艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第三十七話 常闇の世界

 

-04:00-

 

 山岳部の要塞での戦いが始まった丁度そのころ。潜水艦まるゆの艦内で、陸軍妖精が懐中時計を睨んでいた。

 

「……」

 

 まるゆを動かしている妖精さん達は刻一刻と過ぎる時間を、息も詰まりそうな静寂の中で過ごしている。物音の一つも立てない様に、静かに、じっと、その時を待っていた。

 

「……時間だ」

 

 そして、遂に隊長の妖精さんが声をだした。

 

「作戦を開始する、まるゆ浮上せよ」

「了解」

 

 ゆっくりと、まるゆが浮上を始めた。

 

「ゆくぞ諸君、反撃開始だ」

「「「はっ」」」

 

 ***

 

 

「飛行場姫様!大変です!」

 

 指揮所の椅子に悠然と腰掛けていた飛行場姫の元に部下が駆け込んでくる。

 

「どうかしたのかしら?」

「突如として数十もの反応がレーダーに探知されました!」

「へえ?」

 

 指揮所がざわつく。

 

「反応はそれぞればらばらにではありますが、この基地を取り囲むように動いております!直ちに迎撃艦隊を組織してこれを迎え撃ちましょう!」

「……」

 

 部下の進言を聞きながら、飛行場姫はしばし考え込む。

 

(ふむ……どう考えても陽動なんだけど……かと言って無視するのもよろしくはないかしら……)

 

「いいわ、迎撃艦隊を組織しなさい、ただし本拠地であるこの飛行場の護りを充分に固める事、万が一の場合は即座に飛行場に駆け付けられる様にあまり鉄底海峡を離れ過ぎずに闇の結界から出ないこと、この二つは厳守しなさい」

「はっ!」

 

 部下の深海棲艦が艦隊を編成するために駆け出していく。

 

(まあ、これがどんな策にせよ、無駄な足掻きよイシカベ、私の勝ちは揺るがないもの)

 

 鉄底海峡を覆う闇のベールはかなりの広範囲に及ぶ。この中では深海棲艦の能力は飛躍的に向上し、艦娘の精鋭が相手でもそれなりに戦うことが出来る。

 

 更に飛行場の近辺はガチガチの防御体制を固めており、仮に迎撃艦隊の編成によって薄くなった防衛線を艦娘達の精鋭艦隊がぶち抜いてきたとしても撃退は容易である。万が一の場合でも迎撃艦隊を即座に撤退させれば前後から侵入者を挟撃することすら容易いだろう。

 

(鉄底海峡は私の庭、ここで戦う限り絶対に負けない。同じ土俵に上がってくるなら突き返してやるだけよ)

 

 彼女の戦略はいつも正しい。己のテリトリーでは絶対に負けない。だから最後には必ず勝つ。これが常勝の二つ名を冠する彼女のあり方であった。 

 

(でもどうやって索敵網をくぐり抜けたのかしら……?)

 

 その疑問に応えられるモノはいなかった。

 

 ***

 

「しかし、うまくいきましたね」

「ああ、石壁提督の予想通りだったな」

 

 海上に浮上したまるゆの中で陸軍妖精が語り合う。

 

「海上、海中の警備は厳重でしたが、まさか艦娘が『海底』を歩いて進んでくるとは奴らも思わなかったんでしょうね」

「深海棲艦なんて名前を持っているくせに深海が視認範囲外とは、足元がお留守ではないか」

 

 種は簡単であった。石壁は潜水艦であるまるゆにおもりを持たせてあえて船体を沈ませることで、海底を『行軍』させたのである。艦娘とはいえ普通の移動方法は海上を進むか潜水艦が海中を航行するかの二択であり、海底の表面は索敵網の範囲外であった。これによって文字通り索敵網を潜り抜けたのである。

 

「昨今は揚陸艦が空を飛び、艦娘が要塞やトーチカに籠る時代だというのに、奴らも存外常識的だな」

「そうですねえ、石壁提督の方がよっぽど発想がぶっ飛んでますよ」

 

 二人の会話に艦内に笑い声が響く。

 

「さて、では仕事を果たすとするか、準備はいいですかな?皆さん」

 

