艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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時系列の大雑把なあらすじ!

決戦

幕間のなんやかんや

第一部エピローグ

二部一話(いまここ)


第一話 もう何も怖くない

 石壁たちが沿岸部を取り戻し、しっかりと鎮守府に着任した翌日、いつもの会議室に鎮守府の首脳部が集まっていた。

 

「では、これより今後の泊地運営についての会議を開始するであります」

 

 議長のあきつ丸がそういいながら机上の泊地近縁の海図を指さす。

 

「我々のショートランド泊地は南方棲戦鬼を討伐したことにより泊地を奪還。この近海における制海権を確保したであります。また、これに伴い南方海域全域において深海棲艦の行動の鈍化。戦力の低減がみてとれるであります」

 

 泊地の近縁、制海権を確保した領域を軽くなぞるあきつ丸。

 

「まだあの決戦から1週間程しか経っていない事から、深海棲艦側も相当混乱しているのでありましょう。奴らの反攻作戦が行われるのかはわかりませんが、今のうちに打てる手は打っておくべきでありましょう」

 

 そういいながらショートランド泊地から指を西へとずらしていくあきつ丸。

 

「ショートランド泊地は中央から見て一番東側の泊地であります。そこから順に西へブイン基地(跡地)、ラバウル基地、トラック泊地、パラオ泊地、タウイタウイ泊地、ブルネイ泊地、リンガ泊地と順々に並んでいるであります」

 

 オーストラリアに蓋をするように東西に並んだ泊地を準に指差していく。

 

 

「ほぼ東西に並んだ南方泊地群の一番東側にあるこの泊地は、深海棲艦の根拠地であると想定されているハワイからもっとも近い鎮守府であります。故にこれからここに敵戦力が集中することが想定されるであります……ここまではよろしいでありますか?」

 

 実際二ヶ月前に一晩で鎮守府が陥落(2コマ即落ち)した経験がある一同は、素直に頷く。

 

「よって我々は早急にこれに対処すべく対応策を練る必要があるであります。本日の議題は今後の基本方針を固める事であります」

 

 あきつ丸がそういうと、伊能が声を上げる。

 

「俺が推すのは拡大策だな、敵が混乱している今のうちに周辺海域を制圧し、敵の出鼻を挫くべきだろう」

「一利あるけど、下手に動けばそれこそ自滅しかねないでしょ。僕は鎮守府の要塞化、防衛作戦の見直しによる持久策を推したいかな」

 

 伊能の拡大策に石壁がまったをかける。

 

「しかし閉じこもっていれば状況が悪化する可能性が高いぞ?独ソ戦争の例からみても、圧倒的な戦力をもつ敵に対して守勢に回るのは禁物だ。猶予がある今のうちに叩いておかねば動きたくても動けなくなる」

「だからと言って動きすぎればそれこそ戦力が摩耗するだろ。太平洋戦争では空母機動部隊を酷使しすぎて最終的にミッドウェーで4隻揃って喪失したじゃないか。無理な拡大はそれを繰り返しかねないよ」

 

 第二次世界大戦において、初動の大攻勢でソ連をボコボコにしたナチスドイツは、最終的に攻めきれずに守勢に回り赤い津波に飲まれて消えた。

 

 大日本帝国海軍もまた、虎の子である空母機動部隊を太平洋の四方八方へ送りまくり、西はインド洋から東はハワイやミッドウェーまで縦横無尽に駆け回って最終的に纏めて沈ませた。

 

 どちらの言にも一定の説得力があった。動けるうちに動く。余裕のあるうちに護りを固める。性格の違いがモロにでた意見だった。

 

「そもそも現状の戦力はどんな状況なんだ?明石」

「はい」

 石壁がそういうと、明石が資料をもって話し始める。

 

「現状、要塞の攻防戦によって艦娘が数名轟沈しておりますが、それと同時に敵深海棲艦の残骸からサルベージした艦娘が数十名増えましたので、戦力的には大きく増大しております。ただし、練度という面では大きく不安が残っております」

 

 深海棲艦の死体から作り出されるドロップ艦は基本的に練度が初期値まで戻ってしまう。強い艦はそれでも強いが、いざという時に運命をわけるのは練度の高低であるので、低練度の艦を最前線に放り出すのは危険であった。

 

「また、これ以上の艦娘の増員は、石壁提督の『艦娘所持限界』から鑑みて難しいと言わざるをえません」

「正直言えばこれだけ艦娘を喚べたのが奇跡だと思ってる」

 

