艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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第十四話 リボル(ビング)クラッシュ

 基地航空隊の設立の為に泊地所属の空母達が飛行場に集まって訓練をしている。教導艦として教鞭を振うのは飯田提督の初期艦である飛龍と蒼龍である。

 

「違う違う違う!!そこはもっとこう……」

「いいですよ、そうです、そうやって意識を飛行隊全体へ……」

 

 ラバウル基地の空母だけあって、二人の空母としての練度は非常に高く、その教練は非常に高度なものであった。その訓練に泊地の空母艦娘達は必死になって喰らい付いていく。

 

「こうですね」

「……流石鳳翔さんね」

 

 その中でも鳳翔は鬼気迫る真剣さで教練をモノにしていく。石壁の役に立ちたい、足手纏いになりたくない、そんな思いで航空隊の手動操作を体に叩きこんでいく。

 

 そんな様子を見ながら、飛龍と蒼龍は教導について軽く相談をする。

 

「鳳翔さんは後は自己訓練だけでなんとかなりそうね」

「ええ、流石ですね」

 

 航空隊のマニュアル操作は、艦娘の練度と意志の力に依存する。石壁の鳳翔はその両点において他の艦娘達を突き放していた。

 

「他の皆も最近艦娘になったばかりだというのに筋がいいわね」

「それだけ必死なんでしょう、なにせ、彼女達の提督はほっといたら戦死か過労死でぽっくり逝きそうですしね。危機意識が違うんでしょう」

 

 先の戦いの後に加入した空母達も必死になって訓練に臨んでいるが、鳳翔に及ぶモノは誰もいなかった。その一方で、南方棲戦鬼との戦い以前に加入した二名だけは、彼女に次ぐ高い実力を示している。

 

「瑞鶴と飛鷹、彼女達も相当ね」

「ええ、顔つきが違います。聞けば彼女達は南方棲戦鬼との戦いにも参加したとの事ですし、くぐった修羅場が違うのでしょう」

 

 比較的軽いノリの瑞鶴だが、訓練に臨む彼女には一切遊びは見えない。抜き身の刃の様な鋭さを見せながら航空隊を発艦させていく。その艦載機の動きは同時多数のマニュアル制御とは思えない程変則的なモノであった。

 

 その隣の飛鷹は瑞鶴とは逆に、幾何学的というか、磨き上げられた戦術に基づく手堅い艦載機の運用が行われている。

 

 瑞鶴の制御が天性の才覚を努力によって磨き上げた天才の艦載機運用だとするなら、飛鷹のそれはひたすら基本と基礎を積みあげて単純だが分厚い秀才の艦載機運用であるといえるだろう。異質の方向性の確かな才が互いに練磨しあっているのが見て取れた。

 

(私はあの時、何もできなかった)

 

 瑞鶴は弓を引き絞っては発艦し、艦載機の制御数を増やしていく。

 

(斜面を駆け降りる提督を止める事も、助ける事も出来なかった)

 

 心の中の刃を研いでいく、自身の提督を助けられなかった悔しさをバネに己の才を練磨していく。

 

(だから、今度こそ、私が……いえ、『私達』が提督を助けるんだ)

 

 その瞬間、変則的な瑞鶴の艦載機の動きが、飛鷹の艦載機の動きと組み合わさる。瑞鶴の柔軟な艦載機の動きと、飛鷹の強剛な艦載機の運用が合わさり、互いの弱所を埋めあう。

 

「……」

 

 瑞鶴がちらりと飛鷹に目をやると、彼女はふっと笑って頷き、艦載機の動きを合わせていく。二人は言葉もなく硬軟自在の艦載機運用を即興で行っていく。鳳翔は一人でこれを行う事ができるが、瑞鶴と飛鷹は二人の力を合わせる事で彼女の技能に肉薄することに成功したのである。

 

「すごい息の合いようね」

「ええ、流石は同じ修羅場を乗り越えた仲、息がぴったりです」

 

 彼女達は南方棲戦鬼との戦いで、圧倒的な敵艦載機達を前に協力した経験があった。石壁の補助によって防空戦という形の理想形を体感させられた彼女達は、それ以後ずっとその再現を自力で狙っていたのだ。互いの得意分野の艦載機運用に特化し、それを組み合わせる事で硬軟自在の艦載機運用を実現しているのである。

 

「鳳翔さんとあの二人がいればこの泊地の航空隊は盤石ね」

「ですね」

 

