艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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今回は頭空っぽにして読む話です



幕間 ヤシの木が一本だけ生えた無人島がソロモン諸島にあるんだって!

 青い空、白い雲、見渡す限りのエメラルドグリーンの海。そこはこの世の理想郷、素晴らしいパラダイス。

 

「……」

 

  ただ一つ難点を上げるとすれば。

 

「……」

 

  そこが小さな小さな無人島であるということであろうか。

 

「どこだここ」

 

 石壁は気がつくと、椰子の木が一本だけ生えた本当に小さな無人島にいた。

 

「しらないわよそんなこと」

 

 しかも南方棲戦鬼と二人っきりで。

 

「「……」」

 

((なんでー!?))ガビーン

 

「ちょっとまて!おま、おまえ死んだはずじゃ!?」

「知らないわよそんなこと!アンタにぶっ殺された辺りから記憶がないのよこっちも!」

 

 互いが互いに殺し殺された余りに殺伐とした関係の二人がどうしてこんな狭い島で二人っきりにならなければならないのであろうか。

 

「ぼ、僕を殺す気か!?」

「あれだけ真正面から盛大に負けたのに、こんな暗殺みたいな真似で復讐しても恥の上塗りじゃない!!」

 

 若干後ずさる石壁と、顔を顰める南方棲戦鬼。

 

「大体、アタシはあの時死んだのよ……死人に人が殺せるはずないでしょ」

「死人にそんな事言われてる段階で僕は気が狂いそうだよ」

 

「「……」」 

 

 しばらく睨み合った辺りで、アホくさくなった二人は腰を下ろした。

 

「はぁ、なによこれ」

「さあ、こんな椰子の木が一本生えた無人島なんて、漫画でしかしらないよ」

 

 ちなみに二人は知らないが、ソロモン諸島には椰子の木が一本生えた無人島が実在したりする。

 

「ということは……夢……かしら?艤装は出せないし、水に体も浮かないし」

 

 南方棲戦鬼がチャプチャプと足を水につけると、ズブズブと沈んでいく。

 

「夢……か」

 

 互いの顔をじっと見つめる二人。

 

「「なんでコイツと夢の中で二人きりなんだ(なのよ)」」

 

 綺麗にはもる。

 

「その言い草は無いんじゃない!?島ごと沈めてやるわよ!!」

「てめーにはいわれたくないやい!!というか島ごと沈んだらお前も沈むだろう馬鹿め!」

「キィー!?」

「コノヤロー!!」

 

 取っ組み合いの喧嘩をする二人。本来なら勝てるはずもないのだが、今の南方棲戦鬼の腕力は石壁と大差がなかった。

 

「隙あり!」

「ぐえっ!?」

 

 南方棲戦鬼のボディーブローが石壁に突き刺さる。

 

「はっはっはざまぁみなおごえええ!?」

 

 その直後に自分も腹を抱えてうずくまる南方棲戦鬼。

 

「な、なんで?」

「……あ」

 

 その姿をみて石壁ははっとする。

 

「な、なによ」

「い、いや……その」

 

 石壁の歯切れの悪い姿に南方棲戦鬼がキレる。

 

「はっきり言いなさい!」

「君の臓器を僕の体に移植したから、今君は自分の臓器をボディーブローしたんだとおもいます!」

「なるほど!そりゃ自分の臓器たたいたら痛いわよね!……は?」

 

 目が点になる南方棲戦鬼。

 

「え、ちょ、嘘でしょ?」

「全部ホントです」

「どこの世界にぶっ殺した深海棲艦の臓器を移植する馬鹿がいるのよ!というかあんた人間じゃない!百歩譲ってもそこは艦娘でしょう!?なんで私なのよ!!」

「オメーしか適合するドナーの死体が居なかったんだよバカヤロー!お前が遠慮なく僕の臓器ぶっ壊したからすぐ移植しないと死ぬところだったんだよ!!因果応報だ畜生め!!」

「高速修復剤あるんでしょ!?適当な艦娘からぶっこ抜いてすぐにバケツで再生させればよかったじゃない!!」

「それ言ったらおしまいだろうが!どんな猟奇殺人だ!」

「あんたのやり方も相当よばかー!!」

 

 取っ組み合いで大喧嘩を始める二人。しばらく殴り合った結果、石壁が南方棲戦鬼を殴った場合も、自分の内臓が痛む事に気がついて喧嘩は終わった。

 

「やめましょう……虚しすぎるわ」

「そうだね……」

 

 ***

 

 椰子の木の反対側にそれぞれ座り込む二人。互いを視界に入れないように木を背もたれにして海を見つめる。

 