 『艦娘の所持限界』とは、一人の提督が維持できる艦娘の限界数の事だ。以前も話したが提督は己の魂に艦娘の魂を癒着させることで艦娘を現世に呼び出している。イメージ的にはバスケットボールの表面にピンポン玉を貼り付けていくような感じである。

 

 故に魂の大きさによって『癒着面』には限界があり、くっつけられる魂の限界数がその提督の艦娘の維持限界数になるのである。

 

「平均的な提督がせいぜい4艦隊、2,30名程度しか維持出来ないのに、石壁提督はなんだかんだで100名弱の艦娘を維持していますからね。これだけよべるのは一流の提督ぐらいですし胸を張っていいんじゃないですかね?」

「短期間でそれだけ修羅場をくぐったって考えるとちょっと複雑だけどね」

 

 明石の言葉に石壁が苦笑する。艦娘の維持限界は提督の経験と共に増大する傾向にあり、歴戦の提督であればあるほど、その維持数は多くなる。

 

 提督として成長すればするほど魂が大きくなるのであろう。というのが通説だが、俗称として『母港拡張』とよばれるこの現象はそうそうおこるものではなく。後方にいる提督ほど遅く、最前線の艦娘に座乗する提督ほど早くなるというのが今までの経験からわかっている。

 

 石壁は人類全体でみても最高レベルの最前線で、南方棲戦鬼と文字通り殴り合った稀有過ぎる経験の持ち主である。この馬鹿げた経験値が提督としての位階を大きく跳ね上げたのは間違いなかった。

 

「武装面に関しては、スクラップになった深海棲艦の武装を解析した事で大きく前進してますね。今までの積み重ねもあって戦艦砲、航空機の開発の目処が立ちました。時間とリソースを回していただければ開発完了は間近です」

「おお!」

 

 120ミリ砲(豆鉄砲)と3連装魚雷(産廃)しか作れなかった工廠が、今や戦艦砲と航空機まで作れそうになった。その感激もひとしおであった。

 

「おらが鎮守府(むら)にもようやく戦艦砲が……」

「どんな物騒な村ですかそれ」

 

 感激のあまり石壁がおどけてそういうと、鳳翔がおもわずクスリと笑いながらツッコム。しばし笑い声が会議室に響いた。

 

「ははは……話を戻そうか、艦娘の戦力は充分増えた、工廠の開発は順調。じゃあ陸軍の戦力はどうなっているんだ?あきつ丸」

「えっとであります」

 

 あきつ丸は資料をとりだす。

 

「陸軍妖精隊についてでありますが、先日の戦いで騎兵隊、戦車隊は文字通りの『全滅』、砲兵隊の兵数に関しては問題ないでありますが、海岸線の防御陣地はまだまだ未整備状態でありますので、実質的に戦力外になっているであります」

 

 本来南方戦線で陸軍妖精隊が活躍できることがおかしいといえばおかしいのだ。彼らが活躍できたのは石壁が要塞線に無数の砲台を設置し、そこに兵員として彼らを配置したからである。だが海岸線の泊地にそんなものはなく、彼らは現在戦力的価値を喪失していた。

 

「砲兵隊からは沿岸砲台を設置し、戦力を再配置してほしい。という意見が出ております」

「海岸線の要塞化、か。なるほど」

 

 あきつ丸の言葉に石壁が頷く。沿岸砲台とは文字通り海岸線の砲台陣地の事を指し、重要拠点に押し寄せる敵艦隊を撃退することを目的とした設備である。一般的に艦砲は陸上の砲より強力であり、その大きさも列車砲(約80cm)等の例外を除けば艦砲側が圧倒する。陸上を移動するなら砲の大きさにはどうしても限界が出るからだ。

 

 だが、移動を一切考えずに「固定砲台」として運用するなら話は変わる。砲台に戦艦の主砲等を取り付ければ砲弾の威力は互角である。また、艦砲と違い海の揺れなどに影響されないため、砲の口径が同じなら軍艦に優位に立つことも可能なのである。

 

 第二次世界大戦後は要塞そのものの衰退と共に消えていった設備だが、ショートランド泊地においては有力な設備であるといえるだろう。

 

「陸軍妖精隊は戦力喪失状態で、再戦力化するには一手間必要ってことか、ありがとうあきつ丸」

 

 石壁はそうってから間宮に向き直る。

 

「間宮さん、現状の兵站はどんな塩梅?」

「そうですね、元々物資には大きく余裕がありますし、私が持ってきている食料もまだまだ数ヶ月は持つでしょうから、当面の物資面の不安はないでしょう……ただ……」

 

 間宮は困ったような顔をして続ける。

 

