修正しました。
~ロキ・ファミリア ホーム~
幹部たちが遠征へと出発する数日前の出来事の話。
ロキ・ファミリアのホームにも、修練場と呼ばれる場所がある。
ここでは、中庭ではできない訓練が、メインに行われている。
「え、ええで?唱えてみ?」
ロキはガレスの後ろから顔を覗かせながら話しかける。
他のメンバーも出口近くや、窓際、魔法防御のできるリヴェリアの近くにいる。
魔法を取得したメンバーのほとんどは、ここで試し打ちを行う。
ダンジョンに挑むにあたって、分からない、ことは只の死の確率を上げる要因にしかならないからだ。
「ええっと。じゃあ・・・。」
ましてや、今から発動しようとするのは、あのベルだ。異常なほど早いステータスの伸びや、レアスキル2個所持。幹部たちとはいえど緊張がはしる。
そんな異様な緊張感のなか、本人は今からでも小躍りをしたいくらい(実際、魔法が顕現した時は踊った)テンションは上がっていた。
ベルは手を握ったり開いたりを繰り返しながら、手を前に突き出し、そっとつぶやく。
「【ライジング】」
そう唱えた。手から魔法が発動するわけでもなく。周囲に魔法陣が展開するわけでもなく。
本人にしてみればなんとなくいつもより、
「なんか、パチパチしてるだけじゃないですか?」
と、感想を漏らす。周囲も緊張を解きベルの観察を行う。
念願の魔法が、夢にまで見た魔法が、ちょっと違う感じで発動してしまった。
少し肩を落とすベルにティオナが、近づく。
「・・・・光ってるだけ?なんか、きれいだねー?綿菓子みたい!!んと・・・ちょっと、温かいかな?」
光の粒子のようなものは温かいらしい。ベルは改めてかたを落としながら、
「神様・・・・リヴェリア様・・・。この魔法は一体、何に使えるんでしょうか?」
「なんや!ええ魔法やんか!」
ロキはあっけらかんと
「ダンジョンでも松明いらずやん!いやぁー、経費削減やでぇ」
バシバシとベルの背中をたたく。
ロキとしては、仮にもゼウスの関係者であるっぽい子どもの魔法の発動なのだ。
本当に何が起きてもよいように準備はした。幹部をわざわざ呼び出したし、実は、
この修練場の周囲にはかなり高位な結界を張っている。いざとなれば、自分が掟を破る覚悟もあった。
(いやぁ~。ほんまに良かったわぁ~。ベル坊は残念そうやけど、まぁ、あてが外れてくれてよかったわぁ)
ロキが心底嬉しそうな顔で自分の背中を叩く理由なども知る由もなく、ベルは少し落ち込んでいた。ここでようやくロキ・ファミリアの魔法部門担当者が口を開く。
「・・・ベート。ベルを攻撃してみろ。」
「はぁ?」
ここにいる全員が、ベートと同じような言葉を漏らした。
「いいのかよ?おれぁ、アイズみたいに加減をしらねぇぜ?」
やる気満々のベートに対して、凍りつくベル。二人はあまり接点はなかったもののお互いに意識はしていた。ベルは恐怖の対象として、ベートは恋敵として、とかなりのズレはあるが。
「ああ。構わない。」
そんなベルの心中を察しているのか、いないのか。リヴェリアがそういうとベートはベルに向かって突っ込んでいた。
「ねね!大丈夫なの?アイズ?えいゆうくん、やばいんじゃない?」
「大丈夫だよ。最近、攻撃するときは手加減してないから。」
「「えっ?!」」
そこの感想なのかと、双子芸が珍しいティオナとティオネが声を重ねる。
ベートは高揚していた。正直自分でも驚くくらいリヴェリアの一言で闘争心を掻き立てられた。豊穣の女主人で見たときは只のオカマ野郎だったし、入団した時も全然、納得はしていなかった。ロキ・ファミリアの面汚しとさえ思った。毎朝、毎晩気が付けば女にボロカスにやられ、情けなく、弱く、脆いだけでへらへらしているだけの弱者だと思っていた。
だが、こいつは立ち上がった。何度も。何度もだ。リンチみたいな訓練に耐え、毎日泥だらけになりながらも逃げないこいつをみた。シルバーバックの時だって、本当は見てみたかったのだ。こいつが戦う姿を。期待してしまったのだ。昔、自分が口癖のようにいっていた言葉をあの時、あの場所で言い放ったこいつに。
だから、ベートは本気で行く。試しなど一切ない。本気で。
「らぁぁぁぁっ!!」
リヴェリアの言葉を聞き終えたベルに向かってくるベート。
(怖い・・!よ、避けないと・・・!!!)
ボコォ――――――。
鈍い音が部屋に響く。
ベートの攻撃がベルに直撃することはなく、ベートは先程までの攻撃対象を目を見開いて見つめる。
ベルは、ガレスの盾に直撃していた。・・・というより、凄まじい速度で壁に衝突しそうなベルをガレスが庇ったのだ。
「がははは。まさか、ワシのたてに傷をつけるとはのぉ・・・。」
盾のへこみをガレスと見ながら、
「なるほど。アイズと同じ強化系ということかな?」
先ほどから成行きを見守っていたフィンがリヴェリアに問いかける。
「ああ。どうやら、そうらしいな。しかし、まさかベートの攻撃がかわせるほどの速さがでるとは思わなかった。」
「なら、いろいろと試していかなくていけないようだね。」
フィンとリヴェリアは気絶するベルを見ながら、笑っていた。
~ダンジョン内~
(・・・この魔法の持続時間は5分。その間に・・・倒すんだ!)
