艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第三十一話 人事を尽くして天命を待て

 

 方針を固めた石壁達の動きは凄まじく早かった。残り少ない時間を最大限有効活用する為に、形振り構わないほぼ全戦力の投入により3交代制24時間フル稼働で平野部における防御陣地の大増設を開始したのである。

 

 泊地の全能力をフル稼働させる為に、当然ながら石壁達泊地首脳部は一人残らず必死に働き続けており、石壁は執務室に缶詰になって大量の案件を捌き続けていた。

 

「いいか!限界まで急がせつつも安全性だけは確保させろ!」

「はい!」

「間宮さん物資の輸送状況はどうなっている!」

「予定通りです、出し惜しみ一切なしであらゆる物資を作業と開発に投入しています!同時に大本営からの支援物資到着を計算に入れて過剰になる事が予想される物資は殆ど全て放出し、まるゆさん達に配送させています!」

「わかった!輸送作戦の状況はどうだあきつ丸!」

「はっ!ブイン基地の物資備蓄の90%、ショートランド泊地の物資備蓄の70%が輸送完了!作戦の状況は良好であります!」

 

 石壁達は本土から送られてくる超大量の支援物資で物資がダブつくのが目に見えている為、泊地で現地生産された物資の大半をラバウル基地へと送り出して物資貯蔵をカラにさせているのだ。これらの物資は一旦ラバウル基地に集められ、そのまま他の泊地へと送られていくのである。

 

「同時にラバウル基地で作られた装備も順調に集まってきたであります!目録はこちらに!」

「ありがとう!3連装魚雷430枚、爆雷130枚、12cm連装砲320枚か、上々だな。このまま量産してもらってくれ!」

「わかったであります!」

 

 輸送は一方通行では効率が悪いため、腐るほど有る物資の一部を使ってラバウル基地の工廠に装備を外注し、完成した装備を持ち帰っているのである。これらの装備は最低限の物資で短時間で量産できる為、ラバウル基地の工廠のキャパシティをあまり圧迫せずに大量生産が可能となる。そして、量産されたそれはカードであるが故に簡単にこちらまで移送出来るのだ。普通の装備ではない艦娘用の装備だからこそできる荒業であった。

 

 今まではこれらの装備はショートランド泊地で作っていたが、現在工廠では決戦に備えた新兵器の増産にかかりきりである。その為少しでも工廠の負担を減らす為に数だけは必要なこれらの装備を外部委託生産しているのだ。艦娘の装備のOEM生産なぞ前代未聞の事態であったが、石壁からすればそんなことは知ったことではなかった。

 

「明石、新兵器の開発状況と各地の武装状況はどうなっている」

「はい、工廠内部の生産ラインの7割を圧迫していた3連装魚雷・12cm砲の生産が消滅したことで、新兵器の増産は極めて順調です」

 

 石壁達の泊地ではこれらの兵器を極めて大量に消費する為、その増産にかかる手間はかなりのものであった。そこを外部に委託できた事はとても大きかった。

 

「戦艦砲や重巡砲、艦載機等の発展兵装の開発はそのままですので、当初の予定通り各地の防衛用に配備を進めています。同時に新造の縦深防御陣地にもラバウル基地から運ばれた12cm砲を完成した傍から設置しています!」

「よし!天龍!!工期の進捗はどうなってる」

「そっちも上々だぜ!!予定の2割増しで進捗は良好、きちんと休息もとらせているし駆逐隊は意気軒昂だぜ!」

 

 石壁が目覚める前に既に泊地の修復を終えていた彼女達はそのまま石壁の指示にしたがって次なる現場へと向かった。彼女達は滾る闘志を燃料に大地を相手に戦い続けているのだ。ちなみに天龍はこの一件で工兵隊の指揮能力の高さを見込まれて工兵隊部門の総指揮艦となっている。

 

「掘り上げた大量の土砂はそのまま沿岸部の埋め立てや増築に転用しているから沿岸要塞や港湾部分もどんどん増築されているぜ。じきに到着するらしい大量の物資もなんとか沿岸でうけいれられると思う」

「わかった!ありがとう天龍、とにかく安全第一で頼む」

「応!任せとけよ提督!」

 

「青葉!情報部から報告はあるか!」

「はい!南洋諸島全域の深海棲艦の動きから鉄底海峡の動きを探っていますが、緩やかに戦力を再配備しているようです!やつらの動きから見てまだ再攻勢は先です!他の工事の進捗状況と照らし合わせればギリギリ準備は間に合いそうです!」

 

 前回の状況判断の失敗から更に大きな視点で情報を集め始めた青葉達の努力もあって、微かな兆候から鉄底海峡の動きを読める様になり始めたのはひとえに彼女達の努力と能力の高さの証明であった。

 

「同時に、本土でも色々と工作活動を開始しています。次の戦いさえ乗り越えれば、それらの工作活動も順次成果が出てくると思います!」

「わかった、ありがとう青葉。引き続き情報関係は全部君に任せるから、どうか頼む」

「……はい!青葉にお任せ!」

 