 妖精さんが無線で周囲の艦娘達へと声をかける。そこにいるのはショートランド泊地の駆逐隊と一部の軽巡洋艦であった。彼女達は緊張はしているが、同時に戦意に満ちた面持ちで頷いている。

 

「では、我々はこれより『輸送任務』を開始致します。索敵を密として敵に接近されないように注意して下さい。兎に角逃げて逃げて逃げ回る事を第一とするように、いざとなれば撤退すること。いいですな?」

「「「はい!!」」」

「よろしい、ではこれより隠密浸透強襲輸送作戦……正式名称「鬼ごっこ作戦」を開始する、各員の奮闘を祈る!」

 

 電探を全力で稼働しながら、寄ってくる敵から逃げだす一同、鉄底海峡の闇のベールの中で、大勢のまるゆや艦娘達による命がけの鬼ごっこを開始したのであった。

 

 ***

 

「走れ走れ走れ!!」

「決して止まるんじゃないわよ!!」

「必要最低限以外の敵は無視しろ!!」

 

 闇夜の中を駆けずり回るショートランド泊地駆逐隊は、レーダー等でかき集めた周辺の情報を元に兎に角逃げ続けていた。一瞬でも停止すればすぐに包囲されて袋叩き似合うのは必定である。故に俊足で小回りの効く駆逐隊だけで編成されたこの陽動艦隊はネズミの様に闇の中を進み続けているのだ。

 

「三時の方向より敵影!!」

「九時の方向へ急速回頭!!同時に魚雷をばら撒くわよ!!」

「了解魚雷発射!!」

「撃て撃て撃てぇ!!」

 

 逃げながら戦い続ける駆逐隊、その動きには淀みがなく、提督の指示が無いにも関わらず驚くべき練度の艦隊行動を遂行していく。一切速度を落とさずに見事に敵と敵の間をすり抜けながら、的確に敵に攻撃を叩き込み続ける。

 

「クソッ!?また魚雷だと!?」

「避けろおおお!!!」

「散開!!散開!!」

 

 駆逐隊を追う深海棲艦達は、まるで水を掴もうとするのかの如く手の中から抜け落ちる彼女達の動きに歯噛みして怒声を上げる。

 

「畜生!臆病者が!!マトモに戦え!!」

 

 思わずと言ったように叫んだ深海棲艦への返答は、声を頼りに撃ち込まれた正確無比な砲撃であった。顔面に突き刺さった砲撃に、彼女は顔中を血だらけにして倒れた。

 

「戯れ言に付き合っている程暇じゃないんでね」

「次はこっちっぽい!」

 

 眉間を撃ち抜いた彼女は冷静に、冷徹に、微塵の隙もなく僚友の言葉にしたがって走り抜けていった。

 

「水雷魂を見せつけろ!!」

「この程度、川内教導艦のしごきに比べれば!!」

夜戦(ゲリラ戦)で私達に勝てると思うな!!」

 

「ぐわぁああああ!?」

「クソッタレがぁ!?連中どうやってこの闇の中を探照灯も使わずに走り続けられるんだ!?」

「どこだ!?どこへ逃げた!?」

 

 闇の中を探照灯すら使わずに走り続ける彼女達は、骨の髄まで鍛え抜かれた筋金入りの精鋭であった。

 

 川内達による、連日連夜の血の滲むような教練によって練磨された彼女達のゲリラ戦能力は一般の艦娘とは格が違った。新月の夜でさえ起伏の激しい山岳を走り抜けられる彼女達にとってすれば平坦な水平線を感覚を頼りに突き進むなど容易い事なのである。彼女達の努力が確かな成果として結実しているのだ。

 

「決して仲間を見捨てません!!」

「私達の命綱は隣の仲間よ!!」

「助け合って、かばい合って、そして戦うのよ!!最後の最後まで!!」

 

 無論、いくら精鋭とはいえ被弾をゼロにすることは出来ない、当然負傷をするモノも出てくる。だが、彼女達は止まらない。時に肩を貸し、時に腕を引き、時に盾となりかばう。限界ギリギリの死線にあってなおその絆は揺るがないのだ。

 

「それが、ショートランド泊地駆逐隊の心意気だ!!」

 

