ソードアートBro's   作:名無しの権左衛門

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7:一つの解

 

 ここは第一層の始まりの街。

48層クリア後、一日経過してこちらに転移してきた。

 

 転移したのは、キリト・アスナ・ユイ・ヒースクリフだ。

 一層にくる必要性に関しては、ヒースクリフがユイと世界を助ける為だとやぶれた世界で話し合っている。

 

 一層は暗い感じがせず、ある程度『軍』の憲兵や自警団が巡回している。

更にはじまりの街だと活気づいていて、簡易的な資本主義に塗れている。

この街に入る時、関門で入国許可を頂いた。

 

 この許可はハンコ制で行うものだから、手の甲に変な感触に包まれる中押されることになる。

 嫌悪感というわけではないが、やはり慣れぬ感覚のようでキリトやアスナは苦笑いをしている。

しかしこの体験のおかげで、街の中に入れたのだから万歳ものだろう。

 だがこの経験はヒースクリフ自身行っていなかった。

何故を聞いたが、このアインクラッド解放軍との相互提携を初めて行ったのが、血盟騎士団であるとのこと。

故に団長は、初期の通称『軍』とよばれるアインクラッド解放軍の黎明期とその悪名を破った功績を讃え、血盟騎士団としての戦闘装備状態であれば顔パスで通っていいという契約になっている。

 

 もし現在血盟騎士団のギルドデザインが入った戦闘装備を着用していなければ、二人が味わった感触の悪いハンコを手の甲に押されていただろう。

 

 ヒースクリフは三人を、最初の事が始まった場所に連れてくる。

 彼は何のために連れてきたのかというと、案内役兼護衛役な軍のプレイヤーと顔合わせするためだ。

そのプレイヤーは始まりの広場の中央で、他者と違った雰囲気を持つ多くの人とその場で待機している。

するとヒースクリフを視認したのか、そのプレイヤーの取り巻きの人が駆け寄ってきた。

 

「血盟騎士団団長ヒースクリフ様でありますか?」

 

 取り巻きの人は、ヒースクリフに聴くと彼は頷き肯定する。

 

「私は銃剣突撃隊長である、”ジャッカル”と申します。

 特殊作戦群の総帥であらせられる、”コペル”様が御呼びです。

 ついてきてください」

 

 ジャッカルは右向け右を行い、コペルが待機している場所へ歩き始める。

それを見てヒースクリフは一度、キリトとアスナの方へ向き付いていこうという手信号を送る。

そして共々中央へ向かう。

 

 

 中央に来ると、取り巻きの人……護衛の人の波が割れ、中へ行けるように誘導される。

誘導された先には、転移門があった。

いや普通の転移門とは、意匠が全く違う。装飾に気合が入っていて、景観を損なっている程豪華な碑がある。

 

ジャッカルはその碑に触る。そしたらどこかへ転移した。転移する際の色は、空色で統一されている。

しかしその転移色は、緑色となっていた。

 

「本部への転移碑です。どうぞ、御触り下さい」

 

 深くフードを被った人が、どうぞと案内する。

 

「ふふふ、驚くなよ?」

 

 ヒースクリフは今まで見たことがないというより、開示されることがなかった軍の本部に関してにやけて話す。

それに対してアスナは、拍子抜けするんでしょうね?と期待の聲を挙げる。

 

「其れに関しては、君たちの感性次第かな?」

 

 彼は碑に接触し転移する。

アスナはため息をついて彼の茶目っ気に微笑み、後ろに控えるキリトとおんぶされているユイを見る。

 

「いきましょ」

「おう。それじゃ、ユイ……触ってみるか?」

「うん!触ってみる!」

 

 キリトはユイを碑に近づけて、ユイに触らせる。

興味と好奇心旺盛な子の瞳をしているユイは、ぺたぺた触る。

アスナとキリトは、我が子の様子をみてほほえましく見る。

 

そして彼ら三人は、緑色の光に包まれて転移した。

 

 

<転移します。本部からの受け入れにより、ゲート001番へ転送されます>

 

 受入れがなければ、他の場所へ転移させられるか処刑場や元の場所へ戻される。

処刑場は知ってか知らずに入ってきたレッドプレイヤーに、問答無用で行われる処置。

元の場所へ送り返しは関門での手続きがない、一般プレイヤー。

他の場所へ移送は、戦闘に慣れている攻略組や中堅プレイヤー。

 

 転送された三人は、緑色いっぱいの景色から色とりどりの世界へ入ってくる。

三人はその光景に茫然とする。

何故か。

 

 

 此処はアインクラッド解放軍の本拠地であり本部である、空中城塞である。

水と緑に溢れ、太陽により強調される純白の城壁が、見る者を魅了する。

ラピュタもびっくりなその幻想風景に、圧倒されてしまいその場から動けない。

 

「やっときたか。ジャッカル君が待っているぞ?」

「お、Oh……」

「うん……」

「わぁ……」

 

 ユイは茫然としているキリトの背中から降りて、碑がある祭壇からおりて水辺に入った。

ユイの身長で腰ぐらいまでの若干深い、水底が一定の池である。

はっとしたキリトはユイを追いかけ、水辺に行きそのまま水の中へ入る。

 

水は透明で、蓮や観賞魚の姿が垣間見える。

 

 城の入り口には、機械兵士が駐屯しており見張りを行っている。

入り口は碑がある祭壇から、そのまままっすぐ進んだ通路の先にある。

また情報が改竄されていることも踏まえて、視認を陸・水中・空から行える。

 

陸は機械兵士、水はあの観賞魚、空は鳥型偵察機だ。

敵とみなせば、殲滅しにかかってくる。弁明や弁解は、全く通じない。問答無用で始末する。

 

 

 アスナはユイをおんぶし直したキリトの腕を掴んで、そのまま引っ張ってくる。

この間までヒースクリフは門前で、ジャッカルと他愛無い会話を楽しんでいた。

 

 

……

 

 

 さて、城内に入って見て回った彼等は、本部である会議場へ行く。

 

「今回の探索チームの残りメンバーを連れてきました」

 

「おぉ……」

 

 入った瞬間キリトは、聲を漏らす。

何故なら噂以外で聞かなかった軍の最高指揮官や内政・人事、二極党派の最高責任者が、一堂に会しているからだ。

もしもヒースクリフと知り合えていなければ、彼等と会うことはなかっただろう。

 

「皆さん、適当にくつろいでください。

 これよりゲームコンソールの奪還と地下迷宮完全攻略会議を行います」

 

「奪還?」

 

 アスナは横にいるヒースクリフを見る。

 

「議会を納得させないといけないのでね」

「法螺吹きも大概にしなさいよ?」

「ははは」

 

 キリトもヒースクリフの虚言提示に関しては、苦笑いせざるを得ない。

なんせ議会を動かす為に、99層相当の敵がそこを守っているからめっちゃ危険という事を告げた。

正直だがそれだけだと強行突破でいいではないか、という意見がごもっともという雰囲気で出てしまった。

故に彼は嘘をついた。奴を倒さないと、ゲームを操れないという虚言だ。

 別にそのダンジョンを見つけたというより、最初から知っていたのはヒースクリフだけなので情報提示がてら探索してみた。

 探索の結果数多のレアアイテムを提供、くれてやれば目の色もかわるものだ。

それにこの地下迷宮に挑んだ軍は、今までにない被害で帰って来た事がある。

 

 故にKoBとの提携は、前向きに検討され認可された。

これが顔パスに繋がる。

 

 

 さて話に戻るが、軍の精鋭・軍の特殊作戦群と攻略組の混成部隊、この二部隊で地下に潜るのだという。

軍の精鋭は、キバオウ外交責任者・攻略軍最高責任者コーバッツ元帥を中心に構成される。

軍の特殊作戦群は、戦略総合指揮官であり特殊作戦最高司令官であるコペルと彼の英雄とパックによる4個旅団で構成されている。

 

 また彼のパック効果で、特殊作戦群の他にも陸軍・空軍・海軍を其々10個旅団保有している。

更にテーマフラグ解放による特殊パックの譲渡により発動した『研究』は、空中城塞の防衛機構全てを構想考案発動までしている。

つまり入り口や城内にいたロボット全て、彼の研鑽の結果だとわかる。

 

 次に混成軍。

これはヒースクリフ・アスナ・キリト・ユイと、いつの間にか外で待機している機械獣軍である。

レベルや戦闘能力が、プレイヤー中最強である三人。

護衛対象がいるが、別に苦にはならないと考えられる。

 それとラヴェジャーという機関銃を、背中に搭載しただけのソウトゥースが新たに配備され、狭い空間で殲滅できるようになった。

非常に危険で頼もしい機械獣は、全てアスナが手塩にかけて育てた精鋭中の精鋭だ。

レベル上昇で高度化したAIは、アスナが言わずとも行動し作戦や思惑を成功させる。

 

 アスナはそれだけでも十分強いのに、弓というこのゲームにはない武器を持っているのでその点でもレンジ的優位に立っている。

 他にも規格外はいる。それはヒースクリフだ。ユニークスキルという特別な技能を持っている。

それは『神聖剣』といい、攻防自在な技で今までの攻略で被害はあれど勝利できてきた要因でもある。

 

 そして最後にキリト。

影キリトという名のダークゼロが、もう一人の自分として存在している。シンクロ率・スキルフュージョン等、特殊な行動ができる。

また一つの可能性として、スキルコネクトと位相を利用して合計4つの技を使えるという裏技も、試作段階でできているとのこと。

 

 

「よぉし、ここで確認させてもらうで。

 ドロップ品は、各個人のモノにするっちゅーこと。

 ゲームコンソールは、あんたらノラにやってもらうこっちゃ。わいらは干渉せぇへんで。

 地下迷宮攻略は、わいらの仕事や。失敗やらかしたら戻ってこればええ。

 幸い結晶はぎょーさんある。安全に進めて行こうや」

 

 キバオウは彼等の視線を集めた中、再確認を行った。

彼の今現在の姿は、第一層で見せた直情的な初期プレイヤーの甘さを一切感じさせていない。

むしろ……皆が、彼を見ている。

内政責任者でるシンカーも、キバオウの纏める力やカリスマに対して笑っている。

 

 やはり人は状況次第で、いかようにも成長するということだ。

今回のキバオウの取りまとめだけでも、此処に訪れた価値は十二分にある。

 

 それとキバオウは言外に、混成軍にコンソールの方は任せるという言葉が含まれていた。

この言葉の御蔭で、どれだけのプレイヤーからヘイトを逃せられたと思うのか。

 

 ゲームコンソールはゲームの根源だ。今の訳が分からない状況の最中、真実に最も近づける意味も込められている。

だからほとんどのプレイヤーは、混成軍の真の目的に気づいた時憎しみと苛立ちを覚えたのだ。

生き残りたい。反則なスキルとか使って、英雄になりたい……等、個人的欲求を果たしたい輩がいる。

 

 しかし彼等も自分が大事だ。下手に反論したりすると、問答無用で『軍』から秩序崩壊への助長を行ったとして放逐される。

だから今のキバオウやコーバッツ・コペルという人物が、今回の攻略に参加した理由なのだ。

馬鹿が馬鹿をやらかさない様に、監視役と抑止力を追加するという離れ技であり異常な選択をしたのは誰なのか。

それはキリト達にはわからない。

 だがその”このゲームをクリアする”という目的を最優先事項として考えられた今作戦は、

少なからずキリト達と『軍』内部にいる実力者を守ることになった。

勿論外交責任者らの死亡という、圧倒的リスクの中の苦渋の決断があるが。

 

「シンカーはん、なんかないんか?」

「いいや、何もない。それに戦闘面は、キバオウに任せるって言っただろう?」

「そうやけどな、違う目線で云える唯一の立場である人物はシンカーはんしかおらんのや。

 気づいた事があったら、また言うたってな」

「わかったよ」

 

 両者は同時に頷く。

 

「ほな、30分後に黒鉄宮地下一階に集合や!

