艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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第三十六話 撤退抗戦

ー23:00ー 

 

 現在、沿岸部の要塞陣地が全て吹き飛んだ事で最前線になったショートランド泊地は、要塞化された頑強過ぎる鎮守府施設を頼りに必死に抵抗していた。

 

 沿岸部に上陸した大量の深海棲艦第一陣が爆殺されて、おっかなびっくり上陸した第二陣は唯一残っている鎮守府の建物へと殺到する。だが、先ほどの大爆発で腰が引けている深海棲艦達は、内部に突入出来ないでいた。そのため、建物をぐるりとドーナツ状に取り囲んでの砲撃戦に終始している。当初はそれでも十分過ぎると思われた包囲攻撃であったが、時間が経過するにつれて深海棲艦達は目の前の鎮守府らしき物体の真価に気が付いたのであった。

 

「……しぶといですね」

「……ああ。あの建物、どれだけガッチガチに固めてあるんだ?」

 

 ピラミッドの上部を切り取った様な形の頑強過ぎる鎮守府の建物は、かれこれ数十分も四方八方から砲撃を受けているにもかかわらず未だに破壊に至って居ない。中空傾斜式二重鉄筋コンクリ装甲(+土嚢)とかいう意味の分からない装甲を搭載したこの鎮守府は、明石の想定通りに数百名……否、下手をすれば千名近い戦艦級の深海棲艦の烈火の如き集中砲火を耐えていた。流石に時間の経過で少しずつ外郭はなくなってきたが、二重装甲の内殻はまだ健在であった。明石の備えが有効に活用されたのを喜ぶべきか、石壁が『完全なる詰み』と形容した状況に見事に追い込まれた事を悲しむべきかは意見が別れるだろう。

 

 当初は先ほどの爆発の事がチラついて押し込めなかった深海棲艦達であったが、時間の経過に伴って次第に恐怖を苛つきが凌駕し始めていた。時間と爆発のダメージを天秤にかけて、深海棲艦の指揮艦が突撃へと思考を切り替えていく。

 

「チッ……埒があかない。仕方ない、押し込んで……」

「指揮艦!敵鎮守府沈黙!繰り返します!敵鎮守府沈黙しました!」

 

 その瞬間、あれだけ激しかった鎮守府からの反撃がピタリと止む。先ほどの爆破の心理的圧力が有効な限界ギリギリまで粘っておいて、いざ一斉攻撃に出ようとする瞬間に鎮守府の地下から撤退されたのだ。

 

「ええい!イシカベめえ!本当に忌々しい!アイツは人の心が読めるのか!?」

 

 こちらが押せば引きこみ、こちらが引けば追撃する。こちらが力押せば逃げ出し、こちらが尻込みすれば引かない。正しく変幻自在の防衛術に、深海棲艦指揮艦の怒りは高まるばかりである。人の感情を殆ど完璧に察する事ができる石壁の観察眼と、最高の防衛指揮能力が合わさった事で、ショートランド泊地は一瞬も自分の好きなように攻撃をさせてくれない最悪の敵となったのである。

 

「とりあえず、爆発に巻き込まれないぐらいに近寄って集中砲火で建物を崩してしまえ!絶対に中に入るなよ!」

「は、はい!」

 

 その命令にしたがって、鎮守府の包囲網を狭める一同。だが、鎮守府の存在そのものが釣り餌であることに、深海棲艦達は気がついて居なかった。

 

「ん?」

「砲撃音!?」

「ど、どこだ!?」

 

 その瞬間、遠くから砲撃音が響く。だが、砲弾が飛んでこない。

 

「一体、なにごーーーー」

 

 直後、ほぼ垂直に『頭上から』砲弾の雨が降り注ぎ、鎮守府一帯が諸共に全て吹き飛んだのであった。

 

 ***

 

 とある砲撃陣地にて。

 

「いやはやまったく」

「石壁提督は本当に面白い事を思いつくものだ」

 

 ほぼ垂直に掘られた壕の中から、これまた『殆ど垂直に』砲弾が発射されていく。

 

 その砲は、通常の砲身よりも短く切り詰められており、どこかずんぐりむっくりとした印象を与える砲台であった。

 

「ははは!『臼砲』の山なり射撃による砲撃戦なんて、日露戦争みたいだな!」

「本当だな!俺達の爺さんの頃の戦術だぞこれは!」

 

