艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第四十話  生と死の境界線 前編

 無線通信の後、一斉に砲雷が鳴り響く。戦艦と重巡洋艦の主砲より発射された三式弾は空中で爆散し、無数の子弾を大気中にばら撒いた。その子弾が島全体へと絨毯爆撃のように破壊をまき散らす。

 

 飛行場姫の手によって島中へと拡大された飛行場であったが、規模が10倍に拡大したならこちらは100倍の火力を叩き込むだけと言わんばかりに艦砲射撃の雨が降り注ぐ。飛行場に大穴が空き、格納庫が吹き飛び、燃料や弾薬の貯蔵庫に引火して大爆発を引き起こす。

 

 全てを吹き飛ばす鉄火が飛行場姫の依り代をズタズタに引き裂いていった。

 

「がああああ!?くそっ!?飛行場が砕ける!?ち、力がぬける!?」

 

 爆撃の度に飛行場姫の全身を支えていた全能感(ゲージ)が消え失せていく。鉄底海峡という彼女の王国に支えられた絶対の女王から、ただの飛行場姫へと引き戻されていく。

 

 基地型深海棲艦のその力の源は、依り代となる基地の存在だ。基地型深海棲艦は陸上建造物という、艦艇の艤装と比べて圧倒的に巨大な武装を有しており、当然それに比例する形で膨大な航空戦力と、周囲の深海棲艦への指揮能力を有しているのだ。基地が健在である限り、その圧倒的な能力が揺るぎないアドバンテージとなるのだ。

 

 だが、逆説的にそれは基地さえ破壊できればその圧倒的な戦力は意味のないものになるという事を意味する。つまり、巨大な陸上基地の存在は強みであると同時に、弱点でもあるのだ。艦娘に例えるなら基地型深海棲艦は常に艦艇形態であると言ってもいい。つまりハイリスク・ハイリターンの深海棲艦なのである。

 

 その点、飛行場姫の作戦は完璧であった。彼女の特性は「世界を闇夜に変える事」だ。自身の支配領域一帯を強制的に常闇の世界に変換する事で艦娘の航空戦力を封殺して空爆を防ぐ。その上で攻撃時は結界の外へと自身の航空隊を送り出す事で航空基地としての機能もしっかりと確保している。

 

 更に基地であるという特性を活かして強力かつ潤沢な艦隊を常備し、敵主力艦隊を近寄らせない事で自身の支配領域に基地への砲撃能力を有する戦艦群を近寄らせない鉄壁の防御陣を引いている。

 

 とどめに支配領域である鉄底海峡は無限に等しい深海棲艦が生まれる大軍需工廠に等しく、守る戦力も攻める戦力も勝手に増えていくのだ。

 

 空海共に敵の大戦力を封殺し、忍び込む少数精鋭の艦隊は基地そのものの大戦力で磨り潰し、時間さえ稼げば勝手に増えた戦力でゴリ押して敵を殴殺できるという反則のような戦法を用いていたのだ。彼女が『常勝』であったのは当然なのだ。彼女は勝つための手段を最初からすべて持っているのだから。

 

 完璧だった。その筈だった。だが、反則じみた戦い方よりも更にぶっ飛んでいた(チートだった)のは石壁達の方だった。

 

 深海棲艦が『闇を作り出せる』なら、艦娘は『闇を払える』筈だなんて不確かな考えだけで、本当に『闇を切り払った』のである。

 

 思いついた石壁も石壁だが、本当に切り捨てた伊能もまた十分に頭のネジがぶっ飛んでいると言えるだろう。石壁が護りの天才ならば伊能は攻めの天才。その二人が力を合わせればこの世の常識すら破壊出来るのだ。

 

「はははは!オイ見ろよ金剛!あの不感症ファッキンビッチようやくいい声出しやがったぜ」

「おうよ、どうやらお灸が効きすぎちまったようだねぇ」

 

 ジャンゴと金剛の笑みが凶悪に歪む。猛禽類が獲物を狙うような鋭い眼光と、獣が牙を向くような口元の笑み。泣く子がひきつけを起こしそうな凄絶な笑みであった。こういう仕草や表情がいちいち似ているのがこのコンビらしかった。

 

「さっき金剛が三式弾を打ち込んだ時は効果が無かったが、今は空いた穴が塞がる前に次の穴が出来て回復が追っつかねえようだぜ!!チャンスだ金剛ぶっ殺すぞ!!」

「あたぼうよ!!手前等らいくよ!さっさとあのいけ好かないアサガラババアに引導をわたしてやらぁ!!

