艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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再会&通算50話記念ということで本日二度目の投稿でございます

楽しんでいただければ幸いです。

十一話をまだ見ていない方はご注意くださいませ。



なお、次回以降の更新ペースは二日に一度の予定となっております。


第十二話 基地航空隊

 石壁たちがラバウル基地から帰投してから一週間ほどが経過し、群狼作戦によって石壁の存在が世に知れ渡ってしまった頃。石壁達はいつもの作戦会議室に集まっていた。議長を務めるあきつ丸が口を開く。

 

「一気に有名になられましたなぁ、『ソロモンの石壁』殿!」

「『ソロモンの石壁』!いい異名ではないか、これで貴様も英雄だな!」

 

 にやけている伊能とあきつ丸の主従による連携よいしょを食らった石壁は渋面を浮かべる。

 

「……その異名、どれぐらい広がってるの?」

 

「そりゃあもう、鎮守府どころか日本中に広がっておりますよ!」

「聞くところによれば日本中に報道されたらしいからな、下手をすれば海外まで情報が飛んでいるんじゃないか?」

 

 なにせ青葉達情報部が総力を結集し、陸軍閥全体を動かしてまで行った多角情報戦である。政治的策謀に関してはピカイチの徳素をして受け身にならざるを得ない程の宣伝工作によって石壁の名を知らぬモノは本土には殆ど居ないのである。同盟国である米国や大陸にも石壁の名はじわじわと広がりだしているのは間違いなかった。

 

 因みに、ショートランド泊地に要塞を作った謎のイシカベ提督の事は深海でも話題の的であり、深海棲艦にも己の異名が大々的に広がりだしていることを石壁はまだ知らない。

 

 石壁はその言葉に胃痛を感じて腹を押さえる。

 

「……と、とりあえず異名はやめてくれ……本題に入ろう」

 

 もうどうしようもないという直視したくない現実から目をそらす事にした石壁だった。

 

「はっ!ではこの報道による影響をまず見てまいりましょう」

 

 あきつ丸は報告書へと目を落とす。

 

「石壁提督の功績が報道されたことによって、本土における国民感情や提督や指揮下の艦娘達は石壁提督に対して同情を抱くものが多く、反発などの悪感情はあまり大きくは無いようです。また、懸念事項であった南洋諸島の鎮守府群においても、報道や南雲提督たちの助力によって印象は良化傾向にあります。ラバウル基地以外では石壁提督に対しての感情は中立よりの反発が大半をしめておりますが、元が最悪の印象であったことを考慮すると破格の改善でありましょう」

 

 あきつ丸の報告に石壁はほっとする。ラバウル基地以外の泊地でも感情が改善されているというのは石壁の胃痛を多いに和らげる情報であった。

 

「懸念事項であったラバウル基地との協力体制が限定的にではありますが結ばれた事、今回の報道による南洋諸島での関係の改善、本土での提督への同情……こういった観点から後背地との輸送ラインは十分に確立されたといって問題はないかと思われるであります。味方から兵糧攻めを受けて飢え死にする危険性は激減したであります。餓島の悲劇の二の舞いは防げるでありましょう」

 

 餓島とは、ソロモン諸島のガダルカナル島の事である。太平洋戦争でもっとも混迷とした戦いと名高いソロモン海戦は、突き詰めればこの島をめぐる海戦であった。日米両軍が島の制海権を巡り死闘を繰り広げた結果、帝国海軍は敗退して戦力を摩耗、補給線が途絶。陸軍では3万人も送り込まれた兵員の内2万名が死亡してしまった。死者の大半が病死と餓死であったとされ、太平洋戦争中最悪の地獄絵図が生まれてしまった島である。陸軍妖精たちから見ればトラウマレベルの島であった。

 

 なお、この島のすぐ側が鉄底海峡であり、この島の飛行場であるヘンダーソン飛行場が飛行場姫の根拠地である。

 

「ああ、これで後ろ弾(裏切り)を気にせず安心して護りを固められるね」

 

 石壁は心底ほっとしたような顔で続ける。目の前の敵と戦いながら後ろを警戒するなど考えたくもない事態であるから、彼の安堵は当然のものであると言えよう。

 

「沿岸砲台の整備も順調に進んでいるであります。量産された20㎝連装砲や開発された35.6cm戦艦砲を順次搭載しつつ、近接防御用に12㎝砲も十分設置しているであります。また、同時並行的に飛行場、対空砲陣地、地下輸送網の構築にも取り組んでいるであります。手の空いた艦娘達にも手伝ってもらっているお陰で重機が足りない環境でもすさまじい効率で整備が進んでいるであります」

