艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第二十六話 謎の大和撫子……一体何方棲戦鬼なんだ……

 石壁は夢の中で何故か正座させられていた。目の前には絶世の美女がたっている。鳳翔の目の前に現れた謎の大和撫子である。

 

「ねえ、石壁」

「……はい?」

 

 石壁は訳も分からず正座させられたまま、どこかで会ったような気もするが全く思い出せない美女の言葉に対応する。

 

「仕方ないのはわかるけど、アンタもうちょっと内臓を労りなさいよ。どれだけ私が苦労したと思ってるの?」

「はあ」

 

 何言ってんだコイツ、と石壁は思いつつ話をきく。

 

「いきなりフル稼働させられた挙句に危ないお薬とカフェインをどかどか流し込んで休み無く使うとか馬鹿なの?死にたいの?内臓ヤクギメファックとかどんな高等プレイよ普通なら死ぬわ」

 

 相当腹に据え兼ねていたらしく、つらつらネチネチと石壁に愚痴を垂れ流していく。

 

「あと事有る毎に胃酸をどっばどっば分泌させるんじゃないわよ。死んでから胃に穴が空くとかどう言う事なの?私、こっそり開いた穴塞いだのよ?ねえ?なんでこんなに短期間で2個も3個も胃に穴が開くの?ねえどうして?」

 

 美女の目が死んでいく。いや、死んでいた目が更に死んでいっているというべきか。

 

「僕にそんなこと言われても……その、困る」

 

 石壁は身に覚えが有り過ぎる言葉に目を逸らしながらそう言うしかない。

 

「でしょうね、知ってるわ。嫌になるほど知ってるわ」

 

 彼女は『はぁ……』と本当に深いため息を吐くと石壁に向き直る。

 

「まあ私の力の及ぶ限りはアンタの体の健康は守り抜いてあげるから、頑張って生き延びなさいよ。アンタに死なれると私も困るのよ」

「……その。貴方結局誰なんですか?」

 

 石壁のその問に彼女は腕を組む。

 

「どうせ起きたら忘れるんでしょうが、聞かれたからには答えないとね、私はなんーーーー」

「あ、ごめん夢覚めるわこれ」

「え、ちょまっ」

 

 そこで石壁の夢は途切れた。

 

「はぁ……行っちゃった……」

 

 美女はそこでガシガシと頭をかくと、もう聞こえないのを承知でボソリとつぶやく。

 

「妹のこと、頼むわよ」

 

 ***

 

「ふわぁ……うし、今日も頑張るか」

 

 石壁が目を覚まして身だしなみを整える為に鏡の前に立つと、鏡に映る己の頭をみて顔を顰める。

 

「白髪……か……」

 

 頭部に混じる白い物をみながら、石壁はため息を吐いた。

 

「これ、どっちが原因なんだ……?」

 

 石壁は先日医師から言われた言葉を思い出す。

 

 ***

 

「体内の臓器の浸食域が拡大している?」

 

 石壁は目が覚めたあと医務室の軍医妖精さんに話を聞いていると、そのように告げられた。

 

「はい、左の写真が以前の、右側が現在のレントゲン写真になります」

 

 石壁が目の前にはられた二枚のレントゲン写真を比べてみると、明らかに右側の写真の方が浸食が肥大化しているように見える。

 

「石壁提督は薬剤の過剰摂取と身体の酷使によって常人ならば死んでもおかしくない状態になっておりました。結果として1日半ほど意識を喪失されましたが、もっと長期間意識不明になるだろうと私は考えておりました」

 

 石壁が不眠不休で戦い続けた時間は延べ50時間以上、それだけの時間を薬剤のドーピングで通常の数倍以上の過酷な負荷をかけて戦っていたのだ。数日間は昏倒していてもおかしくはないどころか永眠しなかったのが不思議なレベルなのである。

 

「ですが実際に蓋を開けてみれば二日、たったそれだけの時間で石壁提督の体は疲労を完全に回復させました。その原因が、これでしょう」

 

 軍医妖精は体内の臓器から脊髄、骨格、腕や足の節々に木の根の如くのびてからみついている繊維質を指さす。

 

「極度の睡眠不足や疲労と過剰な薬物の摂取による臓器の酷使……こういった過酷な環境に置かれたことで、貴方に移植された深海棲艦の臓器が生き残る為に適応し、成長していると考えられます」

「臓器が成長……」

 

 石壁はその単語にうすら寒いモノを感じる。

 

「この臓器からでて体中に広がる“根”が、あなたの体組織を強靭なモノへと変質させ、負担を軽減し、体力の回復を促したのでしょう」

 

