艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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石壁君の艦これのマップ構成は多分こんな感じです

0-0 鎮守府着任
1-1 鎮守府正面海域(←今ここ)
1-2 鉄底海峡

?-? ???

それでは石壁君の初海域争奪戦をお楽しみくださいませ


第二十話 鎮守府正面海域の死闘 前編

 

 

 

 それはさながら地獄の黙示録に予言されたアバドンの王の行軍。彼の王は第五の天使のラッパと共に現れ、天を覆いつくすイナゴの群れと共に神の敵対者を殺戮するために進むという。

 

 深海棲艦の軍勢が海を覆い、艦載機が空を埋め尽くし、全てを飲み込まんと進撃してくるその姿は見る者に絶望を植え付けるに足る破壊力を持っていた。

 

 夜明けとともに鉄底海峡から西進を始めた深海棲艦達が泊地へとなんの前触れもなく襲い掛かってきたのだ。全てを終わらせる為に、全てを食らいつくす為に、飛行場姫という地獄の女王の艦隊は、天を覆いつくすイナゴとなって来襲したのである。

 

「三式弾一斉射撃!!うてぇ!!」

 

 だが、それだけで心が折れる程、この泊地は脆くない。

 

 石壁の号令と共に沿岸砲台から対空砲弾が斉射されると、凄まじい数の航空機が爆散していく。空を埋め尽くす程の凄まじい数だけあって、一発一発が大量の敵を叩き潰していく。

 

「撃っても撃ってもキリがねえ!」

「ぐだぐだぬかすな!早く次の弾を装填しろ!」

 

 砲兵隊が大急ぎで次弾装填の為に動き続ける。

 

「一機でも多く叩き落とせ!あの数の航空機に殺到されてはただではすまないぞ!」

 

 石壁は指揮所で全力の対空戦闘指揮を取っていた。このままでは海上を進む深海棲艦達と接敵する前に、空から基地機能を破壊されかねないからだ。

 

「基地航空隊順次発艦!制空戦闘を開始!!」

「味方艦載機約1000機に対して敵艦載機は軽く見積もって10000機以上!圧倒的劣勢です!」

「前衛航空隊は制空権を喪失!!防空圏縮小!!」

「基地上空まで対空戦線が後退します!!」

 

 基地航空隊によって大幅に水増しされた泊地の航空隊であったが、押し寄せる圧倒的な物量を前には焼け石に水でしかなかった。

 

 鳳翔以下鎮守府の空母艦娘達は、現在死にものぐるいでキャパシティの限界まで艦載機を個別操縦し、撃墜され次第また新しい艦載機を投入するという工程を繰り返している。だが、戦線を押し返すには至らず遂に基地の上空が戦場になっていった。

 

(ああ、クソ、なんて数だ)

 

 石壁指揮下の対空砲の命中率は訓練の成果もあってかなりの高水準まで上昇していた。劣化イージスを用いずともその精度は驚異的の一言であり、ラバウル航空隊程の練度がない深海棲艦航空隊相手ならばそれだけでも十二分に通用する。

 

(南方棲戦鬼の航空隊より何倍も多いぞ、一体どうなっているんだ!?)

 

 だが、当初の想定を遥かに超える航空隊に殺到され、石壁の指揮をもってしてもその限界を越えようとしていた。

 

 ***

 

「『僕の乗る戦艦を落としたいなら、その五倍はもってこい』だったかしら?」

 

 飛行場姫は、己の基地のデスクに座りながら、南方棲戦鬼の戦いの戦闘詳報を読み返している。

 

「ご希望に応えて用意してあげたわよ。十倍の艦載機を」

 

 そう意地悪く笑った飛行場姫は、戦闘詳報を机にのせて観戦に戻った。

 

 ***

 

「機銃をうてぇ!!近寄らせるな!!」

「弾を持ってこい!!」

「撃墜された艦載機が炎上している!!消火班をよべ!!」

 

 空を埋め尽くす程の艦載機、炸裂する対空砲弾、無数の機銃から打ち出される烈火、爆炎と共に翼をもがれた艦載機の残骸が降り注ぎ、逃げ遅れた兵員が押しつぶされて命を落とす。

