艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第九話 ダブルノックアウト

 

 

 

「なんだこの記事はああああああああああッ!!!」

 

 

 

 大日本帝国の帝都、東京の大本営作戦本部の執務室に薄汚いだみ声が響き渡った。

 

 だみ声を出した男は、自身の声にも負けぬ濁り切った目をした男であった。

 

 服装こそ海軍のスマートな白い軍服(第二種軍装)を身にまとっている。だが膨張色である白と、もともと膨満している腹部が合わさった結果。その風体はよく言えば雪だるま。悪く言えば出来損ないの妖怪ぬりかべだ。まだ可愛げがある分、ぬりかべの方が幾分ましだが。

 

 着物に着替えれば悪代官、スーツを着れば腐れ中年オヤジ、鎧を着ればオークになれる逸材だ。映画俳優になればさぞ使い勝手が良いだろう。

 

 彼の名は徳素(とくもと)、大日本帝国海軍大将にして連合艦隊総司令長官を兼任する海軍の実質なトップだ。

 

 ここでいう連合艦隊司令長官とは、海軍に所属する全ての提督への命令権を有する将軍であるという意味で、実際に連合艦隊を指揮しているわけではない。そもそも彼は艦娘の提督ですらないので海軍の一番偉い奴だと思っておけばよい。

 

 徳素は現在、国内有数の右派系新聞、毎朝新聞(まいちょうしんぶん)の一面トップの記事を睨みつけている。

 

 そこには一面をデカデカと使った巨大な記事に、こう見出しが躍っている。

 

 

 

[『ソロモンの石壁』南方棲戦鬼を討つ!!深海棲艦南方方面軍主力艦隊に壊滅的大打撃!!]

 

 

 

 一面には大きな石壁の写真も掲載されていた。写真の石壁は栗毛の馬に跨っており、左目を眼帯で隠して、腰に軍刀をさしている。

 

 石壁の左目付近は眼帯でも隠し切れない大きな傷が走っており。それ以外にも顔面に走る裂傷の痕跡は、彼が潜り抜けた戦いがどれだけ凄惨であったのかを見る者に感じさせた。

 

 石壁のその姿は既に歴戦の名将の如き風情を醸し出している。南方棲戦鬼を打ち破ったというその言にも一定の説得力があった。

 

 だが、端から石壁の功績など微塵も認める気がない徳素にとっては、この写真は若造の増長以外の何物でもなく。醜悪な嫉妬と憎悪を正当な憤懣であると自身に納得させる十分な理由となった。

 

 

「ふざけよって!!何が『ソロモンの石壁』だ!!自分を英雄視して悦に浸るのも大概にせいよ小僧がぁっ!!」

 

 ソロモン諸島は二次大戦有数の激戦地であり、その結果ソロモンを二つ名にもつ艦が存在する。

 

 具体的に言えば、『ソロモンの悪夢』こと夕立や、幾度叩かれても不死身の様に戦場に舞い戻る『ソロモンの狼』青葉が有名どころだろう。

 

 艦娘を指揮する提督がその様な名乗りを上げれば、当然彼女らにあやかった名前であろうと勘ぐるのが自然であり、彼女達に匹敵する英雄であると世界に宣言するに等しい行為である。

 

 石壁の行った偉業は客観的に評価すると、その評価自体は特段おかしなものでない。

 

 軽く列挙するだけで以下の様な物になる。

 

 

・南方棲戦鬼の撃破という敵の超弩級戦力の撃沈。

 

・上記に付随する深海棲艦の南方海域方面軍への壊滅的打撃。   

 

・上記に付随する南洋諸島全体での深海棲艦の活動の低下。

 

・上記に付随する南洋諸島全体での艦娘・商船被害の低減等々……

 

 

 

 南洋諸島全体へと多大なプラスの影響を与えている。

 

 しかも、本来複数泊地の大勢の提督によって成されて然るべきそれを、石壁達は単独泊地のたった二人の提督の指揮下の艦娘達で成したのだ。その英雄性と話題性は並大抵のものではない。

 

 このニュースをみた大勢の提督や市民は、『ソロモンの石壁』という異名に思うところがあったとしても納得せざるをえず、概ね好意的に受け入れられていた。

 

 それがまた、この男の癪に障る。

 

 

(報道に踊らされる愚かな大衆め……貴様らは最初から、我々が用意した『偶像』を拝んでおればよいのだ……ッ!!それを、それを……この様な小物を有難がりおって!!)

