東方迷子譚   作:甲光一念

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5 紅白への恩返し

「おはようございます博麗さん。先日はありがとうございました――って言っても、あれからもう二週間も経っちゃってるんですけどね」

「……え、一人? マヨイガから一人でここまで来たの? こんな早朝から?」

「あ、いや、初めはそのつもりだったんですけど……」

 

 白玉楼を訪れてから一週間後、都運は博麗神社に来ていた。もっと早く来ようと思ってはいたのだが、マヨイガから神社までは都運が歩いていたら命がいくつあっても足りない程の道のりであったし、かと言って誰かに連れて行ってもらうというのを実現するには三人は少しばかり忙しすぎた。まあ、忙しいというか、手が足りないという意味ならば都運も大差なかったが。

 霊夢は巫女らしく、境内の掃除をしていた。別に掃除をすれば参拝客が来るというわけでもないのだが、これは彼女にとっては日課であるし、サボった時に限って誰かが来たりするというのは世の中によくある話だ。特にあの説教仙人が来るかもしれない可能性を考えたら掃除をしないという選択肢など実質無いに等しかった。そういう時に限って来るのが彼女なのだし。

 都運が霊夢と魔理沙に助けられて今日で二週間。流石に都運の借りを作りたくないメーターが限界を超えたのだ。朝起きて朝食を食べている最中、藍に危険でもいいから博麗神社に行かせてくれ、八雲紫の従者だと言えば大体助かるだろうと言った。この言葉にはひょっとしたら助からなくてもいいという意味合いが若干含まれているのだが、藍はそれに気付かず、ならば送っていくと答えたのだ。

 

「さっきなんとなく感じた妖力はそれか……藍ならまあ、納得だわ。で、あんたはなにしに来たの?」

「何しにと言われると、さっき言った通り、二週間前のお礼ですね。本当にありがとうございました。あのままだったら僕は確実に、餓死か妖怪に襲われて死んでたかのどっちかだったでしょうから」

 

 流石に二週間も幻想郷にいれば、人を食らう妖怪の一匹や二匹見かける。基本的に一人での外出はしていないし、都運が住んでいるのは八雲の屋敷だ。襲われる心配はないが、それに森の中で遭遇すれば、まず間違いなく助からないというのは確信できた。

 身近にいる妖怪――紫、藍、橙が人の姿なので、てっきり幻想郷の妖怪は全て人の姿なのかと思っていたが、全然そんなことはないというのは見たし聞いた。

 藍曰く、人と関わる機会の多い、あるいは人に警戒されないようにする必要性のある妖怪が人の姿になるとのことだ。勿論始めから人の形で生まれた妖怪もいるにはいるそうだが、大多数は生き抜くために必要な変化として人型なのだとか。例外もいるそうだが。

 その話を聞いて真っ先に都運が思い出したのは幻想郷に来た初日、森の中で目を覚ましたあと一番最初に出会った彼女だった。頭部に立派な耳を携えた彼女も、妖怪だったのだろう。ここで都運はようやく、初日の自分のラッキーを自覚するに至ったわけだが、それが果たして本当に幸福なことだったのかは、この段階では判断が下せなかった。

 

「……あんたのことについては紫からある程度の報告が来てるから、別にわざわざ言いに来なくてもよかったんだけどね。まあ、それにしたってあんたの存在が怪しいことには全く持って変わりはないけど」

「あはは……、怪しいのは認めますけど、僕はただの人間ですよ。こんな奴に何かができるとは博麗さんも思ってないでしょう?」

「…………」

 

 その点に関しては霊夢としては何も言えない事だった。別に幻想郷にとって害となる存在は悪意ある妖怪だけではない。時として、何の力も持たない一般人こそが何よりも厄介な存在にもなりうる。何が起こってもおかしくないのが幻想郷だ。

 そもそも、ただの人間という部分も大分怪しい話ではあるのだ。結局二週間が経過した今でも、幻想郷の管理者である八雲紫は郷瓜都運の侵入経路を見つけることが出来ていない。これははっきり言って異常なことだ。結界に綻びがあるわけでもなければ、都運が倒れていたと推測される場所の近くに外に繋がるような穴があったわけでもない。侵入経路が不明というのは、身元が不明よりもずっと怪しい。

