艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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今回は上下分割してありますので、上編をお見逃しなきようご注意ください


第三話 事の発端 下

 今回の演習は艦娘自体は六対六だが、提督は二対一という変則的な演習だ。提督が多いということはそれだけ提督による戦力の補正がかかるため有利になるのだ。特に座乗する旗艦の能力の強化は顕著である。

 

 

 今回の演習の目的は、上層部が二対一という形式的に不利な状況を七露が一方的に崩した、という箔をつけたいがゆえの出来レース的側面が大きい。

 

 故に、形式上は七露不利だが、用意された戦力は圧倒機に七露優位なものとなっている。

 

 

 石壁は自身の艦娘である鳳翔に加えて、同期の親友の所から航空戦艦になった扶桑と山城を借り受け、他の同期の友人から隼鷹を借り受け指揮下においている。

 

 そして、陸軍出身の伊能は、自身の艦娘であるあきつ丸とまるゆのみをつれている。

 

 だが、七露の艦艇は、長門、陸奥、赤城、加賀、北上(雷巡)、大井(雷巡)である。

 

 こ れ は ひ ど い

 

 石壁達は、軽空母二隻、航空戦艦二隻、強襲揚陸艦一隻、潜水艦一隻と、バランスだけ見ればまあ悪くはない。

 

 だが、相手はビックセブンクラスの戦艦二隻、一航戦級の正規空母二隻、重雷装巡洋艦二隻という最前線でも通用するガチガチの重戦力である。 

 

 上層部はいくらなんでも依怙贔屓しすぎではないだろうか?七露への期待の大きさがよくわかる陣容である。

 

 ただ、演習のルール的には石壁達に優位だ。演習の設定上攻撃側に分類される石壁達は結果的にどれだけボロボロでも、敵の旗艦さえ落としていれば判定勝利が狙えるのである。これでバランスをとっているとでも言うつもりなのだろうが、はっきり言って酷い話である。

 

 だが、石壁達にとってその驕りこそが高い壁を突き崩す蟻の一穴となるのだ。

 

 ***

 

 艦娘には3つの状態がある。

 

 1.待機状態。これは普段の状態であり、見た目的にはただの人である。鎮守府に居る時などはこの格好だ。

 

 2,艤装展開状態。人型で艤装を背負った状態で、海上を航行するときや戦闘時の状態である。深海悽艦と戦うときはだいたいこれである。

 

 3、船舶状態。元となった艦そのものに変化する方法(一話であきつ丸がやっていたのはこれだ)、この状態だと例えば戦艦なら元の戦艦に、空母なら元の空母になれる。一見強そうだが、敵は人型なので、この状態だと的が小さすぎて一方的に潰されかねないので使いどころが難しい。島そのものへの艦砲射撃とか、輸送任務の時などによく使われる形態である。

 

 この演習は3つめの船舶状態で行われる。ただし、最初は艦娘形態で始まり、変身するタイミングは自由だが、艦への攻撃時には船舶へと変身しなければいけないという形になっている。

 

 演習場の名目としては、『艦艇形態をうまく活用する』事が大きな利点をうむからそれを習熟するためとなっているのだが、実際はこの方が遠くから見ていて見栄えが良いという点が大きい。人型では小さすぎて遠くのお偉方には見えづらいのだ。

 

 そういった諸所の大人の事情がからみあった演習がついに開始されたのである。

 

 

 ***

 

 

 演習が開始され、互いが海上にて接敵する。

 

 

 七露艦隊は6隻全員が艦艇形態だが、石壁艦隊は4隻しか航行しておらず、あきつ丸とまるゆの姿が見えない。

 

「伊能提督の艦がみえないね」

「恐らくは、後方に隠れているか、人型の状態で温存しているのだろう。それがなんになるのかはいまいちよく分からないが」

 

 戦艦長門の艦橋にて話す七露と長門。艦船モードだと人型の艦娘の本体が艦橋など艦内に出現する。艤装は艦艇として展開しているので本当にそこに居るだけだが。

 

「まあいいさ、いったい何を企んでいるんかはわからないけど、全力で相手するだけだしね……全艦隊!単縦陣をとれ!航空隊の攻撃に合わせて殴り合いに移行する!!」

 

 七露の命令に従い、攻撃が開始される。その命令の正確さは、七露への大本営の期待が伊達ではなく実力による所であることが垣間見れるものであった。

 

 ***

 

「提督!敵航空隊きます!」

「遂に来たか……」

 

