艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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これからも精一杯頑張りますのでどうか拙作をよろしくお願いいたします!


第二十五話 再起の時

 石壁が目を覚ますと、もはや見慣れた医務室の天井が目にはいった。

 

「ふわぁ……久しぶりにあの夢を見たな……」

 

 孤児となって以降、何度も何度も繰り返し見てきたあの夢、最悪の記憶を繰り返し続ける絶望の悪夢である。

 

 石壁はこの悪夢を見る度に全てを喪う事への恐怖と絶望を再度心に刻み込み、次は絶対に負けぬ、奪わせぬと強く強く心に誓ってきた。鉄を叩いて練磨するように、石壁はこの夢で己の心を叩き潰して作り直す事を繰り返し繰り返し行ってきたのだ。それが石壁の人格と能力を形作っていった遠因でもあった。だが……

 

「でも……今日は展開が変わったな……」

 

 今回の悪夢は違った。最後の最後で、独りではなくなったのだ。自分はもう独りではないのだと、頼れる仲間が居るのだと。そう優しく伝えてくれた愛しい人の温もりが石壁の心を温かくする。

 

「それだけ、僕の中で鳳翔さんが大きな存在になってるって事かな……ん?」

 

 そこまで寝ぼけた頭で独り言をいっていると、ようやく石壁は違和感に気がつく。自分の手が何かを、厳密には誰かの手を握りしめ続けているのだ。

 

「……あの、その、提督?」

 

 自分の手が握り締めているやわっこい手の先に、自分が今名前を呼んだ人物が座っていた。

 

「ーーーー」

 

「ええっと、その……」

 

 鳳翔は嬉しそうに、恥ずかしそうに、若干顔を赤らめて石壁の方を向いている。

 

「ありがとうございます、提督……」

 

 鳳翔が恥ずかしそうにお礼を言うと、石壁は己が吐いたセリフがどれだけ恥ずかしいものだったか漸く理解した。

 

「ぼくは貝になりたい」

「提督!?大丈夫ですから、私も提督の事大好きですから落ち着いてください!?」

 

 羞恥のあまりに遠い目で現実逃避を始めた石壁を現実に引き戻すまで暫し時間が必要であった。

 

 ***

 

「提督、少し私の話を聞いて下さい」

 

 ようやく落ち着いた石壁の顔を真っすぐ見つめる鳳翔。石壁は鳳翔の言葉の真剣さに驚きつつも、しっかりと向き直る。

 

「提督がどのようなお気持ちで戦ってきたのか、どれ程の覚悟をもって生きて来たのか。提督の夢の中で見せていただきました」

「……僕の夢の中で?」

 

 石壁は、鳳翔の信じ難い言葉を聞いて目を見開く。

 

「はい。提督と艦娘の魂の繋がりを通して、貴方の夢の中へと引き寄せられたそうです」

 

 石壁は鳳翔が微塵も嘘をついていない事を感じ取って、息を呑んだ。

 

「じゃあ……アレを鳳翔さんも見たの?」

 

 石壁は、思わず言葉が震えた。10年近い月日を経ても未だ色褪せない喪失と絶望の記憶。全てが戦火と灰燼の中に消えたあの終わり(始まり)の日の光景が、石壁の心を締め上げる。

 

「……はい」

 

 鳳翔は、沈鬱な表情を浮かべて頷いた。

 

「提督のお母さんが遺されたお言葉も……しっかりとお聞きしました……」

 

 母が独り生きていかねばならない子供の為に、命を賭して託した言葉。それは石壁の魂に強く強く刻み込まれ、今なお彼を支え続けている。

 

 強くあれ、大切な人を護れ、そして最後の最後まで命を諦めずに生きろ。石壁がずっと実践し続けてきた言葉であった。

 

「そっか……母さんの言葉も聞いたのか……」

 

 石壁は、鳳翔のその言葉に無意識に胸元を押さえた。そこがあの日、最後に母親に押された場所である事に彼は気が付いて居ない。

 

「……ねえ、鳳翔さん」

 

 石壁は己の胸元を強く握り締めながら、言葉を続けた。

 

