セラフィムの学園   作:とんこつラーメン

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もうホント……疲れまくりで疲労困憊ですよ……。

休みたいなぁ~……。







第48話 賑やかで騒々しい日常

 結局、俺とセシリアは保健室で数時間だけ休み、その後に自室に戻って眠った。

 なんでかまたもや本音が俺のベッドに入り込んできたが、疲れ果てていて指摘をする余裕も無かった為、そのまま受け入れて一緒に眠った。

 そんな事があった次の日。

 

「「ふわぁ~……」」

 

 おっと。本音と一緒に欠伸が出てしまった。

 いつものように登校の準備をしてから食堂に向かっているのだが、どうも今日は何かが違った。

 

「なぁ……本音」

「ど~したの~?」

「気のせいかもしれないが、なんだか注目されてないか?」

「いや……そりゃされるでしょ……」

「は?」

 

 急に素になった本音に俺も思わず間抜けな声が出た。

 まだ寝ぼけているのか、頭が上手く回らない。

 

「あんな試合を繰り広げたんだ。誰だって千夏達の事を注視するようになるさ」

「箒……一夏……」

 

 何故か得意気な顔をした箒と、それを見て少し呆れている一夏と合流。

 お前は何をそんなに疲れている?

 

「あの後さ、箒の奴凄い興奮しちゃって、夜遅くまで千夏姉の事を話しまくってたんだよ」

「なんじゃそりゃ」

 

 本気で話の流れがよく分からん。

 どうして箒が俺の事で興奮する?

 

「あら、おはようございます」

「おはよう」

 

 ここで更にセシリアと簪もやって来た。

 セシリアは昨日の疲れは余り残っていないようで、簪はいつもの通り。

 だが、俺とセシリアが一緒になった事で、周囲の視線がより一層集まってくるようになった。

 

「セシリア……」

「分かってますわ。自分でも原因は理解しているつもりですけど……」

「なんとも言えんな……」

 

 試合中ならばいざ知らず、こうして日常的に注目されるのは困る。

 幾ら俺が委員会代表であっても、プライベートぐらいはそっとしておいてほしい。

 

「千夏。慣れるしかないよ」

「それしかないか……はぁ……」

 

 注目されるのに慣れるというのも、なんだかなぁ……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 学園中の様子が明らかに違うと思い知らされたのは、一組の教室に入る時だった。

 四組である簪と別れた後、教室の扉を開くと、いきなり教室中の生徒達が俺達に殺到してきた。

 

「千夏ちゃん!! 昨日の試合、本当に凄かったよ!!」

「うんうん! 最高にカッコよかった!!」

「っていうか、二人共がカッコよかったし!!」

「オルコットさんもマジで見直したよ!! やっぱ、代表候補生って強いんだね!!」

「あ~……もう! 一組になれて本気で嬉しい!!」

 

 咄嗟に俺とセシリアは指で耳栓をしたが、それもあまり効果を発揮してくれなかった。

 痛覚が無い俺がキンキンすると感じるって相当だぞ……。

 

「皆さん、お話なら後でちゃんとお聞きしますから、ここを通してくださいませんこと? 本当に遅刻してしまいますわ」

「おっと。そうだったね。皆~! 道を開けて~!」

 

 セシリアの丁寧な説得で皆がちゃんと道を開けてくれた。

 俺などとは違って、ちゃんとした教育を受けているセシリアの言葉には重みがあるな。

 

「凄い迫力だったな……」

「流石にこれは祖国でも無かったですわ……」

「あったら逆に凄いと思う」

 

 俺達の後ろにいたからか、一夏達には全く目もくれていなかった。

 つい一昨日まではあんなにもワーキャー言ってたのに。

 女子高生は熱しやすく冷めやすいと聞いた事があるが、本当なのかもしれないな。

 

「そうだ! 折角だし、近い内に千夏ちゃんのクラス代表就任パーティーとかしようよ!」

「「「「賛成~!!」」」」

「しなくていい」

 

 どうして今更になってそんな事を考える?

 俺がクラス代表になったのは一週間近くも前の事なのに。

 どんだけ昨日の試合でテンション上がってるんだよ。

 

 俺達が席に着いてから数分後に千冬姉さん達教師コンビもやって来たが、俺達以外の皆が浮足立っている様子に小首を傾げていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 その後は意外なほどに何も無く、俺達は無事に放課後を迎える事が出来た。

 昼食時にも食堂で視線を感じてはいたが、朝ほどには強く感じなかった。

 

「それじゃあ、俺は裁縫部に行くとする」

「分かった。俺等も部活に行くわ」

「また後でな」

「あぁ」

 

 一夏達に手を振ってから、俺は部室棟にある裁縫部部室まで向かったのだが、そこでもまた昨日の影響が強いかった事を思い知った。

 

「「「「千夏ちゃん!! 勝利おめでと~!!」」」」

 

 部室に入った途端、いきなりの歓迎っぷり。

 先輩達がクラッカーを鳴らしてきて、俺の頭に紙吹雪が落ちてきた。

 

「あの………」

「いや~! まさか、千夏ちゃんがあれ程の実力を持っていたとはね!」

「驚きと喜びが混ざり合って、もうとんでもない事になってるんだから!」

「自分達の後輩があんなに立派だとさ……もうなんつーの? 先輩として頑張らないとって思うと同時に、感動しちゃったよね……」

「だね……感無量だったよ……」

 

 喜ぶのか感動するのか、どっちかにしてほしい。

 

「マジで千夏ちゃんはこの裁縫部の誇りだわ! こりゃ、来年辺りにはホントに千夏ちゃんに部長の座を渡した方がいいかもね!」

「織斑部長……いや、千夏部長か。いいね!」

「いやいやいや。幾らなんでも先の事を考えすぎです」

 

 まだ入学して一ヶ月も経ってないんだぞ?