 

「敵機爆弾投下!」

「逃げろおおお!!」

「しょ、焼夷弾がこっちに!?がぁああああ!?」

 

 一部の隙もなく汲み上げられた緻密な対空砲火をもってして一切を叩き落とさんとする石壁に対して、圧倒的な物量でもって強引に防空網を食い破ろうとする深海棲艦の艦載機の戦い。石壁の防空指揮ですら凌ぎ切れない程の物量は、対空砲陣地に対して小さくない損害を齎していた。

 

「クソが!!爆弾放り込める程近寄って逃げられると思うなよ!!」

「殺せ!!あの艦載機を撃て、撃ち落とせえ!!」

 

 だが、同時に突入してきた深海棲艦の艦載機の大半が叩き潰されており、運よく対空網をすり抜けた艦載機も爆弾の投下後離脱する事もかなわず蜂の巣になって爆散していく。

 

「石壁提督!そろそろ敵艦隊が砲撃戦可能距離まで接近します!」

「防空戦闘指揮だけではなく全体の防衛指揮をお願いします!」

「ちぃっ!もう来たのか!」

 

 この圧倒的な航空隊を迎え撃てるのは石壁だけだ。だが、そちらに傾注しすぎれば正面から押しつぶされかねないのである。

 

 要塞線にこもっていた頃は全て山の中であった。故にそこまで対空戦を考えなくてもよかったが、なまじ海岸線に基地を設営したが故に航空攻撃を無視することも出来ないのである。

 

「……やむを得ないか。演算補助システムを、擬似イージスを起動しろ!!」

「あれはまだ調整段階ですよ!?」

「実験段階だろうがなんだろうが関係ない!出し惜しみをして基地が破壊されては意味がないんだ!急げ!!」

「りょ、了解しました!」

 

 その瞬間、指令室に隣接した部屋で無数の機械が起動する。

 

「演算補助システム起動、対空戦闘の補助を開始します!」

 

 ***

 

 その瞬間、基地の各所で対空砲台に対してオペレーターが防空指示を出し始める。

 

「第104高射砲台右へ修正値3、修正後即座に撃て」

「第204高射砲台、他の砲台がその機を狙っている、目標転換して撃て」

「第684高射砲台、方位そのまま仰角5度修正して撃て」

 

 擬似イージスシステムの起動と共に、追いつかなくなってきていた石壁の指揮・命令が遅延無く要塞中へと届くようになる。

 

 戦艦棲姫の艤装を通して石壁の命令が直接届くようになったことで、最適な命令を瞬時にだせるようになったのである。

 

「了解した!修正だ!」

「一瞬の勝負だ!止まらず動かせ!」

「微修正かけるぞこっちだ!」

 

 その指示にしたがって高射砲台の兵士たちが一糸乱れぬ動きで砲台に微修正を行い発射する。石壁の正確無比な命令と高練度の砲兵隊の職人芸の様な調整技術が合わさったことで高射砲の命中率が一気に何倍にも跳ね上がる。

 

「おお、当たった!」

「やはりすごいなこれ!」

 

 砲台の妖精さん達がその制度に歓喜する。

 

「驚いている暇はねえぞ!さっさと次弾装填しろ!」

「おう!」

「了解!」

 

 隊長妖精の指揮に従って即座に排莢と装弾が行われ、すぐさま飛んできたオペレーターの指示に従って発射していく。

 

「対空砲がこんなに良くあたる様になるなんてな!」

「なんていったけこれ、『イージスシステム』の模倣だっけか、凄いもんだ」

 

 第二次世界大戦時代の航空戦に、模倣品とはいえ一気に半世紀以上未来の軍事技術を投入したのだ。その効果は絶大であった。

 

 ***

 

「基地上空の制空権を回復しました!」

「基地航空隊は援護射撃によって立ち直りました!!対空砲の射撃と協働してなんとか五分へと持ち込んでいます!!」

 

 その報告に指揮所ではホッとした様な空気が流れる。

 

 擬似イージスが石壁の指揮能力圏を沿岸要塞全体へと拡大・拡張したことで、圧倒的な劣勢であった防空戦闘が五分五分へと持ち直したのだから当然であろう。

 

(相変わらず、凄まじい情報量だ……!)