「私は死んだ。それが間違いなくて、アンタが生きていることも間違いない……ということは、これはアンタの夢よねきっと」

「……そうなるのかな」

 

 南方棲戦鬼は、ぽつりぽつりと話し出す。

 

「夢の中のキャラクターにもそれぞれ人格があるものなのかしら?」

「さあ……少なくとも僕には、アンタには人格があるように見えるけど」

 

 奇妙な島で、奇妙な二人が、奇妙な会話を続ける。

 

「自分が誰か別の人間の見る夢や、想像の中でシミュレートされただけの存在だって言われたら、どうすればいいのかしらね」

「今この瞬間の自分たちは、物語の登場人物でしかなくて、本当はだれか別の人間が物語の主人公なんじゃないか……そんな風に考えちゃうと怖くなるからなあ」

 

 誰だってそんなメタ的な妄想をしたことがあるだろう。自己を確立する定義そのものが他者によって定義されたまやかしなんだと言われれば、その不安感は計り知れないものになる。南方棲戦鬼は、己は己であると訴えるように、己の体をそっと抱いた。

 

「どうせ夢に呼ぶならもうちょっと楽しい空間に呼びなさいよ。こんな無人島、寂しいじゃない」

 

 南方棲戦鬼は、なにもない海原を見つめながらそうつぶやく。

 

「夢の内容なんて、簡単にコントロールできるもんか。僕だってどうせ呼ぶなら鳳翔さんとか呼ぶよ」

 

 石壁も何もない海原を見つめながら応える。

 

「「……」」

 

 しばらく二人は無言で海を見つめていた。

 

「どうせこれは泡沫の夢……きっと目が覚めれば私は消えて、貴男は何も覚えていないでしょうし、すこしだけ言わせてよ」

 

 南方棲戦鬼はそういうと言葉を続ける。

 

「アンタは私を破った、最期は本体の居ない艤装と、あの軽空母一隻で真正面から私を打ち破った。この南方棲戦鬼を、貴男は破ったのよ」

「……」

 

 石壁は何も言わずに聞いている。

 

「だから、負けるんじゃないわよ。これから先どんな敵が相手でも、私というバケモノに勝ったんだから、そんじょそこらのバケモノなんかに負けないでよね」

「……ああ」

 

 石壁がそういうと、視界がぼやけ始める。

 

「あら、もう目覚めの時間かしらね」

「そうなのかな」

 

 世界が急速に形を失っていく。

 

「じゃあ頑張んなさい、ああところでお腹が減ったわね」

「このタイミングで!?」

 

 もう石壁が振り向いても何も見えない。

 

「良いじゃない、どうせ夢よ……」

 

 夢から覚める。世界が変わる。

 

「カレーライスが……食べたいわ……」

 

 言葉が聞こえたのはそこまでだった。

 

 

 ***

 

「ふわぁ……なんだろう……なんか変な夢を見た気がする」

 

 ベッドでボリボリと頭をかく石壁は、着替えを済ませて部屋をでていった。

 

 ***

 

「間宮さん」

「あら提督おはようございます。何が食べたいですか?」

「そうだなぁ……」

 

 石壁は暫し悩みながらお腹をさする。

 

「カレーライスが食べたいな」

 

 今日も石壁の内蔵は絶好調であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~おまけ 翌日の晩~

 

 

 

ヨウサイマスターイシカベ、今全てに終止符を打つ時!

 

 

石壁「喰らえ南方棲戦鬼!イヤーっ!」

 

南方棲戦鬼「グワーッ!?サヨナラ!」爆発四散

 

石壁「遂に南方棲戦鬼を倒したぞ!」

 

南方棲戦鬼B「南方棲戦鬼がやられたようね」

 

南方棲戦鬼C「石壁ごときにやられるとは」

 

南方棲戦鬼D「南方棲戦鬼の面汚しよ」

 

 

 

石壁「くらえー!イヤーッ!」

 

南方棲戦鬼BCD「「「グワーッ!?サヨナラ!」」」爆発四散

 

石壁「遂に鉄底海峡を奪還したぞ!」

 

南方棲戦鬼ZZ「よく来たな石壁!別に私は艦娘がいなくても倒せるぞ!」

 

石壁「僕の過去とか家族とか、内臓移植した事とか本土の政治問題とか色々と伏線があった気もしたけど、別にそんなことはなかったぜ!」

 

南方棲戦鬼ZZ「さあこい石壁ーー!」

 

石壁「いくぞおおおおおお!」

 

 

石壁の勇気が泊地を救うと信じて!ご愛読有難うございました!

 

 

***

 

 

「……ハッ」

 

 ガバっと上半身をベッドから起こす。

 

「……夢か」

 

 第二部、始まります☆

 

 





これで幕間も全て終わりです。

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