艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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>出来れば年内には投降を再開したいと考えております。

年(度)内に再開する。というわけでギリギリセーフ……駄目ですよねホントウすいません!!

というわけで本当に大変ながらくお待たせ致しました。

少しずつではございますが、投稿を再開してまいります。

暫くは幕間が続きます。最初は新城とジャンゴの過去編になります。

楽しんで頂ければ幸いです。







なお、この物語はフィクションです。実在の人物や団体、思想等などとは一切関係ありません。

三部以降は日本の歴史等に絡めた話が増えていきますが、あくまでほぼ同じ歴史を歩んだ世界というだけで同一人物ではございません。ご了承くださいませ。





幕間 優等生と無頼漢 前編

 これは深海大戦が始まる少し前の話である。平和な時代の退屈な昼下がり、閑静な住宅街を一人の青年が歩いていた。

 

 短く清潔感のある髪型と、端正な顔立ちの彼は、シワ一つない詰め襟の制服をピシャリと着こなしており、見るからに真面目な優等生といった雰囲気だ。

 

 彼の名は新城定道。当時の彼は名門高校に通っており、真っ当なエリートコースを進む学生であった。

 

「はぁ……」

 

 だが、そんな彼は今とある問題について思い悩んでいる。深くため息を吐きながら道を歩く彼は、やがて自宅へとたどり着いた。そにには周りの住宅とは一線を画す程に巨大な日本家屋があった。家屋というより、邸宅という表現がより相応しいかもしれない。

 

「……」

 

 新城は無言で自宅を見上げるが、その視線は何処か目は寒々しい。

 

 数秒そうしていた新城は、やがて俯くように視線を下げると、そっとその扉を開いた。

 

 ***

 

 新城は父の書斎へと足を運んだ。ノックをして扉を開くと、そこには一人の男性がいた。彼は対面式のソファの片方に腰掛けており、書類に目をやっている。

 

 男性は年の頃は50程、頭に白髪が混ざっているが、老いているというよりも熟成したと表現するのが相応しい威厳を兼ね備えていた。

 

 謹厳実直という言葉をそのまま形にしたような固く険しい顔つきの彼が、新城定道の父親、新城忠道(しんじょうただみち)その人である。

 

「父さん、少しよろしいでしょうか?」

「……なんだ」

 

 息子に声をかけられた忠道は、書類から顔を上げて向き直る。息子と話しているのに、彼の表情は険しいままだ。

 

「実は……将来の進路について相談したい事があります」

 

 新城がそう言うと、忠道はじっと彼の顔を見つめてくる。新城は父に見つめられるとぐっと体を強張らせた。

 

「……どうした」

「……いえ、その」

 

 圧力すら感じさせる父の声音と顔つきを前にして、新城は何も言えなくなってしまう。

 

 数分間そうしていると、忠道が先に口を開いた。

 

「……いつまでそうしているつもりだ?」

「……っ」

 

 先程よりも固くなった父の声に新城は俯いてしまった。そんな新城の様子に埒が開かぬと考えたのか忠道は立ち上がり、引き出しから封筒を取り出すと新城の前に立つ。

 

「……此処が良いだろう」

 

 そう言って渡された封筒は、この辺りでは知らない者の居ない名門大学のパンフレットであった。新城は手渡されたそれを、ただ何かに堪えるように見つめている。

 

「……どうした?何か言いたい事があるのか?」

 

 一言事に重くなる父の言葉は、重圧となって新城の心を重くしていく。

 

「……いえ。失礼、します」

 

 新城が頭を下げ封筒を抱えて部屋を出ていくと。忠道は険しい顔のまま、それを見送った。

 

 ***

 

 新城は自室へと戻ると、父に渡された封筒へしばし目をやってから中身を検める。

 

「……願書、もう必要事項が記入してあるのか」

 

 大学のパンフレットと共に入れられた願書には、本人記入欄以外の記入が全て終えられていた。あとは新城が必要事項を書き込めば、そのまま応募出来るだろう。

 

「……結局、父さんの予定通りか」

 

 新城は諦めたように願書に記名すると、それを封筒に戻しカバンへと収めた。そして、着替えるのも億劫とばかりに制服のままベッドに寝転んだ。

 

 億劫さに身を委ねていると、やがて意識は遠のいていく。

 

 意識が完全に落ちる寸前、新城は誰かの声を聞いたような気がした。

 

 ***

 

 気がつくと、新城は夢の中にいた。そこは寒々しい白色の病室で、ベッドにはとある女性が寝かされていた。

 

『……母さん』

 

 口から出たのは、甲高い子供の声。気がつけば、随分と視界も低い。新城は子供の頃の夢を見ているのだ。

 

