艦これ戦記 -ソロモンの石壁-   作:鉄血☆宰相

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本当に何度も何度も停止して申し訳ありませんでした。
今日から一月の間に完結を目指して頑張りたいと思います。
どうか拙作をよろしくお願い致します


幕間 時代の爆心地

 

 時は少し遡り、鉄底海峡攻略作戦開始前。石壁の執務室にあきつ丸が報告に来ていた。

 

「なんだって?本土に送った妖精隊から火急の報告が?」

「はっ!しかも『絶対に石壁提督以外に見せるな』という厳命付きであります」

「それはまた厳重な……」

 

 石壁はあきつ丸から受け取った報告書を読み込む。最初は何事かと浮かんでいた疑問符は次第に驚愕へと変貌していく。

 

「これは……またなんとも……」

「返信はどうするでありますか?『彼ら』はラバウルまで来ているそうなので、返事はすぐ出来るでありますよ」

「……『全て了承した。準備を整えて待っている』と返しておいてくれ」

「はっ!了解したであります!」

 

 ビシッと敬礼を返したあきつ丸は、石壁の返事にふてぶてしい笑みを浮かべて部屋を出て行った。『楽しくなってきた』という本心を隠そうともしていないのがこのあきつ丸らしかった。

 

「ふう……」

 

 石壁は机の上の来客用灰皿の上に手紙を乗せると。マッチを擦ってから手紙へと添えた。

 

「この選択が、吉と出るか凶と出るか」

 

 最初から存在しなかった紙切れが一枚、この世から消えていくのを見つめながら、石壁はぽつりと呟いた。

 

 ***

 

 その翌日、輸送船団に揺られてとある一団がショートランド泊地へと来訪した。

 

 彼らの代表は50代程度に見える白人男性で、常に穏やかな笑みを浮かべている。

 

『どこにでもいそうな優しい男性』という印象をそのまま人にしたような彼は、今応接室で石壁と面会を行っていた。

 

 この時石壁達は死に物狂いで飛行場姫との戦いに備えており、大凡余分な時間というのは存在しない。

 

 当然そのような状況では悠長に来客の対応など出来る訳が無いのだが、石壁は激務の合間を縫って来訪者に面会していた。

 

 それはなぜか?単純な話である。

 

『始めまして、ジョン・デュバルと申します。ジョンとお呼びください』

「ええ、始めましてジョン。石壁堅持です」

 

 それだけの価値が、この面談にあるからだ。

 

『本来ならば友好を深めたい所ですが、お互い忙しい身の上です。早速ですが本題に入りましょう。石壁堅持中将閣下』

「石壁で良いですよ。ジョンディレクター……いや、ジョン諜報員。世界に名だたるMI6所属の貴方が、一体何故こんな所まで?」

 

 握手しながら笑顔を浮かべる両者。表面上穏やかであるが、その内情は全く違う。石壁の笑みは疲労感をかき消すほどのギラギラとした闘志を孕んでおり、逆にジョンは柔和な笑みからは一切の感情を読み取ることができない。

 

 そう、此処に居るジョンという男は諜報員(スパイ)なのだ。それもアメリカのFBIやCIA、ロシアのKGBに並び立つほどの一大諜報組織の人間であるという。そんな人間が対談を申し込んできたのだ、石壁が出てくるのも当然であった。

 

『……なるほど、噂に聞く通りMr石壁は肝が座っておられるようだ』

 

 石壁は歴戦のスパイを前にしても一歩も揺るがない。そんな彼の目を見つめながらジョンは笑みを深める。

 

 

『要件というのは簡単な話ですよ。“英国国営放送”からの取材の申し込みです』

「……取材、ですか?」

『ええ、新進気鋭の英雄殿。アドミラル石壁への密着取材と言うやつです』

 

 石壁は現在大日本帝国が総力を上げて(少なくとも表面上は)後押ししている英雄である。彼の戦いはそのまま南太平洋の、敷いてはこの戦争の行方を決める事になるだろう。

 

 であれば他国が、それもこの戦争で青息吐息となっている海洋国家イギリスも注視してくるのは当然であった。

 

「ですがジョン、それだけの理由ならばわざわざ身分を明かして来られたのですか?諜報員が自らの存在を明かすなんて相当の覚悟が無ければ出来ない事でしょう」

 

 諜報員にとって正体の露見とはすなわち生命の危機に等しい。当たり前の話だ。余程平和ボケした国でもなければ他国の諜報員をほっておく理由がない。

 

『ええ、ですが我々はこの会談にはそれだけの価値があると考えているのですよ。正体を伝えてでもアポイントをとれと言明されるほどには、ね』

「……なるほど」

 

