魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい   作:ちあさ

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みんながスノーホワイト真っ黒だよとか汚い流石スノーホワイト汚いとか言うので、
その誤解を払拭するために綺麗なスノーホワイトさんのお話を書きました。

ついでに7753の話とか、鉄腕組についても。

時系列的には前回の翌日です。


スノーホワイトという少女

鉄腕組

組長・”魔王”リップル

危険度SSS

 

“クラムベリーの子供たち”が多数所属していて、その中で組長を務める”魔王”リップルはクラムベリーを一撃で殺して地球に壊滅的な被害を与えた超大規模破壊魔法を使う危険人物である。

リップルの異名”魔王”はその想像を絶する超大規模破壊魔法から付けられたと言われいている。

魔王パムもこの異名については異存ないとコメントしている。

 

暴力団としての規模としては中堅どころだが、完全に独立した組織であり、構成員の総数は多くはない。

だが多くはないというのは一般人として数えた場合であり、所属する魔法少女の数はなかなかの人数を有している。

所属している魔法少女は名のしれた凄腕が多く、また新人の見習い魔法少女のスカウトと教導も積極的に行っている。

鉄腕組と”魔王”リップルの教育を受けた魔法少女はどんな平凡な魔法や能力であっても一流の魔法少女へと成長していくことは有名である。

今では”魔王”リップルの薫陶を受けた魔法少女達は”リップルの子供たち”と呼ばれ畏怖の対象となっている。

 

 

+++++

 

 

7753は赴任前に見せられた鉄腕組の資料を思い返していた。

これからそんな人外魔境が裸足で逃げ出すような場所に赴かなければいけない自分の身の不幸を呪った。

もし生きて帰れたら辞表を出そう。

貯金もある程度溜まったし、こんな命がいくつあっても足りない任務をやり続けるよりハローワークへと通うほうがほうがよっぽど建設的だろう。

介護職とかキツイらしいけど死なないだけマシかな?

そんな考えすら浮かんできた。

 

 

昨日見た鉄腕組の訓練所を思い出すだけでどれだけ異常な組織なのか分かるというものだ。

調査対象者の都合で本来昨日会う予定だったのがダメになり、暇になった所を若頭のマサさんに訓練所の視察へと誘われたのだ。

 

 

そのマサさんが今日も案内をしてくれている。

淡々と説明していたからクールな人なのかなって思っていたけど、他の人の訓練を見て我慢できなくなって参加するなんて子供っぽいところもあるのね。

パンチパーマも最初は怖かったけど、見慣れてくるとちょっと可愛いく思えてくるし、何より逞しくてイケメンなのよね。

マサさんの厚い胸板に抱かれたりとかしちゃったら…

いけない、なんてこと考えてるの私。まだ仕事中なのに。

魔法少女を長くやってると男性と疎遠になっちゃうのよね。

このままだとあっという間に歳を取って『ポ○ーテールの四十』とか歌っちゃうことになるかも。

今度婚活ってのに行ってみようかな。

 

 

そんな現実逃避をしていたら鉄腕組の本部ビルに着いていた。

本部ビルがあるこの街はクラムベリーが最期に戦った場所です。

激しい戦いで周辺のビルは軒並み倒壊して、路面もめくれ上がり荒れ果てていたのを覚えている。

その影響で当時のここの市はN市へと統廃合され、鉄腕組と縁のある人小路の援助によって復興されていった。

今ではN市の市長と市議会は人小路の息がかかった議員で占められていて、人小路家の飛地とまで言われている。

街並みも当時の荒廃した面影は無く、近代的なビルが立ち並ぶ一大商業地区へと生まれ変わっていた。

7753がその差を感じられたのは、ここに来たのが初めてではないからだ。

 

 

クラムベリー騒動後、私は人事部門の極秘調査として、”魔王”リップルと生き残りの魔法少女たちを見に来ていた。

だけど何故か来る途中も街に到着した後も、どんどん不運なトラブルばかり発生して誰一人見つけられなかった。

それでもなんとか彼女達が住処にしている鉄腕組仮事務所へとたどり着いた時には、

彼女たちは魔法の国へと登録申請をしに出かけた後でした。

それを聞いて急いで戻ろうとしたら今度は革命家気取りの反体制派魔法少女グループに追い掛け回されることになった。

みっともなく泣きながらもなんとか命からがら逃げ延びて来たときには、リップル達はもう登録審査も魔法の実技も終えて帰った後でした。

私はその後、神社で人生初の厄払いをしてもらいました。

 

 