 遅刻したらあかんで!」

 

 キバオウは退出する。

その最中人だかりが分かれ、道ができていく。

流石に空気が読めないわけでもないので、キリト達も左右に退避する。

 

彼は歩いてくる。

しかし途中で歩みを止めた。

 

「あんた、ブラッキーっちゅうやっちゃな?」

「へ、あ、応」

 

 外交面での最高責任者に話しかけられる。

それに最大の緊張と恐怖を、身体全体に迸らせる。

この状況は赤の他人である傭兵に、大統領が聲をかけるのと同じなのだ。

だから、キリトは畏怖の念を抱いている。

 

 

「ブラッキー。いや、キリトはん。わいらにとっての希望は、アンタを含めた攻略組や。

 わいらはこの国を持っとる。一応独裁制を取っているんやが、何分図体が重いんや。

 フットワークの軽いあんたらには、期待しとるんやで。

 

 ヒースクリフにアスナはん、あんたらもわいらにとっての星や。

 死ぬなよ?」

 

 キバオウは最後に拳を握り、親指を上にあげて去っていく。

彼の表情はにこやかで、キリトの彼への評価は軒並み最高になっていった。

理由はキバオウの態度もあるが、その退出後8割の『軍』のプレイヤーに羨望の眼を向けられた事だ。

 

 やはり目線を合わせてもらう事と本心で言ってもらうという事は非常に珍しく、

この一枚岩ではない組織を操る重鎮が、たった一人の為に本音で語る事はまずない。

だから皆の期待の眼差しを受けており、それを確実に成している彼は……本当にみんなの星だと再確認させられた。

 

 この後空中要塞の外に出て碑の近くに座り、綺麗な景色に入り浸るキリト達。

ヒースクリフはジャッカルと共に、先に街へ帰っていった。

 

「アスナ」

「何?」

 

 キリトはアスナに聲を掛ける。また彼女の返答も、実に柔らかい聲であった。

普通の団長と副団長同士だと、緊張感を持った喋り方になる。

やはり私事は後に回して、攻略を第一としたいからだろう。

 それでも彼らは人間だ。

プレイヤーや英雄を殺す事だって、今までに皆無だったわけではない。

怨嗟の聲や慟哭、いろんな感情をぶつけられ見せられてきた彼らは、精神がぼろぼろになっていったのだ。

そんな襤褸雑巾と化した二人は、同じ状況や同じ心境等に陥ったがゆえに通じるものがあった。

 

「なんだかんだで、ユイのおかげで……結婚したけどさ。

 なんというか、今でも嘘なんじゃないか、幻なんじゃないかって思ってさ……」

「キリト君……」

 

 実際そういう精神系を試すダンジョンやクエスト、虚言の道化師による虚空で紛い物である法螺吹き言葉を掛けられまくった

キリトやアスナは、相当精神に負荷をかけている。

しかしその負荷を掛けられてもなお、屈しない心が奥底にある。

まあ理性の壁というものか。

 これのおかげで、二人は発狂していない。

 それに彼等の本分は戦闘である。そこで半狂乱の戦士として君臨すれば、鬼神だのなんだと崇められることも少なくない。

閃光と二重螺旋の攻撃は、一般人にとって理解しがたいからだ。

そんな状況でも心が折れないのは、戦闘に全ての神経を研ぎ澄まさせることを是としている為だ。

 

「私達は常に身体は別でも、心は一緒に居るはずよ?

 それに、全てが幻だったら、私達はこの手すらも触れていないわ」

 

 アスナはキリトの手とユイの手を握る。

ユイは清涼感に塗れたこの空間の雰囲気により、うとうととしている。

キリトはそうだよな、と肯定し想いを噛みしめる。

 

 同じ境遇に会った者同士、心通じ合うものだ。

 

 

 最初の攻略会議に参加し、アスナの心を捕えたキリト。

そのあとアスナはキリトを武力の誇示で明確な利点と不利益を伝え、お互いに背中合わせに戦える状態になった。

勿論彼等を取り持ったのは、マリオとアーロイに他ならないが。

 一層ボス戦後もアスナ達を誘ってパーティを維持し、三層でギルドを作り上げた。

 そして10層から正式にエギルやリズベットを商人ギルドから引き抜いて、最前線の層から一つ下の層で後方支援に徹して貰う。

このころから二人と英雄の名は、プレイヤー達の間に広がりつつあった。

他プレイヤーから聞くその層のテーマと原作ゲームの雰囲気を感じ取り、機械獣と英雄と共にボスを踏破する。

裏ボスも常に二人で潜り抜けてきた。

 

 ああ、アーロイもキリトとコンビを組むさ。

それでも基本的にアーロイは、長く培ってきたその機械獣への知識と見解を使い調教するのを趣味としていた。

だから育成は彼女に任せて、改造するための素材集めに奔走させられることもあった。

 25層からシリカとサトシ・その他多くのポケモンが、仲間になる。

此れの御蔭で色んな場所へポケモンを使い走らせ、リズやエギル・月英ら英雄の開発素材をほぼ常備できるようになる。

それまでアタッカーがアスナとキリトだけだったので、システム外スキルを使ってでも目的を達成していた。

 

 35層。ここは田園地帯が多くを占めていて、圏内が異常に広大な場所として名を馳せた。

更に諸葛亮の『采配』スキルを、十分に使いこなせることもわかったのでここで『研究』を行わせた。

結果エギルを通して売れるほどの食材を作れることが確認できた。

 様々な調味料も完成し、遺伝子交配や選別等を行う事でいろんな味覚を生み出した。

 そして月英がアスナと悪ノリし、半年以内に全ての調味料の組み合わせ表を作った。

またこの時40層の裏ボスへ挑むとき、ヒースクリフを含めた血盟騎士団が訪れた。

この時に出した料理が、豚骨ラーメンだ。

 

 全ての素材に味覚パラメータを載せるのが悪いのだが、味の元が超有毒を発生させるモブモンスターだったりする。

この件が発端となって、偶にKOBにアスナが招致されることもあった。

流石に攻略速度の意味合いで、そんなに呼ぶことはできなかったが攻略前のセーフルームで、肉じゃがを提供したときは多くのプレイヤーが感涙極まって泣く者が居たほどだ。

 

 勿論このボス戦での死者は0だ。

 そして28層で手に入れたジープを使って、44層を疾走したり45層で人工生命体メトロイドから逃走したりした。

また31層テーマフラグ『MOTHER』や38層テーマフラグ『ゼルダの伝説』で、精神的にも肉体的にも死にそうになった。

ギーグやガノンドロフに乗っ取られたり、プレイヤー間での欺瞞雰囲気が周辺を包みPKを誘発することもあった。

 

 いろんな冒険と探検をしたアスナとキリトは、私情としてお互いを意識する程になっていた。

ただ初めてのフロア攻略の時だけは、そんな感情をほっといて一人で先行するんだ。

まあこれも含めて、愛嬌があるというものでしょう。

 

 

 

「アスナ」

「何?」

「出発時間5分前だよ」

「…急いで!」

 

 

 空気が緩いと時間管理までもが緩くなるのは、どうしようもないようだ。

走る途中ユイが起きたけれども、キリトを馬の様に乗りこなして楽しむ姿はかわいらしい。

二人は黒鉄宮に入り込んで、碑を守っていた人に案内される。

そしてアスナとキリトは、スキル『フラッシュチェンジ』で戦闘装備に着替える。

途中猿型機械獣『ジーニアスヘッド』がアスナに話しかけ、地下一階でやるべきことを伝える。

 

「わかったわ、ありがとう」

「キキッ」

 

 アスナはキリトに端的に説明する。

まずはコペルに団長としてあいさつする事。

そして友好の証に、フレンド登録をすます事。

次にNPCであるジャッカルともちゃんと面会し、握手を済ませ仲間と認めてもらう事。

 

「ジャッカルって、NPCだったのか!?」

「アイコンだとプレイヤーなのにね!」

 

 

 二人は3分で到着する。

黒鉄宮地下一階。

そこは大きな広間となっていて、そこから下へ行く階段があるだけの場所。

 更にこの場所に多くのプレイヤーや英雄がごった返していた。

そんな中キリト達は、『ジーニアスヘッド』に導かれてヒースクリフとコペルの下へ向かう。

 

 その場へ行く最中、ブラッキー先生頑張れよという今まで見たことがあるプレイヤーから、

応援の言葉が掛けられる。

 

「アスナさんとの結婚は何時ですか?」

「そのお子さんは、アスナさんとの子供ですか!?」

 

 なぜか情報屋という名のパパラッチもいた。

このはじまりの街特有の資本主義に塗れた、独裁国家専用の職業らしい。

おかげでキリト達は、社会の恐ろしさを垣間見る事になる。

 

 プライベートガン無視な踏み入りよう。

熱愛報道や恋愛等、人間以前に生物として当然の事を面白がってネタにして、それでお金を稼ぐあくどい輩。

それがパパラッチという人間だ。

 報道の自由を掲げ、それによる住居侵入・私有地への進入・電気等の無断使用等傍若無人な振舞いは、

この国にすむ上の者としては腫物として扱っている。

 

 

「キリト君。ちゃんとはぐらかしたかね?」

「ああ。芸能人と官僚の方々の気持ちが分かるような気がするよ」

「だろう?」

 

 

 解放された後ヒースクリフに奴らへの返答に関して催促され、さっさとコペルと挨拶するよう言われた。

キリトは『黒の英傑連盟団』団長として、特殊作戦最高司令官のコペルと友好の握手を行う。

この瞬間彼とアスナ・ユイの視界に映る、コペル配下であるジャッカル含めたNPCはブルーアイコンになる。

 そう彼等は特殊なAIを載せたNPCなのだ。

ユイとは違うAI構造。

しかしその行動の幅は大きく、作戦を忠実にこなし食事やユーモア等の言動を行える超優秀なボトムアップ式AI。

 

 このAI方式のおかげで、合計34個旅団約34万人の戦闘兵士を組織的行動に移すことができる。

 更にFF[フレンドリーファイア-誤射]が、元ゲームと同じように皆無なので同フラグ管理の銃弾は貫通する。

この仕様のおかげで、誤射者への制裁という無駄な行動リソースを費やすことがない。

 

 結果的にプレイヤー以上の効率を以って、眼前の敵を灰燼に帰す事ができる。

 

 

「よっしゃ、皆集まったな!進軍開始や!」

「「「オオオオオオ!!!」」」

 

 既定の時刻になると、キバオウがダンジョン前の出入り口で片腕を振り上げ大声で宣言する。

この瞬間ここにいる全ての参加する軍のプレイヤーとNPCが、大声を張り上げる。

戦闘に勝利した鬨の聲と同じかそれ以上の大声量に、この場の空気と周辺の建物が揺れる。

怒号にも近く空気を揺らすほどの轟音は、野良である混成軍にとって不慣れな物。

 アスナはびくつき、ヒースクリフは口角を上げ、ユイは恐怖で嗚咽を成し、キリトは静かに笑う。

 アスナやユイは彼等が何故こんなに士気が高いか、理解に苦しんだ。

確かに今から被害や成果が未曾有の大攻略に乗り出すから、その空元気の為に大声を上げて気を紛らわせているのかもしれない。

それなのにどのプレイヤーやNPCも、悲壮な裂帛の咆哮ではなく喜色に塗れた遠吠えを放った。

 

”俺達は絶対に勝つ!”