 話は少し逸れるが、此処で少しだけこの世界におけるイギリスの現状について触れておこう。

 

 この世界のイギリスは英連邦を名乗っているが、実質的に大英帝国をほぼそのまま継承しており、戦前の植民地群がほぼそのまま継承された日米にならぶ海洋軍事大国であった。

 

 英本土と植民地の関係は時代の経過とともに安定していき、彼らは『英連邦』という大雑把な括りの中で、ある程度の搾取と引き換えに緩やかな安寧を得るという関係に落ち着いていた。

 

 故にこそ史実イギリスが『戦後』EUに埋没していったのと対照的に、この世界では彼らは未だにグレートゲームプレイヤーであり。日米、EU、共産圏に並ぶ一大勢力圏を維持していたのは特筆すべき差異だと言えるだろう。

 

 そう『海路で接続された世界中の莫大な海外植民地』持っていたのだ。深海大戦勃発後、どのような事態に陥ったかは想像に難くないであろう。

 

 世界中に展開していた英国海軍はそのまま世界中で沈没し、植民地を前提とした経済システムと物流網はズッタズタに引き裂かれ、明日どころか今日の紅茶にすら事欠く非常事態に突入したのである。まさしくもって死活問題。国家存亡の危機であった。

 

 そんな状態ではや8年、かろうじて国家を運営出来ているのは攻勢が殆どない欧州であった事と、ドーヴァー海峡のトンネルを通じた友邦(憎たらしい蛙野郎)手厚い支援(足元をみた価格設定の物資)があればこそであった。サンキューフランス(ファッキューフロッギー)

 

 そんなこんなでフランスの靴を舐めながら情勢打開を待ちに待って八年目。プライドもお財布もズッタズタでいよいよもって後が無くなってきた彼らは友人(オーストラリアのジョージさん)からの一報に一も二もなく駆け付けたという訳である。

 

 その念の入りようは『|本来明かさざるべきスパイの立場を全面的に開示してでも信用を得て来い《もう殺されても良いから絶対に協力を取りつけろ》』と厳命される程であった。といえば、どれだけ彼らが必至なのかが伝わるだろう。

 

 

 閑話休題

 

『つまり我々も必至という訳です。『すまじきものは宮仕え』とは言いますが、全くもってその通りですよ』

 

 お手上げとでもいうようにジェスチャーをするジョン。石壁はその言葉に嘘を感じなかった。

 

「……それについては同意しか出来ないかな」

 

 諜報員らしい笑みと言う名のポーカーフェイスをじっと見つめながら、石壁は言葉を紡ぐ。

 

「分かりました。取材を受けましょう。Mrジョン」

 

 

 

 ***

 

 

 取材は当初、当たり障りのない内容から始まった。

 

 石壁の生まれ、来歴、これまでの戦い、趣味、理想、考え方。一つ一つ、石壁と言う人間を洗い出すように、丁寧な問いかけが続いていく。

 

 それに対して石壁は特に気負う事もなく、淀みなく、自然体で答え続けた。

 

 表面上は穏やかに、フレンドリーに、丁寧に取材は進む。

 

 そして遂に最後の質問へと至る。

 

『では石壁提督、最後の質問です』

 

 ジョンは穏やかな笑みのまま、問う。

 

『次の一戦、勝てますか?』

 

 それに対して、石壁は微笑む。

 

「勝ちます」

 

 その問を最後に、取材は終わった。

 

 

 ***

 

 

 所変わって、ここは要塞のある山岳部の上層、天気が良ければ要塞全域から沖合の鉄血海峡の暗黒結界まで見通す事が出来る掩蔽壕である。

 

 彼らは今、迫りくる決戦の内容を記録する為にカメラ等の機材を設置している最中であった。

 

『……なんつーか、思ったよりフツーの人だったっすね』

 

 そんな中、取材クルーの中で一番若い青年が母国語で軽口を叩く。

 

『……そうだな、普通に見えたな』

 

 その言葉に、先程石壁に取材を行ったインタビュアーの男、ジョンが応えた。

 

『そうっすよね。ここまでの功績から見ても、もっと如何にもって感じの厳つい将軍が出てくるかと思ったんすけどね。目の傷を除けば、見た目もフツー、受け答えもフツー、覇気もフツー、どこまでもフツーの青年って感じっす』

 

 カチャカチャと機材を設置しながらそう言う青年だったが、そこから返事が帰って来ない事に思わず手を止める。

 

『……?リーダー?』

 

 それを訝しんでジョンの方を向くと、目の前に銃口をこちらに向けて立つジョンの姿があった。

 