 

 石壁は絶え間なく頭に流れ込み続ける無数の情報を元に要塞各所へと命令を出し続けている。

 

 水車へと通常の10倍の水を一気に流し続ける様に、石壁の頭は高速で回転し続ける。送り込まれる情報も、はじき出される命令も、その伝達速度も、普段とは桁違いである。

 

「これなら行ける……深海棲艦を弾き返すぞ!!」

「「「了解!!」」」

 

 鎮守府正面海域を巡る死闘は、始まったばかりであった。

 

 ***

 

「戦況しらせろ!」

「現在時刻0100(マルヒトマルマル)、未だ攻勢は収まっておりません!」

「日の入りとともに敵航空隊は撤退しましたが、敵水雷戦隊と戦艦隊による肉薄作戦は現在も継続中!」

「沿岸砲台は現在もなお間断なく砲撃戦をつづけております!損耗率微増、昼間に比べて苦戦しております!」

「艦娘達は個人用トーチカに篭って反撃を続けております!轟沈艦こそいないものの、敵艦砲射撃をうけて負傷者は増大傾向にあります!」

「昼間の攻勢で損壊した対空砲陣地・航空隊基地は現在大急ぎで修復を進めております!」

 

 深夜になっても深海棲艦達の進軍は一切緩まなかった。航空隊の攻撃こそなくなったものの、闇夜に隠れた進軍は沿岸放題の砲撃命中率を格段に引き下げ、昼間の交戦に比べて交戦距離が縮んでしまう。その結果、肉薄してくる深海棲艦の数も格段に増加したのだ。

 

 個人用トーチカに籠る艦娘も交代制の休憩こそ取るものの、そもそもの戦力が少ない鎮守府ではどうしても艦娘の負担が大きく、昼間に比べて損耗率が上がってくるのは防ぎようがなかった。

 

「防衛隊の疲労を適宜抜いていくことを忘れるな!人も艦娘も兵器もずっと使い続ければすぐに駄目になるぞ!交代要員を密に用意し余裕をもって休憩をさせろ!」

「はい!」

「飯を炊き握り飯をつくれ!塩を効かせろよ!兎に角塩気のある食い物を食わせて塩分をとらせるんだ!」

「配給班に伝達し食事を回します!」

「使っていない高射砲の射角を調整!前線にむけ照明弾を欠かさずに打ち続けろ!!少しでも命中率を上げるんだ!」

「了解!」

 

 開戦から既に15時間近くが経過していたが、未だに石壁の指揮は冴え渡っていた。波のように押し寄せる敵を防波堤が弾き返すように頑強に抵抗ができているのは、組み上げられた防衛戦略と石壁の指揮能力の賜物であった。

 

 深海棲艦に強いた出血は既に凄まじい領域に達していた。波打ち際は深海棲艦の血とオイルで赤黒くそまっており、打ち寄せられた残骸で浜が埋まっている。それだけ多くの深海棲艦を討ち果たしているのにも関わらず、攻勢は未だに収まらない。

 

 ***

 

(いったい、どれだけの戦力を投入しているんだ……)

 

 終わりの見えないタワーディフェンスゲームを延々と行っているかのように敵を殺し続ける一同は、次第に目に見えない疲労を大きく増大させており、指揮所の空気は次第に沈鬱としたものになり始めていた。

 

「……石壁提督、各地の損耗率の纏めです」

「ああ、ありがーーーー」

 

 渡される資料を取ろうとした石壁の手が空を切る。

 

「あ、あれ?」

「……提督!?」

 

 空振った手を不思議そうに見つめる石壁。彼の顔を見た一同がぎょっとして目を見張る。

 

「提督、鼻血が流れています……それに、凄いクマが」

 

 既に開戦から20時間以上が経過している。それだけ長時間たった一人で完璧な防衛戦闘指揮を行ってきた石壁だったが、新システムである劣化イージスによる演算補助をもってしてもその負担は決して小さいものではない。