 少なくとも、博麗の巫女がある程度警戒するくらいには。

 だが、二週間ぶりに侵入者を目の前にして思う。こんな奴に対して気を張っている自分は馬鹿なんじゃないだろうかと。何の力も感じられない。霊力も妖力も魔力も神力も感じられない。別に霊夢は持っている疑いが正しければいいと考えているわけではないが、目の前の男には疑いをかけられるだけの怪しさはあっても、疑いに匹敵する根拠がない。

 あるいは、その怪しさも全て自分たちの考えすぎなのだろうか。

 

「えっと、霧雨さんはいないんですか? できればあの人にもお礼を言いたいんですが……」

「……今日は来てないわね。ていうか別に毎日来てるわけじゃないわよ。あいつ気まぐれなんだから。一週間ぶっ続けで押し掛けてくるかと思えば、一週間音沙汰無しって言うのもざらにあるし」

「そうなんですか……、あの、霧雨さんって、お人好しなんですか?」

「お人好し……、まあそうね。いらない節介焼いて感謝されたり恨まれたり……、さっきも言ったけど気まぐれなのよ。次に魔理沙が何するかなんて誰にも読めないくらいにね」

「気まぐれ、ですか。なるほど……」

 

 何かを言いたげな都運だったが、霊夢はあえてそれに突っ込むようなことはしない。本当に話したいことならば向こうから話してくるだろうというのが霊夢の考えだ。

 正直、それは他人の都合とかを考えていない、他者にまで自分と同等の何かしらを期待しているような極めて傲慢な態勢なのだが、霊夢にそんな自覚はない。言いたいことも言えないで呑み込んでしまう人間がいるなど、幻想郷しか見たことのない霊夢には知る術もないのだ。

 周囲にいるのが我が強い者ばかりだからこそ理解できないのだろうが、逆にそうでなければここが幻想郷である意味がないし、ここは幻想郷たり得ないとすら言える。ここはそういう場所なのだ。

 何者も拒むことのない理想郷。

 それに個人の裁量が関わってこないかどうかはまた別の話だとしても。

 

「……霧雨さんって人間なんですよね?」

「……そこは藍から聞いてないの?」

「いえ、聞いてはいるんですが一応。……博麗さんと違って、霧雨さんは空を飛ぶのに箒を使ってたじゃないですか。あれは、魔法使いっていうのは皆さんそうなんですか?」

「私が知ってる限り、箒を使ってるのは魔理沙だけよ。他に私は二人魔法使いを知ってるけど、その二人は普通に空を飛んでる」

「普通に空を飛ぶ……。なんていうか、箒も、霧雨さんの服装もそうなんですけど、典型的魔女、って感じですよね」

 

 この言葉には、目の前の巫女は典型的巫女という感じではないという意味合いが若干含まれていたが、霊夢はそれに気付かない。動き易さ重視とは自分でも言っているものの、この格好であることに対して大した疑問を感じたことはないからだ。

 幻想郷には一般的で普通な巫女などいない。かろうじて守矢神社の東風谷早苗がいるが、あれを一般的というのは無理があるし、格好で言うなら霊夢と大差は無い。どっこいどっこいだ。

 まあ、都運の巫女や魔法使いに対する知識も実物を見たことがあるという類のものではなく、あくまでもどういう形が一番有名なのか程度の知識でしかないが。魔法使いを実際に見たことのある人がいればどういう服装だったかを教えてほしいものだ。

 当たり前のように発された、普通に空を飛ぶという言葉に若干の気持ち悪さを感じたものの、藍やら橙やらが普通に空を飛んでいるのをこの二週間毎日見ている。なんとなく慣れた。

 

「あの形に意味があるとか言ってたわね。代表的な魔女の姿を模倣することで特定の魔法を強化するとかなんとか。魔法に関しては私は全然知らないから説明されてもわかんなかったけど」

「なるほど、確かに全然わかんないです。そもそも魔法なんて今まで信じたこともなかったので、実在してたってだけでもう頭がいっぱいいっぱいですよ」

「外じゃあねえ。たとえ使える奴がいたとしても使わないでしょ。碌なことにならないのは目に見えてるんだし」

 

