艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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更新を再開致します。

楽しんでいただければ幸いです。



第六話 ラバウル小唄

 南雲との対談、食堂での大乱闘、風呂場の講談、最後は全員医務室送りと話題に事欠かない石壁達の行動は、あっという間にラバウル基地中に広がった。天龍達と拳で語り合った艦娘達や、風呂場に居合わせたモノ達が熱心に石壁の事を吹聴した事もあって、少なくともラバウル基地では石壁の心象は大幅に改善していたのは間違いなかった。

 

 こういった事情もあって、ラバウル基地を大混乱に陥れた石壁一行は一晩休んで明朝に泊地へと帰投することになった。既に日が傾いてきていた為、体調不良の中で夜間行軍は宜しくないだろうと南雲が判断したのだ。

 

 石壁は南雲の配慮に感謝しつつ、ショートランド泊地へとこのように打電させてもらった。

 

『会談成功、明朝カエル、輸送隊ハ予定通リ出立セヨ』

 

 石壁は現在深海棲艦の動きが鈍いことを見逃さずに、今のうちに本土からの物資輸送を目論んでいた。だが、南雲達の協力拒否があったために一旦輸送隊の出発を見合わせていたのである。それから会談の成功と共に出立できるように準備だけはしておいて、この場へやってきてたのだ。準備が無駄にならずに本当に良かったと石壁は胸をなでおろしたのであった。

 

 そして打電から暫く時間が経ち太陽が大分水平線へと近づいたころ、ショートランド泊地を出たあきつ丸以下数十名のまるゆ輸送隊がラバウル基地へとやってくる。石壁は胃薬の効果で少し楽になった体であきつ丸達を桟橋で迎えた。

 

「おーい、皆ー!」

 

 石壁が桟橋で手を振ると、それに気が付いた輸送隊が手を振り返す。数分後、桟橋にあきつ丸と大勢のまるゆが集まってきた。

 

「石壁提督お迎え頂き感謝するであります!まるゆ輸送隊、予定通り到着であります!」

「ありまーす!」

「提督ご無事ですかー!」

 

 あきつ丸の言葉に続いてまるゆが口々に言葉を続ける。

 

「うん、お疲れ様皆。ラバウル基地司令には話を通してあるから、休憩後に護送船団に混ざって本土へとむかってね」

「「「「はーい!」」」」

 

 まるゆ達は石壁の言葉に従って歩き出す。大勢のまるゆが歩いていく姿は中々に壮観で、目撃した艦娘達がギョッと目を見開いているのが印象的であった。その中の一隻に、あきつ丸が声をかける。

 

「まるゆ一番艦。皆の先導、くれぐれもよろしく頼むでありますよ」

「了解しました!」

 

 ビシっと、空気のゆるいまるゆ達の中で一番キビキビした動きのまるゆが応じる。彼女がまるゆ達の実質的リーダーであるらしかった。

 

「よし、これで本土から物資を持ってこれるね。良かった良かった」

「ええ、島で自活できない物資もなんとかなるでありましょう」

 

 まるゆは本来戦闘用の潜水艦ではなく『潜水もできる輸送船』である。なんと一隻当たり数十トンの物資を運べる彼女達、それが数十名も集まれば相当量の物資を輸送できるだろう。

 

 いままで山奥に閉じ込められていたせいでその輸送能力を活かすことは殆どできなかった。だがこうしてラバウル基地への航路が繋がった為、本土からの物資輸送任務に動員出来るようになったのである。

 

「あきつ丸も先導お疲れ様、明日の朝まで自由時間だからゆっくり休んでね」

「は!了解したであります!」

 

 石壁の言葉にビシっと敬礼を返したあきつ丸は、皆がいるであろう宿舎の方へと歩きだしたのであった。

 

「さて、せっかくだからよそ様の泊地がどんな感じなのか少し見せてもらおうかな」

 

 時刻は午後五時ごろ。日は傾いてきたとは言えまだ明るい道を、石壁は杖をついて歩き出したのであった。

 

 ***

 

「本日とれたての魚だよ!安いよ安いよ!」

「出来立ての砂糖だよー、甘くておいしいよー」

「内地からもってきた米だよ!古米ではあるがおいしいぞ!どうだい!」

 

「民間人も結構いるんだな」

 

 石壁はラバウル基地の外にある市街地区をぶらついていた。掘立小屋風のバラック小屋が立ち並ぶ市街地は全体的に雑然としていたが、商店街らしき一角では夕方の食材を購入する人々で活気があった。

 

 基本的に自給自足がメインになるラバウル基地では、こうして食料事態は割合豊富だ。南国の島国だけあって海の幸、山の幸、南国の果実等々、しっかり開発すれば食うものには困らない。

 

 だが、余剰分は大体全部大本営に吸い上げられて本土へ行ってしまう。その為皆カツカツの中でやりくりするか、生産量を誤魔化して差分をちょろまかしたりしてたくましく生きているらしかった。

 

