それっぽい描写はあっても、出番が無かったキャラです。
私も割と好きな子なので、どうしても絡ませかったんです。
それと、全話の修正作業が完了しましたので、いつでも読み直してOKですよ。
「「はぁ~……」」
放課後。俺と一夏の溜息が重なって吐き出される。
一夏は女子達の反応と勉強の難しさに、俺は全く予想すらしていなかったクラス代表に抜擢されてしまった事実を嘆いて。
「……出るか」
「だな。いつまでも落ち込んでいても意味がない」
決まってしまったものは仕方がない。
こうなれば、後悔をするよりもクラス代表として相応しい人間になれるように努力した方がよっぽど建設的だ。
そうと決まると、俺達姉弟の行動は早い。
素早く教科書類を鞄に放り込み、教室を後にしようとする。
ここで、箒とセシリアが一緒に着いてきそうな気がするが、今回はそんな事は無かった。
俺達が落ち込んでいる間に箒は『見たい所がある』と言って出ていってしまったし、セシリアも少し用事があるとかで、申し訳なさそうに去っていった。
下校準備が完了して、いざ帰宅……と行きたかったのだが、ここでとある少女が俺達に話しかけてきた。
「ね~ね~。なっちー」
「…………まさかとは思うが、その『なっちー』とは俺の事を指しているのか?」
「そ~だよ~。『織斑千夏』だから『なっちー』。可愛いでしょ~?」
「それを聞かされて、俺はどう反応すれば?」
「笑えばいいと思うよ」
「俺は綾波レイじゃないから無理だ」
俺の笑顔なんて気持ち悪いだけだろうに。
「かんちゃんの言った通りのクールビューティーだね~」
「かんちゃん?」
誰の事を言っている?
俺と初めて会ったこの子の間で共通の友人なんている筈もないのだが……。
「君が言う『かんちゃん』とは誰だ?」
「なっちーもよ~く知ってる子。更識簪ちゃんの事だよ~」
簪、お前の渾名は『かんちゃん』だったのか。
今更ながら初めて知った。
「その簪の事を知っている君は誰だ?」
「あれ~? 朝のSHRで自己紹介しなかったっけ~?」
「あれは途中で中断されただろう」
「あ……そ~だったね~。にゃはは~」
なんと間延びした言葉遣いだ。
こっちまでペースを崩されそうになる。
「私は『布仏本音』。かんちゃんとはね~……幼馴染かな?」
「簪の幼馴染……」
まぁ……その……なんだ。
とても個性的な幼馴染とだけ言っておこうか。
キャラのバリエーションだけなら、俺達の周囲も決して負けてないしな。
主に束さんとか。
「かんちゃんがよくなっちーのお話をするから、私もお友達になりたいな~って思って」
「そうなのか?」
「うん。すっごく嬉しそうに話してたよ~。あんなに明るいかんちゃん……久し振りに見たな……」
……前言撤回。
簪、お前の幼馴染を自称する少女は、とても優しい子だな。
「簪の幼馴染と言うのならば、喜んで友達にならせてくれ」
「わ~い! これでなっちーとお友達だ~!」
「わぷ」
この程度の事で喜んでくれるのは光栄だが、だからと言って抱き着いてくるのは勘弁してくれ。
俺が体を鍛えてなかったら、確実に倒れてたぞ。
「ほんと……千夏姉って男女関係無くモテモテだよなぁ~……」
それ、お前が言っていいセリフじゃないからな。
去年のバレンタインにチョコを大量に貰っていたくせに。
いや……俺も一夏の事は言えないか。
何故か下駄箱と机の中にギッシリとチョコが敷き詰めてあったからな。
あれを全部食べるのには相当に苦労させられた。
「あ、おりむーいたんだ~」
「うん。分かってたよ。俺が空気だって事は。つーか、『おりむー』って俺の事?」
「そーだよー」
「間違いなく名字から取ったんだろうけど、それで言うなら千夏姉も千冬姉も『おりむー』になるんですけど?」
「先生は先生。なっちーはなっちーだよ~」
「布仏さんなりの枠決めがあるのね……」
所謂『自分ルール』ってやつだな。
俺にも覚えがあるよ。
例えば、道路の白線だけを歩いていくとか。
「あ! 二人共、まだ教室にいたんですね。よかったです、入れ違いにならなくて」