 なのに、もう来年の事を考えるってどうなんだ?

 

「よぉ~し! この興奮をそのまま自分の作品に向けるわ!!」

「なんだか燃えてきた~!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁってやるわ!!」

「おっしゃぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 ……ここまで五月蠅い裁縫部もまた確実に珍しいだろ。

 まぁ……嫌いじゃないんだけどな。

 さて、俺は俺で、本音にリクエストを貰った編みぐるみにでもチャレンジしてみるか。

 ちゃんと雑誌は借りてきてるし、何か分からない事があれば先輩達に聞けばいい。

 俺等よりも確実に先達なのだから、遠慮無く頼りにさせて貰おう。

 よし、まずは猫から作ってみよう。

 理由は、俺が猫を大好きだから。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 相当に集中してしまっていたのか、碌に休憩もせずにぶっ通しで製作していたせいか、いつの間にか夕方になっていた。

 

「もうこんな時間か……」

「千夏ちゃん、かなり集中してたもんね~」

「でも、その甲斐はあったんじゃない?」

「だね。その猫の編みぐるみ、めっちゃ可愛い!」

 

 俺の手の中には、手の平サイズの茶ぶち模様の猫の編みぐるみがあった。

 ちょこんと座った格好になっていて、首の部分にはちゃんと黄色い毛糸で編んだ鈴まで付けた。

 うん。最初にしては中々に上出来かもしれない。

 

「そろそろ終わりにしましょうか。いい時間になってるし」

「そうね。それじゃあ……」

「「「「「お疲れ様でした~」」」」」

 

 ちゃんと道具を片付けてから、俺達は各々に解散していった。

 先輩達に食事に誘われたが、一夏達を待たせている旨を伝えると、ちゃんと分かってくれた。

 今度は先輩達と一緒に食べるのもいいかもしれない。

 

 そんな事を考えながら一夏達と合流する為に廊下を歩いていると、部室棟を出る所で楯無さんと出会った。

 どうやら、俺がやって来るのを待っていたようだ。

 

「お疲れ様、千夏ちゃん」

「お疲れ様です」

 

 まずは定例文となった挨拶を。

 

「昨日の試合、本当に凄かったわ」

「それ、今日だけで何回も聞かされましたよ」

「あらそう? けど、それだけ千夏ちゃん達の試合の影響が凄かったって証拠じゃない?」

「俺達は普通に試合をしただけなんですけどね……」

「主観の違いってそんなものよ。自分は大したことじゃないって思っていても、相手はそうじゃない」

「そうですね……」

 

 嫌と言うほどに思い知らされたからな。いやマジで。

 

「あ~あ。今更だけど、本気で千夏ちゃんを生徒会に入れられなかった事を後悔してるわ~。千夏ちゃんなら、きっと私が卒業した後に立派な生徒会長になってくれるんだけどな~」

「買いかぶり過ぎですって。俺には楯無さん程のカリスマは無いですから」

「そうかしら? 少なくとも、周りの皆には慕われてるじゃない」

「慕われてるって言うか、懐かれてるって言うか……」

 

 普通は尊敬している人物の腕に抱き着こうとはしないと思うのは俺だけだろうか。

 いや、そんな事は無いと俺は信じたい。

 

「よかったら、これからも生徒会には遊びに来てもいいからね? 本音ちゃんも喜ぶだろうし」

「そうですね。気が向いたらお邪魔させて貰います」

 

 虚さんとも色々と話しをしてみたいしな。

 多分だが、あの人とは話が合いそうな気がするんだよな。

 

「あら? その手に持ってるのは何?」

「編みぐるみですよ。部活で造りました」

「か……可愛い~♡ それにすっごい上手~! マジで千夏ちゃんの女子力ってどうなってるの?」

「どうと言われましても……」

 

 返答に困るような事を言われてもな……。

 そもそも、俺は厳密には『女子』じゃないし。

 

「って、いつまでも話し込んでたら千夏ちゃんを待ってる子達にも悪いわね。そろそろ私は行くわ。それじゃあね」

「はい。また明日」

 

 軽く会釈をしてから、この場を去ろうとすると、楯無さんが去り際にそっと耳元で呟いてきた。

 

「千夏ちゃん」

「はい?」

「……今度は私とも試合をしましょうね」

 

 その瞬間、少しだけ背筋がゾッっとした。

 これが緊張なのか、それとも恐怖なのかは今でも分からない。

 だが、これだけはハッキリと言える。

 

「……喜んでお相手しますよ。ロシア代表さん……」

「フフフ……♡」

 

 俺もまた、この人と戦ってみたいと思っていた。

 どうやら、一夏や千冬姉さんの事をあまり偉そうには言えないようだ。

 

 因みに、今回編んだ猫の編みぐるみは本音にプレゼントをした。

 猫をチョイスをしたのは正解だったようで、とても喜んでくれて、アクセサリーのように鞄に取り付けていた。

 

 

 

 


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