魔法少女育成計画とかどうでもいいから平凡に暮らしたい 作:ちあさ
9000字オーバーと遅筆の私にしてはかなりの長さ。
どこで切るのが最適か悩んでいたんですが、
どこで切っても中途半端な感じがして。
ここまで来たら繋げちゃったほうがいいかなって。
いや、こんな短い文で待たせるんじゃねーよっていう厳しい意見は重々承知しています。
1万文字オーバーが基本の上位ランクの方達は本当に尊敬します。
もっと上手く書けるようになりたい。
さて、今回も状況がコロコロ変わって落ち着かない感じですが。
頑張って読んで下さい。
逃げていく暗殺者を見送るスノーホワイト。
だがその顔はこれから起こることを知っているかのように楽しそうに歪ませていた。
「私はまだハートマークを増やせないので後始末、おまかせしますよ」
+++++
妖精トコに魔法少女にされた海達7人は同じ中学校の生徒たちだった。
1人先生や動物も混じっていたが。
魔法少女になった後、妖精トコから悪い魔法使いに追われているから助けてほしいという依頼を受けた海たち。
海達は一度、その悪い魔法使いと相対して何とか退けることができたが、倒すことはできなかった。
海達が魔法少女になったばかりで連携どころか仲間の魔法すらよく分かってない状態だったからだ。
そのため一度海の所有している無人のアパートで作戦会議を開くことになった。
そこで、学級委員長である結屋美祢ことウェディンがリーダーになることを宣言して海と喧嘩になったり、仲間の魔法少女テプセケメイの正体が理科実験室で飼われていたエジプト陸カメだと分かりびっくりしたり。
また繰々姫こと姫野希先生が責任感に押しつぶされそうになっていたり、1年生2人、
レイン・ポゥとポスタリィが頼りなかったりと前途多難を感じさせる作戦会議を行っていた。
やっぱり頼りになるのはこのキャプテン・グレースだけだと海はまだ見ぬ冒険への日々に思いを馳せていた。
そんな会議中、海達はいきなり奇妙な空間に放り出された。
「なにこれ!まさか悪い魔法使いの魔法!?」
ウェディンが困惑して辺りを見回している。
1年生2人は顔が真っ青だ。
佳代も怯えているのかあたしの服を掴んでいる。
先生は「とにかくみんな落ち着いて」と叫んでいるが、先生こそ少しは落ち着いたほうがいい。
メイは相わからず無表情で浮かんでいる。
「なんだか知らないけど、おもしろそうじゃない」
海は持ち前の冒険心が擽られているのを自覚する。
周囲の景色は見たこともない、それこそ子供が無秩序に落書きした絵の中のようになっている。
「これは…まさか魔女?初めて見るけど、こんな現象は他にはないだろうし」
トコがが何かを知っているようで考え込んでいる。
「魔女って?魔法少女とか魔法使いじゃなく?」
新しく聞く単語に海は好奇心を擽られた。
「魔女っていうのは魔法の国が管理できていない自然発生するモンスターのことで、えっとたしか、今感じに結界に獲物を捉えて人間を食べちゃうらしいわよ。眉唾だったんだけど実在したなんて」
モンスター!いいじゃないか!
まさに大冒険だ。
キャプテン・グレースの冒険にモンスターは欠かせないだろう。
海はたまらず飛び出してモンスターを探しに行く。
それを佳代ことファニートリックと先生こと繰々姫が追いかける。
「まって!まってよ海!1人でいくなんて危ないって」
「そうよ。まずはみんなで相談して………あー、もう先生の指示に従いなさい!」
そんな制止の声が聞こえるが海を縛るものなんて存在しない。
なぜならこれは海の、キャプテン・グレースの物語なのだ。
主人公は自由で強くて、そして正しいんだ。
襲い掛かってくるなんか小さいのを縦横無尽に切り刻みながらキャプテン・グレースは楽しそうに笑い声をあげる。
いいぞ、たのしいぞ!やっぱり魔法少女って最高だ!
