艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相
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第四十一話 生と死の境界線 後編

 怒涛の如く押し寄せる深海棲艦を押しとどめ続ける武蔵であったが、その戦闘能力の限界が近づきつつあった。

 

「艦内の戦闘激化!!」

「防衛線が突破され初めています!!」

「踏ん張れ!!戦力配置を調整して敵を押し返せ!!一分一秒の抵抗が僕達の勝利に繋がるんだ!!」

 

 片腕を失い焼けただれた体で石壁は防衛指揮を取り続けていた。迷宮のような構造の巨大な戦艦を盾に戦場に居座り続ける彼等は刻一刻と自分達の死が近づいているのをひしひしと感じていた。

 

「第一、第二砲塔は砲撃戦で破損!!これ以上砲撃は出来ません!!」

「健在なのは第三砲塔だけです!!」

「第三砲塔下部でも深海棲艦との戦闘が発生しています!!」

「なんとか砲塔を護れ!!これが奪われたら戦闘能力がなくなってしまうぞ!!」

 

 第三砲塔では、武蔵の最大の武器である46cm3連装砲を護りながら休む間もなく砲撃を続けていた。一度の斉射ごとに数百隻もの深海棲艦を戦闘不能に追い込むその巨砲を護るべく船体内部でも必死の攻防が続く。

 

「次弾装填!!」

「装薬急げ!!」

「砲撃用意完了!!」

 

 すぐそこまで敵が迫っている事を知りながらも、彼等は己の責務を果たしていく。命が終わるその時まで、砲塔を稼働させ続けねばならないのだ。

 

『ここの護りが厚いぞ!!』

『ぶち破れ!!』

『砲撃用意!!』

 

 扉を塞ぎバリケードを作り抵抗していると、壁の向こう側からそんな会話が響いた。その意味を理解したその場の妖精達全員が蒼白になる。

 

「ば、馬鹿者!!」

「何をする気だ!?」

「貴様らやめろ!!こ、この部屋はーー」

 

『撃てええええええ!!』

 

「--弾火薬庫だぞ!!!!」

 

 その瞬間、武蔵の46cm砲弾と装薬が山とつまれた火薬庫に砲撃が飛び込んだ。

 

 ***

 

 武蔵の第三砲塔下部が大爆発を起こした。世界がひっくり返ったかと思うような衝撃が巨大な船体を揺るがし、轟音と共に爆炎が武蔵艦内へと噴出した。弾火薬庫に砲撃を打ち込んだ愚か者たちを含めてその近辺にいたあらゆる生命体が一瞬で息絶えたのである。

 

 余りの衝撃に立っていられず、地面へと体を打ち付けた石壁は、揺れる視界の中で声を張り上げた。

 

「ぐっ!?艦内各所状況しらせろ!!」

「第三砲塔下部にて弾火薬庫が爆発しました!!」

「第三砲塔完全に沈黙!!信号途絶!!装填済みの砲弾を撃ちだす事すら出来ません!!」

「艦内に火災!!現在全力で消火作業中!!」

 

 遂に武蔵の最後の武器が失われた。武蔵の主砲を使う事はもう叶わない。

 

「今の衝撃で一部防衛線との信号が途絶!!」

「ま、まずい!!」

 

 そして、遂にその時がくる。

 

 ***

 

「い、今の爆発はいったい……ああっ!?」

 

 艦内にて防衛ラインの一角を任されていた鈴谷は、目の前の区画一体が吹き飛んで防衛ラインに大穴が空いていることに気が付いた。

 

「いけない!!防衛ラインを現状から更に縮小して戦力を再編!!艦娘の皆は私と一緒に提督の元へ!!妖精さん達は防衛線縮小を開始して!!」

「りょ、了解!!」

「急げ!!ここを護ってももう意味はない!!」

「最終防衛ラインまで引け!!引けえええ!!!」

 

 鈴谷は死に物狂いで提督の元へと駆け出す。すぐに穴を通って深海棲艦が突入して来る。石壁の元に深海棲艦がたどり着く前に、彼の元へと駆けつけねばならないのだ。

 

 ***

 

「イシカベエエエエエエエエ!!殺す!!!貴様だけは!!貴様だけは殺してやる!!!」

 

