艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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クリスマスプレゼントの時間だオラぁ!メリークリスマスゥ!!



第八話 群狼作戦

 大本営で働いている中年の男が一人いた。

 

 彼はただの役人で、ただのイエスマンで、役人らしい事なかれ主義の普通の男であった。

 

 ある日、その男はいつもの様に起きて、いつもの様に支度を済ませて、いつもの様に職場へとやってきてーー大勢の記者に囲まれて身動きが取れなくなったのであった。

 

「大本営の方ですか!?」

「取材を!取材をさせてください!」

「本件について一言お願いします!」

 

「な、なんなんですか一体!?」

 

 周囲から向けられる無数のぎらついた記者の視線に、役人は前にも後ろにも動けずにもみくちゃにされる。

 

「大本営はいったい何を考えているんですか!」

「どういう目的でこの提督を南方へ送り込んだのでしょうか!」

「この石壁提督について何か知っていることを教えてください!」

 

「し、知りません!私は何も知りません!通して、通してください!」

 

 役人は記者の海をかき分けてなんとか職場に逃げ込んだ。

 

「はあ、はあ……い、いったい何事ですか」

「おお、吉田くん!いいところに来た!」

「課長?どうしたんですか?あれはいったい何なんですか?」

「これを見てくれたまえ!」

 

 役人が上司である課長にそう問うと、課長は机の上に主要新聞社や情報誌、ゴシップ誌まであらゆる情報媒体の記事を広げた。そして、多少文言は違うものの、全てが同じ内容を扱った記事であった。

 

「ええっと?【『ソロモンの石壁』南方棲戦鬼を討つ!!深海棲艦南方方面軍主力艦隊に壊滅的大打撃!!】……なんですかこれ!?」

 

 大本営所属である自分達でさえ知らないような信じがたい情報がそこには乱舞していた。

 

 記事には、馬上で腰に軍刀を吊った青年の写真や、討伐された南方棲戦鬼の写真まで掲載されており、この馬上の石壁という青年が南方棲戦鬼を討ったのだという情報に信頼感を与えていた。

 

 しかも、石壁という提督が今年の春士官学校を卒業したばかりの新人で、大本営の連中による政治闘争に巻き込まれてロクな経験のないまま最前線に飛ばされた事。援軍がさっさと逃げ出して敵地に孤立した事。数か月後まで自力で守り抜けと無茶ぶりをされた挙句に死亡判定を受けていた事等々……本来ならあってはならない事が大量に暴露されているのである。

 

 大本営の政治闘争によって南方へと飛ばされたという悲劇性。そして、そんな孤立無援の新人提督が独自戦力のみで南方棲戦鬼を討伐したという英雄性。両者が融合したことで生まれる話題としての娯楽性。背景を考慮すると見えてくる政治性。

 

 長く停滞したこの戦争の中でこれらは話題性抜群であり、大本営の腐敗を政経両面から批判する一流誌から、事態を面白おかしく描くゴシップ誌まで、様々な媒体で一面で扱われていたのである。

 

「これらの情報は新聞社だけではない、ネットの情報媒体まで含めたあらゆるメディアを通して発信されている。そのうえ反政府勢力も含めたとにかく大本営に突っかかりたい連中にまで一斉に情報が回っているらしく、今朝からデモなどが活発化しているんだ。トドメにほぼすべての鎮守府、基地、泊地の青葉を通して、この記事が全鎮守府にまで拡散されているという。一斉に、迅速に、四方八方あらゆる手を尽くして情報の拡散が行われているんだ」

「どういう事ですかこれ!?何がおこっているんですか!?」

「……私の権限の及ぶ限り調べたところ、どうやら事実に符合する情報が複数含まれている上に、大本営ですら把握できていない、あるいは『把握できていないことになっている』情報までしっかりと報道されている……つまりこれは」

「……」

 

 役人は、得体の知れない悪寒の感じて息を呑んだ。

 

「これは大本営が地獄へと送り込んだ石壁提督からの、いわば『宣戦布告』だ。これだけ一斉且つ大量の、当事者しか知らない情報を惜しみなくバラまいたんだ。『絶対に握りつぶされてたまるか。貴様らの思い通りになってたまるか』という執念の様なものを感じるね……」

「宣戦布告……」

 

 役人は目の前の新聞記事に移っている馬上の青年を見つめる。全身傷だらけで眼帯を付けたその青年が、どれだけの地獄を見てきたのか、どれだけ大本営を恨んでいるのか、それを考えただけで役人は背筋が寒くなった。

 