後ろをついてきている2人も難なく迎撃してる。
さながらキャプテン・グレースと子分たちの大進撃。
今までしていたごっこ遊びが霞むぐらいの楽しさだ。
キャプテン・グレース、芝原 海は小さい頃から冒険が大好きだった。
いつか物語の主人公みたいに世界を股にかけた大冒険をすることが夢だった。
しかし、現実の世界に冒険なんて存在しない。
だけど海にはそんなことが我慢ならず、同じ趣味の佳代を連れて色んな無茶をやってきた。
どこそこに強い格闘家がいると聞いたら道場破りをして叩きのめす。
ヤクザ相手だって海にとっては遊び相手だ。
近場のヤクザ事務所に襲撃をかけてまわり、ボコボコに殴り飛ばすのは爽快だった。
最近話題になってるヤクザ、鉄腕組へと殴り込んたこともあった。
家にあったトラックを運転して鉄腕組ビルに突っ込んでいったときは最高の気分だった。
突っ込んだトラックに跳ねられた陰気な幼女が何事もなく起き上がって来た時は驚いたし、その後、その陰気な幼女に手も足も出ずにボコボコにされたのはいい想い出だ。
佳代と一緒に半年も病院にお世話になったけ。
佳代なんて1ヶ月も意識不明で大爆笑した。
やっぱり佳代は私が付いていないと危なっかしいな。
そんな海だからこそ、魔法少女になれた時は驚きよりも嬉しさのほうが強かった。
これでもっともっと冒険ができる。
しかも海の姿は女海賊で、魔法は海賊船を出すことだ。
これはもう冒険に出ろって言ってるようなものでしょ。
そしてトコが悪い魔法使いに追われているから助けてほしいって言ってきた時は興奮した。
まさに正義の味方の海にとって最高のシチュエーションじゃないか。
そんなことを考えながら不思議な空間をひた走っていたら一際広い部屋にでた。
そこには足の長いテーブルみたいなものが乱立している場所だった。
海達3人は油断なくあたりを見回す。
こんな広い部屋、如何にもボスがいそうではないか。
「や・・・やっと追いついた」
その声に後ろを振り返ると一年生2人組もこちらに追いついていた。
メイがいないけど、飄々としているからどっかに浮かんでいるだろう。
海は特に気にしないことにした。
唐突にそいつは現れた。
そいつは小さいやつだった。
トコが「そいつが魔女だ!」と警告しなければ今までの道中で出てきた雑魚と同一だと思ってしまったほどだ。
なんか小さい人形って感じの魔女。
どうみても弱そうだった。
試しに海が斬りつけてみたら、意外とすばしっこいのかひょいひょいと避けられる。
でも何度か動きを見ていたらパターンもわかったので動きを捉えることができた。
そして最期は剣で串刺しにして仲間の方へと投げ飛ばす。
こんな雑魚だとは思っていなかった。
これでは弱い者いじめではないか。
弱い者いじめをする主人公なんてかっこ悪い、全然冒険じゃない。
なのでトドメは仲間にさせることにした。
特に1年生はおどおどしていて未だに慣れていない。
ここで実戦経験を詰めば少しは使えるようになるはずだ。
「もう死にかけだから、そうだなポスタリィだっけ。
あんたがやりなよ」
そう海に声かけられたポスタリィはビクッとして私が?と指で自分の顔を刺している。
隣のレイン・ポゥも頑張って、大丈夫、怖くないよって声をかけている。
ポスタリィもそれを受けて覚悟を決めたのか、串刺しにしているキャプテン・グレースの剣を握り、持ち上げ、魔女を地面に何度も叩きつけた。
何度目かで魔女はぐったりとして動かなくなった。
さて終わったか、んじゃ帰ろうとみんなで元来た道を引き返そうとした時に悲鳴が聞こえた。
見ると魔女の口からでかい芋虫のようなものが出てポスタリィの頭を丸呑みにしていた。
グシャ、ボキッ、ゴキッ、グチャ………
ポスタリィの頭を咀嚼する音が響き渡る。
そして頭部を失った体が地面に落ち、先生の悲鳴が上がった。
その悲鳴で硬直していたキャプテン・グレースも我に返り、芋虫?いや新しい魔女に向かって斬りかかる。
だがその動きは先ほどとは比べ物にならない速さで当てることができない。