なにやら山田先生が教室の出入り口からこっちを見ている。
視線の方向から察するに、さっき言った『二人共』とは俺達の事を言っているんだろう。
「どうしました? 俺達に何か御用でも?」
「はい。実はですね、織斑君の寮での部屋が決定しました」
「「え?」」
このIS学園は基本的に全寮制となっている為、ここの生徒は例外なく学生寮に住まなくてはいけない。
それは俺も同じで、既に荷物の方は寮の部屋に運び込んである。
ちゃんと部屋の番号も記憶しているから、迷う事は無いと思う。
「一夏の部屋はまだ決定していなかったのでは? 俺の記憶が正しければ、最低でも一週間は自宅から通学する予定となっていた筈じゃ……」
「本来ならその予定だったらしいですけど、織斑君の場合は事情が事情なので、仮の処置と言う事で部屋割りを無理矢理に近い形で変更したらしいです。織斑君はその辺の事情は何か聞かされてますか?」
「一夏?」
「い……いや。全然全く聞いてないですけど……」
だと思ったよ。
一夏がISを動かしてから、色んな研究機関の連中が体を調べにやって来た……なんて事は無かったが、これからも無いとは限らない。
だからこそ、急いで寮に住まわせようと思ったんだろう。
多分、その辺の余計な輩は山本さん達が成敗してくれたに違いないだろうが。
日本のヤクザを舐めてはいけない。
「ですが、ここの寮は相部屋だと窺っています。一夏も誰かと一緒に住むんですか?」
「暫くはそうなりますね。でも大丈夫です。一ヶ月もすれば個室がちゃんと用意できると思うので」
相部屋と聞かされた途端に不安そうになった一夏の顔を見て、すぐにフォローに入る山田先生。
その様子が幼く見えて、とても実技試験の時の人と同一人物とは思えなかった。
「千夏姉の部屋ってもう決まってるのか?」
「当然だ。俺は最初からここに入学する予定だったんだからな」
「それもそっか」
俺とお前とじゃ微妙に事情が違うんだよ。
「そうだ。荷物はどうすればいいんですか? いきなり入寮するとは思ってなかったから、全く持ってきてないんですけど」
「それなら心配無用だ」
ここで千冬姉さんが再度登場。
心配無用とはとういう事?
「こんな事もあろうかと思ってな。予め私が手配をしておいた」
流石は我等が長女さま。
仕事が早くて助かります。
「取り敢えずは必要最低限の生活必需品だけだがな。着替えが数着と携帯の充電器でもあれば大丈夫だろう」
ここは敢えて声には出さないが、余りにも少なすぎやしませんか?
必要最低限と言っても、限度があるだろうに。
「それじゃあ、あまり遅くならないように部屋に向かってくださいね。それと、夕食は寮にある一年生用の食堂で食べてくださいね、食事可能時間は午後の18時から19時までです」
その辺の事は学園のパンフレットにも書かれているが、一夏の事だから絶対に見ていないだろう。
「寮の各部屋にはシャワーが設置してありますけど、それとは別に大浴場なんかもあります。と言っても、織斑君は今はまだ使えませんけどね」
「え? なんd「ここには女子しかいないんだぞ」……そうでした……」
一夏がアホな事を言う前に俺が先手を取った。
まぁ……正確に言うと、もう一人『男』はいるんだけど。
「千夏さんは遠慮無く使ってくださいね。学年ごとに使用出来る時間帯が違うので、そこだけは注意してください」
「了解です」
……俺も、女子と一緒に入浴したりするのに慣れてきたな。
もう普通に女子専用のシャワー室を使ったりしてるし。
いや、仕方がない事なんだと分かってはいるけどさ。
「いいな~……千夏姉……」
「羨むのはそこか」
一夏が風呂好きなのは分かっているが、そこまで羨ましがるような事か?
恐らくだが、シャワーがあるのならば簡易的な風呂場とかありそうな気もする。
「それでは、私達は今から職員会議があるので失礼しますけど、寄り道とかしちゃ駄目ですよ?」
「千夏がいれば大丈夫だろう。しっかりしているからな。では、ここらで失礼する」
校舎から寮まで、そこまで距離は離れていないのに、どうやって寄り道をしろと?