『ハッ!?』

 

 想定の埒外の事態に思わず青年は目を見開き、とっさにバックステップをとって身構える。

 

『な、何を!?』

 

 混乱極まった青年の姿を見て、ジョンはため息を吐きながら言葉を紡ぐ。

 

『どう思った?』

『え、どうって……』

 

 ジョンの真意を計りかねている

『えっと……『殺される』とか『なんで?』とか色々思いました』

『今は?』

『……リーダーが引き金を引く瞬間に逃げるか、飛びかかるか。飛びかかるならどう仕留めるか、そんなとこっす』

 

 最初の一瞬だけは狼狽した青年だったが、末端とはいえMI6の人間だ。彼は腰を軽く落とし、足をバネのように力を貯めて構えている。どちらにでも一瞬で動ける臨戦態勢になっていた。

 

『……今の君の状況は、石壁提督がおかれている状況そのものだ』

『!?』

 

 その言葉に、青年はハッとしたように目を見開く。

 

『君は彼を普通と称したが、自分に置き換えて考えてみたまえ、【この状況で普通でいられる事がどれだけ異常であるのか】をだ』

 

 ジョンは拳銃を懐に仕舞いながら続ける。

 

『彼は迫りくる死を前にして、自然体を保ち続けている。無論、専門の訓練を積んだ人間ならば表面上取り繕う事は出来るだろう……が、彼は恐らくそうではない。あるがまま、自然体のままでありながら、死を前にして普通でいられるのだ』

『それは……油断をしている……って訳でもないんすよね?』

『ああ、彼は常体でありながら臨戦態勢だった。常在戦場……とは少し違うか?いずれにせよ確かな事は、彼はもし私がいきなり襲い掛かってきたとしても、そのまま私を返り討ちにするだろうという事だ。少なくとも先程の君のような醜態を晒す事はあるまい』

 

 その言葉に、青年は少し顔を赤らめる。

 

『スンマセン、恥ずかしいとこを見せたっす』

『気にするな。足りない分の訓練は帰ったら上乗せしておく』

『うげっ』

『なんにせよ……だ』

 

 さらっと処刑宣告を行いながら、ジョンは機材のセッティングを終わらせる。

 

『石壁提督は只者ではない。少なくとも、凡百の将軍とは明らかに違う。気が狂った訳でも、ヤケになった訳でも、敵を過小評価している訳でもない。その上で、鉄底海峡の女王を相手に『勝つ』と宣言したのだ』

 

 ジョンは青年と目を合わせて言い切った。

 

『きっと、何かが変わる。何一つとして、見逃すんじゃないぞ』

『……Yes,sir(了解)

 

 青年は思わず唾液を飲み込み、気合を入れなおした。

 

 そしてそれから数日後、彼らは文字通り歴史を変える一戦を目の当たりにする事となる。

 

 ***

 

 

 世界が壊れた。ジョンにはそうとしか表現出来なかった。

 

『……Crazy.なにもかもが狂ってる」

 

 思わず零れた言葉は一体誰に向けたモノだったか。石壁か。深海棲艦か。あるいは世界そのものか。

 

「リーダー……これ何が起こってるんすか……」

 

 カメラマンの青年は呆然と目の前の光景をカメラに収め続ける。

 

「戦艦が空から降ってきて、深海棲艦を吹っ飛ばしたとしか言えないな」

 

 要塞から人型の何かが飛び出したと思った瞬間、その人型が戦艦へと巨大化した。見たままありのままを過不足なく説明しているのに、何一つとして説明になっていなかった。

 

「そんな事が訊きたいんじゃなくて」

「黙れ。仕事に集中しろ」

 

 ジョンは少しでも目の前の光景から情報を得ようと集中する。

 

「あれは艦娘の艦艇化だろう。『そういうもの』だ」

「……『そういうもの』っすか」

 

『そういうもの』だ。そうやって飲み込まねば情報で窒息してしまう。

 

「一秒も撮り逃すんじゃないぞ」

 

 一分一秒、目が離せない。戦艦武蔵から、彼女の姿から目が離せない。

 

 派手という言葉では足りない、苛烈という言葉ですら生ぬるい、強烈極まる出現と攻勢。

 

(これが艦娘の戦い……これが戦艦の戦い……)

 

 凄惨であることを即ち地獄と呼ぶのなら、目の前の光景は正しく地獄と呼ぶに相応しい。

 

 光満ちる世界を天国と呼ぶのなら、目の前の光景は正しく天国と呼ぶに相応しい。

 