「どうやったのかは知らないが、各種マスメディア、ネット情報媒体、ゴシップ誌、反政府勢力、各鎮守府……それだけ多数の存在を一度に操って自分の存在と功績をさらけ出す事で、表立っての処分を難しくしたんだろう……まるで情報の多重電撃戦だ。一つ成功すればいいだろう致命的な攻撃を複数一気に放って全て急所へ突き刺すなんて、恐ろしい男だ」

 

 二人の中で石壁という男の虚像がどこまでも大きくなっていく。大本営が用意した地獄を食い破り、そのまま大本営ののど元に喰らい付いてきたこの男がこれからどう動くのか、一切予想が出来ない。

 

「いずれにせよ。これだけ大事になった以上、いくら大本営でも簡単にはもみ消せないだろう。しばらくは火消しに必死にならないといけないだろうね……そして……」

 

 課長はそういってから、死んだ目をして続けた。

 

「吉田君、これから火消しの為に上の無茶ぶりが大量に来るぞ……しばらく家に帰れないと思いたまえ」

「……ジーザス」

 

 どこの世界も中間管理職やこき使われる下っ端が一番大変なのは間違いないのだろう。

 

 ***

 

 

「成功しましたな、陸軍大臣殿」

「ええ、見事に成功しました」

 

 料亭の一室で、中野学校の校長と陸軍大臣が話し合っている。

 

「衰えたりとはいえ、陸軍の影響力はなくなったわけではありませんからな」

「ええ、在郷軍人会を通した草の根活動、中野学校の卒業生達を使った情報網は未だ健在ですからね」

 

 在郷軍人会とは退役軍人達による互助組織であり、簡単に言うと物騒な同窓会の様なモノだと思ってもらえればいい。陸軍はもともと平時30万、有事200万とも言われる巨大組織である。それだけ陸軍に動員された兵士達が帰郷後に所属するのだ。農家から会社の重役まで幅広い層の人間が所属しており、その影響力は未だに大きい。

 

 しかも、この世界では本土決戦の末に戦える人間は殆ど全て陸軍に纏まって戦ったという過去がある。艦娘の登場と本土の開放でその大半が退役したが、命を賭けて共に戦った戦友たちのつながりは、未だに堅く強い。

 

「記者になったもの、マスメディアへ金を出す企業の重役になったもの、いろんな業界に陸軍の伝手はある。そこからちょっと後押ししてやれば、こういう事もできますからね」

 

 そういってから陸軍大臣は、ニッと人の悪そうな笑みを校長へと向ける。

 

「まあ、こちらは所詮退役したモノ達の緩やかなつながりですが……貴方の方はもっとエグイ事やったんじゃないですか?」

「おやおや、そんな事はございませんよ」

 

 にこにこと好々爺らしい笑みを一切崩さず、校長は続ける。

 

「ちょっと教え子達に手紙を送っただけですよ。ええ」

「ははは、中野学校の卒業生にちょっとした手紙ですか。それはそれは」

 

 さあ、ここで中野学校の卒業生がどれだけやばいか簡単に説明しよう。

 

 中野学校は元々戦前に設立された、情報戦に特化した兵員を育てるための学校である。時代が進むにつれて、情報戦、諜報戦、ゲリラ戦、工作活動等々の、普通の兵士では対応できない、所謂スパイ全般を養成する学校となっていく。

 

 この学校の卒業生達はその能力を活かして帝国軍で物凄く活躍したのだが、退役後もその『天下り先』がやばい所がとても多い。なにせスパイ活動のエキスパートである。今となっては悪名高いあの『特別高等警察(この世界では現役)』やその特高の元締めである『チヨダ(サクラ、ゼロ等とも呼ばれる)』という警察の中枢にも卒業生は多数再就職している。

 

 我々の史実世界においては戦後特高は解体されたが、その業務は公安警察へと受け継がれた。『チヨダ』は現在も残っており、戦前から現在に至るまで一貫して日本の治安維持の中枢を担う組織である。中野学校は、こんな所に伝手をもっているのだ。

 

 特高は思想警察であり、危険思想を持つ団体を監視、必要とあらば逮捕する特殊な警察である。今回校長は卒業生の伝手を通して、反大本営的な色の強い政治団体へと今回の石壁の件を意図的に流して暴発させたのである。無論、向こうはそれが流された情報である事に気が付いていない。自分達でつかんだ情報だと思い込まされているのが怖いところだ。

 

 また、中野学校卒の人間は潜入工作も行っており、情報操作の為に新聞社へも潜り込んでいた。これによって在郷軍人会の方面と潜入工作員の二方面からマスメディアへと情報を流したのである。複数の方面から情報を流すことによって、情報の信頼性を上げて各メディアへと食いつかせたのである。