 第2次世界大戦の頃の兵士にすら『古臭い』と言われてしまった石壁の奇策。それは時代と共に廃れた『臼砲』のリバイバルであった。

 

 臼砲とは、通常よりも短い砲身をもち、ほぼ垂直の山なりに敵に弾を飛ばす砲である。まだまだ要塞が現役で塹壕戦が多かった時代は。真っ直ぐに砲弾を飛ばしても垂直に掘られた塹壕や蛸壺に対して効果的な砲撃が出来なかった。故にほぼ垂直に砲弾を飛ばして敵の頭上へと落下させる臼砲が戦場では活躍していたのだ。

 

 時代が進み、次第に持ち運びが簡便な『迫撃砲』や移動可能な『自走砲』へと統合され消えていった武装だが、石壁はこれを120ミリ砲や200ミリ砲で無理やり再現して深海棲艦へと曲射しているのである。

 

 当然直接発射したほうが強力だが、これが意外な程使い勝手が良いのだ。

 

「くそ!?どこだ!?どこから撃たれている!?」

「砲撃陣地が見えん!」

「どこのトーチカだ!?」

 

 そう、山なりの弾道で打てるこの砲は、『敵から直接見えない』のだ。垂直に掘られた穴の底にある大砲である。通常のトーチカと違い、砲門が確認出来ないのである。

 

 これを潰そうとするなら、同じく垂直な山なりの弾道で砲弾をピッタリと砲のある穴に叩き込む必要があるのだが、直接見えない穴に曲射を叩き込める存在など早々居ない。昼なら観測機による弾着観測が使えたのだろうが、今は夜である為不可能だ。必然的に近寄って見つけるしか無いが、この砲台も石壁達が作った使い捨て陣地であり近寄った頃には陣地は既に放棄されているのだからたまったものではない。

 

 見えない位置からの絶え間ない砲撃。頭上という人体的な死角から叩き込まれるそれは、戦場を大混乱に陥れた。

 

 鎮守府の周囲に群がっていた深海棲艦達は、無数の曲射によって『面制圧』を受けた。曲射は命中率がどうしても低下するがそれでもまったく問題はない。何故なら現在曲射を続ける砲台は全て『鎮守府周辺を大まかに吹き飛ばす』という目的の為だけに作られた砲撃陣地であるからだ。数百発の砲撃が『大まかに』着弾して全てを薙ぎ払っていくのだ。密集していた深海棲艦達には効果てきめんであった。

 

「今だ!照明焼夷弾を叩き込め!!」

 

 だが、石壁の攻撃は終わりではない。砲撃によって深海棲艦達が地面に押さえつけられている間に焼夷弾が振り注ぐ。ガソリンに鉄錆とボーキサイトから作り出したアルミニウムの粉塵を混ぜ込んだ特性テルミットナパーム弾が次々と着弾し、鎮守府近隣を全て火の海に変えていく。火だるまになった大勢の深海棲艦達が業火の中でもがき苦しむが、その強靭な生命力故にこの程度では彼女達は死ねない。

 

「ぐあああ!?」

「熱い!!熱いぃ!!!」

「くそっ!?イシカベめえええええ!!!絶対に許さん!!!」

「炎で焼いた程度で私達を殺せると思うなよ!!」

 

 だが、石壁の狙いはこれではない。本命はその照明効果、あたり一面火の海になったせいで鎮守府周辺の敵戦力の配置が石壁達に丸見えになる。

 

「方位修正!!右へ三度!上方へ5度!!」

「了解!!」

 

 山岳部の隠し砲台が深海棲艦達へと狙いをつける。

 

「修正完了!」

「特殊三式弾装填完了!!」

 

 妖精さん達が装填したそれは、工廠部門の明石達が足りない火力を補う為に作り出した秘密兵器であった。

 

「特殊三式弾、『クラスター爆雷』斉射!!」

 

 石壁の号令に従って砲撃が開始された。

 

 轟音と共に発射された砲弾が闇夜を切り裂いて沿岸部へと降り注ぐ。大地に蠢く深海棲艦達の頭上まで飛んでいったその砲弾は、通常の三式弾と同じく空中で爆散し、子弾をばら撒いた。だが、そこからが違った。

 

「なにがーー」

 

