ソードアートBro's   作:名無しの権左衛門

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集結

 第35階。

ここは敵性モブが迷宮区以外存在しない、非常に気楽で面倒な階層だ。

気楽なのは目に見えてわかる。

面倒なのは、迷宮区のモブが存在しないと言っても過言ではないほど出現しない。

おかげでレベル上げができず、迷宮区のフロアボスと対峙しなくてはならなかった。

 しかしここのボスは拍子抜けするほど弱かったので、何事もなく上へ行くことができた。

裏ボスはKOBにより、一瞬で蹴散らされた。

 

 ここのテーマは、『牧場』だ。

とあるプレイヤーによると、元ネタは『牧場物語』というもので訪れたプレイヤーすべてに農園やら田園などを与えて好きに過ごさせ、好きなヒロインと結婚するというのが目的なようだ。

しかしこのフィールド上、どこにもそんなNPCや小屋は存在しない。

その代わりいろんな機能を保有しているロボットが、そこらへんを徘徊している。

 プレイヤーは最初に田園などを一か所もらい、そこから農作物などを収穫してコルを増やす。

さらに派生して酪農・畜産・漁業・林業など、いろいろできるようになっていく。

 

 細かく言うとキリがない。

しかしソロにはソロへの仕様があり、ギルドやパーティへの特典が存在する。

だからここは一度訪れて、居住権を得るのも一興である。

 

 

 さて『黒の英傑連盟団』は、ここに初めてギルドの拠点を置いた。

適正テーマフラグが存在する階層がなく、パックを渡せていない三国や戦国武将にとって、農作業は得意中の得意な

農民出の者が多い。

ここで彼らは農民としての知識を出したり、個々人に与えられているスキルを活用するようになる。

 フレンドとして英雄とともに行動しているプレイヤーは、圧倒的なコストダウンを図るようになる。

しかし持っていないプレイヤーは、育てた農作物などは腐らないなど救済措置が存在する。

こういうささやかな仕様のおかげで、35層はお駄賃稼ぎとして優秀な場所になった。

 

 さて、こういう農場は場所が限られていたり競合が発生するのだが、35層で土地を購入すると転移門以外の別の門から自分の農地へと転移するようになっている。

表フィールドは、ただたんに素材集めのための場所。

転移先は自分の家や農園などがある。

 

 こうやって場所が分かれているので、いちいち太閤検地レベルで面倒なことは発生していない。

 さらに場所が違うので、ロボットの機能にある土地購入でコルを支払うことで、さらなる大地を得ることができる。

ギルドや仲良しパーティは、これによってさらに多くの収入を得た。

 

 

 建築・開発・冶金・研究・育成・模様替え、いろいろ本当に自由度が高い。

すべてを話そうものなら、きっと物語を作れるだろう。

そんな自由すぎるからこそ、スキルが生きるのだ。

 

 この広大な農園などを購入して、諸葛亮・趙雲・月英・リズベット・エギルによる研究や冶金が日夜行われた。

ソレの結果が月英の無双技の現代化であったり、料理スキルで作られる料理のおいしさだったりする。

『采配』スキルで、いろんな者や物を動かし効率的に物事を完遂する。

どこからか出現した兵士に、田植えを行わせることで効率を最大限にした。

 さらに肥料を馬糞や腐葉土などから作り上げ土地の栄養価を高め、多くの調味料を作り出し量産化することもした。

この恩恵は月英とアスナの調味料表作成を、半年ですべて終わらせるという効果を発揮している。

 

 こんないろいろとのどかな場所を本拠地としたのは、普通の場所だと襲われて破壊されてしまったり暗殺されてしまう可能性が高いからだ。

この場所は暗証番号だったり、同名不可という仕様を利用してその人物しか入れないようにしたり……。

本当に隠れ家という意味でも、この場所は非常に有用である。

 もちろん訪れることもできるので、許可申請からの受諾で訪れ相手の土地を散策することができる。

この事を知ったのは、調味料表作成から数日後のことだ。

 

 