 彼女達はどれだけ踏みつけられても絶対に折れることはない。強くしぶとく粘り強い雑草の強さをもつ艦娘達であった。泊地にやってきてからずっと練磨され続けてきたその強さは、極限状態の中でこそ輝くのだ。

 

 彼女達が全力で戦場をかき回すことで防御陣が綻ぶ、総力を結集した大攻勢、援軍を防ぐための戦力の抽出、そしてこのゲリラ戦に対応するための迎撃艦隊の編成、未だかつて無いこの状況に対応するために飛行場姫自身の防御体制がどうしても緩くなってしまう。

 

 まるで蝶の羽ばたきが嵐を巻き起こすように、小さな駆逐艦達の一心不乱の大逃走がぐるぐると鉄底海峡を掻き回していく。それは闘争の大乱となって暴れ狂い、触れれば一瞬で砕け散りそうなほどの凄まじい勢いになっていく。

 

 だが、動きが大きければ大きいほど、かき回せばかき回す程、自然と隙は大きくなるのだ。

 

 ***

 

-05:30-

 

「……さあ、良い具合に祭りが賑やかになってきやがったぜい」

 

 結界内部の騒乱がピークに達したその瞬間、遂に戦場が大きく動く。

 

『OK,じゃあオイラ達もブラザーの為に動くとしようぜ!!レッツゴー!!』

 

 闇の中でも変わらぬ輝く様な笑みを浮かべて、ジャンゴ達が水面へと飛び出す。

 

「手前等いくよ、金剛様に続きやがれい!!」

『パーティーに殴り込みだぜえ!!』

 

 戦場に忍び込んだ潜水艦部隊は先程の出現が全てではなかったのだ。ゲリラ戦による撹乱が成功するまでずっと海底に待機していたジャンゴ達は、混乱がピークに達した今この瞬間を狙って飛び出したのである。

 

「ご武運を!!」

 

 ジャンゴ達を載せていたまるゆの艦長が叫ぶと、金剛はふてぶてしい笑みを返答に海上を突き進んだ。

 

『ブラザーの読み通り防御が薄いぜ!!食い破れ!!』

「おうよ、任せときな!!」

 

 金剛型戦艦4隻をそれぞれ旗艦とした4艦隊、単縦陣4つが闇の世界を突き進んでいく。道中の敵を全量で食い破り、敵の本拠地へと突き進んでいく。

 

「流石に大攻勢の真っ最中だけあって防衛線力も控えめですね!」

 

 比叡の言葉に金剛は頷く。

 

「ああ、石壁の坊主が命がけでお膳立てしてくれたんでえ、ぜってぇ無駄にはできねえってもんでい!!」

 

 これが石壁の狙い。最大の攻撃を放った瞬間こそが、もっとも防御が疎かになるのだ。ショートランド泊地そのものを囮として敵戦力を限界まで抽出したこの一晩を逃せば、石壁達にもう勝ち目はないのである。

 

「疾きこと風のごとく、高速戦艦の腕の見せ所でい!!」

 

 彼女達は風になって戦場を突き進んだ。敵の本丸へむけて。最終防衛線直近に突如として現れた金剛達に、鉄底海峡を護る深海棲艦達は面食らう。

 

「艦娘どもだ!一体何処から!?」

「前線の連中は何をやっていたんだ!!」

「知るか!!とにかく集まれ!!」

「奴らを止めろ!!」

 

 慌てていても流石は親衛隊だけあって統率の取れた動きで即座に防衛線を形成する深海棲艦達。それをみた霧島が動く。

 

「提督、金剛姐さん、先駆けは私にまかせてください」

『OKだぜ霧島!!』

「キッツいのをぶちかましてやんな!」

 

 二人の言葉に頷きながら、滑るように霧島を旗艦とした第四艦隊が前面へと躍り出る。

 

「さあ……皆いくわよぉ!!」

 

 霧島が普段の理性的な仮面を切り捨てて凶悪な獣の様な笑みを浮かべる。それに呼応するように、霧島艦隊に戦意が漲る。

 

「魚雷斉射ァッ!!掻き乱せ!!」

 

 その掛け声に魚雷持ちの艦娘が一斉に魚雷をぶちまける。遠慮容赦なく扇状に乱射されたそれに深海棲艦達は面食らって回避行動を取り始める。距離的に考えて、避けきってから陣形を組み直しても充分に間に合う目算であった。

