数が多くてお礼のメッセージを送れなくなってしまいましたので
この場を借りて深くお礼を申し上げます。
これからも拙作をよろしくお願いいたします!
しかし直しても直しても誤字がなくならならないのはどうにかならないものだろうか……
沿岸部の泊地の作戦会議室に集ったいつものメンツと、となりの泊地からやってきた飯田提督が会議に参加していた。
あきつ丸が口を開く。
「ようやく沿岸砲台や泊地施設が完成し、砲兵隊を沿岸部に再配置することが出来たであります。輸送網も一応完成した事で沿岸砲台陣地は充分に機能するでありましょう」
あきつ丸の言葉に石壁は満足げに頷く。
「うん、砲撃戦についてはさんざん訓練してきたから少しの慣熟訓練でなんとかなるだろうから、次の問題について話に移ろうか」
そういいながら、石壁は沿岸部の地図を指差す。
「これまでの山岳部の要塞と違い、現在の泊地は沿岸部に露出した地上構造物が多い。明石の作った司令部施設は頑丈な装甲によって守られているから安心だが、対空戦闘をしっかり考慮せねば沿岸砲台が破壊されかねない」
沿岸砲台陣地は長く海上戦闘における最強の一角であった。敵を寄せ付けない砲台の存在は、防衛作戦を組む上でとても頼りになるのである。
だが、航空戦力の戦略的価値の増大とともに次第に敵機の空爆などで破壊される例が目立ち、戦略的優位性を失って歴史から消えていったという経緯がある。
「よってこれからの喫緊の課題は、この沿岸要塞線における防空体制の確立であると僕は考えている。機銃と高射砲による分厚い対空砲火で敵を叩き落とし、沿岸砲台陣地が破壊されることを防がねばならない」
対空機能さえ万全なら、沿岸砲台を破壊するには沿岸部への艦砲射撃くらいしか方法はなく、その距離なら石壁の砲兵隊は十二分に深海棲艦とも戦える筈であった。
「今回は対空戦の訓練のためにラバウル基地の飯田提督が協力してくれる手筈になっている」
その言葉と共に、飯田がペコリと頭を下げる。
「ラバウル航空隊の名に負けぬよう、微力を尽くす所存でございます。出向期間が終わるまでの間ですが、精一杯頑張ります」
飯田の言葉に、それぞれが頭を下げる。
「今回はとにかく対空砲火を訓練する事になる。ウチの基地航空隊も全て飯田提督の指揮下において攻撃に回ってもらう。作戦想定としては『基地航空隊全滅後の波状爆撃に対応するための、対空砲火のみによる防空戦』だ。飯田提督の出向期間が終わる前に死ぬ気で防空体制を確立させるんだ!いくぞおおお!!」
「「「「「おおおおおお!!!」」」」」
***
〜訓練一回目〜
「対空砲が当たりません!」
「くそ!?なんだあの艦載機の機動は!?」
「まって!とまれーー!?グワーッ!?」
〜訓練三回目〜
「対空レーダーもってきました!」
「でかした!これで当てやすく……」
「目標多数!どれ狙えばいいんですか!?」
「右に5度……いや左に10度……だめだ間に合わん!!グワーッ!?」
〜訓練十回目〜
「対空管制担当を用意しました!」
「でかした!これで我々は砲撃に集中でき……おい全部の砲台が同じ目標ばかりに集中砲火浴びせてどうする!?大多数の艦載機が無傷ではないか!」
「他の対空陣地がどの対象狙っているかなんてわかりませんよ!?駄目だ射撃がおいつか……グワーッ!?」
〜訓練二十回目〜
「防空区画を徹底することで砲撃が一箇所に集中することを防げる様にしました!」
「でかした!これでまんべんなく防空を……」
「ちょ、区画を徹底しすぎて戦力を一点集中されると砲火が足りずに防げませ……グワーッ!?」
〜訓練三十五回目〜
「防空要因として対空装備を満載した艦娘を適宜対空個人トーチカへ移動させる事が出来るようになりました!」