『定道……』

 

 新城の母がこちらを向く。彼女は儚く、まるで雪の様な女性であった。優しく、物静かな良家の子女というのがピッタリと当てはまる人物だ。

 

 だが、美人薄命という言葉があるように、彼女は体が弱かった。新城を出産してからは体調を崩しがちとなり、彼が物心ついた頃に命を落としてしまった。故に新城の記憶に残る母の姿は、いつも病床のモノだけだ。記憶と同じように、母は寝たまま、こちらを見ている。

 

『定道、元気にしていたかしら?ご飯は、毎日ちゃんと食べてる?』

『……うん、大丈夫』

 

 母は、自分の体調の事には触れずに、ただひたすらに新城に問い続ける。一つ一つ、小さな内容を、確認していく。

 

 後にして思えば、この頃にはもう彼女は死期を悟っていたのだろう。だから日常の小さな、それでいて大切な事を疎かにしないように、親として少しでも何かを遺そうとしていたのだと新城は思っている。事実、会うたび、会うたびにこうして繰り返された問は、今こうして夢に見るほどに心に遺されていた。

 

『そう、良かった……』

 

 一通り尋ね終わると、母は笑顔で新城の頭を撫でる。温かく、心地が良いその手が離れていく。

 

『……母さん』

 

 いつもなら、この辺りで目が覚める。だが、今日は少し違った。

 

『父さんは、どうして何時も怒っているの?』

 

 こんな問をしたのだろうか。新城は思い出せなかった。

 

『……父さんは、別に何時も怒っている訳じゃないの』

 

 新城の問に、母は困ったように笑うと、続けた

 

『あの人はねーー』

 

 ***

 

「夢……か……最後、母さんはなんて言ったんだろうか……」

 

 新城は鳴り響く目覚し時計を止めると、体を起こした。その際に体の上から毛布がずりおち、ボタンが外れた制服がはだけた。

 

「……?」

 

 そのことに少し違和感を覚えた新城であったが、寝起きで回らない頭ではそれ以上の事は考えられず、立ち上がって鏡の前に立った。

 

 そこには、普段の彼からは考えられない程ヨレヨレの制服をきて、頭に寝癖をつけた青年がいた。制服のまま寝れば、こうもなろうという所だ。

 

「やってしまったな……」

 

 新城はそうため息をはく。予備の制服に着替えようかと思いクローゼットに手を伸ばすが、途中でその手が止まる。

 

「……いや、もう別にいいかな」

 

 そう言って手を引っ込め、カバンをもって部屋を出ていく。朝食を取る気にもならず、そのまま玄関へと進む。

 

 居間の障子の前を通り過ぎて玄関へ到着した。いつものように下駄箱を開いて学生靴を取り出していると、ふいに背後から誰かが近寄ってくる。

 

「定道」

「……っ」

 

 声は父のモノであった。新城は靴を履きかけたまま硬直する。

 

「……随分と慌てているが、どうかしたのか」

「……なんでもないです」

 

 新城は、父の顔を見たくなかったので、そのまま扉へと手を伸ばす。

 

「封筒の中身は見たのか」

 

 伸ばされた手が止まった。

 

「問題がなければ、そのまま出せ。分かったな?」

 

 新城は、暫し黙り込んだあと、絞り出すように答えた。

 

「……はい」

 

 新城は今度こそ扉を開くと家を出ていった。

 

 ***

 

 新城は朝の通学路を歩いていた。いつもどおりの道を、いつもどおりに。昨日までずっと同じ道を歩いてきたし、きっと明日も同じ道を歩くだろう。

 

(なにも、言えなかった……)

 

 だが、繰り返し進んできたその道が、歩んできた足が、今の新城にとってはとてつもなく重く、苦しかった。

 

(結局私は……父さんが引いた道を、父さんが言うまま進むしかないのか……?)

 

 新城は、ずっと父の言うことを聞いて生きてきた。進学先もそうだし、習い事も、持ち物だってそうであった。

 

 幼き日からずっと、新城は父から険しい顔で睨みつけられ、アレをしろ、これをしろ、と指図されてきた。何か反論しようとすると、険しい顔を更に険しくしながら新城を睨みつけてくる。そしていつも「何か言いたいことがあるのか」と問い詰められる。それが怖くて、怖くて、新城は何も言えなくなってしまう。それを繰り返してきた。

 

 昨日もそうだった。進路について話したい事があった。やってみたいと思い始めた事があった。だが、やはり何も言うことが出来なかったのだ。

 

(これからも……ずっと……?)