 二人がそうやって頷いていると、遠方から声が響いた。

 

「まるゆ隊帰還!!まるゆ隊帰還!!」

 

 陸軍妖精が大声を張り上げながら駆け抜けていく。

 

「本土へ遠征に出ていた輸送隊が戻ったぞおおおお!」

 

 ***

 

「その荷物はこっちに、あれは第八倉庫に運んでください」

 

 港では荷揚げされた物資が積まれており、妖精さんや艦娘達が間宮の指示に従って運搬作業に従事していた。

 

「間宮殿、提督殿のお荷物はどちらへ運びましょうか?」

「しょうかー?」

 

 陸軍妖精とまるゆが間宮にそう問うと、間宮はそちらをむいて答える。

 

「えーっと、それは提督の部屋にでも置いてあげてください。あ、目録はここへ置いておいて、命令書は提督へ渡してください」

「了解しました」

「ましたー」

 

 二人が目録を机において歩いていってくと、入れ違いで伊能達がやってくる。

 

「輸送作戦は成功したようだな」

「あ、伊能提督。はい、皆さん怪我無くかえってこられましたよ」

 

 間宮に声をかけながら、ちらりと卓上の目録に目をやる伊能。

 

「それは重畳だな。これが目録か、なになに……中古●S2適量、はっ?」

「えっ?」

 

 ***

 

 石壁と鳳翔は部屋を一つ埋める大量の荷物を前に途方にくれていた。

 

「おい、なんだこれ」

「はい、ご注文の中古ゲーム機適量です基地司令殿!」

「頑張って運びましたー」

 

 本土へ輸送任務にいっていた陸軍妖精とまるゆの回答に、石壁は顔を引きつらせる。

 

「うん、確かに注文した……注文したけど、どうして部屋一個埋め尽くす様な量なの!?なに!?これ全部いっぺんにやれってこと!?聖徳太子が百人いても聞き分けられないよ!?」

「提督、聖徳太子が居てもどうしようも無い気がします」 

 

 石壁の絶叫をきいた妖精は、懐から命令書を取り出す。

 

「はっ!命令書にはまるゆ一隻を使ってこのゲーム機を適量用意しろと記載してありましたので、まるゆ一隻に積み込める限界量まで準備致しました!」

「はっ!?」

 

 命令書には確かにその様に記載してある。

 

「た、確かに命令書には適量としか書いてない……発注ミスというか、命令のミス……?」

 

 そこまで言ってから、石壁ははっとした様に顔を上げる。

 

「え、ちょっとまって。なに?僕もしかしてゲーム機確保するために軍艦一隻動かした事になってるの?」

「これ、命令書として大本営に提出もされてますよね……公文書として残ってしまったのでは……?」

 

 二人の予想通り、この時の命令書は公文書として残ってしまい、石壁はゲーム機を確保するために輸送作戦を行った男として歴史に記録されてしまったのであった。

 

「マジかよ……末代までの恥ってレベルじゃねーぞそれ……」

「あ、そうだ基地司令殿、大本営の経理からお手紙です」

 

 石壁が頭を抱えると、そっと封筒が差し出される。

 

「え?経理から?」

 

 石壁が封筒を開くと、中から二枚の紙が落ちる。鳳翔と石壁がそれぞれ紙を拾い、先に鳳翔が読み上げる。

 

「えーっと……『ゲーム機が経費で落ちるわけねーだろタコ!自分で買え!』……至極ごもっともなお怒りで……」

 

 鳳翔が困ったような顔で手紙を読むとなりで、石壁の顔がどんどん青くなっていく。

 

「せ、請求金額2300万円……しかも……リボ払いだってぇ!?」

 

 石壁が絶叫する。千台近いゲーム機と、それに対する無数のゲームソフトの値段としては適性であったが、石壁にとってはなんの慰めにもならない。

 

「2……2300まんえん……りぼ払いで……」

 

 鳳翔の手から手紙が滑り落ちる。

 

「年利15%で年間利息が345万円……リボ払い一回の支払金額なんて触った事ないから多分数万だろ……?や、やばい、これ雪だるま式に増えていく奴だ……」

 

 リボ払いとは毎月定額を支払っていく支払い形式である。一見すると分割払いと変わらない様に見えるが、リボ払いの支払いはまず利息に対して発生し、しかも複利であるという違いがある。つまり、一年間で利息すら払いきれない場合、翌年は利息を含めた金額にさらに利息が発生するのだ。これを防ぐためにはリボ払いの金額を利息以上まで増やすか一括で支払ってしまう必要がある。が、任官一年目の石壁がそんな給料もっている訳がない。