 

 

 読者諸兄は以前石壁達が演習で破った七露(ななつゆ)の事を覚えているだろうか?

 

 実は、七露を推していた派閥のトップがこの男なのだ。

 

 徳素はルックス、能力ともに申し分ない七露を強力に後援することで手柄を取らせ、それを大々的に宣伝する事で英雄に『仕立てあげる』つもりであった。

 

 七露もまた英雄と呼ばれるに等しい能力をもつ逸材だ。むしろ性格的にも間違いなく、石壁よりよっぽど『物語の英雄(チートオリ主)』向きだ。

 

 そこにこの男の後援があれば、七露はさぞ銀幕映えする海軍の理想の偶像(アイドル)になりえる。

 

 徳素は七露に手柄を立てさせ、最終的に南方棲戦鬼を始めとした多くの大敵を打ち破らせることで順序良く英雄へと成長させるつもりであった。その過程で吸える蜜の量と甘露さはさぞ極上のものであっただろう。

 

 徳素はその為の投資として多大な労力と金銭を払った。七露本人は全く知らなかったが、七露が英雄となる為に必要なありとあらゆる環境を揃えたのがこの男なのだ。

 

 素材は完璧だった。時代も英雄を求めていた。その為のお膳立てすら最高のモノだった。徳素の野望(七露の英雄譚)は最早レールの上に載っていたといっても過言ではなかったのだ。

 

 そして、徳素の投資と野望、その全てを石壁がぶち壊したのだ。

 

 英雄の最初の一歩となる筈であった模擬戦である。万が一があってはならないと用意させた書類上の落ちこぼれ二人、圧倒的な戦力差、艦艇形態の演習の迫力。正に英雄の門出に相応しい出来レースだった。

 

 その結果は圧倒的惨敗。徳素の用意した全てが裏目に出た。

 

 七露は圧倒的優勢が丸わかりの出来レースで、落ちこぼれ二人に、超弩級のド派手さで惨敗したのだ。しかも、得意の近距離砲撃戦に持ち込む寸前で負けたこともあって、試合結果は終始不利か互角だったのだ。もはや七露に英雄の偶像を期待するのは不可能な程、致命的に彼の名は落ちた。

 

 徳素は演習の結果から即座に七露を損切りし、彼を英雄とする案を捨て去った。

 

 多くの部下や派閥の人間をトカゲのしっぽ切の様に使い潰したことで、徳素本人への影響は最小限にとどめられたのだ。

 

 七露にとってみれば、勝手に後援され、勝手に英雄へ仕立てあげられ、勝手に失望されて捨てられたのだからたまったものではない筈だが。そもそも彼は特別扱いされている事すら知らなかったし、それを望んでいたわけでもないのだ。七露からすれば別にどうという事はなかった。

 

 むしろ基本的に善人である七露だ。仮に徳素と顔を合わせて今後の英雄路線の話など聞かされた日には、眼前の男の性根の腐り具合に顔を顰めて反発していただろう。むしろ利用される前にレールから降りることができただけ幸運だったとすら言えるかもしれない。

 

 だが、いくら損切りしたとて石壁への憎悪はこの時点で既に臨界に達していた。徳素は石壁という突如現れたジョーカーを敵対派閥に渡すつもりはなく、かといって手元に抱えるのは感情が許さなかった。

 

 そのため徳素は絶対に石壁を殺すつもりでショートランド泊地の総司令長官に任命したのだ。石壁がいきなり大佐になったのは絶対に殺してやるという強い殺意から、泊地の総司令長官になるために必要な最低限の地位まで無理やり引き上げられたのが原因なのである。

 