「兵站は前線と補給拠点を『線』で繋がねばなりません。山岳部の要塞陣地から沿岸部まで補給線を繋げる必要があります。沿岸部に泊地運営の主軸を移すならこれは喫緊の課題であるといえるでしょう」

「あー……今の兵站本部、山岳部の要塞の一番奥だしなぁ……」

 

 一番重要な拠点故に要塞の一番奥に設置されたソレは、沿岸部からみて遠い彼方にあった。現状は妖精さんが必死に物資を運搬しているが、トロッコを伸ばすなりなんなりしないと早々に物資切れを起こしたりするのが目に見えていた。沿岸部にも物資生産プラントはあるが、要塞建設と艦隊運営の両方をやるならそれではどう考えても足りないだろう。

 

「ありがとう間宮さん、輸送ラインに関しては最優先で繋げるよ……情報部からは何かある?青葉」

「はい!ありますよぉ、提督!」

 

 そういって青葉が元気よく立ち上がる。

 

「現状、周辺海域における電波通信量はあの決戦の前まで戻っていますので、大規模な軍事作戦の兆候はみえません。ただし、『後方』の南方の各泊地では通信量が増大していますので、どうやらショートランド泊地が健在である事に気がついて混乱しているようですね。実際、ちょくちょく彩雲が飛んできて泊地を偵察しているようですので、『ワレアオバ、泊地ハ健在ナリ』とモールス信号を送っておきました。そろそろ何らかのアクションがあっても可笑しくはないです」

「え!?味方機がやってきているの!?」

 

 青葉の報告に石壁が驚く。

 

「ええ、なにせショートランド泊地の後背地は、航空隊で名高い『ラバウル基地』です。大勢の空母機動部隊を要した南方でも有数の巨大基地ですからね。偵察艦隊を近海まで送るくらい訳ないでしょう……現状は深海棲艦の罠を警戒してかまだ鎮守府には直接来てませんけど」

 

 ラバウル基地は太平洋戦争においても南方有数の巨大基地であった。史実においては轟沈した空母機動部隊の乗組員達が航空隊としてラバウル基地に再編されたこともあって、海軍との結びつきも高い基地である。その為かこの世界においてはラバウル基地の艦隊は空母を主力とした圧倒的な航空戦力を有しており、長年人類の最前線として深海棲艦と互角に戦ってきたのである。

 

「青葉としましては、この泊地との早期の接触、並びに協力体制の確立が必要じゃないかと思います。航空隊の援護があれば索敵も警戒も、もっと楽に、もっと沢山の情報があつまりますよ!」

「そうか……いままでずっと独力で戦ってきたから頭から抜けてたけど、『周辺の泊地と協力する』って一番単純でわかりやすい選択肢じゃん……」

 

 その発想はなかった、と石壁は目からウロコが落ちたような顔をしている。大本営という一番大きな友軍に見捨てられた石壁の頭からは『友軍艦隊』という存在が未実装だったのは仕方がない事だろうが、戦略的にみて後背地の友軍の助力に頼るのを忘れていたのは総司令官としては致命的である。

 

「ありがとう青葉、もう少しで致命的な間抜けを晒すところだったよ」

「いえいえ、喜んでいただけたなら青葉感激です!」

 

 石壁が素直に礼を言うと、青葉は心底嬉しそうに笑いながらそう応じた。

 

 ***

 

 数十分後。議論を尽くした一同は、今後の方針を決定した。

 

「では今後の各部署の方針としましては、工兵隊は沿岸部の要塞化による陸軍砲兵隊の再戦力化、山岳部からの補給線の延伸に傾注して沿岸の防御陣地を早急に機能させる。工廠では沿岸部に設置する戦艦砲の開発に優先して取り組む。兵站部は沿岸部における補給形態を研究し確立する。情報部は後背地の鎮守府との連絡を取次、協力体制の早急な確立を目指す。防御体制が確立するまでは伊能提督が近海に出没する敵艦隊を叩く事で敵を一時的に防ぐ。こんな所でありますかね」

「うん、異論はないよ」

 

 あきつ丸の言葉にその場の全員が頷く。

 

「それじゃ、大方針もきまったし、皆頑張ろう!作戦名は『鎮守府大躍進作戦』だ!これが成功すれば鎮守府の安定感は大幅に増大するぞ!がんばるぞー!」

「「「「おおー!」」」」 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「石壁提督大変です!ラバウル基地から協力を全面的に拒否されました!」

「ファッ!?」

 

 こうして鎮守府の再出発は一歩目から暗礁に乗り上げたのであった。

 

 

 

 


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