艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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第六話 はじめてのゲリラ戦

夜半、草木も眠る丑三つ時に、ショートランド泊地(陥落済み)を見下ろせる崖の上に黒ずくめの一団が屯していた。

 

その中で一番体格の良い男が小さく声を上げる。

 

「再び泊地を取り戻す為に、ソロモンよ!私はかえってきたぁ!!(小声)」

 

闇夜にまぎれて旧鎮守府にやってきた伊能以下あきつ丸、精鋭のまるゆ3名、妖精20名は、現在鎮守府潜入の為に基地の近くに集まっているのだ。なお、このショートランド泊地はソロモン諸島の一つである。となりのブイン基地があるブーゲンビル島はソロモン諸島に入る入らないで論争があるそうだが。

 

「何馬鹿なことを言ってるでありますか」

「いや、なんかやっておかないと行けない気がしてな」

「核バズーカがあれば最初から撃っているでありますよ」

 

伊能の馬鹿な発言とあきつ丸のいつも通りのつっこみに、緊張で張りつめていた一団から肩の力が抜ける。さっきのは緊張をほぐす為の伊能なりのジョークだったらしい。

 

「はっはっは、まあそういうな」

 

そう笑ってから、伊能は真面目な顔に戻って部隊の人員を見渡すと、一言つぶやいた。

 

 

「いくぞ」

 

その一言の後は、全員が気を引き締めてその場を後にした。

 

 

 

***

 

 泊地内部へ侵入した一行は無駄口を一切叩かず、ハンドサインだけで意思疎通を行いながら敵地となった基地内部を駆け抜けていく。既に時間帯は深夜であり、あたりは重苦しい静寂に包まれている。

 

 しばらく進んでいると、明かりが漏れる部屋があった。部屋のサイズは二人部屋、鎮守府が本格稼働した際には艦娘達の部屋となる予定の部屋の一つだ。

 

 伊能とあきつ丸が扉に顔を寄せて室内の気配をさぐると、会話が聞こえてきた。

 

「はあ……もうまじ無理、温泉でも行きたいよぉ……」

「無抵抗でここを落とせただけマシだと思いましょう……」

 

扉の隙間からチラリと内部を伺うと、部屋の中で重巡級の深海棲艦二人が愚痴っているのが確認できた。

 

「でもさぁ、いくらなんでもこき使いすぎでしょう南方様」

「し!誰かに聞かれたら砲撃の的ですわよ!」

「う……」

 

会話だけ聞いていたらブラック鎮守府の艦娘のようだが、室内にいるのは深海棲艦である。

 

「くわばらくわばら……あ、ちょっと失礼して……」

 

どうやら花でもつみにいく気か、ざっくばらんな方のしゃべりの重巡ネ級が部屋からでてくる。

 

伊能は砲撃で崩壊した壁の瓦礫の側にそっとしゃがみこんで廃材に紛れ込む。鎮守府の設備の大半は設営途中であったが故に、宿舎棟の廊下に電気はない。故に闇夜に溶け込む黒装束のお陰で伊能の姿をみつけるのは相当に難しい。よほどそこに何かが居ると確信をもって覗かねば見つけることは出来ないだろう。

 

 当然、既に総員撤退済みの泊地に誰かが居るなんて思ってすら居ない重巡ネ級は、伊能の側を素通りして女子トイレへと進んでいく。

 

 その背後から忍び寄る黒ずくめの男に、彼女は気が付かない。

 

***

 

 女子トイレで用向きをすませた重巡ネ級はトイレの鏡の前にたつ。

 

「ひいおばけっ……!?違う私の顔だ……まっくらだと私達の顔ってマジ怖いよね、超ショック……」

 

 鏡に写った自分の顔に恐れおののくネ級、実際深海棲艦が夜半に暗闇のトイレに立っていたら悲鳴を上げるぐらい怖いだろう。作者は怖い。

 

「ふう、でもこの鎮守府設備悪いよね、もうちょっとどうにかならないのかな、よっぽど悪徳な施工業者にあたったんだよきっと……なにもかも突貫工事の安普請だし……私達の宿泊棟も一部しか電気が来てないし……設備は一部瓦礫になってるし……これはやったの私達だけど」

