艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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遂にこの時がやってきました。
要塞決戦に続いてずっと書きたかった話がここから最後まで続きます。
ここまでお付き合い頂いた皆様に少しでも楽しんで頂ければ幸いです。




第三十四話 武器を取れ 闘志を燃やせ 戦いの時は来た

 作戦会議室に、泊地首脳部が全員集まっていた。張り詰めた緊張感の中で、青葉が口を開く。

 

「今まで集めた情報から鑑みるに、恐らく四日から七日以内に飛行場姫は動くとみて間違いありません。情報部のプライドにかけて断言します」

 

 青葉の言葉に、石壁は少しだけ目を閉じて思考を巡らせてから再び目を開いた。

 

「流石だ。ありがとう、青葉」

 

「……はい」

 

 青葉は石壁からの礼を聞いて、ようやく先日の汚名を返上してほっと息を吐く。情報戦で遅れをとった事は彼女のプライドをひどく傷つけていたからだ。

 

(二度と情報戦で後手を踏む事はしません……私の命にかけて)

 

 ヒトであると共に兵器であり、軍人でもある彼女達艦娘にとって、己の存在意義を果たす事はとても重要な事なのである。

 

「明石、装備の配備状況は」

「なんとか間に合わせましたよ。工廠部門はその職責を全うしました。あとは結果をご覧あれ」

 

 石壁の言葉に、明石は確かな手応えを感じさせる笑みで応える。

 

「ああ、楽しみにしているよ。間宮、物資の配備状況は?」

「万事ぬかりありません。必要な場所に必要なだけしっかり準備しました。間宮の名にかけて、誰一人として物資の欠乏に苦しむ事がないのを保証します」

 

 間宮は積み重ねてきた経験に裏打ちされた自信をもって応えた。彼女がここまで言ったのだ、本当に物資面で問題は生まれないだろうと石壁は確信する。

 

「心強いよ、頼む。次、天龍、平野部の縦深防御陣地の建築状況はどう?」

「とりあえず必要な分はなんとか確保出来たぜ。これ以上に完成度を高めようとすれば出来ねえ事はねえが……時間的な費用対効果からみりゃ微妙だな。ベストとはいえねえが、ベターなもんにはなってるぜ」

 

 10の完成度のモノを10作るのではなく、必要十分な質だけ確保してとにかくどんどん広げるのを重視してきたのだ。その結果7の完成度のモノを100作る事に成功していた。

 

 石壁が削った3は今回の戦いでは必要性が薄いと判断した部分であった。全ての分野に均等に力を割り振るのではなく、いくつもの要素に物事を細分化し必要な所に資源を投入する。これは選択と集中と呼ばれる戦略や経営の基本的な部分である。つまりは『完璧な不足』ではなく、『不完全な充足』を選んだのだ。

 

「ああ、充分だ。よくあれだけ短期間でここまで仕上げてくれた。本当にありがとう」

「へへ、まあ俺達にかかれば余裕だぜ余裕」

 

 石壁の掛け値なしのお礼の言葉に、天龍は少し恥ずかしそうに顔をかいている。

 

「防御陣地は完成し、配備する兵器物資も問題なし。あきつ丸、砲兵隊の訓練はどうなっているんだ?」

「はっ!以前の命令通りに、毎日必死に訓練を行っております!当初は混乱も多くみられましたが、毎日毎日少しずつ『カイゼン』を繰り返し、マニュアルをブラッシュアップし、血を吐くような猛烈な訓練の繰り返しによって命令通りの水準まで技量を増加させました!これならば、石壁提督の作戦通りの軍事行動をとれるでありましょう」

 

 石壁は今回の遅滞戦術を成功させる為の『とある訓練』を砲兵隊に行わせていた。その結果いつも通りの鬼のようなデスマーチ訓練が短期間で何度も何度も実施され、砲兵隊の人々はいつも通り泣いたり笑ったり出来なくなる位しごき上げられていたのである。石壁の『いい考え』を実現するための致し方ない犠牲であった。だが、その甲斐あって彼等は運命に立ち向かう力を得たのである。

 

「そうか、流石は砲兵隊の皆だ。彼等がいれば、きっとなんとかなる」

 

 この泊地で最も多くの敵を殺し、最も長く戦い続けてきたのが、この砲兵隊であった。その練度は最早達人の域に達しており、放つ砲弾の命中精度は驚異的の一言であった。彼等がいればこそ、この泊地はいままで戦ってこられたのである。石壁にとってすれば伝説の楯に等しい最硬の仲間であり、石壁の言葉には彼等への信頼が強く滲んでいた。その事をあきつ丸は嬉しく思いながら頷く。

 

「陸軍妖精隊は皆意気軒昂、戦闘準備は万端であります。命令さえあれば石壁提督にどこまでも付き従う覚悟でありましょう」

「……彼等の忠義を疑った事なんて一度もないさ。初めて会ったときから今日まで、一度もね」

 

 石壁はそう呟いてから。全員にむけ視線を巡らせて言葉を発した。

 