 さて、35層へ転移してきたキリトは、プレイヤーとして登録されているユイをギルドに入団させた。

これにより35層の『黒の英傑連盟団』の農地へ、入る事が許可されたのである。

ユイのことはすでに全員が知っているが、『ファンタジア』のことについては誰も知らないので、新たに自己紹介する時間が設けられた。

 裏ボス出現となると配置時間もあって、非常に限られた時間配分だ。

それでも仲間の融和のためには、やっておかなくてはならない。

これをおろそかにするのは、普通に遊ぶ上でも許されないだろう。

ましてやこんな死が身近にあるこの世界で、命を預けるに足る存在なのか見極めなければならない。

 だが団長がそんな馬の骨を連れてくることはないだろうが、そうであっても納得させるためにはこのように紹介枠を設けた方がいいだろう。

 

「ここに来るのも、久しぶりなかんじがするな」

「キリト君、まだ一日経過してないよ?」

「色々あったからなぁ」

 

 キリトはアスナの当然の突っ込みに、一日の濃さを思い知らされる。

朝っぱらから第一層へ赴き、現夕方まで『軍』とともに裏ダンジョンの攻略をした。

攻略内容は一種の強い種明かしであり、世界の秘密が公になった瞬間だった。

そんな場面に一介のプレイヤーが、立ち会ったというわけだ。

 改めて振り返ってみると、とんでもないことである。

なにせ打ち捨てられたプログラムと本来のSAOのデータを内包した、『AinCrad』そのものが自身の味方となっている。

これがどんな優位性とプレイヤーの嫉妬心を生み出すことになるのだろうか。

それは全く計り知れない憎悪となるだろう。

 

 キリトとアスナは真ん中にユイを挟んで、彼女の手を握り彼らの本拠地へ歩いていく。

もちろん田畑を踏んでいくのではなく、ちゃんとした仕切りである畦道を通っていく。

田畑にはいろんな色の果実をつけている草木や黄金畑と化した小麦・大麦・稲の海を横目に見ながら、

特に大きく目立つ一件の家に向かう。

その家の周囲は大きな広場があり、今も趙雲とシリカが模擬戦を行っている。

 

<改めてシリカは素晴らしい。我が物にしたいぞ>

<俺はアスナっていう、心に決めた人が……>

<それは現実世界では、という意味だろう。しかし電子世界まで、国境や法律を敷く意味などあるのか>

 

 キリトとダークは、アクロバティックな動きをするシリカを見て、いろいろ思案を巡らせる。

そんな思いをしているとは思わないアスナは、ユイからシリカのすごさを語られる。

 

「やっぱりシリカさんはすごいです!違う意識とかやぶれた世界とかいろいろあるのに、

すべてを自分自身の力だけでカバーしてます!

それにレックウザやアルセウスという、パワーバランスを崩壊させ思いの増長を図る存在をちゃんと自身の心持で御しています」

「へー、そんなとこまでわかっちゃうんだ」

 

 アスナはユイの電子的人間観察に、ちょっとした驚きを見せ普通にその意見を受け入れた。

これが意外と難しい事なのだが、自然とやってのける。

さすがに二年目となるSAOプレイヤーは、一味以上も違う倫理観を持つようだ。

 

 三名が本拠地に近づくと、シリカと趙雲は模擬戦闘を終了させキリト達を迎え入れる。

 

「皆さん、おかえりなさい」

「三人とも帰ってきたか。ユイ殿はここを出たとき以上に、何かを得たようですね」

「わかるのか?」

「ええ。AIである以上、これくらいのことはわかります」

 

 自虐でもなんでもなく、自身の正体を認めたうえで利用している趙雲はキリトの疑問を打ち払う。

また趙雲は諸葛亮やサトシ達の成し遂げた事を伝え、シリカはアスナとユイを家に案内する。

 キリトはそれを見て、趙雲にメールで知った内容を伝える。

その内容というのは、試しに武将固定の武器以外を装備できるのかというものだ。

”はい”か”いいえ”でいえば、”はい”としていえる。

しかしそれがSAOプレイヤーが作り上げたSAOの武器が装備可能かというと、全く装備できなかった。

それなのにある時装備できるようになっていた。

 時期は不明だが、ユイが『AinCrad』を手に入れた瞬間から、SAOの何かが無効になったともいえる。

 

 実をいうとほかのギルドからも、不可能な事が可能になったという報告が結構相次いでいる。

 その例の一つが、パック以外の専用装備も英雄とフレンドになっていれば、限定的だが装備・使用できるというもの。

例えば投げられた武器を掴んで投げ返すだったり、パックを渡されていないフレンドに武器を渡す事でスキルを使用できるようになったりというもの。

 

 もっと簡単に言うと、サトシとシリカ以外がフレンドになってポケモンの指揮権を委譲してくれる状態と同じ。

ゲームでいう交換のようなもの。使用者はそのフレンドでも、親は仲間にしたサトシ名義であるということと一緒。

わかるかな?