 

 突貫工事で基地設営をさせられて、電気系の設備を調整するまもなく追い出された明石からすれば、濡れ衣だと激怒しそうな事をつぶやきながら、ネ級は手洗いの蛇口をひねる。

 

 其の直後に、カッタンという物音がきこえてビクリと反応する重巡。

 

「ひっ!?お化け!?……なんだモップか」

 

そちらに目をやると、どうやら掃除用のモップが倒れたらしかった。

 

「あーやだやだ、びっくりしたよ、驚かせないでよ、でもどうして倒れ……」

 

 倒れたモップを片付けようと近づいた瞬間、ネ級は背後から忍び寄ってきた伊能に首を180度回されて事切れた。

 

***

 

「よし、一体確保」

「こちらも殺ったでありますよ」

 

深海棲艦の死体を背負った伊能とあきつ丸が合流する。他にも軽巡級を仕留めたまるゆや妖精達が集まってくる。

 

「これだけいれば上出来だな、よし、皆撤退せよ」

「は!」

 

きた時と同じように、伊能達は闇に紛れて撤退した。

 

***

 

 遡ること一週間ほど前、あの執務室での反撃作戦ぶち上げの直後の一幕だ。

 

「で?その『初めてのゲリラ戦』とやらはどんな作戦なんだ?」

 

伊能がそう石壁に問うと、石壁が答えた。

 

 

「うん、とりあえず旧鎮守府に忍び込んで、油断している深海棲艦を暗殺して新鮮な死体をかっぱらってきてくれ」

「……はっ?」

 

 伊能達の目が点になる。石壁という男から出るには余りに血なまぐさいというか、想像の埒外の単語の羅列がでて一瞬脳が理解を拒んだのだ。

 

「死体はあまり派手に損壊していない方がいい。できるだけ綺麗な状態が好ましいし、後処理の不備で連中にバレたらおしまいだからな……ん?」

 

 突如として猟奇趣味に目覚めたかと錯覚する程の最高にサイコパスな事を言い出した石壁にその場の全員の顔が引きつる。

 

 そこまでいってようやく周りの視線がおかしい事に気がついた石壁に、伊能が問う。

 

「なあ石壁」

「どうした?ていうかなにこの周りの視線の温度の低さ」

「いつの間にネクロフィリアになったんだおまえ」

「は……?……あっ!?ち、違う違う違う!!僕にそんな趣味はない!!目的は連中の艤装だ!ぎ・そ・う!!」

 

 ようやく自身の発言の危うさに気がついたらしい石壁が大慌てで否定しつつ叫ぶ、艤装という単語に、明石がはっとしたように呟いた。

 

「あっ……なるほど、石壁提督はドロップを人為的に起こそうと言うのですね」

「イエスイエスイエス!!これだけで伝わるのは流石明石!!工廠のお姉さん流石!!」

 

 惚れた女性(鳳翔)に危うく死体愛好家の烙印をおされかけた石壁は、救世主の登場に若干おかしなテンションで応じる。

 

「ドロップ艦?」

 

首をかしげる間宮に、明石が説明する。

 

「ああ、補助艦艇の間宮さんはしらないか、時々深海棲艦をぶっ殺すと残骸から艦娘が生まれることがあるの。一説によれば、魔を払う力を持つ艦娘が深海棲艦を『討ち祓う』事で人類への恨みつらみの様な毒素がデトックスされて艦娘になるんじゃないかってのが有力説なのよ」

「へえ、えすてみたいですね」

 

 明石のぶっちゃけすぎた説明と間宮の明後日の方向をむいた感想に空気が弛緩する。

 

「多分石壁提督は、深海棲艦の死体を使って、艦娘を作れないかと考えてるんだと思うけど……」

「そう、そのとおりだよ明石」

 

 石壁はうんうんと頷いてから話に戻る。

 

「この作戦の目的は、敵の深海棲艦を闇夜に紛れて暗殺することで敵戦力を漸減させ、同時にその死体を元に艦娘を呼び出す事でこちらの戦力の拡充していくことにある。どちらかというと比重的には後者よりだ」

 