魔女はその巨体で押しつぶそうと駆け回る。
突っ込んできたウェディンたちが避けようとして弾き飛ばされ、硬直していた佳代は魔女に飲み込まれてしまった。
それをみて激高したキャプテン・グレースは咀嚼していて動きが止まっている魔女に斬りかかるも、容易く避けられ跳ね飛ばされる。
壁へと叩きつけられ、あまりの衝撃に息がうまくできない。
こうなったら海賊船を出して押しつぶすしかないか。
でもこんなところで出したらみんなも避けれずに潰されてしまうかもしれない。
どうすればいいと悩んでいる間に魔女は咀嚼を終え、また動き出そうとしていた。
そんなとき、何かがものすごい速さで魔女へと体当たりした。
衝突の威力は凄まじく、魔女の体を容易く突き破り、広間を揺るがせた。
それは箒に乗った魔女のような格好をした魔法少女?だった。
「いやー、魔女空間っていつ来ても順路がぐちゃぐちゃで迷っちゃうよ。
あれ?人数足りないけど、もしかして遅刻しちゃった?」
その魔法少女は悪い悪いと頭をかきながら陽気に声をかけてくる。
その背後で魔女がまた鎌首をもたげてその魔法少女を飲み込もうとしている。
「おい、あんた…」
海が警告しようと声を上げかけた時、魔女の頭部が弾け飛んだ。
いつの間にか銛を持ったエルフみたいな魔法少女が立っていた。
動きが全く見えない。
おそらく手に持った銛で攻撃したんだろうけど、それが全く見えなかった。
周りの景色が歪んで、立っている場所がアパートの外へと変わっていた。
そして、周りには何人もの魔法少女らしき女性たちが囲んでいた。
エルフがこちらを向いて声を上げてきた。
「警告します。
大人しく投降するなら命の保証は致します。
今直ぐ変身を解いてうつ伏せになってください」
「みんな逃げて!そいつらが悪い魔法使いよ!」
トコの声でレイン・ポゥがトコを掴んで弾けるように逃げ出していく。
ウェディンも困惑しながらも走り去る。
先生は何がなんだかわからないようでオロオロとしている。
あたしは…。
「あたしの名はキャプテン・グレース!お前らのような悪に敗けるあたしじゃない!みんなやっつけてやる!」
剣を持ってエルフへと斬りかかっていた。
この程度の困難、冒険物語では定番だ。
ピンチのときこそ活路は見出される。
今こそあたしの隠された力を発揮してこの強敵を倒すときだ。
見よ!このキャプテン・グレースの勇姿を!
みんなあたしのことを見て唖然としているじゃないか。
先生も敵の魔法少女にリボンで簀巻にされてこちらへ泣きそうな顔を向けている。
そしてあのエルフだってあたしの体へと銛を突き出してこちらを見上げている。
なんだその残念そうな顔は、まだまだ勝負はこれからだぞ!
キャプテン・グレースの冒険はこれからだ!
それがキャプテン・グレースが思考できた最後の瞬間だった。
+++++
トコの声で反射的に逃げ出し、道路へと飛び出したウェディンの前に兎のヌイグルミを持った黒い魔法少女が立っていた。
身の丈は私よりも大分小さい。
少女というより幼女と言ったほうがいいかもしれない。
なんかちょっと不気味だけど、戦闘が出来そうな感じじゃないし後衛タイプなのかもしれない。
ならば私でも倒せるかも。
どちらにしろこんなところで足止めされてちゃ他の魔法少女達が追いかけてくる。
あのエルフっぽいのとかが来たら私では手も足も出ないだろう。
キャプテン・グレースがどこまで戦えるか分からない今、時間は宝石よりも基調なのだ。
よし、まずはこいつを倒して逃げ切る。
その後は先に逃げたレイン・ポゥとそしてどっかにいるだろうメイと合流して体勢を整えよう。
もしかしたらキャプテン・グレースだって助けに行けるかもしれない。
そんな楽観論は一撃で物理的に粉砕された。
間一髪避けれた彼女のパンチは背後のビルを粉砕した。
3階建ての鉄筋ビルが一撃で崩壊したのだ。
スピードは私でも避けれる程度の速度だったが、
その威力はキャプテン・グレースをも遥かに上回る。
「ね、ねぇ、貴方達の要求は何なの?