 植物は水分が足りない過酷な環境に置かれると、より深く広く根を張ろうとする特性をもっている。同じように南方棲戦鬼の臓器は過酷な環境に適応するために石壁の体により深く根をはったのだ。

 

「それは……つまり……」

 

 石壁は想定の一つであった最悪の予想に言葉を詰まらせる。

 

「はい……石壁提督があの装置を使い続ければ……より過酷な負荷を体にかけ続ければ……」

 

 そう、深海棲艦の臓器がより石壁の体を変質させるというならばーー

 

「早晩……石壁提督は完全に深海棲艦化する可能性があります」

 

 ーー石壁は人間を完全に辞める事になるのだ。

 

 ***

 

「……」

 

 石壁は軍医妖精の言葉を思い出しながら頭部に増えてきた白髪をいじる。石壁の内臓となった南方棲戦鬼の髪色が白であった事から、この白髪が深海棲艦化に伴う弊害なのかそれとも単なる若白髪なのか判断がつかなかった。

 

「白髪染め、用意しなきゃならないかもなあ」

 

 石壁はもう一度ため息を吐いた。命を失う事まで覚悟して戦ってきたが、このような事態に陥るのは流石に想定外であった。もし見た目まで完全に深海棲艦化した場合、下手をすれば大本営にそれを理由にして殺されかねないのだから石壁の憂鬱は当然モノであった。

 

「しかし成長する臓器ねえ、経験値を得てレベルアップしたっていうのか?」

 

 石壁は己の腹を撫でる。

 

(艦娘と提督は共に戦えば戦うほど成長していく。先日のあの戦いは戦艦棲姫の艤装を通して、艦娘というシステムを要塞全体へ拡張させていた。つまり艦娘が成長しても可笑しくはない。過酷な環境と大量の経験値がこの臓器が成長させたのか?)

 

 己の命を奪いかけた南方棲戦鬼の臓器が石壁の命を繋ぎ、そしてこの前の戦いを乗り切る一助になったのだという事実に奇妙なものを感じた石壁であった。

 

「どうしたものかなあ……」

 

 石壁はため息を吐きながら、執務室へと歩き出したのであった。

 

 ***

 

 それから石壁は執務を行い、昼過ぎに休憩の為に要塞の休憩室へと向かった。すると石壁はそこに先客がいることに気が付く。どうやら二つ並んだマッサージチェアの片方に誰かが座っているらしい。椅子の位置関係の問題で顔は見えないが、気配でそれが誰かわかる石壁は顔を確認する事なく隣に座った。

 

「ああ、疲れた……戦艦棲姫、となり失礼」

「ああ、好きにしてくれ」

 

 隣り合って座ったまま、石壁はマッサージチェアを起動する。

 

「ふう……流石にまだ僕の体調も本調子には程遠いね……」

「まだ目が覚めてから24時間も経っていないのだから当然だな。しかし、あの戦いでまさかこの私が要塞全体の総指揮所として活躍するとは思わなかったぞ」

「苦労かけるなぁ戦艦棲姫、いつもすまない」

「なに、気にするな。貴様はよくやっている。たとえどれだけ敵が押し寄せようとも、いつでもこの私が貴様の側にいるさ」

「ありがとう……ところでさ、一つ聞いていい?」

「……ん?どうした?」

 

「なんで戦艦棲姫が武蔵になってんじゃあああああああああ!!!!!!?????」

 

 ***

 

「ごめん、取り乱した」

「おう、ナイスツッコミだったぞ」

 

 会議室にショートランド泊地首脳陣が集まる、面子は件の武蔵と、いつものメンツだ。

 

「で?殆ど昨日の今日だけどよ、あのおっかねー戦艦棲姫の姉ちゃんが、この武蔵だってのかブラザー?オイラには信じられねえよ」

 

 ジャンゴが皆の意見を代表して言う。

 

「ああ、僕もジャンゴたちの立場ならそう思うだろうが、この武蔵が僕達の仲間の戦艦棲姫だという証拠があるんだ」

「ふむ?その証拠とはなんだ?」

 

 伊能の質問に、石壁は新城に問いかける。

 

「新城、お前は僕達の中でも最大規模の艦隊を率いている。だけど当然、自分の艦隊の艦娘と他の艦隊の艦娘は間違えないよな?何故だ?」

「何故って、『そういうもの』だからだろう?私達提督は自分が顕現させた艦娘なら、百人の那珂ちゃんの中から自分の艦隊の那珂ちゃんを見つけられるってのは有名な話だ」

「その通り、艦娘は100人提督がいれば100人別々の個々人格をもつ。同時に、提督と艦娘は特別な絆で結ばれているため、同じ顔が100人ならんでも自分の艦娘だけはピシャリと当てる事が出来る。ここまで言えばピンと来るんじゃないか?」