「僕は……ずっと、母さんに貰った言葉を道標にして進み続けてきた。大切な人を護りなさい、誰よりも強くなりなさい……そして、生きる事を決して諦めるな……ずっとそうやって生きてきた。戦って、戦って、戦い続けてきた……」

 

 石壁は強くなった。あの時の無力な少年が、誰よりも強い護りの力を手に入れた。

 

「でも……結局は勝てなかった……」

 

 石壁の手が血が出る程強く握られる。握りしめられた病服の胸元にジワリと血が滲んだ。

 

「僕は……何を間違えたんだろうか……」

 

 石壁の問いはとても弱々しかった。暗闇の荒野の中で手元の明かりを失ってしまったかのように、彼は今寄る辺となる魂の核が揺らいでいるのだ。

 

「……提督」

 

 鳳翔は、不安気に揺れる彼の中に、昔日の少年の面影を見た。

 

「提督の行動は、何も間違ってはいませんでした」

 

 鳳翔は、固く握りしめられた胸元の手へと、己の手を重ねる。

 

「ただ、貴方は強く在り過ぎただけなのです」

 

 石壁は確かに強くなった。だが、強さと引き換えに多くのモノを石壁は失ったのだ。

 

「人は己の力だけでは生きられません。一人で持てない重荷は、どう足掻いても持てないのです。でも、提督は人より多くのモノを一人で持ててしまったから……全てを自分の背中へと乗せる事を躊躇わなかったから……積み重なっていく重荷を支えきれなくなってしまったのです」

 

 言うなれば石壁は強くなり過ぎたといえるだろう。極限まで練磨された鋼の如き精神力が、あらゆる痛苦と心労を抑え込み、限界を遥かに超える重荷を背負いこませたのだ。まず第一に己の強さに依って立つ石壁は、本当の意味で他人の力を頼ることが次第に出来無くなっていったのである。他人に100%(本気になる事)を求めても、120%(限界を超える事)を求めてこなかったのだ。計算の中で収まらない他人の力に頼るなど、石壁には出来なかった。

 

「じゃあ、どうすればいいの……?」

 

 石壁がそう鳳翔に問うと、鳳翔は微笑んだ。

 

「夢の中で私が言った事は忘れてしまいましたか?なら、もう一度……いえ、何度でも……貴方に届くまでお伝えします」

 

 緩んだ石壁の手のひらが、鳳翔の手の中へと納まる。彼女は血で汚れたその手を大切な宝物の様に己の胸元で抱きしめた。

 

「提督はもう、独りじゃないんです」

 

 鳳翔がそう告げた瞬間、俄かに廊下が騒がしくなる。

 

「提督には、こんな世界の果てまで来てくれた仲間がいるんですよ」

 

 その瞬間、扉が乱暴に開かれて石壁の親友たちが雪崩れ込んできた。

 

「大丈夫か石壁!?」

「石壁が目覚めたっていうのは本当か!?」

「HEYブラザー!調子はどうだ!?」

 

 伊能、新城、ジャンゴが石壁の起床を聞いて大急ぎで医務室へと向かってきたのだ。ぜいぜいと息を切らせながら部屋に入ってきた三人をみて、石壁はなんとか声を絞り出す。

 

「……おはよう、皆」

 

 顔色もよくなった石壁をみて、一同が安堵のため息を吐く。

 

「心配かけたね」

 

 石壁がそういうと、伊能達はしばし黙り込んだ。

 

「「「……」」」

 

「どうかしたの?」

「なあ、石壁」

 

 すると、伊能達が石壁に頭を下げた。

 

「……え?」

 

「今回の作戦で俺は全く訳にたたなかった。お前の負担を肩代わりすることも出来なかった。すまん」

「助けに来るのが遅くなりすぎた。もっと早く来るべきだった。すまない」

「ブラザーがここまで追い詰められるまで遅くなっててわるかったな」

 

 伊能達はそれぞれ頭を下げたまま、石壁に詫びた。

 

「次はこんな無様は見せん、必ず、必ず役に立ってみせる」

「私達が全力でお前を支える。足りない所を補うから、一緒に戦わせてほしい」

「オイラ達4人が揃えば出来ねー事なんて無いぜ!だからさ、もう独りで頑張らなくてもいいんだぜ?」

 

「……」

 

 口々に石壁へと真っ直ぐに思いをぶつけてくる親友達を、石壁はじっと見つめる。

 