 だが、鈴谷が行動を開始するより前に、砲塔の爆発による衝撃にも爆炎にも目をくれずに走り出していた敵が居た。彼女は仲間を殺され尽くして消滅した部隊の最後の重巡リ級であった。彼女は憎悪に突き動かされて、一瞬だけ空いた防衛戦の穴へと単身飛び込んできたのだ。爆炎に体を焼かれ、弾火薬庫から爆散した砲弾片に体をえぐられ、それでも止まらず一直線にイシカベの元へと走りぬけたのだ。

 

「……ッ!!最終防衛線が突破されました!!指揮所に敵がーーーー」

 

 その瞬間、全身血まみれの重巡リ級が扉を突き破って指揮所に飛び込んでくる。憎悪を瞳に燃やして、腕を振り上げる。

 

「見つけたぁッ!!死ねえッ!!!!」

 

 リ級の機銃が石壁へと突きつけられた。石壁の首元に遂に手が届いたのだ。

 

「提督を護れ!!!!」

 

 石壁の周りの妖精たちが機銃の射線に割り込むのと同時に、死神の大鎌が振るわれた。

 

「がっ!?」

「がひゅっ……」

「グッ……!?」

 

 指揮所の妖精たちは圧倒的な火力を前に次々と命を失っていく。文字通りの肉の壁となってまでも、石壁を守り通す。妖精たちが弾丸を防いでいられたのは僅かな時間であったが、その紙一重の一瞬が運命を分ける。

 

 妖精たちの体が銃弾を防げなくなり、貫通した弾丸の一発が石壁の頬を掠めて後方を壁を穿つのと、リ級の残弾が尽きるのはほぼ同時であった。彼等の捨て身の献身が、石壁の絶体絶命の危機を救ったのだ。

 

「み、みんな!!」

 

 石壁の目の前で苦楽を共にしてきた指揮所の仲間が一瞬の内に息絶えて行く。心の奥底まで熱した鉄杭を突き立てられたような苦しみが彼を襲った。だが、仲間の死を悲しんでいられる程の贅沢な時間はなかった。

 

「チッ、鬱陶しい羽虫共が!!どけっ!!直接殺してやる!!」

 

 深海棲艦はまだ生きているのだ。如何に石壁とは言え、生身で彼女に勝つ事は出来ない。

 

「ゴフっ……ざ、ぜるがあ”あ”あ”!!」

「絶対に通さん……!!」

「石壁提督、お逃げください!!!」

 

 残弾が尽きて石壁を直接縊り殺さんとするリ級を、全身を穴だらけにしながらも辛うじて生きていた妖精たちが飛びかかって食い止める。

 

「ええい、死に体の癖にしぶとい!!邪魔だ!!」

 

 纏わり付く妖精たちを叩き殺しながらリ級は石壁へと近づこうとする。だが、そこまでであった。

 

「殺す!!絶対に殺してやーー」

「誰を殺すつもり?」

 

 その瞬間、リ級の背後から駆け寄ってきた鈴谷が首に手を添えて握りしめた。

 

「ぐ……がっ!?」

鈴谷(わたくし)の提督を殺そうとする奴は、絶対に許さないから」

 

 鈴谷は底冷えするような殺意を滲ませながら、そのままリ級の首握り潰す。首を握りつぶされて抵抗が緩んだリ級はそのまま地面へと引き倒され、鈴谷のストンピングで顔面を踏み潰されて息絶えた。

 

「提督!大丈夫だった!?」

 

 リ級を確実に仕留めてから、鈴谷は石壁へと向き直る。

 

「ッ、提督、その腕……」

 

 石壁の片腕が無いことに気が付いて、鈴谷の顔が歪む。だが、石壁達にそれを悲しむ余裕も安堵する時間もないのだ。まだ戦いは続いているのだから。

 

「僕は大丈夫だ鈴谷!まだ僕は生きている!!今は僕に構うより成すべき事を成せ!!己の勤めを果たせ!!」

「りょ、了解!!」

 

 石壁の力強い命令を受けて鈴谷は意識を戦闘へと引き戻す。それと同時に、背後から増援がやってくる。

 

「鈴谷さん!!なんとか防衛線を再構築しました!!」

 

 第二水雷戦隊所属の吹雪が駆け込んで来てそう報告する。彼女は神通の推薦でこの戦いでは提督の護衛を務めていたのだ。神通に鍛え上げられただけあって、彼女はこの絶望的な戦況にあっても己の責務を果たしていたのだ。