降伏したとして、本当に命の保証ってされるのかしら?」
近接戦闘であんな馬鹿力相手に勝てるわけがない。
こうなったらなんとか相手から"約束"を引き出すしかない。
私の魔法は相手に"約束"をしたことを強制させる力。
これで相手の行動を縛ることができたら、まだ勝機はつかめる。
「…………?」
黒い魔法少女は首をコテっと倒してこちらをじっと見る。
「ねぇ私達って魔法少女続けられる?」
さらにコテっと反対側に首をかしげて、こちらへと近づいてくる。
「ね…ねぇ?もう抵抗しないからさ、攻撃しないでくれない?」
なんか様子がおかしい。
とりあえずジリジリと私は後ろへと下がりつつ再度声をかけたのだが。
「………ふ、」
彼女はピタリと動きを止めて口を開く。
「ふ?」
そして彼女は腕を上げ…
「フッ」
こちらへとにじり寄って…。
「フンガーーーーーー!!」
こちらへと飛びかかってきた!!!
「ちょっ!抵抗しないってばさ!やめてよ!攻撃止めて!」
なんども制止の声を上げるが、彼女は困ったような顔をしながらも攻撃を続けてくる。
その強大な腕力を振り回し、辺りは瓦礫の山へと変えられていく。
「フンガ---!!」
「もう本当に!止まって!止まってよ!」
彼女はそれを聞かず、しつこく私を捕まえようとする。
何度も話しかけるけど、返答は変わらずフンガーだけ。
彼女は壁を叩き割り、道路を陥没させ、電柱柱を引き抜いて振り回す。
まさにバーサーカーと言った感じだ。
バーサーカー?
飛んでくる電柱柱を避けながらふと思いついたことがあった。
いやいやまさか。
えっと…いやでも。
フンガフンガと暴れまわる彼女を見て考える。
やっぱり…これってもしかして…
「なんで話せない魔法少女なんているのよ!!!!!!」
そして数分後、私は見事取り押さえられてしまいました。
「フンガーーーーーーー!!!!…なのです」
+++++
メイは上空で箒にのった魔法少女と戦っていた。
相手はメイでも追いつけないぐらいの速さで何度もメイに体当たりをしてきた。
メイの魔法は体を風にすること。
相手の攻撃をすり抜けてどこまでもとんでいける便利な魔法。
なのでそいつの攻撃も体を風にしてすり抜けようとした。
だけどメイがその箒に触れた途端弾き飛ばされた。
どうやら相手も風を纏っているようで、メイの風とぶつかるみたい。
大した痛みじゃないけど、食らうとバラバラにされちゃうから、戻るのが大変。
お返しに風の弾をぶつけてるけど、それも相手の風に阻まれて当たらない。
相手は上空から何度も何度もしつこくぶつかって来ようとしてくる。
メイはぶつかるのは嫌なので下に逃げる。
また上空から飛んでくる。
嫌なので下に逃げる。
上から来る。
下に逃げる。
何かがおかしい。
さっきから相手は同じ方向から飛んでくる。
まるでメイを何処かに連れて行こうとしてるような。
そう思った時だった。
「風よ!戒めの鎖となれ!ウィンディーーー!!」
その言葉とともに下方より拭き上げてきた風がメイを縛り上げる。
下方を見るとビルの屋上に棒を持った魔法少女が立っていて、その子の前に浮かんでいるカードから風がどんどん吹き付けてくる。
その風はメイを下へと引っ張ろうとしてきたので、風と同化して抜け出そうとするけどできない。
今までメイの意思で自在に動いていた風が全く言うことを聞かない。
メイの体を風にして抜け出そうとするけど、そうすると風になった体までメイを縛りはじめる。
メイにはもう何がどうなってるのか分からない。
もがけばもがくほど抵抗する力がだんだんと無くなくなっていき、どんどん地面が迫ってくる。
メイは負けたのだ、ただそれだけは分かった。
そして失意のまま地上へと落とされてメイの意識は暗転した。
+++++
何でだ、何で当たらない。
レイン・ポゥは困惑していた。
どれだけ虹を打ち出そうともまるで当たらない。
相手のスピードが早いわけでも手数で迎撃されているわけでもない。
ただ当たる直前に体を少し傾けただけで全て避けられる。
まるでどのタイミングでどう良ければいいか最初から分かってるみたいに。
「ふふふ、ねぇどうしたんですか?
この程度なんですか?
やっぱり奇襲じゃないと殺せないんですか?