そんな波乱万丈な前回と違い、今回はすんなり来られたので少し安堵しました。

鉄腕組のビルは街の復興時に建てられたから築6年ぐらいかな。

外見は8階建てと地方都市としてはそこそこ大きいけど、普通のビジネスオフィスビルに見える。

だけど見た目こそ普通のビルに見えるけど、魔法少女の攻撃に耐えられる防御力に改造してあるとマサさんが説明してくれる。

なんでもクラムベリー騒動の時に、魔法少女からの砲撃や襲撃で何度も組事務所を焼け出された経験が活かされているそうです。

マサさんなりのジョークなのかな思ったけど、どうやらマジらしいです。

そんな経験、魔法少女になってからでも早々出来はしないだろう。

クラムベリーの試験の恐ろしさを改めて感じるエピソードです。

 

 

ビルの中は全てが組事務所というわけではなく、3階までは関連会社のテナントや食事処なども入っており、組事務所のエリアは4階より上のフロアでした。

私が今回会う約束をしている調査対象者は7階に専用部屋を持っているそうです。

ただ、このビル…食事処で働いているあの個性的な格好のウエイトレスや…廊下で頻繁にすれ違う個性的な服を着た可愛い少女たちって…。

どうやらやっぱり彼女たちは全員魔法少女だそうです。

何でしょうこの人数は。

しかもみんな常に変身状態で、いつ何が起きても大丈夫なように気を抜いている様子もない。

まるで魔法の国の軍事施設にいるみたい。

 

 

いつもこんなに魔法少女がいるのかをマサさんに聞いてみたら

「いえ、今日はアネさん、いや組長と一緒に出掛けているので大分人数は少ないですよ。残っているのは非戦闘系魔法少女ばかりですし」

 

非戦闘系魔法少女でこの練度なのに驚いていると

「”備えよ、常に”、”常在戦場”、”変身シーンを待ってくれるのは特撮番組の中だけ”が組長の訓辞ですから」

と誇らしげに話してくれた。

非戦闘系の方達でも良いので人事部門に別けてくれませんか?

 

 

そしてやってきた7階。

今回の調査対象者はスノーホワイトさん。

巷では”白き災厄”、”鉄腕組の白い悪魔”、”高きより見下ろす白”など、様々な異名で呼ばれる災厄の魔女。

彼女を害そうとした者は尽く不幸な目にあって自滅していくこと。

そして、ありとあらゆる災害現場やテロ現場で彼女の姿が目撃されていること。

彼女の異名はそうした理由から付けられたのでしょう。

この鉄腕組では組長の右腕にして脳筋が多い鉄腕組の実質的な頭脳なのだとマサさんが教えてくれた。

そんな相手にこれから私は魔法をかけないといけない事を思うと気が重くなります。

 

 

私の魔法は魔法のゴーグルを付けて相手を見ると、その相手の情報が全て詳らかにされるという能力です。

戦闘力から性格、趣味にこれまでどんな人生を送ってきたのかすら。

本人ですら気付いていないことでも全て調べることが可能な能力。

その魔法の有効性から私はお給料が貰える魔法の国の人事部門で働けるようになりました。

反体制派に所属していたり、反社会的な趣味や嗜好を持った魔法少女を私の目で暴いて事件やテロなどを事前に防ぐというお仕事。

人事部門の人員としては理想の魔法だそうです。

今までにも新人研修や調査任務で要注意魔法少女の情報を覗き見ることも経験してきましたが、危険な相手に対しては当人に知らせずに見ていました。

ですが今回は上司がスノーホワイト当人に魔法の効果を教え、それを使用して調査する許可を取ってきたのです。

災厄とも言われる怖い人相手にそんな許可を取ってこられる上司が一番謎です。

………もしかして、魔法を使った後に口封じで殺されたりしないですよね?

 

 

「小雪様、マサです。お客人をお連れしました」

マサさんがノックをして中へと声を掛ける。

すると無言で中から扉が開けられました。

 

 

開けてくれたのは昨日訓練所で見かけたハードゴアアリスさん。

確か調査書によると、”不死者”や”パーフェクトゾンビ”とか言われている特殊な魔法少女です。

どんなにダメージを受けようが、マグマに放り込まれても再生する死なない魔法を使う代わりに、脳が腐敗していて知能がまったくなく、簡単な命令しか受け付けず、命令がなければ一日中ボーッと立っているだけ。