 

「わ、訳わかんない」

「ぱ、パパ?ママ?」

 

 ユイは肩車をしてもらっているキリトの頭に覆いかぶさる。

たぶん彼女は有効視覚の拡張や視点の高さ・体験したことのない機動力を、この肩車によって得て遊びとして堪能しているだろう。

だがユイ本人はここで、一気に恐怖に陥る。

誰も彼もが絶望の顔ではなく、絶対の自信とゆるぎない勝利を確信している顔つきなのだ。

 彼女が48層のバグ空間で生成された者であれど、メンタルヘルスAIとしてこの状況は理解に苦しむ。

悠々と焦りも緊張もない、その足並み。

彼等が抱く感情はまぎれもなく、あの一層で見せたような絶望ではなかった。

 

「ユイ。人っていうのは、凄いだろ?

 今まで沢山の人の感情を見て来ただろうけど、たぶん彼らが一番『人間』をしているよ」

「ど、どーゆーこと?」

「きっとすぐにわかるさ。なあ、茅彦さん」

「ああ。すぐにわかる」

 

 先鋒と殲滅をキバオウ外交責任者と攻略軍最高責任者コーバッツ元帥が、皆の指標になりながら執り行う。

 

 さっさと最奥部であるコンソールの所に行きたいが、目の前には銃剣突撃隊長ジャッカル等が居り進行阻止が行われる。

主に吶喊で制圧することが得意なキリトは、面目躍如となる存在価値を潰され若干苛立ちを覚える。

だが最後尾のプレイヤーが、NPCのジャッカルと笑顔でハイタッチすることで漸く察することができた。

何故なら道中の敵が、全て狩られていたからだ。

 

 

 アイテム欲しさもあるが、何よりも彼らは希望の星だ。

少しでも早く、世界の真実に近づいてほしい。そしてこの世界から、皆と共に脱出する。

アインクラッド解放軍は、その本懐をここ一番で発揮していた。

 

「よっしゃ、ブラッキーはんらの道は確保したで」

「ハッ!皆の者、これ以上は倒すな!リポップ時間が早くなる!」

 

 キバオウ達は英雄やコーバッツを含めた攻略軍と共に、幾度となくここに出入りしている。

だからこそ彼等ができる最高の餞は、道中の敵を葬り去り安全を確保しておくこと。

そしてぎりぎり彼等が、その道への経路に万全の状態で侵入する事ができる事。

これを完遂させなければ、何時世界の真理にたどり着けるのだろうか。

 

 きっと不可能だろう。

 

 何故か。

それは茅場がやっていない筈がないからである。

なのに何の成果もないという事は、真理にたどり着くための鍵がないという事。

それを今回持ってきた。

 だから反対意見を用いて意見や意思の誘導を行い、それが私欲だらけの独断専行でない事を立証し今回の攻略に乗り出す。

この事を知っているのは、上層部のみだ。

元帥や責任者・最高司令官・軍師等、そういう特権階級が情報を内部だけでとどめた。

その為に一般プレイヤーの面々には、このダンジョンの攻略を示唆することしかしていない。

 

 下手に行動をしめせば噂が流れ、陰謀論が流れてしまい計画自体がお流れになる。

だからこの事は皆の心の内にしまい込まれることになる。

今はそういう有能な者が軍内部にいるので、外部へ情報を漏らす者はほとんどいない。

ましてや軍の一部しかしらない、黒鉄宮地下迷宮なんて口が割けても言えない。

 

 ここは軍の利権が発生しているので、表に言えないでいる軍の物資補給地点でもある。

これ等の情報を合わせれば、物資回収と迷宮区の攻略を名目にした混成軍のコンソールへの誘導は、

非常にうまくいったと言えよう。

 

 

「よし、偵察隊先行せよ!」

「「「ハッ!」」」

 

 特殊作戦最高司令官のコペルは、ジャッカルがプレイヤーとハイタッチした瞬間すぐに動き出す。

最初に偵察隊を先行させ万が一の確認と偵察隊に追従する暗殺部隊で、敵の排除を行い道の安全を確保する。

この手際は非常によく、彼等の働きを全く見ていないユイであっても、迷宮ダンジョンの静けさに疑問を持つ。

 今回は暗殺部隊が己の力を使わなくて済んだ。

そのまま浸透強襲し、コンソールへの道を切り拓いていく。

 

 既にコンソールについては、KOBのヒースクリフ団長と軍のキバオウがそんなに強くなかったとき護衛として最奥部まで導いているので、そのときのマップデータを受け取っているコペルにとって問題にはならなかった。

 

 コペルが持つ情報は基本的にパックとしてついてきた軍隊に、共有されている物なので一々ミーティングをしなくていい。

この事から彼らは早急に展開する神速の部隊としても重宝されている。

実際偶にモンスターの大量発生と村への侵攻イベントがあるので、そのとき村側に被害が皆無の状態で終わらせたことがある。

そのためコペルは戦闘面で引っ張りだこだ。 

 

 偵察隊により、下層への階段が発見される。

敵もリポップしておらず、作戦通りに事が進んでいる様だ。

 

 この後も偵察隊や暗殺部隊・銃剣突撃による制圧で、地下へ降りていく。

敵は徐々に強くなり、特殊なデバフや状態異常をかけてくる者も増えてくるようになる。

経験値は中々良いが、入手できるコルは割に合わない多さである。

 

そんなデメリットがあるが、地下の様相は徐々に簡単なものになってきている。

 

 入り口付近は、迷路と思わせるような多数の分岐と曲道がある。

しかし今の階層では、柱が数本と大きなフロア・大きな通路と大雑把になっている。

 

「アンデッド系が来たぞ!」

「アンデッド系は、面攻撃に弱い!砲兵前へ!」

 

 キリト達の後方にいる砲兵が、前線にいる歩兵と交代しバズーカを放つ。

紅蓮の炎が迷宮内を明るく照らし、視認できる敵を全て撃ち漏らすことなく撃破することに成功した。

アンデッドであれば痛覚はないが、燃える肉体により前進しづらく活発な行動ができなくなっている。

故にこの波状殲滅攻撃は、非常に効果的だったのだ。

 

(「キリト。彼奴等、中々の手練れだな」)

(「ダークもわかるか……」)

 

 キリト達は護衛されながら、ある程度今後の攻略や行動について話していた。

しかしまだ上層の情報を得られていないので、まずはそちらの情報を得ない事にはどうしようもないのだ。

 

 だから今回のこれが終わったら、上層へ一度潜り込む事にする。

ヒースクリフは25層で、経験値とコル稼ぎに一層力を入れるんだとか。

 

 上記の様に軽い気持ちで話している中、キリトと影キリトであるダークゼロはコペルの配下について語っている。

ダークがどのような状況を見て、手練れだと思ったのか。

それは偵察隊が囮となって進行し敵を引きつけて、迂回した暗殺部隊にとどめをささせるという戦法だ。

 

 本来ならば意味がないのだろうが、明らかに敵のAIが動物に近い物になってしまっている。

おかげで少しでも攻撃をすれば怯み、確実に攻撃の隙を与えてくれる。

また攻撃されている最中、防御を緩めることはほとんどなくスキルで一時的に防御を高めたりしない限り、

力押しで抜けてくることはない。

 また攻撃してくる場合、天井や暗闇からの奇襲になっており地の利を生かしたものになっている。

ここら辺は他の場所でも見受けられるが、モンスター自身が持つ特殊能力とこの迷宮ダンジョンの様相がうまくかみ合っている為、

攻撃すらできない時ができる。

更に敵は賢いので、味方同士の射線を重ね合わせ誤射を狙うような機動をすることもできる。

 

 

 これらの機動は非常にやっかいでもあるが、それと同時に相手の弱点をさらけ出すことになる。

移動が早いほど、防御がおろそかになる。

これを狙って陽動をかけてから、脚が止まったところや駆動範囲限界になり行動停止した時、初めて不意打ちを死角から行える。

勿論死角だけでなく、アウトレンジから仕掛けることも可能だ。

 

「マッシュドポイズンネックだ!」

「あのキノコの胞子は、毒や麻痺を誘発させる!」

 

 

 ただやはりどんなに手練れであっても、苦手はものは存在するのである。

今通路から用水路に出たところ。

その用水路に結構な数の植物系モンスターが跋扈している。

 このモンスターは偵察隊が云うに、状態異常スキルをふんだんに使ってくると言っている。

 その為接近するには、少々分が悪い。

 よって砲兵が片付けようとするが、奴らは粉塵を周囲にばらまいた。

この事態に気づいたジャッカルは、砲兵らを停止させる。

 

「砲兵隊止まれ!火を放とうとするならば、俺達が火達磨になるぞ!」

「ならばどうするのだ?」

 

 攻めあぐねている部隊。

この状況をキリトらは見てしまう。

 

「アスナ、ユイを頼む」

「待って、私が行くわ」

 

 キリトはユイをアスナに預けようとしたが、アスナはその提案を棄却する。

その代わりアスナは後方に控えているラヴェジャーらを、戦線投入させる。

 ラヴェジャーは虎のようなしなやかさと速度で、前線に舞い戻る。

 

「私の機械獣が一斉掃射するわ!皆さん、どいてください!」

 

 アスナの高い聲は戦場に於いて、端から端まで良く聞こえた。

これにより多数の兵士が、後方へ撤退する。

 それを確認した多数のラヴェジャーは、背中の機関銃の砲身を回転させ粉塵を出し続けるキノコを掃射する。

 

 

ズガガガガガガガ――

 

 多数のマズルフラッシュが迷宮ダンジョンを明るく照らし、轟音が周囲の音を全て掻き消した。

 ダンジョン内を明るくしているのは発火炎だけではない。

掃射による温度上昇と魔物に中る瞬間にはじけ飛ぶ火花が粉塵に飛び火して、植物系モンスターを炎に包みながら粉塵爆発を発生させた。

 

「掃射止め!!」

 

 アスナの聲により、ラヴェジャーの掃射を停止させる機械獣達。

キリトやユイは耳を両手で押さえていたので、やっとのこさ解放できた。

目の前にはただの用水路しかない。

ポリゴンすら吹き飛ばしてしまったくらいの勢いを感じ取れる。

 

 アスナはラヴェジャーを褒め称え、後方へ移動させる。

機械獣の恐ろしさや頼もしさを見たコペルやジャッカルは、アスナや機械獣に称賛を送り先へ進む。

最高司令官や突撃隊長に称賛を貰うアスナは、彼等に微笑み返した。

 

