 ***

 

「へえ、ジャンゴと新城は士官学校に来る前からの知り合いなんだ」

「おうとも。ジョジョの奴とはここに来る前からのマブダチだぜ」

 

 石壁とジャンゴが出会ってから数分後。始めは面食らった石壁であったが、暫く話せばジャンゴの真っ直ぐな性格に好感を持ち始めていた。陽気でフレンドリーなラテンのノリが気持ちの良い性格と合わさって、彼は話す相手を不快にさせない溌溂とした魅力を持っていた。

 

「ジャンゴとはまあ、色々あって知り合ってな、それ以来私の気の置けない友人なんだ」

「色々ってどんな色々があったら良家のお坊ちゃんがジャンゴと知り合うのさ」

「まあ、色々は、色々さ」

 

 新城の家は皇族にすら縁をもつ古来からの大地主の一族であり、本物の良家の長子である。故に彼は端的に言えば箱入りの坊ちゃんであり、話していると育ちの良さを感じさせる品性のある人間であった。

 

 一方のジャンゴは見た目も性格もどちらかというとアウトロー寄りである。よく言えばおおらかで楽しい、悪く言えばガサツで大雑把な人間だ。家柄も育ちも完全に新城とは真逆である。なんという凸凹コンビであろうか。

 

「ハッハッハ!確かにオイラと新城はまあ完全に別世界の人間だが。生きる世界が違ってもハートは通じ合う事があるって事だぜ!」

 

 そういいながらジャンゴが楽しそうに新城の背中をバシバシたたく。若干痛そうだがそれでも不快そうではない新城の様子から、二人はよほど馬の合う友人なのだと石壁には感じられた。

 

「はは、本当にいい友人なんだね二人は」

 

 石壁はそんな二人の様子を楽しそうに見て笑った。

 

「……っと、そろそろかな」

 

 その時、ジャンゴが壁掛け時計をみながらそう呟くと、石壁の背後の扉が開いて、数人の足音が近づいてきた。

 

「あ、おーい!こっちだ!へいブラザー、お前に俺の初期艦達を紹介するぜ!!後ろをみてくれ!」

 

 ジャンゴが二ッと口角を上げながら、石壁の背後の気配へ目線をやる。

 

「ジャンゴの初期艦……?」

 

 石壁がそういいながら振り向くと、そこには金剛型戦艦四人組が立っていた。

 

 金剛型戦艦とは、少々特殊な来歴の艦である。一番艦である金剛は当時同盟国であったイギリスで建造されて日本へと渡ってきたが、二番艦以降は手本に日本で製造されているのだ。

 

 金剛型戦艦は分類上は巡洋戦艦と呼ばれ、比較的軽装甲ながらも高い運動性と遠大な航続距離からとても使い勝手がよい艦であった。その為第二次大戦中の帝国海軍で最も活躍した戦艦であると称される程の武勲艦でとなっている。

 

 その武勲は艦娘になっても変わりなく、4人ともとても強くて使い勝手が良い優良艦娘である。

 

 また、四人ともとても個性的で見目麗しい事から、艦娘の中でもトップクラスの人気と知名度を誇っている。軍の広告塔的存在でもある彼女たちは艦娘の中でもトップクラスにメディア露出が多く、国民への認知度がかなり高い艦娘だ。

 

 長女は金剛。帰国子女という事もあってか、『デース』口調の似非外国人っぽいしゃべりがキュートな女性だ。

 

 次女は比叡、スポーティーな短髪が溌溂とした魅力を感じさせるスポ魂系の女性である。

 

 三女は榛名、素直で真面目で純情な女性らしい女性だ。素直に魅力的な女性である。

 

 四女は霧島、頭のよさそうな眼鏡美人で、自称艦隊の頭脳。実際地頭がよく執務も戦いも良くこなす委員長タイプの女性だ。だが戦い方も武勲もどちらかと言うと脳筋なのはご愛嬌。

 

 四人とも美人でキャラがよく、固定ファンも多い人気姉妹である。それが金剛型戦艦であり、そんな艦娘を初期艦として全員呼べるところから鑑みても、ジャンゴの提督としての潜在能力は並外れているといえるだろう。

 

「おお……そうか、ジャンゴも帰国子女だから、金剛も帰国子女つながりでーー」

 

 石壁がそう納得しかけた瞬間、金剛が声を上げた。

 

「比叡」

 

「はい!気合入れていきます!」

 

 比叡は懐から調子木(火の用心で叩くアレ)を取り出す。

 

 硬い木を打ち鳴らせるカァンという甲高い音が響いた。

 

「へ?」

 

 石壁は目が点になった。

 

「遠からん者は音に聞けぃ!!」

 

 金剛の美しくも力強い高音が石壁の耳朶を打つ。

 

 カァン!

 

「打てば必中、駆ければ韋駄天、進む姿は鉄(くろがね)の城!!」

 

 カンカンカンカンカン!!

 

「えげれすはろんどん生まれの帰国子女!天下無双の鬼金剛たぁ……」

 

 金剛が手を前に突き出す、歌舞伎めいたかっこいいポーズを決める

 

「アタシの事でーい!!」

 

 カカン!

 

 イギリスのイの字もない江戸っ子がそこにいた。

 

 

 ***

 

「まって突っ込みが追い付かない。本当にまって提督」

「待ったところで現実は変わらないよ」

「噓でしょ!?絶対嘘でしょ提督!!本当は黒人も江戸っ子もいないのよね!?私が知らないからってからかってるだけよね!?そうだっていってよ提督!!お願いだから!!」

「残念ながら本当の話だよ」

 

  半狂乱で石壁に問い詰める戦艦棲姫を石壁がバッサリと切り捨てた。すると即座に戦艦棲姫は鳳翔の方を向く。

 

「ほ、鳳翔さん!?嘘よね!?みんなで私を騙してるのよね!?」

「全部ホントなんです」

 

 こういう事で嘘は言わないだろう鳳翔の、ノータイムのぶった切りを受けて遂に戦艦棲姫は限界を迎える。

 

「おかしいわよ!絶対おかしいわよ!私絶対信じないから!」

 

 戦艦棲姫があまりにぶっ飛び過ぎている石壁の交友関係に頭を抱えた。

 

「はいはい、わかったからあんまり耳元で大声出さないで。ほら、信じてくれるなら僕の分の羊羹あげるから」

「やった石壁提督大好き!貴方の友達凄く個性的ね!」

「手のひらひっくり返すの早っ!?」

 

 お手本の様な手のひら返しである。遠い海の向こうの信じがたい話より、目の前の間宮羊羹の方が戦艦棲姫には大事だったようだ。

 

(しかし、皆元気かなあ……)

 

 石壁は苦笑しつつも、遠い故郷に残る仲間達の事を想うのであった。

 

 

 

 




全世界の金剛ファンの皆様ごめんなさい!なんでも島風!

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