 

「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」」」

 

 ジャンゴの艦隊が基地ごと叩かれてボロボロになっている飛行場姫へと接近する。

 

「……が」

 

 その瞬間、飛行場姫の目が赤く輝いた。燃え盛るような憎悪と殺意があふれ出し、世界が震えるような気迫が金剛達を圧した。

 

「クソッタレの有象無象が近寄るんじゃないわよ!!死ね死ね死ね皆残らず死ねえええええええ!!!!」

 

 飛行場姫は余裕をかなぐり捨てて全力で抵抗を始めた。基地に備蓄されていた大量の航空機を発艦させ、全ての砲台を起動し、生き残った周辺の深海棲艦を全て叩きつける。そこに先ほどまでの泰然とした女王の面影はない。ただ独り、ただの飛行場姫の、ありのまま全てがさらけ出されていた。

 

「おいおいクソビッチ、随分と余裕がねえじゃねえの」

「大物の仮面が剥がれて本性が剥き出しになってるんでい。なさっけねえ、大物ぶるなら死ぬ時まで笑うぐらいの覚悟みせやがれってんだ」

 

 ジャンゴと金剛の挑発を聞いた飛行場姫は、二人へ向けて牙を向きだしにして憎悪を込め睨みつけた。ここにきて初めて、彼等は互いに『目を合わせた』のである。

 

 もう手の届かない雲の上の敵ではないのだ。もう触れる事すら出来ない羽虫ではないのだ。

 

「どうせ私は小物よ。どうせ私は弱いわよ」

 

 地鳴りが響く。

 

「南方棲戦鬼みたいな最強の化物にはなれない。イシカベみたいな運命をひっくり返す英雄にだってなれない」

 

 彼女は窮地に追い込まれて己の地金を露出させる。それは言い換えれば、彼女がその底力を全開にして抵抗を始めたという事でもある。

 

「だけど私は絶対に諦めない!!絶対に負けてやらない!!」

 

 空を覆う無数の艦載機、基地機能の8割を不意打ちで破壊されて尚、未だにその戦闘指揮能力は高い。彼女は最悪この状況に追い込まれる事まで想定して予備戦力を準備しておいたのだ。飛行場姫自身のもつ種として最高級のキャパシティーを全開にして、彼女は全身全霊をかけてジャンゴ達を迎え撃つ。

 

 つまりこの戦力が、彼女の最後の予備戦力。鉄底海峡の戦力の底が見えたのだ。

 

「たとえ何千の深海棲艦をすり潰され、何万機の艦載機を墜とされようが……知ったこっちゃないのよ!!私は死にたくない!!負けたくない!!最後に勝つのは絶対に私……それが!それだけが!!私の誇りなのよ!!」

 

 牙を剥き出しにして闘志をさらけ出し、彼女は叫ぶ。こんな結末は認めない。認めてたまるかと。

 

「その為なら地べたを這いずり泥水を啜ったって構わない!!プライドなんかドブに捨ててやるわ!!!」

 

 常勝の深海棲艦とまで言われた彼女の魂の核、それはこの徹底した勝利と生への渇望であった。徹底した数による王者(弱者)の戦略の徹底だったのだ。己の弱さを知り、敵の強さを知るが故に、どこまでも貪欲に勝利を欲した。その為の手筈を整えた。その為に成すべきことをやってきた。それ以外に必要な全てを捨ててきた。故にこそたどり着いた『常勝』であったのだ。

 

『チョックメイトだぜひとりぼっちの女王様(クイーン)

「やれるもんならやってみなさいよ成り上がりの雑兵(ポーン)風情が!!」

 

 鉄底海峡の戦いは、最終局面へと突入した。

 

 

 ***

 

 ジャンゴ達が飛行場姫(クイーン)へと『チェック』をかけているのと同時に、深海棲艦達もまた石壁(王将)へと『王手』をかけていた。

 

「武蔵損傷拡大!!船体各所に断裂!!」

「海側を向いている機銃の殆どが砲撃で吹き飛びました!!!!」

「深海棲艦の方を向いてない機銃を引っぺがして設置し直せ!!」

 

 現在死地の真っ只中にいる武蔵艦内の指揮所では、集中する砲爆撃で船体各所が砕ける音が絶え間なく響き、伝声管からは悲鳴のような報告が飛び込み続ける。

 

「ぐ……ッ」

「武蔵!!大丈夫か!!」

 

 轟音が響く度に、指揮所にいる武蔵が苦痛のうめき声を上げる。彼女は艤装である戦艦武蔵とリンクしている為、破壊の度に全身に裂傷や打撲傷が現れ、血が口中に溢れ出てくる。