 

 

「これは?」

「ドイツ帝国印の軍用シャベルです」

 

 三国・戦国勢以外にも、世界史に存在する国家の武器を作り上げることができる。

 そのおかげで鍬や熊手といったゲーム基準の農具以外にも、いろいろと登場するようになりすべての階層で制限とその応用範囲の拡大がなされた。

現状このシャベルは、『采配』スキルにて諸葛亮の兵士が畑を耕すのによく使われている。

 例えば肥料や肥やしの生成など。

 

「槍とは違って長さは足りませんが、斬る・突く・刺す・叩く事が可能です。

 今はこれを渡されていますが、この後の戦闘のためちゃんと『竜胆』へ戻します」

「あ、ああ。まさか、これで裏ボスに挑むのかと思ったよ」

 

 趙雲とキリトは、笑いあった。

そしてすぐに趙雲は家屋に入り、武器の換装のため入っていった。

 キリトはこのエリアに居る仲間のリストを確認する。

リストには、キリト・アスナ・ユイ・シリカ・趙雲のみが明るく表示されていた。

つまり明るくなってない、暗く表示されている仲間全員が外部にいるということ。

 どんなに緊急事態でも、急激な状況変化なのでいろいろとおいついていない。

 メールにて本拠地へ戻ってくるように指示しているが、少々かかってしまうようだ。

キリトは焦っても仕方ないと思いながら、家の前にあるベンチに座ってみんなの帰りを待つ。

この間に裏ボスが復活していない事を、最大限祈ることにする。

 まあ祈っても結局相手の思惑により、勝手に進んでいくものだ。

 

 リストの名前表記で明るくなる人物が、二名。

その人物は空を駆ってこちらに舞い降りてくる。

 

「キリト!ごめんな、ちょっと遅れてしまった!」

「ああ!まだ大丈夫だ!ほかの奴らが集まるまで、待つつもりだ!」

 

 空に転移出現する人物。

彼の者はポケモンという存在にまたがり、歌手も驚きの声量でキリトと会話を交える。

 

「おぉ、リザードンもなんか強くなってないか?」

「裏ボスのために火力特化にしてきたんだ。リザードンナイトをポケモンリーグで、勝ち取ってきてやったぜ」

 

 通常通りのリザードンが地上に降りて、その背中から飛び降りるサトシ。

設定にある10歳とは思えないその身のこなしは、とんでもない生物であるポケモンが存在する世界で生きる人間として如何なくこの世界で発揮されている。

 彼はキリトと拳をぶつけ合う。お互いの健闘と安全を確認する証だ。

これをしなければ偽物扱いされ、お互いに交戦の許可と相成る。

 

「俺たちは一心同体だ。な、リザードン?」

「グルォウ」

 

 お互いに腕を曲げて、やる気を見せる。

 そんな彼らを見て、キリトは口角を上げる。

そしてキリトは彼らを、家の中で待機するようにお願いする。

 

「ああ、わかった。待ってるぜ?」

 

 リザードンをモンスターボールにしまい込んで、本拠地である家に入っていく。

 

 

 次にリストに表示されるのは、リズベットと月英だ。

 

「この素材は月英の武器に使うわね」

「いえ。私は無双で無双するので、リズさんが使ってください」

「いやいや、あの覚醒無双乱舞をやれば、基本的に大丈夫でしょ」

「ですが攻撃速度や攻撃範囲に劣る棍よりもましかと思われますが?」

 

 疲れた表情で腕を回すリズは傍らに月英を従えて、手に入れたであろう素材に関して色々意見を交わしあう。

 疲れていても非常に表情が明るく、鍛冶屋魂と攻略魂を見せつけるような振る舞いをする。

それは言動に自然と表れている。

テーマフラグ解放英雄ではない月英は、フレンド登録を全員とやっている。

リズは攻撃速度と安全性からみて、月英の戦戈を装備している。

 