 

 吹雪の報告を聞いて、石壁は鈴谷へと命令する。

 

「鈴谷、『最終兵器』を使う!!だからもう少し敵を防いでくれ!!行け!!」

「……ッ!!わ、わかった!いくよ吹雪!!この指揮所を死守するよ!!」

「了解!!」

 

 二人が部屋を駆け出して行くと、そこには石壁と武蔵だけが残された。石壁が周りを見渡す。そこにはほんの数分前まで生きていた彼の仲間の死体しかなかった。石壁の指揮を受けて動く手足であった彼等が死に絶えた以上、これ以上の抵抗は最早不可能である。

 

「……ここが限界、か。ありがとう武蔵、『僕達』の戦いは終わった」

 

 石壁は、残った腕で武蔵を抱きしめたままそう呟くと、武蔵の艤装とのリンクを強制的に遮断した。これによって戦艦武蔵の船体は、ただの鉄塊となったに等しい。これで、どれだけ傷ついても、もう武蔵が苦しむことはないのだ。

 

 石壁は無線機を起動させて最後の命令を発信する。

 

「最終兵器を使う。起動コード『サクラ・サクラ』……繰り返す『サクラ・サクラ』……最重要区画以外の防御は捨てて、艦内へと総員退避せよ!!」

 

 石壁はその命令を出すと、疲れ切った様にため息吐いてからポツリと呟く。

 

「後は任せたよ……皆……」

 

 石壁は己にできる全てを出し切った。後はもう、彼が信じた仲間達へと運命を委ねるだけであった。

 

 ***

 

「石壁提督より通信、『サクラ・サクラ』!!最終兵器を起動します!!」

「了解!!格納庫扉開け!!」

「プロペラ回せ!!」

 

 石壁がその命令を出した瞬間、山岳部に隠された秘密格納庫の扉が一斉に開かれた。

 

 内部から現れたのは、今にも飛び立たんとエンジンを回す無数の無人艦載機であった。鳳翔が操る基地航空隊である。

 

「鳳翔殿!基地航空隊3000機準備完了致しました!!」

 

 だが、数が違った。先日の鳳翔が操る事が出来た艦載機が数百機程度であったにも関わらず、現在その10倍近い艦載機が発艦準備を整えてまっているのだ、いくら鳳翔とはいえ流石に多すぎるだろう。

 

「……わかりました」

 

 鳳翔は己の指揮管制能力を限界まで発揮して、艦載機に指示を飛ばす。

 

(……これだけの艦載機を同時に操縦するのは不可能)

 

 もしそれが可能だったなら、どれだけ良かっただろうか。

 

(ですが……『大まかに狙いを付けて突っ込ませる』だけなら、不可能ではありません!!)

 

 鳳翔は瞳に闘志を滾らせて、号令する。

 

「全機『発射』!!目標武蔵近隣一帯!!コンタァーック!!」

 

 鳳翔の号令と同時に、数千機の艦載機が一斉に飛び立った。だが、それで終わりではない。

 

「第二次攻撃隊準備急げ!!」

 

 すぐさま、『次の三千機』が準備されていく。

 

「何千でも何万でも何十万でもっ!!」

 

 鳳翔は愛する提督の元へと駆けつけられない己の無力を燃料に、彼を護る為に己の魂を振り絞る。鳳翔は三千機の第一次攻撃隊の制御が不要になった段階で、すぐさま操作を打ち切って次の三千機へとコントロールを移した。

 

「貴方の為なら!!私は飛ばし続けて見せる!!!第二次攻撃隊『発射』!!!」

 

 石壁の敵が全て死に絶えるその時まで、鳳翔は絶対に止まらないのだ。

 

 ***

 

「指揮艦!!無数の艦載機が!!」

 

 武蔵に群がる深海棲艦の侵攻部隊が見たのは、突如として現れた無数の艦載機達であった。

 

「撃ち落とせ!!近寄らせるな!!」

 

 即座に対空砲火によってこれを迎撃せんとした彼女達であったが、艦載機の不可思議な機動を見て眉を顰める。

 

「なんだ?回避行動すらしない……?」

 

 マニュアル制御の基地航空隊でさえもう少し回避行動を取るのに、目の前の艦載機は一切回避をせずに対空砲火に撃ち落とされていく。

 