「泊地の戦闘準備は整い、敵の攻勢は間近、懸念であった後背地との協力関係もなんとか形になった……つまり、機は熟した」

 

 石壁の言葉に、その場の全員に緊張が走る。

 

「これより数日の内に鉄底海峡攻略作戦を開始する。各々、事前の策定通りに所定の行動を開始せよ。チャンスは一度きり、世界でもっとも馬鹿げた大博打が始まるんだ」

 

 石壁の言葉に、会議室の皆が覚悟を決める。ある者は不敵な笑みをうかべ、あるものは緊張から意識を研ぎ澄まし、またあるものはあくまで表面上は平静を取り繕いつつも、心を熱く燃え上がらせた。

 

「鉄底海峡を叩き潰すぞ!」

「「「「おおおおお!!」」」」

 

 それから司令部の面々は各々が持ち場へと移り、行動を開始した。賽は投げられた。もう後戻りはできない。

 

 機は熟したのだ。ルビコン川を越える時がきたのである。

 

 ***

 

 

 その数日後、石壁は泊地の練兵場へと仲間達をすべて集めた。

 

「…………」

 

 石壁は壇上から広場に集まった者達を見回す。以前壇上に立った時はあったはずの顔が無い。そして、なかった筈の顔がある。逝った仲間、増えた仲間、彼らの事を思いながら石壁は言葉を紡ぐ。

 

 

「どうも、石壁です」

 

 

 見た目こそ厳しくなったが、相変わらずのあり方に思わず場が弛緩した。

 

 

「この鎮守府にきてからもう四ヶ月、たったの四ヶ月の間に、随分沢山の事があった。沢山仲間が増えて、沢山の仲間が逝ってしまった。流れ落ちる水が手のひらから零れるよう、受け止めきれずに失われた命の数を思うと……それだけで胸が締め付けられる程に、苦しく、悲しい」

 

 それは石壁の偽らざる本音である。

 

 

「けど、彼らの命はただ失われた訳じゃない。僕は彼らに命を繋いでもらった。多くの(ともがら)が、僕の命令に従って命をかけて戦ってくれた……僕は彼らが命を賭けて拓いた道の上を歩いている。彼らが遺したモノを道標に、暗闇の荒野を歩き続けているんだ。彼らが僕に遺したそれは、今も僕の心の中で熱く、強く燃えている。どんな絶望の中にあっても轟々と燃えるそれが、僕の力になっている」

 

 魂が炉心なら、人の想いはその燃料。託された多くの想いが、石壁という男の魂の炉心に火をつける。

 

「僕は諦めない、諦めてたまるもんか。僕の泊地を、僕の仲間達の命を、諦めてたまるもんか」

 

 煮え滾る様な思いが、石壁の中から溢れ出してくる。それが言葉にのって、その場に広がっていく。

 

「たとえ敵がどれだけ強大でも、どれだけ状況が絶望的でも、僕は絶対に諦めない。勝利の可能性が、皆が生き残れる道筋が少しでもあるのなら、僕は最後の最後まで、運命に抗ってみせる」

 

 最初に石壁が見せたあの朴訥とした雰囲気が消え失せ、抜き見の刃の様な鋭さが顔を覗かせる。そのギャップは凄まじく、石壁の放つ気迫の鋭さが否応なしに感じられる。

 

「これから僕らが挑むのは、戦略レベルで僕達を圧倒する大敵だ。その戦略は完璧で、その戦力は極大で、その勝利は微塵も揺るがないであろう敵との戦いだ。だが、それがどうしたっていうんだ」

 

 石壁の目は燃えていた。一寸も勝つ事を諦めていない。揺らぐこと無く勝利を見つめる漢の目だった。見つめられれば心の奥底が燃え上がる、勝負に挑む武士(もののふ)の目だった。

 

「蟻の穴から堤は崩れる。どれだけ硬い壁でも叩き続ければ必ず壊れる。鉄底海峡(アイアンボトムサウンド)の分厚い闇の向こうにいる親玉に砲弾を叩きつけるその瞬間まで、僕は絶対に諦めない!だから……だから……」

 

 石壁は血を吐くような思いで、言葉をつなげた。

 

「だから!皆の命を僕にくれ!勝つために!運命をひっくり返す為に!僕と一緒に戦ってくれ!これから始まる地獄のような戦いの、その最も過酷な戦場を、僕と共に支えてほしい!僕も十中八九死ぬと思う……けど、死ぬその瞬間まで勝利を諦めず、最前線で指揮を取り続けるから、どうか、どうか……」

 

 石壁が、頭を下げた。

 

「皆の命を、僕にくれ」

 

 

 

 しばし、場を沈黙が包んだ。

 

 

 

「……お」

 

 だが次の瞬間、練兵場は大音声で溢れかえった。 

 

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 

 その場に居た全ての者達が、抑えきれない闘志を発露するように、雄叫びを上げている。

 

「ショートランド泊地砲兵隊一同!提督へと命をささげましょう!」

「任せてくれ石壁提督!」

「地獄の底までついていきますよ司令長官!」

「いけすかない深海棲艦の親玉に目にもの見せてやりましょう!」

 