 突如頭上で爆散し、ばらまかれたソレを受けた深海棲艦が大爆発を起こして消し飛ぶ。

 

「なんだ!?なんなんだこの兵器は!?」

 

 周辺の仲間たちが次々と爆散し死に絶えていく中、混乱の叫びを上げたとある深海棲艦が、奇跡的に振ってきた子弾を目にした。

 

「カード……?」

 

 呆けた様に呟いた彼女は、そのままそのカードが顔面に突き刺さって爆沈したのであった。

 

 ***

 

「ヒントを得たのはクラスター爆弾でした」

 

 それは現代兵器の一つであり、爆発によって内部の爆弾をばらまく兵器だ。

 

「クラスター爆弾は空爆に比べてより効果的に、より精密に、より安価に広範囲を制圧することが出来る兵器です」

 

 クラスター爆弾は通常短距離ミサイルの様なモノに搭載し、狙った場所一体に正確に爆弾をばらまく兵器だ。比較的安価でありながら正確さと物量と面制圧効果をもつこの兵器は防衛において凄まじい効果を発揮する。

 

「通常のクラスター爆弾は深海棲艦には通用しません。妖精さんが作る兵器しか深海棲艦には通じないからです」

 

 それが圧倒的な技術力の現代兵器が深海棲艦に通じなかった理由であった。

 

「故に、妖精さんが作った兵器のガワをそのまま転用してクラスター爆弾モドキを作ったんです。三式弾のガワに、大量の爆雷や魚雷のカードの子弾を詰め込んでやりました」

 

 実体化させた一発一発の三式弾を丁寧に解体し、その子弾の一発一発をアイテムカードで作った特別性のモノへと置き換えたのである。砲撃の衝撃で爆発せず、着弾でのみ起爆するように調整されたそれは、工廠部門のこれまでの経験を活かした最高傑作であった。

 

「ご満足いただけましたか?提督」

 

 ばらまかれた魚雷カードと爆雷カードが沿岸部一体を爆発させていく。

 

「ああ、最高だ明石」

 

 力のない産廃を決戦兵器へと昇華させた彼女達の努力に、石壁は惜しみない賞賛を送ったのであった。

 

 ***

 

「報告です!イシカベ達は、恐らく『臼砲』を用いて砲撃を行っています!」

「きゅ、臼砲!?本当にいつの軍人だアイツは!!」

 

 考えてすら居なかった兵器による砲撃を受け、悔しくはあるが深海棲艦の指揮艦は、その有効性と悪辣さに歯噛みせざるを得ない。

 

「ですが……臼砲の曲射だけでやられるほど我々の艦隊は弱くはありません、苔脅しは無視してじっくりとーーーー」

 

 副官がそういったその瞬間、海上にいた深海棲艦の指揮艦は、陸上が大量のクラスター爆雷に薙ぎ払われて行くのを見た。

 

「なっ!?」

 

 副官はその光景に己の目を疑った。

 

「イシカベめっ!どこまでも忌々しい奴だ!!臼砲とあのヤバイ兵器に頭を抑えられている状況でじっくり攻めるのは無理だ!!薙ぎ払われて死ぬか士気が崩壊するぞ!!」

 

 指揮艦は即座に意識を切り替えて命令を弾き出す。

 

「ゆっくりと砲撃戦でトーチカを潰していくのは諦めて、数で押せ数で!戦列歩兵前進開始!物量によって敵を飲み込め!」

「はい!」

 

 沿岸部に停滞していた深海棲艦達の戦列歩兵が再び動き出す。こうして沿岸部における戦いは終了し、戦線は山岳部との間に広がる平原地帯の防衛線へと移るのであった。

 

 ***

 

 02:00 平原地帯縦深防衛線

 

 平野部を山岳へむけて進軍する深海棲艦達は、あまりの行軍のキツさに悲鳴をあげる。

 

「指揮艦!!平野部の大地は泥濘となっており思う様に進めません!!」

「水気を大量に含んだ泥では海上の様に滑る事は出来ないようです!!」

 

 これは天龍達工兵隊が坑道を掘り続けた結果生まれた副産物である大量の土砂と、誤って掘り当ててしまった鉱泉を利用した泥の防御陣であった。

 