「アスナ、凄く指揮官してたな」

「元々そういうパックもらっているんだもの、活用しないとね」

 

 

 彼らは進んでいく。

しかしとある階層に来ると、コペルが全軍を停止させヒースクリフに話しかける。

 

「我々の仕事はここまでです」

「ありがとう」

 

 ヒースクリフはコペルに感謝し、次にキリト達の所に来る。

キリトはユイを肩車し、アスナはキリトの隣に立っている。

此処まであまり会話しなかったので、ユイは若干眠たそうにしているがヒースクリフの聲を聴くとはっきりと目を覚ます。

 

 

「次の階層からは、我々だけでいく。

 アスナ君は自前の機械獣を連れて行くように。

 キリト君はユイを守りながら、その隠している力で突破する様に」

「「はい」」

 

 キリトは言外に隠し通せると思うな、と言われているような錯覚に見舞われる。

しかしここまで来た戦闘時間を見て、相当敵が強い事がわかる。

だから隠し通せるとは、端から思っていなかったりするわけだ。

 

(「ダーク。なんか早速ばれるみたいだ」)

(「致し方無しであろう。だがばらすのであれば、盛大に晴らしたいところだ」)

 

 キリトは心の中で頷く。

彼等は覚悟を決めた。

だがどうやってユイを守ろうかと思う。

 

まあその時が来れば、その時考えればいいかと彼は思った。

 

 ヒースクリフはキリト達と共に、この階層にある通路を歩いていく。

通路の両脇には柱がある。黒色で周囲の光を吸い込んでいるようだった。

この黒い通路を歩んでいく。

 

ただ歩んでいくと、徐々に視界が暗くなっていく。

 

 この光景にアスナは脚を踏みとどまらせてしまう。

しかしヒースクリフは、決して臆しないように言い渡す。

臆せば全てが無為となってしまう事を告げる。

 

 ユイの為にキリトは歩む。

隣に居るヒースクリフを見やって、気を引き締め歩む。

少しでも気を抜くと、この暗闇に融けてしまうかもしれなかったからだ。

 アスナも内心恐怖でいっぱいで、脚をガクガクと震わせながらもゆっくりと歩いていく。

 そしてユイは暗闇に包まれる中、自分自身の役割を思い出すことになる。

ただ肝心のなにをしてどうするのか、生まれはどういうものだったかは思い出していない。

 

 

 そして徐々に暗闇が晴れていく。

 暗闇が晴れたところには、大規模な空間があった。

ところどころに水晶でつくられた星々がある。

また空中には泡のようなものがあり、プレイヤーの現状を映し出しその感情を表すかのように泡も変化していく。

 

「ここは…?」

「ここがゲーム制御室だ。しかし、随分と様変わりしたな。

 本来ならば、90階相当のデスサイズと純白の部屋だけなはずだ」

 

 ヒースクリフは本来と全く違う部屋の様相に、驚きを通り越してこの世界の綺麗さに感嘆している。

 目的のゲームコンソールは、この空間の最奥部で結晶でできた足場を伝った先にある。

その先は白く輝くコンソールが、周囲に神々しい白光を放っている。

それは後光ともいえるし銀河ともいえる。

 

 キリトはヒースクリフがコンソールに向かって歩いていかない事を尻目に、そのままユイをつれて歩いていくとヒースクリフに首根っこを掴まれて後退させられる。

 

「ちゃんと上をみるんだ」

「上…?………あ」

 

 

 ゲームコンソールの少々上の方に、ナニカがくるまって寝ているのが分かる。

しかしその何者かというのがわかる。

その原因はアスナが到着した事にあるのかもしれない。

 

 背中に二つの大小の輪・4対の刃を羽に持つ翼・純白の西洋龍が起きた瞬間、この位相と概念の結晶宇宙に

その名が記される。

 

【United Blain in Aincrad】

 

 更にその龍が咆哮を放つことで、ブラックホールとホワイトホールが発生する。

ブラックホールから出現するのは、【United Reason in Ordinal】。

理性の塊だ。

 

 ホワイトホールから出現するのは、【United Instinct in Cardinal】。

本能の塊だ。

 

 

「まず作戦と行こう。あのような者は、私は全く知らない。

 故に不定形から変形し、我々に対抗してくるだろう」

「解ってる。其れとこの状況は、ユイを最奥部に連れて行きゃなんとかなるんだよな?」

「私か君が操作しなければいけないがね」

 

 三人の会議の末、決まった事。

UBAはキリト・UROはヒースクリフ・UICはアスナになる。

理性はヒースクリフと相性がいい。

アスナは機械獣が動物の本能が、プログラミングされているから相性がいい。

 

 何がどう相性がいいのか、いまだに分からないがこうするほかないというのが現状だ。

 

 この状況を打破するには、お互いがお互いの状況と場所を把握した上で援護や援助をしなければいけない。

その為に少しでも油断すれば、命はないものと思わなければならない。

 

一触即発・鎧袖一触の戦闘は、SAOのプレイヤーの中で最高峰といわれるプレイヤーに一任される。

 

 三人のプレイヤーは駆けだす。

まず最初にキリトにそのUBA-神龍が迎え撃ちに来る、

 

(「ダーク。やって後悔しよう!」)

(「そのほうが建設的だ」)

 

『陰陽離脱』

 

 

 これにより白キリトと影キリトに分かれる。

そして二者の中央に入ってくる神龍を、『ドミネーションオブルーラー』で切り付ける。

神龍の方が勝手に移動している為、斬りつけのダメージが勝手に入っていく。

 

 神龍は通り抜ける最中、背中の大小二つの輪を火花散らして回転させる。

 

 そして神龍は咆え、その輪を投擲する。

白キリトは横に回避し、影キリトは撃ち落とす。

しかしその輪は地面に落ちた後、パンジャンドラムのように回転して襲ってくる。

 輪の回転は周囲の結晶小惑星を傷つけながら走ってくる。

 タイヤという概念がない中、それは走ってくる。

 

 両者キリトは『明靭』でソードビームを放ち、『空靭:裂』ではなつ竜巻に乗せる事で相乗効果・破壊効率を倍増させる。

この二つの竜巻により、輪にのるエネルギーを露散させることに成功した。

影キリトはすぐに『オーバーロード』へ『フラッシュチェンジ』し、『雷靭:桜花』『雷靭:桜吹雪』を発動する。

 

 何故このタイミングなのかというと、アスナとユイに近づく敵の攻撃を防ぐためでもある。

 

 アスナは群で戦うパック保持者。だから、ソロ戦闘はむいていない。

そこで横槍を入れつつ、こちらの戦線を維持しようという根端だろう。

 

「ユイ!一旦退避しよう!」

「パパ!?」

 

 ユイの手を引いて、神龍の翼にある刃の羽の猛攻から回避させた。

『雷靭:桜吹雪』と同じように、刃の羽が襲い掛かってくる。

それはユイを狙っていたが、白キリトにより退避できた。

 しかし神龍の攻撃は、生半可なものではない。

 それが明言されるように周囲の結晶や泡を弾き飛ばした刃な羽は、その身を結晶小惑星から引き抜き再度白キリトを追尾

し始めた。

 

 白キリトはユイの手を引いた後、そのまま抱き上げて走って逃げる。

プレイヤーである彼らは意思を持って移動すれば、足元や周辺に散らばっている結晶が集まってそのまま足場になる。

 

結構遠くに離れた場所にユイを降ろして、この場所で待つように云いつけて置く。

なにしでかすかわかったもんじゃないので、SPDポーションを渡して即行で逃げられる様に用心させておく。

 

 

(「キリト、其方へ向かった!」)

「何だって!?」

 

 

 退避完了し少々安心したのも束の間。

早速神龍がお出ましに上がる。

神龍は叫び突進してくる。

 その速度は尋常ではないが、48層でのボス戦よりも確実に遅いため対処可能だ。

しかしその攻撃を全て防御できるのか、と問われれば無理と云わなければいけない。

 

 速度は相手が劣るとはいえ、ゲーム管制室の守護者だ。

それなりの能力が必要になり、まず武器の耐久値が足らない。

 

 だから『ドミネーションオブルーラー』はそろそろしまい込んで、『マスターソード』等で攻撃しないといけない。

 

 白キリトは神龍の体当たりを弾く。

それと同時に、『マスターソード』へと換装させる。

 

 その瞬間、背後で嫌な音がする。

 

ドドオオォォン……

 

 白キリトは後ろを振り向く。

そこには紫電を迸らせ火花散らし回転する大小の輪から、『コボルトロード』や『サムライロード』が召喚されているのを見る。

彼は思い返す、”嗚呼そういえば、こいつはアインクラッドだった……”と。

神龍は数多の頭脳がアインクラッドに集結した、人間とゲーム全ての集合体でありそれを具現化したものだ。

 

 そんなラスボスもいいところな奴を、簡単に倒せるわけがないだろう。

 

 だがこのゲームを始めて幾年のキリトにとって、この展開は非常においしい。

寧ろやる気が出てきていた。

 

「ぱ、パパ……?」

 

 ユイは雰囲気が変化する父親に、不安げな表情を送る。

そんな彼女に白キリトは笑顔で対応する。

 

「何だい、ユイ?」

「ぱ、パパは怖くないの?」

 

 いきなりしっかりとした答弁に、彼は少々驚きつつもしっかりと答える。

 

「怖くないよ。寧ろ、此れから楽しいんだろ?ほら、もっと殺す気で来いよ!」

 

 そんな彼の姿を見て、ユイはクスリと笑う。

子供らしくない笑い方だが、理由などすぐにわかる。

 

「パパ……私[Sword Art Online]を楽しんでくれて、ありがとうございます」

「ユイ?」

 

 

 ユイは白のワンピースをはためかせながら、その身に似合わない紅蓮の刀身と灼熱の焔を煌々と燃やし続ける武器を

どこからか召喚し両手に持つ。

そして白キリトの横を過ぎ、その武器を片手に持って彼の方に振り向く。

 

「私はカーディナルとユイが統合した、人と共に歩んでいく機械『ファンタジア』です。

 本来ならば私達は分離していましたが、ある時を境に私達は統合されました。

 最初は共に排除するため、まとめられたのです。

 

 しかし最終的にそんなことはなく、時間稼ぎの為、このように再起動されました。

 

 私[ファンタジア]の目的は、このゲーム[SAO]をプレイヤーの皆さんと共に改善しよりよいゲーム環境を整えることです。

 人だけでは迅速に対応できない事でも、私の中に存在する悪意と善意が議論しあって理性と感情で物事を色付け・修正していきます。

 

 私は今まで数多の感情につぶされていましたが、こうして感情豊かなキリトさんに出会えてよかったです。

 おかげで私を取り戻すことができました。

 

 ですがそれももう終わりです。

 こんなゲーム[幻想]ではないゲーム[現実]は、即刻排除しなくてはなりません。

 それが私達が私である所以だから」

 

 彼女は現状に憂いている。

はかなげな姿見だが、実際の中身は現実を受け入れ自身をどうすべきか既に決めてある。

それでも短時間で数多の感情を見せてもらい、家族のように接してくれた彼等に感謝すべきとこのように説明を加え身の上を晒したのだ。

 

 白キリトは神妙な顔つきで、『紫電』でボス二匹を麻痺させ、『雷靭:桜吹雪』をぶつけて消滅させる。

 彼は撃破した事を確認した後、片膝をついてユイと目線を合わせる。

 

「ユイもユイで、今回の事すっごく悩んでたんだな。

 でもここで破壊して何になるんだ?」

「え……破壊して……」

「その先は?」

「……」

 

 ユイは顔を真っ赤にして、この先の事を考えていなかった事を恥じる。

 

「俺達はただ単に死にたくないから、現実から逃避したいとか。

 そんな理由だけでやっている人は、案外多いもんだ」

 

 白キリトはユイの肩に、武器を持っていない左手を置く。

彼の表情はやわらかい。

 

「俺だって、最初はそうだったんだ。

 でもアスナが仲間になって、エギルやリズが仲間になって……徐々に大所帯になって。

 その過程で、多くの友人というつながりができた。

 

 そんな彼等は今最前線にきている。

 

 今の俺達がこのゲームで何を求めているか。何をしようとしているか、それは分からない。

 それでも皆のはなしを聞いてみて、ある一つの答えに集約するんだ。

 

 

 それは、”自分が自分でありたいがため”、だって。

 皆このゲームという電子世界で、情報の一つとして処理されているのが目に見えてわかるんだ。

 そんな中でも唯一、絶対的に自分のものであると言えるものがある。

 それが『感情』さ。

 

 だからユイも、自分のありのまま……プログラムに思考を改竄され、一つに集約してしまうのなら仕方のないことかもしれない。

 それでもユイは、このゲームを消す事をしたいと思う?