 使い潰して死んだならOK。仮に逃げ帰ったなら敵前逃亡で銃殺する。いつもそうしてきたように、徳素は今回も人の命を弄ぶつもりであったのである。

 

 結果は皆さまもご存知の通り、ショートランド泊地は陥落し、石壁は戦死した(と本土では思われていた)。その結果書類上は大佐から二階級特進して任官一年目の19歳にして中将位という意味のわからない階級になったのである。(当然ながら、数年後にもみ消してこっそり軍籍抹消する予定だった)

 

 徳素はそれにやっと溜飲を下げ、次なる英雄候補の選定に入った。それから二か月が経ち、漸く次なる英雄候補がみつかった矢先に飛び込んできたのが、今回の新聞記事である。

 

 しかも、本来自身の英雄が打ち倒す筈であった南方棲戦鬼討伐のおまけつきだ。石壁は一度ならず二度までも徳素の野望を砕いたのである。本人の意図せぬ所で。

 

 さらに徳素の策はまた裏目にでた。軍籍抹消前に石壁の存在が世に出た為に、階級上石壁は中将だ。そう中将位なのである。方面軍の最高司令官をまかされてもおかしくない元帥からみて三番目の地位で、徳素大将の一つ下の階級である。

 

 史上最年少の未成年中将によるほぼ単独での南方棲戦鬼撃破と、南方海域方面軍の撃滅だ。握りつぶすにはあまりにセンセーショナルに過ぎ、ここまで大々的に報道された以上誤魔化せる筈がなかった。

 

 結果として、大本営の無茶苦茶な実態が世に暴露され、現在徳素は必死に火消しを行っている真っ最中である。

 

 煮えたぎる逆恨みという憎悪はとどまるところを知らない。だがもしここで石壁を握り殺す為に降格などさせようものなら信賞必罰という軍隊の大原則を大々的に破るに他ならず、流石の徳素でも不可能であった。石壁はもはや大将位である徳素でも簡単には手が出せない存在になってしまったのである。他ならぬ徳素の自爆で。

 

 お手本の様な因果応報である。人を呪わば穴二つという諺をここまで体現する人物も珍しいだろう。

 

「おのれえええぇぇぇ……石壁堅持ぃ……ッ!!」

 

 噛み締められた奥歯が軋みを上げる。憎悪と嫉妬が醜悪に滲むその顔を見た者なら、恐らく皆一様にこう思うだろう。

 

「絶対に……絶対に八つ裂きにしてくれる……っ!!」

 

 この世で最も醜悪な化け物は、深海棲艦ではなく欲に狂った人間なのだろう、と。

 

 

 ***

 

 一方そのころ石壁は。

 

「今日もいい天気だ……あ、茶柱が立っている。縁起がいいなぁ、何か良いことがありそうだ」

 

 石壁は鳳翔が淹れてくれたお茶をすすりながら執務室の椅子でくつろいでいた。

 

「……ズズー」

 

 美味しそうにお茶をすする石壁の元に、けたたましい足音を響かせながら青葉が駆け込んでくる。

 

「石壁提督ーー!大変ですぅ!!」

「うぶっふぅ!?」

 

 バァン!!と凄まじい勢いで扉が開いたこと驚いた石壁は、飲んでいたお茶が気道と鼻に逆流して悶絶した。

 

「ゲホッ!?ゴホッ!?な、何事!?」

「こ、この記事を見てください!」

 

 石壁が目を白黒させながら問うと、机の上に新聞紙が置かれる。

 

「ええ、何々?『【ソロモンの石壁】南方棲戦鬼を討つ!!深海棲艦南方方面軍主力艦隊に壊滅的大打撃!!』……は?ソロモンの石壁?」

 

 まったく身に覚えの無い異名に、石壁の目が点になる。

 

「ええ!宣伝工作が成功して石壁提督の名前が全国紙に一斉掲載されたんです!これで提督も異名持ちですね!」

「いやいやちょっとまってよ!?え!?なに!?これ異名なの!?というか異名っていっていいのこれ!?異名じゃなくてまるっきり本名じゃんこれ!?」

 

 石壁は新聞に記載された己の『異名』に盛大に突っ込みを入れる。

 