 鉄底海峡の動きを読めず、徳素の蠢動を防げなかった青葉は、二度の致命的大失態を経てなお石壁からの信頼が微塵も揺らいでいない事を感じ取って目頭を熱くさせる。それから彼女は敬礼をして部屋をでていった。

 

(ギリギリ……ギリギリ間に合うか……)

 

 石壁は次々と舞い込む案件を捌きながら、己の思い描く絵図が少しずつ埋まっていくのを感じていた。

 

(僕達に出来る手は全て打っている……後は僕達の手が届かない所だけ……人事を尽くして天命を待つっていうのは、こういう時の事をいうのかな)

 

 己の手の届かない所に、仲間の頑張りに命を預けた石壁。後は彼等を信じて己の成すべき事を成すだけである。

 

「次の書類です!」

「わかった!見せてくれ!」

 

 次なる戦いの準備は、着々と進んでいた。

 

 ***

 

 石壁達がショートランド泊地で奮闘している一方その頃、情報部が本土でも少しずつ事態が動き始めていた。

 

 ここは大日本帝国の帝都東京、在日オーストラリア大使館。

 

 デスクに腰掛けた大使は歳の程はそろそろ40歳になる丸眼鏡をかけた男性である。心労故か実年齢よりも10は老けた顔をしている。色の抜けた髪に、顔に刻まれた深いシワは、彼がどれだけ苦労をしているのかを如実に語っていた。

 

「……ふう」

 

 彼は丸眼鏡を外して目元を揉みながら深いため息を履いている。

 

「はぁ……やれやれ、一体何時になれば故郷に帰れるのかねえ……」

 

 彼の名はジョージ・マッケンジー、オーストラリアの駐日大使として赴任し、帰国直前にオーストラリアが陥落した為、帰りたくても帰れなくなった運の悪い男であった。

 

 しかも、彼は陥落に伴って大日本帝国に逃げ込んだ難民を纏める為に陣頭指揮を取っていたのだが、他に適任者がいない事もあり気がつくとオーストラリア亡命政府のトップになってしまったのだ。亡国の民となったオーストラリアの国民達の生活を護るため、連日連夜東奔西走し、支援をとりつけ、なんとか今日まで難民達の命を繋いできたのである。

 

「おっさん、任期5年の駐日大使の予定だったんだぜ?それがなんだかんだともう10年近くもこの国に居る……歳を経る毎に仕事が増えていく……なんで大使館の小役人が亡命政府の党首なんぞやっているのかねぇ……」

 

 ジョージとしてはさっさと地位を返上して祖国に帰りたいのだが、帰るべき祖国は未だ深海棲艦の支配下にあり、住民の安否は不明。その上、大日本帝国の南進は頓挫してオーストラリア開放はいつになるのかさっぱり分からない。ここで亡命政府の党首を辞任などしてしまえば、オーストラリア難民の守護者が居なくなってしまうのである。

 

「どいつもこいつも早く祖国を取り返せだの。祖国に返してくれるように働きかけろだの。役立たずの無能だの好き放題いいやがって……いっそ全部投げ出してやろうかねえ?」

「やめてくださいよ、ジョージさんがいなくなったら誰が貴方の代わりが出来るっていうんですか」

 

 ジョージの愚痴を聞いていた秘書官であるトーマスが声をあげる。

 

「おっさんなんかより優秀な人間なんかいくらでも居るじゃねえか。そいつらにやらせりゃあ良いんだよ。いっそトーマス君、君がやってくれない?」

「無理言わないで下さいよ、貴方以外に誰があの難民の山を纏めながら大日本帝国の議会と政治的に渡り合って支援を引き出し続けられるっていうんですか?少なくとも私には無理です」

「かぁーっ……なっさけねえなあ……こんなおっさんしか人材が居ないなんて、俺達の祖国はだめだめじゃねえか」

 

 ガリガリと頭をかくジョージ。この男、勤務態度は不真面目なのだが、兎に角友人が多いのだ。大使として赴任してからの数年間、経費で散々遊び呆けていた問題児であったのだが……その間に友人になった大日本帝国の政財界の人間は数知れず。帰国できなくなった彼はその友人たちの伝を使って亡命政府の基盤を整えたのである。

 

「オーストラリアが征服されて給料は振り込まれなくなるし。経費は落ちなくなるし。在日オーストラリア企業の支援と大日本帝国のお情けに縋ってほそぼそ生きてくなんてしみったれた生活、おっさんもう嫌だぜおい……」

「私だって嫌ですよ……かといって大日本帝国以外に我々の祖国を開放してくれそうな国家なんてありませんし……耐えるしかないでしょう……」

 

 二人は深くため息を吐く。激務・薄給・重責の三重苦は彼らの心身に多大な負担をかけていた。

 

 そんなとき、扉が叩かれる。

 

「はいよー、どうぞ」

「失礼します」

 

 部下の職員が入室してくる。

 