「……おい待て……アイツ等……だんだんこっちに来てないか?」

「……ッ!?まさかこれは!?」

 

 目の良い深海棲艦は、艦載機達がヒラヒラと何かをはためかせながら飛んでいるのを見て目を見開いた。

 

「総員撤退!!撤退!!逃げろおおおおおおおおおお!!!あれは特攻機だああああああ!!!」

「なッ!?」

 

 その瞬間、武蔵を中心とした一帯に、三連装魚雷カードを大量に括りつけられた無人艦載機が『着弾』した。

 

 轟音と共に武蔵に群がっていた深海棲艦達が吹き飛んでいく。武蔵にも何発か着弾して上部構造物を吹き飛ばすが、既にリンクを断ち切られてタダの鉄塊となり、乗員も艦内奥深くへと避難している現状においてそれは重大な問題ではなかった。

 

 これが、石壁の最後の手段である無人艦載機による絨毯爆撃であった。石壁という釣り餌に深海棲艦が群がった所に『石壁目掛けて』艦載機を突っ込ませたのだ。艦娘と提督は魂の繋がりによって互いの存在を感知することが出来る為、鳳翔は石壁の位置が離れていても把握できる。故に石壁は己の存在そのものを誘導弾のガイドビーコンとすることでキャパシティの10倍近い大量の艦載機を武蔵へと誘導したのである。

 

「この機を逃すな!!隠し砲台の特殊三式弾を放て!!一発残らず叩き込め!!」

 

 だが、まだ止まらない。石壁は艦載機の着弾の衝撃で揺れる艦橋の中で、生と死の境界線のギリギリまで攻撃を続行させる。

 

 すぐさま放たれた無数の戦艦砲の射撃が、武蔵の周辺へと降り注いでいく。深海棲艦達はこの期に及んでまだ、石壁という存在を見誤っていたのだ。彼女達はどこか無意識に『自分達の司令官目掛けて攻撃などしないだろう』と考えていた。故に深海棲艦達は自分達が総大将という『釣り餌』に引っかかっているなどその瞬間まで気が付いて居なかった。

 

 彼女達はその誤解の代価を支払わねばならない。ハイリスクにはハイリターンが付きものなのだ。石壁が己の全てをBETしたのだ。そんな大博打の戦果(リターン)が並大抵のモノで済む筈など無い。石壁の大切な仲間の命に……武蔵の命に見合う獲物が、たかだか数千隻の深海棲艦『だけ』で済む筈が無いのだ。

 

 石壁の作戦の最終工程、それは武蔵に釣られて密集するであろう深海棲艦達を一隻残さず薙ぎ払う事であったのだ。砂糖に群がったありを砂糖ごと洗い流して一層するように、己の命に釣られて集まり切った敵に、泊地の全火力を一点集中して焼き払うのが目的だったのだ。石壁は一万の深海棲艦全てを喰らい尽くすつもりだったのである。新城が激怒するのも当然だった。

 

 そして、石壁は見事にその賭けに勝った。石壁の狂気の戦略は、ここに完遂されたのだ。

 

 武蔵の周辺には絶えず破壊の暴風雨が降り注ぎ、集まり切った深海棲艦達が逃げ切る事は不可能であった。

 

 降り注ぐ大量の艦載機と砲弾によって、武蔵艦内は世界が爆裂したかの如き衝撃に襲われた。だが、それでも武蔵の頑強な装甲はその猛爆から艦内の乗員を護った。武蔵はその戦力を全て喪失して尚、戦場の主役として鎮座し続けているのだ。

 

「がああああ!?」

「逃げられねえ!?た、助けて!?」

「空が、空が落ちてくる!?死にたくない!!嫌だあああ!!」

 

 一方で、その衝撃を避けることすら出来ない深海棲艦達は阿鼻叫喚の地獄絵図の中にあった。さっきまで押していたのは間違いなく自分達であったのに、敵の総大将の首はもう目の前なのに、一瞬にしてその立場が入れ替わったのだ。石壁という鬼の首をとったつもりが、その鬼が準備した断頭台に首を差し出していたのである。振り下ろされる断罪の刃が次々と周囲の仲間の命を断っていくその様は、彼女達を恐慌状態に追い込むのに充分過ぎる破壊力を有していた。

 