 石壁は遠方の空に浮かぶ航空隊をにらみつけながら、覚悟をきめて声を張り上げた。

 

「やるしかない……!此方も航空隊発艦せよ!事前の予定通り艦隊防空に徹し敵を近づけるな!!鳳翔、隼鷹、両航空隊発艦!!」

「「了解!!」」

 

『鳳翔航空隊発艦します!!』

『隼鷹航空隊発艦するよー!!』

 

 無線から鳳翔と隼鷹の声が響く。鳳翔と隼鷹の飛行甲板から航空隊が発艦していく。

 

『いくぞてめぇらおくれんじゃねえぞ!!!』

『赤城や加賀の連中にはまけねぇ!!!』

『いくぞおらぁ!!』

『鳳翔航空隊の練度なめんじゃねえぞゴラァ!!!』

 

 無線から航空隊の妖精の荒っぽい声が響く。見てくれは愛らしいが妖精は基本男性だ。無線だけ聞くとものすごくむさ苦しい。

 

「扶桑!山城!事前の想定通り、三式弾で敵を削るぞ!!」

 

『了解したわ石壁提督!』

『わかったわ石壁!』

 

 僚艦の扶桑と山城の声が無線から聞こえてくる。

 

 

「全艦輪形陣を取れ!!艦載機は上空を全力で守れ!!扶桑山城砲撃ヨーイ!!」

 

 向こうは正規空母2隻と大人げない編成であるが故に、普通なら制空権の喪失は免れない。しかし、石壁は鳳翔と隼鷹に雷撃機爆撃機を一切積まずに、防空戦闘機を満載するという思い切った攻勢で制空権争いを互角にもちこもうとしている。

 

 あとは艦隊防空との合わせ技で制空権を維持しようと言うのである。元より石壁に攻撃指揮の才は無い。故にこその割り切りだった。

 

「扶桑山城、三式弾斉射ぁ!!」

 

 

 轟音、扶桑山城のやたらと多い砲門から一ミリの隙間もない完璧な斉射が放たれる。

 

 石壁の砲撃指示に従い、上空の的確な位置へと針の穴を通すように三式弾が叩き込まれ、起爆する。飛び散る散弾が石壁の想定通りに敵機を叩き落としていく。

 

 史実において三式弾はかなりの産廃兵器だが、この世界においては、妖精さんの技術と、艦娘自身のコントロール、そして、石壁の超人的な防空指示が合わさった事で、凶悪極まりない対空の切り札とかした。扶桑山城の三式弾による砲撃は、たった一度の一斉射撃で敵航空隊の三割を削り取ってしまったのだ。

 

「……どうして対空射撃はこんなに正確なのに、普通の的にはかすりもしないのでしょうか」

「……言わないで下さい」

 

 鳳翔のポロリとこぼれた疑問は、石壁自身も常々思っていた事だが、既に石壁は諦めているので答えようがない。

 

「さすがね山城、石壁提督の防空戦闘指揮は神業だわ」

「ふふん、だって石壁ですもの、姉様」

「なんで貴方が自慢げなの?」

「石壁は扶桑型三姉弟の末弟だから」

「あら、いつの間に弟が増えたのかしら?」

「名誉扶桑型戦艦に叙任したの、ついさっき」

「貴方って本当に自由ね」

 

 

 扶桑と山城が姉妹漫才をしている間も戦闘は止まらない。

 

 

「なんて精密射撃なの!?航空隊分散してください!!」

 

 

 石壁指揮下の三式弾斉射がもたらした破滅的な戦果に赤城の顔が引きつる。

 

 赤城の命令に従い、航空隊は今までの比較的密集した形態から、分散した形態へと即座に移行する。その合間に飛んできた三式弾に更に一割削り取られたが、なんとか三式弾で全滅する事態は避けられたらしい。

 

「……これ以上は三式弾では効果が薄い!扶桑と山城は三式弾から通常弾へと切り替えて砲撃戦に移行する!!総員対空戦闘用意!!対空射撃を密としろ!!防空隊は敵を近づけさせるな!!」

 

 敵機分散を見るや、石壁は即座に命令を切り替える。三式弾と言う兵器は、その性質上味方航空隊を巻き込みかねない為近距離では使えないのである。

 

 石壁指揮下の航空隊と、七露指揮下の航空隊が、制空権を奪い合う。数で勝る七露航空隊だが、防空のみに硬く徹する石壁航空隊を抜くことが出来ない。運良く突破できても、石壁の対空戦闘指揮の前にあっという間に撃ち落とされてしまった。