 助けは来た。来るはずがないと諦めていた助けは来たのだ。石壁のために、親友の為に、こんな世界の果てまでやってきてくれた大馬鹿者達が、石壁の側にはいるのだ。

 

「……ッ!」

 

 石壁は、その事実で胸の奥からアツい思いが湧き上がってくるのを感じて、目元を擦った。

 

「あり、がとう……」

 

 石壁は胸の中の絶望感が消え失せて、希望が溢れ出すのを感じていた。

 

「ありがとう、皆……ッ!!」

 

 石壁はもう、独りではないのだ。

 

***

 

 それから、扶桑達や金剛達も部屋へとやってきて、静かだった病室が賑やかになってくると、ふと石壁は病室の隅っこのソファに誰かが寝ている事に気が付いた。

 

「うぅん……」

「あれ?だれが寝てるの?」

「ん?ああ、確か石壁の泊地の扶桑型ーーーー」

「ふわぁ……よく寝た……あ、提督!?目が覚めたの!?」

 

 新城が石壁の問に答えようとした瞬間、毛布がはだけて黒いネグリジェの戦艦棲姫が出てくる。

 

「「「「……」」」」

 

「ふわぁ……すごく賑やかね、話には聞いてたけど流石に石壁提督の親友達だけあるわ」

「あ、戦艦棲姫、起きたんだ。うん、そのとーー「「「「戦艦棲姫!?」」」」り?」

 

 その瞬間、予想だにしていなかった戦艦棲姫の登場に、援軍にやってきた全員が驚愕する。

 

 

「「「あっ」」」

 

 寝起きで偽装工作とかその辺の単語が頭から抜け落ちていた石壁達は、そこに至ってようやく戦艦棲姫の事に思い至った。

 

「おいおいブラザー冗談も大概にしろよ!?」

「なんで戦艦棲姫がこんな場所にいやがるんでい!?」

「おい石壁説明しろ!」

「艤装を展開しないと!?」

「あんたウチの石壁とどういう関係よ!?」

 

 大混乱になる病室、やっちまったという顔で考え込む石壁と戦艦棲姫、どうしようという表情の泊地の面々。

 

「あーー……ちょっとまってね」

「ちょ、石壁!?」

 

 石壁はベッドから起き上がると、自分を守ろうとする山城の脇をすりぬけて、座席にかけてあった扶桑型の巫女服を手に取り戦艦棲姫に羽織らせた。

 

「彼女は扶桑型戦艦の扶桑だったんだ!な、扶桑!」

「え、ええ、私は扶桑よ!」

 

 キリッとした顔で石壁が言い切ると、戦艦棲姫は顔を引きつらせながら同調した。

 

「「「「「……」」」」」

 

 一瞬、静寂が場を支配する。

 

「「「「「嘘つけ!!」」」」

 

「ですよね!」

 

 ***

 

 それから場所をいつもの作戦会議室に移して、戦艦棲姫について洗いざらいを吐かされた石壁、話を聞き終わった者達の反応は千差万別であった。

 

「はぁー、相変わらずブラザーはぶっ飛んでるなあ」

 

 ジャンゴは石壁を膝の上にのせてご満悦な戦艦棲姫を見ながら笑う。彼女のそんな姿をみていると、ジャンゴには戦艦棲姫が危険な存在であるようには見えなかった。

 

「まさか深海棲艦を仲間にしているとは……お前、もしこれが大本営に知られたらそれだけでスパイの容疑をかけられて処刑されてもおかしくないぞ」

 

 新城は親友のやらかしっぷりに遠い目をしている。大日本帝国にとって深海棲艦は不俱戴天の怨敵であり、そんな存在と共に居るなどと知られたらどんな罵詈雑言が飛んでくるか想像も出来なかった。少なくとも徳素はこれを理由に嬉々として石壁を殺そうとするのは明白である。

 

「あはは、なんていうか、ごめん」

 

 石壁はもう笑って誤魔化すしかなかった。

 

 閑話休題

 

「……さて、疑問も解決しただろうし、そろそろ真面目な話をしようか。あきつ丸、報告を」

 

 石壁がそう言って空気を切り替えると、その場の意識が真面目なものへと切り替わる。

 