 掘り返された土砂が水気を大量に含むと当然ながらそこは夏の水田の如き泥濘となる。これにもしも踏み込めば足は容易に沈み込み、引き抜くのに苦労する天然のトラップと化すのは想像に難くないだろう。

 

 工兵隊はこれを利用してトーチカによる防衛線の目の前で行軍が停滞するように泥の防衛線を引いたのである。トーチカ地帯と交互に引かれたこれは深海棲艦の行軍を停滞させ、味方の撤退の時間を稼ぎ……そして砲撃の的を人為的に戦場につくりだしたのである。

 

 砲台の目の前で行軍が停滞すればどうなるか、その当然の帰結が形となって表れるのだ。

 

「撃ちまくれ!!」

「敵を近寄らせるな!!」

「直接砲火と間接砲撃を絶え間なく叩き込み続けろ!!」

 

 泥濘の上に押し寄せた深海棲艦達を摩耗させるべく、平野部のトーチカが間断なく砲撃を行い、その後方の臼砲陣地が前線へむけて曲射を連発する。

 

「タイミングを合わせろ!!3秒ごとに撃て!!」

「同時弾着射撃開始!!」

「火力を集中させろ!!」

 

 次の瞬間、複数個所でバラバラの口径の砲から発射された直射、曲射、超遠距離射撃が一点集中して深海棲艦の戦列へと叩き込まれる。泥濘によって停滞し、密集した陣列に集中された砲撃が破滅的な効果を生み出していった。

 

「弾着!!成功だ!!」

「急ぎ次弾装填!!」

「弾着位置そのまま!!連射せよ!!」

 

 同時弾着射撃、それは射程や弾着にかかる時間が異なる砲弾を複数発発射し、その全てを一点に同時に叩き込む砲撃である。本来機械制御された機械化砲兵隊が行う精密射撃の技術だが、石壁の砲兵隊は自力でそれを成し得るのだ。積み重ねた練度が実現するその砲撃の流星群が大地を叩き壊していく。

 

「くそっ!?泥に足を取られて思う様に進めねえ!!」

「止まるな!!止まったら死ぬぞ!!」

「とにかく急げ……ぐあああッ!?」

 

 突如として前を進んでいた深海棲艦が『足元から爆散』した。

 

「はっ!?」

「ま、まさか地雷!?」

「この泥、地雷原なのか!?」

 

 ある程度泥の陣地を突破してやっと少し慣れ始めたと思った矢先に、ただ足元を絡めとられるだけだと思っていた泥の大地が突如として牙をむいた。しかも、既に突破した地帯からも爆発が発生し、通常の地雷と装置による遠隔起動爆弾の両方が泥の中に埋没しているというとんでもない事実を一挙に突き付けられたのである。

 

 地雷は防衛線における重要兵器の一つだ。だが通常の地雷は深海棲艦には効果がない。故にこれも工廠部門が作り出した新兵器の一つである。

 

 読者諸兄は南方棲戦鬼との戦いで石壁達が使用した鉄鋼爆裂弾を覚えているだろうか?あれは艦娘用の三連装魚雷カードを核にした遠隔起動式爆弾であったが、この地雷はあの爆弾を極限まで簡略化した結果生まれた埋没した魚雷なのである。威力や視覚効果こそ爆裂弾に劣るが、とにかく簡便に作れて量産がきくこの地雷型魚雷を泥の防衛線に大量に埋め込んだのである。

 

「ひぃ!?」

「地雷を恐れて止まるな!!どの道ここにいれば……止まれば砲撃で死ぬだけだ!!」

 

 足がすくんで動けなくなった僚友の肩を支えて、死に物狂いで前に駆け出す深海棲艦達だが。前に進むたびに少しずつ少しずつ、やすりで削られる様に味方が減っていった。

 

 にも拘らず、敵には殆ど損害を与えることが出来ていない。攻撃しているのは此方なのに、実際は防衛側に一方的に攻撃され続けているのだ。

 

 防衛戦の天才石壁の完璧な撤退戦の制御と、その指揮に応えられる程熟練した砲兵隊の動き、工兵隊の作り出した計算され尽くした防衛陣地、輜重隊が作り出した完璧な物資の配分……ショートランド泊地が総力を結集して作り出したこのキルゾーンが敵の命を貪り喰らっていく。深海棲艦が個として完成した化け物ならば、石壁達は群れとして統制された怪物であった。統制された人間による収斂された殺意が敵を情け容赦なく殺し尽くしていく恐ろしさは、筆舌に尽くしがたいものがあった。