 

『嘘……!?そんな……!?』

 

 赤城の驚愕の声が無線から聞こえる。七露はこの結果に驚いたが、同時に、面白く思っていた。やはり他人の評価など宛にならないものだと、事前に聞いていた石壁の評価を何段階も繰り上げる。

 

「制空権は取れなかったか……なら後は順当に力押しでいくよ、長門」

「任せておけ、ふふ、胸が熱くなるな」

 

 七露の長門は消化試合だと思われていた演習の、望外の難易度に笑みを深める。やはり戦艦同士の殴り合いこそ長門の本領だからだ。

 

 ***

 

 そして、戦闘は同行戦へともつれ込む。上空では石壁の航空隊が優勢に戦っているが、爆撃機や雷撃機の居ない石壁の航空隊は七露達に攻撃できないので、実質的に意味はない。

 

 徐々に距離を詰めながら撃ち合う両艦隊だが、石壁の砲撃はかすりもせず威嚇以上の効果を持たず、かと言って七露の砲撃は石壁の指揮もあってこれまた当たらない。演習は石壁の予想外の奮闘から、膠着状態へと至る。

 

「提督、ここは多少無茶をしても接近し、至近距離から砲撃を叩き込むべきだと思う。このままでは引き分けだ。明らかに有力な艦隊を率いて戦っておいて引き分けでは提督の顔が立たんだろう。私も嫌だ」

 

 長門の意見は最もだった。箔付け云々は別としても、このまま千日手で終わるのは避けたかった。

 

「……よし、僕もじれったいとは思ってたんだ。長門がそう言うなら真っ向から相手の間合いに飛び込んで、策諸共に食い破ろう」

 

 覚悟を決めた七露達は、今までのジワジワと距離を詰めながらの戦いから、一気に敵ににじり寄る方向へと舵を切る。

 

 七露の判断は真っ当だ。彼我の戦力差は圧倒的で、仮に未だ姿を見せない伊能に、なんらかの隠し玉があったとしても、充分に勝てる差である。

 

 だが、一つだけ七露に誤算があるとするなら、伊能という男のぶっ飛んだ破天荒さを理解していなかった事だろう。

 

 ***

 

「いよいよ来たか……なぁ、イノシシ、マジでやるのか?本当にやるのか?」

 

 石壁は伊能に再三問うが、伊能は揺るがない。

 

『愚問だ、それくらい知っているだろう?さぁ、やってくれ』

 

 無線から響く伊能の声に迷いはない。

 

「くそっわかったよ!!どうなっても知らないからな!!全艦に告ぐ!!作戦を開始せよ!!」

 

 石壁の号令とともに、温存されていた瑞雲達が続々と発艦していく。

 

 後に伝説となり、石壁が死ぬ程後悔した作戦が、始まった。

 

 

 ***

 

「瑞雲だと……今更?」

 

 空を舞う瑞雲を見ながら、長門が呟く、同時に、今迄艦隊防空に徹していた石壁の航空隊がその瑞雲を守りながら此方に向かってくるのをみて、嫌な予感が駆け抜ける。

 

「提督、嫌な予感がする!アレを近づけては駄目だ!!」

 

 長門の戦場感が、激しい警鐘をならす。常識的に考えて、あの瑞雲が長門達を撃破しうる攻撃力など持っていない。特攻でもされれば別だが、艦載機による特攻は演習では禁じられているのだ。

 

 だが頭ではわかっていても、不安が消えない。むしろ凄まじいプレッシャーを感じてしまう。アレはヤバイ、と。

 

「……っ!!全艦対空戦闘開始!!残った艦載機は全て迎撃にむかえ!」

 

 長門の尋常では無い様子に、七露は持ちうる手を全て用いて迎撃を行う。だが、艦載機は既に大多数が墜ちており、同時に七露の防空指揮は石壁ほどは熟達していないのもあって(それでも並の提督よりはかなり上手い、石壁が異常なだけだ)、編隊の中央部で護られている瑞雲隊にダメージがとどかないのだ。

 

 やがて、瑞雲は長門の近くまで飛んでくる。

 

 

「……!ソナーに感あり!敵潜水艦です!!」

「……!このタイミングで……!」

 

 七露はこの攻勢こそがまだ概要の分からないものの石壁の奥の手だと確信した。

 

「来るぞ!!爆雷投下!!」

 

 ***

 

「今だまるゆ!メーンタンクブロー!!」

 

『はい!メーンタンクブロー!!まるゆ行きます』

 