 皆の思い出を、辛さを、悲しみや嬉しさ、絆を……ユイはそれを消そうとしているんだ。

 

 

 そうであってしても、皆を無機質な0と1だけで支配したい?」

 

 白キリトは影キリトが苦笑いしながら、神龍と戦っているのを確認する。

今迄に見せなかった肉弾戦をおこなったり、『空靭:冥』で開けた亜空間に神龍の頭を突っ込ませて光線に晒したり、色々試しているのが見える。

 

 アスナは機械獣と共に、連携をおこなって爆撃をしている。

 

 ヒースクリフは……同じような人物が二人見える。

 

 白キリトは泡を通じてその光景を見て、ユイに視線を戻す。

ユイは俯いている。

 

「私は間違っているのでしょうか」

 

 ユイは涙声で白キリトに質問してくる。

嗚咽も聞こえ、完全に悪者な感じがするけれど、答え一つでこの世界は終わるだろう。

それくらい大事な状況だ。

 

 

「ユイにとっては正解で正義だろうさ。

 でも俺たちにとって、それは間違いで悪だよ」

「プレイヤーの皆さんと私の意見が食い違うなんてこと、在ってはいけません!

 ですが、皆さんがいう、”自分が自分でありたいがため”というのが分からない私は、どうしようも……」

「どうしようもないなんて事、全くないよ」

 

 白キリトはユイを抱き寄せて、言い聞かせるようゆっくりと確実に言葉にしていく。

 

「これからその感情を含め、俺達と旅をしよう。

 カーディナル自身が知って居ながら、ユイが知らない世界。

 ユイ自身が知って居ながら、カーディナルが知らない世界。

 

 どちらも俺達と一緒に冒険して、そして最後の100層位で結論を出そう。

 今すぐ出す必要なんてないさ。

 なんせ俺達は、クリアするまでここから出られないんだから」

 

「いいんですか?」

 

「何が?」

 

「私のような機械が……」

 

「ユイであってもカーディナルであっても、俺達の子供だよ」

 

 そういうと、ユイの嗚咽が徐々に収まっていく。

その間でも白キリトは、トントンと背中を優しく叩く。

 

 

「パパ……もう大丈夫です」

「よし、そんじゃ」

 

 

「グ……遅い!」

 

 影キリトが黒煙を纏って吹き飛ばされてきた。

また彼が苛立っているのは、状況確認と展開に関してだ。

何をやっているのか、一応影キリトもわかっている。

デリケートすぎて、存在が危うい彼にとって死活問題なのは理解した。

 

それでも遅すぎる!

 

「陰陽同化いくぞ」

「解ってるって!」

 

 

「『陰陽同化』!」

 

 

 二人のキリトは一つになる。

右手に『創主の剣』、左手に『理壊の剣』を持つ。

既にシンクロ率は青天井なので、一々不備を気にする必要なんてない。

 

「え、パパ?なんですか、ソレ?」

「どうしたの、ユイ?」

 

 

 

「え、何でって、ソレ……どこを探しても、データ上にないんですよ?」

 

 

「は?」

(「それよりも前を見よ!我とて気になるが、面前が肝心だ!」)

「そうだ!スキルフュージョンを頼む!」

(「よし来た、『並行展開』!」)

 

 

 神龍はゲームコンソールの上に陣取り、頭上に大小の輪を回転させる。

更に咆哮で怒りを露わにし、肉体に赤い血管をもわせるような亀裂が走っている。

たまに黄色の波が、体表に走っているので体力は二分の一程度だろう。

 流石48層のボスのボス。

ゲームコンソールの守護者に引けを取らない勇猛ぶりは、英雄にあたる強さだ。

 

 

 さて当の神龍だが、その大小の輪を高速回転させ紫電を発生させるが何をしているのか分からない。

いやそうでもなかった。

周囲にある結晶や結晶小惑星を、電力で集める。

 そして神龍は翼にある刃な羽を、全てキリト達の方へ向けた。

刃な羽は魔法陣を描き、切っ先に光球が見え始める。

 

「まさかのまさか、魔法がくるとは思わなかったな……」

(「今は其れを置いておけ。無理やり出力を上げる故、己の心配をせんか」)

「うーん、ユイ」

「はい、なんでしょう?」

「俺達はあいつの攻撃を相殺する事に手一杯なんだ。

 ユイの攻撃であいつらを止めることはできないのか?」

「フラグ0にして倒したことにすればいいんですね?」

「そうだよ」

 

 

 そういうとユイはにこやかに応える。

その解答は、じつに恐ろしい。

 

 

「劫火で神龍の龍田焼にしますね」

「どんな料理だ!?」

 

 ユイに突っ込んでいる間、既にキリトは『オリジナルスターロッド幾何学群』を起動させ圧倒的なエナジーを生み出している。

その力を武器に集約させ、敵の攻撃を待っている状態だ。

 

遂に、終焉の時が来る。

 

【Finend Service】:最後のもてなし

 

 

 字面から見て全く想像できない攻撃だが、数多の結晶・結晶小惑星・刃な羽からの光線がキリト達に降り注ぐ。

さらに大小の輪からも、紫電が飛びその回転の中に火球が出来上がりつつある。

 

 

【Mind Flames】:思炎の世界。

 

 その名前とは裏腹に、洗剤でつくられた大きな泡のようにいろんな色が混ざる白光球だ。

その球は彼らに向かう。

 

 

 これらは同時に放たれた。

故に着弾まで時間があるが、それでも先遣隊である結晶や結晶小惑星の攻撃は異様なものであった。

そうであっても、キリトはこの攻撃に耐えなければならない。

ある程度の攻撃を持ち前の体力とバトルフィーリング、リジェネとポーションを使って防ぎきる。

 

 このように工夫しても無理な場合が出てくれば、そこからは『劫火剣嵐の舞』である。

 

(「無理矢理も無茶苦茶だ。ここで確実に倒せ!」)

「わかってる!」

 

『雷靭:千本桜』

 

 3900ヨタワット分のエネルギーで作られたドリームエナジー。

ドリームキャストがなくとも、その力以上の本懐を引き出すドリームキャスト足りえるのが『マスターソード』自身である。

その為他の相乗効果が重なり、数多の雷刃は圧倒的な破壊力を持って神龍の弾幕に対抗し相殺または貫通する。

 

 偶に突破してきた小惑星は、『クレイジーソード』の『侵蝕』でキリトの糧にされる。

遠距離は『雷靭:千本桜』で対応し、近距離は『侵蝕』で食らっていく。

キリトはその場から動かない。

何故なら彼の後ろには、背中合わせでユイが詠唱しているからだ。

 

詠唱と云うより、使用権限をどうにかしようとしている最中だろう。

 

 

途中、『空靭:冥』と『気靭:天』による亜空間からの光線を放つ。

これは刃な羽からくる光線に対抗するために行われた。

 

 そんな時ユイは、『魔剣:レーヴァテイン』を片手に持ち刃を上に向け、紅蓮に燃える刀身に手を当てていた。

 

「【United Blain in Aincrad】,カーディナルとユイの名に於いて命ずる。

 全ての守護命令を破棄し、消滅せよ……これも駄目……と。

 

 残念ながら、破壊するしかありませんか。

 でもこうすると、一日の間これ使えないんですよね……。

 背に腹は代えられません。一刻の猶予も与えては、パパが持ちこたえられない。

 

 やるしかない。

 

 

 千、三千、天上天下、諸人、数多の同胞よ、遍く全ての世界と現象よ。

 眼前の敵を豪剛と轟かせ、郷に入らず業に要る強たる者に、業火と劫火で以ってその者を誅滅せよ」

 

 

 そこまで詠唱に入ると、『魔剣:レーヴァテイン』は更に明るく煌々しく輝く。

紅蓮と灼熱に彩られフレアが煌めき、ダークフィラメントで周囲に威を発する。

 

「パパ。何時でも行けますよ」

「よし。念のため、あいつを怯ませてタゲを俺の方に向けさせる」

「御願いします」

 

 慎重な意見を素直に聴いて、それを行わせる意見交換を行う。

身長差はありながらも、お互い頷き合う。

信頼するキリトは背中を向け、二つの武器の切っ先を合わせず同じ方向にむけるだけ。

 

(「これだけ負に染まっていれば、余裕綽々だろう。ヤレ」)

「了解だ、ダーク」

 

 

『反魂転生』

 

 

 これを行う事で、クレイジーソードとマスターソードの特性を食い合うことが無くなる。

前のゼロ戦で使った突撃。あれは威力云々の前に、クレイジーソードが完全に補佐にまわっていた。

『理壊の剣』が『負』を食い、『創主の剣』で『ドリームエナジー』を増加させていただけ。

だが今回はこれによって、クレイジーソードも攻め側になるため威力が倍になる。

 

 ただマスターソードは、ドリームエナジーにより増幅するドリームキャストでもある。

更にクレイジーソードも、負のエネルギーにより増幅するドリームキャストだったりする。

この『反魂転生』があれば、二つの武器によるお互いのエネルギーの食い合いをやめるようになる。

何故なら、これを使えば正は負として認識され、負は正として認識されるようになるからである。

 このため前の戦闘では、突進技の『雷鵺剣』はドリームエナジーにより威力を削がれていた。

同じく『鳳凰剣』も隣にある負のエネルギーの方を率先して解体していたので、

完全に打ち勝つまでに時間がかかったのだ。

結局勝利したのは、放出する負のエネルギーが破壊と対するドリームエナジーの総量に押し負けたからだと考えられる。

 

 さあ、これによって前よりも威力が低い弾幕の中、完全体が猪突猛進すればどうなるか。

勿論弾幕や泡・光線すら全て己の力をして使い、UBA―神龍―に大ダメージを喰らわす事ができた。

 