 石壁は青果を扱っているらしい商店を見つけてのぞいてみると、店主らしいおっさんと目が合った。

 

「おや?見ない顔の兵隊さんだね、基地の新人さんかい?」

「まあ、そんなところかな」

 

 石壁の顔をみたおっさんが、少しだけ傷に驚く。

 

「あんちゃん、若いのに傷だらけだね。至近弾でももらったかい?」

「深海棲艦と殴り合ったら死にかけてね」

「はっはっは、なるほどそりゃすげえや」

 

 石壁が冗談めかして答えると、オッサンも笑って頷く。

 

「おっさんも昔は軍人だったんだが、膝に砲弾を受けてしまってな、ほれこの通り」

 

 オッサンがズボンの裾を引き上げると片膝から下が義足になっていた。

 

「あんちゃん死ななくてよかったなあ。生きてりゃいくらでもやり直せるから頑張んなよ、ほれ」

 

 気さくに笑いながらオッサンが小ぶりな林檎を投げてくるので、受け取る。

 

「そいつはオッサンからの祝いだよ、うまいから食ってきな」

「ありがとうおっちゃん」

 

 石壁はそういって林檎にかじりつく。久しぶりに食った果実の味は酸味が効いていて格別であった。

 

「うん、うん、うまい」

 

 がりがりと林檎をかじる石壁。小ぶりなモノであったのであっという間に果実は芯だけになった。

 

「良い食いっぷりだね、どうだいうまかったろ?土産に何個か買っていかないかい?」

 

 そう言いながら林檎の山を指さすオッサン。石壁は笑いながらゴミ箱に芯を放り込む。

 

「商売上手だなあ。確かにうまかったし、買って帰ろうかな」

「まいど!」

 

 石壁は財布から紙幣を何枚か取り出して置くと、50cm四方位の木箱を担ぐ。

 

「よっこいしょっと、これ一箱まるまるもらっていくね」

「あんちゃん、見かけによらずワイルドに買い物するね。部隊の仲間に配るのかい?」

「これでも部下が大勢いるもんでね」

「ありゃ、士官の人だったか?」

「将軍様かもしれないよ?」

「それはすごいな、また買いに来てくれよ!」

「次にいつ来られるかはわからないけどね。まあ近くに寄ったら買いに来るよ」

 

 石壁はそういって笑いながら、店を出ていった。

 

 ***

 

 石壁は木箱を肩に乗せて道を歩いていく。半分人間やめかけているおかげで荷物が軽い。

 

(いやあ、この体便利だなあ……もし提督クビになったら土方仕事でもやっていけそうだ)

 

 艦娘の下位・下位・下位互換とはいえ人間水準でいえば十分にチートスペックな石壁ぼでい。死ぬまで現役バリバリで土方仕事もできるだろう。

 

 しばし道を歩いていると、だんだん夕飯を作っている家庭も多くなっていき、市街地に料理の匂いが立ち込め始める。

 

 ふと足を止めた瞬間、行き交う家族の会話やキッチンにいるのであろう母子の会話が耳へと入ってくる。石壁はその温かな空気に、遠い昔に失った故郷への哀愁が胸から湧いてくるのを感じた。

 

「……家族、か」

 

 石壁はふっと笑って、ゆっくりと歩きだす。

 

「皆の所に帰ろう」

 

 石壁は己の仲間がまつ基地への帰路を歩く。

 

 ここにいる人の多くも故郷は既に無い。祖国からは半ば見捨てられ、遠く流れて人界万里のどんづまり、世界の果てのラバウルまでやってきて逞しく生きているのだ。人はかくも強く逞しい、その事を思うと石壁はまだまだ頑張れる様な気がした。

 

「さ〜らばラバウルよ〜、また来る日までは〜」

 

 石壁はラバウル小唄を口ずさみながらどんづまりの更にどんづまりまで一緒にやってきた仲間の元へと帰るのであった。

 

 ***

 

 医務室に戻ってきた石壁が室内に入ると、それに鳳翔が気づく。

 

「あ、石壁提督……なんですかその木箱」

「ん?林檎、市街地で買ってきたんだ……よいしょっと」

 

 木箱を床において箱を開けると、そこには赤い果実がみっちりと詰まっている。光を弾くその光沢は見るモノにその瑞々しさを感じさせた。

 

「あら、美味しそうですね」

 

 鳳翔は、それをみてにっこりとほほ笑む。二人の会話を聞いていた周囲の艦娘も、木箱へと目線をやる。

 

「お、提督。それもしかして見舞いか?」

「まあね、病室にいるときはこういうのが食べたくなるでしょ?」

 

 天龍の問いに答えながら、石壁は椅子に座って果物ナイフと林檎を一個手に掴むとスルリスルリと剥き始める。その動きに淀みはなく、人並み以上に手慣れていた。あっというまに一口サイズにカットされて皿へとモリモリと盛られる林檎に、プスリとつまようじが何本か刺される。

 

「よし、鈴谷、これ鉢を回して皆で食べてね」

「うわ、提督めっちゃ林檎の皮むくの早いね」

 