 

 だが、それは決して深海棲艦が弱いという事を意味するのではない。彼女達もまた、尋常ならざる怪物なのだ。数を減らしながらも前に進み続けるその強靭さがそれを証明していた。

 

「くそがああ!?どこまで続くんだこの陣地は!」

「いい加減正面から戦いやがれ臆病者めぇ!」

「殺す!イシカベめぇ!絶対に八つ裂きにしてやる!」

 

 深海棲艦達にとって平原地帯における戦闘は悲惨を極めた。進めども進めども終わりの見えない泥濘と、その先の無数のトーチカによる防衛線。叩こうと近づけば無数の砲弾が襲いかかり、接近すれば煙の様に消えてしまう。無人となったトーチカを制圧すれば陣地が爆発し、炎上する明かりを利用してまた暗闇から砲撃が飛んでくるのだ。

 

 しかも、地中には無数の地雷が埋まっている。それを踏みつければ一発死亡、踏まれなければ遠隔操作で起爆という嫌がらせの極みの様な仕打ちである。

 

 だが、それでも彼女達は足を止めない。行動を強制されているというのはあるが、それでも足を止めないのだ。陣地一つ踏み越えるたびに無数の屍の山を積み上げていく深海棲艦達は、督戦隊や砲弾への恐怖を石壁への憎悪にすり替えて、それだけを燃料にしてひたすら前へと突き進み続けているのだ。負の感情を力にして進むことが出来るのが、彼女達の恐ろしい点であった。

 

 その結果、厚い防衛線も次第に薄くなっていき、遂に平野部の縦深防御陣地を深海棲艦達が突破してしまう。だが、深海棲艦はその時点で既に4000以上の死者を出しており、動けなくなって離脱した者達を考慮すればその戦力は当初の半数の総数5000名程度まで減退していた。沿岸部の要塞と重厚長大な防衛線を使いつぶして、石壁達は敵の半数を磨り潰したのである。そして……

 

 ***

 

ー04:00ー 

 

「……遂に、やってきたか」

 

 防衛戦の後退に合わせて延々と戦い続けてきた石壁は、遂に最終防衛線の……あの要塞の指揮所に戻ってきていた。

 

「やれやれ、どうやら僕は余程海には縁がないらしい。一度目も二度目も、結局海岸を捨ててここにきてしまうんだから」

 

 石壁が苦笑しながらそう言うと、指揮所が笑いに包まれた。

 

「……さて、皆、散々逃げ続けてそろそろ逃げるのも飽きただろ?もうこれ以上逃げなくていい。敵を沿岸からここまで誘い込む事には成功した。後はひたすら、ここで耐えればいい」

 

 いままでの陣地は使い捨てを前提とした簡易的なものであった。だが、いま石部達がいるのはあの南方棲戦鬼を打ち破った要塞だ。石壁達の血と汗の結晶であるこの要塞ならば、どれだけでも耐えることが出来る。

 

「打ち砕け、磨り潰せ、焼き尽くせ……殺して殺して殺し尽くせ。皆の力を僕に貸してくれ、皆の力を僕に見せてくれ」

 

 これより石壁達は修羅となる。護国の鬼神達を率いる地獄の泊地の守護神が、その守りの刃を引き抜くのだ。

 

「アイツらが暗い海の底からやってきたというなら、それより深い地獄の底まで叩き返してやれ」

 

 この門を通る者は一切の希望を捨てよと地獄の門には書かれているという。ならば、その門よりなお強固なこの要塞を下さんとするなら、一体如何ほどのモノを対価とすればよいのか、その答えが齎されようとしていた。

 

「撃って撃って撃ちまくれ!砲身が焼け落ちるまで、敵が全て死に絶えるまで、百でも千でも万でも、最後の最後まで砲弾を撃ち続けるんだ!」

 

 石壁の言葉が要塞中に響く。

 

「総員、戦闘を開始せよ!!砲撃開始!!」

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

 

 要塞線が一斉に火を吹く。遂に石壁の撤退戦が終わり、不退転の徹底抗戦が始まったのだ。

 

 そして、これをもって石壁の作戦の第二段階は成功し、戦いは次なる領域へと進んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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