 

 武蔵は既に生きているのが不思議な程の重症を負っている。それでも尚立ち続けるのは、武蔵の精神力の頑強さとそれを支える石壁の存在故にである。並の艦娘や提督であれば、既に艦とのリンクを遮断して倒れ伏すか、その損傷に耐えられず死ぬかの二択であっただろう。大和型戦艦の重装甲と、世界で最も護りに長けた石壁の補助があるからこそ、なんとか立っていられるのだ。

 

「がはっ!?」

「武蔵!!」

 

 だが、武蔵が更に大量に血を吐く。武蔵に近寄った石壁の軍服が血まみれになる。これ以上は武蔵が本当に死んでしまうと感じた石壁は、思わず叫んでしまった。

 

「もういい!!もう充分だ武蔵!!艦とのリンクを遮断しろ!!!」

 

 石壁はそう悲鳴を上げて、血まみれの武蔵の体を支える。

 

「何……を言う……まだまだ……この武蔵は……死なん……さ」

 

 そういいながら、石壁の手を払い武蔵は笑った。だが既に隠しきれない死相がその顔に浮かんでおり、ここで引かねば武蔵の命は引き返せない位置まで燃え尽きてしまうだろうというのが石壁には分かった。

 

「だが……!!」

 

 その瞬間、今までで最大の衝撃が指揮所を襲った。その衝撃は凄まじく轟音が指揮所を揺るがせ、石壁は思わずよろめいて壁に手をついた。それと同時に艦橋へと砲弾が複数発飛び込み、更なる衝撃が連続して発生していく。

 

「な、なんだ!?」

「敵砲撃が艦橋に集中しています!!ここは危険です!!石壁提督避難を……」

 

 その瞬間、石壁が手をついていた壁が爆発した。石壁達は艦橋の一番下、根本のあたりの一番重装甲の指揮所に居たが……不幸にも一発の砲弾がそこに飛び込み装甲を貫いたのである。

 

「があああああああああ!!????」

 

 その衝撃に石壁がもんどり打って倒れ、飛び散った装甲片で数名の妖精が致命傷をうけて絶命した。

 

 

「あ……が……」

 

「て、提督!?」

「石壁提督!!」

「大丈夫ですか!?」

「衛生兵きてくれ!!急げ!!」

 

 

 石壁は苦痛に呻きながら、どうにか立ち上がろうと藻掻き、地面に手をついた。……否、つこうてして、つけなかった。

 

「……え?」

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 妖精たちが驚愕に息をのんだ。

 

 

「……え?……あれ?」

 

 石壁は自由が利く方の左腕で、何故か動かなかった右腕へと手を伸ばした。そして、気がつく。

 

「……はは……は」

 

 石壁の右腕が、何処にも無かった。

 

 それを自覚した瞬間、脳髄を焼き切るような激痛が石壁に走った。

 

「があああああああああ!!????」

 

 獣が咆哮するような苦痛の叫びに、凍りついていた指揮所が再起動した。

 

「腕が!!!???腕があああああああああ!!????」

「おい!!!衛生兵はまだか!!!」

「モルヒネを射て!!!」

「気を確かに石壁提督!!!」

 

 周辺の妖精達が大慌てで駆け寄ってくる。

 

「……ッ!」

 

 次の瞬間、糸が切れたように武蔵が倒れ伏した。石壁が錯乱した事で、提督からのバックアップが途絶えたのだ。それによって遂に武蔵が限界を迎えたのである。

 

「む……むさ……し……!!!」

 

 

 それを見た石壁の瞳に、正気が戻る。気が狂いそうな激痛の中でも、武蔵が倒れたというその一点の方が石壁にとっては看過出来なかったのだ。激痛で狂いかけた石壁の瞳に光が戻った。

 

「もはや限界だ!!総員退艦命令をだそう!!」

 

 とある妖精がそう言った瞬間、石壁が叫んだ。

 

「まだだ!!!まだ……まだ戦いは終わってない!!!!」

「石壁提督!?」

 

 石壁にも意地があった。これだけ多くの命を連れて死地に飛び込んだ以上、自分が真っ先に退場するわけにはいかない。そう覚悟を決めて、石壁は痛みの一切を無視した。

 

「しかし!?その出血では早急に処置をせねば長くもちませんよ!?」

「なら出血だけでも今止めればいいんだな!?」

 

 そう言うと石壁は先ほど手を当てていた壁の周辺に目をつける。そこは爆撃により赤熱しており、手をあてれば一瞬で肌が焦げ付くだろうことが傍目からでも見て取れた。

 