 地の獄よりも熱く燃え、天の国よりも光り輝くこの場において、尚目を引くのが目の前の戦艦であった。

 

 ジョンの目の前で砲爆撃が艦橋に集中し、戦艦武蔵の威容は一秒ごとに欠落していく。だというのに。

 

(ああ……)

 

 昔日の栄光と凋落を一瞬に刻み込むが如く艦が壊れていく。だというのに。

 

(戦艦武蔵よ。過ぎ去った時代の残影よ)

 

 何もかもが火に包まれて、砕け散っていく。だというのにーーーー

 

(お前は何故、そうも美しいのだ……)

 

 ーーーー戦艦武蔵は、斃れない。

 

(目が離せない。何故、何故、お前はそこで戦っている)

 

 命がそこに燃えている。魂がそこで滾っている。

 

(戦場にはもうロマンチシズムなど存在しない。出来る筈がない)

 

 極点へと進む科学文明は、戦場からある種の魔術的な美、ロマンチシズムの介在する余地を拭い去って久しい。

 

(だというのに、魂の震えが止まらない。心の訴えを無視出来ない。何だこれは……何なのだこれは)

 

 時代が逆流する。科学主義の極点へと進む時計の針が魔術的な原初へと『弾き戻されていく』のだ。

 

(何かがおかしい……これではまるでーー『この無線を聞く全ての者達へ告ぐ!!』

 

 答え(真実)に到達しかけた思考が、無線に遮られる。

 

『僕は石壁堅持!!このショートランド泊地の総司令長官だ!!』

 

 世界に響く。石壁の言葉が、無線に乗って四方八方へ轟いていく。

 

『今僕は戦艦武蔵の艦橋に居る。集中する砲爆撃に晒されて船体は軋み、至る所が弾け飛び、僕自身も砲撃によって致命的な大怪我を負った!!最早僕の命は風前の灯火と言っても可笑しくはない!!』

 

 石壁のその言葉に、無線を聞いていたその場の面々が驚愕に目を見開く。だが、誠に驚愕するのはそこからであった。 

 

『だが、僕は此処から逃げない!!此処が、この戦艦武蔵の艦橋が!!僕の戦場、僕の居場所だ!!僕が此処から離れるときは二つに一つ……ッ!!この戦いに勝つか……負けて死んだ時だけだ!!!!』

 

「な……」

「嘘だろ……」 

 

『僕は此処に居るぞ!!泊地の総大将は此処に居る!!深海棲艦お前等の怨敵はここに居る!!簡単な話だ!!この武蔵が落ちるか落ちないか……これだけが、この戦いの行方を決めるんだ!!』

 

 

 

 その瞬間、世界は静止しーーーー

 

 

 

『石壁堅持は、此処に居るぞ!!』

 

 

 

 ーーーー何もかもが動き出した。

 

 

 ***

 

 

 それから戦いが終わるまでの間、ジョン達は唯々見届ける事しか出来なかった。

 

 新たな英雄が生まれる瞬間を、鉄底海峡が攻略された瞬間を、世界が変わっていくその様を。

 

 文字通り特等席で見届けたのだ。

 

『ショートランド泊地万歳!石壁提督万歳!』

 

 周囲から聞こえてくるその言葉に、彼らはようやく意識が平常へと戻ってきたのを感じた。

 

「終わったのか……」

「はぁ……みたいっすね」

 

 カメラマンは精魂尽き果てたとばかりにカメラを定点固定したままずるずると大地に寝そべる。普段なら情けないと叱咤するであろうジョンも、今は流石に何も言わなかった。

 

 無線機に木霊する万歳の声は時間とともに広がり、そこかしこの援兵豪からも声が聞こえていく。

 

 

「石壁提督万歳!」

 

『ショートランド泊地万歳!』

 

『石壁提督万歳!俺たちの英雄に万歳!』

 

 

「「「『ソロモンの石壁、万歳!!』」」」

 

 

「とんでもねえ大歓声っすねえ」

「そうだな」

 

 カメラマンの言葉にジョンは頷く。

 

「ここから忙しくなるぞ。我々は今。時代の爆心地に立っているのだ。爆風が世界を駆け抜ける前に動かねばならん、急ぐぞ」

了解(Yes,sir)

 

 かくして世界は動き始める。不可逆の方向へと。誰も知らない。誰も意図しない方向へと。

 

「しかし……」

「どうしたんすか?」

「……いや、なんでもない」

 

 ジョンは首を振って答える。

 

「何かがおかしい気がしてな」

「『そういうもの』でしょ」

「『そういうもの』か」

 

 二人は機材を纏めると、次なる目的の為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

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