 現状がどうしようもなく詰みにある原因は、極論すれば「戦力不足」の一言に尽きる。そう、石壁は戦力が致命的に足りない現状を打破すべく、艦娘を増やそうと言うのだ。それも敵の死体から。

 

 味方が足りないなら敵から毟ればいいじゃない!!とでも言わんばかりの最高に蛮族経済じみた戦術である。こいつは素敵だ、最高に楽しくなってきたぞ。

 

「苦肉の策だけど、1から艤装が作れないなら現地調達で艤装を集めるしか無い。敵の戦力を削る。味方はふやす。両方やらなくちゃいけないのがツライところだけど、こうやって手数を増やしておかないとジリ貧になるからね……」

「無茶振りってレベルじゃないな」

「だから死を覚悟してもらうっていったんだ」

 

言葉とは裏腹に、伊能は楽しそうだ。こういう難事の方がやる気が出るあたり実はマゾなのかもしれないと石壁は思った。

 

「一応勝算がないわけじゃない、艦娘の出現まで現代兵器が通じない深海棲艦に対して有効な対抗策が見いだせなかった人類の基本攻撃は接近戦だけだったからね、実際に大勢の深海棲艦が人間に接近戦で倒されているしね、お前も元陸軍憲兵抜刀隊所属だろう?肉弾戦等なら勝ち目はある」

「まぁ、何匹かなら殺ってやれないこともないだろう……わかったやってみよう」

 

 

***

 

 

という過程を経てこの作戦は決行された。泊地制圧成功直後で深海棲艦達も大いに気が緩んでいたらしく、まんまと重巡2隻、軽巡2隻を鹵獲することに成功したのは特筆事項だろう。

 

「まぁ、ざっとこんなものだ」

「正直生きた心地がしなかったであります……痕跡を残さないように仕留めるのが難儀で……」

 

 陸軍出身の連中は基本的に物凄くタフネスだ。第二次世界大戦時代も、海上戦力ならある程度拮抗できたのに対して、陸上戦力は終始装備的には劣勢であった。

 

 よく日本軍のブラックジョークとして、「日本軍最強の戦車は?」という問いに、「敵から鹵獲したシャーマン戦車!」という回答が返ってくるくらい日本軍の装備は基本的に貧弱だ。そんな状況でも最後まで頑強に抵抗できた彼らの心身の強靭さは特筆すべき点だろう。軍事ネタで定期的に語られる日本兵最強論はこのあたりに起因しているといってもいい。

 

 だが、そんな強さがこの絶望的状況ではとても頼りになるのである。

 

「上出来だ。この調子で戦力を鹵獲(拉致)していってくれ」

「任せとけ!」

 

こうして、数日に一度ずつ行われるゲリラ戦によって、ばれない程度に少しずつ戦力拡充が行われたのであった。

 

 

***

 

「僕も話に聞いていただけだけど、本当に、これで艦娘がつくれるのか?」

「はい!もともと艦娘は深海棲艦の遺体からよそ様には言えない人体実験の結果生み出されましたからね!技術の発展した今なら施設は無くても艦娘が作れますよ!!」

 

手術台の様な所に寝かされる首が180度回転したネ級の傍で、ハイテンションの明石にそう説明され、げんなりとした気分になる石壁。ドロップ艦と呼ばれる深海棲艦を撃沈した際に運よく生まれる艦娘を人為的に生み出すだけだと言えばそれまでなのだが、いかんせん絵面的に完全に悪の組織の人体実験場である。

 

「さぁ、準備は整いました!見ていてくださいね!!」

 

そう言って、明石がなんかバリバリと電流が迸る不思議器具を取り出す。

 

「おいちょっとまt」

 

「蘇るのだーーーー!!!この電撃でーーーーーーー!!!!!」

 

バリバリバリバリ!!!っと室内が迸る電光で真っ白になる。

 

「あばっばばばばっばばあかかああかかかっかかっかあししいしいいい!!!!????」

 

余波で感電する石壁、ギャグパートでなかったら即死だった。

 

「うん?出力をまちがったかな?」

 

巻き上がる煙で室内が見えなくなる。その煙が消え去った室内には、白目をむいて倒れる石壁と重巡鈴谷の姿があった。

 

「……まあいいか」

 

よくねぇよ

 

 


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