「でかした!これで防空要員がたりなくなった場所に素早く対空能力を割り増せるな!」
「どっちに行けばいいのかわからなくなって移動が混乱しています!」
「だめだ現場じゃ移動を監督できない!グワーッ!?」
〜訓練四十三回目〜
「一度本部にレーダーの探知情報を集めてそれを精査してもらってから砲撃指示をもらえるようにしてきました!」
「でかした!これで砲撃対象の被りを防ぎつつ対空砲火の集中も行えるぞ!」
「本部から入電!『処理オイツカナイタスケテ』」
「ちくしょおおおおおお!?グワーッ!?」
〜訓練五十八回……
***
「無理、いくら僕でも沿岸砲台全域の対空戦闘全部面倒見るのは無理……」
指揮所で石壁が白目を剥いている。繰り返される対空戦闘の中で現場の意見を取り込みながら必死に戦訓をブラッシュアップしてきたが、常時移り変わる空の戦闘の情報を指揮所に一括で集めて処理するのは石壁でも荷が勝ちすぎた。
南方棲戦鬼との戦いをも乗り切った熟練の石壁参謀本部のメンツといえども、無数の情報を精査するだけで処理能力がパンクしてしまったのだ。
「石壁提督はよく頑張られていると思いますよ。見てください、この対空砲命中率」
飯田提督はそういいながら、訓練用の模擬弾の命中率がのった報告書をもってくる。
「対空砲命中率10%は非常に驚異的です。飛龍達の艦載機も『こんな正確で怖い弾幕初めて突っ込んだ』と高評価ですね」
対空砲の命中率は、通常0.5%程と言われており、1000発砲弾を打ち上げてようやく数機の航空機を叩き落とせる程度でしかない。
対空砲の目的は濃密な弾幕で敵を寄せ付けない『キルゾーン』を空中に作成し、敵を進行ルートからズレさせたりする威圧効果である。にもかかわらずこれだけの命中率を叩き出せるのは、想定される攻撃が艦載機が近距離まで突っ込んでくる『急降下爆撃』である事と、砲兵隊の練度の高さ、そして石壁の指揮の賜物であった。
(これが……南方棲戦鬼を打ち破った『ソロモンの石壁』の実力か、なんという防衛能力だ)
飯田は、通常の20倍近い対空戦闘を目の当たりにして、ゴクリとつばを飲み込んでいた。要塞全体の防空戦闘指揮でこの精度である。もし石壁指揮下の艦隊に自身の艦隊の航空隊をぶつければ、航空隊は致命的な損害を被ることが目に見えていた。
だが、いくら驚異的でも石壁が望む水準までまったく届いていないのだ。
「ちなみに、普段石壁提督は艦娘を指揮する際に一体どのように対空戦闘を行っているのでしょうか?」
飯田提督が個人的な興味からそうきくと、石壁が応える。
「えっと、艦娘に座乗する時は艦娘と同調して電探から脳みそに直接情報を叩き込むよね?」
「はい、艦娘の視界範囲や探知能力によって情報量こそ変わりますが」
「僕の場合は、その情報を元に空中のあらゆる敵がどの位置にどれだけどんな風にどんな速度で動いているのかをまず把握するんだ」
「なるほど……うん?」
一歩目から話が怪しくなる。
「それから危険度で対応順位を決めて、その順位にしたがって全ての対空装備を個別の対象にマニュアル操作で割り振って掃射するんだ」
「す、全ての対空兵装を個別に!?」
これがどれくらいの難易度かというと、両手両足両目両耳で一斉に別の作業を行う様なものだと思えばいいかもしれない。
「後は撃墜に合わせて対応順位を繰り上げながら全ての敵を叩き落とすというのが僕のやり方かな」
「……すいませんちょっと何言ってるかわからないです」
石壁が『ね?簡単でしょ?』と言わんばかりにサラッと語った内容に頭痛を覚える飯田提督。だれでもそんなことが出来るなら今頃人類は深海棲艦を圧倒しているだろう。