 

「逃げたわね?」

 

 それが、ただの艦娘相手であったならば、だが。

 

「総員!!『前進一杯』!!」

「「了解!!」」

 

 瞬間、艦娘達全員の速度が急速に上昇する。明らかに常識外れなその急加速に防衛部隊の深海棲艦達は驚愕する。

 

「な、なんだあの速度は!?」

「まさか、前進一杯か!?死ぬ気か連中!!」

 

 

 前進一杯、それは軍艦のタービンを負担を度外視して急速燃焼させる事により文字通り全速力で急加速する技術である。

 

 人間に無理やり例えるなら、心臓が破裂する寸前まで高速で脈を打たせる事で無理やり体中に血液を循環させてエネルギーを送り込むのに近い状態である。

 

 当然ながらこれは相当に危険な状態でタービンが負荷に耐えかねて爆散しても可笑しくない文字通り一か八かの最終手段なのである。

 

(負担で心臓(タービン)や血管が破裂しそう)

 

 霧島は己の命を燃料にしてタービンが唸りを上げるその音を聞いて、更に凶悪な笑みを見せる。

 

「ああ……さいっこう……この血の滾りこそ喧嘩の華よね……」

 

 バトルジャンキーの血が疼く。金剛型戦艦の中で最も武闘派である彼女にしてみれば、命をかけての死闘程滾るモノはないのだ。彼女の率いる艦隊は、そんな彼女に同調するどうしようもない連中だけを集めた愚連隊なのである。

 

 魚雷を追って急加速した霧島達は、魚雷を回避したばかりで体制の立て直しすら出来ていない防衛部隊へと突撃した。

 

「ひっ!?」

 

 負担に耐えかねて切れた血管から流れる血で顔面を赤くそめた赤鬼達の突貫に、深海の亡者が恐怖で呻く。

 

「さぁ、マイクチェックの……」

 

 機先を制し、気力で接敵し、気迫で圧倒した彼女達は、乱れに乱れた陣形のド真ん中で火力を全開にして暴れ狂った。

 

「時間だオラァアアアアア!!!!」

 

 前後左右ありとあらゆる方向に敵しか無い状況で、全方位に全火力を全力展開したのだ。それはさながら満水のダムを発破解体するが如く、鉄底海峡の分厚い壁に風穴を明け、後方を走り抜けるジャンゴ達が暴れ狂う濁流となってなだれ込んでいく。

 

『撃って撃って撃ちまくれ!!』

「行きがけの駄賃でい!!くらいやがれってんだ!!」

 

 霧島が命がけで切り開いた穴を無理やりこじ開けながら、ジャンゴ達が鉄底海峡へと進軍していく。そして、混乱から敵軍が立ち直った時には既に彼女達は内部へと入り込む事に成功したのであった。

 

「クソっ!?追え!!逃がすな!!」

「飛行場姫様の元へ行かせるな!!」

 

 後方から深海棲艦達が迫る中、今度は榛名が口を開いた。

 

「金剛姐さん、予定通りここは榛名が引き受けます」

「私も残るわ。どうせ魚雷は陸上基地に効かないし」

 

 霧島が敵陣をこじ開けて、榛名が殿を務める。これによって金剛と比叡を旗艦とする第一、第二艦隊を無傷で鉄底海峡の中枢へと送り込むのだ。後は全滅する前に金剛が飛行場を徹底的に叩けば石壁たちの勝利である。

 

『おう、任せたぜ二人共!!』

「金剛型戦艦の力を見せつけてやりな!!」

 

 ジャンゴ達が向かうのも死地なら、この場もまた死地である。だが、そんな事を微塵も感じさせない彼等の言葉に、榛名と霧島は笑みを浮かべる。

 

「はい!榛名は大丈夫です!!ここはお任せください!!」

「足止めはまかされたわ!けど別にこいつらを倒しちゃっても構わないわよね?」

 

 踵を返し、迫りくる深海棲艦へと立ち向かう第三艦隊と第四艦隊。圧倒的な戦力差を前にして、彼女達は恐怖するどころかむしろより熱く燃えていた。

 