「大使、貴方にお客様です」

「客ぅ?トーマス君、そんな予定合ったか?」

「いえ、私は聞いてませんが」

 

 二人が顔を合わせて首をひねっていると、部下が続ける。

 

「どうやら帝国陸軍の妖精さんのようです」

「妖精さんって、あの人形みたいな連中か?なんだってこんなところにやって来たんだ?」

「私には分かりかねますが、オーストラリアの事で大切な話があるとの事です」

「……ふぅん?」

 

 ジョージは少し考え込んでから、部下に指示を出す。

 

「まあいいや、取り敢えず応接室に案内してくれよ。おっさん先行ってまってるからよ」

「了解しました」

 

 ***

 

 それから数分後、応接室でジョージは陸軍妖精と机を挟んで向かい合っていた。

 

「わざわざこんなとこまで来てくれてありがとよ、なんにも出せねえけどまあ茶でも飲んでくれよ」

「忝ない」

 

 ジョージがにこやかに紅茶を進めると、陸軍妖精は礼を言って紅茶に口をつける。

 

「で?オーストラリアの事で話があるって聞いてるが……何の話なんだ?言っておくがおっさん達の懐はすっからかんだから金のかかる事はできないぜ?」

 

 ジョージがそういうと、陸軍妖精はカップをゆっくりと机において話し始める。

 

「いえ、そういう話ではありません」

「じゃあなんだっての?」

 

 ジョージの問に、陸軍妖精は答える。

 

「オーストラリア……取り返したくありませんか?」

 

 陸軍妖精の言葉に、ジョージはスッと笑みを引っ込める。

 

「ニュース、見てますよね?石壁提督が方面軍最高司令官として鉄底海峡の攻略命令が出ているという」

「ああ、あのニュースね」

 

 ジョージの脳裏に、傷だらけの提督の顔が浮かぶ。

 

「石壁提督はこれから鉄底海峡の攻略に取り掛かるでしょう。その攻略が成功した場合、オーストラリアの開放は現実味を帯びてきます。その時にオーストラリアへの帰国を支援したいと思うのですよ」

「へえ?そいつは有難い話だ」

 

 ジョージはへらへらと笑いながら、言葉を続ける。

 

「それが本当なら有り難くて有り難くて涙がでるけどよぉ。それでそちらさんに一体何の得があるってんだ?無視して話を進めても全く問題がねえくらいに弱小な、ここに話を持ってきてなんの意味がある?」

 

 ジョージは突如飛び込んできたあまりに美味しい話に疑念を抱く。オーストラリア亡命政府は大日本帝国の庇護下でかろうじて存続を許されている弱小組織である。それこそ、大日本帝国がオーストラリアを直接統治すると言い出しても反論すら許されない程にその力の差は大きい。

 

「言い方を変えようか?何をやらせたいんだ?知っての通り俺達には金もなけりゃあ権力もほぼねえ。出来ることなんざ殆どねえんだぞ」

 

 ジョージの言葉に、陸軍妖精は笑みを浮かべる。

 

「金も権力もなくても、貴方には事を成す力が在るはずです。貴方はただ、然るべき時に然るべき行動をとってくだされば良い。それだけで、オーストラリアは……貴方達の故郷が帰ってきますよ」

「……おいおい、こんな情けねえ中年のおっさんに何させようってんだ」

 

 陸軍妖精の言葉に、ジョージは顔を顰める。

 

「鉄底海峡が攻略されれば、世界が大きく動きます。その時に貴方の本懐を成す為に動いてくだされば、それが我々の助けになるのですよ」

「……」

 

 ジョージは黙って彼の言葉を聞いていた。

 

「では、私はこれで失礼します」

「……なぁ、最後に一つ聞かせてくれよ」

 

 ジョージは立ち上がろうとする陸軍妖精に声をかける。

 

「アンタみたいな有能そうな人間が、どうしてそこまでイシカベって奴を信じられるんだ?」

「……そうですね」

 

 陸軍妖精はジョージの言葉に笑って答える。

 

「石壁提督と一緒に居ると楽しいから、ですかね?私にも何故かはよくわかりません。ただ一つ言える事は、彼の為に最期まで戦って、仮に死んでも後悔はしないだろうな、と思えるんですよ」

 

 陸軍妖精は笑いながら立ち上がる。

 

「どうせ最期には皆死にます。なら悔いのない死を迎えたいものでしょう?石壁提督と一緒ならそれが叶うと、私は確信しているのですよ。では、失礼」

 

 そういうと、陸軍妖精は部屋を出ていく。

 

「貴方もどうか、悔いのない選択をされる事を祈っております」

 

 その言葉とともに、部屋の扉は閉まった。

 

「……悔いのない死、ね」

 

 ジョージは煙草に火を付けて咥えてしばし燻らせると、紫煙を吐き出してから携帯電話を取り出した。

 

「ああ、もしもし。今ちょっといい?」

 

 彼がどういう選択をするのか、それはまだ誰にも分からない。

 

 

 





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