(なんという情報処理能力だ、石壁提督の能力の秘密はこの頭の回転か)
飯田提督は人間離れした石壁の思考回路に戦慄しながら、さっき聞いた内容を頭の中で整理していく。
「……ん?その思考方法、どこかで聞いたような」
「というと?」
飯田が思わず呟いた内容に、石壁が反応する。
「……ああ、思い出した、石壁提督の対空戦闘処理はイージスシステムを搭載したイージス艦と同じなんですね」
「イージス艦?」
石壁が聞き慣れない単語に頭を上げる。
「イージス艦は、深海棲艦が出現するまでの主力艦艇に備わっていた防空システムです。内容としては石壁提督が行っていることが全てコンピューター制御されていると思ってもらえればいいかと」
つまり石壁の防空能力はイージス艦に相当するのだ。第二次大戦レベルの空戦を行っている所に現代水準の防空システムを乗っけた艦が居るようなものである。
「通常艦艇の火力では深海棲艦を倒せない為、深海大戦の序盤であらゆる国の艦艇が沈没しました。イージス艦もこの例にもれず、艦娘登場後は殆どロストしてしまった技術ですね」
いかに緻密で強力な対空設備をもっていても、そもそも妖精さん謹製の砲弾か近接戦闘以外は効かないのが深海棲艦だ。イージス艦はその本分を活かすこと無く水底へと沈んでしまったのである。それからすでに十年弱、大戦勃発当時は中学生だった石壁が知らなくても仕方のない技術である。
「なるほど、じゃあ以前の対空戦闘では電探と射撃管制の間の処理を全てコンピューターで繋いでいたんだ」
「ええ。もっとも、現代水準の艦艇が軒並み沈没して戦闘方式が第二次世界大戦時代まで巻き戻るという逆転現象がなければ、今もイージス艦は現役だったでしょうが」
石壁の言葉に飯田が答える。
「察するに、石壁提督はいままで自身の脳内で行っていたデジタルな作業を現実でアナログ処理で行おうとしているのでしょう。高性能な大型PCによって行われる筈のイージスシステムを手作業とソロバンで行おうとすれば処理能力がパンクするのは当然だと思われます」
「PCとソロバン、アナログ処理……」
飯田提督の言葉で、石壁の頭の中で不確かな『何か』が形作られていく。
「皆の頭脳を繋いで作業を脳内で分割処理でもしない限り、石壁提督の望む防空体制を組むのは不可能です」
「……」
飯田がそこまで言うと、石壁は俯いてしまう。黙り込んだ石壁の姿をみた飯田提督が、どうしたのかと首をかしげる。
「……石壁提督?」
「……ありがとう、飯田提督」
石壁が顔をあげる。その顔は天啓を得たといわんばかりのふてぶてしい笑みであった。
「そのイージスシステム、限定的だけど再現できるかも」
「……え?」
「とりあえず……誰か明石呼んできて!」
石壁の
~おまけ とある八百屋の驚愕~
ここはラバウル基地の隣接市街地である。多くの店舗が軒を連ねるこの一角に、とある小さな八百屋があった。
「それでよ、先日えらい傷だらけのわっかい士官のあんちゃんがきてよ」
「へー、若いのに苦労したんだねえその人」
この八百屋は石壁が先日買い物にきた八百屋であり、その時の事を思い出しながら店主が奥さんと会話をしているようだった。
「失礼、果物を買いたいのですが」
「へいらっしゃい!おや、軍人さんだね、佐官の人かな?」
店舗に入ってきたのは真面目で実直そうな一人の提督であった。
「ああ、中佐をさせてもらっています」
「そっかそっか、いつもありがとうな軍人さん!安くしとくよ!なんにするんだい?」
八百屋の親父がそういって品物を見せると、中佐はぐるりと見渡して口を開く。
「とりあえず果物をあるだけ全部ください」
「はっ!?あるだけ全部って基地の全員にでも配る気で!?」