ミノタウロスは、自分の獲物を奪った相手を凝視した。大振りながらも素早い一撃をベルに当てようとするが、かすりさえしなかった。
(大丈夫。この魔法を使っている間なら避けれる!)
ベルは、ミノタウロスの攻撃が避けれると確信した後、急速に近づきミノタウロスの胴体を切った。切った短剣・シィアの真っ白い刀身が赤く染まる。ベルはその勢いのまま壁を蹴り、背中から同じように胴体を切った。この攻撃を何度か繰り返した。ミノタウロスは反応が出来ているが、一動作ずつベルから遅れていた。
(これなら・・・・いける!)
ベルは、更に速度を上げミノタウロスを切りつけていく。だが、ミノタウロスは屁でもないようにベルの姿を追う。まるで、小うるさいハエが疲れて止まるのを待つように。
(まだ、なのか?!)
何度切り付けても倒れない敵に、ベルも困惑し始めた。自身がこの状態を保てる時間もそう長くない。なにか、なにか決定的な一撃を―――。
視線の先には魔石のある上半身。そこを突き貫こうとした、その時。
「なっ・・・・・!!!!」
ミノタウロスは、今までの怒りをバネにしたかのように突進してベルとの距離を詰める。
急な行動にベルは、反応できずにミノタウロスと壁の間に挟まれる。
「ごふぅっ・・・・。」
必死にミノタウロスの角を掴み、この状態から逃げようとするが、逃れることは出来ない。
もがけばもがくほど自分の体が壁にめり込んでいく気がした。もしかしたら、このまま潰されるのではないかと、思ったとき、不意に体が軽くなる。
ミノタウロスは、一瞬ベルを解放すると、躊躇なく、持っていた大剣を、ベルの左足に突き刺した。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
もはや、魔法は解け、動きすら封じられた。血は止まらず、骨は軋み、意識は遠のく。
薄れゆく意識の中でだが、ミノタウロスが薄く笑っているのが見えた。
・・・その、笑い方が、いつだったか・・・どこか、見覚えがある気がした。
ザザザザザザ―――――――。
ザザザ―――――。
(うるさい!今は・・・ダメなんだ!)
頭の中を手でぐちゃぐちゃと、こねられているような感覚がベルを襲う。気持ち悪い。いつも、少しだけ気持ち悪くはなるが、その気持ち悪さを飲み込めば通常通りに戻れる。だから、飲み込もうとするが、
まるで飲み込むという動きを身体が忘れたのではないかと思った。
気がついてみれば身体が動かない。
(あれ?何が・・・ダメなんだっけ?)
ザザザザザーーーー。
ザザザザザーー。
〜ダンジョン内 13階層付近〜
「アイズ?それ、何に使うの?」
ティオナはアイズが担いでいる甲殻のようなものを指さす。
「お土産にしようかと思って。ガレスが、いい盾の素材になるって言ってたから。」
「アイズ、盾なんかつかうっけ?」
「バカティオナ。お土産っつってんでしょ?」
「バカっていうなー!!・・・そっか。えいゆうくんにか。」
「うん。盾は・・・ちょっと重いかもしれないけど、籠手くらいにはなるかなって。」
アイズは少し照れくさそうに二人に話した。
そんな姦しい様子を後ろから見ていたリヴェリアがフィンに声をかける。
「大分、おとなしくなったな。」
「そうだね。まだ、少しチームワークというものを理解してない節があるけれど、以前みたいに勝手にモンスターの群れのど真ん中に突っ込むことが無くなっただけ、良しとするとしよう。」
フィンは少しため息をついてから、ここにはいない団員の顔を思い浮かべる。
「これも、ベルのおかげ・・・なんだろうね。」
「だろうな。・・・今頃、無茶してないといいがな。」
「はははは。気苦労が絶えないね?おかーさん?」
「誰がおかーさんだ!誰が!」
突然、先頭を歩いていたベートが
「匂うな。」
そう言って歩みを止める。それにならい皆、足を止めて武器を構える。
「モンスターかい?」
「いや・・・こいつぁ・・・。」
(あのバカの匂いが少し・・・混じってやがる・・・?)
フィンからの問いにどこか煮え切らない返事を返すベート。
彼らの前に、女性が泣きながら飛び出してきた。
「助けて!助けてください!!お願いします!!!」
彼女はフィンたちに懇願する。その服は汚れ、身体中も傷だらけでボロボロだった。
明らかに何かに襲われ、逃げてきた後だった。
「話が、見えないな?君は、どこのファミリアだい?僕たち冒険者は互いに不干渉。そう、教えてもらってないのかい?」
フィンの突き刺さるような視線にも一歩も怯まずに、彼女は尋常ならぬ様子で、言葉を続ける。
「私を助けるために、男の子がっ!ミノタウロスにっ!!」
「あぁんのぉぉぉぉっ!クソ兎がぁぁぁぁぁぁっ!!!」
彼女の言葉を皮切りにべートが駆け出す。ベートの咄嗟の行動にその場にいた全員が一瞬固まっていたが、すぐにフィンが、
「君?もしかしてその男の子というのは、もしかして・・・兎みたいじゃなかったかい?」
「はい・・・白い頭で・・・赤い瞳の・・・方でした・・・。」
ベートの激高ぶりに驚き、彼女は少し落ち着きを取り戻していた。
「フィン!私も先に行く!」
「あったしもぉ~!」
アイズとティオナもその場を離れる。
「ガレス?後は頼んでもいいかな?」
「おう!行ってこい。儂らも後からおいつくわい!」
二人を追うようにフィンとリヴェリアも駆け始めだす。
(白兎くん・・・!無事でいて・・・!)
このアイズの祈りが届くには少しだけ遅かったかもしれない。