「流石に艦娘達が手伝ってくれると効率が段違いだね……皆の反応はどんなかんじ?」

 

 人型の軍艦である艦娘達の馬力ならば下手な重機がなくても人力(?)で大掛かりな作業を進める事が可能であった。南方棲戦鬼との戦い以降に加入した後期生産組の艦娘達が行った最初の軍事行動は、砲弾を敵に打ち込むことではなくツルハシを岩盤に叩きこむ事になったのである。

 

「『まさか召喚されてすぐに土方仕事をする事になるとは思わなかった』という感想が多いですが、なんだかんだで皆納得して働いてくれているであります。戦後は土木建築業者に再就職できそうでありますな」 

 

 あきつ丸が冗談めかしてそういうと、会議室に笑い声がこぼれる。

 

「ははは、いっそ会社でも立ち上げる?」

「いいでありますな、建築会社『石壁組』……如何にも土建屋って感じがするであります」

 

 あきつ丸はそういいながら次の資料をめくる。

 

「次の議題は……鳳翔殿、頼みます」

「はい」

「え、鳳翔さん?」

 

 立ち上がった鳳翔に石壁がキョトンとする。

 

「ショートランド泊地の航空戦力は飛躍的に増大していますが、それでも石壁提督の艦隊のみでは大規模な航空攻撃に対しては劣勢に立たざるをえません。練度では負けるつもりはありませんが、数では勝てません」

 

 それは厳然たる事実であった。ラバウル基地の様に航空戦で深海棲艦を圧倒するには大勢の提督を呼び込む必要があり、石壁一人では絶対に数の優勢を確保できないのだ。技量である程度拮抗はできるだろうが、数にすり潰されるのは目に見えていた。

 

「故に私は大規模な陸上航空隊を組織し、基地の近海防空に専念する基地航空隊の設立を提案致します。高練度の妖精航空隊を精鋭部隊として温存しつつ、空母艦娘による航空機の遠隔操作によって数を確保したいと考えています」

 

 空母艦娘の艦載機には二通りの操作方法がある。一つは、航空隊妖精さんが搭乗することで彼らに艦載機を操縦してもらう方法。これは艦載機の能力を飛躍的に向上させ、練度の向上によってさらなる強化を見込める基本的な操作方法である。だが、数が確保しずらく、撃墜によって人的損失や練度の低下が発生するというデメリットがある。

 

 もう一つの方法が、空母艦娘自身による艦載機の遠隔操作だ。これは簡単に言えばラジコンみたいなもので空母艦娘が艦載機の一機一機を自身の管制能力で動かして戦わせる方法である。これは仮に艦載機が撃沈されても人的損失が皆無になる為数を揃えやすいという利点がある。だが、艦娘の管制範囲外では一切使えないうえに、どうしても普通の操縦方法に比べて弱い、更に言えば操縦に集中するとどうしても艦娘の反応が低下し戦場では危険といったデメリットが多いのである。

 

(私の艦載機の積載能力では海上での戦闘は厳しい……でも、この方法なら……)

 

 鳳翔は自身の空母としての艦載機や装甲等の不足を、基地航空隊によって補うつもりなのだ。自身の能力を最大限に増大させ、少しでも泊地の……石壁の役に立ちたいという思いからの提言であった。

 

「なるほど……基地航空隊か……」

 

 石壁は鳳翔の言葉に考え込む。

 

(確かにそれなら鳳翔さんの技量を最大限活かすことができるから航空戦力の大幅な増大に繋がる……それに、基地の中での指揮になるから轟沈の心配も少ない……)

 

 石壁は鳳翔のスペック不足の解消という公的な理由と、出来れば戦場に出したくないという私的な理由両面からその案を受け入れる事にした。なお、鳳翔が轟沈すると結魂(ケッコン)の影響で芋づる式に石壁が死ぬので石壁の判断は間違っていない。

 

「……わかった、じゃあ基地航空隊の設立を許可する。鳳翔さんには基地航空隊総監督艦という地位についてもらおうと思う」

「了解しました!」

 

 鳳翔は石壁の言葉に敬礼をして返す。

 

「よし、じゃあ飛行場もあと数日で出来るだろうから、ラバウル基地に協力要請を出そう。航空隊設立にあたって教導隊を派遣してもらえないかきいておいてもらえる?あきつ丸」

「はっ!了解したであります」

 

 ***

 

 それから数日後、石壁の要請に応えてラバウル基地から一人の提督が泊地へとやってきた。

 

「というわけで、入って下さい」

「は!失礼致します」

 

 石壁の言葉を聞いて一人の男性が部屋に入ってくる。

 