 

 やがて、左右へ道がわかれた。左へと進めば山の裾野にある母校へとたどり着くだろう。いつもなら迷わずに通り過ぎるその分かれ道を前にして、新城は足を止めた。

 

「……」

 

 新城はしばし佇んだ後、無言で歩を進める。

 

 ***

 

 やがて新城は目的地へとたどり着いた。

 

「……なんでこっちにきてしまったんだろうか」

 

 目の前には、揺蕩う水面が広がっている。分かれ道の右側は、湖岸へとつながっていたのである。

 

 なんとなく砂浜におりた新城は、そのまま浜辺へと近寄って波打ち際へと腰を下ろした。

 

 何もする気が起きず、暫しぼーっと水面を眺める。そしてなんとなくその辺に転がっている石を掴み、手の中で転がした。

 

「なんで私は学校をサボってまでこんな意味のないことをしているんだろうか」

 

 なんの意味もなく、生産性もなく、無駄でしかないサボタージュ。今頃学校ではHRが始まっているだろう。ともすれば自宅へと連絡が入り、父へとこの暴挙が露見するかもしれない。

 

 そこまで考えて、結局心配するのは父の叱責なのかと、新城は舌打ちをした。

 

「……くそっ!」

 

 新城は閉塞感から逃げるように、手の中の石を水面に向け力いっぱい投擲した。石は勢いよく水面に突き刺さった。

 

「はぁ……どうするか……ん?」

 

 新城が石が沈んだ辺りを見ていると、突如としてボコボコと水面が泡立ち始めた。

 

「な、なん「ファアアアアアアアッッック!!何処のドイツだ石を投げつけやがったファッキンマザーファッカーはああああ!?」だあああ!?」

 

 その瞬間、額にでっかいコブをつくったドレッドヘアの黒人が水面から飛び出した。

 

「ファッキンシット!!てめーか!!」

「は!?いや、は!?ちょ、ま!?」

 

 何がなんだか分からず狼狽えていた新城に近寄ってきた黒人は拳を握りしめると。

 

「コイツはお返しだマザーファッカー!!」

 

 思い切り、ぶん殴られた。

 

「いやお前一体なぶべら!?」

 

 頬をぶん殴られて新城は砂浜に転がる。いろんな意味で衝撃的すぎる展開の連続に、その瞬間新城の中の何かがキレた。

 

「いってえだろうがこのくそったれの黒人があああ!!」

「ワッザ!?オゴエッ!?」

 

 新城は起き上がりと同時に黒人に飛びかかり懐に入り込むと、相手を背負い込むように持ち上げて砂浜に叩きつけた。一本確定の美しい背負投げである。

 

「アオオオォォォ!?ファックファックファアアアアアアアッッック!!やりやがったなコンニャロー!!」

 

 ゴロゴロと砂浜を転がって悶絶した後、黒人は立ち上がる。

 

「もうゆるさねーぞファッキンマザーファッカー!!急に石投げつけやがって!!ファッキン驚いたぞ!!」

「こっちのセリフだクソ野郎!!急に水の中から出てくるんじゃない!!死ぬほどビビっただろうが!!」

 

 互いにファイティングポーズを取ると、相手に向け飛びかかる。

 

 それから10分後、二人の馬鹿がズタボロになって砂浜に転がったのであった。

 

 ***

 

「いたい……」

「ふぁっく……」

 

 ズタボロで青あざだらけになった二人は立つことも出来なくなっていた。新城の端正な顔つきは見る影もなくはれあがっており、黒人の方はコブダイみたいな顔つきになっていた。

 

「……もうこの辺でやめないか」

「……OKだ。おめー、見かけによらずツエーな」

「……護身術……習ってたから」

「Isee……ナルホド……」

 

 暫しそうやっていると、段々回復してきた二人は起き上がって顔を合わせた。

 

「石を投げて悪かった」

「オイラも殴って悪かったな。ようやく捕まえた魚が逃げちまって腹がたったんだ」

「魚を?というか、なんでアンタはこんな朝っぱらからこんな所に?」

 

 そう問うと、黒人は白い歯をキラッと輝かせながら答える。

 

「そういや、まだ名乗ってなかったな」

 

 黒人はコブダイフェイスに笑みを浮かべた。

 

「オイラの名はジャンゴウ・バニングス!バックパッカーだ!ジャンゴって呼んでくれ!」

 

 そういって、ジャンゴは新城に手を差し出す。

 

「バックパッカーのジャンゴか。私の名は新城定道だ」

 

 新城は、差し出された。手を掴んだ。

 

 これが、新城定道とジャンゴウ・バニングスの出会いであった。

 

 






続きは明日投稿致します。

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