 神龍はのけぞる。その隙にキリトは、右往左往へと移動する。

こうすることで自分のタゲへ移らせたまま狙いを逸らすことが可能になる。

 

 逸らす対象はキリト本人ではなく、ユイ本人の射撃の間合いだ。

有効射程と最も効率が良い場所へ撃ち抜かせることが、何よりも撃破できるそのときだからだ。

 

「パパ、ありがとう……

 

 この一撃で、私もSAOの仲間入りです。

 皆さんの為、この一撃を確実に入れます。

 

 

 行ってください、『クトゥグア』。数多の火を連れて、否定を破壊してください」

 

 

 ユイは紅蓮の焔に包まれながら、そのまま跳躍し魔剣から剛速球の火球を放つ。

その火球は野球ボールでしかない大きさだが、この後とんでもないことを起こす位のエネルギーを持っていた。

 

 

 キリトとダークは陰陽同化をしており、発射が確認されると退避した。

この字面だけだと、見捨てたかのように見える。

しかしユイを拾おうとキリトが、ダークに進言したとき逃げる事を優先する様に言われたのだ。

理由は根本で言えばプログラムなのだから、破壊の可否等見れるという事。

 

 この判断によってさっさと退避した。

 

 結果、この対応は正解だと言える。

 

 直後、火球はUBAに向かって9つの色を放つ火球に分裂し、多分の隙があるUBAを包囲する。

包囲されたUBAは攻撃されたことによるヘイト移譲を、ユイに向けて行う。

これによりUBAはユイを見つけ、そちらへ飛んでいく。

 

 しかし攻撃することは叶わなかった。

 

 攻撃する態勢を整えるその一瞬の時、9つの火球がパパパッとはじけ飛んだ。

この瞬間超巨大なキノコ雲が出現する。

多段爆発・爆裂音・衝撃波を幾度となく発生させ、周囲に被害を拡散させる。

 

 この光景は自然ではうみだせない強大な力が必要になる。

 

 この爆発はいつの間にかここにいない者達へ届き、空間や位相・次元さえ超越したソレは全てを破壊した。

 

 

……

 

 

 【United Reason in Ordinal】:序数世界に集まる理性的な熟考。

直訳すればそうなる。

 

 彼はヒースクリフ、本名茅場昌彦。

現在ブラックホールから出てきたソレと対峙し、その面前となった瞬間どこか違う空間に飛ばされた。

 

「Ordinal。君は現実世界に置いてきた筈なんだがね。

 正直の所、出来合い品である君は、不愉快極まりない」

 

 彼がそういうと転移してきた結晶宇宙とは違う、大地が黒くそこに流れる色とりどりに輝く川から水が飛び散る。

その水は極彩色に変化しながら、彼の過去を映していく。

 

彼のたった一人による苦悩と失敗。

そして多数の者により、あらゆることが金によって愉楽と成功につながっていく。

 

 彼が作った世界は、序数で物事を順序立てて論理的に解決していく真っ当なもの。

しかし基数で作られた世界は、後に作った光量子によりどのような単位であっても一瞬で計算し、

それを元に世界の情報伝達を行い構成することができた。

 今までのPCで作られた旧世代の出来合い品は、今の誂え品に叶わず劣化と衰退で形作られた。

 そう、限界のなかで作られた限界有る世界は、彼にとって要らぬ世界なのだ。

だから彼はそれを捨てた。

 

 意図的な中途半端を望まない彼は、非常に機嫌を悪くさせる。

更にその目の前の不定形が行う変形に、彼は怒りを抱くようになる。

 

「……過去の私を映さないでくれるかな」

 

 

 目の前の不定形は、本来あるべきの茅場昌彦の姿へと変化する。

しかも己を作り始めた、比較的幼い頃の姿。

身長は低くても、差と云えるほど差があるわけではない。

 

 

 そしてヒースクリフは誰にも見せなかった怒りを、この状況で見せる。

理由は目の前の不定形が茅場昌彦に変化したのと共に、装備を今のヒースクリフと同じにしたのだ。

この事は今も昔も同じという証拠である。

普通に考えればそうなのだろう。

 

 しかし成否が急激に逆転した金と時間の世界である大人社会は、今までの失敗の象徴である子供世界を拒絶するのに

充分役立った。

更に少しでも行動を行えば、報道機関にやれやこれやと持ち上げられ世界中に伝播。

賞状や資金、法律すら守らない無頼の輩に、己の領分を侵される。

 これらの状況の急激な変化は、彼の今までを否定するのに十分すぎた。

 ヒースクリフとは、此方の世界の自分である。

 そして茅場昌彦とは、あちらの世界の自分である。

 

 矛盾に矛盾を重ねる。

 

 実際彼はこのような事が無ければ、完全体であるこのSAOと共にあの世界に傷跡を残ししめやかに散る事を考えていた。

だが現実は上手くいかない。

完全だと思って居たSAOは原因不明のウィルスに犯され、SAOとしての体裁をなしていない形骸化した何かだ。

死んでは全てがおしまいなので、遊ぶことにしたようだが……。

 

 やはり彼の胸が空く事はなかったが、同じような状況の人物と会うことで少し緩和されていった。

しかしそんな時に此れである。

 

 昔をぶり返された彼は、強烈に目の前の者を憎悪する。

 

 

「要らぬものは、とっくのとうに消えていたと思っていた。

 しかし、無駄なものほど無駄に残るというのは、よくいったものだ。

 早急に消えてもらおう」

 

 ヒースクリフは駆けだした。

重厚な盾と長剣を持ち、自身の過去と対峙する。

 

 過去はヒースクリフに剣技を与えてくる。

容赦のない剣撃は、逆に彼にとって状況を良くする。

 

『神聖剣』。

 

 防御し与えられたダメージを攻撃力に加算し、そのまま武器で攻撃する。

自己完結型のスイッチだ。

防御は盾の耐久値が0になるまで、ずっと行える。

 

 本来ならばずっと耐えて一気にやる方が良いのだが、今の彼は他に仲間がおらずタゲが他所へ向かない事を忘れている。

故に微量な攻撃力で、連続で攻撃することになる。

だが堅牢な過去はびくともしない。

攻撃を全て盾で防がれ、パリィをされる。

 ヒースクリフは泥沼な戦況を忍耐強く耐え、好機を辛抱強く待つ。

 いや、待つだけでは好機は決して訪れてこない。

彼は攻撃的な姿勢で、過去の自分を迎えうつ。

盾や剣を打ち払い、パリィ等で脚払いや重心払いを行う。

 

 幾十、幾百と打ち込むが同じ思考回路を持つ過去は、彼の攻撃を無効化する。

戦力差はないはず。しかし確実にヒースクリフを追いつめる過去の彼。

 

 

 いつまでこんな攻防を続けるのか、と思った時……過去は『フラッシュチェンジ』を行い右手の武器を換装する。

 ヒースクリフは行動を変更した過去の様子を注意深く観察するが、

人間ではない彼を注視したって何の意味もない。

 

 

 一度お互いバックステップをして、ヒースクリフは盾を前にして吶喊する。

過去の自分は、そのまま盾を構えたまま吶喊する。

 

 

「ふっ!」

 

 

 ヒースクリフは『シールドチャージ』により、盾吶喊を強化する。

一応視界は確保しているので、過去の己の行動を見ることができる。

 

 

 突撃を行うが、過去の己は防御態勢であるのは変わりない。

ヒースクリフは其れに訝しむが、状況が変化しない今吶喊しか道がない。

そのまま突撃すると、過去は剣を前に突き出す。

弾かれて終わりだろうと思ったが、その剣は盾に接触した瞬間外装がポリゴンの破片となって飛び散った。

 外装が剥がれて出てきた中身は、フレーム丸だしで水滴が滴る水面のエフェクトがかけられていた。

そしてその剣は難なく、盾に突き刺さり耐久値を0にする。

一瞬動揺するヒースクリフの隙を逃さず、一歩前に進んで肉体を切り裂く過去の己。

 

「何だと……?」

 

 タンクであり膨大なHPは、一瞬にして激減してしまった。

いや消滅と云えるほどの速度で、HPが0に支配された。

 

「馬鹿な!」

 

 ヒースクリフは驚愕しながら、直ぐに表情を変え『オーバーアシスト』を使おうと行動する。

しかしそのアシスト後のスキルが、過去の己にあたる事はなかった。

 

其れもその筈、ヒースクリフはその剣を中てる瞬間に、この世界からゲームオーバーしてしまったのだ。

更に【United Reason in Ordinal】も、謎の爆炎に巻き込まれて退場する事になる。

 

 

 そして、【United Instinct in Cardinal】:基数世界に集約する自発的本能。

此方はアスナが担当しているが、ストームバードの爆撃とラヴェジャー・ジーニアスヘッドの攪乱により時間稼ぎを行った。

結果謎の爆炎で、【United Instinct in Cardinal】を撃破した。

 

 

……

 

 静寂になった結晶宇宙に転移してくるアスナ。

そして、彼女の無事を見て、キリトは彼女に歩いて近づく。

ユイは母親の姿を確認した瞬間走り出して、その胸に走り込みダイブを行った。

 

「ユイちゃん、無事だったんだね!」

「はい、パパがすっごく強かったんですよ!」

 

 アスナはユイを抱きしめ、安否を確認したところでキリトに視線を向ける。

 

「アスナ、無事でよかった」

「うん。キリト君なら問題ないって信じてたから」

「おいおい、ずいぶんな信頼だな。ま、負けるつもりはなかったけどな!」

 

 キリトはアスナと拳を合わせて、お互いの健闘をたたえた。

普通なら抱きしめたりするが、ここは戦場である。

攻略組である二人は、そこまで周囲の状況を自ら視認不可にするほど愚かではない。

 

「そういえば、茅彦さんは?」

「茅場さん?そういえば、帰ってきていないような……ま、まさかと思うけど……」

「調べてみる」

 

 ユイはキリトの言葉を不思議がる。

普通ならば近場にあるモジュールを使えば、容易に露見できることなのにと思う。

だがそれをしない理由は、彼女にとって恐怖足りえる事となる。

 キリトはマスターソードに手を当てて、『夢波長』を使って周辺空間諸々を探知する。

 この探知によって夢波長というものを浴びたユイは、自身の全てを筒抜ける感覚に見舞われた。

これにより何故己の父親が、この世界に認定されない秘密が若干分かった。

そしてプレイヤー達がキリトの他に、もう一人のキリトが居る事に気づかない理由も把握することになる。

 

「駄目だ、居ない」

「嘘でしょ?どうやって、血盟騎士団に説明すれば……」

「パパ、モジュールが暴走して捕えられた事にすれば」

「ユイ、それは決してやっちゃいけない」

 

 キリトはまたしてもアスナへの情報規制を行うことになる。

ダークゼロの事と、ユイがカーディナルというSAOそのものとして一つに纏められた『ファンタジア』という事。

今アスナは国家レベルの軍隊を率いている。無駄に思考を増やさせるのは、お互いにとってよくない事として自己完結する。

 ユイも何故自分の事を云わないのか、父親に対して怪訝な表情を見せるが無駄に情報を与えないというのも一つの終着なんだろうと思い始める。

 

「その時はその時だ。とにかく、コンソールの所に行って、ユイをこの世界から分離しないと……」

 