「青葉の異名の『ソロモンの狼』みたいでかっこいいですよ!」

「いや、確かに青葉の異名はかっこいいよ!?だって狼だもん、そらかっこいいよ!?でも僕のこれ地名に苗字くっつけただけじゃん!?『三丁目の田中さん』と本質的に大差ないじゃんこれ!?」

 

 せめて石壁の苗字がもう少し見栄えのするものだったりすれば違ったのだろうが、石壁はどこまでいっても石壁である。鉄壁(てっぺき)とか岩壁(がんぺき)ではなく石壁(いしかべ)である。もう語感からして絶望的であった。「お前の異名は『ソロモンの石壁』、こっちの異名は『ソロモンの狼』、そこになんの違いないもだろうが!」と言われれば石壁は声を大にして「違うのだ!」と叫びたくなるくらいにはカッコよさが天と地ほど違うのだ。

 

「な、なんで、どうしてこんな異名に?」

 

 石壁の希望に応えて異名決定のプロセスを遡ってみよう。

 

 

 ***

 

石壁の青葉「ええと、とりあえず記事のタイトルわかりやすいように……『ソロモン諸島にてショートランド泊地の総司令長官である石壁堅持提督が南方棲戦鬼を討伐』これで決定ですね。モールス信号で送信、と」

 

 

ラバウル基地の青葉「ええと?モールス信号はやっぱり読み取りずらいですね……なになに?『ソロモン諸島のショートランド泊地の石壁堅持、南方棲戦鬼を討伐』ですね。送信送信」

 

 

中継地点の他の鎮守府青葉「ええと?『ソロモン諸島の石壁、南方棲戦鬼を……討つ』かな?

 

 

本土の青葉「電波状況が悪いなー?ええと、聞き取れた単語をつなげると……『ソロモンの石壁、南方棲戦鬼を討つ』?だ、大スクープですよこれは!特にソロモンの石壁っていうなんとも気の抜ける異名が素晴らしい!急いで詳細をまとめて報道しないと!」

 

 ***

 

 ……と、いう具合に伝言ゲーム形式に単語が欠落していった結果。偶然にも『ソロモンの石壁』という異名に収まったのである。なんという運命の悪戯であろうか。歴史書には載せられない歴史秘話ヒドスギラである。

 

 あり得ないと言うなかれ、ちょっとした誤記や聞き間違いが世界中に広まる例というのは枚挙に暇がないのである。具体的に言うとゴキブリなんかはもともと「御器噛ぶり(被り):ゴキカブリ」という御器(食器)を噛む、被るものという意味の名前をもっていたのだが、それが辞典の記載ミスで「ゴキブリ」になり、そのまま全国に定着したのだとか、その誤記ぶりはなかなかすさまじいものがある。ゴキだけに。

 

 話を石壁に戻そう。

 

「ええとですね、実は大ニュースはこれだけじゃないんです」

「……え?」

 

 まだ何かあるのかと石壁が絶望的な表情をする。

 

「もうちょーっとだけ読んでみてもらえます?」

「……『ショートランド泊地の総司令長官である石壁堅持中将(19)は深海棲艦の南方海域方面軍最高司令官南方棲戦鬼を』……ん?」

 

 己が読み上げた文面の違和感に気が付いて、もう一度同じ行を読む。

 

「『石壁堅持……中……将』?」

 

 中将、確かにそう書いてある。なんどみても中将、中将である。元帥から見て三番目の、軍隊において方面軍最高司令官をまかされてもおかしくない、殆ど頂点の位階である。

 

「え?ちょ、ちょっとまって?中将?そ、そんな訳が……だって僕の階級は大佐……」

「ええっとですね、ラバウル基地司令に確認をとったのですけどぉ……」

 

 青葉がにこっと笑いながら死刑宣告を下す。

 

「石壁提督、どうやら二か月前の泊地陥落の際に殉職扱いになってまして、書類上は大佐から二階級特進してたみたいです」

 

 大日本帝国の階級に准将は存在しない。そのため大佐→少将→中将と書類上は昇進していたらしかった。

 