「さて、霧島はさっき相当無茶していたから休んでもいいですよ?」

「冗談キツイわね。あんなの準備運動にもならないわよ。榛名こそ、怖いなら私に全部まかせて逃げてもいいのよ?」

 

 隣り合って軽口を叩き合う二人だが、言葉とは裏腹に、二人の間に軽さなど微塵も存在しない。

 

「それこそ冗談キツイですよ……さて、じゃあやるとしましょうか」

「ええ、命尽き果てるまで暴れに暴れてやるわよ」

 

 飛行場姫を討ち取るのが先か、この防御を抜かれて金剛達が圧殺されるのが先かは、彼女達にかかっているのだ。

 

「総員!!戦闘開始!!」

「行くぞオラァ!!」

 

 ***

 

「ひ、飛行場姫様!!最終防衛線を突破されました!!」

「敵の少数艦隊がここへと到達します!!」

 

 基地の指揮所でその報告を聞いた飛行場姫はゆっくりと立ち上がった。

 

「ど、どちらへ?」

「決まっているじゃない」

 

 そのまま泰然とした足取りで、指揮所をから出ていく彼女は、事も無げに言い切った。

 

「頑張ってここまで辿り着いた勇者達を出迎えるのよ」

 

 飛行場姫は、敵が己の喉元までやってきたことを知りながら、より一層笑みを深くして部屋を出ていった。

 

 ***

 

「おい宿六!!鉄底海峡まであとどれくらいでい!!」

『あと数分で海峡の沿岸部……飛行場姫の陸上航空基地だぜ!!」

 

 最高戦速で目的地へと邁進するジャンゴ達だが、進めば進むほど高揚感とは程遠い感情が胸中に渦巻くのを感じていた。

 

(なんだってんでいこの胸糞の悪い気分は……)

 

 作戦は予定通りに進んでいる。このまま突き進めば、遠からず目的地に到着する。だが……

 

(まるで、バケモンの腹の中に自分から入っていくみたいでい……)

 

 目的地ではなく死地へと誘い込まれているかのような、肌がひりつくような焦燥感に思わず金剛はつばを飲んだ。

 

「……はっ、悩むなんてアタシらしくないってもんでい」

『あ?なんかいったか金剛』

「テメエの間抜けズラみてっとあくびが出そうだって言ったんでぇこのダボハゼ野郎」

『ああッ!?なんだとこのファッキンビッチが!!』

 

 いつもどおりのやり取りを終えたところで、遂に電探が基地を捉える。

 

『っと、そうこうしている内に到着だぜ!全員事前に配布した基地の情報は覚えているよな!』

「あたぼうよ、今なら目をつむっても全弾目標に叩き込めらぁ!」

 

 ジャンゴが事前に配った資料とは、以前の南洋諸島泊地連合軍による総攻撃の際に発覚した基地の規模や位置を記した資料であった。

 

『なら一発もはずすんじゃねえぞ!総員三式弾装填!!基地をボッコボコにしてやるぜ!!』

 

 前回の総攻撃は失敗に終わったが、その際にはたった数名の艦娘が闇雲に放った三式弾が基地攻撃に大きな効果をもたらしている。故にジャンゴ達は12名全員が三式弾を装備しており、全力の艦砲射撃で基地機能をガタガタにするつもりなのである。総攻撃時の数えるほどの三式弾の投射に比べれば最初からそれだけを狙って打ち続ければ10倍近い量の砲撃を叩き込めるだろうというのが石壁達の計算であった。

 

「……ッ!金剛姐!!見て!!」

 

 比叡が前方を指差す。

 

『あれは……深海棲艦か……?』

 

 闇夜の海岸線で飛行場姫を中心とした一団が防衛線を引いいているのが見て取れた。

 

『さすがにタダじゃとおしてくれないみたいだぜ!行くぜ金剛、食い破れ!!』

「任せな!!総員突撃でい!!」

「「「「「おおおおおお!!」」」」」

 

 その直後、金剛達と飛行場姫の近衛部隊が衝突する。総大将の護衛艦隊だけあってその練度は総じて高いものであったが、ジャンゴ達の練度はそれとは比較にならないほど高く、次第に護衛艦は蹴散らされていった。

 

『ここからなら基地に砲撃が届くぜ!!』

「比叡!すこし時間を稼ぐんでい!!」

「はい!!気合入れていきます!!」

 

