艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第五話 寄せ集め部隊

 要塞へと逃げ込んでから数日後、ようやく部隊内部の狂乱も収まり始めていた。

 

 初日に反撃作戦をぶち上げた石壁だったが、あれから毎日要塞内部の執務室(暫定)に引きこもって要塞を運営するためのシステム作りと現状の把握に努めていた。

 

 別に石壁が反撃作戦をいやがって動かないわけではない。というか、動けるならさっさと動きたかったのだが、ただでさえ押っ取り刀で着の身着のまま山へと三々五々逃げ込んだのだから、あらゆることがグタグタの状態で、現状の正確な把握すら困難な状態では動くに動けなかったのである。

 

 そのため、まずは兎にも角にも足元をある程度かためる必要があると艦隊の面々総出で、手探りの要塞運営マニュアルを作成しているのである。

 

 

 

 さて、そんな修羅場の執務室だが、山岳部の洞穴を鉄筋コンクリートで補強した要塞故に部屋に窓はなく、突貫工事の割には小奇麗ではあったが、打ちっぱなしのコンクリートの室内は寒々しさと閉塞感にあふれており正直言って土がむき出しの方が幾分精神的に楽な様な気がしなくもない有様であった。

 

「はあ、なんというか、部屋が殺風景極まりなくて、息が詰まりそうだよね……」

「石壁殿、お願いでありますから改めてこの空間の辛さを再確認させるのは辞めていただきたいであります」

 

 石壁が、書類をペラペラとめくりながら愚痴ると、あきつ丸がうんざりとした様に相槌をうつ。

 

 士官学校の複数人の共同部屋のむさ苦しさには辟易としたものだが、この殺風景きわまりない空間に比べれば、海の見える窓があったあの部屋のなんと贅沢な事だろうか、と、石壁は嘆息しながら書類をめくっている。

 

「でも、実際この部屋に缶詰めになるのは御免こうむりたいですね、状況が落ち着いたら壁紙でもはって少しでも閉塞感を緩めましょうか」

「そうだな、少しでも潤いがほしいよ」

「まったくもってでありますな」

 

 兵站担当の間宮が手を休めずにそういうと、石壁とあきつ丸はうんうんと同意しながらため息をはいた。

 

「ん?」

 

 その時、部隊目録を確認していた石壁の目が、あり得ない項目を見つけてピタリと停止した。

 

「ねえ、あきつ丸、なんか部隊の目録に妙な項目があるんだけど……」

「はて?どこでありますか?」

 

「いや……ね……?」

 

 石壁は目の前の単語がどうかタイプミスでありますようにと思いながら、つづけた。

 

「『騎兵』と『九七式中戦車(チハ)』ってかいてあるんだけど……」

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 『騎兵』、それは古代から近現代に至るまで世界各国で運用され、長く戦場を支配した優良兵科である。

 

 人を優に超える速さと行動範囲の広さを両立し、古代においては戦場の趨勢を決めうる重要な役割を担っていた。

 

 世界史上に燦然と輝く史上最大の大帝国、モンゴル帝国が世界に覇を唱えられた大きな要因の一つが、遊牧を生業とする騎馬民族であったが故に、他国では絶対に用意できないほどの騎兵の多量運用が可能であったことがあげられるだろう。

 

 まさしく騎兵は、戦場の花形であったのだ。

 

 だが、その栄光は戦争の近代化と共に消え失せていく。

 

 ナポレオン戦争当時の、単発式マスケット銃をもった戦列歩兵を並べて行進する時代ならば、まだ騎兵は戦力として一定の戦果を生むことは可能であった。

 

 機動力と突破力を生かして戦列を引き裂き、迂回突撃で弱点をつくこともできたのだ。

 

 だが、戦争の近代化につれて鉄量の投射量は飛躍的に増大し、戦列歩兵は小隊単位の散兵へと変わり、戦場は塹壕と有刺鉄線を張り巡らせた即席の要塞だらけとなった。

 

