艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第二十七話 真の敵

 

 戦艦棲鬼が武蔵となった翌日、石壁の病状が回復したこともあり南雲がラバウル基地からショートランド泊地へとやってきた。これから先の戦いについて相談するためである。

 

「久しぶりです南雲提督。先日は援軍を送ってくださってありがとうございます。本当に間一髪の所で助かりました」

「気にするな、石壁提督。我々は盟友ではないか」

 

 石壁と南雲が握手を交わしながら言葉を交わす。南雲は石壁の顔を見て言葉を選びながら続ける。

 

「……少し痩せたか?」

「はは、まあ色々ありましたから」

 

 石壁は南雲が大分言葉を選んでくれていることを察して苦笑しながら返す。

 

「君が倒れたと聞いた時は流石に焦ったが、今の君の目は以前よりやる気に満ちている様で安心したぞ」

 

 南雲は石壁の目に溢れる精気から、まだまだ盟友である彼が戦えるのだという事実を感じ取って笑みを浮かべる。

 

「ご心配をおかけしました。でももう大丈夫です」

 

 石壁は南雲の言葉に笑みを返した。

 

「そうか……ではさっそくだが本題に入るとしようか。これからの作戦について相談しよう」

「はい!」

 

 それから会議室では石壁達の新しい作戦についての説明が行われたのであった。

 

 ***

 

「ーー以上が、防衛作戦の骨子であります」

 

 いつも通り議事進行を務めるあきつ丸が一通りの説明を終えると、南雲は感服したように息を吐いた。

 

「なるほど……よくぞ自力でここまでの準備を整えたものだ」

 

 手元の資料をペラペラと捲りながら先ほどの説明を飲み込んでいく南雲、彼は先日の敗戦からたった数日で前以上に頑丈な泊地へと再編成を進めていく石壁達のバイタリティーの高さに心底驚いていた。

 

「この防衛作戦と南洋諸島全域の泊地の総力を結集すれば、或いはこの危機も打ち破れるかもしれん」

 

 南雲は先日の圧倒的な深海棲艦の物量に対して、南洋諸島の総戦力、そしてこのショートランド泊地の護りをもってすれば対抗できる可能性があると試算した。

 

「つまりあと僕達に必要なモノは、他の泊地の協力を取り付ける事、という訳ですね」

「そういう事になるな」

 

 石壁達の間にホッとした空気が流れる。先日の全く勝ち目が見えてこなかった状況に比べれば、希望の光が見えてきた分だけその安堵は大きい。

 

「……だが、問題が幾つかある。まず第一に、本当にこの防衛計画通りの準備が整うのか。二つ目が南洋諸島の他の泊地の協力を得られるのか。そして最後が」

 

 南雲は敵の根拠地である鉄底海峡を睨む。

 

「敵戦力を撃退出来たとしても、即座に鉄底海峡を攻略出来ねば元の木阿弥になるという事だ」

 

 それこそが、ある意味一番厄介な問題点であった。

 

「今回の一件も、元を正せば鉄底海峡が泊地の目の前に存在するというこの一点に集約される。無限に近い深海棲艦が湧きだすこの海峡を放置すれば、またいずれ深海棲艦が大挙して押し寄せてくるぞ」

 

 鬼級や姫級の深海棲艦は、そこに存在するだけで周囲の深海棲艦を引き寄せ統率することが出来る。そして、深海棲艦が湧きだす根拠地が無事なら、その戦力は実質無尽蔵なのだ。

 

「飛行場姫は絶対に前線には出てこない。だが、鉄底海峡海峡の奥深くまで進行してアイツを討伐するのは無茶を通り越して無謀だ」

 

 前回の南方棲戦鬼との戦いでは敵の総大将が前線まで出てきたが故に、石壁達は奇策による釣りだしで彼女を打ち破った。だが、今回の飛行場姫は盤面の一番奥からじっと腰を据えて勝ちに来る最も厄介な敵である。

 

「鉄底海峡の護りは、そこまで分厚いのでありますか?」

 

 あきつ丸の問いに、南雲は頷く。

 

「鉄底海峡は深海棲艦最強の牙城の一つであり、その護りは端的に言って鉄壁だ」

 

 南雲はそういいながら、ガダルカナル島を中心とした一帯をグルリと円で囲う。

 

「鉄底海峡を中心としたこの一帯は半球状の闇のドームに覆われている。便宜上闇の結界と呼ぶが、この結界は年中消える事無く鉄底海峡を覆い隠している。内部へと幾度も突入したが、この円の内側は新月の夜と変わらん、夜間戦闘用の装備無しではとてもではないが戦えるモノではない」

 