 ゴボぉ、っと、潜水艦形態のまるゆが浮上する。目指すは一点、大将首のみ。

 

『敵爆雷投下!』

『数が多い!!避けらんねぇ!!』

『根性見せろ野郎ども!!まるゆ隊の魂魅せてやれぇ!』

『『『『おおおおお!!!』』』

 

 まるゆ内部の陸軍妖精たちが雄叫びを上げる。その瞬間、海中で爆雷が一斉に起爆する。

 

 だが、まるゆは止まらない。

 

『まるゆは、陸軍の潜水艦です!!海の中では沈みません!!!』

 

 爆圧で至るところを浸水しながらも、まるゆはただ突き進む。愚直に、真っ直ぐに、『肉弾』の届く所まで!!

 

『突撃ーーーーーーー!!!!!!』

 

 まるゆと妖精達皆の雄叫びとともに、長門が揺れる。艦底から艦尾にかけての位置に、まるゆが激突したのだ。

 

『船体破損!大破!』

『浸水止まりません!』

『まるゆ轟沈判定!!』

 

 沈みゆくまるゆ、しかし、使命をやり遂げた満足感とともにまるゆは微笑む。

 

『後は頼みます、石壁提督……伊能隊長』

 

 ***

 

「ぐう!?」

「なんだ!?」

 

 長門のうめき声と七露の叫びに妖精が応える。

 

「敵潜水艦、艦底に体当たりしました!?艦底、艦尾に破損!浸水あり!!スクリューシャフトがへし折れて航行不能!!」

 

「なんて奴らだ!?演習とはいえ、下手をすれば死ぬぞ!?」

 

 長門は艦底に体当たりをして沈んでいくまるゆの覚悟に驚愕の声をあげる。だが、この日最大のサプライズは、すぐ頭上に迫っていた。

 

「て、提督!?頭上の瑞雲の背に、あきつ丸が居ます!!」

 

 ***

 

『後は頼みます、石壁提督……伊能隊長』

 

 まるゆからの無線連絡に、伊能は頷く。

 

「任せておけ!行くぞあきつ丸!」

「はい!将校殿!」

 

 あきつ丸が、瑞雲から大空へ飛ぶ。

 

「変……」

 

 あきつ丸の体に、光の粒子が集まる。

 

「身!」

 

 その瞬間、艦艇へと変化したあきつ丸は、高度数百メートル上空から、長門へと落下した。

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「「え……?」」」」」

 

 あきつ丸発見の報を聞いて思わず上空を見上げた七露達は、一瞬我を忘れてその光景に見入った。

 

 艦艇形態のあきつ丸が、空を飛んでいた。

 

「……綺麗だ」

 

 雲一つない碧空に浮かぶ巨大な船体、現実離れした空を進む船が自身の頭上を飛んでいる。そのある種幻想的な光景に七露は思わずそうつぶやいた。

 

 だが、惚けていられたのは一瞬だけだった。あきつ丸は飛んでいるのではない、あきつ丸は瑞雲の背中から『跳んだ』だけなのである。

 

 そう、これは単純な話だ、飛び上がった艦娘がその最高高度で艦艇と化したが故に、一瞬だけ、船が空に停止しているだけなのだ。

 

 であれば、後は星の引力に従って落ちるだけだ。

 

 そう、真下の自分(七露)達の頭上へと。

 

「……っっっ!!!!!最大船速!!!にげろおおおおおおおお!!!!!!」

 

 停止していた時間が、動き出す。七露の思考が回り、船は落ちる。

 

 

 速度は0から1へ、1から2へ、位置エネルギーを運動エネルギーに変換しながら艦艇が海面に向け突進する。

 

 それは正しく地獄の断頭台に振り下ろされる処刑者の斧の如き一撃。あきつ丸は自身の「質量」を武器にして、高さを速度に、速度を破壊力として上から叩きつけるという、単純極まりないが故にどうしようもない威力となる致命の一撃を放ったのだ。

 

 通常であれば、そのような単純な攻撃、七露程の提督なら寸前で回避することも不可能ではなかった。

 

「駄目です!!スクリューの大半が損傷して殆ど動けません!!」

「……!!さっきの潜水艦が体当たりなんてやらかしたのはこのためか!!」

 

 だが、石壁の仲間達がそれを許さない、まるゆの捨て身の献身が生み出した勝機を逃すほど、こいつらは甘くない。

 

「くらええええええええええええ!!!!!」

 