 

「しかし、この石壁という男……世界の果てのショートランド泊地にいながら、よくもまあこれだけ情勢を読み切った策を打ったものですね」

「ええ、そうでございますな。いくら伊能提督という陸軍への伝手があるとはいえ、下手をすれば情報漏洩で捕まる可能性すらあるのに、よくぞこれだけ大胆不敵な策を実行に移したものです」

 

 陸軍大臣と校長が心底感心した様に続ける。

 

「まず陸軍からの出向提督が政治闘争に巻き込まれて使いつぶされ、力の差から黙らざるを得無かったことが大きいですね。これによって海軍側への怒りが陸軍内に充満しており今回の行動を容認する空気がありました」

 

  伊能は元々陸軍の出身であり、海軍へと出向しているとはいえあくまで所属は陸軍だ。その提督を石壁と共に南方へ送り込んだのだから陸軍は当然激怒している。それでも黙らざるを得なかった伊能の陸軍の上司達を青葉は見事動かして見せたのだ。

 

「それに加えて陸軍内部の現状への不満感を突いたのも、うもう御座いましたな。現状の海軍偏重に危機感をもっている人間を動かすには本件はいい燃料でございます故」

 

 現在は戦線が南方に移った事で国家戦略的に海軍偏重にならざるを得ない状況が続いている。だが、いくらなんでも陸を軽視し過ぎているという意見は以前からあった。また、客観的に見て大本営が腐りすぎている為、それに対して警戒感をもつ派閥も多い。今回の一件はそういう反大本営的な派閥を玉突き衝突の様に動かして、前述した不満に連動させ陸軍全体を動かしたのである。

 

 青葉の策の全体像はこうだ、伊能の伝手を用いて陸軍内部の複数の派閥に接触し、今回の裏事情や石壁達の生存を暴露し、不満を爆発させる。それと連動して中野学校卒の陸軍妖精さんを通して中野学校校長へ陸軍に火が付き始めたことを伝えたのだ。不満の爆発による怒りの爆炎の制御を中野学校へ丸投げする事でマッチポンプのポンプだけ学校に任せたのである。

 

 校長はもはやその勢いを消すのは不可能と判断し、下手に押さえつけて制御不能な爆発をおこすよりはいいだろうと青葉の策にのっかることにした。陸軍内部の勢いを利用して石壁の情報を各方面へ流すように爆発の勢いを調整したのだ。その過程で陸軍大臣まで突き上げがいったのは、それだけ陸軍内部の不満が溜まりに溜まっていた証左であるといえる。

 

 これだけ話が大きくなると下手に鎮火させるよりはいっそ盛大に燃やし尽くした方がいいと判断した陸軍大臣は、在郷軍人会の伝手をフル活用することで情勢を煽って煽って煽りまくった。下手なボヤ騒ぎにして責任追及させるよりも四方八方燃え上がらせて原因をわからなくさせてしまえ、という逆転の発想であった。中野学校側は中野学校で、これ幸いと不穏分子を暴発させて憲兵や特高を使って検挙するのに利用したりと、この事件を最大限炎上させて自分たちの利益に使ったりしている。

 

 結果として、青葉の策に便乗して二人は陸軍内部の大掛かりなガス抜きと、国内の不穏分子の一掃を行ったのである。その為青葉の想定より5割増しは盛大に情報が拡散されたのであった。

 

「これでしばらくは政治闘争と火消しで誰も彼も一杯一杯になるでしょう。大本営の連中も陸軍内部の過激派も、静かにならざるを得ないでしょうね」

「国内の不穏分子も大掃除できましたからなぁ。いやはやきれいさっぱり燃え尽きましたな」

 

 海千山千の世界を生きているだけあって、この二人も十分傑物であった。

 

「さて、ここからはどうなりますかね」

「そうでございますな……これだけ盛大に大本営に喧嘩を売ったんでございますから大時化になるでしょうなあ」

 

 陸軍大臣が校長の杯に酒を注ぎながら続ける。

 

「大時化ですか……ということは今の平穏は嵐の前の静けさ、というやつですかな?」

「そうでございますな……言うなれば、停滞し、腐敗し始めたこの国のありさまそのものが嵐の前の静けさなのでございましょう」

 

 ぐいっと杯を飲み干す校長。

 

「……風が、時代を動かす神風が吹こうとしているのやもしれませんな」

 

 好々爺はその笑顔を一切崩すことなく、そう言い切った。

 

 