 騎兵は壁を越えられない。有刺鉄線は騎兵の機動力を奪い、勢いのなくなった騎兵はばらまかれる銃弾の雨に食い殺され、戦場から駆逐されていったのである。

 

 だが、なんの因果か目の前には大量の騎馬が鎮座している。

 

 現代の二次大戦時代を再現した要塞の中に、騎馬がひしめいている。

 

 そして、そのとなりにはこれまた古めかしい粗大ごm……ちがう鉄くz……もとい、博物館の貯蔵品に等しい戦車が鎮座しているのである。

 

 

「うわぁ……マジでお馬さんとチハたんがいっぱいいるよぉ……ここは牧場かなぁ……?いや、博物館だったかな……?」

 

「提督、お気持ちはわかりますが現実逃避はやめてください」

 

 眼前の光景を直視したくない石壁、となりに立つ鳳翔は、顔が引きつるのをかんじながらも、石壁を正気に戻そうと背中をなでている。

 

「はっ……そうだ、あ、あきつ丸、説明を頼む」

「はっ!」

 

 なんとか現実にかえってきた。石壁が、あきつ丸にそういうと、あきつ丸が元気よく応じる。

 

「しっての通り、海軍の英霊たちが妖精さんになるように、陸軍の英霊達もまた、妖精さんとしてこの世に二度目の生を受けております。彼らは生前の兵科に相当する武装を一緒にもって顕現することはご存知でありますか?」

「ああ、三八式歩兵銃をもった陸軍の妖精さんは多いし、それは知っているよ……この流れからいうと、このたくさんの戦車は、陸軍妖精さんの武装……か?」

「はい、その通りであります」

「なら、この馬達は?」

 

 石壁の問いに、あきつ丸がどう答えたものかと、少し悩んでから話し出した。

 

「そうでありますなぁ、一言で纏めると、『彼らに付属して呼び出されるのは無機物だけではない』、ということでありますな」

「なっ!?つまりこの馬たちは……!?」

「ええこの者たちもまた、妖精さんと共にこの世に現れた『英霊』なのですよ」

 

 ばっと、石壁は馬達のほうを向く。

 

 そこにいる馬達は皆、既に一度この世をさった馬達なのである。

 

「ここからは、自分に説明させていただきたい」

 

 そう、壮年の男性の声が響いたので、皆がそちらをむく。そこに居たのは腰に軍刀をさし、口髭を蓄えた陸軍妖精であった。

 

「貴方は?」

「お初にお目にかかります。私はこの騎兵・戦車隊を暫定的に纏めている妖精でございます、将校殿」

 

 渋い壮年男性の声でその妖精は話す。

 

「さて、この様な博物館か競馬場かといった骨董兵科の見本市となっている理由でございますが……わかりやすさを重視してまず我々妖精の来歴から説明した方がよろしいかな?」

「あ、はいお願いします」

 

 渋く落ち着いた声音の騎兵隊長の語りは、さながら歴史教諭のようで、石壁は思わず素直に頷いてしまった。

 それをきいて騎兵隊長はにこりと優し気な笑みを浮かべて話し出した。

 

 

「我々妖精は日本の危機を救うべく時代の壁を越え再び現世に現れた英霊でございます。されど一口に英霊といっても、古ければ明治維新の戊辰戦争から、太平洋戦争時代の英霊までもおりまする。この理由には諸説ございますが、恐らくは靖国神社に祀られている英霊が、その時代の英霊であるからであろうといわれております」

「妖精さん自身でも、その理由はわからないんだっけ?」

「そのとおりでございます、我々はただ、救いを求めるこの国の民草の切なる願いに呼ばれた『護国の鬼』でございますれば、それを成したモノが果たして何者であるのか、それに関しては一切関知しておりませぬ」

「『護国の鬼』?」

 

 石壁は、目の前の愛くるしい妖精さんに似合わない「鬼」という単語に一瞬首を捻る。

 

「はっはっは、確かにこの見た目では『鬼』というのは聊か似合わぬ呼称やもしれませぬなあ」

 

 騎兵隊長は呵呵大笑しながら、顎をなでる。

 