 

「作戦が終了するまで僕は退艦しない!!!これが……皆を死地に連れて来た僕の覚悟だ!!!」

 

 直後石壁は、欠損した右腕を赤熱した壁に押し当てて、出血を焼き塞ぐという暴挙に出た。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 声にならない叫びが、石壁から漏れる。その余りに凄惨な姿に、妖精達は驚愕して息をのんだ。

 

「何時まで寝ているんだ武蔵!!!!まだ死ぬには早いだろう!!!!!」

 

 そう言いながら倒れ伏していた武蔵の上半身を残った左腕で抱き起こす。

 

 石壁は今限界まで放出されたアドレナリンで痛みを誤魔化しており、溢れ出る脳内麻薬で極度の興奮状態にあった。それはさながら蝋燭が消える前に燃え盛るが如き状態。石壁はその危険な力強さを孕んだ意思の力を武蔵へと流し込む。それによって再び武蔵とのパスを繋ぎ、燃え尽きかけた彼女の心に炎を燃え滾らせる事となる。

 

「……あたり……まえだ……提督!!」

 

 閉じていた瞳を開き、眼光鋭く武蔵が応じた。まだ戦いは終わっていない。ボロボロの艦娘と提督の戦いは、まだ終わっていないのだ。

 

 二人の視線が交錯する。それだけで互いの想いは通じる。

 

「やれるか。武蔵」

「無論だ。相棒」

 

 その一瞬で石壁は覚悟を決めた。この世界最強の相棒と共に、最後まで駆け抜ける覚悟を。

 

「広域無線を開け!!」

 

 石壁の言葉に指揮所の妖精が困惑する。

 

「それでは敵に傍受されてしまいます!!」

「良いんだ!全力で聞かせてやれ!!」

 

 石壁はマイクへ向け叫んだ。

 

「この無線を聞く全ての者達へ告ぐ!!」

 

 石壁は焼きふさいだ腕が燃える様に痛むのを無視して、声を張り上げる。

 

「僕は石壁堅持!!このショートランド泊地の総司令長官だ!!」

 

 世界に響く。石壁の言葉が、無線に乗って四方八方へ轟いていく。

 

「今僕は戦艦武蔵の艦橋に居る。集中する砲爆撃に晒されて船体は軋み、至る所がはじけ飛び、僕自身も砲撃によって致命的な大怪我を負った!!最早僕の命は風前の灯火と言っても可笑しくはない!!」

 

 石壁のその言葉に、無線を聞いた泊地の面々が目を見開いた。当然だ。自分達の敬愛する上官が大怪我をしたと聞いて驚かない筈がない。一瞬戦場に動揺が走る。

 

「だが、僕は此処から逃げない!!此処が、この戦艦武蔵の艦橋が!!僕の戦場、僕の居場所だ!!僕が此処から離れるときは二つに一つ……ッ!!」

 

 石壁が己の命をチップにした大一番に打って出る。

 

「この戦いに勝つか……負けて死んだ時だけだ!!!!」

 

 勝利か死か、石壁が此処を離れるのは、その何方かだけなのだ。

 

「僕は此処に居るぞ!!泊地の総大将は此処に居る!!深海棲艦(お前等)の怨敵はここに居る!!簡単な話だ!!この武蔵が落ちるか落ちないか……これだけが、この戦いの行方を決めるんだ!!」

 

 石壁が、戦場という火薬庫に特大の火種を放つ。

 

「石壁堅持は、此処に居るぞ!!」

 

 

 ***

 

「お……」

 

 石壁の言葉を聞いた者達の口から、獣の唸り声のような声が、漏れた。

 

「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」」」」」」」」

 

 

 その瞬間、戦場にいるありとあらゆる存在に、火が付いた。

 

「落とせ!!あの艦を落とせえええええええええ!!」

「あそこに南方棲戦鬼を討伐した石壁が居るぞおおおお!!」

「他の敵はどうでもいい!!あれだ!!あの戦艦が大将首だ!!撃て撃て!!撃ちまくれえええええええええ!!」

 

 深海棲艦達は長く自分たちを手玉に取り続け、辛酸を舐めさせ続けた提督が目の前の艦に居ると知り、雪崩を起こしたように武蔵に群がり始めた。

 

「させるかあああああ!!!!何してる撃て!!撃ちまくれえええええええええ!!」」

「殺せ!!あの深海棲艦達を殺せえええええ!!一体残らず殺して提督に近寄らせるなああああ!!!」

「護るんだ!!石壁提督を!!我々の希望を!!」

「提督を護れ!!我々の総司令官を絶対に死なせるなああああ!!!」

 