 敵部隊を叩き潰しながら前進していた金剛率いる第一艦隊が艦砲射撃の構えををとり、比叡の第二艦隊がそれを支援する。

 

『準備完了だ!!撃て金剛!!』

「了解!全門斉射でい!!」

 

 そして、遂に彼女達の攻撃が、飛行場姫へと届く。

 

 

 数十発の三式弾が飛行場姫の背後の基地へと叩き込まれると、轟音と共に飛行場が叩き壊されいくのが爆炎に照らされてよくわかった。

 

『しゃあ!!やったぜ!!』

 

 ジャンゴが金剛の艦橋でガッツポーズをして快哉を叫ぶ。

 

「……いや、まちやがれ、様子がおかしい」

 

 だが、ジャンゴの喜びとは正反対に、金剛は己の第六感が激烈に警鐘を鳴らす音を聞いていた。

 

「……くふ」

 

 その時、俯いていた飛行場姫の笑い声が、爆音が過ぎ去って静寂に包まれた海面に響き渡った。

 

「ふふふ……アーッハッハッハ!」

 

 堪え切れないと言わんばかりの飛行場姫の笑い声が闇夜に響く。そのさまは己の根拠地を破壊された影響を微塵も感じさせないモノであった。否、実際彼女はジャンゴ達の破壊になんら影響を受けていないのだ。

 

「複数のおとりを用いて防衛線力を供出させ、その間隙を縫って電撃的に進行し、三式弾による集中砲火で飛行場を叩く。まったくもって見事なお点前ね。針の孔に糸を通す様な作戦をよくも成功させたものだわ」

 

 飛行場姫はそう金剛たちに賛辞を贈ると、性格の悪そうな笑みを浮かべて続けた。

 

「でも残念ね。戦いが始まって何年もたっているのに、私がそんな弱点を放置したままだとおもったのかしらぁ?」

 

 飛行場姫が指を鳴らしたその瞬間に、基地周辺の広域にライトがともる。

 

「なっ……」

 

 金剛が目を見開く、そこには広大な、本当に広大な飛行場が広がっていた。当初聞いていた飛行場の数倍……否、数十倍の大きさをもつ広大な飛行場基地がそこにはあった。

 

「これが私の飛行場、これが私の根拠地、この広大な飛行場をたかだか12名程の艦隊でどうやって潰すっていうのかしら?ねえ、教えてくれない?」

 

 かつて一度だけこの基地まで艦娘達に接敵され、その際に三式弾の投射を受けた飛行場姫。その時に数名の艦娘達の砲撃だけで基地機能をマヒされた彼女は、以後病的なまでにその弱点を克服するべく動いていたのだ。

 

 地道な開拓によって森を、山を切り開き、飛行場を広げ、防備を固め、コツコツと、ひたすらコツコツと飛行場を広げ続けてきたのだ。二度と同じ轍は踏まぬという彼女の病的なまでの勝利と生への執着が形になったのが、この広大な飛行場であった。

 

「この飛行場を潰せるもんなら潰してみなさい。まあ、そんな暇は与えないけどね!!」

 

 その瞬間、基地の防衛機能が発動し、大量の砲弾が放たれる。

 

「チィッ!?よけろ金剛!!」

「あたぼうよ!」

 

 ジャンゴ達は凄まじい高速機動を行い必死に攻撃をよけ続ける。だが、あまりの砲火の苛烈さに、次第に追い詰められていく。網目を縫うように砲撃から逃げ続ける一同であったが、逃げる内に回避が不可能な位置へと段々追い込まれていく。

 

『……っ!ヤベェ、こっちは罠だ!!金剛にげろ!!』

「畜生めっ、総員回頭!!」

 

 急いで方向を変えるジャンゴたちであった……が

 

「あら、気が付いたの?でも残念ね」

 

 既に手遅れであった。

 

「もう、遅いのよ」

 

 飛行場姫が腕を上げる。ジャンゴたちの目の前にずらりと並んだ砲台は、彼女の号令の下に一斉に火を噴くであろう。

 

「……っ!」

 

 金剛達が思わず立ち止まる。逃げ回る内にキルゾーンへと追い込まれたのだ。

 

「チェックメイトよ」

 

 もう、逃げられない


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