 

「つまり、石壁提督はこの武蔵を『あの』戦艦棲姫だと一発で認識したでありますね?」

 

 石壁は武蔵の膝の上に腰掛けたままあきつ丸の問いに頷く。以前にも説明したが、提督と艦娘は魂が癒着している為互いが互いを自分の提督や艦娘だと認識することが出来るのだ。

 

「そのとおりだ、少なくともこの武蔵は僕が顕現させたあの戦艦棲姫で間違いないと確信している」

「しかし、なぜ急に戦艦棲姫が武蔵になったんだ?いままで撃沈されていない深海棲艦が艦娘になった事例はない筈だぞ?」

 

 新城は腕組みしたまま問う。

 

「皆も知っての通り、艦娘の起源は深海棲艦にある。深海棲艦を研究した結果生まれたのが艦娘だ。そして、深海棲艦を討てば自然と艦娘も生まれるように、艦娘と深海棲艦は表裏一体、表と裏の関係にある。今まで、深海棲艦側の艦娘が居なかった様に、人の側に立つ深海棲艦はいなかった。この戦艦棲姫は特殊すぎる例だ。これが何か関係しているのだと僕は思う」

 

 その言葉に、伊能が何かを堪えながら応じる。

 

「……ふむ、確かに、石壁を抱きしめて膝の上にのせて椅子に座っているその様子を見れば、少なくともあの戦艦棲姫だというのはよくわか……わか……ブフゥっ!」

 

 ついにこらえきれなくなった伊能が盛大に吹き出す。

 

「おいイノシシ、こっちが必死に耐えてるのに笑ってんじゃねえよぶふっ、ブラザー泣きそうじゃねえかよぶあっはっは!」

 

 つられてジャンゴが笑いだし、会議室はこらえきれなくなった皆の笑いに包まれた。

 

「笑うんじゃねええええ!!!」

 

 石壁の抗議は、武蔵にギュっと抱きしめられたままでは大きく効力を減じてしまう。

 

「いやいや、無茶言わないでほしいであります。だってこの世界の根幹に関わりかねない重要な話の真っ最中なのに、大真面目に語る本人が頭一つは大きい女性にあ●なろ抱きされてるんでありますよ?こんなの耐え、耐え、ブフゥッ!」

 

 頑張って耐えていた真面目なあきつ丸ですら、ついに吹き出す。

 

「……!」

「あっはっは、姉様、お腹痛いぃ」

 

 顔を隠して笑いをこらえる扶桑と、大笑いする山城。

 

「あっはっは、横須賀での日々を思い出すねぇ石壁、お前さんたちゃやっぱりそうやって笑い合ってんのが一番しっくりくらぁ」

 

 快活に笑いながらそう告げる金剛に、石壁は渋い顔だ。

 

「僕だって好きでこんな体制してるんじゃないんだが」

「すまないな、提督。でもこうなんというか、貴様の体がちょうどすっぽり手に収まって抱き心地が良いんだよ。頭の上に顎を載せられて丁度いいんだ」

「……」

 

 身長の小ささがコンプレックスの石壁の心にダイレクトアタック!効果は抜群だ。

 

 再び笑いに包まれる会議室、再結集以来、以前に比べてどこか硬かった四人の空気が大きく弛緩したのだった。

 

 ***

 

 武蔵が満足したと離してくれた為、真面目な話に戻る。

 

「しかし、石壁達の泊地にいた扶桑が戦艦棲姫だったってだけでも私の胃が捻れ狂う位ヤバイのに、それが急に未だ建造すらされたことがない大和型戦艦の二番艦武蔵に化けるとか一体全体どういう事なんだ」

「提督、お気を確かに。そもそもこの鎮守府にやってきた時点で詰んでますから安心してください」

 

 知りたくなかった危険な知識が加速度的に増える中で、白目を剥いて天を仰ぐ新城、彼の人生はこんな事ばっかりだ。

 

 石壁はそんな友の姿をみて不気味に笑うと、言葉を続けた。

 

「おっと、まだとびっきりの新発見が残ってるぞ……武蔵」

「おう」

「えっ」

 

 そういうと、武蔵は皆の前に歩み出て、目を閉じて深呼吸を始める。

 

「……」

 

 すると、武蔵を中心として黒い光とも言うべき矛盾した何かが溢れだし、武蔵の体を覆っていく。

 