そのせいで未だ一度も変身を解除できずにいる可哀想な魔法少女らしいです。

話す言葉も「フンガー」だけだとか。

そのせいで、魔法は強力でも脅威度はまったくなく、人事部門でも無視していいと言われました。

その彼女は生前?スノーホワイトを好きだったらしく、ゾンビになった後でも、いや魔法少女になった後でもずっとスノーホワイトの側にいるそうです。

彼女の健気さに少し涙が出てきます。

 

 

スノーホワイトさんのお部屋ですがピンクを基調とした可愛らしいお部屋です。

ヌイグルミとお花、そしてフリルで飾り立てられたお部屋に一瞬ここがヤクザのビルの中だということを忘れそうになりました。

ここがスノーホワイトさんの専用仕事部屋だそうです。

その部屋の主はソファに座り、女の子に絵本を読み聞かせています。

 

 

「………こうして犬の魔法少女さんは魔法料理で男の子を誑かして頭からマルカジリしようとした悪い魔法少女をやっつけたのでした。

早苗ちゃんは知らない人に美味しいものがあるからって言われてもついていっちゃダメだよ」

 

 

女の子は話を聞きながら犬の魔法少女さんはやっぱり凄いね、と目を輝かせています。

これは魔法少女にするための英才教育なのでしょうか?

どちらかと言うと洗脳かしら。

そして話が一区切り付いたスノーホワイトさんは女の子を帰宅させるようです。

 

「アリスちゃん、早苗ちゃんを家まで送っていってあげて。”ちゃんと家まで”ね」

 

女の子は私に気付いてトコトコとやってきて

「はじめまして、むろたさなえ、6さいです」

と可愛らしくお辞儀をしてきました。

「7753よ。よろしくね、早苗ちゃん」

「ななこさん、もっとおはなししたいけど、きょうはもうさようならなの。ごめんなさい、バイバイ」

と手を振ってアリスさんと一緒に部屋を出ていきました。

その間もスノーホワイトさんはニコニコと笑顔でこちらを見ていました。

 

 

+++++

 

 

やっと今日のハイライト、スノーホワイトさんとの対談です。

お互い向かい合ってソファに座っているんですが、スノーホワイトさんの背後と私の背後に目が据わっている黒服さん達がいるのがちょっと怖いです。

本当に、口封じとかされないですよね?

スノーホワイトさんはずっとニコニコと笑っていて内心が読めません。

 

 

「あの、うちの上司から話は行っているかと思いますが、今回は私の魔法でスノーホワイトさんの調査をさせていただきます。

私の魔法を使うとどんな情報も隠すことは出来なくなりますがよろしいですか?」

「はい、伺っております。私には人様に隠し立てするような行いはありませんのでどうぞなんでも見ていってください」

やはり表情は変わらずニコニコとしている。

こうなったら本当に魔法を使わないと何も成果は出ないだろう。

せめて口封じに対して牽制だけはしておかないと。

 

「警告しますが、私の魔法を使うとリアルタイムで人事部門の上司にデータが送信されます。不都合な情報を見られたからと言って口封じをしても意味が無いことをお伝えしておきます」

スノーホワイトさんが頷くのを見て魔法を使った。

 

 

スノーホワイト。本名、姫河小雪。21歳。

趣味、「人命救助」「人間観察」「人間賛歌を謳うこと」…人間賛歌ってなに???

趣味で変なのが出てきたけど、こんなのはどうでもいい。

大切な項目に絞ってデータを呼び出す。

 

 

戦闘力はっと……………あれ?ハートマークがゼロ?いや微かに欠片みたいなのがある。

これって周りの組員さん達どころかなりたてホヤホヤの非戦闘系見習い魔法少女よりも弱いんじゃないのかな?

あれ?いくら非戦闘系の見習い魔法少女でも一般人の10倍ぐらいは強かったはずだけど。

周りの黒服さん達が怖くなるので深く考えないようにしよう。

 

 

それじゃ、今まで殺した魔法少女の人数。ハートマーク、ゼロ。

 

 

おかしい、今まで殺した一般人の人数。やっぱりゼロ。

 

 

ええと、それじゃ大抵の魔法少女はやったことがある、無賃乗車の数………ゼロでした。

 

 

どういうことなの?

彼女は本当に”白き災厄”のスノーホワイト?

テロリストや反体制派魔法少女たちを恐怖のどん底に叩き落とした災厄の魔女じゃないの?

でも確かにスノーホワイトって名前が表示されている。

 

 

えっと、彼女を恐れている人で検索…ハートマークで埋め尽くされました。どうやら本人のようです。

だとしたらどうして?