「おめでとうございます!おそらくというか間違いなく大日本帝国史上最年少の中将ですよ提督!」

 

 なんということでしょう。あの頼りなかった新米少佐が、二度の二階級昇進であっという間に中将に!徳素大将の匠の技が光る采配に、思わず青葉もにっこり。石壁はひきつりである。

 

「い、いや、でも、死んでいたと思われていたから中将なんでしょ?いきているんだから大佐にもど……」

「ご安心ください!全世界に「中将」であることと石壁提督の功績が発信されましたから、これで降格なんかさせたら信賞必罰の法則が大々的に乱れて大変なことになりますから!もう多分大佐には戻せませんよ!それでは失礼!」

「アオバワレェ!?」

 

 石壁の胃が悲鳴を上げる。石壁の心境としては学校の生徒会長に選ばれたと思っていたら、気が付いた時には東京都知事の椅子に座っていた位のぶっ飛び具合である。大佐と中将の間には、それぐらいの埋められない差があるのだ。

 

「お、おえっぷ」

 

 ストレスで胃酸がこみ上げる。最近石壁は気が付いたが、南方棲戦鬼の胃腸は物理的な損害には滅法強いがストレスの耐性が全くないらしかった。石壁の一番必要だった機能はついていなかったのである。ジーザス。

 

「ち、ちくしょおおおおお!!」

 

 石壁の胃が安らぐ日は、遠い。

 

 

 ***

 

「……ふふ、石壁提督には可哀想だけど、これは良い誤算でしたね」

 

 今回の情報戦の絵図を描いていたのは青葉であった。青葉の目的としては、石壁の存在を国民へと大きく知らしめることで、大本営からの圧力を減じ、横槍を防ごうというものであった。

 

 その試みは成功した。石壁の存在は帝国臣民の間に大きく広がり、尊敬や同情を強く集めている。だが……

 

「ですが、いささか名前が売れすぎたやもしれないですね」

 

 名前が広がれば広がる程、噂が噂を呼び、その実情からは離れていく。それが吉とでるのか、凶と出るのか、まだ判断がつかない。

 

「油断は出来ません。これからも継続的な広報戦略を続けて、国民の意識を石壁提督に向け続けて……石壁提督を『英雄』にしなくちゃ」

 

 石壁は大本営にとって是が非でも処分したい目の上のたんこぶである。少しでも油断すればなんだかんだとイチャモンを付けて潰しに来るのが目に見えていた。それを防ぐ為には多く人々の注目を集めねばならない。理不尽な権力の暴走を止めるのはいつだって国民の意識だ。如何に強権的な大本営とはいえ、表立っては『英雄』を潰すことは出来ないのだ。

 

 青葉の策の全容を把握するには、まず大日本帝国のパワーバランスを担う勢力について知らねばならない。大日本帝国の勢力図は大きく分けて以下の5つに分かれている。

 

 一つ目が大本営派閥(海軍上位将校中心、海軍派政経団体)だ。ここは政治の中枢を担い、戦時中という事もあってかなりの強権をもっている。

 

 

 二つ目が陸軍派閥(本土の治安維持や国防における最小限の戦力、憲兵隊、中野学校、陸軍派政経団体)だ。腐っても二大軍事組織の片割れであり、力を大幅に失ってもなお影響力は残っている。

 

 三つ目が世論、これは具体的な力こそ弱いモノの、度外視はできない重要なファクターである。最近は戦線の停滞による厭戦感情が強くなってきている。

 

 四つ目が南方海域の泊地群(ラバウル基地等や、その近隣の協賛企業や住民)である。ここは大本営に恨み骨髄で、いつ爆発するかわからない状況になっている。

 

 そして最後が本土の鎮守府群、ここは大本営から潤沢な物資が投入されており、基本的に大本営に逆らえない大本営よりの鎮守府ばかりである。だが、これは単純に大本営派閥であるという意味ではない。なにせ艦娘の提督というのは、各々が自身に忠誠を誓う数十名の艦娘を抱えており、軍事組織でありながら内部に半ば独立した指揮系統を各々がもっているという極めて危険な軍人達ばかりなのである。こういう組織を一般的に『軍閥』とよぶのだ。『鎮守府』という『ミニ軍閥』を提督一人一人がもっているこの海軍では、形式上は大本営が上にたって財布の紐を握る事で辛うじて統制をとっているが、あまりに統制を強化すれば暴発の危険すら有るため、完全な支配下にあるとは言い難いのである。