「されど、我々の本質は、『鬼』に他なりませぬ。家族の為、友の為、故郷の為、そして日本の為に、我々は鬼となって敵と戦い、殺して殺して殺しつくし、遂には地に伏す躯となりもうした。異国の遠き地の果て、何物も寄せ付けぬ深き海の底、見果てぬ碧空に溶けて消えた多くの兵士達、それが我々でございます。そうまでして戦い抜いた果てに、またこうして戦うためにこの世に蘇ったのでございますから、これを鬼と言わずして、いったいなんといえましょうか」

「……」

 

 一瞬、その愛くるしい見た目からは想像もできない『凄み』を感じた石壁は、ごくりと唾液を飲み込んだ。

 

「おっと、失礼をば、お若い将校殿には、すこしばかりきつかったですかな」

 

「……いえ、僕も失礼な事を言いました。続けてください」

 

 石壁は、悪気はなかったとはいえ、相手の見た目を馬鹿にしてしまったのだと気づいて素直に詫びた。その素直な謝罪に騎兵隊長は軽くうなずいて再び話にもどる。

 

「承知いたしました。さて、我々は人々の助けを願う声に呼ばわれてこの世に顕現したわけでございますれば、当然ながら人々の為に再び武器を手に取りました、我々陸軍の妖精たちは特に最前線に立ち、率先して切り込み、突撃をかけ、多くの仲間が再び命を失いました。世にいう、本土奪回作戦でございますな」

 

 本土奪回作戦、それは本土決戦の末に限界ぎりぎりまで追い詰められた大日本帝国が、最終兵器である艦娘と、蘇った英霊である妖精さん達と、残存通常戦力の全てを結集して深海棲艦を本土から駆逐した戦いを総称した呼称である。

 

 この戦いの結果、大日本帝国陸軍はその戦力の大半を喪失し、妖精さんたちも全盛期の五分の一まで数を減らしたものの、その捨て身の攻勢は深海棲艦を追い詰め、そこに新兵器艦娘の圧倒的火力と装甲があわさったことでようやく本土は解放されたのである。

 

「あの戦いの中で、我々騎馬隊や戦車隊は、人型の艦艇である深海棲艦にとって良い的であり、その機銃の斉射や砲撃の前には我々はまさしくもって蟷螂の斧に外ならず、戦場を一つ乗り越えるたびに、皆等しく塵に還り申した。それでも我々は前に進み続け、戦いが終わった時には、もうここにいる者たちしか、残っておりませんでした」

「……っ」

 

 そう、騎兵の時代は、もうとっくの昔に終わっている。旧軍の戦車もまた、深海棲艦の前にはブリキの棺桶にしかならない。

 

「本土の解放がなった時、我々の戦いは終わったのです。生き残った妖精たちは陸軍の部隊として再編されていきました。ですが、我々騎兵と戦車隊には、既に行き場が無かったのでございます。馬草を食むだけの生ものと、動くだけの戦車なぞ、陸戦が終わった後に使いどころがなくなるのはは当然の帰結でございますが、結果として、生き残って『しまった』無駄飯ぐらいは、一纏めにされてしまったのでございますよ」

 

 騎兵隊長のその言いぐさには、隠し切れない諦念があった。命をかけて戦い抜いたその先が、冷や飯ぐらいの閑職である。如何に英霊といえど、想うところが無いわけがないのだ。彼らにだって、感情は当然あるのだから。

 

「そうして、あちらこちらにたらい回しにされた末に、こうして伊能提督指揮下に収まったのでございますよ。いやはやまったくもって、流れに流れたものでございますな」

 

 騎兵隊長はそういって肩をすくめた。

 

「将校殿も、大層がっかりなされたでしょう、指揮下にこの様な時代遅れの役立たずが居たのですから」

「……」

 

 正直に言えば、石壁も部隊の存在を知った時は、あまりの事態に落胆したことは間違いない。当然だ、石壁達の境遇は有体に言って絶体絶命の危機であるからして、石壁が少しでも強い戦力を期待すること自体は自然なことであるし、それを否定することはできない。