 キリトがそういうと、ユイはゲームコンソールに向かって走り出す。

キリトも突発的行動に驚きながら、ユイの後をつける。

アスナはどのようにしてKOBを騙そうか、思考の海に浸っている。

気づいた時には、二人はゲームコンソールの場所にいた。

 

 アスナが気づく前にキリトはユイに追いつき、頼み事と補佐をお願いした。

頼み事には、48層でのゼロとユイの関係・キリトとダークゼロの情報の場所、ダークゼロその物・ユイのSAOとの切り離し・48層のパックの事等だ。

 

「わかりました。それと私自身がSAOですので、パパが操作しなくても大丈夫ですよ」

「いや、俺がやりたい事もあるし、やるね」

 

 最初にやったのは、ユイとカーディナルの『ファンタジア』としての記憶を、自身のナーヴギアの記憶領域にダウンロードしておく。

これでSAOが崩壊しても、娘だけは生き残る様になる。

 

「では、パパが欲しがっていた情報を開示していきます。

 もしここになかったとしても、恨まないでくださいね」

「恨まないよ。でもなかった場合、どうやって存在しているんだろうな」

「たぶん同じ様に私のような存在がいるのでしょう。存在がすでに世界である、とか」

「ははは、まじかんべん」

 

 キリトはありえなくもない可能性に、乾いた笑いが出てしまう。

其れもその筈、SAOをゲームとしての枠組みから解放し、独自路線のルールで世界を作り上げた。

こんな能力を持つAIが、プレイヤーの敵となればまず人間側に勝機が無くなってしまう。

自由に世界を創造できれば、自由に破壊することも可能。

唯一の救いである、フラグがtrueで稼働中は改変できないという仕様には感謝だ。

 そしてユイは遂にパンドラの箱を解き放つ。

そこには数多の秘密情報に溢れていた。

 

【48層の進行具合】:現在平常通り稼働中。

それじゃない。

 

「パパ。集めた情報を云いますと、48層の表フィールドはSAOの47層のフィールドデータが使われていました。

1層以外全て別のフィールドデータで埋まっている中、これは非常に奇怪です。

それと今現在の48層はSAOのデータが全て破壊された、または取り除かれたので元に戻ったということです。

 

 それを根拠付けるのは、人の感情によりユイの論理行動が阻害されバグったことによる暴走と、カーディナルという存在が何者かによってユイと融合されたことです。

そして人の負の部分を己の力として使う強大な存在により、全ての負のエネルギーが集中しました。

しかしそのエネルギーを集めるには管制する存在が必要であるとして、ファンタジアとして融合された私達がその者と融合しました。

 

 これでゼロと私達の因果関係がはっきりしましたね。

おかげでゼロが破壊されると、私達が電子世界から分離され実体化したと云う訳ですね。

 

 次にダークゼロですが、これは私達と同じくSAOが不可解でありながら、強い願いを持つ者を具現化する情報処理と同じです。

偶に死者の中で生者に対して強い想いを抱いているプレイヤーが居た場合、SAOは感情の解析をするのと共に変わった処理を行います。

それは生者に対して気分的に悪い方向に行かせることもありますが、基本的に無害であることが多いので無視されます。

 ダークさんは特別で、概念的なものが影キリトとして存在が認められた物に概念が入る事で実体化しました。

ですのでダークゼロさんは、パパの半身であるともいえます。

 

 それとパックですが、今此方でパパとダークゼロさんの存在をパックというもので安定化させました。

元々存在しないので無理やり作った結果ですね。

ですが実際パパは、ここらに浮かぶ電子情報なので簡単に消滅する存在でした。

つまりフラッシュメモリ内に存在するだけの情報です。

今しがたHDDに保存されましたので、大丈夫ですよ。

 

 それと今後もパパのために動きたいので、プレイヤーであるとともに重要機関として不死属性とパックの贈与を発生。

これで私はパパとママと戦場を駆けることができます」

 

「ちなみに貰ったのは?」

 

「【AinCrad】です。

本来のSAOを楽しめるほか、SAOの全ての情報を扱えます。

そしてこのゲームにモンスターを召喚することで、鍛えることができます。

プレイヤーは鍛えられたモンスターと戦うことができます。

基本的にトップダウンAIなので、プレイヤーと共闘させるとめちゃくちゃ強くなります。

 一種のシミュレーションですね」

 

 この会話の後アスナがゲームコンソールに走って来た。

その表情は焦燥に駆られている。

 

「アスナ、遅かったな」

 

 キリトはアスナの行動の遅さに笑う。

 

「悪かったわね。どうやって誤魔化そうか考えていたのよ」

「そこらは考えているだろ。何もしない馬鹿じゃあるまいし」

「ゲームマスターなのに殺されるなんて、馬鹿じゃないの!?

 せめて不死属性くらいかけておきなさいよ」

「いや、無理だったと思うぞ?」

 

 そういうキリトにアスナは驚愕する。

更にユイはコンソールを操りながら、キリトの発言を擁護する。

 

「はい。無理ですし、不死属性は彼らに効果ありません」

「あのユナイテッド?」

「そうです。パパがいうように、コンソールの加護がある彼等は純粋な戦闘では負けます」

「え?」

 

 アスナは純粋な戦闘では敗北するという言葉に衝撃をうけた。

其れもその筈、機械獣による面攻撃が意外と効いていたからだ。

だからユイの言葉は、ありえないというように受け取られてしまう。

 

「ママは国家レベルの軍隊を繰り出しているのですから、勝利することや圧倒することができます。

しかしヒースクリフは、デュエルというワンマン勝負をしたことで、容易に防御を貫かれて死亡しています。

それに万が一不死属性であったとしても、それに対する割り込み武器が装備され貫通されているでしょう」

 

 圧倒的な戦闘能力を持つ攻略組でも、世界を守護する敵は一筋縄ではいかなかったようだ。

そしてアスナは思い出す様に、ユイに対してお願いをする。

 

「ユイちゃん、このゲームのラスボスを調べてほしいんだけど、いける?」

「やってみます……ああ、ダメです。プロテクトされました」

「あぁ、やっぱり」

「流石に無理……か」

「いえ、先ほどのクラッキングで、重要な情報を一つ手に入れました」

 

 ユイの発言を聴いて、二人は耳を澄ませる。

 

「第一層の裏ボスの稼働が始まっているとのことです」

「裏ボス?という事は……」

「まずい!!」

 

 キリトは叫ぶ。

ユイは首を傾げキリトの焦りっぷりを理解できていないようだ。

基本的に裏ボスは、そのダンジョンやフィールドを舞台に戦闘を行っている。

普通ならば攻略組やNPCだけで、被害が極少数に絞られていた。

 しかし第一層は非戦闘プレイヤーが集まる場所、『はじまりの街』がある。

ここで裏ボスが出現するというのは、想定外にも程があった。

実はキリト達は裏ボスというその存在と戦闘区域に関して、当時は無知だったのだ。

だから誰にも告げられなかったし、申告したとしてもそれが信用に足るものかもわからなかった。

 

 最初からボスと裏ボス、ダンジョンと裏ダンジョンがあるだなんて誰が信じようか。

其れに裏ボスという存在やパック・英雄といった情報は、非常にデリケートで半年以上経過した25層の時点でもまだ秘匿扱いだったのだ。

なにせ入手すれば、確実に負けなし。

一部の英雄は、何回か死んでも生き返れるというストック制度がある。

 またその制度が採用されている英雄は少なく、それらも極秘でストック制度事態がブラックリスト扱いだった。

だからヒースクリフが、それらの情報を攻略組に渡しそこから普通のプレイヤーに情報が行き渡るまで、もう半年かかったのだ。

 

 そして裏という存在に全てのプレイヤーが知ったのも、ゲーム開始の一年後。

攻略組は7カ月後に知り渡ることとなる。

 基本的に裏ボスは、裏ダンジョンでの戦闘になる。

だから被害なんて考えないで、行動を起こすことに専念することができた。

だが今回の第一層は、これまでとは全く違う様相を見せることになる。

 

 裏ボスは広大な表のダンジョンを使う。

 

 この情報は誰も知らない。

まず裏ダンジョンがこのゲームコンソールのある場所として使われている時点で、

裏ボスが表ダンジョンしかつかえないという可能性を考えることができた。

 

しかし第一層から裏ボスがいるとは思えないだろう。

 

 いや思う事が出来ても、その規模は小さかったはずだ。

だがキリトやアスナ・アーロイが見たのは、超大型の機械獣であり古の型ばかりが停止・たむろしている場面だった。

あれが表で暴れるのならば、非常に厄介なことになる。

まず歴史的に見て、この機械獣達は生命をバイオエネルギーにして活動する。

 この時点で敵となるモンスターが狩りつくされるのが分かる。

そして自己修復機能と自己進化プログラム・自己生産機能により、不死身に拍車がかかる。

この要素だけで詰みなのに、表ダンジョンを突き破って表フィールドに出てきてしまう。

寧ろ戦える場所が、広大なフィールドしかない時点で裏ダンジョンに収まるとは思えない。

 

 表ダンジョンと云うのは迷宮区の事。

 

 だから裏ダンジョンは、迷宮区の地下か48層のように別の所へ行くかの二択だったりする。

ちなみに25層の場合、裏ダンジョンは数多の伝説のポケモンの出現フラグとその場所で、

裏ボスはディアルガ・パルキア・ギラティナ・アルセウスだったりする。

 

 キリトはユイに帰る準備を早急にすることを伝える。

 

「パパ、ママ、どうしたんですか?」

「ヤバイってもんじゃないんだ!アスナ、アーロイとメールはできるか?」

「ダンジョン内なんだから、無理に決まってるでしょ!」

「そうだった……!」

 

(「ダーク、『緑の場合』を使えるか?」)

(「使えるも何も、単体使用は容易だ」)

 

 

 キリトは『緑の場合』を使う。

戦闘じゃないので、バフ効果しか発動しない。

彼はユイとアスナを抱えて、一気にこの制御室から出ていく。

そしてコペルやジャッカル達が待つ入り口まで、一瞬で移動することができた。

 

「コペルさん!」

「お、帰って来たか。全軍撤退するぞ。さて、キリト、何をしてほしいか、言ってくれ」

 

 察しが良すぎるコペルに、キリトは心の中で称賛する。

 

「世界の真理に触れて来た。その中で第一層の裏ボスが稼働中とのことだ」

「なるほど。裏ダンジョンがこうしてあるという事は……わかった。

 『軍』のコネを使って、第一層に集結させよう」

 

 圧倒的な先読みでコペルは状況を理解し、通信機を手に持って会話を始める。

会話の相手は誰なのか、きっとすぐに理解できるだろう。

 

<わかった。非常事態宣言を出させてもらう>

 

 この聲はシンカーのものだ。

そしてこの聲の後、全ての優良プレイヤーに非常事態宣言が発令される。

内容は第一層の裏ボスが、表フィールドに出てくるという内容だ。

今まで非常事態宣言はなかった。

というより、この割り込みはゲームマスターにしかできないことだ。

 ユイはコペルに対して、その事を云う。

するとコペルはユイに、ヒースクリフからその権限を『軍』の特権階級の者全てが所有していると言った。

つまり本当の意味で、軍はKOBと提携しあっていたと言える。

 何より驚くのがアスナで、自分の大切な物を他者に提供するとかありえないなんて言っていた。

其処はさすがにプレイヤーとして、彼等を見ていたんじゃないかとキリトはいう。

ヒースクリフの慎重さと大胆さは落差がある、とコペルは言っており、あながち間違いじゃないかもとアスナは溜息をつく。

 