「あ、キリト。まだそろってないわよね」

「お、応」

「じゃ、ちょっと鍛冶やってくるから」

「わかった。揃ったら呼ぶよ」

「そんじゃ、よろしく~。月英、行くわよ」

「はい。では、キリトさん、またあとで」

 

 キリトは話しかける余裕がなかった。

 それくらい熱心に会話していたし、何よりこれからの事を真摯に考えてくれていた。

キリトは二人の女性の背中を見送り、ベンチに座って待機することにした。

 

 しかし座ろうとしたとき、このフロアに咆哮が轟く。

キリトは非常にびっくりして、片手に『ドミネーションオブルーラー』を装備し周辺を見渡した。

敵がここに襲い掛かってくることはまずないというのに、この行動は別に間違っていない。

PKが常時周囲に潜んでいるこの世界では、通常の反応ともいえるだろう。

 

 で、その咆哮が聞こえた方向を見ると、そこには巨大な疾駆を持ってこちらに接近する者がいた。

リストには残りすべての団員が明るくなっていた。

つまりその遠くに霞むソレは、機械獣となる。

 メールでとある人物から、到着した旨を伝えられる。

 それを確認しているときには、すでにその機械獣の全容を目視できるようになっていた。

 

 どうやって見ても西洋竜な機械獣は、背中を地面に向け騎乗する三名を地上に落とす。

三名は無事に降り立つ。機械獣であるソレ、機龍は上空を高速で通過する。

その巨躯は強風を仰がせ、周辺に猛威を振るった。

別に影響は出ないが、巨躯がせまるという恐怖心は募った。

 

「久しぶりだな、キリト」

「アーロイおばちゃん、久しぶりだな!」

「……」

「ごめん」

 

 無言の圧力に屈したキリト。素直に謝る。

 

「おうおう、相応の人にはふさわしい言葉があるぜ、キリトよ」

「よっ、今日も大量みたいだな、エギル」

「ああ、諸葛亮と共に、聖龍連合に吹っ掛けてきてやったぜ。な?」

「ええ。私共の口車に容易く乗せられる様は、見ていて非常に愉快でした。

 まさか目先の利益に目がくらむとは……バカですね」

 

 まさかの辛辣な諸葛亮にドン引きするキリト。

それでもちゃんとこちらの利害を取得してきたエギルと諸葛亮の商人は、商売人の鑑ともいえる。

非常に強かで相手の事情に精通し、手元・足元・目元などから表情を読み取り流れを優位にさせる。

姑息で卑怯。しかし、有用な手段だ。

 

「二人とも、今はいいだろう?とにかく、中に行こう」

 

 アーロイがキリトを含めたこの場にいる全員を、家の中へ入るよう促した。

 エギルと諸葛亮は、それもそうだなと許諾し家へと歩みを進める。

 

 

<いつ見ても、最高の戦力だ。我の仲間とは違い、ちゃんと得意分野が分かれている。

これならば、一つの事で瓦解することはないだろう>

「当然。俺たちの歩みの結果さ」

 

 ダークのため息へ、キリトは毅然とした態度と口調で示す。

 もちろん彼らも中へ入っていく。

鍛冶屋としてトンカチを振るっているリズと補佐の月英を、冶金室から呼んでリビングに集合させる。

 

 

 

 黒の英傑連盟団団長であり、現在最強のキリト。

黒の英傑連盟団副団長であり、料理王のアスナ。

機械獣のほぼすべてを知り尽くしている女王、アーロイ。

総合百貨を扱う何でも屋商人エギル。

言葉の暴力で交渉を行い、田畑を耕し開発する諸葛亮孔明。

勇猛な突撃武将であり、素材集めなど雑用な趙雲子龍。

最高峰の鍛冶師、リズベット。

現代兵器を作り上げる熱心な科学者の月英。

龍から神まで宇宙を操る敏腕プレイヤー、シリカ。

すべてのポケモンと友達であり、最も理解しているサトシ。

全ての根幹を身に宿す最高のAI、ユイ。

 

 ほかにもパックという応急手当を受けたボスのボスである、ダークゼロ。

翠碧の神龍レックウザ。イヤリングと化した創造神アルセウスなど、身近に色々ある。

 