 

「やべえよ……毎月のお給料の大半は孤児院に仕送りにまわしてるから貯金なんて殆どないぞ……ど、どうしよう」

 

 石壁は予想外の問題に直面して頭を抱えた。

 

「妙な物資が大量搬入されたときいて来たが、まるゆ一隻分のゲーム機とか一体全体なにをやっとるんだ貴様は」

「あ、伊能」

 

 すると、部屋の扉を開いて伊能が入ってくる。

 

「返品の期間は等にすぎてしまっている以上、もう買うしか在るまい」

「そんな金ないよ……」

「はぁ……ほれ、これを使え」

 

 伊能が投げよこしたのは金額の記入されていない小切手であった。

 

「俺は艦娘の登場前から軍人だったからな、その頃からの給料がかなり溜まっているからそれぐらいならなんとか払える。いずれ利息をつけて返してくれればいい、遠慮なく使え」

 

「……すまん、ありがとう」

 

 石壁が深く頭をさげると、伊能は苦笑した。

 

「気にするな。まあ、貴様に初めて貸した金が、まさかゲーム機の支払い代金になるとは思わなかったがな」

「友人から借金してゲーム機の支払いにあてるとは、まるでとんでもないダメ人間でありますなあ」

「うぐっ!?」

 

 事実を羅列するだけで石壁がとんでもないダメ人間にしか見えなくなる。この想定外過ぎる心的ダメージに石壁は膝をついてしまったのであった。

 

「じゃあ俺達は仕事にもどるぞ」

「気をつけるでありますよ、石壁提督」

 

 伊能達が出ていった後、部屋には心に深い傷を負った石壁と、鳳翔だけが残されたのであった。

 

 

「……ねえ鳳翔さん」

「……はい、提督」

 

 石壁は遠い目をして呟いた。

 

「僕は、二度とクレジットカードで買い物なんかしないよ」

「そうですね、気をつけましょう」

 

 こうして、石壁の手元には多額の借金と大量のゲーム機(クソゲー付き)が残ったのであった。

 

 

 

 

おまけ

 

 

 ラバウル基地の南雲が執務をしていると、扉がノックされた。

 

「入れ」

「失礼します、石壁提督から贈り物が届きました」

「はて?一体何が?」

「さあ、精密機器らしいですが……一体何なのでしょうか」

 

 扉をあけて入ってきた加賀は、手元に大きなダンボール箱を抱えていた。

 

「とりあえず、みせてくれ」

「はい……よいしょ」

「どれどれ……なんだこれ……」

 

 南雲が机を占拠したダンボールをあけると、そこには見覚えのあるゲーム機が入っていた。

 

「……なんで●S2(【ピー】エスツー)がはいってるんだ?」

「さあ……鎮守府の皆さんで遊んでくださいとしか言われませんでしたので」

 

 南雲はまったく意図のわからない石壁の贈り物を前に困惑する。

 

「……とりあえず、談話室にでもおいておくか?」

「……そうですね」

 

 数日後、一緒に送りつけられたソフトの大半がクソゲーだったことが発覚し、談話室が艦娘達の阿鼻叫喚に包まれる事になるのを、南雲はまだ知らなかった。

 

 報告を聞いた南雲は石壁と再会したら一発ぶん殴る事を心に誓ったのであった。

 

 なお、このクソゲー宅配テロは石壁と仲良くなった提督達全員に行われたため、複数の提督や艦娘の日記などに石壁はクソゲーハンターであったのだと記録され、後世において石壁の人物像を大きく歪める一因となるのだが……なんで石壁がそんな嫌がらせじみた真似をしたのかは、歴史のミステリーの一つになったのであった。

 

 

~おまけ2 新鎮守府(?)完成~

 

沿岸部の要塞が形になっていく頃、ようやく新しい鎮守府が完成した。

 

「沿岸部の鎮守府ですが、また大量の深海棲艦が押し寄せた時の時の為にメッチャクチャ頑丈に作りましたよ」

「おお、出来たんだ?見に行こうか」

 

 石壁が明石について沿岸部で見つけた鎮守府は凄まじい出来であった。

 

「ねえ明石」

「はい」

 

 石壁の顔が引きつる。

 

「僕さ、あんなピラミッドの頂点削っただけみたいな鎮守府見たこと無いんだけど、なにあれ」

 

