艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
<< 前の話 次の話 >>

5 / 81
 プロローグから一話にかけてのあらすじ

 石壁提督の赴任したショートランド泊地は、大量の深海棲艦にレイプされ2コマ即堕ちしてしまった。直前で襲撃を察知し、かろうじて生き延びた石壁達は山岳部に逃げ込んだのであった。


第四話 ゼロどころかマイナスからのスタート

 

 夜半の襲撃から数時間後、ここはショートランド泊地(陥落済み)から西へ進んだところにある山中、石壁が突貫工事で作らせた要塞(未完成)の一室である。

 

 臨時作戦本部、という名前だけは立派なコンクリート打ちっぱなしのなんにもない部屋の中で石壁達は死屍累々の様相を呈していた。特に石壁は頭を抱えて蹲っている。空気が淀んで濁っている様な感覚がする部屋であった。

 

 

「最悪なんていってられる内はまだマシってのは本当だな。見事に最悪の泊地よりさらに最悪な泊地になってしまったぞ」

 

 伊能がそう言いながら臨時作戦本部に入ってくる。

 

 部屋には頭を抱える石壁以外にもその艦娘達がおり、自身の艦娘であるあきつ丸とまるゆ隊の代表も一緒に座り込んでいた。当然だが皆一様に疲労の色が濃い。

 

 自分の提督が室内に入ってきたことで、あきつ丸の口元に笑みが浮かぶ。伊能に似て、彼女もだいぶタフネスな女だ。

 

「……石壁殿が真っ先に退路の確保をして置いてくれなかったら、我々一同皆殺しになっていたでありますな!」

 

 あきつ丸がそう笑うと、乾いた笑いが室内を満たす。幾分空気が和らいだ気がした。

 

「いやいや、石壁の手腕ならあのまま抵抗しても2日は保たせられただろう」

「その後は?」

「鎮守府を枕に討ち死にだな!」

 

 伊能が笑えないことを笑って言う。だが、いっそここまで突きつけた方が、この状況では楽だろう。

 

「とりあえず、現状はどうなっているんだ?」

 

 やっと現実逃避から帰ってきた石壁の問いに、あきつ丸が答える。

 

「良い知らせと悪い知らせと、ものすごく悪い知らせがありますが、どれからお伝えしましょうか」

「……いい知らせから頼む」

 

 石壁は胃の腑の痛みを堪えながらそう促す

 

「は!石壁殿の慧眼により確保しておいた退路が功を奏し、人的被害は皆無であります!同時に最低限の基地設備、防衛陣地の整備も行われ、ここは正しく隠し砦といった様相を呈しております!また、間宮殿の物資はほぼまるまる持ってきてあります故、無補給でも半年は飢え死にはしますまい」

 

「そうか」

 

 ホッとした空気が流れる。人的被害は皆無というのは、望外に嬉しいものだった。

 

「次は、悪い知らせだな」

「は!」

 

 そういって、あきつ丸は続ける。

 

「先程最低限の基地設備と申しましたが、これは本当に最低限のものでしかないのであります。具体的には、明石殿……」

「はい……」

 

 明石が立ち上がり、報告を開始する。

 

「まず、工廠設備のうち、もってこれたのは装備の開発に関するものだけです。しかも、基礎的な開発しかできません」

「……具体的には?」

「12cm単装砲、連装砲、三連魚雷が関の山です。しかも、建造プラントは移動できず新しい艦娘はつくれません」

「ジーザス……」

 

【悲報】僕の鎮守府では、艦娘は作れないようです【無理ゲー】

 

 などと石壁の脳裏に架空のスレッドが流れていく。それも無理からぬこと。提督を戦力たらしめる最大の理由が、彼等にしか制御し得ない艦娘の存在ゆえだ。艦娘のいない提督などひみつ道具のないドラえもん、頭の悪いキテレツに等しい、つまりお話にならないのだ。

 

「最後のものすごく悪い知らせを……まるゆ、頼むであります」

「はい」

 

 その言葉に、まるゆ隊のリーダー……便宜上まるゆ隊長が応じる。

 

「……ブイン基地の本隊、撤退しました」

「は……?」

「我々は……この海域に取り残されました……!」

 

 まるゆの憤怒の篭った叫びに、皆言葉を失った。

 

「ブイン基地へと連絡にいったまるゆからの報告です!」

 

 バシンと卓上に叩きつけられた。報告書に皆眼が行く。

 

『我等は一時転進し、本隊と合流す。後日増援と伴に再進行するまで、貴官達は当初の予定に従いその泊地を死守せよ。』

 

「……援軍は、数ヶ月後の予定だそうです」

 

 ボロボロと涙を流すまるゆ。部屋を支配する沈黙を破ったのは伊能だった。

 

「まるゆ」

「……はい」

「こういう時はな、泣くんじゃない」

 

 そういって、不敵に笑った。

 

「笑うんだよ」

「……」

 

 ふてぶてしく力強い彼の笑みを見ていると、絶望的な状況だが、なにやらなんとかなりそうな気分になってくる。

 

「貴様は俺の艦娘だろう?ならば笑え、死ぬその瞬間までふてぶてしく笑うんだ。目を伏せて泣く奴に未来は来ない、前を向いて笑えばこそ、見えてくるもんもあるってもんだ」

 

 そういいながら、石壁の方を見る。

 

「それにほれ、みてみろまるゆ」

「……?」

 

 まるゆがつられて石壁をみる。そこには必死に頭を抱える石壁が居る。

 

「ここにいるこいつはな、度胸もなければ、顔がいいわけでもない、頭もそんなによくないし、胴長短足で身長も低い、おまけに将来禿げそうといいところなんかまったくない絶望的な男だが……」