「艦載機の着弾を止められません!!被害甚大!!繰り返す、侵攻部隊の被害は甚大です!」

「督戦隊をもってすら統制を維持できません!!」

「砲爆撃によって部隊は壊滅状態!!し、進軍が停止します!!」

「イ、イシカベッ!!貴様はここまで……勝つ為ならここまでやるのか!?」 

 

 目の前で爆散していく味方と、その中で悠然と耐え続ける戦艦武蔵の威容に、侵攻部隊の指揮艦であるタ級は畏怖の感情を抱いた。石壁という怪物が、化け物を恐怖させたのだ。

 

「本部より伝令!!鉄底海峡が!!」

 

 そして、戦いは遂に終わりを迎えようとしていた。

 

 ***

 

 ショートランド泊地で石壁(王将)を狙った死闘に決着がつくのと前後して、鉄底海峡でも飛行場姫(クイーン)との激突がピークに達していた。

 

「くっここまで追い込まれてまだ粘るのか!!」

「艦隊の被害拡大!」

「ダメージをかばい合うのも限界に近いわ!!このままじゃ遠からず轟沈が発生するわよ!?」

 

 新城の戦術は、16艦隊という莫大な戦力を流れるように入れ替えながら一つの生き物のように指揮する事にある。被害をかばいあってダメージを分散させて徹底して轟沈艦を出さない事で、火力と装甲の限界まで戦う事が出来るのである。

 

 だが、これは裏を返せばぶつかりあいの長期化と共に艦隊全体が加速度的に疲弊していく事を意味している。ダメージや消耗を軽減する方法もあるが、そちらの戦術では火力が足りなくなってしまう。火力を絞って勝てるほど、この女王は甘くないのだ。

 

「あとちょっと……あとちょっとなのに……!!」

 

 山城は、石壁が命を賭けて生み出した生と死の境界線(この瞬間)を超えられない事に歯を食いしばる。

 

「手前等最後の一踏ん張りでい!!ここが運命の分水嶺、石壁の坊主の為に気張りやがれってんだ!!」

 

 金剛が気勢を上げて味方を鼓舞する。最前線で戦い続けていた為に彼女の艤装の砲台は全て破壊され、武装としての機能こそ喪失していた。だが、彼女が前に立ち続けているというその一点が、戦場を支える柱となっていた。戦場の太陽となって、彼女は味方の心を照らし続けているのである。

 

「……アンタが邪魔なのよ!!その輝きが、その力が、その強さが!!!何もかも邪魔なのよ!!!!」

 

 金剛の在り方は、飛行場姫にとって余りにも眩し過ぎる。まるで太陽を直接見ているかのように、彼女の存在そのものが飛行場姫の心に焼き付いてしまうのだ。飛行場姫が不要と捨て去った全てを、持ちたくても持てなかった全てを彼女は持っている。己の選択を悔いる事など絶対に有り得ないが、それでも金剛の存在そのものが飛行場姫にとっては猛毒だったのだ。

 

「アンタさえ沈めば!!」

 

 飛行場姫はそんな金剛の姿をみて全火力を集中する。この女こそがこの場の柱であるという確信と、己の心を焼こうとする怨敵への憎悪が飛行場姫を突き動かす。

 

「金剛姐危ない!!」

「比叡!?」

 

 集中する火力を前に、比叡が金剛をかばう為に前に出た。

 

「気合、入れてぇ……っ!!」

 

 比叡は全身全霊をこめて防御の姿勢をとる。

 

「参ります!!」

 

 轟音、比叡の艤装が弾け飛び、爆炎が彼女を包む。

 

「……かはっ」

 

 爆炎が晴れた海面に、比叡はボロボロの状態でそれでもまだ立っていた。

 

「比叡!!」

「……金剛姐、いま……だ」

 

 比叡は最早戦える体ではなくなっていたが、それでもまだ瞳に闘志を滾らせている。

 

「突入してください!!」

「……ッ!!応!!」

 

 金剛は、比叡の言葉に押されて海面を強く蹴った。

 

『ナイスガッツだぜ比叡!!』

「後はこの金剛にまかせやがれい!!」

 

 比叡が齎してくれたこの好機を無駄にはできない。飛行場姫が全ての戦力を叩きつけたお陰で出来た一瞬の間隙をぬって、金剛は全速力で進む。

 

『行けるな金剛』

「あたぼうよ、このアタシを誰だと思ってんだい?」

 