 石壁たちの目の前には、ピラミッドの上半分を削って平らにしたような建物が立っていた。

 

 石壁の問に、明石はよく聞いてくれましたと言わんばかりに胸をはる。

 

「はい!前回の鎮守府は砲撃や爆撃、破壊工作によってそれはもうボロボロでしたので、一から作り直すことになりました」

「うん、それはいいよ」

「だから要塞建造のノウハウを活かしてガッチガチに硬め、戦艦の砲撃すら弾き返せる様に傾斜装甲を採用してみました!」

 

 傾斜装甲とは、装甲板を傾ける事によって実態以上に装甲の厚さを増加させる技法である。

 

 例えば10cmの厚さを持つ装甲板を想像してもらいたい。この板に垂直に砲弾をぶつけた場合、10cmの鉄板をぶち抜く破壊力がある砲弾ならこれを貫通することができるだろう。

 

 ではこの板に『斜め』に砲弾が突き刺さればどうなるだろうか?当然ながら斜めに進む分突き抜かなくてはいけない装甲の距離が10cmより増えてくるのがわかるだろう。

 

 つまり傾斜装甲とは、最初から装甲を斜めに設置することによって、本来の装甲厚よりも高い防御力を発揮させる事を目的とした装甲のことなのである。かの有名なソ連の傑作戦車、T-34などが採用している装甲方式である。決して鎮守府に採用するようなものではない。

 

「大量の鉄骨を惜しみなく用いた外壁はなんと中空二重構造になっており、傾斜装甲、空間装甲、傾斜装甲の鉄壁の三重防壁になっています。更に念には念を入れて表面には傾斜を活かして土嚢を積んでいます。この泊地なら南方棲戦鬼が100人やってきて集中砲火を行っても耐えられますよきっと!」

 

 空間装甲とは、装甲を二重に設置し間に隙間を作ることで、一つ目の装甲への着弾の衝撃を減衰させて二枚目で受け止めようとする装甲の設置方法である。これも戦車などに用いられる工法で、やっぱり鎮守府に採用するものではない。

 

「表面がピラミッドみたいにぼこぼこしていると思ったら、あれ土嚢か……」

 

 石壁の目が死んでいく。

 

「……あのさ、僕の記憶が正しければ……傾斜装甲って内部空間を圧迫するから、居住性最悪なんじゃなかったっけ?」

「ええ、壁が傾いてますからどうしても使えるスペースは小さくなりますね。しかしご安心ください!あの建物は実は地下まで広がっておりまして、地下三階までがっつりと拡張しておりますので居住空間もしっかり確保出来ておりますよ!天井と一階の床は分厚い水平装甲になっていますので、地下に立てこもれば上層部が全部崩れても安全です!」

 

 水平装甲とは、戦艦同士の超遠距離戦時に発生する、相手の頭上に垂直に砲弾が振ってきた場合にそれを受け止める装甲である。

 

 古い型の戦艦なんかは甲板の水平装甲がスカスカで垂直に弾が当たるとそのまま内部までスコンと弾が飛び込んで大惨事になったりする。その為後期の戦艦では非常に重視されている装甲である。そしてやっぱり鎮守府に採用する装甲ではない。

 

「……あの、快適さは?」

「……それって堅牢性より重要なものなんですか?」

 

 明石の澄み切った曇りなき瞳に見つめられた石壁はそれ以上言葉を続けられなかった。この明石、ここ数ヶ月で要塞建造をしすぎたせいで脳みその奥底まで要塞化してしまったらしかった。

 

「……ちなみに、この鎮守府はどういう攻撃を想定して作られたの?」

「はい!数百人の戦艦級の深海棲艦に四方を囲まれて集中砲火を受けてもしばらく耐えられる様に作りました!」

「どんな地獄絵図だよそれ!!もう詰んでんじゃんその局面までいったら!!」

 

 石壁が思わず叫ぶと、明石は不思議そうに呟いた。

 

「泊地が陥落して山奥に逃げ込んだ私達のあの状況も一般的には詰みっていうんじゃないですか?私、あの時ゼロから要塞作らされたんですけど」

「ごめん、今のツッコミなし。この鎮守府は最高です」

 

 速攻で前言を翻す石壁、その件を出されたら黙るしか無い。

 

「ご満足いただけた様でよかったです」

 

 明石がそう言うと、石壁は濁った目で笑うしかなかった。

 

 かくして、山奥の要塞をでた一同は、海辺の要塞へと棲むことになったのであった。

 


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