 

「……そうだね」

 

 しかし……

 

「こんなにも、頼りがいのある『男達』に冷や飯を食わせていた大本営には心底がっかりしたよ」

「……は?」

 

 石壁は、今、目の前にいる『仲間達』の強さに、自身のつい先ほどまでの評価をひっくり返していた。石壁がそう言葉を放った瞬間、騎兵隊長は惚けたように言葉を失い、あきつ丸は石壁に見えない位置で、口元に笑みを浮かべた。

 

「それは、嫌みですかな?」

「そんなわけがあるか」

 

 訝し気な騎兵隊長の言葉に、石壁が首を軽く振りながら答える。

 

「だって、貴方達はまだ、目が死んでいない。そんな境遇でもまだ貴方達の闘志は微塵も消えちゃいない。人間は逆境の中でこそその本質が表に出てくるものだよ。断言してもいい、貴方達はこの絶体絶命境遇へと『流されて』やってきた訳じゃ絶対にない」

「……!」

 

 石壁の言葉に、騎兵隊長が目を見開く。

 

「貴方達は。『選んで』ここへ来たんだ。この絶望的な戦場へ、この世界の果てに等しい地獄の泊地まで。そんな連中が頼りない?寝言は寝て言えっての、これほどまでに『頼もしい』連中は、滅多にいないよ」

 

 石壁は迷いなく言い切った。そこに嘘は一切なかった。

 

「戦力的に難がある?それがどうしたっての、あの深海の化け物どもの戦力を前にすれば、騎兵も戦車も歩兵も大して変わらない。けど、絶対的に頼れるものが一つだけある」

 

 そういいながら、石壁は騎兵隊長をみつめる。

 

 

「それは叩かれても、踏みつぶされても、歯を食いしばって立ち上がって前を向ける心の強さだ。そんな強い仲間がとなりにいるなら、それほど頼もしいものはないよ。ここにきてくれてありがとう、僕はこの泊地の総司令長官として、貴方達を歓迎します」

「……っ」

 

 石壁のその言葉に、騎兵隊長は息を飲んだ。目の前の頼りない男が、とてつもなく大きく見えた。

 

 心臓がドクリと脈打つのを感じる。ピリピリとした興奮が脳髄を走っていく。

 

 自然と、口元が弧を描くのを感じた。

 

(なるほど……『彼』の言った通りだったようだ……)

 

 妖精さんは、確かに感じとった。目の前の男の能力の片鱗を……英雄としての素質を。

 

 それは相対した人間の心を、その本質的部分をしっかりと見つめて素直に評価できるという、言葉にするととても単純な能力であった。

 

 しかし、それだけではない、騎兵隊長は石壁という男の器に、とてつもない可能性を感じたのだ。

 

(この男、場合によっては相当『化ける』ぞ……!)

 

 能力を見抜くだけでは英雄にはなれない。底抜けの器があるだけでは人は集まらない。

 

 石壁は、相手の性根を簡単に見抜き、同時に、それを自分という器の中に収める事ができる男だった。

 

 そして、その器の大きさはまさしく未知数、石壁という未完の大器がどれだけの大きさと深さをもっているのか、騎兵隊長は、それを知りたくなった。

 

 そう、有体に言えば、彼は石壁という男に惚れこんだのだ。彼にとって先ほどの口説き文句は彼の中に燻る想いを燃え上がらせるに足る熱量をもっていたのである。

 

「……これから宜しくお願い致します。石壁『提督』」

「ええ、これからよろしくお願いします!」

 

 

 そういって、妖精さんは手を差し出した。石壁は、その手を取ると強く握りしめた。

 

 こうして、騎兵隊と戦車隊が石壁の指揮下に加わった。陥落した泊地に、急造の要塞、貧弱な火砲に、時代遅れの兵科達。

 

 正しくもって『寄せ集め部隊』としか言いようのない陣容であった。

 

 だが、石壁という男を中心としたこの寄せ集め部隊が、時代という歯車を回し始めたことを、この時まだだれもしらなかった。

 

 

 

 

 





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