 伊能の雄たけびがとどろいたその瞬間、長門の艦橋と艦首の間にあきつ丸が「着弾」した。

 

「ぐあああああああああああああああ!!!!!!??????」

 

 艦橋と艦首の間に、十文字に交差するようにのしかかるあきつ丸、これは人間で例えると、うつ伏せに寝転んだ状態から延髄に全体重を載せたかかと落としを食らわされたに等しい。艦橋に居た長門の本体は断末魔の叫びをあげて気絶し倒れこんだ。

 

「な!?長門!?しっかりしろ!!」

 

 慌てて長門にかけよろうとする七露、だがその瞬間、艦橋の窓ガラスの向こう側の、伊能と目があった。

 

 刹那、轟音と共に、衝撃で艦橋に居た全員がひっくり返った。

 

 ***

 

「あきつ丸!!!長門艦橋へ向けそのまま右へ『倒れこめ』!!」

「承知!!」

 

 艦首付近に各坐したあきつ丸は、そのまま船体を艦橋へむけ倒れこませた。

 

 あきつ丸の艦橋に居た伊能は、急速に接近する長門の艦橋を見ながら、凶悪な笑みを浮かべる。

 

 向こうの艦橋の七露の驚愕にゆがんだ顔がよく見えた。

 

「さて諸君!!ここは海の上だが、戦場は床の上だ、然らばここは陸上に等しく、我々が勝てない道理はない!!」

 

 艦橋には大勢の妖精たちが完全装備で構えていた。

 

「海軍陸戦隊とかいう陸に上がった河童どもとは比べ物にならん、本当の陸上戦闘というものを教えてやれ!!総員突撃いいいいいいい!!!!」

「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」」

 

 艦橋が激突するのに合わせて、伊能達が窓へ向け駆け出す。

 

 轟音と共に窓ガラスが全て砕け散り、艦橋と艦橋が物理的につながった瞬間、伊能達が長門の艦橋にむけ飛び込んだ。

 

「総員手を挙げろ!!抵抗は無意味だ!!」

 

 衝撃で全員がひっくり帰った艦橋に、伊能の良くとおる声が響いた。

 

「い、移乗攻撃なんて、しかもこんなぶっ飛んだ方法なんて、お前ら頭がおかしいよ……」

 

 移乗攻撃、それは近代以前における海戦における基本戦術であり、接舷ののちに直接乗り込んで敵艦を制圧するという戦術である、わかりやすくいうと映画のカリブの海賊がターザンよろしく相手の船に乗り込んだりするあれである。

 

 時代の流れとともに進む艦艇の装甲化・重武装化に伴って世の中から消えていった過去の戦術だ。

 

 空から降ってくる艦艇に乗り込んで直接艦橋に飛び込んでくるのはどう考えても頭が逝っているとしか思えない暴挙であり、七露の言葉は至極当然であった。

 

「阿呆、正気で戦争ができるか」

「……降参するよ、完敗だ、色んな意味で」

 

 艦橋を完全に制圧されてため息とともに七露がそう宣言すると、艦橋に伊能達の雄たけびがとどろいた。

 

 

 

 ***

 

 

 かくして、石壁達の演習は幕を閉じた。

 

 だが、この一戦は七露のバックボーンにある上層部の顔を潰す事となり、様々な派閥闘争の結果として石壁達は最前線泊地へと左遷される事となる。

 

 ある歴史家に曰く、この一戦こそが歴史のターニングポイントであり、嚢中の錐が袋の中から飛び出した瞬間であるとまで評したという。事実、石壁が英雄の階段をカタパルトでぶっ飛んでいくその端緒は間違いなくこの瞬間であったといえるだろう。

 

 賽は投げられた、彼は今ルビコン川を越えたのだ。

 

「あ、ちょうちょ」

「提督、現実逃避はやめてください」

 

 

 だが、その等の本人である石壁は、この後自分たちがどんな目に合うのか心配でそれどころではなかった。

 

「いったい僕はどうなるんだろうか……停職や謹慎ですめばいいんだけど……」

「まあ、流石に命を取られる事はないでしょうし、そこまで気にしなくてもいいのではないでしょうか?」

 

 石壁にとっての幸運だったのは、上層部が私情で人事を致命的なレベルまで捻じ曲げるのが常態化しているという笑えない事実をまだ知らなかったという事だろう。

 

 これから自身に降りかかる災難の巨大さを知っていたら、彼の胃はねじれ狂う事態に陥っていただろうから、そういう意味では、かれはこの時まだ幸運だったのだ。きっと。

 

 

 





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