それから、去り際にしれっと千冬姉さんが俺の頭を撫でていった。
抜け目がないと言いますか。
「今度こそ行くか」
「だな。俺も早く寮の部屋を見てみたい」
寮の部屋が気になるのは俺も同感なので、一緒に行くことに。
さっきから気になっていたが、元気が有り余っている本音がずっと黙っている事に素直に驚いた。
意外と空気が読める子なのかもしれない。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「俺は1025室だから……こっちだな」
一年生の学生寮に入り、俺達はドアに書かれている番号を見ながら自分達の部屋を探していく。
一夏はさっき山田先生から自分の部屋の番号が書かれたメモを手渡されていて、俺は少し前から番号を知らされていた。
「千夏姉とは離れちまうみたいだな。ちょっと残念だよ」
「別にそこまで遠いわけじゃないだろうに」
「でもさ、すぐ近くに家族がいないのって不安にならないか?」
「その気持ちは理解出来るが、だからと言って我儘は言えないだろう」
「分かってるけどさ……」
その後もブツブツと文句を言いながらも、一夏は俺達とは別方向に歩いていった。
「俺の部屋は……こっちか」
一学年の寮だけで、この広さとはな。恐れ入ったよ。
ちゃんと順路を覚えないと、普通に迷子になりそうだ。
「…………ところで」
「なぁ~にぃ~?」
「……どうして本音もついてくる?」
「私の部屋もこっちなんだよ~」
「そうか」
まるでカルガモの親子のように後ろからついてくる本音。
俺は別に君の母親じゃないぞ。
「………ここか」
1111号室。
恐ろしく分かりやすい番号だったので、すぐに覚えた。
ポッキーが食べたくなる数字だ。
「え? なっちーもここなの?」
背後から本音の素の声が聞こえた。
あの間延びした声はポーズなのか。
「って、今なんて言った?」
「えっとね……私もこのお部屋なんだ……」
確かに、本音の持っているメモにも『1111号室』と書かれてあった。
「つまり、本音が俺のルームメイトだと……」
「そーなるねー」
なんという偶然。
さっき初めて話した相手と同じ部屋に住むことになろうとは。
これは予想出来なかった。
「わ~い! なっちーと一緒のお部屋だ~!」
「そうだな」
まぁ……変に堅苦しい奴と一緒になるよりかは遥かにマシか。
少々、性格に癖はあるが、基本的に優しくていい子みたいだしな。
本音に抱き着かれながら予め鍵が開いている部屋に入ると、そこは見た事も無いような空間だった。
高級感溢れる羽毛ベッドが二つに、壁に隣接している木製の机もシックでいい雰囲気を醸し出している。
床も壁も清潔感に溢れていて、ここが都内の高級ホテルだと言われても違和感がない。
兎に角、俺のような庶民には間違いなく一生縁がないような部屋である事は確実だ。
「こんな部屋でこれから過ごすのか……」
俺でこんなリアクションなんだから、一夏の方はもっと凄いに違いない。
アイツはどうもオーバーリアクションをする事があるからな。
「では、荷物整理でもしてしまうか」
「うん!」
それぞれの名前が書かれた段ボールから荷物を取り出していく。
と言っても、俺のは私服や本などが大半を占めているが。
「これと~これと~……これも~」
本音の段ボールからは、出るわ出るわ色んな遊び道具が。
こいつめ……遊ぶ気満々だな。
おっと、本音に気を取られてないで、俺も急がないと。
心の癒しであるぬいぐるみを幾つか取り出して、アレも忘れずにっと。
「ん~? なっちー、それはな~に?」
「毛糸玉と編み棒だ」
「なっちー、編み物が出来るの!?」
「一応な」
「すっご~い! 私にも何か作って~!」
「それは別にいいが、何が欲しいんだ?」
「えっとね~……えっとね~……」
「今すぐに決めなくてもいい。ゆっくり考えろ。時間はたっぷりとあるんだしな」
「そうだね!」
本音ならば、毛糸の帽子とか似合いそうな気がするがな。
上の方に猫耳とかつけて。
「「ん?」」
なにやら、遠くの方から一夏の悲鳴が聞こえたような気が。
「気のせいか」
番号的に考えても、一夏の部屋から俺達の部屋まで声が聞こえるとか有り得ないだろ。
早くもホームシックになってしまったのか?
その後も本音と色々と話しながら、各々の荷物を片付けていった。
小一時間ほど掛かってしまったが、なんとか終わった。
俺達の部屋は、お互いが持ち寄ったぬいぐるみによって、なんともファンシーな姿に変貌を遂げていた。
(これが女子の部屋か……)
自宅での自室は、ぬいぐるみを除けば、本当に最低限の物しか置いてなかったからな。
元々がゴチャゴチャしてるのが嫌いってのもあるが。
「お腹空いたね~」
「荷物整理で疲れたからな」
味覚が無い俺にはどうでもいい事なんだが。
だからと言って本音の事は無下には出来ない。
やっと無味有臭の食事にも慣れてきたんだから。
ドアを少しだけ開けて廊下の様子を窺うと、遠くの方がなんだか騒がしかった。
一瞬で関わりあいにならない方がいいと判断した俺は、すぐに扉を閉めた。
「どうしたの?」
「理由は分からないが、どうも騒がしくなってる。まだ時間も早いし、もう少し静かになってから食堂に向かおう」
「さんせ~♡」
暇潰しに軽く編み物をしながら、本音と色んな話をした。
主にお互いの趣味嗜好に関する事だったけど。
久し振りに楽しい会話が出来たと思う。
今までずっと色んな物を失ってきた俺だが、どうやら家族と友人には恵まれているらしい。
千夏の同居人は本音になりました。
最初は簪にしようかと思ったんですが、そうすると本音の出番が少なくなりそうだったのに加え、絡みにくくなりそうだったので。
それに、本音が傍にいると、スムーズに簪の専用機問題や生徒会にも関与出来ると思ったので。