「おいてめぇ僕ははげてないっていってんだろうが」

「……それでも、俺がこの世でもっとも頼りになると自信をもってオススメできる優秀な総司令官がいるんだぞ?」

 

 ぎゃあぎゃあと文句をいう石壁と、それを受け流す伊能のコンビに、まるゆはクスリと笑い、まわりの艦娘達も思わず笑みを浮かべていた。

 

「軍需物資はプラントが勝手に生産してくれる。12cm砲とはいえ、火砲は潤沢にある。食料も半年近くは心配いらないと来たもんだ。こいつの指揮とこれだけの要素が揃えば、鬼に金棒、ハゲに育毛剤だ。タイタニック号にのったつもりでいればいいさ」

「それまったく安心できないよね?あと、いい加減僕のことハゲ扱いすんなゴラァ!!」

 

 こらえきれず明石が吹き出すと、部屋中の皆が笑い出してしまった。石壁の硝子ハートは粉々だ!

 

 だが、さっきまでの絶望的な空気は伊能の存在によって粉々に砕かれた。その場にいる者達の目に生きる活力が漲り始めた。

 

「まったく……そこまで言われたらなんとかするしかないじゃないか……」

 

 いいかげん覚悟の固まったらしい石壁が、椅子代わりの木箱に座り直す。

 

「さて、そこのバカが色々言ってくれやがったように、状況は悪いが、まだまだやりようはある。確かに最悪なんて言ってられるうちはまだまだ余裕があるんだろうな」

 

 そう言いながら石壁は島の地図を指差す。

 

「現在我々の居る位置は島の中央部だ、そして、元司令本部が島の東部にあり、残りの位置には投棄されたプラントがあるのみだ。斥候の情報では、敵本体は東の基地に居座っており、残りのプラントは半ば放置されているらしい」

「あの司令部を敵が使っているのか?」

 

 伊能の問に石壁は頷く。

 

「現状、僕達がここに陣取っているのがバレたらおしまいだ。現在の状態の要塞で奴らを迎え撃ったとしても、耐えられるのはもってひと月、それ以上は無理だ。だから僕達は秘密裏に戦力を集め、この山岳部の要塞を強化し、敵にバレた後でもなんとか援軍が到着するまで持ちこたえないといけない……ここまではわかるか?」

 

 皆が頷くのをみて、石壁は続ける。

 

「勝利条件は援軍の到着まで生き延びること、敗北条件はそれまでにこの要塞が陥落することだ。その為の方策を今から話す。まず明石は現工廠で作りうる兵器を量産してくれ、それを要塞の各地にありったけ要塞砲として設置して威力の不足を数で補うように、質問は?」

「ありません」

「よし、次にあきつ丸は配下の陸軍妖精を率いて要塞の延伸と強化を頼む。明石の作った砲を仕込んだトーチカを至るところに作って鉄壁の要塞にしてくれ、幸い、物資は自動で勝手に増えるからな、鉄骨もジャンジャン使ってくれ」

「は!」

 

「間宮は兵站の管理を頼む。補給の目処のない食料品とかはできるだけ節約してほしいが、プラント4つから生産される資源はバンバン使ってもらって問題ない。とりあえず、半年戦える程度に調整してくれ」

「はい!」

 

 先ほどまでの鬱屈具合が信じられないほど石壁は矢継ぎ早に命令を出していく。そんな石壁の様子をみて、その場に居る全員の目に力が戻っていく。

 

 自分だけではなく、友や仲間達までも生きるか死ぬかの限界ギリギリの瀬戸際に追い込まれたことで、石壁はある種の開き直りの様な状態になっていた。

 

 泣き言も、弱音も、吐いた所で事態が好転しないなら、足掻けるだけ足掻いた方がマシだ。

 

 そんなある種やけっぱちに近い考えが、石壁を突き動かしているのは否定できない。

 

 だが、絶望的な状況にあって、どんな理由であったとしても、前に向かって歩きだした石壁の姿はその場に居る全員に確かな希望を抱かせたのだ。

 

 絶望に膝を折り、下を向きかけた人々を再び前に向かせ、一つの方向性に束ねて突き進む……そんな芸当が出来る人間のことを、一般的にこういう。

 

 『英雄』と。

 

 

「そして最後に……」

 

 そこまでいってから、石壁が一瞬だけ逡巡したような表情を見せてから、伊能の方を向いた。

 

「まかせておけ」

 

 ふん、と胸をはる伊能に、石壁はため息をはく。

 

「まだ何もいっていないぞ……?」

「言わずともわかっているさ、お前が恐ろしく困難な任務を俺に残していることくらいな」

「下手をすれば死ぬぞ?」

 

 その問に、伊能は俄然やる気をだす。

 

「そいつは光栄だな、男子の本懐此処に極まれり、ってやつだ!」

 

 伊能は普段は石壁をからかっているが、こういう時に冗談は言わない男だ。この男は本当に、石壁の命令なら命をかける覚悟くらいは既に固めている。『こいつに頼まれたら死んでやるしか無いな』と、伊能はそう笑って死にに行けるような奴なのだ。

 

「まったく……僕が悩んでいるのが馬鹿みたいじゃないか」

「その通り、バカの考え休むに似たりってなものだ。お前はいつも通り、俺に命令すればいんだ、『やれ』ってな」

 

 その言葉に石壁は迷いをなくす。ガタンと立ち上がり、宣言する。

 

「よし、では準備が整い次第反攻作戦を開始する。作戦名は『はじめてのゲリラ戦』だ!!」

 

 

 皆が一様にズッコケる。

 

「石壁殿のネーミングセンスが致命的であります!!」

 

 あきつ丸の叫びに皆が同意した。

 

 





感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。