 

 木造建築である大きな家にあるリビングに集まるすべての仲間。

非常にアットホームな雰囲気だが、みんなが皆最高そのものの集いである。

ほかのギルドもそうだが、専門性でいえばここが最大だろう。

 

 今回集まったのはほかでもない、第一層の裏ボスとの戦闘に関してだ。

すでにギルドメールにて、数多のギルドから参戦表明とともに作戦に関するものを送られている。

KOBはリンクが中心に行っているが、その処理能力が非常に高い。

おかげでなんの滞りもなくすべての参戦表明を行ったギルドへ、情報が渡されていく。

 さらに裏ボスの詳細は、アスナやアーロイがすでに情報を送っており、どのような戦闘・規模・被害その他もろもろを含めた情報を『軍』の上層部に送っている。

故に提携をしているKOBを中心として、作戦と方面軍の割り振りがなされる。

 

 基本的にフロアボスは、2レイドまでの48人と決まっている。

だからギルドなどの団体は、ランダムで抽出されソロと即興の攻略パーティを編成される。

別にパーティを固定してもいいが、ちゃんと攻略パーティとして団体を構成していないとボスで思わぬしっぺ返しを受けてしまう。

ただ裏ボスは特殊であまり人数制限がない。

 このような制限のおかげで、人海戦術ができる。

その代わり被害もなみなみならない物になる。

例えば戦闘するフロアが狭くて、うまく戦闘できないとか。

まあそんなことはめったにないわけだが…。

 

 今回の裏ボスは第一層表フィールドを、すべて使っての戦闘になる。

 敗北は第一層の『はじまりの街』への到達とされる。

実際この街に到達される時点で、敵勢力に攻撃力がある事が予想される。

すると街への被害が、尋常ではない事になってしまう。

 どんなに破壊不能オブジェクトでも、すでにSAOではない何かのゲームな今ならぶっ壊される。

たぶん。きっと。そう……。

 

「『軍』から指示が来た。

『はじまりの街』北正面は複雑な高低差のあるフィールドなのは、皆知っているよな?

そこで俺たちは正面戦域で、立体的な戦闘を行うように指示された。

幸いアスナとアーロイや機龍、俺はドラグーン、他の皆はサトシとシリカにポケモンを借りればいい」

 

 特殊機材を用いて中央テーブルから立体的な地図を表示し、どのような進行ルートで来るかの予測とともに参加表明をしたギルドとソロらの配置を確認していく。

彼ら連盟団は、正面戦域。

つまり敵の攻撃を諸に受けるタンクの役割を担うということだ。

 今回ばかりはすべてが総力戦なので、多くのプレイヤーが協力しなければならない。

 そして今回は裏ボスなので、レート形式になる。

活躍次第で豪華アイテムを貰えるので、活躍した分報われる事だろう。

 

 参加するギルドは、攻略組や中堅層のギルド。

ソロは数千名で、大半は英雄持ちか英雄装備持ち。

テーマフラグ解放英雄は詳細がわからないので、まだわからない状態だ。

少なくともゲームを知っている人からによると、まだ対応している層がないキャラがいると報告を受けている。

 幸いわかっている中で、マリオ・ヨッシーらのテーマ層は49層以下にない。

 そしてこの49層までで、テーマフラグを開放している英雄は三桁を超えている。

しかし以前キリトが聞いたストック制度が用いられている英雄の開放は、49層中11層となっている。

別にストック制度がないから弱いというわけじゃない。

それでも再復活という要素は、このゲームだと非常に戦局が優位になる。

 さらに英雄は三桁を超えていたりしても、クッパのフィギュア化銃やPKギルドの暗躍で、結構な数の英雄はこの表舞台から退場してしまっている。

それでもまだ有力な英雄は残っている。

 

 キリトはこれらの現状を仲間に伝え、どのような陣容になるか想像してもらうことにした。

ただ一番強く念を押すのは、正面戦域で真正面からぶつかることだ。

これが一番大事。これ以外は別に知らなくてもいいことだが、知っておいて損はない。

 

「よし。皆聞いてくれ。ユイの事なんだが――」

 