 

 

疑問に思った私は先程の趣味を思い出し、『助けた人の数』で検索したら。

さっきよりも多くの数のハートで埋め尽くされました。

もしかして、彼女は噂されているような魔法少女ではなく、誤解されているだけなんじゃないのかな。

彼女の魔法を見てみると”困っている人の心の声が聞こえるよ”という彼女の異名からは程遠い優しい魔法が表示される。

その魔法を使って災害現場や事故現場で困っているみんなを助けているよ、と表示される。

それを見てもし冤罪ならば彼女の汚名を晴らしてあげないといけないという謎の使命感に燃えて、私は更に彼女の人生の軌跡を辿っていく。

 

それによってわかったこと。

彼女の転換期はクラムベリーの試験にあった。

 

 

スノーホワイトの行為は全てが善意によって成り立っていることが分かった。

現在の彼女には悪意という感情が全く存在しない。

否、悪意という感情を持つことが出来ないのだ。

 

 

その原因はクラムベリーによって植え付けられたトラウマ。

彼女はクラムベリー試験の際に幼馴染をクラムベリーに殺された事を知り、恨みと怒りを晴らすために"悪意"をもってクラムベリーへと戦いを挑んだ。

だが彼女はクラムベリーに返り討ちにされて、危うく死ぬのところまで追い詰められ、それがトラウマとなり"悪意"という感情を持つことができなくなった。

 

 

また、その後リップルからクラムベリー対策として魔法訓練を受ける際にも問題が発生した。

当時、リップルは"怒ることも泣くこともできなくしてやる"といった教育方針でひたすら精神を追い詰める訓練を5日間受けることになった。

どれだけ不満を爆発させても、涙を流そうとも終わることのない闘牌。

常に魔法を使うことを強要され、すべての行動の結果を魔法で計測できるようになり、息をするように魔法を使えるようになるまで吐いても呻いても訓練は終わることがなかった。

その結果、彼女の感情は喜怒哀楽のうち怒と哀の感情が消失してしまった。

 

 

故に彼女は常に善意で行動し、未来への愉しみと日々の悦びだけを感じ生きているのだ。

 

 

彼女以上の白く正しい魔法少女は他にはいない。

故にスノーホワイトという名前が与えられたのだろう。

7753はゴーグルに映し出されるそのデータから彼女に危険性はないと感じていた。

彼女につきまとう不吉な評判は、すべて不運による自業自得、因果応報というやつであろう。

この情報を上司に伝え、一刻も早く冤罪を払拭すべきであろう。

それがこの人を救うことだけを常に考えている彼女に対する私達魔法少女の誠意であると感じる。

 

 

スノーホワイトさんは確かに精神を病んでいるのでしょうけど…。

だがそれで何か害をなすという事がないのなら、問題はないわね。

むしろ人命救助の実績を見る限り、ちょっと可愛そうだけどこのまま治らないでいたほうがいいのかも。

 

 

魔法を使って少し疲れた私に、部屋の隅で待機していた可愛いメイドさんがお茶を差し出してくれた。

とても美味しいお茶だ。

開いた窓から吹き込む風も心地よく感じる。

彼女のようなステキな魔法少女に会えたという嬉しい気持ちがそう感じさせるのだろうか。

 

 

お茶を飲んで一息つき、スノーホワイトさんに向き直る。

「調査は完了しました。スノーホワイトさんにはなんの瑕疵も見られませんでした。正直何故貴方のような方がここにいるのかが不思議なほどです」

「いえ、私は常に現場にいたいのです。ここには助けを求めている方がたくさんいますので」

「貴方のような方には是非魔法の国で働いてもらいたいですけどね」

「ふふふ、考えておきます」

 

 

和やかに対談は終わろうとしていた。

 

 

していたのだが、そうはいかなかった。

いつの間にか窓に一人の魔法少女が立っていた。

 

 

「見つけた、白き災厄!!魔法結社「こだわりのある革命家の集い」の仇、今ここで討ってやる!」

 

 

「こだわりのある革命家の集い」、聞いたことがある。

確か白き災厄を襲おうとして何故か魔法の国外交部門の慰安旅行のバスに襲撃をかけて、結果魔王パムさんに蹴散らされた馬鹿ゲフンゲフン、おっちょこちょいの集まりだったはず。

 

 

刺客が動き出す前に黒服さん達が銃を抜き、彼女へと躊躇いなく銃撃する。

しかし、弾丸は彼女の体をすり抜けていき、薄っすらと消えていった。

 

 