 金剛が走り出す。再び集中する攻撃の間を、針の穴に糸を通すようにするりするりと通り抜けていく。

 

「なっ……!?」

 

 飛行場姫はその光景に絶句する。

 

『余裕がなくなって狙いが大雑把になってんだよ、バーカ』

 

 ジャンゴの底抜けに明るい罵倒が響く。

 

「そんなメクラ撃ちでこの金剛を殺せるなんて思ってんなら!ちゃんちゃら可笑しくて臍で茶が沸くってもんでぇ!!」

 

 金剛の力強い啖呵が海上に轟く。

 

「ジャンゴと金剛を援護せよ!!総員死力を尽くせ!!機銃弾の一発まで残さず射て!!道を、道を作るんだ!!いいか皆ーー」

 

 新城は突き進む金剛の姿を見て叫ぶ。

 

「ーー暁の水平線に、勝利を刻むのだ!!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」」」

 

 全ての艦娘と妖精が魂の雄叫びを上げる。全身全霊をかけて必死に戦い続ける。勝利を掴むために。今尚泊地で戦い続ける仲間を助ける為に。

 

 閃光の如く煌めく銃弾の雨も、落雷と聞き違える砲雷撃も、イナゴの如き艦載機の群れも、金剛を止められない。比叡が攻撃を防ぎ新城が火力を全開にして隙間をこじ開けた。今が本当に最後のチャンスなのだ。生と死の狭間で九死に一生を掴みうる一瞬なのだ。

 

「砲門がイカれて砲撃すら出来ないくせに突撃なんて馬鹿じゃないの!?なんで攻撃の中を抜けてこられるのよ!!なんで躊躇わずに命を賭けられるのよ!!!!」

 

 飛行場姫は爆炎を突っ切って己へと向かってくる金剛に戦慄して悲鳴のような声をあげる。彼女は今追い詰められていた。だが、それでも尚彼女は生き残る為に足掻く。突っ込んでくる金剛を迎撃するために必殺の一撃を仕込んでいたのだ。

 

「はっ、そんなもん決まってんじゃねーかよ!」

「手前と違ってアタシ達にはなあ!!」

 

 飛行場姫は今度こそ逃がさないように、己の眼前に飛び出してきた金剛に艦載機を特攻させる。同時に現在戦場にいる全ての敵に火力を叩きつけて一瞬だけ金剛への援護を食い止めた。これで金剛を助ける存在はこの場にいなくなった。大量の爆薬を抱えた艦載機が直撃すれば、今度こそ金剛も耐えられないだろう。

 

「このっ、いい加減にくたばれ!!」

 

 艦載機が金剛に直撃する瞬間ーー

 

「「仲間が居るんだよ!!」」

 

 ーー飛行場姫の艦載機が金剛にふれる事無く『撃ち落とされた』。

 

「……あ」

 

 飛行場姫は、己の頭上を海鷲達が通り抜けていくのを呆然と見送った。

 

『こちら瑞鶴、貴方の頭上はこの幸運の女神様に任せなさい』

『飛鷹よ、パーティーはまだ終わってないわよね?お土産に最高に頭がおめでたい七面鳥を連れて来たわよ』

 

 そう、まだ彼女達が居た。結界が破られてすぐに彩雲隊を発艦させた、石壁の空母艦娘達が。

 

 石壁の泊地の最高練度の空母機動部隊による浸透強襲部隊の到着である。石壁の作戦の最終段階は、『全ての戦力を飛行場姫に叩きつける事』だ。故に彼女達を新城とは反対方向から最高のタイミングで叩きつけたのである。彼女達は闇夜に紛れて潜水艦隊にこの海域に連れて来てもらい、その衝撃が最大になる瞬間を待って戦場に殴り込んだのだ。

 

『最高にクールなプレゼントだぜ!』

 

 そして遂に、金剛が飛行場姫の目の前に立った。

 

「さあ宴もたけなわでい!!石壁提督からの贈り物を腹ぁ一杯喰らいやがれい!!」

 

 ジャンゴと金剛の魂が燃え上がる。未来を切り開く為に、友を救う為に、そして、勝利を掴むために。

 

「ひっ!?」

 

 

 

 

 

 全身全霊を込めた鉄拳を、飛行場姫の顔面へと叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 





次回、第二部最終話

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