「うお!?」

「こいつは……深海棲艦の気配!?下がれてめえら!!」

 

 驚くジャンゴと、咄嗟にジャンゴを自身の背後に庇い、艤装を展開する金剛。

 

「ストップ!!大丈夫だから」

 

 石壁の静止に、金剛は艤装を展開したまま、ピタリと静止する。そうこうしているうちに、光が収まる。

 

「どうも、戦艦棲姫よ」

 

 するとそこには、戦艦棲姫の姿に戻った元武蔵の姿があった。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

 あまりの急展開に思考が追い付かず絶句する皆に、石壁は大きく溜息を吐いて続けた。

 

「この通り、自分の意思で艦娘と深海棲艦の間を行ったり来たり出来るんだよ。その恩恵は凄まじいぞ、艦娘と深海棲艦両方の装備を扱えるんだ。しかも戦艦棲姫状態でもスペックが大幅に上昇している。具体的には……明石」

「はい、調査の結果、戦艦棲姫は以前と比べて3~4割程度のスペックの向上が見られます」

 

 明石は手元の資料をペラリペラリと捲っていく。

 

「これらの条件から、これは艦娘の『改造』に相当する状態である。というのが私の結論です」

 

 艦娘の改造、それは練度が一定以上になった艦娘が突如として己の限界を超えて強化されることを差す。中には艦種そのものが変わってしまう程大規模な変化を興す艦娘もいるが、当然ながら戦艦棲姫のこれは前代未聞のモノである。

 

「深海棲艦を改造すると、艦娘になるのか……?いやそんな、馬鹿な」

 

 新城は己の常識が壊れていく音を聞きながら。今回の事象についてブツブツ言葉を吐きながら考え込んでいる。

 

「これは仮定に仮定を重ねた考察ですが、恐らく鍵は提督と擬似イージスの存在でしょう」

 

 明石は机上に擬似イージスの概要が書かれた書類を置く。

 

「擬似イージスは仕様的には艦娘の装備である電探等で集めた情報を簡易スパコンで処理し、それを艤装のアイテムカードスロットを通して艦娘へ、そして提督へと流し込むのが基本となっています。これは言い換えれば艤装の機能の拡張であると言う事も可能です」

 

 艤装として扱える範囲をむりやり増大することで、武蔵は謂わば要塞全体を艤装として戦っていたともいえる。

 

「これによって、要塞各地で行われた戦闘は戦艦棲姫の戦闘であるとも言えるわけです。発生した莫大な経験値が、艤装を通して戦艦棲姫に流れ込み練度を加速度的に押し上げたのです」

 

 石壁が戦っていた時間は述べ50時間以上、その間叩き殺した深海棲艦の数は数千体、叩き落とした艦載機は一万近いのだ。それだけ戦えば例えレベル1からはじめても100近くまでノンストップでレベルが上昇しても可笑しくはない。

 

「泊地で戦っていたのは基本的に艦娘と妖精さんであり、使われていた武装も艦娘用のモノを改造したものばかりです。当然発生する経験値は艦娘のモノでしょう。そんな経験値が戦艦棲姫のレベルを無理やり押し上げたせいで、彼女の中の何らかのバランスが狂った結果、彼女は武蔵へと変貌した。そう考えるのがいいかと思います」

 

 明石の説明を聞いた一同はなんとか説明を飲み込んでいく。

 

「まあ、そこまではいいとしよう。ではなぜ武蔵から戦艦棲姫に戻れるのだ?その意味がわからん」

「すいません、それは私にもよく分かりません……」

 

 明石が伊能の問いに首を振ると、石壁はぼそっと呟いた。

 

「僕の体が、人から深海棲艦のモノへと変化してきた事と何か関係があるのか……?」

 

 石壁のその呟きは、皆の言葉に紛れて誰にも届かなかった。

 

「いずれにせよ、要観察であります。何がどうなっているのかさっぱり分からないでありますからな」

 

 あきつ丸が纏める様にそういうと、皆が頷いた。

 

 こうして、武蔵でありながら戦艦棲姫というよくわからない仲間を加えた一同であった。これ以後、公的な記録において彼女は扶桑から武蔵へとすり替えられる事になる。大日本帝国史上初の大和型戦艦の艦娘を手に入れた石壁は、果たしてどうなるのであろうか。それはまだ、誰にもわからない。

 

 

 

 





今だからいえますが第一部で戦艦棲姫が登場した瞬間に彼女がいきなり深海棲艦辞める展開まで予想された時は本当にもうどうしようかと思いました(実話)




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