 碌なことにならないという霊夢の発言は、おそらく断片的な外の世界に対する知識、認識からの発言なのだろうと都運は予想する。その発言自体は間違っていないが、何処か言葉に曖昧さが感じられた。幻想郷しか知らない少女は、外の世界に関して憶測でしか語れない。

 ここが狭く、そしてどうしようもないほどに閉鎖的な世界だと分かってはいたのだが、改めてそれを再認識させられた感じだ。むしろ、人間というのはそういう人生の方が楽なのかもしれないと思わないこともないが。

 こういう言い方はあれだが、やっぱりここは山村という認識でも問題ないと都運は思う。昔からの風習が残され、時代から完全に隔絶された陸の孤島だ。何処にも行けず、何処かに辿り着くこともない。

 楽園、と言えば、確かに楽園なのだろうが。

 

「で、えっと、ここに来た本題なんですが」

「本題? さっき言ってたお礼ってやつならもう終わったんじゃないの?」

「いやいや、命を助けてもらったことに対するお礼が、ありがとうなんて言葉だけっていうのはちょっと筋が通らないでしょう? できれば、目に見える形で何かをしたいんですが」

「目に見える形ねえ……、そこにお賽銭でも入れてってくれれば文句ないんだけど」

「お金ですか……、博麗さんがそう言うならそうしたいところなんですが、情けないことに、今無一文でして……」

「いや、冗談だから。そんな本気で受け止めないで。私が物凄い守銭奴みたいになるじゃないの」

「いや、守銭奴だろ」

 

 霊夢の前からでも後ろからでもなく、頭上から声が響いた。先の自分の言葉を撤回するように左右に振られていた手は止まり、逆の手に持っていた箒が一瞬にして宙を舞う。さながら槍の様に一直線に真上へと向かっていったそれに都運は反応できなかったが、声の主は笑いながらそれを避けた。

 その声に都運は聞き覚えがあった。箒が投げられるのより少し遅れて上に顔を向けるが、そこには誰もいない。

 カコッと、ヒールが地面にぶつかる音が響いた。その音につられるように都運が後ろを向くと。

 

「よっ、二週間ぶりだな。紫のとこはどうだ? 居心地悪いか?」

 

 二週間前と何も変わらず手を振って、霧雨魔理沙がそこにいた。

 遥か上空から落下してきた竹箒は、一歩も動かずに霊夢がキャッチした。

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ほー、妖夢に会ったのか。問答無用、って感じで切りかかられなかったか?」

「えっ、魂魄さんってそんな過激な人なんですか? 少なくとも僕が紫様に連れられて白玉楼に行ったときはとても優しい人でしたよ。幻想郷についても色々と教えてもらいました」

「まあ、紫の従者ってことならそれなりの対応にもなるか。春雪異変の時なんて凄かったんだぜ。チョチョイとのしてやったけどな」

「春雪異変?」

「ああ、春になっても雪がやまなくってな――」

 

 場所は移り、境内から縁側へ。別に会話をするだけなら場所を移す必要は無かったのだが、魔理沙が喉が渇いたと霊夢に駄々をこね続けた結果、お茶を飲むために移動することになった。ついでにお煎餅も出てきた。喉が渇いていると言っていた割にはお煎餅を普通に食べる魔理沙だ。

 お礼として直接的にお金を求めた割には、お茶菓子まで出す余裕はあるんだなと考えつつ、都運は霊夢に頭を下げる。別にいいと言ったのだが、霊夢はきっちり都運のお茶まで用意してくれた。優しい人なのかもしれないと思う。

 ここで安易に霊夢を良い人の範疇に区分しない辺り、都運は霊夢の本質をある程度掴めていると言っていいかもしれない。ある意味では、霊夢よりも残酷で冷酷な人間は幻想郷にはいないのだから。

 とは言え、そこまで幻想郷のルールを把握していない都運では、そこまで考えが巡るはずもなく、今はただありがたく頂いたお茶を飲むのみである。ついでにお煎餅も。

 