 

 いや、実をいえば時間辺りの石壁への負担という意味ではむしろ増大しているのだ。常人では使いこなす事すら難しい高度な演算補助システムに石壁という人型イージスデバイスを組み込んで漸く動かしているというのが実情なのだ。防衛精度が跳ね上がるのに比例して負担も相応にあがっているのである。

 

 調整中の機構故に見過ごされたこの致命的な欠点が、遂に表面化を始めたのであった。

 

「……っ!」

 

 膝から力が抜けて椅子へと座り込む石壁、その疲労の度合いは誰から見ても明らかであった。

 

「だれか!石壁提督を医務室へ!」

「しかし、だれが代わりに指揮を取るんだ!?」

「石壁提督以外がこの鉄火場をもたせられると思うのか!?」

 

 石壁の防衛能力は天下無双のモノである。それは敵味方を問わず石壁と戦ったことのあるものなら皆一様に認めるものだ。彼がいたからこそ、ショートランド泊地は今まで戦ってこられた。それだけ稀有な力の持ち主なのだ。

 

 だが、石壁という強みは裏を返せば彼が居なければ防衛すらままならないというこの泊地の致命的な弱点に他ならない。

 

 この泊地は石壁の能力を最大限発揮できるようにシステムが組まれており、それがなければ昨日深海棲艦の航空隊に押し込まれてなすすべもなく沿岸部の基地は陥落していただろう。石壁という最強の駒を最大限活かすことでこの拮抗はなっているのだ。

 

 戦力が致命的に足りない以上、石壁が無理をするしか方法は無かった。そして無理を押し通せばどうなるのか、その当然の帰結がここに現れようとしているのだ。

 

(思考が回らない……疲労と眠気で頭が動かないんだ……)

 

 椅子に座りこんだ石壁は、霞のかかった頭で現在の自分を客観的に見つめていた。

 

(これは体からの警告だな……今すぐにこの劣化イージスを止めろ、この過負荷を軽減しろっていう当たり前の信号だ……)

 

 無理やり負荷をかけ続けている石壁の脳髄が危険を感じてストップをかけているのだ。如何に半分人間を辞めて常人離れした石壁でも、普段の10倍の速度で頭を回し続ければ疲労に耐えられなくなるのは当然であった。常人ならば既に耐えきれずに気絶するか脳髄が焼ききれかねない程の危険な状況なのだ。

 

「……明石」

「は、はい!今すぐシステムを止めて提督を医務室にーーーー」

「違う!!システムは絶対に止めるな!!」

 

 明石が石壁の肩を支えようとすると、石壁は力強くそれを押し留める。

 

「今すぐに医療用の覚醒剤とカフェイン錠剤をありったけもってこい!無理矢理にでもこの止まった頭を掻き回して使えるようにするんだ!!」

「て、提督!?頭が可笑しくなっちゃったんですか!?」

 

 明石が驚愕して石壁を見つめるが、血走った石壁の目に冗談は一欠片も含まれていない。

 

「命令だ……もってこい!!副作用なんて知ったことか!!今日この日を生き延びる為に兎に角もってくるんだ明石!!」

「は、はい!!」

 

 明石が駆け出していくと、石壁は叫んだ。

 

「数分だけでもなんとか僕抜きで戦線を維持しろ!!なにをぼさっとしているんだ動け!!!」

「「「は、はい!!」

 

 石壁はそれだけ叫ぶと明石が戻ってくるまでの数分だけ意識を失った。

 

 ***

 

「も、もってきました」

「……ああ、頼む」

 

 明石が戻ってくると石壁は即座に意識を取り戻して覚醒剤を体に注射する。すると途端に霞ががった思考がクリアになり、意識が明瞭さを取り戻した。

 

(心臓が痛いほどに脈打ち、張り詰めている。なるほど、確かにこれはキクな……中毒になるのもわかる)

 

 薬品によって生まれる擬似的な全能感、疲労が消えてしまったかのような興奮に、石壁は我知らず笑みを浮かべていた。

 