 以前にも言ったが、深海棲艦との夜間戦闘は接敵距離の関係でとても危険だ。相打ちになる可能性が高く、通常は数に勝る深海棲艦にとってより有利に働くのである。

 

「その上この中は本当に無数の深海棲艦が蠢いている。その為探照灯を持ち込んで突入すれば電灯に虫が群がる様に深海棲艦が集まってくるぞ」

 

 闇の結界と圧倒的な物量が組み合わさったこの海域は、侵入するだけでも命がけなのだ。話を聞いているだけで石壁には暗闇の中で無数のスズメバチに襲われる様な地獄絵図が展開されるのが容易に想像できた。

 

「トドメに、この中は地場が狂っていて羅針盤がアテにならん。ぐるぐると磁針が回転して見当違いの方向へと誘導されてしまうのだ」

 

 富士の樹海の様に地場が狂う地帯というのは現実に存在するが、鉄底海峡の闇の結界はソレを意図的に発生させているのだ。

 

「今まで何度も攻勢をかけたが、結局勝てなかった。我々の最盛期の南進を食い止めたのが、この鉄底海峡なのだ。大勢の艦娘がこの鉄底海峡の闇へと没してしまった……」

 

 大日本帝国は艦娘の力を借りてどんどん南方へと拡大していき、最終的に内ゲバで崩壊した。だが何事にもきっかけというモノがあるもので、戦線の拡大とその崩壊の境界線となったのがこの鉄底海峡であったのである。ここで大攻勢が頓挫して戦力が摩耗し、その後は本土に足を引っ張られて攻勢どころではなくなり、最終的にブイン基地が滅ぼされた事で現在の状況に陥ったのである。

 

「この結界の中では勝ち目は無い、そういう訳か」

 

 伊能がそういいながら海図を睨む。

 

「……そんな状況で、敵の親玉が飛行場姫だという情報はどうやって持ち帰ったんですか?近づく事すら出来ないのでは?」

 

 石壁が疑問に思った事をそう問うと、南雲は懐に手を差し込む。

 

「我々もただ手をこまねいていた訳ではないのだ。一度奴の喉元まで食らいついた事があった。この、特殊な羅針盤を使ってな」

 

 そう言って南雲は、懐中時計の様に懐に吊り下げられる様になっている羅針盤を机上へと置いた。

 

「これは?」

 

 石壁の目にはただの羅針盤にしか見えないが、それを見た鳳翔達艦娘は怪訝な顔をする。

 

「南雲提督、失礼ですがその羅針盤の方位は狂っていませんか……?」

 

 艦娘達は軍艦である。故に方位磁石を標準搭載しており方向がすぐに分かるのだ。

 

「その通り、この羅針盤の方位は狂っている。だが、それこそがこの羅針盤の肝なのだ。石壁提督、持ってみたまえ」

「持てば良いんですか?」

 

 南雲にそう勧められ、石壁は恐る恐る羅針盤を手にとった。

 

「……なっ!?」

 

 石壁が羅針盤を手にとった瞬間、羅針盤がグルグルと回転を初め、やがてピタリと止まった。

 

「なんだこれは……?何処を指しているんだ?」

「あっ、この方角はまさか!?」

 

 その光景を見ていた新城が気味が悪そうにそう言うと、青葉が驚愕しながら海図を指差した。

 

「……鉄底海峡の、中心?」

 

 青葉が指差した場所を見て、石壁が思わず呟いた。

 

「その通り、この羅針盤は鉄底海峡の……否、あの飛行場姫の場所を指しているのだ」

 

 それは南雲達が苦心の末作り出した秘密兵器であった。

 

「どうやってそんな事を?」

 

 明石が技術屋としての疑問から言葉を発する。

 

「姫級以上の強大な深海棲艦の中には、己の意思で世界の法則を塗り替える事が出来る奴が居る。飛行場姫もこのタイプの深海棲艦であり、奴は自身の根拠地から一定距離を闇の結界で覆うことが出来る。ここまでは良いな?」

 

 全員が頷く。

 

「だが、結果には必ず何かしらの過程が伴うものだ。あの結界が常に起動している以上、奴は世界に何かしらの働きかけを行っている筈だと我々は考えたのだ。火のない所に煙が立たぬ様に、日光を遮る為の何かを発している筈だとな」

 

 世界を歪めるという未知の力を前にして、彼等は未知を未知のまま既知の概念へと当てはめて突破口を開こうとしたのである。この辺りの柔軟さは、未知の兵器である艦娘達を既知の戦術へと組み込んで運用してきた彼等故のモノであろう。

 

「結果として我々の予想はあたった。飛行場姫は世界を歪める謎の力を常時発散しているのだ。この羅針盤はその特殊な力の発生源へと指針を合わせることを目的として作られている。故に普段は方位が狂っているのだ」

 