「本日から暫くウチの泊地で航空隊の教導を担当してくれるラバウル基地の飯田提督です」

「初めまして皆様、ラバウル基地より出向してまいりました飯田と申します。階級は中佐、基地航空隊の設立のために微力を尽くします。短い間ではありますがよろしくお願い致します」

 

 実直で真面目な飯田提督がそういいながら敬礼をすると、その場にいた全員が敬礼を返す。

 

「大規模な航空隊の運営ノウハウが欠片もないこの泊地にとって彼の助力は正に天の助けだ。基地航空隊総監督艦は鳳翔になるから、頑張ってくれ。海岸線の泊地を護る上で航空隊の空の守りがとても重要になる、頑張るぞ!」

「「「はい!!」」」

 

 かくして、ラバウル基地の飯田提督の協力の元、基地航空隊が設立され急ピッチで整備されることになる。これによって石壁の懸念事項であった航空戦力の不足は、大幅に改善されていくのであった。

 

 

 

 

〜おまけ〜

 

 飯田提督が泊地に到着する前日。

 

「ねえ提督」

「どうしたの戦艦棲鬼」

 

 戦艦棲鬼の膝の上に座って執務をしていた石壁に、彼女が声をかける。

 

「明日、そのラバウル基地の飯田提督がくるのよね?出向って形でそれなりに長期間」

「うん、そうだけど?」

「あの……」

 

 戦艦棲鬼はどうしたものかと言いたげに頬をかく。

 

「私、深海棲艦なんだけど……ばれても大丈夫?」

「あっ」

 

 ***

 

「あーー……どうしよう……今更取り消せないし……」

 

 石壁は執務室で頭を抱えていた。

 

「戦艦棲姫のこと、どうやって誤魔化そう……」

 

 うんうんとうなりながら試行錯誤する石壁をみて、戦艦棲鬼は声をかける。

 

「仕方ない事だし、暫く山奥の方の基地で隠遁しておきましょうか?」

「いや、でもなあ……こういう機会は今後もあるだろうし、そのたびに後方に引っ込んでもらうのも問題がある」

 

 戦艦棲鬼は泊地の最高戦力である。それが最後方で隠れ続けるというのも問題があった。

 

「それに、大切な仲間を一人山奥に追いやるみたいなマネはしたくない」

「……ありがと」

 

 膝の上にのっている石壁には見えていないが、戦艦棲鬼は石壁の言葉に若干赤面して笑みを浮かべている。

 

「しかし……どうしたものか……」

 

 石壁はそういいながらチラリと卓上の写真へ目をやる。そこには横須賀でとった同期の仲間達との写真が飾ってあった。

 

「……」

 

 それを見つめているうちに、石壁の脳裏に一つの方法が浮かんできた。

 

「……いける、か?」

「え?」

 

 

 ***

 

 翌日

 

「……ねえ提督」

「……なに?」

 

 戦艦棲姫が顔を引きつらせながら石壁へと声をかける。

 

「流石に、これは無理がない?」

「無理でも何でもやるしか無いんだよ、『扶桑』」

 

 そこには改造巫女服をきて、化粧で頬を健康的に赤くさせ、額の角を鉢巻でごまかした戦艦棲姫が座っていた。

 

「ほら、長い黒髪で、赤眼で、めっちゃ美人で、艤装とおっぱいが大きい、艦娘扶桑でしょ?」

「そうね……それだけ列挙すると戦艦扶桑の特徴よね……あと別にいいけどセクハラよその評価……」

 

 艤装さえ出さなければ確かに扶桑型戦艦に見えなくもない気もする、だが声が全然違うので喋ったり化粧を落とせば別人(?)だとモロバレしてしまうだろう。

 

『戦艦棲姫を扶桑に偽装してごまかす』

 

 どうにかして戦艦棲姫の存在を誤魔化さねばと悩みに悩み、思考のしすぎで頭の中が茹だって変なテンションになってしまった石壁の欺瞞工作であった。

 

「取り敢えず風邪で喉を痛めたって説明しておくから、出歩くときはマスクしてその格好でお願いします」

「ええ……いいわよ……提督の為だものね……」

 

 戦艦棲姫改め、扶桑型戦艦一番艦扶桑と化した彼女は、死んだ目をして石壁の言葉に頷いたのであった。

 

 余談だが、戦艦棲姫は戦艦扶桑として公的な記録に残った為、後世の歴史において南方棲戦鬼との戦いでは石壁は彼女に座乗していたという事になってしまったのであった。が、同時に幾つかの私的な記録においては彼女は『戦艦棲姫であった』との記録も見つかっており、謎の戦艦Xの正体が一体何だったのか、歴史家達を大いに混乱させたことを記載しておく。

 

 

 


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