 

 話が長くなったが、これら五つの勢力の内、青葉は4つの勢力に対して徹底した情報工作を行って大本営を締め上げたのである。

 

 青葉指揮下の中野学校生達が陸軍内部に集中して働きかける事で、陸軍は世論へと働きかけ、世論を動かした。これによってまず派閥二つを大本営にぶつけたのだ。一件すればこれこそが青葉の本命の様に見える。だが、青葉の本当の狙いは他にあった。

 

 世論という目に見える火事に大本営が目を取られている間に、本土の鎮守府群という『足元』を突き崩したのである。

 

 青葉同士のネットワークを介して発表された『青葉新聞』これによって全ての鎮守府の全ての提督に石壁の偉業と存在を知らしめる事こそが、青葉の狙いであったのだ。

 

 前述のとおり、『鎮守府』は半ば『軍閥』である。ここの構成員である提督や艦娘に大本営への不信感と石壁への同情を刻むことができれば、大本営は今後石壁の件について慎重に扱わざるを得なくなる。なぜなら大本営の『武力』の源が、この本土の鎮守府であるからだ。

 

 中国の諺に『指桑罵槐(しそうばかい:桑の実を指さして槐(えんじゅ)を罵る)』というものがある。これは一見すれば指先の桑の実(敵)へと攻撃を向けている様に見せかけて、槐(本当の敵)を攻撃するという意味の言葉である。青葉の攻撃は一見すれば大本営を締め上げる為だけに見えるが、本当のところは『本土の鎮守府』という石壁へと向けられかねない武力に狙いを定めていたのだ。彼等を石壁への同情と、大本営への不信感と、世論の援護という三重の鎖で締め上げているのである。

 

 青葉の作戦は、徹頭徹尾石壁の為に行われている。彼へと向けられかねない悪意と刃を己の(ペン)で徹底的に叩き潰したのである。名だたる大勢力の狼達を、自身の提督を守るというただその為だけに動かして敵の喉笛へと噛みつかせたのである。これが、『群狼作戦』の真の全容であった。

 

「石壁提督、潰されちゃ嫌ですよ。貴方は皆をまもるんでしょ?だったら全力で『英雄』になってもらわなきゃ……其の為なら青葉、例え提督に嫌われても、石壁提督の為に頑張るから」

 

 青葉はそういって、石壁の写真が掲載された新聞を見つめる。青葉は根本的な所で一匹狼だ。己の正義と信念を持ち、これを絶対に曲げない孤狼なのだ。

 

 そんな彼女の、この世で唯一たった一人の主こそが石壁なのである。彼女の牙は、命は、魂は、全て石壁に捧げられている。例えそれを疎まれたとしても、彼女は一切妥協はしないだろう。

 

 青葉は己の主の事を、何より大切に思っているから。あの太陽のような優しく温かい提督の心を、何よりも尊く思っているから。彼女は石壁に害する輩を、絶対に許さないのだ。

 

「……でも、『ソロモンの石壁』かぁ」

 

 その瞬間、いままでキリっと張りつめていた青葉の顔がにへら、とゆるむ。

 

「青葉の異名と『ソロモン』でおそろいだぁ……えへへ」

 

 青葉はしばし、幸せそうに新聞紙を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 




【お知らせ】

活動報告に『戦国武将と近代国家の軍隊の例から鑑みた鎮守府の軍閥化についての考察』を追加致しました。例によって読まなくても本編を読むうえで一切影響はございませんが、もしよろしければどうぞ。


































 ここだけの話だが、今作の金剛が江戸弁になったのは、作者が以前「金剛デース!」を「金剛でーい!」と誤記ったのが元々の発端だったりするのは秘密である。(実話)







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