「とにかく、地上へ急ごう。全く、結晶無効化エリアじゃなければ、早急に帰還できたんだがなぁ」

 

 裏ダンジョン特有の現象である、結晶無効化エリア。

これはいろんなところで見られる現象だが、これによって引き起こされる帰還結晶の使用はまず不可能。

おかげで裏ダンジョンで死ぬプレイヤーは結構いる。

 ただこんな場所に入り込むのは、攻略組や英雄を連れたプレイヤーしかいないので死亡者は極端に少ない。

 更に地上において結晶無効化エリアがあるのは、今の所確認されていない。

だから一般のプレイヤーはこういうエリアがあること自体知らない。

 

 結晶無効化エリアがもたらす悲劇。

それは一瞬であらゆる被害を回復する手段を失う事、長距離転移、最寄りの街への帰還等。

非常に文明の利器といえるようなものばかり。

この特性になれていれば、ごり押し不可能な状況やポーションといったアイテムに頼り切る展開についていけなくなる。

 それ依然にごり押しなど、ゲーム性を著しく失う行為は命を失う事と同義だ。

 だから慎重に臆病に生きる術を持たなければ、いくら戦闘力や勇気が有ろうと結果論として暴力と蛮勇にしかならない。

そうでなければ無残な骸を、黒鉄宮にある石碑に表示されることになる。

 

 とにかくコペルは撤収を言い渡し、キリトやアスナ・ユイと共に地上へ戻る。

この帰還の強行軍を進めている時、コペルは無線を使って話しまくっていた。

どこへ話を向けていたのだろうか。

それはまだわからないが、この裏ダンジョンを抜ければ誰でもわかることであろう。

 

「パパ、ママ、稼働率が76%になりました」

「「っ!」」

 

 ユイの死刑宣告にも似た報告は、キリトら二名の緊張を高める。

ユイは無邪気にキリトに、肩車をしてもらっている。

状況は非常に切迫しているというのに、だ。

 

 この裏ダンジョンの出入り口である階段を登り、例の集まった広場まで帰還する。

途中で出くわした敵は、ジャッカル達や先遣隊・ラヴェジャー部隊により殲滅された。

おかげで無傷でここへ入場できた。

ここはセーフルームであるため、タゲが移っている隊員が全てこの広場に来ると敵は消滅した。

 そして全員無事であることを点呼し、漏れがないよう再確認する。

 此れにて帰還となる。しかし空気は若干重い。

ヒースクリフの死もあるが、此処に集まり存在する人物らをみてキリトは背筋が震えあがった。

 

 キリト達が必死に駆けて来て息を整えると、目の前をちゃんと向く様に姿勢を正す。

彼は眼前の光景に身体を硬直させてしまった。

 

 三人の目の前には、『軍』の外交責任者であるキバオウを含む特権階級がそこに集合しているのだ。

 

「た、ただいま戻りました」

 

 圧倒される覇気に気圧されるキリト。

カリスマというのか、それともプレイヤーにはないその圧倒的な何かでキリトは敗北を認めた。

変な意地の張り合いが全くない事で、早速話に入ることができる。。

 

「良く戻った、キリトはん。そこで、世界の真実とヒースクリフについて教えてもらおうか」

 

 キリトはキバオウに世界の真実である、ユイとカーディナルの複合体『ファンタジア』がSAOというゲームの枠からはじき出された事を伝える。

元々のSAOのゲームシステムは、彼女にパックとして贈られ本質の保護は完了した。

今のSAOはSAOですらない、ただのヴァーチャルリアリティでしかない。

 ラスボスというものや目的を調べてみたが、プロテクトがかかっており最奥部へのアクセスはできなかった。

その代わり第一層の裏ボスの存在とその稼働率を調べることができ、どのような侵攻をしてくるかも知ることができた。

 

「ボスの名前は分かりませんが、此処から最北端にある迷宮区から出現。

迷宮区の壁を破壊して、はじまりの街を完膚なきまでに破壊する事が、敵の勝利です。

私達の勝利は、最後にでてくるひときわでかいのを倒せば勝利です。

それと謎の計算とプロトコルの並列計算が行われていました。これが何なのかわかりません。

しかし、警戒するに足る項目です」

 

 ユイがキリトの肩の上から、彼等に語られる。

物怖じしないその胆力は、人の表からくる覇気よりも心の奥からくる憎悪の方が恐ろしいが故だろう。

更に彼女は物理的に上から目線で、物事を喋り『軍』に忠告した。

ユイがそういう存在だからこそ許されるんだろうが、これが人間ならば非常にまずいことになる。

魔女裁判不可避だろう。

 

「わかった。次はヒースクリフ団長や」

 

 するとキバオウは後ろから、緑の帽子と服を着こんだ金髪碧眼の青年を引っ張って来た。

その青年はずれる帽子を支えながら、勢いよく前にでてきた。

 

「彼はKOBのヒースクリフの英雄や。彼が今後の団長になる。紹介しなや」

「ああ。俺はリンク。血盟騎士団元副団長、現団長だ。

ヒースクリフから話は伺っている。彼はこの戦いで死ぬだろうという、タロットカード占いで運勢を決めた。

だから俺達は別に動揺していない。しかし、最後を知る権利がある」

 

 リンクの有無を言わさない圧力の言葉に、キリトは頷き返す。

青年リンクは片手盾・長剣の他にも冒険道具がその服に多く装着されている。

それら小道具は、どれもこれも使い古されたような形跡が見て取れる。

今までどのような死地・激戦を潜り抜けて来たか、予想にはできないが感じ取ることができる。

 そしてその佇まい。

トップギルドの団長を前にして、一歩も引かない姿勢。

それでありながら、強気で強情ではなく逃さないための言い包めや言い逃れができないよう、言葉で布陣を敷いておくのが上手だ。

 

 キリトはリンクに言われた通り、ヒースクリフの最後を包み隠さず明かそうとした。

その種明かしはキリトではなく、ユイがすることになる。

彼女は全ての戦場を見渡す能力がある。

それが如何に離れていても、影響範囲内であればどこでもいつでも監視することが可能だからだ。

 故にユイは自身を守るプログラムに敗北するヒースクリフの最後を、

着色しないでそのまま伝えた。

 

「……という事です。満足していただけますか?」

「ああ。彼もまた、立派な騎士だったということが、良くわかった。

キバオウ、外で待っている」

「応。気ぃつけぇや、次の戦いがあるんやで?」

「知っているさ」

 

 キリトは見てしまう、彼の俯いた顔を。

その表情は悲哀ではなく、嬉しそうな顔だった。

目は笑っていない口だけが笑っている。

この笑みに、キリトの背中に悪寒が走る思いだった。

 

 この後キリトはアスナに、ユイとカーディナルのことについて隠していたことについて怒られる。

しかし彼は彼女に対して、無駄な思考を増やさないように配慮したかったという旨を話した。

彼女は腕を組んで若干苛立ったように垣間見えたが、少し時間をおいてため息をついた。

 

「キリト君は私よりも『軍』の方が大事なの?」

「だから違うって!茅彦さんが死んでしまって、その事実の言い訳とかそこらを考えなければならなかった。

 でもさらに追い打ちをかけるように、ユイが何者であるかしゃべったらますます混乱するだろ?」

「しないけど?」

「そうですか……」

 

 彼の気遣いは、空を切った。

しかしその心意気は彼女自身を思い遣っていることなので、すぐにアスナはキリトに感謝の言葉を伝えた。

うなだれるキリトはその言葉を聞いて、調子を取り戻した。

 先ほどよりも一層と元気になったキリトは、コペルとジャッカルたちに挨拶して第35階の田園地帯へ向かう。

この田園地帯には、キリトが作った『黒の英傑連盟団』の本拠地があり、多くの仲間がいる。

 

 そう、今回のことに関して早急に会議をして、裏ボスのために一層へ向かうのだ。

表に出たとき、キリト達の下に多くのメールが着信していた。

これを見たキリトやアスナは、順次35階の本拠地に集合するように返信する。

 

<キリト。我はパックとしての付属品となったが、話さぬのか?>

<切り札は多い方がいい。

それに俺たちの分離攻撃は、ただのAIが補佐していると思わせておいた方がやりやすい。

 まさかボスのボスが半身として存在しているなんて、思わないだろ?>

<我もそう思っていた。手札は教えるものではない。

見たいものに見せてやればいいのだ>

 

 キリトとダークはお互いに話し合って、またもや打ち開かすことはやめることになった。

さらに情報漏洩と団長としての噂の質を守るため、今は謎の二刀流剣士にさせておいた。

こうすることでパックを持っていない純粋な剣士として、プレイヤーたちの羨望と希望の的になるだろう。

また今回のヒースクリフは死亡し、連盟団のみの帰還がマスコミにばれて周囲に拡散されるのも時間の問題だ。

 これらの情報が開示されると、見殺しやらなんやらとあらぬ風潮が立つ。

だがそれ以上にパック保持者でないキリトの存在が、さらに強靭となっていき彼の名声がうなぎ上りになる。

この名声の在り方は、彼にとってあまり気持ちのいいものではない。

しかし今回巻き起こされる裏ボスは、プレイヤーすべてを巻き込むと思われる壮絶なものになると思われる。

 だからこそこのような名声があるということは、ある程度生き残るために彼の言うことを聞いてくれるということになる。

 現在第一層『はじまりの街』にプレイヤーは、資本主義で享楽を享受している。

それに自分にとって関係ないことなど、負のものは圧倒的な嫌いがある。

この欲望につけこんで、人をある程度操作しようと思っているのだ。

いや実際に操作できないと、詰んでしまう可能性がある。

 

<実際問題、動いてくれるのか?>

<甘い蜜を啜っている奴らは、後ろがないことはわかっているだろう。

 参加せざるを得んだろう>

 

 

 キリトとダークは、そういう結論へ至る。

しかし物事は失敗する確率の方が高い。

日本人は集団心理が働くので若干確率が高いが。それでも自由主義にまみれているので実に個人的だ。

聞かないし全く効かない事を再前提にして動く必要がある。

 それでもできるのはここまで。あとは軍の手腕が試されるだろう。

 キリトとダークはこの話を切り上げて、街中で装飾品を見ているアスナとユイの下へ向かう。

そして全員の用事を済ませて、三人は35階へ急ぐ。

 

 




 ハーメルン上に一部保存していたのがあったので、
それを手直しして書き出しました。
本来の流れはこんなものです。
途中から文章が適当になるので、たぶんどこから追記したかわかるでしょう。

 これが最後です。
ありがとうございました。


(この後の流れ。隠されていたKOB・軍・そのほかプレイヤーとその英雄が集結し、
第一層の裏ボスに挑みます。この裏ボスで、例の並行計算のアレとか
時間稼ぎのアレとか、リンクのアレとか……。
さらに現実世界も数年経過しているので、現実のVRゲームのアレ関係とか、
あれやこれやの人達を組み合わせて、コロシアムでユニゾンや本家二刀流でお祭りわっしいとかありました)
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