 キリトは第一層で調べてきた事、『軍』と『はじまりの街』の事、ユイとカーディナルについて話した。

これらの事を伝えると、皆驚愕の事実に動転する。

それでも彼らはユイとカーディナルを受け入れた。

 呼称はユイのままで行くことになる。

 実際キリトは仲間を信じているにもかかわらず、もしもを考えてユイまたは拒絶した仲間への

対抗措置を考えていた。

旧知の仲間か、であったばかりのAIか。

如何に自身らの子供であろうと、調和を乱すのならばどうにかしなければならない。

 そこまで非道になれるのか、彼自身は思った。

 思ったにもかかわらず、キリトはできるわけがないと歯噛みした。

だからこの結果は非常に嬉しくもあり、逆に不安を抱えた。

やはり31層のポーキーに毒されているようだ。

 

<もしユイと他の皆を天秤にかけるなら、俺はどちらかを捨てなければならない。

 これがいつか来るとなると、怖いんだ>

<ならばどちらも守れるよう、強くなるしかなかろう。

 我はキリトの半身也。故にお主が強くなるためならば、どこへでも行こう>

<ありがとう、ダーク>

 

 ユイとアスナを中心に、皆が楽しく盛り上がっている最中キリトは暗い表情をしていた。

しかしそんなキリトを支えられるのは、アスナともう片方の存在であるダークである。

実際語っている秘密より、さらに上位の秘密を知っているのがキリトとダークだ。

話さないのは漏洩を防ぐためと万が一のための対策だ。

 話したいが話せない。それはもう、仕方ないのかもしれない。

 

「キリト君。顔色が悪いよ?」

「え?」

 

 ふと顔を上げると、そこには心配そうな顔をするアスナやギルドの仲間たちの表情があった。

 キリトは何もないと繕って、隙をついてアスナとともに外に出る。

外はすでに夜で、星が天を覆い瞬いている。

この星空は最初キリトを含めたプレイヤーすべてが、驚き涙を流したものだ。

 アインクラッドの天は、上の階層の床下の壁。

だから太陽や月光、星空なんてものはない。

一応仮の星空が、その天井に描かれるがそれはただの絵のようなもの。

 

「アスナ。頼みがあるんだ」

「何?」

 

 キリトはアスナと手をつないで、面と向かって話す。

 

「俺を信じてくれないか」

「何言ってるの?私はキリト君の事、信じてるよ」

「違う、そうじゃないんだ……」

 

 彼はアスナと握る手に力を入れてしまう。

 

「たとえどんな事があっても、信じてほしい。

アスナを俺が信じていない訳じゃない。

だけど俺は……いや、言い訳だ……ごめん、アスナ」

 

 何を言うのか不安げな表情をしていたが、キリトの独白に彼女は微笑む。

何かにおびえ震えているキリトの手を、しっかりと握りしめ彼に寄り添う。

 

「大丈夫だよ、キリト君。

決心がついたら、絶対話してね。約束だよ」

「ああ」

 

<……>

 

 

 この後二人は家の中に戻り、仲間たちとおいしい食事を楽しんで明日のために寝ることにした。

ここの時間の流れは、外界とは少し違うからだ。

それでも外は夜だ。 

 

 夜更け。

 

 キリトは二人に分裂する。

白キリトはダブルベッドにて、アスナとユイとともに仲良く寝ている。

影キリトは静かにこの家から出る。

さらに後ろからついてくる人物が二名。

それは諸葛亮とユイだ。

 

「ユイと諸葛亮か。どうしたんだ」

「どうしたって……」

「どこに行こうというのですか?」

「我の勝手だ。別にいいだろう?」

 

 そうすると影キリトに、ユイが抱き着く。

その行動は予想外で、かなり戸惑うダーク。

 

「まさかと思いますが、あなたは自分の事をいらない存在だと思っていませんか?」

「……考えなくもない。我はキリトの心の一番近いところで、様子をよく感じていた。

 その心は非常に優しく、脆く、親愛に満ちている。

 我とは正反対だ。我のようなものが此処にいては、キリトは真の意味で闇に立ち向かえなくなるだろう。

 ならば我は消え、心を返すことにする」

「……なるほど、そういうことでしたか」

 

 諸葛亮は羽扇で口元を隠し、目線をダークに抱き着くユイに向かせる。

 