「はっ!新城提督達の増援艦隊と、一緒にやってきた護衛艦隊によって敵艦隊が撤退し、以後鉄底海峡は不気味に沈黙しております!」

 

 あの大攻勢が信じられない程、以後鉄底海峡は沈黙している。

 

「ですが、青葉殿以下情報部が血眼になって情報をかき集めた結果、どうやら更なる戦力の増強に動いている様です」

 

 敵艦隊の動向を直前まで察知できなかった青葉達は、あれ以後本当に僅かな兆候でさえ見逃さない様に、警戒態勢を何倍にも厳重にして情報を集め、情報の分析でも毛筋ほどの違和感さえ逃さずに洗い出しを行っていた。それによって、ようやく朧気にではあるが鉄底海峡の動きが見えるようになってきたのである。

 

「失われた戦力の補充がつくまでいくらか時間はありそうですが、長く見積もっても半月程度だろうというのが青葉殿の判断であります」

「……そういえば青葉は?」

 

 いつもなら自分で報告に来る青葉が今日はここに居ないことに石壁が違和感を覚える。

 

「『失点は結果で取り返す』とのことです。報告に来る僅かな時間さえ勿体無いと言っておりました」

「……なるほど」

 

 青葉がどれだけ真面目に職務をこなしてきたか知っている石壁は、今回の一件で青葉を攻めるつもりはなかった。だが、石壁がどう思うかと、本人がどう考えるかはまた別の問題だ。己の職務に誇りをもっていた青葉なら自分を許せないのは当然の事であった。

 

「わかった……次の報告を」

「はっ!前回の戦いで損耗した物資や基地機能についてでありますが、石壁提督が起床なさるまでの間におおよそ全て回復致しました」

「……早くない?」

 

 石壁が気を失っていたのは精々2,3日、その間にあれだけ損耗した陣地を修復出来たのが信じられなかった。

 

「この泊地の皆本当にタフネスであります。戦いが終わった直後から、動ける者達総出でツルハシ片手に陣地修復を始めたでありますよ」

 

 南方棲戦鬼との戦いが終わってからこっち、艦娘になってからずっと毎日毎日坑道を掘り、地ならしを行い、トーチカを作り、飛行場を作り、要塞を作ってきた彼女達はもはや歴戦の工兵隊と化していた。彼女達は血に染み付いた習性にしたがって壊れた要塞を立て直したのである。

 

 神通達による訓練は、死にものぐるいで動き続けて疲れ果てて死にそうになってからが本番という地獄の末期戦仕様であった。そんな環境で鍛えあげられた彼女達は訓練の効果を遺憾なく示したのである。

 

「天龍殿や妖精工兵隊からの伝言であります。『提督の足元は俺達が支える』との事でありますよ」

「……本当に、頼りになるなあ」

 

 石壁は天龍達や工兵隊の頑張りに胸が熱くなる。

 

「劣悪な戦況でこそ、こういう部分が光ってくるでありますな」

 

 石壁の言葉にあきつ丸がうんうんと頷く。

 

「本当に苦労したんだな……」

 

 新城は石壁達が訓練で想定していた内容の恐ろしさと、実際にそんな状況に追い込まれた結果から思わずポツリと呟いてしまう。

 

「まあ最初からずっと末期戦だったからねえ」

 

 石壁は新城の言葉に苦笑しながら答えると、あきつ丸に続きを促した。

 

「天龍殿達や工兵隊は石壁提督の要請があればすぐさま次なる行動に移るでありましょう」

「……なるほど」

 

 石壁はその言葉にしばし考え込む。

 

 

「次の報告は明石殿からです」

「はい」

 

 そういって前に出た明石を見て、石壁は先日明石に対して怒鳴り散らした記憶が蘇る。

 

「あ……」

 

 石壁がその記憶に罪悪感を感じると、明石はそれに気が付いたのか微笑みを返してから報告を始めた。

 

「今回の一件で見えて来た泊地の技術的弱点は幾つもあります。夜間戦闘における射撃精度の低下、押し寄せる深海棲艦を食い止める火力不足、破壊された沿岸砲台の火力低下……そして、長時間の疑似イージスシステムの使用による、提督への極度の負担の集中」

 