 勝利か死か、石壁に残された道はそれしかない。

 殺しつくして生き残るか、抗えずに殺されるか。

 

 英雄が英雄足るには、この二択に挑み続けるしか無いのだ。

 

「総員突撃!!あの艦を食い破れええええ!!!」

「全力死守だ!!石壁提督に勝利を!!勝利を捧げろおおおおお!!」

 

 英雄とは時代の節目に根を張り、大勢の命を死地に引きずり込み、その全てを食らい尽くして成長する怪物だ。

 

 敵も味方も、石壁堅持という存在が、戦場の全ての命を吸引していく。

 

 それはさながら荒れ狂う死の濁流。抗いがたい運命の大渦だ。

 

 

 

 石壁堅持という英雄が、真の意味でこの世に生まれた瞬間であった。

 

 

 

 

 ***

 

 

「武蔵船体下部に深海棲艦到達!断裂箇所より侵入してきました!」

「現在船内各所にて戦闘が発生しています!」

 

 武蔵に群がる深海棲艦の津波がついに隔壁を食い破り艦内に雪崩れ込む。巨大な船体の武蔵の指揮所に到達するにはまだ時間があるが、石壁の首元まで刃が迫りつつあった。

 

「来るぞ!迎え撃て!!」

「絶対に此処から先へ通すな!!」

「石壁提督万歳!!」

 

 船体の各所で陸軍妖精達が軍刀や銃剣を手に接近戦を挑み、血みどろの攻防戦を展開していた。通路一本、部屋一つ一つを奪い合う死闘は時間と共にその激しさを増していく。

 

「食い破れ!!」

「殺せ!妖精も艦娘も一人残らず殺せ!!」

「イシカベはすぐそこだ!!艦内を制圧しろ!!」

 

 船体各所で発生している戦闘は妖精隊が圧倒的に不利であったが、狭い船内での戦闘である事と、艦内構造を知り尽くしている事から地の利は妖精隊にあった。

 

「クソが!!ちょこまかと鬱陶しいんだよ!!」

 

 とあるレ級が艦内であるにもかかわらず艦砲を妖精隊の防御へと向けると、妖精隊だけではなく周辺の深海棲艦達も驚いて声をあげる。

 

「やめろ!!」

「こんな狭い場所で艦砲なんか発射したら!!」

「そいつを止めろ!!」

 

 次の瞬間、閉所で発射された砲弾は盛大に爆発し、防御を食い破らんと前線にたっていた深海棲艦達もろともに防御陣地を吹き飛ばした。

 

「が、はっ……」

「貴……様よく……も……」

「はっ、射線に立つ方が悪いんだよ!!」

 

 砲撃を行った深海棲艦は、味方ごと敵を撃った事に良心の呵責など微塵も感じていないように笑う。

 

「……ぁああああああ!!!」

 

 その瞬間、爆炎を突っ切って妖精が突撃してくる。彼は爆炎と吹き飛んだ破片によって大怪我をしていたが、それでも軍刀を握りしめ、一気呵成に飛び掛かってきたのだ。

 

「なっ!?」

 

 レ級は咄嗟に機銃によって迎撃を行ったが、陸軍妖精は銃弾に体を食い破られようとも止まらずに深海棲艦に飛び掛かった。

 

「ぜりゃああああ!!!」

「がひゅッ!?」

 

 軍刀を喉に突き刺し深海棲艦に致命傷を負わせた妖精は、そこで力尽きて動かなくなった。

 

(こ、こいつ……自分が死ぬ事さえ計算に入れて飛び掛かって来やがった……)

 

 口中に血泡が溢れる中、彼女は目の前の死体となった妖精の事を考える。目の前の妖精は死を避けられぬと見るや、必要最低限即死だけは避けつつ、敵を討つ事だけを考えて攻撃を行ってきた。

 

(死兵……こいつらは死兵だ……己が死んだとしても敵を殺す、そういう連中なんだ……)

 

 彼女は、己が戦っていたモノ達が、自分の想像を超える化物であった事に漸く気がついた。

 

(……ち、くしょう) 

 

 喉を貫かれた深海棲艦は暫し苦し気に足掻いていたが、やがて力尽きて物言わぬ躯と化したのであった。

 

 敵も味方も、あらゆる命が平等に失われて逝く。石壁が生み出した地獄が、業火となって全てを飲み込んで逝く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が護りたかった全てを巻き込んで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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