 あっというまに出来上がった林檎の盛り合わせを受け取った鈴谷が、驚いて目を見開く。

 

「あはは。実家が小料理屋でさ、小さいころからこういうモノは沢山作ってきたからね」

 

 そういいながらも、次の皿へと林檎を切って盛り始める石壁。

 

「へえ、女子力高いね提督……うん、おいしい」

 

 隣へと皿を回してから林檎を一切れ食べてほほ笑む鈴谷。

 

「それ男への褒め言葉としては微妙だよなあ」

 

 石壁は苦笑しながら次の皿にりんごを満載すると、今度はラバウル基地の面々へと皿を渡す。

 

「皆さんもどうぞ」

「……」

 

 飛龍は皿を受け取ると、少し黙り込んでしまう。

 

「……あの、さっきはごめんなさい。港で睨みつけちゃって」

 

 ペコリと頭を下げて飛龍が謝ると、その場に居た他のラバウル基地の艦娘達も口々に詫びの言葉を告げていく。

 

「ああ、さっきの港での話ね、そちらの事情は南雲提督から聞いているから気にしないでください」

 

 石壁は若干苦笑しながらそう言って、頬をかいた。

 

「……ありがとう、林檎、いただくわね」

 

 飛龍は石壁にお礼を言って、林檎にかじりついたのであった。

 

(……ふう、どうやら互いに遺恨なくいけそうでよかった)

 

 石壁はラバウル基地の艦娘達が自身の艦隊の面々と楽しそうに語り合っているのを見て、そう思った。それからみんなを見回して、ある違和感に気が付いた。

 

「あれ?青葉は?」

 

 医務室に青葉が居ない事に気が付いた石壁は、そう鳳翔に問う。

 

「先ほど風に当たりたいとおっしゃられて外にいかれましたよ?」

 

 鳳翔はもごもごと動く口元を手で隠しながら林檎をのみ込んでから、そう答えた。

 

「風に当たりたい、ね」

 

 石壁は黄昏て暗くなる外を見つめながら、そう呟いたのであった。

 

 ***

 

 その頃青葉は、基地のとあるベンチへと腰かけて、暗くなって星が見え始めた空を眺めていた。

 

「……」

 

 しばしそうやって赤と黒が混じった空を見ていると、見覚えのある艦娘がやってきてベンチの隣へと座った。

 

「……ふう、無事に移送任務が完了してよかったであります」

「お疲れ様です、事前の打ち合わせ通りの人員は乗っておりますよね?あきつ丸さん」

「ええ、ご依頼通りの人員を用意しましたよ、青葉殿」

 

 隣に座ったのは、同じ泊地のあきつ丸であった。

 

 彼女は青葉の問いに答えながら背嚢から水筒を取り出すと、中身を飲む。

 

「ふう、しかしあれでありますなあ」

 

 あきつ丸はふふっと笑いながら、懐からハンカチを取り出す。

 

「自分もそれなりに長く艦娘をやっているでありますが、同じ艦娘から『中野学校』の卒業生を貸せなんて初めて言われたでありますよ」

 

 口元を拭いながらそういうあきつ丸、遠くから唇の動きを読まれない様にするための欺瞞工作であった。

 

「青葉殿、伊能提督からの伝言です。『思う存分やれ、責任は俺が持つ』との事です。伊能提督の戦友達、憲兵司令部、陸軍省、中野学校への紹介状も既に持たせてあります。我々陸軍妖精隊の虎の子、中野学校の卒業生達100名、うまく使うでありますよ」

「……ありがとうございます」

 

 あきつ丸は口元からハンカチを外すと、ポケットにしまって立ち上がる。

 

「それでは、自分は休ませてもらうであります。また後で、青葉殿」

「はーい、お疲れ様でーす」

 

 歩き去るあきつ丸を、青葉はひらひらと手を振って見送る。

 

「……ようやく手札が揃いました」

 

 暗くなってきた空を見上げて、そうつぶやく。

 

「さあ、ド派手な反撃の狼煙を上げてやろうじゃないですか」

 

 青葉は一人、笑みを深くする。暗闇に潜む狼が牙を剥くように、鋭く、獰猛な笑みで水平線に沈む太陽を見つめる。

 

「細工は流々仕上げを御覧じろ……なんてね」

 

 その瞬間、汽笛が鳴り響く。まるゆ隊が同道する護送船団が出航するのだ。彼女達が本土に到着すれば、事態は動く。青葉の策が動き出すのだ。

  

「群狼作戦、開始です」

 

 遂に、狼達が動く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




【読者の皆様へのご連絡】12月20日

まずは続きが遅くなったことにお詫び申し上げます。

作者のリアル事情に変化が出てきたため、今までの様に毎日投下が厳しい状況になっております。

その為、ここから投下ペースを日刊から隔日へと変更致します。

今後もこういう事態が発生するかと思われますが、ご了承いただければ幸いです。

これからも拙作をよろしくお願いいたします。




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