「――って感じで、雪が積もってて宴会も出来ないし花見も出来ないしな有様だったんだよ。で、それを暑いよりは寒い方が良いとか言って放置してた巫女が霊夢だ」

「そりゃそうでしょ。暑くなったって良いことないわよ。やる気でないし、汗はかくし、客も来ないし」

「寒くたって来ないだろ。それに寒きゃ寒いでやる気ないくせによく言うぜ……」

「確かに……、人いませんね。これだけ立派な神社ならもっと参拝客が来てもいい気がするんですけど」

「理由は大きく分けて二つだな。人里から遠いってのと、ここが妖怪神社だからだ」

「妖怪神社? ……あれ、博麗さんって確か妖怪退治とかするんじゃなかったでしたっけ?」

「そうなんだけどな。ほら、あれ見てみ」

 

 魔理沙が指さした方に都運が目を向けると、そこには見事な桜の木が林立していた。春に相応しい――とは言ってももう五月手前だが――桃色が風が吹いては吹雪となって散っていく。季節の移り変わりを見ている気分だ。ある程度の緑ももう見えてはいるものの、やはり桃色は目立つ。

 これも、妖怪神社と言われる所以の一つだ。花見を目的とした妖怪が頻繁に神社に訪れるため、人間は迂闊に近寄ることもできない。本来ならば人間の客の方が霊夢としてはありがたいわけだが、そうは言ってもなによりも我と意志を優先させる妖怪を追い出すのは一筋縄ではなく。

 結果として霊夢ももう諦め気味である。

 妖怪が集まってくるのに霊夢に責任が全く無いというわけではないのを彼女自身が自覚しているだけに、正直言ってどうしようもない。

 霊夢が本気で嫌がっている素振りを見せないから妖怪も来るのを止めないというわけでもない。本気で嫌がっていることは、妖怪にとって来るのをやめる理由にはならないのだ。

 結果として、ほとんど一年を通して博麗神社への人間の参拝客の数は度肝を抜かれるほど少ない。

 

「妖怪の集まる神社に来ようなんていう酔狂な人間は人里にはいないってことだな」

「……なるほど。……博麗さんには人徳があるんですね。羨ましいです」

「……人徳? 仮に私に人徳があるとしても、妖怪共が押し掛けてくるのを人徳で済ませるのは止めてほしいんだけど。こっちはそれなりに本気で迷惑してるんだからね」

「……とか言ってるけど、結構食費とか妖怪との宴会で浮いてるとこあるから、止めさせるわけにいかないんだよ」

「魔理沙? さっきからあんた私をそんなに貧乏な奴にしたいわけ? 守銭奴とかよくもまあ言ってくれるもんね」

「お礼は何がいいかを尋ねられて、逡巡なく金を要求した奴にその反論をする資格は無いと思うぜ……」

「冗談に決まってんでしょうが! 目に見える形とか言われたから一番手っ取り早い方法を例に挙げただけよ! 大した面倒も見てない奴になんでお金をせびらなくちゃいけないのよ!」

 

 実際問題として、霊夢の巫女としての腕は確かなものだ。里に行けばきちんと仕事もあるので金銭面においてはそこまで困窮しているわけではない。まあ、余裕がある生活というわけではないが。

 それでも少なくとも、大した面倒も見ていない外来人から金をむしり取ろうとするほど追い詰められたことはない。

 都運が霊夢に対し、人徳があって羨ましいと言ったのは決してお世辞でも皮肉でもなく、どこまでも彼の本心だった。妖怪退治をしているはずの巫女の元に妖怪が好んでこぞって集まるというのは、ただ単にここの桜が綺麗だからとか、宴会をやるのに丁度良いからという理由だけでは済まされないだろう。

 そこにいる霊夢が、妖怪をひきつける何かを持っているから現状は成立しているのだ。

 他者から好かれるような何か。

 それは、都運にとってあまりにも縁遠いものだった。

 こうやって、軽口を言い合えるような仲の友人も。

 

「まあ霊夢は金と食い物にはうるさいけど、別に節操無しってわけじゃないから。許してやってくれよ」

「なんで私があんたに助けられたみたいになってんの?」

「でも、じゃあ僕はどうしたらいいでしょうか? 正直、博麗さんのお金っていう案は一番手っ取り早い恩の返し方だと思ったんですけど……」

「別に恩とかお礼とか気にしなくていいわよ。第一、最初にあんたをここまで連れてきたのは魔理沙なんだから、魔理沙にこそそういうのはするべきじゃないの?」

「それはもちろんそうですけど……、なんていうか、博麗さんの方が恩返しに骨が折れる気がしまして」

「どういう意味よそれは……」

 