「対魔法少女戦、ケースB!魔法は実態のない迷彩系!近接戦闘開始!魔法の武器を出せ!各員目に頼るな気配をさぐれ!メルヴィル先生との鬼ごっこを思い出せ!」

マサさんがすかさず指示を出し、メイドさんから禍々しい黒い槍を受け取る。

「アネさんのケダモノの槍、使わせてもらいます」

 

 

私の前に立っていた黒服さんがいきなり吹き飛んだ。

そのまま水平に飛んでいき壁に叩きつけられる。

あれは不味い、あんな叩きつけられ方したら確実に死んでしまう。

私が付いていながら一般人に被害を出させるなんて。

一瞬血の気が引いたが

 

 

「怪我はないか?」

「平気ですよ。肋骨が何本か折れただけです。アリスさんの腹パンに比べたら蚊が刺したようなもんでさ」

「ハハッ確かにそんなもの怪我のうちに入らんな」

と笑いあって何事もなく戦線に復帰した。

 

 

それを見て唖然としているとマサさんにいきなり抱き寄せられた。

「7753あぶねぇ!」

そして強い衝撃が彼の胸板ごしに伝わってくる。

 

 

刺客の攻撃を抱き寄せてかばってくれたのだ。

その行為に戦闘中だと言うのに不覚にもキュンと来てしまった。

 

 

マサさんは目を瞑って意識を集中している。

これはキスをすべき場面ではないだろうか。

視界の隅でメイドさんが、やれっブチュっとやっちまえ!とジェスチャーしてくる。

恐る恐る唇を差し出していたら。

 

 

「見つけた!」

とマサさんが目をカッと見開いて、

右後ろに槍を突き出した。

 

 

断末魔の声とともに、魔法が解除された女性が現れた。

槍は心臓を穿ったようで、彼女はもう虫の息です。

 

 

「7753、こいつの名前、視てやってもらえますか?」

マサさんが痛ましそうにその女性を見ている。

スノーホワイトさんも「どうして?どうしてこんなことに?何でみんな仲良く出来ないの?」と表情の抜け落ちた顔で言う。

哀の感情がなくなった彼女には涙を流すことすら出来ないのだろう。

 

 

「彼女の名前は────です」

マサさんに伝える。

 

 

ちょうど事切れた彼女にマサさんは手を合わせ黙祷して、そして槍に彼女の名前を書く。

その槍はよく見たら黒いのではなく、びっしりと名前が書き込まれて黒くなっているのが分かる。

 

 

「この槍は、アネさんがクラムベリーとの騒動のなかで他の魔法少女を殺して手に入れた槍でさ、自分が殺していった子達の名前を書いて、せめて殺した自分は彼女たちの事を忘れること無く罪を背負っていくって、そうやって今でもこの槍で殺めた人の名前を書いていってるんですよ」

そういって、サングラスから流れた涙を部下の人たちに見えないようにそっと拭う。

 

 

「俺はそんな不器用なアネさんに一生ついていくって決めてるんですよ。例えアネさんが誰に恨まれようが疎んじられようが」

それを聞いて、マサさんの信じるアネさん、リップルさんを私も信じてみたくなった。

きっとスノーホワイトさんも同じ気持ちなのだろう。

 

 

スノーホワイトさんと同じようにリップルさんもまた言われているほど悪い人じゃないのかもしれない。

マサさんの言うように不器用なだけなのだろう。

何故かそう思えてきた。

そして、そんなリップルさんを支える彼のことは私が支えたいとも。

ふと見るとメイドさんがガッツポーズをして、スノーホワイトさんがニヤニヤと笑っていた。

どうやら私の淡い恋心は見透かされてしまったようだ。

思わず顔が赤くなって、逃げるように鉄腕組から立ち去ってしまった。

帰り際にこれからの連絡先と言われて渡されたマサさんの名刺を胸に抱いて。

 

 

 

 

7753の本日の報告

「寿退社しようと思います」

 




どうでしょう、スノーホワイトさんは単に誤解されていただけなんですよ。
全部善意の気持ちなんです。
ただ単に人を救いたいだけなんですよ。
ところで部屋にいたメイドさんって誰なんだろうなー謎だなー。

ところでまだ後編読んでません。
7753は一体どうなるんだー。

追記:アリスの扱いですが、意思がないって思われてるのはただ単に魔法が強力なので警戒されないように嘘申告してるだけです。
自由意志ないですよーだから安全ですよーって。
それに騙されてホイホイ近寄ってきた馬鹿はアリスちんに腹パンされて死にますので注意。

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