ギョッとした親父さんに中佐が頷く。
「ああ、ちょっと他所の基地に行くんで、お土産に果物でも持っていこうかと」
「だからってこの量は多いんじゃ?」
小さな八百屋とはいえ、商品の果物全部持っていけばそれなり以上の量にはなるだろう。
「ああ、部下の人にも配ってあげようと思ってね。あっちの基地には青果店なんて無いだろうし」
「へぇ、そんな辺鄙な基地があるんで?この
人類の生存権の一番外側の基地であったラバウルでも、人が居ればそれに伴う営みがあり、営みがあればそれに付随する商売が生まれるモノだ。軍事拠点とはそこにあるだけでヒトモノカネが集まってくるため、その周辺にその需要を見越した商店が生まれるのである。普通なら。
「あー、新聞読んでないのですかな?」
「新聞?うちじゃあ取ってないよ」
八百屋の店主がそういうと、中佐は懐から新聞紙を取り出して店主に渡す。
「私の読み古しではあるが、後で読んでみてください。私が行く泊地の事が載ってますので」
「はあ、ありがとうございます」
店主が新聞を受け取ったあと、中佐は代金を置いて八百屋を出ていく。
「じゃあ頼みます。明日の朝には出立するから準備をして持って来るようにお願いしますよ」
「ああ、わかったよ中佐さん、毎度あり!」
中佐が出ていった後、店主は新聞へと目を落とした。
「ええっと、なになに……ショートランド泊地のソロモンの石壁、南方棲戦鬼を討伐ぅっ!?こ、このアンちゃんは!?」
小さな店舗に親父の絶叫が響いた。
***
「……というわけで土産に青果を沢山もってきましたので泊地の皆さんで食べてください」
「いやあ、わざわざありがとうございます飯田提督」
その翌日、石壁の元に出向してきた飯田が赴任のご挨拶にもってきた大量の青果を石壁が有難く頂戴する。
「でもよかったんですかこんなに沢山、高かったでしょう」
「いえ、給料をいただいても溜まっていく一方でして、たまには使って市民へと金を還元せねばいけませんので」
ラバウル基地の消費に大きく依存するラバウル市街では軍人が金を落とさないと金が足りなくなってしまうのだ。使いすぎるとそれはそれで問題だが、金を落とさないのは皆が困るのである。
「なるほど……僕もたまには買い物とかしてお金を使わないとなあ」
(まあ、この泊地では使いたくても使えないのでしょうが)
石壁の呟きに、飯田は心の中で呟く。流石に口に出すのは無神経だと思ったからだ。
「そういえばそろそろ本土に出していた輸送隊が帰ってくるぞ、嗜好品の類で出費があるかもな」
「ああ、そろそろか。楽しみだねえ」
伊能の発言に石壁が頷く。この数日後飯田提督の散財など霞む程の出費が彼を襲う事になるのだが、そんなことまだ誰も知らない。
「まあ、なにはともあれありがとうございます飯田提督、これは有難く頂戴します」
「ええ、喜んでもらえて何よりです」
***
「え、僕宛に手紙?」
それから妖精さん達が木箱をこじ開けていくと、とある木箱から一通の手紙が出てくる。
「ええ、林檎の木箱からでてきました」
妖精さんがほほ笑みながらそういって差し出した手紙を、石壁は受け取る。
紙には簡潔に『頑張れよ将軍のあんちゃん!また買い物にきて元気な顔を見せてくれよ!八百屋の親父より』と、書かれていた。
「これは、あの時の八百屋の親父さん?」
ちらりと、このまえ買ったのと同じサイズの木箱に詰まった林檎を見る。
「これが噂のファンレターというものでしょうかね、色気はありませんが」
「はは、でも嬉しいじゃないか」
妖精さんの言葉に笑って答えながら、石壁は林檎を一つ手に取ってかじり付いた。
「うん……相変わらず、美味い林檎だ」
石壁は笑顔で林檎を食べ切ったのであった