 意味と言うなら大した意味はない。ただ何となくそう思っただけだ。二週間前の印象からして、霊夢に対して何かして欲しいこととかあるかと聞いても真っ当に答えが返っては来ないだろうと思った。

 だからこそ、金銭でお礼を示すというのは正直言ってナイスアイディアだったのだが、冗談としてなかったことにされてしまっては、もう一度それを再提案しても採用される可能性は限りなく低いだろう。そうなると、また新たに考えなくてはならない。

 そもそも都運は霊夢のことをほとんど知らない。藍から聞いた最低限の情報だけだ。

 博麗神社で巫女を務めている。幻想郷内で何かしらの異変が起こった際は解決に乗り出す義務がある。紫にとって特別な存在である。彼女がいなくては幻想郷を正常に回していくことは出来ない。

 今から考えると本当に必要最低限の情報しかない。最低限あるかも怪しい。外部の人間に必要以上の情報を与えるべきではないという判断を下した結果かもしれないが、それなりの支障が出ていることを考えると積極的に聞いておくべきだったと思わなくもない。

 

「あれでいいんじゃないか? 今晩宴会あるだろ? それの準備の手伝いとかしてもらえば」

「……準備だけさせて帰すの?」

「なんで帰すんだよ。参加させればいいだろ」

「あ、いえ、それはちょっとおこがましいのでは?」

「妖怪だらけのところに一般人を座らせとくつもり? 宴会って言ったって、毎回毎回何が起きるかわからないんだから危険でしょうが。死んだっておかしくないわよ」

「その辺は私が面倒見ればいいだろ? なあ、都運?」

「いや、そこまでしてもらわなくても」

 

 状況的に間違いなく、このままだと魔理沙に面倒を見られながら宴会に参加することになると理解した都運。口では拒否しているが、おそらく霊夢は、先ほどまでの会話を見るに押しに弱い。自分の意志が薄弱なのか、あるいは、流れに逆らうのがただ面倒なのか。

 どちらにしたって、このままだとさらに返さなければならない恩が嵩みそうだという危機感を覚えたし、そんな面倒をかけるのは本当に申し訳ない。しかしかと言ってじゃあ何と言えば回避できるのかが思い浮かばない。

 拒絶すると単に宴会の準備をしたくない奴みたいに見られるかもしれないし、かと言って準備を手伝えば参加を辞退することはまず不可能になるだろう。

 だが都運は、そこでようやく思い出す。

 そういえば藍が自分を迎えに来るはずであると。

 流石にそんな遅くなることはないだろう。夜までにはおそらく来てくれるはずだ。その際に意見を仰げばいい。そこで参加してもいいということならば都運としても気に病むことはないし、帰った方が良いというなら参加しない大義名分ができる。

 参加したくないわけではないし、魔理沙が嫌がらせで参加させようとしているわけではないのも都運は理解している。だからこそ、受けるにも断るにも理由がいるのだ。

 

「……わかりました。僕に何ができるのかはわかりませんが、準備を手伝わせていただきます。まあ、掃除くらいならできますんで、雑用なら何でも任せてください」

「おっ、話が分かるな。ってわけだけど霊夢、異論は?」

「…………来る奴によっては、無理やりにでも帰すからね」

 

 というわけで、都運は博麗神社内で行われる宴会の準備を手伝うことになった。それは巫女も妖怪も魔法使いも仙人も神も幽霊も差別なく騒ぐ盛大なる催しものなのだが、都運はまだそれを知らない。

 そして、何時間が経っても藍が一向に来ないこともまだ知らない。

 加えて言えば、今の状況が全て紫の計算通りであることなど知る由もない。

 魔理沙が提案し、都運が打算し、霊夢が折れる。

 宴会に都運を参加させるまでの流れが全て、紫の計算通りであることも、なぜそんなことをしたのかも、今は藍しか知らない事である。

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