 泊地を護り続けた砲兵隊が

 

「工廠部一同、もてる技術の全てをかけて提督へ勝利を捧げます!」

「技術屋の意地みせてやらぁ!」

「新兵器楽しみにしててくれよ!!」

 

 泊地を護る武装を作り続けた工廠部が

 

「工兵隊一同、戦場を最後まで支え続けてやるぜ!!」

「万全の準備と、絶え間ない補修作業ならお任せください!」

「縁の下は俺達にまかせな!」

 

 泊地をゼロから作り上げた工兵隊が

 

「兵站部一同、万全の物資を約束します!」

「弾切れは絶対にさせねえ!」

「俺達の命にかけて物資を運びつづけてやるぜ!!」

 

 泊地を縁の下から支え続けた輜重隊が

 

「情報部一同、一欠片の情報も逃しません!」

「情報戦の神髄をみせてやるぜ!」

「二度とあんな無様はみせません!!」

 

 泊地の目となり耳となり続けた情報部が

 

「命を賭けた夜戦とは腕がなるね!」

「こんな花舞台にたてるなんて那珂ちゃん嬉しい!」

「提督の為に、花の二水戦の誇りにかけて戦い抜きます!!」

 

「ショートランド泊地駆逐隊は石壁提督に命を捧げます!」

「私達の命をかけて提督に勝利を!」

「水雷魂をみせてやるんだ!」

 

「今度こそ、今度こそ勝利を掴んでみせるわ!やるわよ飛鷹!」

「気張りすぎて失敗するんじゃないわよ、瑞鶴」

 

「熊野、今度は絶対に約束を護るよ。絶対に石壁提督を護りきってみせる!」

 

 石壁の艦娘達が

 

「貴様の信頼に必ず答えてみせる。やるぞ、あきつ丸」

「承知であります。腕がなるでありますな!」

 

「遂にこの時が来たのだな。扶桑、山城、覚悟はいいな」

「ええ、提督、頑張りましょう」

「もちろんよ提督。それにしても、石壁立派になったわね……!」

 

「カッコいいぜブラザー!俺達も負けてらんねえな!」

「あたぼうよ!ここまで言われて引いたら女が廃るってもんでい!」

「気合!入れて!!いきます!!!」

「榛名、なんだか燃えてきました」

「私の計算通り、凄い提督になりましたね」

 

 石壁の親友達が

 

「提督、私の命は既に貴方のモノですよ」

 

 石壁の愛した女性(ひと)が。そしてーー

 

「この武蔵の全身全霊をかけて、貴様の為に戦おう」

 

 ーーこの戦いで最も過酷な戦場に挑むことになる相棒が、石壁の言葉に応える。

 

 ありとあらゆる者達全ての思いが一つとなって石壁へと向けられる。

 

 彼らは石壁がどれだけ頑張っているか知っている。この泊地にやってきてから今日まで、どれだけ命がけで頑張ってきたのかを知っている。

 

 最初に泊地が陥落してからずっと勝利のために前を向いて走り続けてきた石壁は、常に皆の希望であった。共に働き、同じ釜の飯を食べ、泣いて、笑って、よく喚く、愛すべき総司令官であった。

 

 石壁は普通の人間だった。悲しければ落ち込み、うれしければ笑う。常に仲間のために心を砕き、部下の命を大切にする。失われた命を嘆き、生き残った命に感謝する。そういう人間だった。

 

 誰よりも優しいのに、誰よりも固く、誰よりも脆い。そんな石壁が、仲間の死を何よりも恐れる石壁が、自分とともに死んでくれといったのだ。勝利のために死地へ一緒に飛び込んでくれと頭を下げたのだ。

 

 その覚悟の硬さは如何程か、その重責の重さは如何程か……その心中の苦しみは……如何程のものであろうか。 

 

 だからこそ、漢達は奮起した。仲間である石壁だけを死なせる事は出来ないと。この愛すべき総司令官が自分たちの命を欲するなら、笑ってくれてやろうと、そう覚悟を決めたのだ。

 

 石壁が死なない限り、彼の仲間の心は決して折れない。圧倒的な絶望を前にして、彼らは恐怖によってバラバラになること無く一丸となったのだ。

 

「……ありがとう……皆」

 

 石壁は泊地の仲間たちを見つめながら、言葉を紡ぐ。

 

「ならば往こう。絶望を踏み潰し、あのいけ好かない鉄底海峡の女王の元まで!!魂を燃やし、命を振り絞り、全ての敵をすり潰し、全身全霊を掛けて戦い抜け!!」

 

 石壁の言葉に、その場の全てのモノ達の魂魄が燃え盛る。鉄をも溶かす魂の熱量で、陽炎のように大気が歪む。

 

「このクソッタレな運命を覆して、暁の水平線に勝利を刻むんだ!!」

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」

 

 轟音が世界を揺るがせた。絶望的な負け戦であっても最後の最後まで、地獄の底まで付き従う数千人の死兵達が、一騎当千の艦娘達が、世界最強の護国の鬼神達が、石壁の号令の下に集ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 歴史を変える一戦が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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