「ダメです、ダークさん!あなたが居なくなったら、どうやってキリトさんを支えるんですか!」

「アスナが居るだろう?奴はキリトを幸せにする。我というもう一つの思考があるところで、奴は幸せになどなりはせんのだ」

「違います!パパはダークさんを信頼してます。いなくなったら、今度こそパパは崩壊します!」

 

 実をいうと、キリトは限界が来ていた。

本来のSAOなら変な物語などなく、死にあらがって日々を生きていけばよかった。

そう、人との情緒との闘いがあったりするが、それでも格段に違っただろう。

 SAOの垣根を越えて、今ではもうSAOですらない何かだ。

それぞれの層はゲームに準じたテーマがあり、その層のボスと裏ボスを倒していかなければならない。

別に裏ボスは倒さなくてもいいが、倒すとプレイヤーにとって有利なものがもらえる。

だからクリアしておいて損はない。

しかし簡単にクリアできるほど甘くない。

 第一層で50層に到達できるほど強いギルドやプレイヤーたちが、一堂に会し共同戦線を張らなければならないほどだ。

ほかの階層が如何に難しいのか。それは想像に難くないだろう?

 

 キリトは先ほど信じてほしいといったが、結局は口約束で裏切りは当然。

だから裏切られるという行為が、いかに彼を傷つけたのかそれを知る者はいない。

 彼は裏切りが許される層で、裏切られ裏切り表返って一時的な人間不信に陥ったこともある。

これが原因で仲間や英雄を失ったり、当時タッグを組んでいたアスナでさえ失いそうになった。

そう、裏切りや信じるということに、異様な執着を見せるのはその層で起こった事が原因なのだ。

 

 発狂に近い現象だが、まだはっきりと狂気に彩られていない。

それは現実世界に帰るという確固たる決意と仲間の命を、自分自身が担っているという責任感があるからだ。

 いやそれだけではない。

ユイを中心に出来上がった絆と気づかされたその心。

アスナを想う気持ちが、彼の精神を維持している。

 

 タッグを組むにあたって、徐々に依存していったと思えばいいだろう。

 

 ダークは思う。キリトを支えているのは、アスナだと。

だがユイは違うと言い。諸葛亮も、原因がアスナだけとはあり得ないと言っている。

 

「信頼と信用、仲間の事を念頭に置き、今まで戦っているのを見かけます。

しかしそれだけでは、もろく崩れ去るでしょう。

やはり、仲間であるとともに、同じ戦場を潜り抜けた戦友が必要です」

「戦友だと?」

「はい。つまり、愚痴を聞いてくれたり、同じ状況を潜り抜ける戦友です。

独りぼっちはつらいのと同じです」

「我はもともと負のエネルギーの塊である。そこらの感情はすまないが、わからない」

「なるほど。ということは、無意識でのフォローですか」

 

 諸葛亮はなぜか楽しそうにしているが、解決の糸口を見つけたのだろうか。

それにしても何故諸葛亮が、ダークの事を知っているのか。

まあ普通に考えて、真実を求める動きをするがそこらへんは聡いので、無駄な追求は行わないのだろう。

 

「ダークさん。お願いですから戻ってください……」

 

 影キリトは苦々しい表情を作る。

今あそこにいるのは白キリト。

感情云々もあるが結局は外見の変化に関して、アスナにとやかく言われるのが面倒なんじゃないか。

だから戻れ、とそう命令しているのか。

 

「侮るな」

「っ!? ち、違います!そういうわけじゃ……!」

 

 ダークの負の感情を向けられ、一瞬怯むがすぐに拒否の姿勢をとる。

本来の意味は分からないが、そうしないといけない。

すぐに感じ取るユイ。

 

「我が死ねば、キリトは元に戻る。そう、我はバグの産物だ。

つまり病気と同義である。病は駆逐され、正常に戻るのが世の常だ!」

 

 ダークは右手に『オーバーロード』を持ち、自身に傷をつけようとする。

事前にダークはユイから離れていたので、ユイや諸葛亮は直接その行為を止められることはできない。

しかし諸葛亮がすぐに雷の玉を作り出して、ダークの握る武器を弾き飛ばした。

一応圏内設定なので、ダメージは与えられずダークの体を大きく後退させた。

 またダークの自滅行為は、圏内設定であるのでHPが減少し死に至る事ができる。

普通ならば装備の耐久値をゴリゴリと、ポリゴンと共に削り落とすだけ。

だがダークは特殊な存在なので、直接体力が減ってしまう。

もちろんそこからの計算値は、能力に色々加算されているのでキリトと同じ状態を保持できている。

 