得意みたいですものね、何も知らないって顔で後ろから刺すのが」
白い魔法少女が挑発するように嘲り笑う。
相手は既に私が暗殺者だと分かっているようだ。
私の魔法は自在に実体を持った虹を発生させる魔法だ。
その虹を使って敵を切り刻むのを得意としている。
虹の射出には音も気配も発しないので暗殺向きである。
ただし虹を発生させてそれを伸ばすまでにタイムラグが有り、ほぼ直線にしか伸ばせないという欠点もある。
なので戦闘能力に長けた相手と真正面からぶつかれば迎撃されやすいのは理解している。
敵に気取られず奇襲で殺しているのはその特性を理解しているからだ。
だがそれでも今回のように簡単に躱せるほど甘いものでもないはずだ。
発生させられる数に限度がないので手数で押せば大抵の相手は迎撃しきれずバラバラに切り刻める。
そうか、ならば避けれないようにスペースを無くしてしまえばいい。
私は彼女の周囲を囲むように配置し、躱せるスペースを無くして虹を発射させる。
「あらあら、そんなに密集させちゃったら」
白い魔法少女が右手を前に差し出し、指弾を放つ。
指弾は伸びようとしている虹へと当たり射出角度が変わって、他の虹へと激突する。
激突された虹も角度が変わり別の虹を巻き込んで…
連鎖反応的にそれが続き、射出角度を変えられた虹が逆に私へ襲い掛かってきた。
予想外の虹の動きに躱すのが遅れ右腕が斬り飛ばされる。
「ほらーこんな感じに衝突事故が起きちゃいますよ。
ふふふ、痛そうですねー、"聞こえて"きますよ貴方の心の悲鳴が」
またもや無傷の白い魔法少女が顔に恍惚とした笑みを浮かべて立っている。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ…
こいつヤバすぎる。
レイン・ポゥは恐怖で体が震えている。
「いやいや、まさか貴方みたいな未熟な人にあの魔王パムさんが殺される可能性があったなんて。
魔王パムさんって結構面白いんですよ。
私、もっともっと彼女で遊びたいです。
だから今回は介入させてもらったんですよ」
訳のわからないことを言っている白い魔法少女。
それにレイン・ポゥが戦慄していると、魔法端末から声が聞こえる
「そいつは白き災厄だにゃん。
関わるととんでもないことになるにゃん。
今は逃げ切ることが最優先にゃん。
早く逃げるにゃん」
「そうよレイン・ポゥ、そいつ、さっきから攻撃してこないじゃん。
きっと攻撃系の魔法は持ってないってば、早く逃げるのよ」
胸元に隠れているトコも逃走を促してくる。
白き災厄、たしかヤクザものだったはず。
ならば運営に通達されても情報の信用度は低いはず。
外の協力者ならばもみ消すことも可能だろう。
レイン・ポゥは素早く思考を巡らせ、脱兎の如く逃げ出す。
トコの言うとおり攻撃系の魔法がないのか、何故か追撃はなかった。
+++++
翌朝、アニメを見終わったリップルはB市へとやってきていた。
いや、元B市と言ったほうがいいだろうか。
そこにはデカイ爆発跡だけが残されていた。
B市の半分はその爆発で跡形もなく吹き飛んでいて、
残った部分も爆風や衝撃波で無事な建物など存在していなかった。
空には自衛隊やマスコミのヘリが見える。
ここまで大々的に破壊されてしまえば魔法の国でも情報操作は不可能ではないだろうか。
幸い住人や魔法少女たちは爆発の直前にほむほむとアッシー君の魔法で回収されていたので無事らしい。
「えっと…一体どうしてこんなことに…たしか適当に処理してって言ったよね」
その声に白いのが嬉しそうに答える。
「ええ、だから適当に処理しました。
敵暗殺者と捜査チームにいた魔王パムの力を勘案し、全戦力を投入するのが適当だと判断しましたので。
結局魔王パムは最期のミサイル攻撃も耐えきったし、暗殺者には逃げられちゃいましたけどねーテヘペロッ」
殺したいこの笑顔。
「なんていうか…
ジェバンニが一晩でやっちまいました」
白いのは爆発跡にあるでかいクレーターを指差して、あそこに水が溜まったら鉄腕湖ってつけるのもいいかもしれませんねー。