「待たせた!すぐに指揮に戻る!今の隙に攻め込んで隊列を崩したやつを重点的に叩いて追い返せ!敵に防御の隙間を見せるんじゃない!」

「は、はい!」

「夜明けと共に敵艦載機が再度やってくるぞ!対空要員に伝達してフォーメーションを対空戦闘形態に戻せ!」

「了解!!」

「遠くまで見えれば沿岸部の砲台の命中率も上がる、砲台を全力稼働させて狭まった包囲網を押し返せ!!」

「了解です!!」

 

 先ほどのふらつきはなんだったのかと思うほどの立ち直りに、指揮所にはホッとした空気が流れる。

 

 だが、それは『石壁の限界』という今まで見ないふりをしてきた現実をその場の全員に思い起こさせたのであった。目の前の防衛戦最強の提督でさえ防ぎきれない攻勢が来ているのだという意識が、指揮所を中心にじわりと心の中で増大し始めていた。

 

(まずいな……皆の心が押され始めてきた……)

 

 石壁はその嫌な流れを敏感に感じ取っていた。戦列が崩れるのは心が崩れる時。石壁という絶対の支柱によって押さえ込んでいた不安が、恐怖が、もしも全体まで広がってしまえばそれはどうしようもない遅効性の猛毒となる。石壁にはそれがよくわかっていた。

 

(僕が戦える間はなんとかなると思うけど……あとどれだけもつ?あと何日僕はここで指揮がとれる?)

 

 天才や超人に頼ったシステムはそれが順調に動くうちこそ強いが、個人に頼るが故にその人に何かあれば全てが駄目になるというどうしようもない弱点があった。飛行場姫はその弱点を圧倒的な物量によって無理やりにこじ開けて来たのだ。

 

(……まあいいさ、僕の命がどれだけ燃えようが、寿命が縮もうが、知った事じゃない)

 

 石壁は覚悟を決める。未来ではなく明日のために、明日のためより今この時のために、己の命を燃やそうと。どれだけ体がボロボロになろうとも、疲労を押さえ込み、痛みを誤魔化し、戦い抜くという字義通り決死の覚悟である。

 

(勝たないと……僕は勝たないといけないんだ……ッ!!)

 

 化け物の体を鋼の精神で律して、石壁は立ち上がった。立ち上がってしまった。

 

「水とカフェイン錠剤を」

「はい」

 

 バリバリと錠剤を噛み砕き、水で無理やり流し込む。限界を無視されたその過剰な薬品の摂取が石壁の肉体にダメージを与えるが、それを黙殺する。

 

(今ばっかりはこのバケモノの体にも感謝だな、人間なら死にかねない投薬だって耐えられるんだから)

 

 薬効が興奮と共に眠気を消し去っていく。

 

「敵航空隊大挙しておしよせてきます!」

「一匹残らず叩き落とすぞ!三式弾を撃ちまくれ!!」

 

 石壁は己が袋小路へと追い込まれたのだという事実から目を逸らして、戦い続けた。

 

 ***

 

「だから言ったでしょ?戦いの趨勢は既に決まっているの」

 

 飛行場姫は少しずつ少しずつ、石壁の泊地へと戦力を送り込んでいく。

 

「貴方は正しく一騎当千の英雄、生半可な戦力では殺せない。だから、私も持てる限りの力を尽くして本気で準備したのよ?」

 

 これは飛行場姫が石壁を殺す為だけに整えた舞台、演目の内容は一人の英雄が悪夢の中で壊れるまで踊り続けるという悪趣味極まりない悲喜劇。

 

「総勢一万数千隻の深海棲艦による波状攻撃、貴方はどこまで凌げるかしらね。無駄に足掻いた所で、貴方が死ぬのが先延ばしになるだけよ」

 

 泊地が攻勢に耐え切れずに戦線が崩壊するか、石壁が耐え切れずに壊れるのが先か、これはそういう次元の話なのだ。

 

「さあ、鉄底海峡の終わらない夜に沈みなさい」

 

 悪夢はまだ始まったばかりだ。

 

 

 

 





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