 常識の埒外の存在を指差す回る羅針盤。それが、彼等の努力の結晶なのだ。

 

「これはかつて討ち取られた泊地棲姫と呼ばれる姫級の深海棲艦の艤装から作られている。同じ基地型の深海棲艦である事から飛行場姫の力と同種のモノを含んでいるらしく、同調して引き合う性質を持っているのだ。普段はただのガラクタだが、提督が持つことで艤装が微弱ながら起動するらしく、その極僅かな作用をこうやって羅針盤という形で出力したという訳だ。当時我々は全戦力を結集して結界円周部で敵を引きつけ、その隙に飛行場姫の元へと最精鋭の少数艦隊にこの羅針盤を持たせて送り込んだのだ」

 

 石壁達は当時の提督達がどれだけ必死になって鉄底海峡を攻略しようとしたのかを感じて息を飲んだ。自力でここまでたどり着く、用意周到で優秀な提督達でさえ、あの鉄底海峡を攻略出来なかったのだという事実が、石壁達にのしかかる。

 

「そうだ。君達も感じているだろうが、ここまでやって勝てなかったのだ。あの鉄底海峡に、そして飛行場姫に」

 

 南雲は諦観を滲ませながら続ける。

 

「飛行場姫は基地型深海棲艦であり、奴を打倒するには圧倒的な火力でガダルカナル島にある陸上基地を吹き飛ばす必要があったのだ。最精鋭とはいえ飛行場姫の索敵を掻い潜るための軽量高速艦による少数部隊であり、基地を全て破壊するのは不可能だったのだ……」

 

 基地型深海棲艦の力の源は、依代となる基地そのものである。故に飛行場姫を打倒するには艦砲射撃で基地機能を根こそぎ破壊する事が大前提となる。

 

「基地を少数で破壊するためには重火力を持つ戦艦が必要なのに、鈍重な戦艦を強襲部隊に編成するのは自殺行為。軽量な艦を多数編成すれば敵に察知されて到達する前に数で押し返され、空母艦載機の爆撃は常に夜であるあの一帯では使用不可能……なんて悪辣なんだ……」

 

 石壁は飛行場姫が整えたあの鉄底海峡の頑強さに戦慄した。

 

 彼女は正しく『常勝不敗』なのだ。絶対に負けない自分のテリトリーを作り出してその中からじっくりとこちらを攻め上げているのだから。負けることがないなら、後は深海棲艦の無尽蔵の戦力で押せば最後には必ず彼女が勝つという訳だ。その環境を整える事が出来るのが彼女の最も恐ろしい点であった。

 

「強襲部隊はその8割が鉄底海峡の闇に消え、辛うじて撤退出来た部隊がこの情報を持ち帰るのが精一杯であったのだ。これが、最盛期の南洋諸島の総力をもってすら敗北した鉄底海峡の戦いの全てだ」

 

 石壁達は想像以上の敵の強大さに黙ったまま海図を見つめている。南雲が引いた闇の結界の概略図がどこまでも分厚かった。

 

「やはり、防戦で敵をすり潰しながら時間を稼いで、状況の好転を待つのが無難であろうな。石壁提督と我々の力を合わせれば時間を稼ぐだけなら問題あるまい。先程聞いた防衛計画ならば如何に莫大な数が相手でもなんとかなるであろう」

 

 南雲がそういった瞬間、会議室の扉が乱暴に叩かれた。

 

「石壁提督!!大変です!!大変なことになりました!!」

 

 陸軍妖精のそのただならぬ様子に、石壁達に緊張が走る。

 

「どうした!?入ってくれ!!」

 

 その言葉に従って入室した陸軍妖精は顔面を蒼白にしながら敬礼をする。

 

「何があったんだ!?鉄底海峡に動きがあったのか!?」

 

 石壁は防衛線の再構築が完了しない状況での戦闘を想定して顔を強張らせる。

 

「いえ、違います!!」

 

 陸軍妖精は報告書を卓上へと置く。

 

「本土に派遣した妖精たちより報告です!!大本営に動き有り!!繰り返します、大本営に動き有り!!」

 

 そう、石壁は目の前の敵の強大さに目を奪われて忘れていたのだ。そもそも自分たちがどうしてこの泊地にやって来たのかを。

 

「徳素が我々を殺すために次なる一手を打ったのです!!」

 

 石壁の真の敵は、自分たちの背後にこそ居たのだ。

 

 

 

 

 

 





【読者の皆様にお知らせ】

第二部の最終決戦が近いので、最後まで一通りの調整等を行います。

その為申し訳ございませんが2週間程投稿をお休みさせていただきます。

お待ちいただいている皆様には申し訳ございませんが、ご了承いただければ幸いです。

これからも拙作をよろしくお願いいたします。




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