いっその事、街作って鉄腕市ってのもいいかも。
夢が広がりますねーと言っているが、僕にとってそんなのはどうでもいい。
もっと差し迫った危機があるのだ。
「これはもしかして車椅子に怒られるパターンじゃないだろうか」
白いのの隣りにいる黒いのを見る。
やれやれと首を振っている。
白いのに任せるからこうなったんだと言わんばかりに。
さて、しばらく自分探しの旅に出るか。
チベット辺りまで逃げれば車椅子だって追いかけてこないだろう。
成田空港で早速捕まりました。
+++++
レイン・ポゥは解除時間まで結界側の古びた山小屋で息を潜めて隠れていた。
待っている途中、街中の方で巨大な爆発が起きた時は魔法の国が強硬手段に出たのかとも思った。
だがそれ以降何も起きず、結界解除後にB市から逃げ出すことができた。
そして協力者が指定した隠れ家へ向かっている。
目立たないように変身を解除して電車での移動なので時間がかかるのは仕方かない。
切り落とされた右腕は山小屋にあった救急箱に入っていた包帯で無理やり止血して、コートを羽織ることで隠している。
失った血液と痛みで頭が朦朧とする。
まだか、まだつかないのか。
痛み止めの薬のせいか目が重くなる。
まだ目的の駅まで時間がかかる。
少しだけ眠って体力を回復すべきか。
少しだけなら、電車もそれほど混んでいないし、だれも私には目を向けていない。
血もなんとか包帯とコートで隠れて見えないので声をかけられることもないだろう。
少しだけなら。
大丈夫、追手もかかってない。
あの白き災厄が手下を使って無茶したせいで魔法の国は対応に追われてるって。
さっき協力者からも言われた。
大丈夫、安全だから。
だから少しだけ。
少しだけ寝よう。
少しだけ………………。
眠りに落ちる直前。
"全ての不義に鉄槌を"
そんな声が聞こえた気がした。
そして私の意識は永遠に闇に閉ざされた。
+++++
「あたしだよ、プフレちゃん。
ちゃんと悪い魔法少女を始末できたよ。
…うん、大丈夫、怪我はないから。
ありがとう、また悪い魔法少女がいたら教えてね。
あたし、頑張るから。
あと、魔法の教本ありがとう。
あれ凄く分かりやすくて………うん、お陰で遠距離攻撃とかできるようになったよ。
決め台詞集もかっこいいのばかりだし。
著者のクラッシャー伊東先生って尊敬しちゃう。
え?サイン本手に入るの?
うれしい。
これでリップルやスノーホワイトを殺せるかも。
あいつらの情報、手に入ったら教えてね。
………………うん、やっぱりまだ見つからないか。
ううん、いいの。
あいつらが狡猾だってことあたしが一番よく知ってるし。
プフレちゃんも危険なことに巻き込んでごめんね。
………ありがとう、じゃあまた連絡するね」
+++++
鉄腕組の白き災厄でも倒せなかった凄腕暗殺者レイン・ポゥが狗神に殺された。
そのニュースは魔法の国を戦慄させることになる。
こうして狗神の伝説が加速していく。
【unlimited編 完】
白いの「計画通りですね、欲しかったあの2人も確保できましたし、オマケの中学生と先生もついてきたし」
車椅子「うむ、ミサイルも時間通りだったしな。まったくあいつはいい仕事をする」
他人の不幸で飯がうまい。
そんな彼女らの物語。
そういえば主人公って誰でしたっけ。
続きのJOKER編はまだ読んでません。
読もうと思ってるんだけど時間ががが。
一区切り付いたし読もうかな。
そんな感じでまた次回もいつになるか分かりません。
いつもおまたせしてしまい申し訳ない。
予定は未定が座右の銘なので。
だからいつかどこかで会えるといいね。
追記:キャプテン・グレースのことを周りの魔法少女たちが唖然として見ていたのは
威勢よく突っかかってきたのにあの程度の攻撃すら避けられなかったのにびっくりしていたからです。
同じくメルヴィルさんも殺す予定なんてなかったけど、牽制のつもりで行った攻撃で死んじゃったので残念そうに見上げてました。
それにしてもサブタイトルが3文字違うだけで凄く印象が違いますね。