 そのどれもが、石壁が嫌になる程痛感した事であった。どれもこれも石壁が無理やり指揮能力で誤魔化していた問題である。

 

「その全てに、技術的な解決の道筋を付けて参りました」

「なっ!?」

 

 石壁は、明石のその報告に目を見開いた。

 

「この前の戦闘で取れた貴重なデータ、無数の深海棲艦の残骸から採取された装備品の数々……そして、今まで地道に積み重ねてきた技術的ノウハウの蓄積が、漸く形になったんです」

 

 明石は石壁の驚愕した顔を見て、不敵な笑みを浮かべる。

 

「以前石壁提督はおっしゃいましたよね?『誰が助けてくれるんだ』って」

 

 明石はバシンと己の胸を叩いた。

 

「私が、いえ、私達工廠部門の全員が提督を支えます。昨日出来なかった事は今日、今日出来ない事は明日、積み重ねた技術力で不可能を可能にしてみせます。提督が命懸けで戦ってくださったお陰で得た時間や経験を全て糧にして、強く強く成長してみせますから」

 

 明石は誇りと闘志を燃え上がらせながら、石壁へと真っ直ぐ言葉を届ける。

 

「私達を頼ってください」

 

 明石もまた石壁の初期艦である。長い月日を共に戦い続けた仲間なのだ。彼女は石壁の吐き出した言葉に傷つき、そして奮起したのだ。己の技術力の全てを賭して、今度こそ石壁の助けになってみせると。

 

「……明石」

 

 石壁は明石の、否、周りの全ての仲間達の真っ直ぐな言葉に己の不明を恥じた。

 

(何が助けなんて来ないだ……皆は最初から僕に護られるだけの存在なんかじゃなかったのに……ずっと、僕を側で支えてくれていたというのに……僕はそんな簡単な事にさえ気が付いて居なかったんだ……自分の事で精一杯だったのは、他ならない僕の事じゃないか……)

 

 見渡せば、指令室の皆が笑顔で自分の事を見つめている。単純な事だった。石壁が彼らを護りたいと思った様に、彼等も石壁を助けたいのだ。これはそれだけの話であったのだ。

 

「……」

 

 ちらりと鳳翔に目をやると、彼女は石壁に笑顔で頷いた。

 

「ありがとう、皆」

 

 石壁は笑みを浮かべて全員に向き直った。一度消えかけた彼の心の炎が轟々と燃え上がるのを、その場の全員が感じ取った。石壁は今本当の意味で仲間を受け入れたのだ。一本の矢は簡単に折れるが、それが何本も集まれば強くしなやかな束となる。石壁の心は仲間の力を束ねる事でより強靭なモノへと進化したのだ。

 

「まだ僕たちは生きている。そして、皆が居るなら、戦える」

 

 石壁は、その場の全員に頭を下げた。

 

「力を貸してくれ」

 

 石壁のその言葉に、全てのモノ達が言葉を揃えた。

 

『了解!!』

 

 ***

 

 それから暫し、各々が持ち寄った作戦や技術について話し合い、次の戦いに向けた骨子を作り出していった。

 

「基本方針はきまった」

 

 石壁はそういうと、海図の沿岸部の要塞を指差す。

 

「今回の戦いで嫌になる程思い知ったけど、沿岸部の要塞を堅守し水際での徹底抗戦による敵戦力の撃滅を図るのは戦術の硬直化を招いて逆に危険だ。故に戦術を切り替える必要がある」

 

 石壁は沿岸部と山岳部の間の平野部をトントンと叩く。

 

「ここに新たに陣地を複数、山岳部まで引いていく。一つ一つの陣地は薄くとも何十、何百もの防衛線をひいて受け止める。こちらの損害を限界まで抑えつつ、敵に限界まで出血を強いる」

 

 今までの防衛戦術が硬い岩盤で徹底的に叩き返す剛の防衛戦術なら、これは敵を受け流す柔の防衛戦術。

 

「縦深防御と新技術の兵装を合わせて、敵戦力を限界まで磨り潰してやる。僕らの防衛戦術が一つだけじゃないってことを、味合わせてやろう」

 

 敗北を期に生まれ変わった石壁達は、新たな戦いに向け動き出したのであった。

 

 

 

 

 

 


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