 ***

 

 

「ごうがーい!号外だよー!」

 

 その日、石壁の存在が、日本中へと発信された。

 

「南方棲戦鬼が討伐されたぞー!」

 

 ありとあらゆる情報媒体を通して、迅速に、一斉に、強烈に発信されたそれを止めることは大本営にすら不可能であった。

 

「討伐したのは南方へと飛ばされた新人提督!大本営から見捨てられた未成年の提督が、前代未聞の偉業をやり通したんだ!」

 

 大本営にとって石壁の存在が大々的に知られてしまうというのは、己の腐敗と不正を大々的に表面化されるに等しい。それはよく言えば安定し、悪く言えば停滞していたこの国を揺るがす最初の風であった。止まっていた時代が動き出したのだ。

 

「彼の名は石壁堅持!人呼んで『ソロモンの石壁』!人類の敵を打ち破った英雄の名前は石壁提督だ!!」

 

 後に歴史家たちがこの日、この瞬間が時代の変わり目であったのであろうと口を揃える事になる『群狼作戦』の成功をもって、石壁は確かに歴史に名を刻んだ。

 

「いったい彼に何があったのか!?これから一体この国はどうなるのか!それが知りたければ買ってくれ!」

 

 これによって石壁を歴史の闇に葬ろうとした大本営と、それに抗った石壁の戦いは一旦は石壁に軍配があがったと言える。

 

「新たな英雄の戦いをその目で確かめてくれ!さあ買った買った!」

 

 歴史の闇に埋もれた筈の一人の青年が、歴史の表舞台へと躍り出た時……舞台の幕が上がる。

 

「『ソロモンの石壁』について知りたい奴は居ないかぁ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 演目の名は『ソロモンの石壁』

 

 これは一人の凡人が物語の英雄(チートオリ主)への階段を命がけで駆け上る物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜おまけ その頃の横須賀〜

 

 

「ジョジョオオオオオオオオオオ!!!大変だー!!!!」

「石壁達が生きてやがったんでい!!!」

「ひえーっ!!凄いですよほらっ!!見て下さいこの記事!!!」

「これは私も計算外でしたよ!!」

「榛名、感激しちゃいました!!!」

 

 

 横須賀鎮守府内を全力疾走で駆け抜け新城の執務室に飛び込んできたジャンゴ達に、新城達は面食らった。

 

「は、はぁ!?冗談も休み休み……って何だこれは!?」

「本当なの……?これ……」

「嘘!?本当!?姉様、これ石壁!?」

 

 そこには、片目を失い眼帯を付けて、軍刀を杖がわりに立つ石壁の写真が印刷されていた。大勢の仲間の前でどっしりと構える石壁の姿は、数ヶ月前には無かった『凄味』のような物が感じられた。

 

「ブラザー達は山中に篭ってひたすら陣地構築とゲリラ戦を繰り返して、最終的に南方棲戦鬼を討ち果たしたそうだぜ」

「石壁のやつ、こんな傷だらけになるまで戦い抜くたぁ……男子3日会わざれば刮目せよって言うが、でけぇおとこに成りやがってよぉ……グスっ心配かけさせやがって畜生めい……」

「姐さん、ハンカチです」

「でも格好良くなりましたねぇ、榛名びっくりです」

「石壁さんのデーターを書き換えなきゃなりませんね」

 

 ワイワイガヤガヤと、俄に室内が姦しくなる。新城達は手渡された『青葉新聞』を食い入る様に読み込んでいる。

 

「そうか……生きてたのか……」

「良かったですね、提督」

「ふふ、あの心労が全部徒労だったなんて、不幸だったわね、提督」

 

 噛みしめるように、新城がそうつぶやいて微笑むと、左右から扶桑と山城がよりそって嬉しそうに笑う。

 

「しかし……『ソロモンの石壁』……か……か……ブフゥ!」

 

 ジャンゴが新聞を読みながら吹き出す。

 

「HAHAHAHAHA!駄目だオイラ腹いてぇや!なんか気の抜ける異名だなあおい!」

 

 ゲラゲラとジャンゴが笑う。普通異名といえばカッコいいものだが、ソロモンの鉄壁でも岩壁でもなく、『石壁』なあたりが最高に石壁らしくて笑ってしまったのだ。

 

「くっ……ふふ……」

「あはははは!」

「お、お腹痛い……」

 

 その笑いに釣られて、友の無事による安心感も相まってその場の全員が笑い出したのであった。

 

 友の戦死という『訃報』が、『吉報』へと変わったこの日、彼らの笑いが途絶える事はなかった。

 

 





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