 ダークは地面に尻もちつき、阻害されたことに気づいて諸葛亮に対して殺気を込めた目を送る。

しかし諸葛亮は風のように、さらりと受け流すとダークのところへ歩み寄る。

彼は羽扇で口元を隠し、地面にまだ座っているダークへ視線を向ける。

 

「なるほど、あなたは自身を憂いているのですね。では、ここにて一計を授けましょう」

「一計だと?」

「ええ。非常に大事なことなので、ユイ殿にも手伝ってもらいます」

 

 諸葛亮は傍らにいるユイにも目配りをして、協力を促す。

するとユイは快く受け入れてくれた。しかしダークは頷かない。

なので今回の案の概要をかいつまんで、ダークに一つ話してみる。

 

「貴方が居ない事。それは別行動ということでとらえられますが、今からの裏ボスは非常に大切なものです。

すっぽかす意味がありません。そこで貴方の行方を眩ませて、キリト殿に焦燥感を駆らせて如何な反応を見せるのか、それを観測します。

 そして頃合いになれば、彼を助け出すのです。

そうすれば、キリト殿の本音を聞けるでしょう」

「それでいけるんですか?」

 

 ユイが怪訝な表情を、諸葛亮に対して見せてくる。

 

「ええ。今回の裏ボスは無茶なものだと把握しております。

基本的な心理学において、無茶なもの・絶望的状況が一気に希望へと変わると、

一時的に人の心は変化するのです。しやすいではなく、します」

「策士みたいです!」

「一応私は軍師ですよ?」

 

 二人が穏やかに今回の案を肯定しているが、ダークはキリトの強さをいろんな面で見ている。

だから諸葛亮の言い分を、鵜呑みにするわけにはいかない。

 

「……今回の裏ボスは非常に手ごわいと聞いている。

もしそれでキリトの身に危険があれば、それは我の責任となる。

このようなことでしかキリトの本音を聞けぬのであれば、我は早急に立ち去った方がいい」

「ボスのボスである貴方から、そのような弱音を聞くことになるとは……。

いやはや、キリト殿もやりますね。ところで、ユイ殿」

「なんですか?」

「稼働率は抑えてあるんでしょうね?」

「はい。カーディナルと協力して、コピーへ遅延工作を行っています。

なので、明後日まで持つでしょう」

 

 ユイがそういうと諸葛亮は、地面で項垂れているダークに話しかけ作戦に関して密を高める話し合いを農作業を行いながらしようと話しかける。

ダークはいつの間にか賛同の立ち位置に居たので、仕方なくそれに従う事になった。

太々しくといったところか。

 しかしダークの顔は少し憑き物が取れたような表情で、先ほどの暗い顔がどこかへ行っている。

やはり心配事を見抜かれたとはいえ、自分を失う恐怖・相手への意思など自身の手には負えない事を他者と共有する事で、加重となった苦渋を晴らすのは良かったようだ。

 

 

「ユイが外に行ったと思ったら……」

「キリト君……」

「お願いだから、裏ボスが終わるまでは聞かないでくれ……」

「うん……」

 

 

 そしてこの邂逅を月光差し込む少し開けられたドアから、キリトとアスナ夫妻はこの密会を聞き見ていた。

 キリトは今にも崩れそうなくらい揺らいでいる表情をアスナに見せる。

そんなキリトを見てしまった彼女は、目を閉じ今言及するのはあきらめた。

もしここで問い詰めていれば、どうなっていたのだろうか。

それはきっと最悪の結果だっただろう。

 

 腕で顔を覆うキリト。

 そしてため息をついて、ゆっくりと立ち上がり外から見えないように部屋の中へ戻っていった。

アスナもキリトを追う。

 

 




 相も変わらず読みにくいですが、読んでいただきありがとうございます。
活動報告でネタバレをするのが怖くなって、続きを書きました。
割と本気で設定を練ったので、ばらしたくないんです。
 
 いつ更新するかわかりませんが、またその時はよろしくお願いします。

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